Fate/UMA night   作:赤兎じゃないよ

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変装するUMA

 教会にて言峰綺礼より聖杯戦争の説明を受け、改めてこの争いに参加する事を決意した士郎だった。

 それはともかくその神父に対して、問いただしておかなければならないことが一つ。

 

「……なあ。英霊ってのは、動物もいるのか……。例えば馬とか」

 

「ふむ。まるで人の姿をしていない英霊(モノ)を召喚した様な言い方だが……。例えば、彼の征服王イスカンダルの愛馬ブケファラスも英霊の座には存在しているという。ならば、他にも人間以外の英霊がいても不思議はあるまい」

 

 神父の答えに、その上、言葉を喋って自分をアーサー王だと名乗る腕が生えている馬がいたりするのか。と追加で確認をしたかったが、あまりにも非常識過ぎる質問なので、口を噤んでしまっていた。

 隣の凛に視線を向けると、もう訳が分からないといった雰囲気で頭を抱えている。

 あの馬は聖杯戦争の常識からしても異分子過ぎるのだ。

 見た目は馬。心は(自称)アーサー王。自分の真名はばらし放題。だというのに、ランサーやアーチャーをものともしないくらい強い。

 

「衛宮君、もう行きましょう……。私も家で色々と情報を整理したいから」

 

 疲れた様な――実際外でアーチャーと一緒に待機させている馬のせいで疲労感が半端ないだろうと思われる凛からの提案に首を縦に振り、教会の外に向かうと。

 

 

 

 

 ――はむはむはむはむはむはむはむ……。ガリッ! はむはむはむはむはむはむガリガリ。はむはむはむはむはむはむはむはむ。 ガリッ!!!

 

「貴様、私の肩を食いちぎる気か!? 今のは鳴ってはいけない音だった気がするのだが!?」

 

「この草食系アーサーが肉なんて食べるわけはありませんよ。今のはちょっと顎に力が入っただけのコミュニケーションです!」

 

 外でアーチャーの肩をひたすらはむはむとかじる馬と、さっきの音は骨が折れたんじゃないかというくらいの心配をしてしまうアーチャーの姿があった。

 馬の方は士郎を見ると、アーチャーの肩に噛みつくのを止め。

 

「マスター、お話は終わりましたか? 出来れば霊体化して近くで守護すべきだとも思ったのですが、この教会は香辛料臭くて私にはキツいのです。何ですか、あの匂い? 私に何か恨みでもあるのですか!」

 

 馬は嗅覚も優れているらしいが、香辛料臭いってなんでさって士郎は問いただしたかった。しかし、そんなのをすると、また面倒な事になるのではないだろうかと、その言葉を喉元で止めている。

 

 

 そして教会からの帰り道。凛と別れようとしていたその時。

 

「――ねえ。お話は終わり?」

 

 そこには銀髪で紅い瞳の幼女と、3mはあろうかという体格の筋骨隆々の巨人と呼ぶにふさわしいサーヴァントが佇んでいた。

 数度の会話の後、幼女――イリヤスフィール・フォン・アインツベルンは貴族の様にスカートをつまみ優雅な挨拶で自己紹介をすると、次の瞬間。

 

「じゃあ殺すね。やっちゃえ、バーサーカー」

 

 バーサーカーと呼ばれていたサーヴァントにそう命じていた。

 

 普通の人間、否、魔術師であっても敵対すれば死は免れないバーサーカー。対するはよく分からない馬と、その馬さんのせいで傷を負い、全力を出せないアーチャー。

 まともに戦えばこちらが確実に負ける。それは誰の目から見ても明らかだった。

 アーチャーとランサーを圧倒したアーサー馬でさえ、単純に力負けをして後退してしまっている。アーチャーも本調子ではなく、凛の傍で弓による攻撃をしているが、まるで攻撃が効いていなかった。

 そのうち、イリヤが優越感に浸った瞳で士郎たちに視線を向け。

 

「そこにいるのはヘラクレスって魔物。あなたたち程度が使役できる英雄とは格が違う、最凶の怪物なんだから」

 

 その言葉に反応したのは一人……。といって良いか分からない、一匹の馬だった。

 

「ヘラクレス……ですか。そうですか」

 

 まるで真名が分かったので、対処の仕様があると言わんばかりの馬だった。彼はアーチャーに視線を向け。

 

「アーチャー、弓を貸してください。さっき使ってたでしょう! 早く出してください。アーチャーなんですから」

 

「!? こ、これでいいか!」

 

 アーチャーが弓を馬に向かって投げつけたその瞬間、彼の馬にその場の全員の視線が集まっていた。

 

「……茶髪で長髪の……かつ……ら?」

 

 そこには何故かは分からないが、かつらを被り弓を構えるといった奇行に走っている白馬の姿があった。

 

「な、何をやってるんだ!? っていうか、かつら……どこから出したんだ!?」

 

 士郎や凛が馬を見て固まってしまっていたが、それだけではなく。

 

「ど……どうしたの!? バーサーカー!? 何で気まずそうな雰囲気で止まっちゃったの!?」

 

 バーサーカーの主のイリヤでさえ、自身のサーヴァントの突然の停止に理解が追い付いていなかった。対する馬はアーチャーから受け取った弓を投げ捨て、今度は拳を突き出してまるで巨人と徒手空拳で戦闘するかのような、そんな構えを見せている。

 

「どうです? これがウマクラチオンです。続きをしましょう、バーサーカー!」

 

 『ウマクラチオン』ってなんだ!? とその場の全員が心の中でツッコんでいたが、バーサーカーのみ小刻みに震えながら、戦う意志は無いとばかりに霊体化してしまい、それを見たイリヤはオロオロしながら。

 

「きょ、今日のところはここまでにしておくわ! 次にあったら絶対に殺してやるんだから!」

 

 まるで悪役の捨て台詞の様な言葉を吐いて、足早に立ち去って行った。

 

「マスター、どうやら敵は撤退した様です。追撃は?」

 

「い……いや、それは良いけど……その格好……」

 

 馬は真面目に戦っていたつもりらしく、キリッとした表情で士郎に提案をしていたが、それよりも気になるのは何でかつらをかぶったのかという事だ。

 

「これですか? 私の直感によると、こうすればいいと思い浮かんだもので、実行に移したのですが?」

 

 茶髪で長髪のかつらを被ってヘラクレスを撃退。どういう理屈だと全員が首を傾げていた。すると凛がハッとした顔をして。

 

「そういえば……、ヘラクレスの師でもあるケンタウロス族の大賢者のケイローンって、ヘラクレスのヒュドラの毒矢で誤射されて、それが死因になったって話があった気がするわ……」

 

「ケンタウロスって……半人半馬の……か?」

 

 それに頷く凛だったが、すかさず馬から。

 

「おそらく……狂戦士(バーサーカー)のクラスで現界しているので、認識能力が落ちていたのでしょう」

 

 そんな想像を巡らせていたが、それ以外は。

 

 腕は生えてるけど、かつらを被った馬をケイローンと見間違えるなんて……。もしかして、ケイローンは顔が馬に似ていたのか!?

 

 一部の聖杯戦争関係者で、『ケイローン馬面説』が誕生した瞬間だった。




ケイローン「解せぬ」
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