パイロット という役職をご存知だろうか。軍、民間問わず航空機のパイロット、ヘリコプターのパイロット...空を飛び、子供たちの羨望の的になる輝かしい役職。悲しいことにこの世界ではそんな平和で有り触れていて生易しいものがパイロットと呼ばれる存在ではない。
人体改造、薬物投与、如何なる手段を問わず自らの肉体を鍛え上げ、泥沼化していく戦場を蹂躙するために考え出された最強の
味方の一般兵へは希望を、敵の兵士には絶望を与える存在だった。
しかし、IMCとミリシアの星系規模で激化、泥沼化していく宇宙戦争の中でパイロットの立ち位置は大きく変わっていってしまった。最初はお互いの勢力専属のパイロットとして存在していたパイロットだが、その実態はお世辞にも高待遇とは呼べる状況ではなかった。激化する戦争の中、次々と捨て駒にされ、命を散らしていくパイロット達...彼らが納得できるはずも無かった。戦場でパイロットでいるための証明書---[全戦闘証明書]を得るために参加人数の9割が死亡するとも言われている試験に身を投じ、文字通り命がけの試験を乗り越えた強者たちですらあっさりと見殺しにする---彼らには、耐えられるはずも無かった。我慢に我慢を続けたが彼らだって自分の体が大事だ。結果として、IMC、ミリシア両勢力共にパイロット達は多数離反していった。そんな彼らは次の職に困ってしまった。当然である。彼らは戦うこと以外の生き方を知らない。そんな中、一部のパイロット同士が集まり、次の職業についての話をし始めた。最初はやれ平和な職業だの、デスクワークなど一般市民と同じ仕事をしよう。などと抜けた考えがぽんぽんと出てきた。しかしながら、彼らは誰しもが心の中で一つの結論を見出していた。「結局、自分たちは戦場でしか生きていけない。」と
そんなことは分かりきっていた。肉体を改造し、薬を投与した己の肉体がほかの一般人とは違うことなんて、分かりきっていた。ふとした拍子にに人を傷つけてしまうかもしれない。第一、そんな選択肢を選んだら自分たちに後を託して逝った戦友たちへの冒涜となってしまう。平和な仕事をするという選択肢を選び、のんきに過ごしている元パイロット達も決して少なくは無いが、IMC、ミリシア問わず元パイロット達が考え付いたのは一つだった。自分たちの元勢力のお抱えの傭兵になること。---結局、彼らの居場所は戦場以外は有り得なかったのだ。彼らが傭兵になることは、IMC、ミリシア両勢力の上層部の頭を抱えさせた。今まで捨て駒扱いにし、戦局が不利になれば彼らを囮にしてしまえば勝手に時間稼ぎをしてくれる都合のいい存在だったものがいきなり離反、その時点で被害が甚大だったのをかんがえもせうずに
「お前ら専属の傭兵になってやる。任務は確実に遂行してやるし、命令には従ってやる。でも報酬大量にもらうぜ。あまりにも無茶な作戦だったら参加しないぜ。よろしくな」なんていきなり言われたら頭を抱えるほか無い。離反したくせに何でそんな態度が大きいだの傭兵の癖に生意気だ。などと意見が上層部の中では交わされたが、何の因果か、上層部が出した答えも一つだった。---彼らを雇うこと。それ以外に道は無かった。日々泥沼化していく未開拓の惑星で勃発する資源をめぐる戦闘行為...その戦局を覆すためには、どうしてもパイロットが必要だった。確かに今も彼らはパイロットを多く抱えていた。しかしその実態はほとんどが戦場に出ていない新人パイロットであり、囮にもならない無能...そう上層部は認識していた。事実離反したパイロット達は全員フロンティアでも屈指の実力を誇るパイロットだった。だからこそ余計選択肢が絞られていき---彼らを雇うことを決断した。そうして彼らを新たに傭兵として向かえた世界は、再び泥沼の戦場へと歩みを進めていく。
■■■
パイロットの存在を語る上で「タイタン」と呼ばれる鋼鉄の巨人も忘れていてはならない。最初は軍事用外骨格の延長線上---かとは言っても兵器としてではなく、フロンティアで生活を送る上でどうしても重労働になる貨物の運搬、この先に人が住めるのか、危険な生物などがいないか---フロンティアの発展を補助し、人類を新たな世界へ歩ませ、守るための機体だった。その、はずだった。最初に軍の作戦で用いたのはミリシア側だった。IMCに反発し、海賊、盗賊なんでもござれの混合団体であるミリシア側は当初はかなり劣勢だった。フロンティアの治安維持および生産活動の補助などと都合のいい言葉を掲げフロンティアの市民を弾圧していたとはいえ、腐っても治安維持要員であったIMCの兵士たちはミリシアの兵士と比較すると比べ物にならないくらい錬度の差があった。最初はミリシアの反抗をいとも容易く鎮圧できていたが---ミリシアは禁忌に手を伸ばした。タイタンの軍事転用である。タイタンは最初からある程度の武装を持っていた。原生生物を鎮圧するために装填数20発、20mmの大口径弾を使用するXO-14と呼ばれる
■■■
---武装蜂起したミリシアの農場の制圧作戦。それが今回の自分たちの任務の内容だった。あまりにも拍子抜けした内容だった。特に脅威になりそうな元IMCの軍人崩れも居らず傭兵もいない。ただのミリシアの弱小兵士がIMCの保護地域にある大規模農場を占拠、防衛線を張っているらしい。気が付けば自分は苦笑いをこぼしていた。---アホの鏡じゃないか。何がしたいんだミリシアの上層部は...そう一人心の中で考える。そうしている間にブリーフィングは終わりに差し掛かろうとしていた。豊かな髭がトレードマークのこの地域の司令官が、死ぬんじゃあないぞ。と何度も念を押してくる。---冗談じゃない。俺たちは誇り高いIMCの兵士だ。ミリシアの弱小に負けるわけが無い。そう考えていた。さっさと装甲車に乗り込み、テロリスト共を殲滅させて仕事を終わらせるか。帰ったら酒だ酒。なんて気楽に考えていたが...その認識は大きく覆されることになる。
その日の夜も更けたころ---俺たちは基地から出発。敵方は30名あまりしかいないということが事前の偵察で判明しているので、歩兵五十名ほどの戦力で容易く鎮圧できると判断。10名1分隊とし、分隊一つごとにコールサイン「ヘイメイカー1」「ウォーハンマー2」「ディシプル3」「シュープリス4」「オニキス5」と名づけ、各々が分隊ごとに装甲車に登場する大編成である。過剰戦力過ぎやしないか。とも思ったが心配性な司令のことだ、大方俺たちが死なないように多めに兵力を投入するのだろう。全く世話焼きなおっさんだなぁ...帰ったらウィスキーでも奢ってあげよう...そんな他愛ないことを考えながらただただ揺られていく。二時間近く移動したころであろうか、装甲車が停止した。もうすぐあのテロリストどもを殺せるとと思うとおもわずにやけてしまう。精神の昂ぶりが抑えられない...今すぐにでも飛び出してしまいそうな気分になるがぐっと堪える。一人で突っ込んでも無様に死ぬだけなのは分かっている。何とかして心を落ち着かせつつ、分隊長の野太い声で出されている命令を聞く
。
「全員聞いているな!今回の作戦はミリシアに制圧された大規模農場の解放、及びミリシア兵の殲滅だ!」
---そんなことは分かりきっている。他の情報は無いのか。
「また、今回ミリシアに制圧された農場はタイタンが置いてあると聞いている!万が一の可能性に備え、司令が航空部隊を配備してくださった!コールサインは『ダッシュ2』だ!いざという時には航空攻撃を要請しろ!」
---馬鹿な...タイタンはフロンティアの発展のための希望だぞ。そんなものを軍事行動に使うなんてことは有り得ないだろう...みんなも同じ気持ちなのか、車内で笑いが広がる。本当に頭おかしいんじゃないか?ミリシアのヤツら...
『その様子だと大丈夫そうだな!総員下車!作戦を開始しろ!死ぬんじゃあないぞ!」
装甲車のハッチが開いていく。ああ、楽しい楽しい仕事の時間だ。本当にこの仕事は楽しませてくれる。
■■■
農場周辺で下車した俺たちは分隊ごとにそれぞれの方角に別れた。一気に一点突破するのも面白いが、それだけでは包囲されて全滅する。賢明な判断だと思う。俺たちの分隊は北側の大規模な麦畑から侵入し、射撃位置に付いた。分隊長が無線を取り、各分隊に連絡を取っている。
---ああ、もうすぐだ。もうすぐ戦いが始まる。楽しみだ。顔がにやりと歪んでいくのが止められない...
「こちらヘイメイカー、位置に付いた。敵兵を十名ほど確認している。他のチームは状況報告を。オーバー」
「こちらウォーハンマー...規定の射撃位置に付いたが、敵が見えない。オーバー」
---いない?まさかとは思うが、ミリシアのヤツら中央のあの馬鹿でかい倉庫みたいな建物で防衛しようとしているのか?背の高い麦畑のほうだけ監視を配置して他は中に篭城とは...何たる愚策。昂ぶっていた気分がさめてきた。
「こちらディシプル3、駄目だ、こっちも人っ子一人居やしねえ。オーバー」
「駄目です!シュープリスも見えません!」
「こちらオニキス、あー敵兵を3名ほど確認...クソしてやがる。あいつら頭本気で大丈夫か?」
---えぇ...(ドン引き)あいつら自分が何をしているのか分かっているのか?本気で冷めてきた。帰りたい...
「了解した。合図とともにヘイメイカーとオニキスは射撃を開始。他のチームは中央の建物に進撃せよ。アウト」
無線を仕舞いつつ分隊長が擲弾筒に照明弾を装填...発射した。
「総員!撃ち方始め!」
その声が聞こえるよりも先に、自分は手に持っている自動小銃を撃ってしまっていた。いつもなら指示があるまでは撃たないが、今回は話が違う。面倒なのだ。冷め切った私の心には帰りたい。という気持ちがいっぱいであった。そんな状況でも私が撃った弾丸は唸りをあげて敵兵の頭に吸い込まれ...花を咲かせた。私はさらに撃ち続ける。その一発一発が必殺の弾丸であり、敵兵の命を一人、また一人と刈り取っていく。さながら死神じゃないか。そんなことを一人心の中で考えてしまうほどに私の心は冷え切っていた。
「敵兵の殲滅を確認。総員中央の建物に進軍せよ。」
とりあえず指示に従い体を前へと歩ませる。早く殺して帰ろう。本当に面倒だ。
中央の建物まではそれなりに距離があった。800mほどであろうか。そこまでに敵兵士とかいないかなぁ...なんて考えながらも体を前に歩ませる。---そんな中だった。緊迫した無線が届いたのは。
「こちらシュープリス4-6!敵がタイタンを起動!繰り返す!敵がタイタンを起動ーッ!先に侵入した味方部隊は全滅!シュープリス・リーダーも死亡した!オニキスチーム!ヘイメイカーチーム!頼むから早く来てくれ!」
---嘘だ、と最初は思ってしまった。タイタンはフロンティアの発展を助けるものじゃなかったのか?こんな薄汚い軍事行動に使うものじゃないだろう?心の中でそんな考えがぐるぐると回っていく。混乱がとまらない...その混乱をとめてくれたのは、分隊長だった。
「いいか!全員よく聞け!こんなところで混乱して居ても仕方が無い!とにかく移動だ!シュープリス4を救出するぞ!
---了解!と、分隊員が威勢良く返す。走りながら、分隊長は指示を出していた。
「オニキスチーム!お前らは北側のほうへぐるっと回ってきてくれ!その後位置に付いたら連絡してくれ!頼むぞ!」
「いいかシュープリス4-6!お前らはできる限り中央の建物から離れるんだ!出来るな!」
「駄目です!こちらはコンクリート塀に隠れられているため無事ですが、ここから動いたら間違いなく死にます!釘付けにされて動けないです!」
---絶望的な声が帰ってくる。これはどうしようもないのでは...だが、分隊長は違った。笑っていた。そのいかつい顔をぐにゃりと歪めて。
「分かった。お前らは大体今倉庫からどのくらい離れている?」
「200mほどです!」
「方角は?」
「西側です!」
「よし、しばらく頭抱えて震えていろ。絶対に塀から出るなよ!」
---さすがに分からないので分隊長に質問した。何をするつもりなのでしょうかと、そしたらこう返答された。東から西に抜ける形で航空攻撃を実施するんだよ。分からんわけではないだろう?と。私でもさすがにその考えは浮かばなかった。味方に被害が出そうではあるが、これが最善策であるのは間違いが無かった。分隊長が無線機に向けて何か言っている。大方航空攻撃の実施連絡であろう。本当に大丈夫なんだろうな?不安だが、彼の指示に従うほか無かった。
数分後、あまりにもあっけなく決着は付いた。低高度で戦闘機が進入し、無誘導爆弾の発展型、JDAMを投下、駄目押しといわんばかりに機銃掃射を実施。私たちが中央に到着、シュープリス・チームを救出したときに崩落した倉庫を見てみたが...航空攻撃とは恐ろしいものだ。テロリストどもはぐっちゃぐちゃの肉の塊になっていた。同時に我々の仲間たちの命をいとも容易く刈り取った巨人の残骸を見る...驚いたことに、まだ原形を保っていた。さすがの私でも目を見張る。あれだけの攻撃を受けてもなお、原形をとどめているとは。今回のは民製品だったからよかったものの、これが正式に軍事転用され、もっと頑丈になっていたら戸思うと...ニヤつきがとまらない。まだまだこの戦争は楽しませてくれそうだ。
■■■
これが後に「アーキアル農場事件」と呼ばれる事件に参加した一般兵の手記である。この事件では航空攻撃が成功したために死者が26名ですんだため被害が浅かったが、タイタンを軍事行動に利用したこの事件は大きな反響を呼んだ。IMC、ミリシアともにタイタンの軍事転用を推し進めていき---今も続く、タイタン戦争の始まりのきっかけになった。そうしてタイタンの軍事転用が始まって十余年。当初より勢いの弱まったIMCの勢力範囲内である惑星タイフォン。そこでついにIMCとミリシアの存亡を賭けた一大決戦が始まった。