この小説、とりあえずのケツは決まっていると以前書きましたが、そこまでのルートや結果は微妙に揺れており、最後まで案が複数残っている状態でした。
とりあえず、今回はこんな感じになりました。
えーっと、何処だここ。綺麗さっぱり見覚えがないんですが。ふと目が覚めて本能が赴くままに瞼を開いてみれば、目に映るのは知らない天井。俺は確かヘリの中で意識を失ったはずなんだが、とりあえず目が覚めたということは、要するに生き延びてしまったということか。
あの時から、どれくらいの時間が経っているのかは分からない。それどころか、今自分が何処にいるのかさえも不明なままだ。かろうじて分かることと言えば、ここが屋内であるということ、俺は今ベッドの上に居るということ、顔に酸素マスクを付けられているということ、腕からやたらとチューブが伸びていること、どうやら専門的な治療を受けられたこと、そして、生き残ったということ。
ぼんやりと霞がかった頭で視覚的情報をのんびり処理していると、じくじくと記憶と自責の念が蘇ってくる。たらればを言っても仕方ないのは分かってはいるのだが、考えずには居られなかった。多分、俺はあのままAR小隊のやつらと再会することなく、部下ともども死んでいた方がよかったのだと思う。あいつらの驚き様からして、あそこで出会ったのは本当にたまたまだ。奇跡と言い換えてもいい。本来ならば二度と交わるはずの無かった運命線が、奇妙な偶然かはたまた神の悪戯か分からないが、交わってしまった。
あいつらに、思い出と、それ以上の重荷を与えてしまった。
上司と部下、軍隊と戦場というシチュエーションありきではあるが、それなりに多くの人間を見てきた。彼女たちが俺に対して、並々ならぬ好意を寄せていることくらい馬鹿でも分かることだ。その思考回路と恋愛観には正直理解が及ばないが、他人の感情を俺が否定するわけにもいかない。そんなもんただの自己中狂人である。
だからこそ、AR小隊の4人は長い時間をかけてその気持ちを清算し、割り切っていくべきだった。新たな出会いに心を躍らせるべきだった。戦術教官という存在を、過去のものにするべきだった。そしてその未来図は、あの時までは上手く描けていたはずだった。それが、最悪の形の出会いとともに、頓挫してしまった。
彼女たちは俺のことを忘れるべきとまでは言わないが、数多ある出会いの中の一つとして勘定すべきだと思っている。当時、AR小隊は恐らく何らかの作戦行動中だったのだろう。それを俺という存在が中断させてしまった。到底許されるべきではない。俺が彼女たちと再び出会い、助けられ、生き残ってしまったせいで、彼女たちの在り方を縛ってしまっている。過去一時ともに過ごしたことがある、名も知れぬ教官。そんなコンパクトな思い出だけを残してやるべきだったんだ。
割と真面目に自害も考えてみたが、すぐに思い直した。別に今更命が惜しいって話じゃない。そんなことをしてしまえば、余計に彼女たちを縛ってしまうのが目に見えたから。
いやーしかし、生き残ってしまったかあ。うーむ、どうしよう。今後の身の振り方をどうすればいいか普通に分からないぞ。別に俺は死にたがりじゃない。そりゃ死ぬより生きてた方がいいに決まってる、当たり前だ。だがそれはあくまで、周りに迷惑をかけることなく普通に生きていく前提があってこそである。
感覚が未だに無いので逆に確信は持てないのだが、ほぼ確実に左足は無くなっている。こんな状態じゃあ軍籍を持ち続けるのは不可能だ。戦うどころか歩くことすらままならん。邪魔者でしかない。更には自分の部隊員を見殺しにして独り醜く生き延びた敗戦者である、一体誰が許してくれるというのか。そして俺は独身だし当然子供も居ない、両親とは既に死別している。これから俺が生きていくためには、何がどう転んでも誰かの迷惑になり続けなきゃいけない。じゃあさっさと命を絶とうかと思えば、今度はAR小隊の顔がちらつく。あいつらに理不尽な重荷を一方的にぶん投げたままお先に失礼ってのは納得行くわけもなし。
うーん、これは詰んだ。進むも地獄、引くも地獄である。死にたくは無いが、生きていくビジョンが見えない。
「あら、目が覚めたのね。気分は如何かな?」
ああでもないこうでもないと、思考の袋小路にどん詰まりしている俺に声が掛けられる。どーも、目は覚めているが気分は割と最悪です。マスクのせいで喋れないので、俺は声の持ち主に視線だけを投げつけた。
端的に言えば、残念な美人がそこに立っていた。白衣のようなものを羽織っているので、恐らく医者か研究者か。しかし、白衣の中身がどう好意的に解釈しても洗ってない普段着に見えるんですけど。しかも何故か知らんが猫耳付いてるし、顔には精気も覇気もなく薄っすらと隈すら見える。ただ、そんな特大のネガティブパーツを差し引いても尚、その顔立ちは整っており生来の顔の良さを感じさせた。顔面偏差値が高いってそれだけで卑怯だよな。こればっかりは男も女も変わらん。あと非常に遺憾ながら割とタイプです。悔しい。
「ああ、そういえば初めましてだったね。私はペルシカリア。よろしくね」
ハイ、よろしく。って終わるんかい。名前しか分からんじゃないか。何だろうこの空気、クルーガーなんかとはまた違った曲者感が漂っている。この女絶対深入りしたらあかんやつだ。こいつに関わった連中が皆不幸にはならないが面倒くさい事態に陥るパターンのやつ。ただそれでも利益にはなるから巻き込まれた方も強く言えない、そんな感じのぶっちぎりに厄介なタイプな気がする。
初対面の相手にいきなりとんでもない評価をしている自覚はあるが、こういうマイナスイメージからなる俺の勘はよく当たるんだ。戦場じゃ役に立たなかったけどな。
「あ、珈琲飲む? って飲めないか……。そうそう、貴方2週間くらい寝てたのよ。何回か死んだかと思ったわ」
今の俺を見て何故珈琲をお勧めしたのかを知りたい。だが、漸く有益っぽい情報が出てきたな。2週間かあ、随分と寝込んでしまったものである。そのまま安らかに逝けていたら楽だったんだろうが、そうは問屋が卸さなかったようだ。
ところで、ここは一体何処で、このペルシカリアさんは何処の何方なんでしょうかね。正直現状に対する情報がまったく無い上にこちらは喋れないわ動けないわで、能動的な情報獲得の手段が一切無い。目の前の残念美人さんがペラペラと喋ってくれれば一番早いんだが、さてどうしたものかな。
とりあえずやることもないし今のところ眠気もないので、ペルシカリアをぼんやり見つめるくらいしか出来ないわけなんだが、俺の視線から気持ちを汲み取ってくれたのか、はたまた偶然か。湯気の立つカップをすすりながら、彼女は事のあらましをやや面倒くさそうに語ってくれた。
ペルシカリアが先ず事態を把握したのは、ヘリからの通信だったらしい。通信内容は、要救助人を確保したので任務を中断して最寄の医療施設に搬送したいとのことだった。んん? あのヘリ確かG&Kのロゴが入っていたような。ということはこいつもクルーガーの部下なんだろうか。まあ考えてても答えは分からんし、今は話に集中しよう。
AR小隊が就いていた任務というのは、鉄血製の戦術人形が突如人間を襲い出した件についての初動捜査、周辺一帯の偵察と安全確保。バッタバッタと鉄血の群れを片付けていたら、俺らの部隊と交戦していた鉄血の集団を新たに発見したという流れらしい。ああ、そういえばあの作戦区域、そう遠くないところにグリフィンの支部があったような気がするな。作戦に関係ない情報だったから今の今まで忘れていた。
で、当たり前だがヘリのパイロットとは揉めたそうだ。勝手に作戦を中断した上に勝手に国属の正規軍を助けるなんて、戦術人形がやっていい範囲を遥かに超えてる。そりゃ怒られるよ。最終的にパイロットの方が折れたらしいんだが、どういう説得をしたのかは分からないままだった。これ俺も知らない方が幸せなやつだと思う。
それで大急ぎでヘリを飛ばし、G&Kもまったく関係ない民間の医療施設に飛び込んだとのこと。そこで緊急手術を行わせて、俺の容態が峠を越えたあたりでそそくさと退散、今はここ、I.O.P社の技術開発施設の中にある医療室にて半ば匿われる形で厄介になっている、と。
E.L.I.Dと正規軍の戦闘中、鉄血工造製の戦術人形が突如暴走、正規軍に攻撃を仕掛け、たまたま居合わせたG&K社所属の戦術人形が乱入。正規軍の人間を救助し、民間の医療施設へ搬送、その後行方不明。ニュースの見出し風に表現するならこんなところだろうか。
字面が強すぎる。どっからどう見てもヤバさしかない。一番の大目玉は間違いなく鉄血工造だが、G&Kもバレたらやべーぞこれ。唯一情状酌量が利きそうな部分は「要救助人を確保、救出」ってところだろうが、正規軍が展開している地域に民間の会社に所属している戦術人形が突っ込んできてるのは言い訳が立たない。
場合が場合なら、俺は一躍時の人になっている。そんなのは御免被りたい。そしてそんな俺を匿ってしまっているI.O.P社も場合によってはヤバい。無関係の医療施設を介してしまっているもんだから、どうやったって調べられたら足はつく。直ぐにでも俺を所属元に突き返すのが一番ダメージが少ないだろうが、あえてそうしない理由なんてあるんだろうか。俺には思いつかない。
控え目に言って地獄じゃん。もうやだ。鉄血工造は最早知ったこっちゃないが、その他の国家、企業にはハチャメチャに迷惑を掛けている。海底で貝になりたい気分だ。
「ああそうだ。件の鉄血工造だけど、人形の製造施設がテロリストに襲われたとかで施設内の防衛機構が動き出した結果、何か致命的なバグが走ってしまって人形が暴走、あそこの従業員ほぼ全員死んだらしいわよ。もう企業としては存在していないわね」
その情報、間違いなく欠伸しながら言う内容じゃないと思うんですが。いやぁ、コーラップスの流出と第三次世界大戦で既にこの世界大分終わってる気がしてたんだが、そこから更に沈むとか考えても居なかった。最悪の中で更に最悪が起きた感じ。もうどうにでもなーれ。俺は知らん。
あらゆる反則的手段を取ったとしても、今の事態を八方丸く収められるプランが思い浮かばない。巡り巡ってやっぱり俺が死ぬのが一番いいんじゃないのとすら思えてしまう。つらい。
「失礼する」
ペルシカリアの語りが一段落し、情報を脳内で整理した結果。改めて詰みの状況を確認出来た以外に何の成果も得られなかった俺が半ば不貞腐れている最中、ノックの音が聞こえ、それと同時に見覚えのある顔がその全貌を覗かせる。
あれ、クルーガーじゃん。そういえば訓練の依頼を受けて以降会ってないから何年振りになるのやら。ちょっとシワ増えてるなあ、あとヒゲも増えててより一層毟りやすそうになってるわ。だがこいつにしては珍しく、疲労の色が顔から見て取れる、相当疲れてんな。まぁ渦中の企業の一つであるG&Kの最高責任者だしな、事態が起きてから2週間、そりゃもうバタバタしたんだろう。一体何枚の書類が行き来することになったのか、想像したくもない。
ペルシカリアの横まで来ると、クルーガーは無言で俺を見下ろす形で視線を下ろした。相変わらず表情からは何考えてるか読めない野郎だが、目は死んでいない。何か企んでる気がするな、しかも良くない方向で。
「……災難だったな」
手頃な椅子に腰掛けて、一言。ええそれはもう災難でしたとも。色んな意味で。
「E.L.I.Dと正規軍の戦闘中、暴走した人形が乱入、正に修羅場と聞いた。……正規軍の部隊は全滅、唯一の生き残りは偶然そこに居合わせた傭兵崩れたった一人と来たものだ、さぞ凄惨だったことだろう」
…………んんんん? 何言ってんだこいつ。
「君も優秀な傭兵だったと聞き及んでいるが、その状態では引退するしかあるまい。だが、我々G&Kには君に新たな職務を預ける準備が出来ている。その手腕を是非我が社で発揮して欲しいと考えているのだがどうだろうか。丁度、戦術人形とそれらを指揮する人間という戦闘システムに切り替えているところでな、君の力と知見を見込んでの話なのだが」
このヒゲ野郎。読めたぞてめえ。
「無論、これは強制ではない。断ってくれても構わない。だが、その場合は君の救出にかかった費用諸々を請求させてもらうことになってしまうがね」
おーいちょっと。クルーガーでもペルシカリアでもいいや。このマスク外せ。
コンコン、と、指でマスクを弾く。俺の意図を察したのかクルーガーがその手を寄せ、意外なほど丁寧な所作でもって俺の酸素マスクを取り外した。
「おうコラファッキンクソヒゲ野郎。好き勝手に話進めてんじゃねえぞ」
とりあえず文句言っとこう。話はそれからだ。強い言葉とは裏腹に、出てきた声は自分でも驚くくらい細々としたか弱いものだった。まあ2週間も寝てたしね、肺もやられてたし仕方ない。
「……ふっ、顔に似合わず随分と粗暴な言葉遣いだな。
無表情で話を進めていたクルーガーの口角が、僅かに浮いた。
たったこれだけのことに、どれだけの金とコネを使ったかは分からない。だが、こいつの一番の得手は、用意周到な正面突破。いわゆる丁寧なゴリ押しだ。ゴリ押す割に周囲に禍根や遺恨を残さないから上手い。そして、そのゴリ押し対象となる俺の個人的感情は加味されない。
全快したらこいつのヒゲは毟る。絶対にだ。
もうちょっとだけ続いた結果がこれだよ。
次回で締めると思います。最後までお付き合い頂ければ幸甚に御座います。
すっかり過去作になりましたが
-
最近新しく読み始めたぜ!
-
定期的に読み返してるぜ!
-
AR小隊はいいぞ