戦術人形と軍人と【完結】   作:佐賀茂

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投げられる時に投げとくんだよォ!
ちなみに筆者はUMP40持って畳返しする指揮官とかM249ばら撒く鋼鉄の指揮官とかヤンデレに囲まれて心を痛めてる指揮官とかが好きです。


03 -技術、戦術、戦略-

 一夜明けた翌日。俺は昨晩ガタガタとけたたましくその駆動音を鳴り響かせていた乾燥機から一式を無造作に取り出して着替えていた。

 とりあえず昨日の遭遇戦訓練はその後追加で3周ほど回ったが、何とか被弾無しで終えることが出来た。最後の1週はかなりヤバかったが運も味方したな。SOPMODⅡのラッキーショットがギリギリのところを掠めていったのは正直肝が冷えた。でかい口を叩いておきながら初日からキルマークを献上していたのでは教官の名折れだ。実に危ないところだった。

 

 さて、初日から僅か数日、物凄い勢いで成長しているAR小隊の4人。今日も今日とて基本的な射撃訓練と遭遇戦訓練の予定なんだが、実はちょっとプランを変えようかと思っている。というのも、俺たち人間を基準としたスケジュールをそのまま戦術人形に当て嵌めるのは、どうにもナンセンスなんじゃないかと思い始めたからだ。

 だってあいつら電脳じゃん? 俺たち人間の不出来な脳みそと違って、あいつらの頭の中では数え切れない電気信号が誤差無く走り続けてて、あらゆる事象を正確に記録、記憶していく。ちょっと考えてみれば分かることもかもしれんが、俺たちでいう「慣れる」という工程に対して人間よりも大幅に短い時間で済むわけだ。

 通常は新たなことを学ばせたら、それが浸透するまで慣らしていく期間が必要だ。だって一発でハイ覚えたって出来ようもんなら俺たちは全員テストで100点を取れるし、そこに出来不出来の差なんてつくわけがないからな。ところがどっこい、AIってのは実に便利なもんで、1回教えれば大体その通りに出来ちゃう。俺たちが必死こいて身体に染み付かせようとしている動きを、最適化とかいうふざけた工程で一気に推し進めてしまうのだ。

 勿論、定期的な反復訓練は生の脳みそだろうが電脳だろうが必要だとは思うが、今までの動きや成果を見る限り、この点に関しては人間と同じ感覚でやるのはちょっともったいないかなと思った次第。いつまでも訓練し続けるわけにも行かないし、ここら辺は俺も状況に合わせて最適化させていかにゃならん。

 

 と、いうことで。今日は射撃訓練と遭遇戦訓練をやるにはやるんだが、少し趣向を変えて、かつサクっと終わらせて次のステップに入ろうと思います。

 

「私たち同士で……ですか?」

 

 いつも通り時間ピッタシで集合場所に集まった4人に向けて俺のプランを告げると、まず疑問を口にしたのは緑のメッシュが眩しいM4A1。他の3人も声にこそ出しちゃいないが、同じような疑問が顔に浮かんでいるのがありありと見て取れる。君たち仮にも兵士になるんだからポーカーフェイスの練習くらいした方がいいんじゃないの。

 ま、ここで全部種明かしをしてもつまらんので、とりあえずはやらせてみることにする。ルールは昨日と同じフラッグ戦とデスマッチをあわせたようなやつ。4人居るから、総当たり戦みたいな感じで何周かやってもらうことにしよう。ついでに、俺が考えた順位予想も伝えておこう。外したらメチャクチャ恥ずかしいが、まぁ多分大丈夫。

 内容は、僅差でSOPMODⅡがトップ。あとの3人は団子っていう物凄いシンプルなやつな。

 

「へえ……? まぁいい。せいぜい派手に外して赤っ恥をかいてくれるといいさ」

 

 俺の予想を聞いて真っ先に反応を返したのはM16A1。いいなーその負けん気の強さとタフさ。そういうとこ好きだぞ。

 

「少しは期待していたのだけれど……教官、貴方の見る目の無さ、今ここで証明してあげるわ」

 

 おっと、M16の発破にAR-15が続いたぞ。初日の射撃訓練前に勝るとも劣らないドヤ顔っぷりだ。確かに初日のアレを除けば、基本的にAR-15は優秀だ。それは俺も認めている。けど今回の試みはそういうとこじゃないんだよなあ。そこに気付けないから君たちはまだヒヨっ子なんです。ただ、これでマジで順位が狂ったりして予想が外れたら本気で恥ずかしいので俺は無駄に煽らずポーカーフェイスを貫く。

 唯一、M4A1だけは目立った反応が無かったが、もしかして気付いたりしたんだろうか。いや、仮に気付いたとしても現状では変えられない結果のはずだからいいんだけど。予想を外すと恥ずかしいレベルっていうのは、裏を返せば自信があるということだ。余程のことがない限りこの予想は大きくはズレない。

 SOPMODⅡはというと、まさかの1位予想に大きくテンションが上振れている。もっというならいつも通り。この子は一体いつ落ち着いてるんだろうな。ロボペットからAI移植でもしたのかな?

 

 ま、そんなやり取りもそこそこにして、早速始めてもらおう。昨日とは違って同僚が相手ということで、彼女らにはまた趣の異なるやる気が感じられる。そりゃまぁ、多少ベクトルは違えど君たち基本的には優秀だから、皆が皆自分が1位を取って当然だと思ってるんだろう。ただね、優秀なだけで戦に勝てたら苦労はせんのですわ。それを今から彼女たちに分かってもらおうと思います。

 

 

 

 

 

「やっっったーーー!!! 当たった! 当たったーー!!」

 

 

 昨日と同じ遭遇戦訓練をAR小隊たちでやらせて、大体3周目くらい。喜びに身を任せてピョンピョン跳ね回ってるSOPMODⅡも中々に素敵なデコレーションを施されているが、他の3人に比べれば明らかに少ない。ま、それでも少なくない被弾はしているんだが、一番マシなのは間違いなく彼女だ。後の3人はそれはもうカラフルまみれ。虹の池にでも全員頭から突っ込んだんじゃってくらい。

 と、いうことで俺の予想はどんぴしゃりで当たりました。いやーよかったよかった。確かに自信はあったんだが、やっぱり不確定要素に賭けるってのはドキドキするね。どんだけ自信があっても100%じゃないんだから。ペイント弾を使ったゲームだからこそ出来るお楽しみだな、実戦じゃ絶対にやりたくねえ。

 

 さて、ここら辺で答え合わせと行こう。一旦訓練を中断して皆を集めることにする。

 あ、AR-15の悲痛な顔がヤバい。どうして……どうして……ってうわ言みたいに繰り返してる。この子ちょっとメンタル弱すぎない? M4とはまた違った角度から心配になってくるぞ。

 M16A1は憮然な表情が崩れないまま考え込んでいる。うーん、これは落ち込んでいるっていうより、どうして俺の予想が当たったのかまるで分からないって感じだな。ショックは受けているんだろうが、自分を見失うまでには至っていない。やっぱ強いなぁこの子。

 一番ショックが少なそうなのはM4A1だった。多少の落胆は見えるが、やっぱりね、みたいな感じも見え隠れしている。折角だし、どうしてあまりショックを受けていないのか聞いてみよう。ぶっちゃけちょっと予測出来てた?

 

「え、えっと……予測って言うほどじゃないんですけど……。教官と対戦している時はずっと振り回されて、後手に回ってましたが……皆も同じだったので、振り回された同士で戦ったらどうなるんだろうな、とは考えてました……」

 

 おお、かなりいい線いってる回答だぞこれ。疑問だけで終わっていて解答を得られていないのはあるが、疑問自体は本質を突いてるな。答えが分からないのは単純に知識がないだけだろう。というか、その答えが分かっていればもうちょっとマシな戦果になってるはずだからな。

 

 もったいぶっても仕方ないので答えを言えば、技術、戦術、戦略の違いってやつだな。まぁ今回に於いてはステージが狭すぎるので、戦略ってのはちょいと主旨から外れるが。

 こいつらは今のところ、全員が大体同じくらいの技術(テクニック)を持ってる。少なくとも人間の出来たてほやほやの新兵なんかよりはよっぽど上手く銃を扱えるだろう。

 問題は戦術(タクティクス)だな。こいつらは昨日、散々俺の戦術に翻弄されたわけだが、一方で自前でかつ自発的に戦術を練り、即座に発揮出来るほどのレベルには達していない。それにはまだ、圧倒的に知識と経験が足りない。俺が昨日使った戦術をパクることは出来ても、その精度はお察しだし、それ以外を知らない。もっと言えば「こうされたらこう動く」はある程度出来たとしても、「こうやって動こう」あるいは「こう動いたら相手はこう動くはず」が出来ない。だって知らないから。

 戦術ってのは何も、群れ対群れで初めて発揮されるわけじゃない。個人間の戦いでも立派な駆け引きは数多存在する。で、お互いがお互い、低いレベル狭いレベルでの戦術しか出来ないわけだから、戦況は自然と膠着してしまう。か、呆気なく決着する。

 その状態から強行突破しようとなれば、それはもう個人技、いわゆる技術になるわけだが、戦術よりも多少マシとはいえそっちもどっこいどっこいと来たもんだ。そうなれば残されるはもう泥仕合しかない。食うか食われるかのしがらみのない一騎打ちに結果として陥ってしまう。

 で、本来であればそこまでいったらもう後は運頼みの馬鹿試合になるんだが、ここには1人だけ戦場での勘ってやつが比較的冴えてるやつがいる。それがSOPMODⅡだ。

 戦略もない、戦術もない、技術は互角。そうなりゃもう後は運だとか勘だとかそういう類の出番しか残っていない。毎回毎回命をベットしてフィフティーフィフティーやるなんざ馬鹿か狂人しか居ないわけで。そういう状態にならんよう、俺たちは必死こいて戦略を立て、戦術を打ち、技術を使うわけだ。

 

 戦略(ストラテジー)で機を制し、戦術(タクティクス)で優位に立ち、技術(テクニック)で勝つ。

 戦争戦闘ってのはつまりそれの繰り返しだ。

 

 みたいなことをオトナの兵隊さんっぽさをぷんぷんに醸し出しながら説法をかましているんだが、何かまた俺を見る目が変わってきた気がする。具体的に言うと「教官って実は頭よかったんですね」みたいな視線。

 あのね、兵隊さんは頭が良くないと務まらんのですよ。イメージとして筋力や体力みたいなのが先行してしまうのはこれはもう仕方ないことだとは思うんだが、戦場って考えること沢山あるんです。というか、戦闘区域に入る前に考えて結論出すのが隊長格の仕事なわけで。それでも当たり前みたいな頻度で想定外が発生するから、後は高度な柔軟性を持って臨機応変に対応するしかないわけで、頭のキレないやつから先に死ぬ職場ですよ。伊達に長く生きてないんです。

 まぁ君たちも戦場で無駄死にしたくなければちゃんと戦術や戦略も考えられるように、知識をつけて行きましょうね、という話。

 

「……話は分かったし、納得もした。で、私らはどうすればいい? どうすれば強くなれる?」

 

 やっと仏頂面を解いたM16から声がかかる。うーん、この切り替えの早さ。惚れ惚れするほどである。きっとM16のAIを設計したやつは飛びっきりのナイスガイだな、間違いない。

 さて、ここまでがいわゆるお膳立てというやつで、やりたいことはここからが本番である。

 

 

 楽しい楽しい、座学のお時間です!

 

 

 「……うえぇ……」

 

 

 うん、君のそのリアクションは大いに予想出来ていたぞSOPMODⅡ。だがいくら嫌がったところでそうは問屋が卸しません。訓練や実戦でしか身に付かないものは確かに沢山あるが、反対に勉学でしか身に付かないものが沢山あるのもまた事実。しっかりと教育してやるから覚悟しておくように。

 まぁ、これが人間の新兵相手であれば俺も骨が折れるんだろうが、彼女らは優れた電脳を持った戦術人形である。戦術人形(タクティカル・ドールズ)の名に恥じないよう、立派な戦略からコスい戦術まできっちりみっちり教え込んであげようではないか。ぶっちゃけ、一般的な新兵を相手に行う教育スケジュールの進行度合と比べたら、大体4倍くらいの超スピードで進んでいる。俺の身が持つかどうかがちょっと心配なレベルになってきたが、俺自身楽しみになってしまっているので仕方がない。ちなみに、教科書なんていう立派なもんはあるわけがないので、勉強資料はウチの部隊が過去に作成した作戦報告書を使うことにする。後は色々アレンジしてパターン増やせばなんとかなるだろう。

 言うて、俺もあんまり好きじゃないんだけどね座学。身体動かしてる方が楽しいし。とは言っても、教官という立場を半ば無理やりとは言え引き受けてしまった以上はやるべきことはやっとかなきゃならん。後でクルーガーに文句言われるのも非常に癪だし。

 

 と、言うことでキルハウスはしばらくお休み。これからは作戦会議室が主な戦場になるだろう。電脳相手にお勉強会というのは初めての体験なので、こいつらがどれくらい覚えが早いのか、射撃訓練の時とはまた違った高揚感がある。明らかにテンションの低いSOPMODⅡは置いといて、お勉強の地へいざ行かんってね。




ぼくも色んな人形に囲まれてキャッキャウフフしたい! でもそこについては偉大なる先人方が沢山いらっしゃるので砂糖成分は他の作者様から摂取するのだ……


あ、PKPは出ませんでしたがG36Cとスオミがすり抜けてきたのでセーフです。

すっかり過去作になりましたが

  • 最近新しく読み始めたぜ!
  • 定期的に読み返してるぜ!
  • AR小隊はいいぞ
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