書きたいことは決まっているんですが、アウトプットはやはりエネルギーを使いますな。
何とか一気に進めたいところですが、このパゥワーが続いてくれることを期待して止みません。
「……誰がここまでやれと言った」
開口一番、グリフィン&クルーガー社の最高責任者、ベレゾヴィッチ・クルーガーはその渋い顔を隠すことなく俺に告げた。誰がと問われれば、そりゃお前だろと言い返さんばかりのしたり顔でもって、俺はその問いへの返答とする。こいつが俺に投げつけた注文は、新人に毛が生えたレベル「以上」に鍛え上げてくれ、というものだ。正しく注文通り、それ以上に鍛え上げたところで文句を言われる筋合いはこれっぽっちもないのだ。俺は与えられた任務を恙なく遂行した、ただそれだけである。
今日はあいつら4人の訓練最終日。一応エンドはしっかりと区切ってあったので、クルーガーもこっちに顔を出している。教育の成果を見に来たってところなんだろうが、なんと彼女たち、昨日付でそれぞれの最適化工程が90%を超えていたのである。ダミー人形もネットワークシステムの上限である4体を難なく操り、その手腕は人間のベテラン兵士が尻尾を巻いて逃げ帰るほどだ。正直言って、同条件下でのタイマンだと最早俺でも勝てるか怪しい。いいとこ痛み分けってところじゃないだろうか。我ながら恐ろしい自律人形を育て上げてしまったものである。人形怖い。
そして、訓練を終える日ということは同時に俺がここを去る日でもある。別段悲しいなんて感情は沸いてこないが、やっぱりちょっと心残りは出てきちゃうなあ。とは言っても、もう俺が教えられることはほとんど無いのでこれ以上ここに留まっていてもあまり意味もないんだが。
追跡戦訓練で完璧な黒星を食らったあの日以降。俺は残された時間が少しでもあいつらの為になるように、色々なことを教えた。クルーガーに追加で取り寄せさせた作戦報告書を一緒に紐解き、ああでもないこうでもないとお互いの知識と発想をぶつけ合った。キルハウスの室内配置を勝手に弄繰り回し、一本道のトレーニングハウスに仕立て上げて様々なシチュエーションでの突入戦もやらせた。あえて電灯を全て切り、疑似的な夜間遭遇戦訓練なんかもやった。どうしても物足りなくて、屋外で本物の夜間行軍訓練もやった。追跡能力を更に極めるために、ビル街を活かした立体的な追跡訓練もやった。AR-15が一度、壁を掴み損ねて呆け顔のまま落下していったこともある。皆でめちゃくちゃに笑ってやった。また、ナイフを中心とした近接格闘術も息抜きがてら訓練の合間に差し込んだりもした。ダミー人形と俺とで遭遇戦を行い、ダミーの操縦技術の向上も目指した。車上から高速移動中の射撃訓練なんかもやった。車輛の運転も教えたがったが、流石に時間が足りなかった。あいつらなら半日で乗りこなしそうな気もしたが。最終的に、彼女たちに自己分析をさせて長所欠点を認識させた上でどのような訓練がやりたいか、逆にリクエストを募ったりもした。思いつく限りの訓練はやってしまったとも言えるな。
死ぬほど忙しかったし死ぬほど疲れたが、実に良い時間だった。短いながらもこんなにも濃密な時間を過ごしたのは何時振りだろうか。もしかしたら初めてと言ってもいいくらいに充実した2週間だったかもしれない。
ちなみに昨晩、俺は彼女たち4人と一緒に夜を過ごした。
別にやましいことをしたわけじゃない。というか流石に守備範囲外です。そりゃもう最高に可愛らしいことは認めるが、幸か不幸かそこまで不埒な精神は持ち合わせていなかった。俺がそっち系の趣味を持っていたら多分危なかったとは思う。
先日の訓練を終えて一息ついた後、M4A1が珍しく俺の宿舎を訪ねてきた。一体どうしたのかと理由を聞けば「お喋りしたいから」だそうな。見慣れた訓練服ではない、年齢相応の可愛らしい普段着に着替えた彼女は大変目の保養にはなったが、その表情にはどこか固いものがあった。訓練のスケジュールは最初にこいつらにも伝えていたから、今日で訓練が終わりだということ、そして明日には俺が居なくなることを分かっていたんだろう。普段の気の弱さを精一杯閉じ込めた声色で誘われた俺に、無碍に断るなんて選択肢は残っていなかった。推定未成年の女子が集まる部屋に、俺みたいなおじさんが加わっていいものかという疑念は最後まで払拭出来なかったが、何時に無く強気なM4A1にも逆らえず彼女たちの宿舎へお邪魔する運びとなったわけだ。
その日は珍しく訓練や戦闘以外の、言ってしまえばどうでもいい話で随分と盛り上がった。半分くらいは俺が聞き役となって相槌を打ったり質問に答える形だったが。そういえば結局、以前黙秘権を行使した俺のパートナーの有無に関しては割れてしまったな。だからどうしたって話ではあるんだが、いい年こいたオッサンがずっと独り身ってのは面と向かって言われると割とダメージがある。
結局ぺちゃくちゃとお喋りをそれなりに楽しんでいた俺ではあったが、やはり人間と戦術人形の違いか、先に眠気が訪れたのは俺の方だった。こちとら健康優良男児やぞ。日付が変わる頃にはおねむじゃい。
眠気を理由に部屋に戻ろうとしたが、何故だかそのまま押し止められてしまった。なんだこいつら、何でこんなに懐いているんだ。俺はあくまで教官であって君たちのお父さんじゃありません。などと一応言ってはみるもののAR小隊、これを華麗にスルー。お前ら訓練の時は素直なくせにその頑固さは何なの。
それで最終的に俺が寝落ちしたんだが、目が覚めたら腕枕やら腹枕やら抱き枕やらで全身の大部分を占領されており、身体の節々が今もちょっと痛い。訓練の時とはまた違うダメージが入っている。知ってるか、人間の頭って意外と重いぞ。あいつらは人形だけど。
そんな一夜を明かして本日、終に彼女たちともお別れというわけだ。俺の横にクルーガー、目の前にはAR小隊の4人。初日に顔を合わせた時と同じ場所、同じ立ち位置である。一つ違う点を挙げるとすれば、彼女たちの顔付きか。2週間前、確かにそこに居たヒヨっ子どもはもう、何処にも居なかった。
「本時刻をもって、君たちの教育訓練課程を終了する。ご苦労だった」
クルーガーがその表情を動かすことなく、端的に事実のみを述べる。こいついっつもこうなんだもんなあ。愛嬌ってやつが致命的に足りていない。まあ俺も人のことはあまり言えないが。
「敬礼!!」
突如耳に響いたのは、今まで聞いたこともない力強い発声だった。え、今のM4A1なの? マジで? お前そんな腹から声出せるんかい。初めて知ったわ。
彼女の号令にあわせ、一糸乱れず姿勢を正す4人。一端の軍人に成りやがってこいつらめ。
答礼を返しながら、改めて4人を見つめ直す。そこに居たのは少女ではなく、戦術人形でもなく。俺の教育訓練を超スピードで駆け抜けた、可愛くも力強い、かけがえのない教え子たちだった。
「――――――ッ! ――! ――――――!!」
懐かしい夢を見ていた、ような気がする。随分と長く眠っていたような感覚を覚えたが、今何時くらいだ? あーいや、やっぱいいや。何かメチャクチャ眠い。もうちょい寝ておこう。
「――――! ――――――――て!! ――――ッ!」
もう一度睡魔に身を任せようと思った矢先、遠くから叫んでいるかような声が聞こえた。何か聞き覚えのあるようなないような声だな。誰だっけか。割と見知った声のような気もするが、いまいち思い出せん。あと何故かめちゃくちゃ寒い。うーん、しっかり着込んでいるはずなんだが。
ちょっと気になってうっすら目を開けてみた途端、何かが目の中に落ちてきた。うお冷てえ。水かこれ。雨でも降ってるのか、そりゃどうにも寒いはずだ。しかし水が目に入るってことは俺は今屋外に転がってるのか? 何でまたそんなとこで寝てるんだ。うーん分からん。外でドンチャン騒ぎして酔い潰れでもしたのかね。
「――――大尉! 目を覚ましてください!! ッ止血帯早く持って来い!! 一本じゃ足りねえ!!」
おお、今度ははっきり聞こえた。ていうか近いなおい。そんな至近距離で叫ぶんじゃない、耳が痛いだろうが。止血帯って聞こえたけど何でそんなもん使うんだ。誰か怪我でもしてるのか。うーむ、尋常じゃない眠気のせいで目が上手く開かない。様子が分からんことには何とも言えないなあ。あとやっぱ雨降ってるわこれ。全身濡れてる感覚があるしザーザー聞こえるもん。
「
今度はすぐ傍で叫んでたやつの声が突然聞こえなくなった。えぇ……叫んだり黙ったり忙しいヤツだなおい。
どうにも気になってしまい、気力を振り絞って目を開いてみれば、俺の目の前を綺麗な桜が舞っていた。あ、これ何回か見たことあるぞ、多分脳漿だ。血が混じるとこんな感じにピンク色に染まるんだよな。
んん? ってことは今誰か死んだのか? やべ、状況が全然分からん。
トォン、と。今眼前で起きた事象に精一杯追い付こうとするような、決して音速の壁を越えられない響きが遅れて届く。うわーこれ狙撃銃の音じゃないの。俺この音嫌い。
「……ッ! 曹長がやられた! 状況!!」
「方位60-90! 距離350-500! 数不明! 推定APHE! スナイパー!」
「煙幕張れ! けん制射撃! 他はどうした!」
「第二、第四応戦中! 劣勢! 第三、第五、第六通信途絶! 不明です!」
途端に慌しくなってきた。いや、さっきから煩かったのを俺がやっと聞けるようになったのか。うーむ、てことはさっき俺の目の前で叫びまくってたのは曹長か。あいつ筋が良かったから気に入ってたんだけどなあ、惜しいヤツを亡くしたな。
は? 死んだ?
いやいやいやいや待て待て待て待てちょっと待て。どういう状況だこれ。何で俺が寝てて曹長が死んでるんだ!?
慌てて飛び起きようとするが、全然身体が言うことを聞いちゃくれない。ギリギリ腕には力が入るが、他がさっぱりダメだった。何とか首を動かして周りを見渡そうとしてみるものの、寝そべったまんまじゃ視界も限られてくる。入ってくる情報は複数の足と、僅かな光をも漏らさない極厚の雨雲と、幾つかの散らばった機械片くらいのものだった。
機械片?
――思い出した。思い出してきたぞコンチクショウめ。点と点の情報が繋がっていく感覚。一時的に失われていた記憶が超速度で再構築されてきた。
俺の部隊はいつも通り、大集団を形成しつつあったE.L.I.Dの群れを叩くためにここに来たんだった。流石に今回は規模がでかかったから、幾つかに部隊を分けて包囲殲滅する作戦を取っていたんだが、そろそろ作戦も終わりかなって頃合で突如第六部隊が通信途絶に陥った。事前のブリーフィングでは周囲に目立った障害は認められなかったはずだから、はぐれE.L.I.Dでもいたかな? くらいに思ってたんだよな。にしても、幾ら想定外とは言え小規模のE.L.I.D程度相手に瞬殺されるようなヌルい教育はしていない。バックアタックされたにしても、全滅は有り得ない。
とりあえず第五部隊の連中を偵察に向かわせて、その穴に第三、第四部隊を割いて、といった具合で部隊割をしてたんだが、後ろから音がしたんだよ。
振り向いてみると、そう遠くないところで紫と白のカラーリングを基調とした無骨な機械人形が隊列組んで歩いてた。確か、鉄血工造とかいう会社のヒット商品だったと記憶している。イェーガーシリーズだったかな、軍でも幾つか買ってたみたいなんだが、精密な動きは無理にしてもとにかく頑丈で物持ちが良かったもんで、割と現場でも評判良かったやつだ。
ただ、俺たちの部隊で使うことは基本無かったし、今回の作戦に於いても戦術人形が支援戦力として送られてくるなんて話は聞いてない。
で、これは一体どうしたものかと考えていたら、いきなりあいつら銃口をこっちに向けてきやがった。そこから先の記憶が飛んでるから、多分俺もやられたんだろう。少なくとも今、自力で起き上がることが出来ない程度には深刻なダメージを貰ってしまっている。
ていうかあいつらなんで応戦してんだよ。逃げろよ。まさか俺を放っておけないとかいう甘っちょろい考えでここに残ってんじゃないだろうな。さっさと逃げろ馬鹿野郎と一喝してやろうと思ったが、弱弱しく咳き込むばかりで声が出ない。うわ、これ肺がやられてる気がする。胴体のいいところに何発か貰ってんな畜生。E.L.I.Dを相手にする場合、機動力を重視してしまうためにケブラー程度しか着込んで来なかったのも不味かったな。
そういえば今の俺はどんな状態なんだ。記憶を辿るのと現状の把握に必死で自分のことを気にしていなかった。
首を起こして自分の身体を見てみれば、予想通り胴体にいいのを貰ってしまっている。ただ、思ったよりも出血量は少ないのが幸いか。肺がやられてるのはマズいが、まぁ即座に致命傷ってワケじゃなさそうだ。このままじゃどっちにしろ死ぬが。
一番ヤバいのは左足だった。バックショットでもまとめて食らったのか、膝から下辺りがグッチャグチャになっていた。曹長が止血帯って叫んでたのはここかあ、確かに血の池がやばいことになっている。大腿に一本かかってはいるが、まぁ所詮応急処置だとこんなもんだろう、気休め程度にしかなってない。さっきからクソ寒いのもこの出血量のせいだな。完全に足が死んだ上に胴体に貰っているから、自力じゃ起き上がることすら出来ん。胸の辺りはクソ痛えが、左足の感覚が痛覚もあわせて完全に無くなっている。これは万に一つ助かっても切断するしかあるまい。
ドチャリ。随分不愉快な音を立ててきた原因の方向を見据えれば、俺の横に誰かが倒れていた。顔こそ無事だが、その身体には綺麗な蜂の巣が出来上がっている。ほぼ即死だろうな、これは。身体の周りを感じたくもない生温い液体が、鼻の周りを嗅ぎたくもない死臭が漂っていた。
周囲にはその数を秒単位で減らしていく俺の部下たち。その更に外縁には、途中から数えるのも面倒になりそうなくらいのファッキン鉄血人形ども。しかもスナイパーまで居るときたもんだ。今回の作戦には俺の部隊以外は参加していないし、そもそも戦術人形にいきなり襲われるだなんて誰も考えてすら居ない。このレベルのイレギュラーなら誰かが通信投げててもよさそうだが、完全に不意打ちだったからそれも難しいかもな。せいぜいが、帰投予定時刻になっても戻らない部隊に対して出される捜索隊くらいのものだろうが、それも果たして何時間後になるやら。
人間、死ぬ間際に走馬灯を見る、と言うが、さっきの夢がもしかしてそうだったんだろうか。正確には思い出せないが、とても楽しい内容だったのはよく覚えている。そういえば、あいつらと離れて随分経つが元気にやってるだろうか。M4A1は相変わらず弱気のままだろうか。AR-15はまた変な意地を張って失敗してないだろうか。M16A1は今でも姉貴分として皆を引っ張っているだろうか。SOPMODⅡは少しは御淑やかになっただろうか。いやあいつはそのままでもいい気はするな。アレがあいつの魅力でもあるわけだし。
うん、何とも締まりのない最期だとは思うが、清算してみれば悪くない人生だったと思う。死んでいった部下たちには悪いことしたな、俺が潰れたら逃げろって教えてたはずなんだが足りなかったか。すまん。
気が付けば、先程まで鳴り響いていた銃声と怒声は聞こえなくなっていて。今にも死にそうな呻き声と、ガシャン、ガシャン、と、鉄人形が歩いてくる音と振動だけが伝わってくる。
うーん、これは詰んだ。せめて最期は可愛い子ちゃんに看取られたかったが、相手がこんな鉄屑じゃあなあ。まぁそれも我侭というものか。愚図っても仕方がない、切り替えて逝こう。
俺は、今日、ここで死ぬ。
もうちょっとだけ続くんじゃ。
すっかり過去作になりましたが
-
最近新しく読み始めたぜ!
-
定期的に読み返してるぜ!
-
AR小隊はいいぞ