戦術人形と軍人と【完結】   作:佐賀茂

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教官おじさんの明日はどっちだ(投げやり)

ということで、こんな感じになりました。
後書き欄にちょっと追記しているのでお暇な方はどうぞ。


11 -戦術人形と元軍人と-

 凡そ二ヶ月。俺が目を覚ましてから、あの殺風景なI.O.P社内医療室で過ごした期間だ。未だ全快とまでは行かないが、それなりに元気にはなったのでいい加減外界に出て行かないとな、新しい職場にも挨拶せねばならんわけだし。ちなみに、左足はやっぱり無くなっていた。丁度膝下辺りから綺麗さっぱり切断されておりました。いやまぁ、あの状態だとむしろくっつけておく方が頭おかしいレベルだったし仕方が無いんだけど。

 正直動けないわ娯楽もないわ、養生中は暇で暇で死にそうだったので久々に外に出られるというだけで内心かなりテンションが上がってしまっている。あの空間でのイベントと言えば、たまにペルシカリアがふらっとやってきてはちょこちょこと話をするか、医者っぽい連中が俺の容態を確認しに来るくらいだったからな。ペルシカリアからそれなりの情報は手に入ったからまったくの無駄ってワケじゃなかったんだが、やることが無いと言うのは非常にストレスが溜まる。普段は身体動かしてたから余計にだったな。あと流石に痩せた。かなり筋肉が落ちてしまったのはもう仕方ないのだが。

 

 そういえばそのペルシカリアだが、医者か研究者という予測は間違っていなかったようで、I.O.P社の技術開発部門、「16Lab」の主任研究員だそうだ。話を聞く限り、生活能力皆無のダメ女一直線って感じなんだが、なんとあのAR小隊の生みの親らしい。戦術人形というカテゴリをワンランク押し上げたのは彼女の功績だとか。紛れも無い天才というやつだ。天は二物を与えずとはよく言ったものだが、それを見事に体現していた。

 そんな彼女から、俺さえよければ義足も準備出来ると言われたが丁重にお断りした。あの女特製の、という枕詞さえなければお願いしていたかもしれん。嫌な予感しかしなかったんだよなぁ。それにたとえ動けるようになったところで、足を失う前と同等以上の機動力を持つことはどうやっても不可能だ。思い通りに動けないと多分それはそれでストレスが溜まる。であれば、いっそ「動けない」ものとして扱ったほうが割り切りも効くというものだ。俺はもう軍人ではなくなったわけだしな。

 

 結論から言えば、俺はクルーガーの目論見通りとなっている。あの時、色々と言いたいこと聞きたいことはあったが、すぐ隣にペルシカリアも居たこともあってとりあえず「演じて」やっていた。が、どうやらそのペルシカリアも一枚噛んでいたようで。言われて見れば当たり前である、あそこはI.O.P社の中だ。むしろクルーガーが居る方がおかしい。阿呆みたいな猿芝居を終わらせて真面目に話を聞いてみれば、まぁ嘘は言っていなかったようだ。

 俺がAR小隊の訓練を終わらせた後、彼女たちは指揮官と呼ばれる、戦術人形を指揮する人間の下へ配属されたようだが、それはもう素晴らしい働きをしたようだ。そりゃ俺が自信を持って送り出せる数少ない教え子たちだったからな、それくらい活躍してもらわないと困る。ただ、作戦行動時や普段の生活態度は非常に真面目らしいのだが、指揮官への対応は塩オブ塩だったようだ。幾つか転属もあったようだがそれだけは変わらなかったらしい。俺は何も知らんぞ。

 更にはAR小隊の成功例を元に、新たな戦術人形への教育訓練スケジュールも考案されたようなのだが、誰がどう頑張っても彼女たちレベルにまで引き上げることは出来なかったんだそうな。AR小隊が飛び抜けて優秀だったのか、俺の教え方が良かったのかは分からない。少なくとも、俺は戦術人形用の教育マニュアルを持っていたわけじゃないし、俺がやってきたことを何かで残したわけでもない。たまたまデキの悪い指揮官殿しか居なかったんだろうなと思うことにした。

 で、クルーガーとしても今のところ一番戦術人形の教育に成功している俺については、是非とも引っ張りたかったらしい。ただ、一時的に手を回すことは出来ても、それを複数回となると流石に国と揉める可能性が高かった。正規軍の士官を民間にぶっこ抜きなんて以ての外だ。俺も現場じゃそれなりに上の方だったしなあ、俺自身軍を辞めるつもりは無かったし。

 そこにあの大事件、そういや今は蝶事件なんて呼ばれてるんだったか、が起きた。G&Kとしては別に直接関係のある話ではなかったはずなんだが、まさかのAR小隊が正規軍の居所に独断でカチコミを掛けたせいで、対岸の火事ではなくなってしまった。I.O.P社としても、同業他社である鉄血工造だけの問題で終わらせたかったところを、自社製品が噛んでしまっているとなるとややこしくなる。しかもAR小隊はトップクラスの看板商品だ。傷を付けたくはない。

 

 と、言うことでG&KとI.O.P社の利害が一致したというわけだ。一体どれだけの金と人の首が飛び交ったのか考えたくも無い。そして更にこいつらにとって幸運だったのは、火事場の大掃除をしていたら瀕死の俺という掘り出し物を発掘してしまったことだった。既にどっぷりと裏から手を回している真っ最中である、ついでに拾わない選択肢をこいつらが選ぶわけが無かった。

 ちなみに俺の療養中、AR小隊は一度も顔を見せなかった。ふと聞いてみたらこれまた当然のことで、あいつらは独断で大ポカをやらかしている。さらには決して安くないダミー人形を十数体オシャカにして舞い戻ってきた大馬鹿どもである。きっちり営倉にぶち込まれたそうな。そして、民間の医療施設に運ばれた後の行き先を彼女たちは知らない。彼女たちの中では、俺は何とか一命を取り留め、今は軍人を辞めてどこかでひっそりと暮らしていることになっているらしい。大丈夫かそれ。不安しかないんですが。

 

 そんなわけで俺は今、I.O.P社の移送車に乗せられて新たな職場に連行されてきたところである。いやーしかし、この数年でクルーガーも大物になったものだなあ、各地にこんなに支部が出来ているとは。あ、この建物結構新しいな、外壁の経年劣化が見えないぞ。

 

「御待ちしておりました! 貴方が新しい指揮官さまですね?」

 

 I.O.P社の職員に車椅子を押してもらいながらグリフィン支部の正面ゲートを潜ったところで、おそらく俺を待ち構えていたであろう女性に声を掛けられた。ちなみに、俺の経歴を正しく把握しているのはクルーガー、ペルシカリア、I.O.P社の一部の重役くらいである。一応対外的には、身元などの詳しい経歴は不明の一匹狼で活動していた元傭兵、ということになっていた。それなりの戦果やらプロフィールやらがいつの間にか新たに用意されていたのにはビビッたが、新しい名前だけはちょっと弄らせてもらった。別に元の名前に近付けたかったとかじゃない。少しは残しておかないとあいつらに可哀想かなと思っただけだ。

 

 ここで俺の車椅子を押す係が、I.O.Pの職員から挨拶を投げ掛けてきた女性に代わる。名をカリーナといい、比較的最近G&Kに雇われた後方幕僚だそうな。片足びっこの元傭兵、という情報くらいは彼女にも渡っていたらしく、別段車椅子のことや足のことを聞かれることはなかった。いやぁ、正直に話せない内容だから助かる。

 

「指揮官さまにはこの司令部で戦術人形たちの指揮を取ってもらう形になります。そのうちの何名かは非常に優秀なのですが、その、何分癖が強くて……気にしないで頂けると助かるのですが」

 

 お互いに自己紹介やら他愛も無い会話をぽつぽつと行うがてら、とんでもない情報が飛び込んできた。うおーいクルーガーてめぇこの野郎。嫌な予感しかしないんだが? いや、いかんいかん。俺は別に戦術人形と関わりがあるわけじゃない、ただの元傭兵だ。唸れ俺のポーカーフェイス。

 カリーナの言葉に、そうなのか、と一言返すだけに留めておく。ていうか今更だが俺ってどういうキャラで行けばいいんだ。経歴なんかはクルーガーが適当に用意してくれているが、俺の人となりについては何も触れられていない。うーん、いつも通りでいいんだろうか。多分、注文がないってことはそういうことだろう。気にしないことにする。

 

 そういや二ヶ月前は気にならなかったが、俺の声って若干だけど変わってる気がするんだよな。肺がやられたせいなのか、細かいところを整形したせいなのかは分からないが。

 整形と言っても大きく変わったわけじゃない。顎周りの輪郭と目元が少しだけ変わった程度だ。元の顔を知ってるやつなら同一人物だと気付ける範囲だろう。ただし知らない人から見ればそっくりさんですよ、で何とか押し通せるくらいにはなっている。

 これは俺も納得している。流石に完全に別人に成り切るのは抵抗感が強かったが、まあこの程度なら許容範囲だろう。経歴についてはクルーガーが綺麗に洗ってくれているだろうからそこは心配していない。そういう部分は信用出来るやつだからな。

 

 

 

「それでは、先ずは主だった所属人形たちと面通ししたいと思いますが、大丈夫ですか?」

 

 後ろから押されて動くこと程なく。通信用デッキやらスクリーンやらその他雑多な機械やらが規則正しく並べられている、やや大きめの部屋に辿り着いた。ここが司令室ってやつなんだろう。軍人の時は現場で指揮を取ることはあっても、こういう場所で戦闘に望む機会はほとんど無かったから、これはこれで新鮮だ。まぁ今の状態で戦場に出るなんてただの自殺行為なんだが。

 投げ掛けられた言葉に、そのまま肯定を返す。挨拶は大事だ。俺の言葉を受け取ったカリーナは、じゃあ呼んできますね、とその場を後にする。しかし、戦術人形の部下を持つことになるとは夢にも思わなかったなあ。人生どう転ぶか分かったもんじゃない。

 

「指揮官さま、お待たせ致しましたわ!」

 

 司令室前のゲートが短い電子音を吐き出しながら左右に開く。うーむ、いつ見ても近未来的。いいなあ、俺が軍属の間に兵舎のドアが改装されることは終ぞなかった。

 

 

「ったく、別に挨拶なんてどうでもいいだろうに。誰が来ても同……じ……」

 

 カリーナのすぐ後ろから複数の人影が目に入るが、その先頭に居た人物が声と動きを止めた。

 うん、分かってた。おじさん分かってたよ。ただ、今のシチュエーションでそのリアクションはよろしくないなぁ。俺の方へ視線を固定し固まってしまった戦術人形に向けて、ポーカーフェイスを貫いたまま自身の口元に拳を持っていく。ほんの少しばかり、人差し指を浮かせつつ。多分これで通じる、あいつらは馬鹿だが阿呆じゃない。

 

「? どうかしましたか?」

「……いや、なんでもない。悪い、車椅子に乗った指揮官なんて初めて見たものでな」

 

 疑問の声をすぐ傍から投げ掛けられたそいつは、とってつけたような言い訳をさも平然と並べてその表情を従来のものへと戻した。いいね、その切り替えの早さ。流石だぞ。

 

「それで? その方が新しい指揮官なのよね? 紹介はして頂けるので?」

 

 ふと視線を横にずらすと、声を発したであろう人形の、綺麗に整えられた桃色髪が忙しなくそわそわしていた。こ、このポンコツゥー! お前横のロボペットもどきを少しは見習えよ。あいつもこれ以上はないくらいの笑顔で今にも飛び跳ねそうな感じだが、要するにこれが普段通りだから大して違和感がない。いつもは冷静沈着を貫いているであろう人形がそんなソワッソワしてたら怪しさ120%だろうが。ダメだこいつ、こと戦闘に関しては優秀なんだろうが、肝心なところがてんで治ってない。何か致命的なバグでも走ってんじゃないのか。

 

 さて、俺の自己紹介をしてもいいんだが、その前に今から面倒を見る戦術人形たちから先に名乗ってもらおうか。どうやら見覚えの無い人形も混じっているようで、とりあえず顔と名前と得意武器くらいはセットで把握しておきたい。俺から見て左から順番に自己紹介よろしく。

 

「AR小隊隊長、M4A1です。よろしくお願いします、指揮官」

「M16A1だ、よろしくな」

「……コルト、AR-15です。よろしくお願いします」

「M4 SOPMODⅡ! よろしくねー!」

「M1911といいます。これは運命の出会いですよ!」

「M14です! よろしくお願いします!」

「Vz61、スコーピオンだよー。蠍といっても毒は無いよー」

 

 ふーむ、戦術人形って別にアサルトライフルだけじゃないんだなあ。ガバメント、マークスマンライフルにマシンピストルも居るのか。銃のレパートリーもそうだが、戦術人形一体一体を見ても大変に個性的だ。この辺はやっぱり鉄血工造の量産型と比べると趣深い。この数年で色々バリエーションが増えたんだろうなあ、こいつら一人で製造費用どれくらいかかるんだろう。いや、考えるのはやめよう。胃に優しくない。

 

 本来ならばさっさと俺が自己紹介に入るべきところで大変申し訳ないんだが、物凄く気になっていることがあるので先に聞いておこう。あまり聞きたくないんだけどさ。

 

 

 M16A1、と言ったか。その眼帯は何だ?

 

「ああ、これか。過去に戦場で負った傷だ、気にしなくてもいい」

 

 戦術人形なら治療や換装も出来るだろう。何故そのままにしておく。

 

指揮官(しきかん)には関係ない話さ。これは私と教官(しきかん)の問題じゃあない、私個人のものだ」

 

 ……戦闘に支障は?

 

「無い。そこら辺は安心してくれ。()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 うーむ。これ俺が何言ってもだめなやつじゃん。折角整った顔立ちなんだから勿体無い気がするんだよなあ。ていうかそんなスティグマ残される方の身にもなって欲しい。気が気じゃない。

 

 質疑応答もそこそこに、いい加減俺も自己紹介をしないとな。新しい自分に関してはちゃんと復習したし大丈夫なはず。今後、一指揮官として活動する分にはボロが出ることもないだろう。どっちかと言えば俺というよりこのポンコツ小隊が口を滑らせないかどうかが不安なんだが。

 あと、復帰して早々にこいつらと再会するなんて思っても居なかったから、ちょっと名乗るのが恥ずかしい。クルーガーの野郎、しれっと整えやがったな。可能性はゼロじゃないがグリフィンも大きくなった、早々鉢合わせることもあるまい、なんてどの口が言いやがったのか。それを信用してしまった俺も俺だが、やはり一毟りではお仕置きが足りなかったようである。次に出会ったらもうひと毟りいっとくか。文句は言わせんぞ。

 

 とは言ってもこのままの空気を続けるのも好ましくない。サクっと挨拶を終わらせて支部内の見学にでも洒落込もう。今のうちに他の職員とか施設とか把握しておきたいしな。以前の時と違ってここが新たな職場になるんだ、何時までも迷子予備軍じゃ情けないし。というかこの基地、ちゃんとバリアフリー構造になってるんだろうな。一人で動けないとかシャレにならんから頼むぞマジで。いやいざとなったら別に片足でも移動できるんだけどさ。

 

 クルーガーやペルシカリア相手だけでなく、新たな名を対外的に名乗るということは、過去の俺を捨てるということだ。未練はまぁ、程ほどには持っている。なんだかんだ悪くない日々だったしな。ただ、もう取り返すことが出来ないから、人はそれを未練と呼ぶ。だから俺も感傷はそこそこに割り切って、新しい環境を楽しんでいかないと人生損ってもんだ。

 

 じゃあな、今までの俺。こんにちは、新しい俺。まぁ今日からよろしく頼むわ。

 

 

 

「挨拶が遅れたな。本日付で諸君らの指揮官となる、タクティス・コピーだ。よろしく頼む」

 

「I copy!!」

 

 新たな指揮官の言葉を受け止めた戦術人形たち。

 そのうちの7体中、4体の返事が、元気良く司令室に響き渡った。




これにて、教官おじさんのお話は一旦一区切り。
最後までお付き合い頂き、誠にありがとうございました。

今後、彼ら彼女らが一体どんな道を歩んでいくのか、それはまだ分かりません。
ただまぁ、なんやかんや楽しくやって行くんでしょう。今までもそうだったんですから。





ドルフロの二次創作を読み始めて、ああー何かぼくも書いてみようかなぁと思い立ち、ふわふわと設定が組み上がってきたところ半ば見切り発車のような形で始めましたが、何とか終えることが出来て今は一安心といった心地であります。
ちなみに筆者は元大陸版ユーザーで、日本版リリースを2年くらい心待ちにしていたタイプの人間です。
IWSとリベロールとスピットファイアの実装はまだですかね?

他ジャンルでも二次小説は書いてるんですが、ドルフロはサクサク書く事が出来て大変良い題材でした。
気が向いたら、一話完結方式の軽いモノでも投稿してみたいところです。

それでは改めて、お付き合い頂きましてありがとう御座いました。
またどこかでお会いしましょう。

*後書き的な活動報告をちょっと書いてみました。お暇な方はどうぞ。
あとちょこちょこ足していく場合ってこの小説に章を足した方がいいのか、別で短編を作った方がいいのかも良く分からず決めかねている状態なので、そちらももしよろしければ、活動報告の方へご助言いただければと思います。

すっかり過去作になりましたが

  • 最近新しく読み始めたぜ!
  • 定期的に読み返してるぜ!
  • AR小隊はいいぞ

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