ラグナロクオンライン -とあるケミストの物語- 作:一年坊主
今、俺は狩りをしている。
相手はマンドラゴラ。場所はプロンテラ北東の森、通称マンドラの森。
そのまんまの名称か。
マンドラゴラの見た目はうねうねと動く食人植物で、餌となる獲物を見かけるとその蔦を使って捕らえようとする植物。
やたらと攻撃的な植物で、身体の模様にあるドクロマークがなかなかに特徴的だ。
そんなマンドラの森一人で狩りしている。
相方などいない。
むしろ友人などいない。いや、語弊を招く言い方だった。もちろん、友人自体はいることにはいる。
しかし、友人たちはみな忙しく、やれゲフェンタワー地下の悪魔祓いだの、やれフェイヨン近郊の地下墓地で死体浄化だの、コモドの砂浜近くで暴れる青いセイウチと凶暴なラッコ討伐をしてるだのなんだのをしているらしい。
羨ましいといえばもちろん羨ましい。
しかし仕方あるまいといえば仕方あるまい。
友人たちはいわゆる戦闘職であり、ばりばりとモンスターを浄化したり、倒すのが仕事。
浄化と治癒できるアコさんたちに、魔法をぶっ放すマジさんたち、相手の持ち物を盗んだりするシーフさんに、相手の弱点を正確に射抜くアチャさん、そして彼らを守るソドさん。
みんな戦闘職で、彼らは彼らで組み、そして出掛け毎日……、そう毎日手に入れた収集品で一喜一憂をする。
やれラッコの毛皮で頭防具を作ったなどの会話がギルドの"チャット"と呼ばれる、リアルタイムでいつでもどこでも声が聞こえて、発言ログという内容が読める……掲示板というべきか、そんなものが一日中流れていく。
……俺は、戦闘職ではない。
ただの商人だ。それもブラックスミスのように両手で斧を持って振り回し、アーチャーたちとは違ったアプローチである武器への最高の知識を以って的確にモンスターを倒す、そんな戦える商人系ではない。
俺は商人だ。友人たちからは茶化され、会うブラックスミスらには「戦える商人」と嘲笑される存在。
……アルケミスト。それが俺の職業。
ポーションとスキルで使うアイテムを自作し、たたひたすら一人で戦う。
ギルメンの顔よりよく見るのは、「ジオグラファー」というアコさんより優しいヒールをしてくれる"ひまわり"のような存在のモンスターか、枯木にほぼ全裸の幼女型精霊が宿ったコモド原産のフェアリーフというモンスターぐらい。
いや、ここ数日はマンドラゴラの緑色の臭いと、哀れにもマンドラゴラに捕らわれ食われた肉の腐った臭いがないまぜになったカオスな臭いの方しか見てないし、脳裏に焼き付いている。
うん、実に臭い。臭すぎてギルメンとの最後に会った思い出も、マンドラゴラの臭いにかき消されつつある。
そんな中で、東の国のお菓子である"ずんだ餅"と名付けたポポリンのたまに見せる変顔が癒やしだった。
いまは隣で見せてる顔は数日前に法外な値段でふっかけられつつも買った属性海東剣……を売っていた腐れブラックスミスの顔。
実に濃ゆいおっさん顔を真似していて、その度に俺が笑うから"ずんだ餅"も上機嫌で飛び跳ねながら事あるごとにおっさん顔になる。
なので、今では『たまに』ではなく、ずっと濃ゆい顔で、餌である緑ハーブを食べてるときも、そんな顔なものだから笑うしか無い。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
そんな"ずんだ餅"に癒やされながら、狩りを続けていたところで、ふと空を見れば空が赤らんでいた。
どうやら時間を忘れるぐらいに狩っていたようだった。
自分の持ち物と引いているカートの中身をチェックしたところ、ポーション用器具と材料がだいぶ減っていた。
どうやら、予定していた帰宅時期になっていたようだ。
「……帰りたくないけど、帰るか」
意図せずして漏れたそれは、心底嫌そうな呟きで、自分でも非常に驚いた。