機動戦士ガンダムSEED cause    作:kia

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第4話   静かな闇の先で

 

 

 

 

 

 

 そこは何も知らぬ者から見ても惨状といえる光景であった。

 

 周囲には散らばるのは破壊されたコロニーの成れの果て。

 

 モビルスーツのコックピットに座るアストはアークエンジェルに脱出艇を二隻を運び込みながら宇宙に散らばる残骸に目を向けた。

 

 「……ヘリオポリスが、こんな風に……」

 

 彼の目の前には信じられない光景が広がっている。

 

 そこにあった残骸は昨日まで自分達が住んでいたコロニー『ヘリオポリス』のものである。

 

 蓄積されたダメージによって限界を迎えたヘリオポリスはバラバラになって崩壊してしまった。

 

 今まで自分たちの住んでいた場所が滅茶苦茶になって壊れている。

 

 動揺しない方がおかしいだろう。

 

 運び込んだ脱出艇を慎重に格納庫に置く。

 

 見つけた時はどうなるかと思ったが、とりあえず無事なようでホッと胸を撫で下ろした。

 

 アストはコロニー崩壊で宇宙に放り出された後、すぐにアークエンジェルと連絡を取った。

 

 そして位置を確認し合流しようとした時に、救難信号を出している脱出艇を二つを発見したのである。

 

 どうやらコロニーから放出された時に、お互いがぶつかり二つとも損傷しているのが外からでも分かった。

 

 正直、ザフトに追われているアークエンジェルに連れていくのは躊躇われたが、下手をすると中にまで影響があるかもしれないほどひどい状態。

 

 放置はできないとそのまま持ち帰ったのだ。

 

 もちろんマリュー達は良い顔はしなかったし、報告した時には少し揉めたが何とか許可を取る事ができ、こうして運び込む事が出来たという訳だ。

 

 アストは脱出艇より避難民の人たちが誘導されて行くのをコックピットから眺める。

 

 外の損傷が酷かった為、脱出艇の人たちの事が気になっていたのだが、やはりぶつかった衝撃は相当なものだったようだ。

 

 怪我人が多く、用意された担架に乗せられ何人も運ばれていく。

 

 痛ましくその様子を見ていたアストだったが、歩いて行く民間人の中に見慣れた人物が混じっているのに気がついた。

 

 「エルザとエリーゼだ。2人ともこの脱出艇に乗っていたのか」

 

 他の避難民に交じりアラータ姉妹が歩いていた。

 

 小さい妹の手を引きながらエルザはやや硬い表情で俯きながらも周囲を警戒している。

 

 こんな状況である以上不安なのは当然。

 

 何よりアークエンジェルは地球軍の戦艦、コーディネイターであるエルザが警戒するのは至極当たり前の事だった。

 

 アストは急いでコックピットから出るとエルザ達を呼び止める。

 

 「エルザ、エリーゼ!」

 

 呼びかけられたエルザはアストがいたのは予想外だったらしく驚いた表情を浮かべる。

 

 「アスト!? 脱出艇にいたの?」

 

 正直かなり答えにくいが、黙っている訳にもいかない。

 

 内心憂鬱になりつつも質問に答えようとした時、腹のあたりに軽い衝撃が起こる。

 

 下を見るとエルザの妹エーリゼがアストの腰に手を回し抱きついてきていた。

 

 「アスト兄ちゃん! アスト兄ちゃんもいたんだぁ」

 

 無邪気な笑顔を浮かべてこちらの顔を覗き込んでくる。

 

 エリーゼは物静かな姉のエルザとは正反対で明るく活発な性格をしていた。

 

 正反対の2人だが姉妹仲は非常に良く、いつも一緒にいるのをよく見かける。

 

 アストやキラにも懐いており何度か遊んだことがあるので一応顔見知りであった。

 

 エリーゼの頭を撫でながらさっきの質問に答える。

 

 「まあ、ちょっと事情があってね。後で話すよ。とりあえずキラ達もいるからそっちに行こう」

 

 アストは二人に今までの事をどう話すか迷いながら、とりあえず歩き出した。

 

 

 

 

 同じ頃、ブリッジでは今後の話し合いが行われていた。

 

 どうにか襲撃を切り抜けたとはいえ、未だ危機的状況に変わり無いからだ。

 

 「ザフト艦の動きは?」

 

 「駄目ですね。ヘリオポリスの残骸が多すぎて……」

 

 アークエンジェルの周囲には破壊されたコロニーの破片が漂っている。

 

 これのおかげで敵艦の位置が全くつかめないでいた。

 

 「それは向こうも同じだろうがね。で、どうする艦長?」

 

 ムウの問いかけにマリューは顎に手を当て考え込む。

 

 ザフトもこのまま自分たちを見逃す事は無く、再び攻撃してくるのは誰でも予想できる。

 

 その前に投降という選択肢もあるが、それはできない。

 

 自分たちは何としてもこの艦と新型機動兵器を持ち帰らなければいけないのだ。

 

 でなければこれまでの犠牲がすべて無駄になる。

 

 そんなマリューを見ていたナタルが口を開いた。

 

 「では私は『アルテミス』に向かうことを提案させていただきます」

 

 「あそこか……」

 

 ナタルの提案にムウは顔を曇らせる。

 

 それも当然で、アルテミスはマリュー達の所属している大西洋連邦ではなくユーラシア連邦に属する軍事衛星である。

 

 一応大西洋連邦とは軍事同盟を結んではいるが、その関係は微妙なものだった。

 

 それにこの艦やG兵器は公式発表どころか認識コードすら持っていない状態なのだ。

 

 「このまま月に進路を取ったとしてもすんなり行ける筈もありません。現在、こちらの戦力は限られています。物資の問題もありますし、これが一番現実的な策ではないかと」

 

 「そうね……今はそれしかないわね」

 

 艦長であるマリューの決断と共にブリッジが慌ただしく動き始めた。

 

 「デコイ用意。デコイ発射と同時にメインエンジン噴射。慣性航行に移行しアルテミスに向かいます」

 

 「アルテミスまでのサイレントランニング。おおよそ2時間、あとは運だな……」

 

 ムウのつぶやきにマリューは再び考え込む。

 

 今の状況では1つでも多くの戦力が必要、こちらの動きが読まれないという保養も無いのだ。

 

 『アレ』を使う事に問題がないわけでないが、躊躇っている場合ではない。

 

 「フラガ大尉。アスト君を連れて格納庫に行ってもらえませんか?」

 

 「あの坊主なら連れて行くまでもなく、自分から行くだろう? 他の連中と違って現状をちゃんと理解してるようだしな」

 

 「いえそうではなく……この艦にはもう1つ戦力になる機体があります。それを使えるようにして欲しいのです」

 

 マリューの言葉にさしものムウも驚いた。

 

 しかし同時に疑問もある。

 

 何故最初に言わなかったのかという事だ。

 

 疑問の答えを得ようとマリューに問いただそうとした時、ナタルが横から口を挟んできた。

 

 「待ってください! ストライクだけでなくあの機体まで使われるのですか? あの機体は……」

 

 「分かっているわ。でも今は一つでも多くの戦力がいる時よ」

 

 その指摘にナタルも反論できない。

 

 その様子を見ていたムウはなんとなく事情を察した。

 

 Gのパイロットになるひよっこ連中は5人しかいなかった。

 

 ムウはただの護衛役であり、6人目が居た事を知らされてなかっただけかもしれない。

 

 だが少なくとも護衛してきた艦に乗っていたのは5人だけだった。

 

 そして、その機体はこの艦に先に積み込まれていたにも関わらず誰も使おうと言わなかった事。

 

 最後にマリューやナタルの反応で推測するには充分だった。

 

 おそらくは何らかの問題があり、実戦では使われる予定のなかった機体という事だ。

 

 しかしそれでも使える物は使うべき。

 

 『戦力は多い方がいい』それはムウ自身が言った事なのだから。

 

 だが一つだけどうしても聞いておかないといけない。

 

 「パイロットはどうするんだ? 言っとくが俺じゃ乗れないぜ」

 

 「それは……」

 

 マリューは辛そうな表情を見ただけで、何を考えているかは予想はついた。

 

 ムウはそのまま何も言わずブリッジを出ると足早にアスト達の所に向かって歩き出した。

 

 

 

 

 ザフト艦ヴェサリウスの艦橋ではクルーたちが動揺していた。

 

 目の前には中立であったヘリオポリスの残骸が漂っている。

 

 彼らとしてもこんな結果になるとは誰も予想していなかったのだ。

 

 「隊長、中立のコロニーを破壊したとなると……」

 

 アデスが懸念を口にするがユリウスがそれを遮る。

 

 「そう問題はないですよ、アデス艦長。民間人は脱出しています。なにより責めを負うべきは中立でありながら地球軍に与していたオーブです。証拠のデータやモビルスーツもあります。それよりも重要なのは敵の新造戦艦の方でしょう」

 

 「そうだな。アデス、敵艦の位置はつかめるか?」

 その言葉にアデスは驚いた表情を浮かべる。

 

 先の戦闘で殆どのモビルスーツは撃破されてしまい、残っているのはラウのシグーとユリウスのジンだけである。

 

 「追われるのですか? しかしこちらには隊長とユリウスの機体以外、モビルスーツも残っては―――」

 

 「4機もあるさ。地球軍のモビルスーツ、使わせてもらおう。宙域図を出せ」

 

 「あれを投入されると?」

 

 「データを取ればもう構わないさ」

 

 困惑するアデスをよそにラウとユリウスは周辺の宙域図に目を向ける。

 

 「……敵の状況を考えるならばアルテミスですかね」

 

 「新型モビルスーツも運び込んでいなかったからな。碌な物資も積んではいないはずだ。補給の事を考えれば、まともな指揮官ならそう動くだろう」

 

 それを見ていたアデスも切りかえたのか、議論に加わる。

 

 「しかし、そちらに絞ってしまうと月方面に離脱されれば……」

 

 その時、オペレーターからの報告が入ってくる。

 

 「大型の熱量を感知! 戦艦クラスと思われます! 予測コースは月面、地球軍大西洋連邦本部!」

 

 その報告を聞くなり、ラウは得心したかのように頷くと指示を出した。

 

 「今ので確信した。ヴェサリウス発進だ。ガモフを呼べ」

 

 「しかし、隊長、それでは……」

 

 「問題はない、奴らはアルテミスへ向かうよ」

 

 ラウの指示に従い、ヴェサリウスはアルテミスへ向かい発進した。

 

 すべての指示を出し終えたラウはユリウスと共に一旦隊長室へ戻るとアスランを呼び出した。

 

 先の戦闘で彼は命令を無視、勝手に出撃したのである。

 

 いつものアスランであればあり得ない事。

 

 このまま何も聞かない訳にはいかない。

 

 「アスラン・ザラ、出頭いたしました」

 

 敬礼しつつ硬い表情を浮かべ、アスランが入室してくる。

 

 そんな彼にユリウスは冷たく問いを投げた。

 

 「アスラン、何故呼び出されたかはわかっているな。報告しろ」

 

 「はっ……命令に違反し申し訳ありませんでした!」

 

 「誰も謝罪しろとは言ってない。何故あのような行動をとったか報告しろと言っているんだ」

 

 ユリウスは静かな口調ではあるが、語気を強めて再び問う。

 

 彼は優秀で部下思いではあるが、軍規には厳しい。

 

 そのことで皆から信頼も厚かったが、同時に恐れられてもいる。

 

 アスランもそのことを知っているのか、かなり委縮した様子で立ち竦んでいる。

 

 「ユリウス、そんなに威圧してはできる報告もできまい」

 

 「しかし」

 

 「別にアスランに懲罰を課す気はない。だがきちんと報告はしてもらわないと困るな」

 

 隊長であるラウがそう言うのであれば何も言えない。

 

 流石にユリウスもそれ以上は何も言わず後ろに下がった。

 

 その事で多少なりとも安堵したのか、アスランも報告を始める。

 

 機体奪取の際に幼いころに別れた友人キラ・ヤマトらしき人物がいた事。

 

 現場にいたのが本当にキラだったのか確かめるために出撃したこと。

 

 そして最後の機体に乗っていたのは別人だったが、キラのことを知っていた事を話した。

 

 すべての報告を聞いたラウはため息をついた。

 

 「なるほど、そう言うことか。それは動揺しても仕方ないな」

 

 座って話を聞いていたラウが立ち上がりアスランの正面に立った。

 

 「だが、あの艦とモビルスーツは見逃すわけにもいかん。君の友人が乗っているという保証もない。申し訳ないがこのまま追撃は行う。しかしアスラン、次の出撃は君は外そう」

 

 「なっ、クルーゼ隊長!?」

 

 「友人がいるかもしれんのだ。それでは撃てないだろう」

 

 その言葉は意外だったのかアスランはひどく動揺した。

 

 それではキラがあの戦艦にいた場合巻き込んでしまう可能性がある。

 

 それだけは―――

 

 アスランは軽く首を振り、決意と共に顔を上げる。

 

 「待ってください! あのパイロットはキラのことを知っていました! あの艦にいる可能性は高い! もしかしたらナチュラルに捕まっているのかもしれない。もしそうなら助けたいんです! それを確かめさせてください!」

 

 「……なるほど、君の気持ちはわかった。確かに同胞が捕まっているなら助けるのは当然だ。それを確認するのもいい。だが彼が居たとして、もし地球軍に協力していたら?」

 

 「あいつはコーディネイターです。もしそうなら説得します」

 

 「それでも聞き入れなければ?」

 

 ラウの冷たい問いにひどく辛そうにアスランはその言葉を口にする。

 

 「……その時は……私が撃ちます」

 

 この時、俯いていたアスランは気がつかなかった。

 

 ラウが微かに笑っていた事に。

 

 「その言葉を聞いて安心したよアスラン。報告はもういい。次の作戦まで休め」

 

 「はっ」

 

 アスランはそのまま退室しようとするが思い出したように振り返る。

 

 「そういえば、大したことではないのですが……最後の一機に乗っていたパイロットが地球軍のモビルスーツのことを『ガンダム』と呼んでいました」

 

 「『ガンダム』? なるほど、地球軍ではあれらの機体をそう呼んでいるのかもしれない。一応、気にとめておこう」

 

 「はい。以上です、失礼しました!」

 

 アスランが退出した後、ユリウスは改めてラウに向き合う。

 

 「隊長、アスランの行動を本気で認めるつもりですか?」

 

 「何か問題でもあるか?」

 

 「上手くいく筈がありません。リスクだけが高い。そしてアスランにキラ・ヤマトが撃てるとも思えません。アスト・サガミの事もある。彼を撃つ機会があるとすれば未熟な今しかない。彼は、いえ彼らは放置しておけば必ず大きな脅威になる」

 

 ユリウスの懸念にもラウは笑みを崩さない。

 

 「もちろん、分かっている。手を抜く気はないさ。だからこそこうして追撃もかけている」

 

 「ならばアスランの行動は認めず、出撃を延期させるべきです。このままでは無用の犠牲が出て、戦力低下に繋がります」

 

 「そう言うな、ユリウス。それに興味もあるだろう。かつての友が敵になったとき、キラ・ヤマトがどう反応するのか」

 

 暗い笑みを浮かべるラウをユリウスは何も言わず、ただ無表情で見つめていた。

 

 

 

 

 アストはエルザとエリーゼを皆のいる居住区に連れて戻ると、驚きつつも全員が笑顔で二人を迎え入れた。

 

 エルザは相変わらず硬い表情だったが、エリーゼは嬉しそうにキラに抱きついている。

 

 「キラ、怪我の方はどうだった?」

 

 「うん、大した事は無かったよ」

 

 キラは大丈夫とアピールする為に怪我していた腕を見せてくれた。

 

 どうやら本当に大した事無かったようだ。

 

 先の救助したヘリオポリスからの避難民の中には偶然にも医者がいた。

 

 肩を怪我をしたマリューの治療を行うついでにキラの怪我も診てもらい、大したものではないと診断されていた。

 

 見知った顔が増えた事で少し気が緩んだのか皆、笑顔で談笑を始めるが、そこにムウが訪れた。

 

 「アスト・サガミ、少し話があるんだが」

 

 「なんでしょうか?」

 

 「いや、実はな―――」

 

 話の内容は戦力になる機体がまだこの艦には搭載されているので、それを使えるようにしろというもの。

 

 だが問題はその話の後だった。

 

 ムウがキラにもついて来るように言ったのである。

 

 「どうして僕が行かないといけないんですか!?」

 

 「……どうしてって全部言わないと分かんないか?」

 

 「それって……」

 

 要するに使えるようになった機体はキラに乗れと言っているのだ。

 

 「僕は軍人でも何でもないんですよ! なのに……」

 

 「そう言って次の戦闘でみんなで死ぬか? それにこう言っちゃなんだがね、軍人でもないのにもう戦っている奴はいると思うがな」

 

 ムウの言葉にキラはなにも言えなくなってしまう。

 

 確かにすでにアストは軍人でもないのに戦っている。

 

 他でもないキラ達の為にだ。

 

 答える事ができず俯くしかないキラを気遣って黙って聞いていたアストが口を開いた。

 

 「……その機体ってすぐに使えるものじゃないんですよね?」

 

 「俺は艦長から話を聞いただけだからなぁ。詳しくは知らないが、なんか問題ありそうな感じだったな」

 

 「そうですか。じゃあまず俺が見てみますよ」

 

 アストも現状は理解していた。

 

 アークエンジェルには余裕がなく、何時再びザフトの襲撃を受けるか分からない。

 

 戦力は一つでも多い方が良いというのは理解できる。

 

 それはわかっているが、それでもできるだけキラを巻き込みたくはなかった。

 

 何せモビルスーツに乗るという事は命懸けの戦場に向かうという事なのだから。

 

 「ハァ、分かった。とりあえずお前さんだけついて来てくれ……キラ・ヤマト、これだけは言っておく。俺やこいつも出撃して戦うけどな、絶対勝てる訳じゃない。もしかすると次の戦闘で死ぬかもしれない。お前、その時どうするんだ?」

 

 「……それは」

 

 「お前には出来る力がある。ならできることをやれよ。後悔のないようにさ」

 

 それだけ言うとムウはアストを連れ、部屋を出ると後ろからあまり好意的とは言い難い口調で呼び止められた。

 

 「ちょっと待ってもらえませんかね、軍人さん」

 

 振りかえるとそこには居たのは意外な人物。

 

 アスト達のよく知る少年と少女が立っていた。

 

 「……エフィム、フレイも」

 

 こちらに侮蔑と嫌悪を隠さない少年はエフィム・ブロワ。

 

 隣に立っているフレイと同じくカレッジではコーディネイター嫌いで非常に有名な少年だった。

 

 「なんでコーディネイターがここにいるんですかねぇ。ここ地球軍の艦でしょ?」

 

 アストとキラ、そしてアラータ姉妹にも鋭い視線を向けてくる。

 

 そのエフィムの発したその言葉に周囲の人達が凍りついた。

 

 全員の不信感の籠った視線が集まる。

 

 そんな空気に憤ったようにトールが立ち上がると、エフィムに食ってかかった。

 

 「やめろ、エフィム! こんな時までそれなのかよ、お前は!」

 

 「お前こそまだ友達ごっこかよ、トール。そもそも俺たちがこんな目にあってんのも、ヘリオポリス壊したのもそこにいるコーディネイター共の所為だろうが!!」

 

 それは皆、口には出さないだけで、ここにいる人達も思った事だろう。

 

 ザフトの所為で。

 

 コーディネイターの所為でと。

 

 「その事とアスト達は関係ないでしょ!」

 

 同じく怒った表情で立ち上がったアネットが言い返したことでさらに激しい口論が始まる。

 

 その様子を見かねたのか横からムウが呆れたように質問する。

 

 「じゃあ君はどうして欲しいと?」

 

 「決まってるでしょ。独房に入れるか、最低限、別の場所に隔離するかしてもらわないと一緒にいるなんて冗談じゃない!」

 

 吐き捨てるように言うエフィムにムウは今日何度目かのため息をついた。

 

 「悪いが君たちの要望にすべて答えられるほど余裕がないんだ。しばらく我慢してもらいたいな」

 

 「ちょっと、なによそれ!」

 

 文句を言おうとしたフレイやエフィムに向けムウは淡々と告げる。

 

 「……どうやら知らないようだが、君たちの乗っていた脱出艇を回収したのはこの坊主だ。こいつが脱出艇を見つけてこの艦に連れてこなければどうなっていたか言わなくてもわかるだろう。その辺のことも考えてほしいね」

 

 ムウの告げた事実に話を聞いていた他の人々も気まずそうに視線を落とす。

 

 同じように流石のエフィムやフレイも怯んだように口ごもってしまった。

 

 「……私たちを助けたのってあのモビルスーツでしょ? どうしてコーディネイターが地球軍のモビルスーツに乗ってるのよ」

 

 「そうだ。なんで―――」

 

 それでも文句を言おうとする二人の言葉を遮る様にムウはきっぱりと言い切った。

 

 「他に乗れる奴がいないからだよ。それとも君らが乗って戦ってくれるのか? またすぐ戦闘になるかもしれないんだ」

 

 エフィム達は忌々しそうにこちらを睨むとそれ以上は何も言わず別の場所に歩いて行った。

 

 流石に戦闘になるということだと文句を言う気もないようだ。

 

 それは他の人達も同じようで、それ以上の騒ぎにはならなかった。

 

 「余計な時間食ったな。行くぞ」

 

 「あ、はい」

 

 若干皆の事が気になったが、アストは歩き出したムウを追い格納庫に向う。

 

 そんな2人を整備士のマードックが待っていた。

 

 「待ってましたよ、大尉」

 

 「艦長から話は聞いていると思うんだが」

 

 「ええ、ちゃんと準備していますよ。あの機体です」

 

 マードックが指さした先にはストライクと似通った機体が立っていた。

 

 「あれがGAT-X104 『イレイズ』ですよ。まあいろいろ問題のある機体ですがね」

 

 「あの、いったい何が問題なんですか?」

 

 「まあ幾つかあるが、1番の問題は燃費の悪さだな。そのせいで他のGと比べても稼働時間が短い。他にも理由はあるらしいが、この機体は研究用ってことで月に運ばれる予定だったんだ」

 

 「なるほどな。坊主、とりあえず見てもらえるか?」

 

 「はい、わかりました。ところで機体の近くにおいてある物は何です?」

 

 機体の傍には幾つかの備品と共に何らかの武器らしい物が無造作に置いてある。

 

 「ああ、あれはイレイズの武装だよ。ほぼ完成はしてるんだが、イレイズが実戦配備から外されるのが決まってそのまま放置されたんだよ」

 

 「どんな武装なんですか?」

 

 「確か、イレイズの燃費の悪さを考慮しての実弾兵器だったかな」

 

 「なるほど」

 

 機体のハッチを開き、コックピットに乗り込むとOSを立ち上げ調整を開始。

 

 同時に機体の武装を把握する。

 

 武装は頭部イーゲルシュテルン、GATシリーズ共通のビームサーベルとビームライフル、アンチビームシールド。

 

 それから背中には二門の高インパルス砲『アータル』

 

 威力はストライクのアグニに劣るが連射性はこちらが上のようだ。

 

 さらに両腕には他のGATシリーズとは違い籠手のようなものが付いており、そこには『ブルートガング』という実体剣が収納されている。

 

 これはストライクのアーマーシュナイダーと同じ原理の武装で両腕に装備されている。

 

 長さはそれほどでもなく腕の長さと同じぐらいだが、この武器はあまり当てにできない。

 

 ジンならまだしも、実体弾を無効化するPS装甲を持ったガンダムには通用しないからだ。

 

 あくまでもバッテリー消費を抑えるための武装と考えておいた方がいいかもしれない。

 

 「どうだ、使えそうか?」

 

 「何とか。性能もかなり高いみたいですし。ただ、やっぱり稼働時間の方は問題がありますね。うまく戦わないとすぐエネルギー切れになります」

 

 「どのくらいで使える?」

 

 「使うだけなら調整が終わればすぐにでも大丈夫です。でも一度、機体のチェックをした方がいいですよ」

 

 「そうだな、わかった。そっちは頼む」

 

 ムウはそのままマードックと話し始めた。

 

 どうやら今のうちにストライクの整備を始めるらしい。

 

 そちらは完全に任せる事にして、しばらくイレイズの調整作業を進めていく。

 

 するといつの間にか格納庫を訪れていたキラがコックピットを覗き込んできた。

 

 「アスト、話があるんだけどいいかな」

 

 「キラ……いいよ。俺もちょうど聞きたいことがあったし」

 

 アストがいったん手を止めると、キラも背を向けてその場に座りこんだ。

 

 「それで話って言うのは、フラガ大尉の言ってたこと?」

 

 「うん。それもなんだけどさ……アストはどうして戦えるのかなって。モビルスーツに乗って、戦う事になっても全然迷ってなかったみたいだし」

 

 「どうしてって、もちろん友達を……みんなを守りたいからだよ。それに迷ってないわけじゃない。戦争なんて嫌だし」

 

 「だったら、なんで……」

 

 「前に色々あってさ。……その時は何もできなかったんだ」

 

 「アスト……」

 

 「それで、ある人に言われた。≪どんな理不尽な事だろうと現実は現実だ。泣こうが喚こうが何も変わらん。なら今何ができるか、何をすべきかその頭で考えて動け≫ってな」

 

 「何ができるか……」

 

 キラは考え込むようにつぶやいた。

 

 アストも前からキラに聞こうと思っていたことを口にした。

 

 「俺もキラに聞きたいことがあったんだ。ヘリオポリスでガンダムから降りて話を聞いてた時、なんか悩んでたよな。あれって……あの赤いガンダムのパイロットに関係があるのか?」

 

 驚いたようにキラが振り返った。どうやら当たりだったらしい。

 

 「えっ」

 

 「前の戦闘で話かけられた。キラ・ヤマトなのかって。あの機体と一緒に工場区から飛び出してきたし、なにか関係あるんじゃないのか?」

 

 「……じゃあ、やっぱりあれは」

 

 キラは辛そうに俯くが、意を決したように顔を上げた。

 

 「初めてガンダムに乗り込んだ時、その現場にいたんだ―――アスランが」

 

 その名前を聞いて今度はアストが驚いた。

 

 ここでその名が出てくるなんて予想すらしていなかったからだ。

 

 「アスラン!? アスランって幼馴染みの?」

 

 何度も話を聞かされた。

 

 その度に微笑ましい気持ちになったものだ。

 

 そのアスランがあの現場に―――いや、あの紅い機体に乗り込んでいたというのか。

 

 「うん。最初は見間違いだと思ったけど―――やっぱりアスランだったんだ」

 

 キラが戦う事を拒絶していた理由をアストは理解した。

 

 戦うという事は幼い頃のからの大事な親友と殺しあうことを意味する。

 

 それは紛れもなく―――悲劇だ。

 

 「キラはやっぱり戦っては駄目だ」

 

 「アスト、でも……」

 

 「もしもの時は、俺とフラガ大尉で何とかするから。キラはみんなと一緒にいてくれ」

 

 迷ったように俯くキラをそのまま居住区に送り出す。

 

 アストの決意はより強くなった。

 

 キラを戦わせてはならない。

 

 自分が闘わなければ―――

 

 だがそんな決意をあざ笑うように異変はすぐに起きた。

 

 ムウがブリッジに突然呼び出しを受けたのだ。

 

 しかもかなり切羽詰まった声で。

 

 マードックの話を聞いていたムウは、格納庫を飛び出すように走りだすとブリッジに駆け込む。

 

 「状況は!」

 

 「現在ナスカ級が本艦の左舷方向を並行して航行しています。さらに本艦後方にはローラシア級が接近中」

 

 ナタルが今の状況に関して簡潔に説明を行う。

 

 それだけで十分事の重大さを理解したムウは顔を顰めた。

 

 「こちらの動きを読まれたな……このままだとローラシア級に追いつかれて見つかるか、それから逃げようとエンジンを使えばナスカ級が転針してくる」

 

 誰もが絶句し、ブリッジ全体が沈黙する。

 

 それも当然で、この場にいたブリッジクルー達には今の状況を打開できる策を思いつける者など誰もいなかったのだから。

 

 だが一人だけは違った。

 

 「二艦のデータと宙域図を出してくれ」

 

 データを読み込むムウに全員が縋る様に視線を送る。

 

 そんな皆を代表して、ナタルが質問する。

 

 「な、なにか策でも?」

 

 ナタルの言葉にムウは内心溜息をつきながら振りかえる。

 

 「これからそれを考えるんだよ」

 

 そうしなければ沈むのはこっちなのだから。

 

 

 

 

 先ほどの騒ぎで気まずい雰囲気が漂っていた居住区にいる避難民の人たちもようやく落ち着きを取り戻していた。

 

 トール達も暗い空気を変えようと皆で雑談に興じていたのだが、ふとカズイがサイに聞いてきた。

 

 「そういやさサイはいいの? フレイの所に行かなくて。確か婚約者でしょ」

 

 「え、そうなの?」

 

 カズイの一言に皆が驚く。

 

 何といってもあの(悪い意味で)有名なフレイと婚約してるというのだ。

 

 あまり感情を表に出さないエルザでさえ驚いた顔をしている。

 

 「いや、あれは話だけだよ。とっくに断わったし」

 

 「そうなの? なんで?」

 

 「まあ親が勝手に決めたことだし。それにあの性格がね」

 

 普段から穏やかで兄貴分なサイでも彼女の相手は厳しかったらしい。

 

 そんな話をしていた時、突然艦内アナウンスが流れた。

 

 《敵艦影発見! 敵艦影発見! 第一戦闘配備!》

 

 切迫したアナウンスに避難民もざわめき出した。

 

 これから戦闘になるというのだから、無理もない。

 

 「……あの大尉の言ったようにまた戦闘になるんだな」

 

 サイが思わず呟いた。

 

 「アストは戦うみたいだけど、キラはどうすんだろ」

 

 カズイが溜息をつきながら先程から避けていた話題を口にする。

 

 さっきのエフィム達のことがあってからすぐにキラは居住区から出て行って、そのまま戻らない。

 

 エルザも硬い表情で黙ったままだ。

 

 「ねぇ、アスト兄ちゃんが戦うの?」

 

 「うん。そうだよ。私たちを守ってくれるのよ」

 

 無邪気にエリーゼが聞いてきたのをアネットが答える。

 

 エリーゼは意味が分かっていないのか嬉しそうに「そうなんだぁ」と笑っていた。

 

 「……俺たちを守るためか」

 

 トールのその言葉に全員が俯いた。

 

 あの大尉はできることをしろと言った。

 

 そしてアストは命がけで自分たちのために再び戦おうとしている。

 

 「やっぱり、あいつらにだけ、つらい思いはさせられないわね」

 

 アネットが立ち上がるとトールやミリアリア、サイとカズイも立つ。

 

 「……だよな。行くか」

 

 トールの言葉に全員が頷くが、エルザだけは座ったまま動かない。

 

 そして全員の顔を見上げて口を開いた。

 

 「……私は行かないわ。アストには感謝してるけど地球軍のために何かする気にはならないから。なによりあんなこと言われてまでなにかしようとも思わない」

 

 エルザが言ってるのは、エフィム達に言われたことだろう。

 

 確かにあんなことを言った奴らを守りたいとは普通思わない。

 

 でもアストは戦うのだ。

 

 そしておそらくキラも。

 

 だからこそ自分たちはアスト達の力にならないといけないと思う。

 

 「……エルザ、私はあなたもアストやキラも友達だと思ってる。地球軍を助けたいわけじゃない。友達を助けたいの。そこだけは勘違いしないで」

 

 そう言って立ちあがったアネット達は部屋を出てブリッジへ走りだした。

 

 

 

 

 ブリッジからパイロットスーツを着てこいと言われたアストはロッカールームで着替えを済ませ、格納庫に入る。

 

 そこではすでにムウが着替えを終えて待っていた。

 

 「へぇ、結構似合ってるじゃないの」

 

 「あの、大きいですよ、これ」

 

 「お前が小さいの。それより作戦を説明するぞ」

 

 ムウの提示した作戦とはこうだった。

 

 このままいけばアークエンジェルは追いつかれるか、見つかる。

 

 ならばアークエンジェルに攻撃が集中している間にムウがひそかに先行してナスカ級を叩くというものだった。

 

 「こいつはタイミングが重要だからな。頼むぞ」

 

 「はい、わかりました」

 

 「で、あの坊主は駄目だったか」

 

 「……いいんですよ、これで」

 

 今回の戦いにもあの紅いガンダムは現れる。

 

 相手がキラを探しているというならなおさらだ。

 

 だからこそキラは戦うべきではない。

 

 ムウと話を終えストライクに向かおうとするが途中でマードックに呼び止められる。

 

 「ストライクはまだ駄目だ! もう少し時間が掛かるぞ」

 

 どうやら機体整備がまだ終わっていないということらしい。

 

 「連中の動きが思った以上に早かったからな。もう一機は使えるんだろう。そっちで行くしかないな」

 

 「ええ、わかってます」

 

 アストはストライクから離れ、イレイズの向って走りだす。

 

 コックピットに乗り込こみ、スイッチを入れてOSを起動させる。

 

 「しっかりしろよ、アスト」

 

 自分が皆を守るのだ。キーボードを叩く手が緊張で震えるが、何とか気持ちを奮い立たせる。

 

 ハッチを閉じて操縦桿を握り、機体を動かそうとした時、通信機から聞きなれた声が届いた。

 

 《―――アスト》

 

 「ミリアリア!? なんで?」

 

 モニターに映っていたのは居住区にいる筈のミリアリアだった。

 

 何でアークエンジェルもブリッジにいるのだろうか?

 

 《以後私がモビルスーツおよびモビルアーマーの戦闘管制です。よろしく!》

 

 ミリアリアのそばにはサイもいるようだ。

 

 こちらを覗き込み笑って見せるが、そのせいで怒られている。

 

 アストがあっけにとられているとミリアリアが真面目な顔で言った。

 

 《私達ね、みんなで話して決めたの。できることをしようって。アストだけに無理はさせられないから》

 

 それだけでアストは声が出なくなるほど嬉しかった。

 

 キラと同じく軍には関わって欲しくなかったが、それでも彼らの気持ちが本当に嬉しい。

 

 ミリアリアやサイのお陰か緊張もほぐれ、改めて操縦桿を握り直すとイレイズをカタパルトまで歩かせる。

 

 《エンジン始動と同時に主砲発射! 目標前方ナスカ級》

 

 マリューの声と同時にエンジンが起動し、両舷からエネルギー収束砲ゴットフリートがせりあがってくる。

 

 《主砲、撃て!!》

 

 エネルギーが前方に向かい発射されるとそれにあわせて通信機から状況が伝えられた。

 

 《ナスカ級よりモビルスーツの発進を確認!》

 

 《イレイズ発進してください》

 

 「了解!」

 

 いよいよだ。目の前のハッチが開き暗い闇が広がる。

 

 深呼吸しながら、わき上がってくる恐怖を振り払うように叫んだ。

 

 「アスト・サガミ! イレイズガンダム行きます!」




とりあえず4話まで投稿しました。

主人公機登場。

こんな名前しか思いつかんかった。
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