猟犬の首輪   作:ノムリ

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グレンデルの少女

「~~っ!難しいよ!シアン!」

「違う違う、そうじゃない。腕で衝撃を緩和してたら腕を痛めるだろ。全身で衝撃を緩和するように撃つんだよ」

 

 射撃レーンに立ち。拳銃の練習をしている理子の間違った姿勢を正してやる。

 理子が使っているのはワルサーP99。稀に耐久性に問題がある欠陥品が売られる事があるが、銃を買ったイ・ウーに出入りしている武器商人のココに通常の1.5倍の値段を払っていいやつを売ってもらった。

 

 弾倉を切り替えて、発砲していく理子。 

 ブラドとの闘いは俺の勝利で幕を下ろし、理子は俺の庇護下に入ることでブラドから守られている状態にある。

 イ・ウーに正式に加入した理子は、まともな衣、食、住が与えられ。人並の生活を送っている。問題があるとしたら、イ・ウーに居た夾竹桃という奴のせいで、理子がオタクとなったくらいか。

 

「見て、見てよ!当たったよ!」

「これが俺と同い年か。理子が小さいのか、俺がデカいのか」

シャーロックが言うには俺と理子は同い年らしいが、まともな食事を与えられなかった理子はスラム育ちの俺より背は低い。

 ねぇ、ねぇ、服を引っ張り構ってもらえない事に不安を感じている理子の頭に手を乗せる。

 理子は、頭を傾け、疑問符を浮かべている。

「なに?」

「十字架の金属の事は誰にも話すなよ。ピンチの時以外は絶対に使うな、基本はナイフと銃で対処しろ」

 わかった、と頷く理子。

 理子のもっていた親の形見の十字架についたいて蒼色の金属は色金と言い、超能力を所有者に与える力があるそうだ。シャーロックに直接聞いたから、確かな情報だろう。

 

「そんじゃ、次はナイフだな」

「理子、ナイフは苦手だよ」

「まあ、普通に使える位になればいいよ。自分にとって何が必要で、何が必要じゃないか。何が得意なのか、何が不得意なのか。自分で自分を見極めておくといいぞ」

 

 

 

 

@@@

 

 

 理子がイ・ウーに所属して数年。

 シアンが仕事でイ・ウーの移動基地である原子力潜水艦ボストーク号にはおらず、理子、ジャンヌ、夾竹桃の三名によってプチ女子会が開かれていた。

 

「ねぇ、二人はシアンと仲いいの。」

「急にどうしたの理子。仲が良いのは貴方でしょ、一緒の布団で寝てることもあるじゃない」

 黒髪のストレートに黒いセーラー服、左手には白い手袋をつけて、煙管を口に咥えている夾竹桃が、理子にそう返した。

 そうなのか!と一人銀髪を高い位置でポニーテールにしているジャンヌ・ダルクの子孫、ジャンヌは驚いているが二人には無視され、話が進んでいた。

「それはさ、理子が寂しくなったり、勝手に潜り込んでるだけだよ。シアンは自分の事話してくれないから二人は理子より付き合い長いでしょ」

 理子は膝を抱えて、憧れであり、同時に異性として好意を寄せる人物の事を少ししか知らない事を、少しばかり思うところがあった。

 

「そうね。私が知っていることは、シアンがスラム出身という事かしら」

「そうなの!」

「それは、私も初耳だ」

「スラムで盗みをしながら、ナイフの使い方を我流で学習してその後は安い金で殺し屋をしていたそうよ。だから戦う時は銃より愛用のマチェットか素手が多いでしょ。あとは、その名残なのか毒にも強いし、食べ物を無駄にすると怒るくらいかしら。それにお金の無駄遣いも嫌みたいね、報酬の大半は貯金しているそうよ」

 机に置いてあった紅茶を口に運びながら話を区切った夾竹桃。

 

「確かに模擬戦の時はマチェットかナイフを使っている事が多いな。二刀のマチェットは相手にするのが厄介だからよく覚えているぞ。だが、理子の服の大半はシアンが買ったではなかったか?」

「うん、銃もナイフもそうだよ。服以外にも靴とかも」

「それは、大事にされているってことでしょ」

 理子は大事にされているという言葉に顔を赤くしていた。

  

 夾竹桃のシアン情報が終わり、必然的にジャンヌの番へと移った。

「次は私か。私が知っている事か…あいつに部下が居る程度か」

「「部下?」」

 理子と夾竹桃は初めての情報に同時に聞き返してしまった。

 

「ああ、セーラや私と同様に英雄や戦士の子孫や忍者、軍人、暗殺者など多くの部下が居るらしい。詳しくは知らないがな」

 新しい情報は部下について。

 それも偉人の子孫の部下。イ・ウーでは理子やジャンヌ、セーラなどは勿論。ジェヴォーダンの獣の血を引くリサ・アヴェ・デュ・アンクのような特異な存在もいる。

「それは誰から聞いたのジャンヌ」

「リサが言っていた。どうもリサの知り合いにベオウルフの物語に出てくるグレンデルの血を引く少女が居て、シアン経由で友人になったと言っていた」

 この際、グレンデルの血を引いてるという情報は置いておくとして、シアンの部下が少女であるという事が問題だ。

 好意を抱いている人の傍に顔も名前も知らない女が居れば嫉妬するのは必然であり、シアンに心酔している理子ならば常人の抱く嫉妬より一層、濃度の濃い嫉妬を抱くことだろう、と夾竹桃とジャンヌは考えていたが予想に反してはそんな事はないようだ。

 

「そっか、シアンにも背中を任せられる部下がいるんだ」

 そう静かに口にした理子。

 その顔はまさに恋する乙女の顔だ、と夾竹桃とジャンヌは口には出さなかったがそう思った。

 

 

@@@

 

 

「へっくしゅ!」

「シアン、風邪?」

 

 ビルの屋上の端っこに座りながらビルの最上階に陣取っているマフィアの為だ。

 

 横に居るのは、同時刻別の場所で件の会話に出ていたグレンデルの血筋の少女―――リュカ・アーデル。

 濃い茶髪にキリっとした目尻、金色の瞳と首に付けたピンク色の首輪、両手に専用の爪が仕込まれて籠手に腕を通りながら俺の心配をしてきた。

 

「風邪はないだろ」

「だよね~♪そんな厚着してるんだし」

 半袖の上からノースリーブのジャケットにハーフパンツにミリタリーブーツ、という冬にはたって寒そうな服に対して俺は、口元まで隠すくらい高い襟の防弾性の黒のマウンテンパーカーと昔ながらの多機能ゴーグル。

 

「お前は薄着すぎないか。いくら冬国生まれって言っても限度があるだろ」

 薄着というより、腕は肩から指先まで丸見え。ブーツも長いとはいえ防寒対策なんてしていない。着用している本人よりも見ているこっちの方が冷えてくる。

 

「大丈夫だよ。仕事着は今、発注してるから。これは私の私服だしね♪」

 ニシシ、と尖った犬歯を見せながら笑うリュカ。

 いつ見ても太陽のようにま眩しい笑顔だ。

 

「さて、仕事を始めようか」

「ん~、りょうか~い!」

 そう言いながら、体操をしてストレッチをん~、と少しとヒョコ!と頭から獣の耳とお尻に当たりから獣の尻尾が出てきた

 っふ、と目を離すと数秒前に居た立ち位置にリュカの姿はなくなっていた。下からいっちば~ん!、と大声が聞こえてくるから恐らくは飛び降りたのだろう。対した問題じゃない、リュカには、とうよりグレンデルの血の力なのか。”闇にに紛れる”という能力を所持しているからだ。

 

 ブラドの娘のヒルダも地面や壁を移動したりできるが、あれは超能力だ。恐らくは此方も超能力なのだが実体はさっぱりだし、リュカに聞いても感覚で行っているらしく。こーやって暗闇を泳いでるような感じだよ、と説明をしてくれた。

 

「元気なこって」

 俺も屋上にあった鉄柱にワイヤーを結び付け、ビルの壁を伝いながら最上階の部屋に繋がっている窓まで近づいてく。中を覗くと、男たちは酒盛りをしているようだ。ワインやビールをラッパ飲みしながらゲラゲラと笑っている姿が見える。

 ふと、部屋の隅の影に視線を移すと、鈍く光る金色の瞳が一つ。リュカのものだ。すでに暗闇を通じて中に侵入しているようだ。

 

 仕事が早いな。

 ハンドサインで俺が先に動く事を伝えると僅かに上下した金色の瞳。

 目だけを動かして敵の数を確認していく。1、2、3、4、全部で30か。

 

 両足で壁を蹴り反動で振り子の要領で窓ガラスにドロップキックをかました。勿論、窓ガラスは砕け、部屋に中に突入。部屋の中にいた男たちは数秒ほど固まっていたが、すぐに机の上やショルダーホルスターから銃を抜くが、それよりも早く動く影があったリュカだ。

 獲物を駆る獣の如く。二脚だけではなく二腕を器用に移動と方向転換に使い部屋を縦横無人に駆け回る。

 リュカの武器は籠手。

 メリケンサックやガントレットとは違い、攻撃よりも敵を殴る手の甲や腕の部分を防御する事をメインとした防具。

 リュカの籠手は特別性で軽くて丈夫なのは勿論、両方とも収納可能な爪が仕込まれている。だが、いまは殴ったり蹴ったりしているだけだ。

 

「こっちも働かないとな」

 腰にホルスターからマチェットを抜く。

「おっと」 

 顔目掛けて飛んできた銃弾をマチェットの側面で逸らし、左手に持ったマチェットを投げた。

 回転しながら飛んで行ったマチェットは見事に男の頭にグシャッ!と効果音がなるような感じで突き刺さった。頭にマチェットが突き刺さった男は膝から崩れ落ち、周りにいた男たちも数歩下がり、逃げようとしるも背後からリュカに殴られて背骨が折れたのか豪快にくの字に折れ曲がった。

 

 うっわ、あれ折れてるよ…絶対、折れてるよ。

 速度と体重の拳は凶器となりうる。もちろん、リュカの体重は軽い、けど、速度がそれ補っている。

 背骨の折られて男(死体)は、リュカに片足を掴まれると、まるで棍棒の如く振り回しながら周りいた男たちを死体で殴り倒していく。

 

 俺も死体に突き刺さったままのマチェットを引き抜き、一振りして血を刃から払う。

 

 敵は一人残らず倒したいた。倒したのは主にリュカだが。

 

「リュカ、全員倒したぞ。教授に連絡するから帰る準備しろよ」

「わふー、手洗ってくる」

 片手に持っていた上半身があらぬ方向を向いた死体を投げ捨て、手を洗いに行ってしまった。

 

 俺も金とか銃とか抜いて帰らないと。

 マフィアの財布にはどうやって手に入れたのか聞きたくもないお金と人を殺すのに使っていたであろう銃を持ってきたリュックにとにかく突っ込んでいく。

 財布から抜き取ったお金は勿論。銃も武器商人に売ればお金になって返ってくる。

 

 拳銃や刀剣、防弾性の服は特にお金が掛かる。それこそ質のいい拳銃を買うのはそれなりに決意がいる。

「結構な臨時収入も入ったし、リュカに何か旨いものでも奢るか」

 大量の札束を財布に入れて、手を洗っているであろうリュカに大声で質問した。

 

「リュカー臨時収入が入った。好きなもの奢ってやるぞー」

「わふっ~!クレープ!」

 雄たけびが聞こえてきた。

 質問をして10秒ほど間が空いて返ってきた返答は予想していたものだ。

 

 

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