Fate/UMA night 作:赤兎じゃないよ
「なっ……!? う、馬が空から降って来た……だと!? 貴様、ライダーか!」
「失礼な! どこからどう見てもセイバーそのものでしょう!」
「ぐあっ……!?」
屋敷の塀の外側で、グシャっと人の肉と骨を叩き潰すようなヤッバイ音が響いていた。どう考えても、外にいた客人がお馬さんに蹴られて、ちょっとどころじゃない傷を負ったのは、その場面を見ていない士郎でも容易に想像できた。
槍兵が撤退してすぐに、サーヴァントの気配がすると屋敷の外に駆けたセイバーを名乗る馬だったが、外から聞こえて来た音に対して、下手すれば傷害事件になるんじゃ……、お隣が
そんなのを考えていたのも束の間。
「そんな……!? Aランクに相当する魔術なのに効いてないなんて!?」
「今のは良い攻撃でした。しかし! このアーサー・ペンドラゴンは対魔力Aです。私に傷を付けたければそれ以上でなければ!」
それは士郎にとっても聞き覚えのある声だった。だったら家の前で犯罪馬を作るわけにはいかないと屋敷の外に出ると。
「えっと……。だい……じょうぶ……か?」
そこには倒れ込み、脇腹を抑えて悶絶している色黒で白髪の赤い外套の人物――素人目で見ても大丈夫じゃない、すぐに治療した方が良いと思われる人物と。
「馬!? アーサー? 腕が生えてるから幻想種!? どうなってるのよ!?」
学校では見せた事の無いヒステリックな声で、困惑している遠坂凛がそこにいた。
「マスター制圧完了しました。双方、命に別状はありませんので、ご心配なく」
馬は自慢げにそう告げていたが、凛はともかく、もう一人の方が命に別状が無いのは、どう考えてもおかしい。
そんなのを直感的に感じ取ってしまったらしく。
「そう心配そうな顔をしないで下さい。
「み……峰撃ちって……」
馬の蹴りに峰撃ちがあるのかとツッコみたくなった士郎だったが、対する馬は得意げに。
「普通なら蹄の面で叩きつける様に蹴るのですが、蹄尖と呼ばれる先っちょの部分だけを当てましたから、ダメージは軽微のはずです!」
どの道、馬の脚力で蹴られたら重傷を負うはずでは……と、意見を述べたかったが馬に理屈を解いても無駄そうな気がしたので、もう無言を貫いていた。
このままでは埒が明かないので、アーチャーと呼ばれていた赤いのと遠坂凛を屋敷内に入れて、今回の顛末を聞くことになったのだが、アーチャーの方は脂汗を垂らしながら馬を警戒している。
本来なら、霊体化しても良いのだろう。しかし……、この場の馬っぽいナニカは危険生物だと感じ取ってしまったらしく、自身の主を守るために無理を押して実体化していた。
聖杯戦争、サーヴァント等々、今の自分の境遇を凛より説明されていた士郎だったが、そんな事よりも目を奪われてしまう光景が自宅の居間で繰り広げられていた。
「……一つ……聞きたいのだが……」
アーチャーは居間で凛の傍らに佇んでいる。だというのに、その声は震えてしまっている。
「ああ、お気になさらずに。私の癖の様な物ですので。はむはむ」
アーチャーの疑問に応えるように、自称アーサー馬が嬉しそうに言葉を発していた。
「良いわけがあるか! 何故、私の肩をかじっているのだ、貴様!?」
そう、凛が聖杯戦争の説明をしている間、馬さんはアーチャーの肩を咥え、ガシガシとかじりまくっていた。
「だって、貴方は赤いじゃないですか。赤いと人参みたいじゃないですか。それでかじるな……なんて、私に対する冒涜です! そちらの赤いお嬢さんでも良いのですが、戦闘態勢でもない女性に危害を加えるのは、王としてどうかと思いまして……」
「やっぱり……人参、好きなのか?」
かじられて、馬の涎まみれになっているアーチャーを尻目に士郎が恐る恐る質問を投げかけていた。
「勿論ですとも! 人参……それは憧れの食材。飼葉だけでは不満だった時もあります! 飼葉が食べれるだけ良いのですが、やはり草だけではなく野菜も食べたかったものです! あの赤いお宝を夢見たものですよ!!」
人参について力強く語っている馬に、それ以外の三人は。
やっぱり馬そのものじゃ……。
そんな視線を送ってしまっていた。
「ち、違いますよ! 私は馬ではなく、セイバーのアーサーです。ほら、人参って名前が良いじゃないですか!
どう考えても、こじつけとしか思えない馬の言い訳に一同ゲンナリしながら、聖杯戦争の監督役が住む教会へと向かって行った。
赤いと大変だなあ……。(遠い目)