Fate/UMA night 作:赤兎じゃないよ
バーサーカーとの戦闘を経て、彼の大英雄ヘラクレスに対抗するために、一時的に同盟を結ぶことになった士郎と凛だった。
前回の戦闘では、白馬のセイバーがケイローンに変装して、ヘラクレスの動揺を誘い彼を撤退させてどうにかしたが、毎回そんな奇策が通じるはずもない。
次にはお互いの全力を以って打倒しなければ生き残れない相手だからこその選択だった。
その際、凛が衛宮家に下宿するといった話で、藤村大河と一悶着あったりもしたのだが……。
その他には――
「士郎、士郎!? 何で……家の庭に馬がいるの!?」
確かに大河の言いたい事は分かる。馬は馬であまり霊体化したがらないのだ。曰く――
「だって、霊体化すると草が食べれないじゃないですか? 草むしり替わりだと思っていて下さい。もぐもぐごっくん」
との事だった。それよりも、腕が生えている馬を見てどうとも思わないのかと、そちらをツッコみたかった士郎だった。
「はえー。このお馬さん、良い毛並みねえ……。士郎、この馬どうしたの?」
「ふ……藤ねえ、それだけなのか? もっと……こう」
馬の背中を撫でながら、サラサラした毛並みに感心している大河を尻目に士郎は困惑の色を隠しきれていなかった。
「それよりもどうしたのよ!? いつから馬を飼うようになったのよ!? 私に相談も無しで!」
「そ、それが……、こないだ親父の遺言が見つかって、実は馬を買って、他所に預かって貰ってたから引き取ってくれって……」
士郎からすれば苦しい言い訳ではあったが、とりあえず養父の名を出して説得すると。
「切嗣さんの? うーん、あの人ならあり得なくはない気がするけど……。いきなり馬ってどうなのよ? 餌代だってかかるでしょ?」
現在進行形で草を食べているが、実は餌代なんてかからないサーヴァントな馬なんだとは説明できずにいた。すると、馬の方から大河に顔を近づけ、頬ずりをしてから彼女の目をジッと見つめていた。
――ぼく、悪いお馬さんじゃないよ? ここにいても良いよね? 良いでしょ? ぼく、ここにいたい!
そんな透き通った眼差しのキラキラとした瞳で、そう訴えかけている様に思えた。すると大河は後ずさってしまい。
「良いわ! ずっとここにいなさい! 何だったら、家の草だって食べに来ると良いわ!」
……と、草食動物の馬に完全敗北してしまった肉食動物の様な名前の女性だった。
それよりも士郎には、先程から気になる事が一つだけあり。
「……なあ、何で藤ねえは……お前を普通の馬にしか見えてないんだ?」
「失礼な。私はアーサーです! 馬じゃありません。まあ……これはとある魔術師が絡んでいまして……」
腕が生えている、一見すると
「ええ……、その魔術師は一言で言うと、とんでもないロクデナシのトラブルメーカーでした。私が王になる前の修業の旅にも同伴していましたが、ヤツのせいであの娘とその義兄がどれほどの苦労に見舞われたか……。目の前に現れたら、”マーリン死すべしヒヒーン!”と言って、蹴りをかますところです!」
「そ……そうなのか……。その魔術師がどうしたんだ?」
そこから馬は感慨深そうに。
「そのロクデナシは言いました。もしキミが英霊に昇華されて、あまつさえ馬っぽいナニカとして召喚されるかもしれない。その時の為に誤魔化しの魔術をかけよう。一般人にはキミの正体が分からないように。キミの場合、アガートラムとかいらないはずだから、それだけにしておこう。というか……、それを持たせても面白そう……、いや、周囲が大惨事になりそうだからね」
士郎はただ静かに聞き入っている。セリフだけで、とんでもない迷惑な人物なのは何となく想像できたが、馬は続けて。
「……そう告げて、あの史上最大の詐欺師は私に魔術を掛けました。……と、いうわけで私はこの場で霊体化しなくても普通に過ごせているのです」
途中で出て来たアガートラムってなんだ!? とか問いただしたくなったが、聞くと長話になりそうなのでそこは知らない振りをしていた。すると……。
「ほーら、お馬さん! 人参沢山持ってきたわよ! 丁度頂き物があったから良かったわ。たーんと食べななさい!」
いつの間にかいなくなってた大河が腕一杯の人参を馬に差し出すと。
「こ、これは夢ですか!? 夢じゃないですよね!? 人参をお腹いっぱい食べれるなんて、ここはもしかして
今、普通に言葉喋ってたよな!? 大丈夫なのか、それ!?
……と、士郎は動揺した表情を見せていたが。
「あら! お馬さんもヒヒーンって鳴いて大喜びね。まだ沢山あるから好きなだけ食べなさい」
どうやら誤魔化しの魔術によって、馬の発した言葉も鳴き声に変換されているらしい。それが分かり、ホッと胸を撫でおろす士郎であった。
フォウ「自分のセリフ取られたフォウ」