Re:聖なるかな…え? 原作になんて参加しませんよ   作:ぴんころ

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第四話

「子岬」

 

 

 ある日のこと。というか幼女が学校にやってきてクラスメイトたちに『子岬家の末っ子』と認識された週の金曜日に、あの日の馬鹿騒ぎに加わっていなかったクラスメイトが話しかけてきた。

 

 

「お前さん、確か妹がいるんだろ? これやるから行ってきたらどうだ」

 

 

 渡されたのは遊園地のペアチケット。こういうのは普通恋人がいる相手に渡すものでは……いや、このクラスでは恋愛禁止法が施行されていたか。確かにそれなら遊園地を好みそうな年代の女の子を妹に持っていると思っている俺に渡してくるのもおかしくはない……のか?

 

 

「あ、ああ。ありがとう。でも、本当にいいのか? こんなのもらっても俺が何か返せるとは思えないんだけど」

 

 

 せいぜいできるとしたら神剣を使っての闇討ち程度だ。

 

 

「別にいいって。あ、でもどうしても、ただもらうのが気になるって言うなら……」

 

「言うなら?」

 

「今度お前の妹さん紹介してくれ!」

 

「死ね、ロリコン」

 

 

 

 

 ………………

 

 …………

 

 ……

 

 

 

 

「マズいなぁ……」

 

 

 帰り道で、さっきペアチケットをもらった時の応対を思い返して呻く。正直に言ってこの間のアレのせいで幼女を前世の妹と重ねて見てしまうことが増えてしまい、ついつい前世の妹に近寄ろうとしていた輩に対する応対が前面に出てくるようになっていた。そのせいで余計にロリコンシスコン疑惑が高まり、外堀が埋められていく。というか埋める気ないのに自分で埋めてしまっている。

 

 

【とりあえず、帰るまでにいつもの調子に戻ってね。じゃないと多分色々と聞かれることになると思うよ?】

 

(わかってる。あの幼女、そのあたり結構しつこいしな)

 

 

 まあ、結局もらってしまったことに変わりないので、明日か明後日にでも二人で行ってくるとしよう。せっかくくれたわけだから。

 

 

 そんなことを考えながら歩いていると家にたどり着く。これまでと違って帰ってきた時点で家に誰かいるというのは一人でないことを実感できてホッとするが、次の瞬間「でも、いるのは監視役だしなぁ」と思い直す。玄関を開けて家に入ると、帰ってきたことに気がついて、パタパタとスリッパの音がして幼女がやってきた。……こいつ、俺が学校にいる間はどうやって監視しているんだろうか?

 

 

「あ、お兄ちゃんおかえりー!」

 

「ただいま」

 

 

 幼女の姿を一目見たいと、俺の妹としての地位を盤石にした日にたくさんのクラスメイトがやって来たのだが、その時に今と同じく「置いてもらっているから」と家事をし始めたエプロン姿の幼女が玄関にまで来たことで、またもやクラスメイトが阿鼻叫喚の事態になっていた。ちなみにその時の叫びとしては「幼妻とかずりーぞてめー!」だの「家事が得意でお兄ちゃんが大好きな義理の妹とかsneg(それなんてエロゲ)?」だの。このゲームは『聖なるかな』というゲームですと返したくなったが、そこに関してはぐっと我慢した。ちなみに家事をし始めたところで、別に見直したりするつもりはない。「褒めて褒めて」なオーラを当人も気がついてないだろうが出していたのでスルーした。

 

 

「明日遊園地行くぞ」

 

「ほぇ?」

 

「クラスメイトからもらった遊園地のペアチケットあるから行くぞ」

 

「……はいっ!」

 

 

 一度目では理解できなかったみたいだが、もう一度詳しく言うと理解できたようで顔を綻ばせて力強く頷いた。

 

 

 

 

 ………………

 

 …………

 

 ……

 

 

 

 

「そういうことで、明日は遊園地に行くことになりました!」

 

『そ、そうですか……』

 

 

 私は時深さんに、今日何が起きたのかと、明日の予定を連絡していた。もしも何かあった時のために、どこにいるのかわかっているのとわかっていないのでは合流までにかかる時間がわずかに差が出ると思ったからだ。だけど最近、なぜか時深さんが辟易しているように見えるのは気のせいだろうか?

 

 

『ユーフォリア。わかっているとは思いますが……』

 

「はい! お兄ちゃんにロウが接触しないように! それとできればカオスに取り込むために!」

 

『カオスに関してはそこまで期待できないでしょうけどね……』

 

「ごめんなさい……」

 

『いえ、別にユーフォリアが謝る必要はないですよ。ユーフォリア以外が行くと余計に面倒なことになっていたでしょうし。”もっといい方法が存在する”ことと”それを実行できる”ことは別ですからね。私たちは私たちの取り得る選択肢の中で最も良い選択肢を選ぶしかないんです』

 

 

 なんだか難しいことを言っている気もするが、それでも今できることをしっかりとやれと言われていることはわかった。なので威勢良く返事をして、連絡を終える。今の私にできることは明日の準備。とりあえず、明日はしっかりとおめかししないと!

 

 

 

 

 ………………

 

 …………

 

 ……

 

 

 

 

「夕陽。ちゃんと言ったことは覚えてるな?」

 

「うん! 基本的に手を繋いで行動! お兄ちゃんがトイレに行ってる時とかに話しかけてくる人にはついていかない! 迷ったらスタッフさんに聞いて迷子センターに! 最悪の場合のみゆーくんを使っても良い! だよね!」

 

「よし!」

 

 

 遊園地にやってくるまでに少し電車に乗る必要があったが、やはり周囲からは変な目で見られた。とりあえず幼女に変な目を向けている連中にはガン付けをしていたので話しかけられることはなかったが、やはりああいうのを見ると、こいつは無駄に容姿は整っていることを実感する。

 

 

「で、何から乗りたい?」

 

「えとえと、それなら……」

 

 

 今回に関しては、『クラスメイトがくれたもので来ている』ので、来週の月曜日にはクラスメイトに『妹も喜んでいた』と報告できるように幼女を楽しませることが目的のお出かけとなる。そのため、幼女が乗りたいものに乗ることになるのだが……

 

 

「さ、行こう!」

 

 

 幼女に引っ張られてお化け屋敷に向かうことになった。

 

 

 

 

 ………………

 

 …………

 

 ……

 

 

 

 

「はぁ……」

 

 

 私はため息を吐くしかない。その理由は横のいる人たちにある。

 

 

「ぐぬぬぬ……!」

 

「ユウト、落ち着け」

 

「でも……」

 

「ユーフィーが子供らしく笑顔で遊んでいる。それに文句をつけるわけにはいかない」

 

 

 始まりは昨日のユーフォリアからの連絡。そのタイミングで悠人さんとアセリアさんがやって来ていたことがある。

 ユーフォリアの任務内容を彼らは知らず、今はどんな調子なのかをどうしても気にして私の元に聞きに来ていたのだが、そのタイミングで当人からの連絡。「自分一人でやる」と言っていたユーフォリア相手に、その様子を聞きに来ていた悠人さんたちを見られると、ユーフォリアは信用されていないのかと思ってしまうだろうから、と連絡が来た時悠人さんたちは全力で隠れて盗み聞きしていた。

 

 

 

「でも……あんなに笑顔で……俺たちの時と同じくらい笑顔で……こう、親として築いて来た時間と監視対象と筋つ過ごしただけの時間がほとんど一緒って……」

 

「あの少年はそれだけ、子供の扱いに慣れているんだろう」

 

「そこが謎なんですよね……」

 

「謎?」

 

「ええ」

 

 

 私は彼のことを調べてまとめた資料を思い返す。ログ領域を使用して調べ上げたので、どこで誰と知り合ったかなどの細かい部分までしっかりと理解できているにもかかわらず、彼が年下の子供と関わった機会というのは全くない……とまでは言わずとも両手の指で数えて済む程度の回数だ。しかも、それすらもほとんど関わっているとは言えないようなもの。その割に年下の扱いに慣れすぎている。

 

 

「この数日間でここまで仲良くなった可能性もありますけど、初日に聞いた話だといきなり『貴方を監視しに来ました』と言ったそうですし、当たり前に考えればもっと邪険にされてそうなものです」

 

「いや、なんでそんなことを言ったんだユーフィーは……」

 

「下手に監視の方法を教えておくと、それを意識しすぎて失敗しかねませんし。自然体で監視してくれた方が監視とはバレづらい……と思ったんですけど。まさかいきなり監視をしに来たことを暴露するとは」

 

 

 流石にそんな詳しい部分にまで未来視を使ってはいない。私が見たのは「誰も監視につけなければいつロウが彼に接触するのか」ということと、「彼に接触した場合、一番カオスにとって良い結末になる可能性が最も高い相手は誰なのか」程度。

 

 

「なっ!?」

 

 

 「監視に来た」と直球で伝えたと初めて聞いた時の衝撃を思い返しながら、お化け屋敷の中を暗視でユーフォリアたちの後を追いかけていると悠人さんがいきなり驚愕の声を上げる。その視線の先ではユーフォリアが監視対象にどこか嬉しそうに抱きついていて……

 

 

「あんのクソガキィ……! ユーフィーに抱きつかれてデレデレしてやがる……! ぶちころ……」

 

「落ち着け」

 

 

 悠人さんが暴走しそうになったところでアセリアさんがぶん殴って止める。

 

 

 ユーフォリアがいきなり出て来たお化け役に驚いて監視対象である彼に抱きつき、そのことに自分で気がついた後に顔を隠すようにしてさらに力強く抱きついていた。ただ、どう見ても嬉しそうであることには変わりなく、抱きつかれてる方も面倒臭そうな顔をしているので、デレデレしているようには見えないが。まあ、そこは親バカというやつなのだろう。

 

 

「とりあえず行きますよ」

 

 

 あの様子を見ていると、もう少し監視の体制を変えないと行けないだろうか? このままだとユーフォリアはカオスから彼個人についてもおかしくなさそうだ。


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