6ヶ月───それが剣の、私の弟が生まれるまでにかかった月日。
この早生まれのせいで剣は生まれたときからとても体が弱く山から出られない程だった。......でも、その弱さを補うように優しかった。
「お姉ちゃん」
少しおとなしかったが顔を見合わせる度に笑顔を朗らかに向けてきてくれた。
しかし───七年後
久しぶりにあった弟の姿は一変していた。
見合わせるたびに浮かべていた笑顔は枯れ、髪にはその年には早すぎる白髪が鈍く黒の中に光っていた。
普通に暮らしていてはこうはならない、なるわけがない。聞かされてはいたがここまでとは......剣、お前をそこまでに変えてしまったのはやはり────
「姉さん」
再び私を呼ぶ剣の声が意識を懐かしい実家の居間に引き戻した。
感情を読み取れない瞳が私を貫く。
「お久しぶりです。 ご機嫌よろしいでしょうか」
平坦な抑揚のない声で用意でもしてきたような挨拶をかけられる。
「...ああ、私は元気だ。会えて嬉しいよ」
「そうですか、それは良かったです。申し訳ありません、政府に差し押さえられた為、茶も何もお出しすることが出来なくて」
「...気にしなくていい。 少し寄っただけだ、すぐ帰る 」
「そうですか」
「.......」
「...............」
沈黙が居間を支配する。 ここは意を決して何か世間話でもしようかと口を開いたとき。
「姉さん」
「.....っ...何だ」
「姉さんはあそこに行かれるのですか」
あそこ、とはおそらくはIS学園...私たちの長姉が造り出したISの人材育成と管理を行うための場所。
「...ああ、行くも何も無理やりだがな」
あの人がISを公表して以降、行方を眩ませているため表向けは政府の保護プログラムの一環だが人質のために入れさせられたかもしれない...最も効果はわからないが。
「剣、お前はどうするんだ? ここに帰ってきたのもその───」
「しばらくは通院して数年はここで療養を行いたい所存です。 ここは掛かり付けの病院が近いので」
言葉に詰まっていると遮るように事情を話された。
「姉さん、姉さんは今の世界をどう考えていますか」
「...なんだいきなりそんなことを聞く?」
「今だからこそ聞きたいのです 、ISによって変わってしまった世界だからこそ」
10年、10年の間に多くのことが変わってしまった。
一家離散、引っ越し・転校。 姉さんのことに対する尋問・追及の強要。
そして
「私は........私は.........」
答えられなかった、否。 答えは出なかっただけだ。出せない、出してしまえば何か認めちゃいけないものを認めてしまう、そういう気がした。
「.........っ...」
返答出来ずにうつむくしか出来なかった。
「もう、いいです。姉さん、申し訳ありません。変なことを聞いてしまい」
「..........すまない、急な用事を思い出した」
そのコトバを言いきるより先に剣に背を向けるように黙って立ち上がった。 障子を開けそのまま廊下に出る。
障子を閉めるまで剣はただ黙ったまま顔の調子を変えはしなかった。
駆け足気味に玄関から出て深く深呼吸をし、不規則に脈打つ胸を押さえる...心が息苦しかった。 あそこまで変わり果てた姿を瞳に写すのがあれ以上は怖くなったのかもしれない。こうなってしまったのは姉さんが、ISがお前の心を──
「...やはりか」
考えすぎたせいかこの時の私は一人残った剣の表情に映されていたモノに気付けなかった。
私、あらすじというものが苦手なのです。
何か難しいんですよ、まだいろいろ決まってないのに何をかけというのですか。
ということであらすじは必ずしも本編を指すとは限らないのであしからず!