戦術人形と軍人と【完結】   作:佐賀茂

2 / 11
投げられる時に投げておくスタイル。
色々と設定やら世界観やらガバってますが許してくださいなんでもしますから。


02 -キルハウス-

「んぁあ~~~ッ!! 全ッ然当たらないんだけど!?」

 

 素っ頓狂な叫び声を挙げてその場に寝っ転がっているのはM4 SOPMODⅡ。教育を受け持った4体の人形の中でも、ずば抜けて精神年齢が幼いやつだ。この訓練はちょっと早かったかなぁとも思うが、他の3人はボロボロになりながらも何とかついてきているので多分大丈夫だろう。というか、SOPMODⅡだけが他と比べてあまりにも習熟度が低い。まぁ俺から言わせれば他の3人も五十歩百歩な状況ではあるんだが。

 

 基本的な射撃訓練をベースに様々なシチュエーション、バリエーションを加味した射撃のレクチャーをしつつ、4人ともがそれなりに銃器の扱いに慣れてきた頃合で今やっているのはキルハウス内での遭遇戦訓練である。屋内に設けられた訓練スペースで俺と人形1体が対極の位置からスタート、敵陣にあるフラッグを奪取するか、銃撃で相手を仕留めれば勝ち、というシンプルなルールだ。勿論本物の銃弾が掠めれば命がいくらあっても足りないので、訓練用のペイント弾を用いている。いやそれでも当たったらメッチャ痛いんだけどね。幸い骨が折れるとかのレベルではないので、まぁ慣れたら全然大丈夫。

 

 で、今は順番に相手をしているんだけれども、対戦相手が5周くらいしたところで一旦小休止。あんまり連続でやり続けても俺の身がもちません。体力精神力で早々負ける気はしないものの、こちとら人間である。休憩無しにぶっ続けで稼動し続けられる仕組みにはなっていないのだ。

 キルハウスに寝転がるSOPMODⅡを筆頭に、人形たちはそれはもうペイント弾まみれであった。一番被弾が少ないのはAR-15のはずなんだが、それでも派手に装飾が施されているものだから見た目には全員ボロ負けである。

 対して俺は何と見事な被弾ゼロ。訓練服をクリーニングに出す必要もないって訳だ。今のところはね。

 

 うーむ。しかしどうしたものか。

 射撃訓練に於いては全員が遜色なく同じ速度、同じ精度で武器への理解を深めてたもんで幸先のいいスタートだなと思っていたんだが、いざ実戦形式の訓練にしてみると思いの外個人差が出てきてしまった。ここら辺、電脳とはいっても人間みたいな性格や思考の差が出てきて面白いなとは思うんだが、これ実戦投入するってなったら逆に不便じゃないか? 画一的な規格にした方が上下限のブレも出なくて兵器として優秀だと思うんですけど。

 

 とりあえず一番の問題児はこのSOPMODⅡ。射撃能力自体は4人の中でも高い方だと思うんだが、如何せん戦術的戦略的思考が足りて無さ過ぎる。こっちのフェイクには綺麗に全部引っ掛かるし、その度に音や声といった形でリアクションが伝わってきてしまうので御するのが非常に容易い。お前これで戦場に出てみろ、3日で100回は死ぬぞ。

 ただ、唯一の強みというか、フェイクやトラップの関係無しに時々問答無用で俺の位置をドンピシャで当ててくることがある。幸い被弾こそしなかったが、あれのレベルが上がれば一番恐ろしいかもしれん。本人曰く「なんとなくこっちに居そうだと思った」とのことだが、戦場に於いてこの類の勘は非常に大事だ。なんせ教育で教えられない数少ない要素だからな、その勘は今後も大切にして欲しい。

 しかし、勘だけで生き残れるほど戦場は甘くないってのもまた事実。それを活かせる場面を作るのが技術と知識と経験だ。特にこいつにはみっちり仕込んでやる必要があるだろう。

 

 続いてAR-15。こいつは一言で言うなら優秀だな。戦術への理解も早いし、実戦に落とし込むのも早い。ただ、なまじ頭が回る分想定外にめっぽう弱い。いわゆる「意表を突く」戦法がこいつにはとにかく刺さる。しかもそこからのリカバリーが遅いから一度後手に回るともうだめ。焦りとプライドからか、起死回生の一手を考え出す冷静さも失われるのもマイナス。

 ただまぁ、そこは場数を踏めばどうにでもなる領域だ。筋は悪くないから、今後の教育でどうとでもなるだろう。あと目に見えて悔しがっているのはいい傾向だ。本人は隠してるつもりなんだろうけど。負けず嫌いは嫌いじゃない。それで前のめりになりさえしなければな。

 

 M16A1に関しては、多分一番メンタルが図太い。現状の成績で言えば可もなく不可もなくってところだが、この訓練で一度もパニクってないのはかなりポイントが高い。勝ち負けは別として、その図太さは俺も見習いたいところだ。これまで数多くの新兵を鍛えてきたが、ヒヨっ子の時点でここまで肝が据わってるやつは見たことがない。これも電脳が成せる業なんだろうか。

 あとは単純に知識と経験が身についていけば自ずと強くなっていくだろう。SOPMODⅡやAR-15と比べると目立った欠点がないってのは大きい。ていうかこいつがリーダーでいいんじゃないか?

 

 最後にM4A1。この子はM16とは対照的で、全体を通しての印象は悪くないんだがどうにも気が弱い。こちらのアドバイスは素直に聞き入れるし、飲み込みも早いんだが、とにかく押しに弱そうな雰囲気を常に醸し出している。実際弱いと思う。訓練に於いても、積極策をあまりとってこないのはその性格があるんだろう。

 ただ、この子は何と言うか……SOPMODⅡの勘とはまた違った、一筋光る予測能力みたいなモンがある。勘じゃなくて、予測。数少ない情報から必死に構築し、俺の読みを読もうとしてる感じがある。現状ではオママゴトの延長みたいなレベルだが、教えてて一番親近感を感じるのもこの子だった。何というか、考え方が人間くさいんだよな。他の子もM4A1を隊長に据えていることに疑問を持っていないようだし、彼女はまた一味違うAIでも積んでるのかもしれない。

 

 うーむ。しかしこうして見ると各々が違った個性と欠点を持っているが、それらが合わされば悪くないんじゃないかとも思える。

 前に出がちなSOPMODⅡは他の連中が抑えに回ればいいし、実際射撃能力や勘はいいものがあるから、それを活かせる場面は他の連中が作ればいい。AR-15には高い思考力と冷静さがあるから、参謀に向いてるかもしれん。すぐにパニクるのが悪い癖だが、そこはM16が精神的支柱として居れば大丈夫だろう。M4は気が弱いが、裏を返せば慎重策を練るのが上手いし、部隊のブレーキ役にもなる。気の強いM16と冷静なAR-15の案が合わされば丁度いい折衷案が生まれるんじゃないか。

 

 うん、案外悪くないかもしれないな、この組み合わせ。

 ま、とは言ってもこの4人が常にセットで動く前提で教育スケジュールを組み切ってしまうのもよくない。戦場においては想定外なんて常について回るもんだし、それぞれが単独で動く場面もあるだろう。しっかり4人全員を新人に毛が生えたレベル以上にまでは育ててやらないとな。既に新人に毛が生えたレベルは抜けてるんじゃないかという疑問が湧かないでもないがそんなものは知らん。クルーガーからのオーダーは「それ以上」なんだから青天井ってことで。

 

 何だかんだで俺自身、こいつらを気に入っているってのはあるんだろうな。性格はそれぞれ違ってるが、皆訓練には真面目だし素直だ。飲み込みも早いし個人差はあれど目に見えて成長しているのが分かる。本人たちにもその自覚があるからか、非常に意欲的だ。教えてるこっちも流石に気分が高揚するってもんです。

 ただ、何にせよこの狭いキルハウス内、状況も環境も変わらない空間で一発も俺に当てられていないってのはちとよろしくない。しばらくは射撃訓練と遭遇戦訓練だな。どれくらいで俺に当てられるようになるのかが楽しみだ。

 ちなみに、俺の部隊員とこのゲームをやったとして、俺の装備を同じくらいカラフルに出来るやつは全体の2割くらい。流石に俺自身が育てた連中相手に一発の被弾も無しは無理があるが、それでも8割くらいのやつはそこそこ一方的に染め上げることが出来る。伊達に長く生きてないんですよ。

 この子たちには、是非俺を全身極彩色に染め上げるくらいして欲しい。それが出来る時点で新人など程遠いレベルの出来になるんだが、やっぱり目標は高く据えるべきだと思いまして。

 

「教官。もう休憩は十分でしょうか?」

 

 未来予想図を脳内で描いていたら、AR-15がやる気に満ち満ちた目でこちらに声をかけてくる。いいね、その顔。意欲と悔しさと充実感がいい塩梅で混じってるぞ。

 

「まあ待てよAR-15。次は私の順番だぜ。抜け駆けはよくないよなあ?」

「むぅ~~~~!!! 次は絶ッッ対に当ててやるんだからぁ!!」

「私も……頑張ります……!」

 

 火がついたのか、それとも既に燃えていた炎をAR-15の一言が噴きあがらせたのか。どいつもこいつもいい顔しやがって。まだ知り合って数日だが、ここまで気持ちのいいヤツらは随分と久しぶりな気がする。人間じゃないってのを差っ引いてもいいやつらだ。こりゃこっちも本気で相手しないと失礼かもしれないな。

 

「……えっ?」

 

 熱意を燃やしていたAR-15の表情が一瞬曇った。いやお前、そりゃ訓練始めたばっかりのヒヨっ子相手にいきなり本気で対戦はしないでしょ普通。どんだけスパルタだよ。今までのはあくまで「セオリー通り」に動いただけで特別なことは何もしていない。マジで何でもありでやるなら煙草に火もつけるし靴も投げる。使えるものは文字通り何でも使わなきゃ生き残れないからな。

 

「……ははっ。こりゃ藪を突いて蛇を出したか?」

 

 笑ってるけど笑えてないぞM16よ。ただ、ここで萎縮しないのは流石だな。やっぱお前がリーダーやった方がいいんじゃないか? ま、そこは部外者たる俺がとやかく言うことでもあるまい。

 そうと決まれば早速続きだ。順番的に次はM16だから、サクっと染め上げて実力の差ってやつを改めて身をもって知ってもらおう。いずれ縮まる差ではあろうが、現時点での距離をしっかり認識させておくのも悪くない。

 こいつら全員が俺に一発当てることができるようになれば、次はチームで相手してやってもいいかもしれないな。個人の力量をどれだけ伸ばしたところで、所詮単騎では頭打ちだ。部隊の強みは連携にこそある。ファンタジー世界によくある一騎当千、獅子奮迅の活躍は現実世界において余りにも非合理に過ぎる。それが出来てしまうからファンタジーなんだ。

 逆に言えば、連携をしっかり活かして点と点を線にすることが出来れば、ただ強いだけの点なんぞいいカモだ。そこら辺も早い段階で分かっておいて頂きたい。ただ、それをするには最低限の個の実力が必要ってのもまた事実。今はまだまだ下積みの段階ってとこだな。

 

 さて、俺は果たして今日という一日をクリーニング無しで乗り切ることが出来るのか。そいつは神と、こいつらのみぞ知るってね。




ここで言うキルハウスとは、サバゲーの屋内フィールドにガレキやら何やらモリモリ詰め込んだフィールドみたいなイメージです。ドルフロの荒廃した市街地を切り取って配置した、みたいな感じですね。

一人称視点だとサクサクと進む代わりに、掘り下げがすごい難しいんですよね。まぁ練習のつもりでぼちぼちやっていきます。
続くかは分かりません(定期

すっかり過去作になりましたが

  • 最近新しく読み始めたぜ!
  • 定期的に読み返してるぜ!
  • AR小隊はいいぞ
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。