Fate/UMA night 作:赤兎じゃないよ
「セイバー、俺はマスターを降りる」
教会で聖杯戦争の概要を知り、衛宮士郎の下した決断はそれだった。お馬さんは、驚くわけでもなく真っ直ぐに士郎を見詰め。
「――シロウ。一度だけ聞きます。マスターを降りるという意志は変わりませんか?」
「俺は殺し合いをする気はない」
士郎も相応の覚悟の上で、セイバー馬に対してその言葉を告げた。すると馬は途端に泣き出しそうな顔をして。
「シロウ……、マスター!? ほんとにほんとにほんとにほんとにほんとにマスターを降りるのですか!? 私、ランサーもアーチャーも倒しましたよ! この超強いセイバーなら聖杯戦争勝ち抜いて聖杯ゲットも夢じゃありません! シロウでしたら私のこの毛を好き放題モフっても構いません。私を好きに出来るのですよ!? お願いですからマスターを降りないで下さい!!」
途中から何を口走っているのか分からないが、士郎に対してマスターを降りないでくれと
「い……いや……そうじゃなくて、セイバーだって俺みたいな半人前より、真っ当なマスターと契約した方がいいだろ? なっ?」
オロオロしながらお馬さんを慰めている士郎だったが、馬はヒヒーンと鳴きながら泣き止む気配が全くない。
「例えば遠坂とかと契約すれば、セイバーだって十分に力を発揮できるだろう? 赤いのだって大好きだし……」
どうにかこうにか馬の説得を続けていた士郎だったが、不意に周りの景色がスローモーションで動いている様な錯覚に襲われた。
――死を目前にして、脳が通常よりも活発に活動して、その死を免れようとしている。その他には馬の悲痛な叫びが聞こえる。
「シロウの……」
その声と共に馬は後ろ脚を士郎へと向けて、その尋常ならざる速度で駆ける事が可能な筋力と魔力放出を合わせた後ろ足蹴りを彼へと叩き込もうとしている。
「馬鹿あああああああああああ!!!」
「がぁっ……!?」
どてっ腹に直撃したその蹴りは衛宮士郎の筋肉と内臓を一瞬にして粗挽き肉に変え、蹴られた士郎は教会までふっ飛ばされ。
「え、衛宮士郎……。教会に保護を求めるのならば、玄関から入ってきたまえ。修理費用も馬鹿にならん……。んっ……?」
言峰は自分の頭に直撃しようとしていた士郎を拳で迎撃して、床に置いた後で注意を促そうとしていた……。その拳から放たれた一撃は背骨を砕くような音が聞こえていたが、それは無視し。
「既にこと切れていたか……。仕方あるまい、後で埋葬くらいはしておこう。安らかに眠れ」
士郎の惨状を目の当たりにし、十字を切って彼の冥福を祈っていた。
馬に蹴り飛ばされ、一瞬で意識が彼方へと逝ってしまった士郎が次に目を開けて目の当たりにしたのは、自宅の道場によく似た風景と。
「ああ……。Fate本編を上回る最速バッドエンドとは! 士郎、お姉ちゃん悲しいぞ? こんな子に育てた覚えはないのに!」
虎竹刀を持ち、剣道着を纏っている藤村大河と。
「私のポップでキュートなジェノサイドの出番がなくなっちゃったー!? 多分、あっちの私はバーサーカーと一緒に待ちくたびれてるわよ!? どうしてくれるの!?」
長い銀髪で紅い眼の少女が体操着にブルマを着て、自分の出番が取られたとばかりに涙目になっている。
対する士郎は何故か二人の前に正座されられていた。しかし、この場にいたのはそれだけではなく。
「シロウ、あれであの仔は繊細なのです。どこでどうなって、あんなにはっちゃけたのかは分かりませんが、泣かせてはいけませんよ?」
金髪を編み込んだ髪型に、深緑の瞳。ぱっと見では十五歳程度の少女が、指を立てながらメッと士郎に注意を促している。
「分かりましたか? でしたら指切りをしましょう」
彼女の提案で小指と小指を合わせて指切りをしていると。
「ゆびきりげんまん♪ 嘘ついたら
優し気な雰囲気にもかかわらず、針千本飲ますよりヤバい発言が聞こえて来たので、思わず脂汗を垂らしてしまった士郎だった。
それだけならばまだ良かったが、士郎は彼女の姿を直視できなかった。何故なら……。
「弟子二号、何だその格好は!? この神聖な道場で水着とは! あざといにも程がある! 着替えて来なさい!!」
「これは私の戦闘スタイルの一種です。武器だってちゃんと持っています。大体、本来の姿でしたら、私の正体がバレバレじゃないですか!」
弟子二号と呼ばれた金髪の娘は水着姿の他に、水鉄砲らしき物を持ち、それには神造兵装っぽい黄金の剣が括り付けられている。
「その剣を見せてる時点で、正体なんてバレてると思うけど……」
「大丈夫です! 今の私はセイバーではなくアーチャー。主武装はこの水鉄砲ですから。剣も使いますが、弓を使わないアーチャーなんて珍しくはないですし、気にしないで下さい」
ロリブルマの方はツッコミどころ満載の弟子二号に物申していたが、そんな物はどこ吹く風といった水着少女だった。
そうこうしているうちに、道場の外から鎧を纏った人間が歩いて来るようなガシャガシャといった音が聞こえ。
「タイガー道場というのはここで良いのか? この場もあの時間神殿と同じく時間の外にあるとは……」
「し、師しょー!? 大人な弟子二号が現れました! どう対処すれば良いですか!? しかも最果てっぽい槍まで持ってます!」
弟子一号――イリヤが突然の来訪者に驚きを隠せなかったが、その人物はアーチャーを名乗る少女をそのまま大人にしたような、それでいてボンッキュボンのスタイル抜群で上乳が少しばかり見えている美女が士郎へと詰め寄っている。
「貴様があの
子供をあやすような注意の水着の方とは違い、大人な雰囲気で説教をしてくる美女に対して思わずうんうんと頷いてしまう士郎だった。
しかし、それに心中穏やかではないのが二名程。
「み、水着なセイバーちゃんだけならともかく、大人なセイバーちゃんがタイガー道場を訪れるなんて!? 最近のFateはどうなっているの!? 他の違うバリエーションのセイバーちゃん来たりしたら、タイガー道場の危機よ!? タイガー道場がアルトリア道場になっちゃうわ!」
「し……、師しょー、こうなったら私達も別バリエーションで対抗するしかないと思います!」
藤村大河とイリヤは士郎がバッドエンドになった後の自分達のポジションが危ういと、アルトリアたちに対抗する算段を道場の隅で相談している。
「弟子一号、ちなみにそちらはどんなバリエーションがあるの?」
「魔法少女と、赤いアーチャーをインストールしたもう一人の私と……、最近だと複合神性のアルターエゴもいるはず……」
意外に多い弟子一号バリエーションだが、もう一方の大河は顎に手を当て、ふうむと唸りながら。
「私は……、ジャガーと……小学校教諭?」
「師しょー、小学校教諭は完全に脇役……。い、痛いです、師しょー……」
イリヤのツッコミに思わず虎竹刀を振り下ろしてしまった大河だが、まだ情報を整理しなければならず。
「それと……セイバーちゃんのバリエーションは?」
「今いる水着と大人の他に、オルタのセイバーとランサー。サンタオルタ、水着オルタ。謎のヒロインXとXオルタ、水着のフォーリナー。顔が似てるのは……、薔薇の皇帝と新選組の一番隊隊長です!」
その答えに顔面蒼白になってしまった大河だった。
「緊急緊急! 圧倒的物量差よ!? こうなったら仕方ないわ……。この看板を入り口に立てましょう!」
大河がどこからか取り出した看板にはこう書かれていた。
『タイガー道場は一回でアルトリア二人までとします。これを破ったら出入り禁止です。というかアルトリア顔が多すぎ。大河を増やせ』
「こ、これで安心だわ……。Fateの真のヒロインたるこの私の領域をは守られた……」
「私はもうスピンオフで
イリヤの何気ない一言に大河が鋭い視線を向け、それでいて羨ましそうに。
「Fateの日常の象徴たる私は……”衛宮さんちの今日のごはん”のヒロインにぴったりな筈なのに!? 今日の藤ねえの弁当コーナーとか、本日の藤ねえのおつまみコーナーとか! そんな一幕があったって良いじゃない!!」
大河が自分が主の筈の道場の隅っこで吠えているのだが、バッドエンド救済のために訪れている
「あの仔も悪気があったわけではないのです。ちょっとじゃれた様なものだと思って、寛大な心で許してあげてください」
「むしろ、あの名馬の一撃を体で受けて、どれほどの実力かが分かっただろう? あの馬と共に戦場を駆ける栄誉を誇らしく思うがいい。あやつの背は中々心地いいぞ? 一度乗ってみるのを勧めるが」
二人のアルトリア――しかも聖剣と聖槍を携えている両名から逃げ出す事すら出来ない状態のまま、ひたすら彼女達の説得を聞き続けていた。それに対して、大河がハッと我に返り。
「士郎! 今回はいわば士道不覚悟。背中を見せたら切腹よ……的な選択肢が招いたバッドエンドだから、違う方を選びなさい。そうすれば先に進めるから! というか、セイバーちゃん、特に大きい方はもう帰れ! ここはタイガー道場よ! 過分なアルトリア分はこの私が許さない!」
そうして、士郎は現実へ。ランサーの方のアルトリアは大河に背中を押されて、道場の外へと叩き出されてしまった。
セイバー、水着で弟子二号として爆☆誕!