恐れを知るものは、無限の空を目指す   作:めんつゆ

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 第18話「ハル、決断をする」

        □           □

 

 ここはどこなんだ?・・・たしか、僕はハルをかばって・・・

ハル・・・?そうだ!ハルに怪我はないのか?!僕はいったいどうしたんだ!?

 

今、自分が置かれている状況を思いだし体を動かそうと身じろぎをした瞬間、僕の体にするどい痛みが走った。

 

「・・・・・っ!」

 

背中とおなかが焼けた鉄を当てられたように痛む。

だが、叫びたいくらい体が痛いはずなのに、僕の口から出たのはそんな声にならない叫びだけだった。

そのまましばらく、自分の体に走る痛みを堪えているとふと自分の前に一人の男が立っていることに気が付いた。

 

 ふと、目の前の“彼”が私に向かって手を差し伸べる。

 

「やあ・・・初めまして・・・あなたがハルの父親の加藤賢さんでしょうか?」

「・・・っ!」

 

 僕はハルを助けてもらおうと、体を動かし彼に伝える努力をしたが・・・声さえ出せずに徒労に終わった。全身の傷はかなりひどいらしい・・・おそらく、致命傷だろう。そんな風に自分の中で覚悟を決めつつ、ハルを助けてもらうために何とか自由になる眼だけでも彼に伝えようとする。

 

「大丈夫ですよ・・・もうすぐ話せるようになります」

 

 彼は、そんな死にかけのケガ人に対して、さも当然そうに回復すると言い切った。

僕の視線は疑念を深め、(こいつこんな山奥で何を言っているんだ?そんなことよりもハルを探してくれ!・・・もしかしたらさっきの熱風で吹き飛ばされたのかもしれない・・・すぐに助けてもらわないと!)などと考えていると

自分の視界が緑色の光に覆われ、さっきまで痛みでまともに言葉を発することさえできなかった僕の体から、痛みがスゥと消えってなくなった。

 

「・・・っ!痛みが、消えた?・・・ハル!?ハル、どこにいるんだ!?返事をして!」

「心配はいらない、あの子・・・ハル“は”無事です。今私たちがいるここは、うまく表現できませんが夢のようなものだと思ってください」

「あなたは一体?・・・」

「私の名前はハル・ジョーダン。あの子いえ、・・ハルのことであなたにお話ししたいことがあります」

 

 そうして、こちらを覗き込んだ彼の憂いを湛えた瞳が僕に対してあることを訴えかけた。

 

「あなたは?・・・

 

 

     ◆             ◆

 

「父さん!・・・起きて、父さん!」

 

毎日、聞きなじんだあの子の声・・・なんだか感慨深いものを感じるな。

 

このまま、聞こえないふりをしていればあの子にこの話をしなくてもいいんじゃないか?

 

そう、自分の中でうそぶく存在がいる・・・

 

おそらく、僕があの子に伝える言葉は・・・あの子に“大きな責任と常人をはるかに超える苦難、それに追い打ちをかけるような孤独・・・そして、大いなる力をもたらすだろう・・・”

 

彼の話を信じるなら、僕に残された時間は少ない・・・

 

だが、あの子にこのことを伝えるべきだろうか?・・・親として伝えるべきではないのだろうか?

 

 ふと、あの時のことを思いだす・・・晴香が逝った日のことを・・・

 

「けんちゃん・・・先生を・・・困らせないで・・・」

 

そうだ

 

「いやだ・・・!おいていかないでくれ・・・晴香っ・・・」

 

思い、出した

 

「だ・・・め・・・、おってきたら・・・ぱんち・・・だよ」

 

あの時

 

ッ!!」

 

僕は・・・

 

それよりも・・・ハルをお願い・・・」

 

晴香に、僕たちの息子のことを・・・ハルのことを頼まれたんだ・・・

だったら、僕の・・・あの子の父親、加藤賢の息子に送る“最後の”言葉は決まった。

・・・晴香のぱんちは・・・覚悟しとかなきゃな・・・痛くないといいんだけど・・・そんなことを考えながら、僕はあの子に伝えるために目を開いた。

 

    □             □

 

父さんの目がゆっくりと開く・・・

 

「父さん!しっかりして!傷は痛む?・・・歩けそう?」

【ハル、あなたに伝えなければならないことが・・・「悪い!リング、今それどころじゃあないんだ・・・少し黙ってくれないか?」

 

さっきまで集中していて気が付かなかったけれど、俺たちの周りの木々が赤々と燃えている、たぶんさっきの破片のせいだろう。

ここがいつまで安全かなんて、俺には分からない・・・でも、早く移動しないと森林火災に巻き込まれる!

 

【・・・了解】

「父さん!気をしっかり持って!歩けるなら一緒にキャンプ場に戻ろう、ここも火が迫ってきてる・・・動けないなら、車を創るから!」

 

父さんは俺が創った、包帯越しに俺の目を見つめて・・・

 

「ハル・・・よく、聞きなさい」

「こんな時に何!?そんな元気があるなら、早くたって!」

「いいから!聞きなさい!」

 

 そんな叩きつけるような口調で

 

「ぼくは、もう・・・助からない・・・」

 

俺が今まで考えないように・・・思考の外へ、除外し続けてきた答えを、告げられた。

 

「ば、バカなこと言わないでよ・・・大丈夫!父さんは助かるよ!だってこっちには、リングが・・「じゃあ・・・さっき話の途中で切ったリングの話を聞いてみなさい・・・」

 

 父さんは、そう諭すように言った。

嘘だ・・・そんなの、きっとリングの話なんてどうでもいいことに決まっている・・・だが、こちらを見つめる父さんの視線が訴え続ける・・・“リングに聞け”と

 

「リング・・・話していいぞ」

【了解しました・・・現在、現地呼称“地球の日本”各地に、地球各地より発射された高速飛翔体・・・現地名称“弾道ミサイル”が飛来しています】

「なんだって!被害は!どこに落ちる?!」

【被害は不明、ですが各地でここと同じように火災や破片による被害が発生している模様です。直撃弾は・・・ありません】

 

 あれ?・・・なんで俺、こんなこと聞いているんだ?俺には“関係ない”はずなのに?

だが、俺の意思に反して口から勝手に言葉が滑り出す。

 

「なにがあった?詳しく、わかりやすいように説明してくれ」

【了解・・・現地時間で30分ほど前に世界各地の軍事施設が、同時にハッキングをかけられた模様です。それが約十分前に日本にむけて発射されました・・・総数2314発】

 

 に、にせんさんびゃくぅ~!?そんな大量に打ち込まれたら日本なんて跡形も乗らないぞ!だが・・・この被害の少なさ、どういうことなんだ?

 

【現在、総数の約三分の二が撃墜されました】

「まて・・・一発も落ちていないんだよな?」

【肯定】

「そんなに自衛隊のミサイルの迎撃システムが発達していたのか?」

 

 そうだ、前にこの世界について調べたが・・・軍事技術に関してもこの世界は俺が元いた世界と、ほとんど変わらないくらいの技術力しかなかったはず・・・それが1500発近いミサイルを迎撃した?

 そんなことは、技術的にありえない。

 

【否定・・・迎撃したのは自衛隊でも在日米軍でもありません】

「だったらなんだ?」

【一種の機動兵器と思われます・・・詳細は不明】

「リングの知識と解析能力を使ってもわからないのか?」

【肯定・・・ですが、このまま静観していても大丈夫でしょう・・・それよりもあなたに伝えるべきことがあります】

 

 いままでのが、本題じゃあなかったのか?これよりも俺に伝えたいことって一体なんなんだ?そんなことを思いつつ先を促す。

その言葉を・・・

 

【落ち着いて聞いてください・・・前提条件として彼の血液は先ほどまでにすでに1.7リットル流出しています・・・】

 

おい・・・なんでそんな前置きから話すんだ・・・?

まるで、まるで父さんが・・・

死ぬ、みたいじゃないか

 

【・・・そして、バッテリーの残量0.08%・・・このまま創造物の生成を続けた場合、あと3分でバッテリーが切れます】

 

うそだ・・・そんなの・・・嘘だ、ここまで来て・・・あと少しで父さんの命を助けられると思っていたのに・・・こんなの、こんなのって・・・ないよ・・・

なあ・・・神様、あんたはとことん俺のことが嫌いらしいな・・・俺が“普通じゃない”のがそんなにいけないのか?・・・なんで父さんなんだ?・・・どうして俺じゃない・・・ふざけんな・・・ふざけんなっ!

 

「ふざけんなぁぁああああああああああああああああああああああああッ!!!」

 

 両目から止まっていたはずの涙がこぼれだす・・・俺の心中で残酷な真実が思いこされた。

 

 リ ン グ の バ ッ テ リ ー は 2 4 時 間 で 切 れ る 

 

 くそっ!くそっ!!くそっ!!!

俺は、この世でたった一人の父親さえ・・・救えないのか?

・・・ちくしょう

 

「俺のせいだ・・・・俺がいたから、俺がいるからみんなが傷つく!!俺なんて・・・俺なんで、い゛な゛げれ゛よ゛がっだのに゛ぃぃいいいいいいい!!!」

 

 叫んだ

 

 声も枯れろとばかりに

 

 この身を焦がす、“怒り”をどこかにいるかもしれない神とやらに叩き付けるように

 

 身からあふれ出すような“絶望”を世界に訴えるように

 

 家族と平穏にくらす、というのは俺の“欲”なのかと問いかけるように

 

 俺が、両親をを“愛”してしまったからこんなことになったのかと嘆くように

 

 “憐み”でも構わない・・・誰か、父さんを救ってくれとすがるように

 

そして

 

 これから俺は永遠に一人ぼっちだと突きつけられた“恐怖”を紛らわすように

 

 叫んだ

 

 もうどうでもいい     こんな人生 無 意 味 だ・・・

 

【ハル・・・】

「ハル・・・こっちをむくんだ!」

 

 ほほを打たれた衝撃に俺は意識を外に向ける・・・目の前には俺の父の姿・・・そして振りぬかれた右手。そっか、俺父さんにはたかれるの・・・初めてだな。

 

「前に言ったよね・・・ハル」

 

 そんな初めての体験に衝撃を受けて父さんの顔を見た俺に

 

「ぼくにとっては・・・自分が死ぬことより君が死ぬことの方が怖いって・・・」

 

 今晩の献立を聞くように

 

「それにね・・・神様が許さないって言っても、僕が赦すって言っただろう?」

 

 仕事であった新しい発見のことを教えてくれるように

 

「さっきの、続きだ・・・なんであんな話をしたかっていうとね・・・」

 

 週末、一緒に映画を見に行こうと誘うかのように

 

「僕、気が付いちゃったんだ・・・君が積極的に僕以外と関わり合いを持とうとしない理由・・・」

 

 自分が、死ぬって事実が突きつけられているのに

 

「君は、恐かったんじゃないかい?自分がこの世界にとっての異物だといわれるのが・・・」

 

まるで死ぬことを受け入れたかのように・・・あの人は俺に語りかけた。

 

「そして、僕が心配だったんだろう?あの時君は、晴香を殺したのは自分だって・・・言っていたよね?

急に晴香がいなくなって僕が壊れてしまうのが、恐かったんだろう?

赦したって言ったのに、ずっと罪の意識を感じていたんだよね?」

 

 そうだ、俺は“この世界にとっての異物、いてはいけない人間”なんだ・・・誰に赦されようが、その事実は変わらない

 

「やっぱりそうだったんだ・・・でも、いいかげん自分を責めるのはおやめ・・・ハル、キミ、ほんとはとっても優しい子なんだよ・・・よく気が付いて、自分を押し殺して、大切な人のために力を尽くす・・・そんな僕の、僕たちの大切な宝物なんだよ」

「でも、おれは・・・」

「だから、“いなければよかった”なんて悲しいことを言わないで・・・

君はここにいる、ここに・・・この世界にいてもいいんだ」

 

 俺って、単純だ・・・ずっともやもやしていた気持ちが晴れて行くのを感じる、こんな根拠のこの字もない言葉を心の芯で受け入れている俺がいる・・・そして素直に喜んでいるのも自覚できる

でも・・・

 

「でも、俺は・・・あなたを、父さんを助けることが、できなかったッ!」

「いいや・・・君は僕を救ってくれたさ・・・だって、君が頑張ってくれなかったらこうして、最後に話すこともできなかったからね」

「だけど・・・「ハル、世の中にifはないんだよ。だから、“でも”とか、“だけど”だとか“もしも”のことにおびえるのはおやめ・・・ifについては、受け入れしかないんだ・・・もう、君もわかっているはずだろう?」

「だけど・・・考えずにいられないんだ・・・いつも、不安なんだ!俺は恐いんだ!大切な人を失うのも、ママが死んだときの、あの喪失感を思い起こすのも!」

「それでも、だよ・・・たぶん君が生きていく限り、その二つの感情はいつもついてまわるだろう・・・みんなそうなんだよ、ハル・・・それに負けないことが“生きる”ことだと僕は・・・思う」

 

 そこで父さんは一度、言葉を切った・・・あとどれだけ一緒にいられるのだろう?時間ってこんなに短いものだったか・・・そんな言葉ばかりが頭を回る。

 

「それとね・・・ハル、もう“見なかったこと”にする必要も“気が付かなかったふり”をする必要もないんだよ、君は偉大なパワーを与えられた。それを振るうにふさわしい資質も備わっている。だからあとは・・・君が、君の良心に素直になるだけだ。もし不安があるならそれを乗り越えなさい。恐怖に震えるなら僕たちのことを思いだしなさい。そして、恐れずに人に接しなさい。きっと君を受け入れてくれる、友が・・・そして、愛してくれる人がそこにいるはずだよ・・・まずは自分が動き出すんだ、そうすることでしか世界は動かないよ。」

「っ!・・・わか、った」

 

 まともに父さんの顔も見れなやしない・・・くそッ!俺はッ!

 

「さぁ・・・もうおゆき・・・君の助けを待っている人がたくさんいるはずだよ・・・

ああそうだ・・・最後に君のかっこいいところを見せてくれないかい?」

 

 涙が、止まらない・・・でも、“関係ない”なんて思っていたが、俺の心は言っている“救いに行け!”とでも、俺は・・・

 

「ハル・・・大いなる力には・・・なんだっけ?」

 

 ハッとなって顔を上げるとそこにはいつもと変わらない父の柔和なほほえみ・・・それを見た瞬間、覚悟が、決まった。

 

「わかった。最高にかっこいいところを見せるよ。

リング、バッテリーの残量は?」

【残り0.0098%、次元ポータルを開いてパワーバッテリーを取り出すのが精一杯です・・・宣誓は思い出しましたか?】

 

 父の瞳を見つめつつ、答える。

 

「もちろんだ」

 

もう、迷わない

 

【では、加藤陽・・・あなたは宇宙で最も栄誉と責任あるこの任を・・・受けますか?】

 

 スゥッと息を吸い込んで高らかに答える。

 

「ああ!俺は、俺が、グリーン・ランタンになる!!」

【結構・・・ポータルを解放します】

 

そうリングが話すと目の前の空間が歪み・・・緑色のランタンが姿を現した。

あれが、パワーバッテリー・・・そのランタンに指輪をはめた右手を掲げ・・・父のほほえみを受けつつ・・・浪々ととなえる。

 

 

 

「In brightest day」(輝く太陽のもと)

 

さっきまで胸中を渦巻いていたさまざまな感情が違う形に変わっていくのがわかる

 

叩き付けるような“怒り”は、燃えるような“情熱”に

 

 

「in blackest night」(漆黒の夜の闇も)

 

身を切るような“絶望”は、胸に輝く“希望”に

 

 

「No evil shall escape my sight」(いかなる悪をも見逃さぬ)

 

問いかけるような“弱々しい欲”は、心を動かすための原動力になるほど“強く”

 

 

「Let those who worship evil's might,」(闇の力を崇めるものよ)

 

嘆き、悔やむような“包まれる愛”は、逆に包み込もうとするほど広く、“優しく”

 

 

「Beware・・・」(畏れよ・・・)

 

誰かにすがるような“憐み”は、他者を思いやる“慈悲”に

 

 

「my power!」(我が光ッ!)

 

突きつけられた“恐怖”は、乗り越えようとする“意志”に

 

 

「Green Lantern's light!!」(グリーン・ランタンの光を!!)

 

そして、すべての思いが一つとなって・・・“意志”が強まる・・・

 

 炎に照らされた森がまるで、昼間のように一瞬光に包まれた。

全身に流れる全能感・・・そして体を覆う緑色の光・・・これが、宇宙最高の力、か。

 

「じゃあ・・・行ってきます、父さん・・・大いなる責任を果たしに・・・」

 

 俺はそれだけ言い残すと・・・重力のくびきを振りほどいて夜の大空へと飛び出した。

 




ついに・・・ここまで来ました。
今までハルは、心が大人びているだけのただの子共でした。

ですが、両親と出会い・・・力を目の前にし、最初は恐れて力を遠ざけようとします・・・でも今回ハルは、自分の心にうそをつくことをやめたのです。

本来のハルはお人よしで・・・困っている人をほおっておけなくって助けたときにむけてくれる笑顔だけで満足してしまうような、そんなキャラクターとして書いてきたつもりです。
 
ですが、自分が異物である、という自覚、そして晴香の死・・・からなるべく他者にかかわらないように生きてゆくことを望みました。
それが、あのひきこもりであり、一夏と箒いがいに友達を創ろうとしなかった理由です。

 ですが今まで、依存していた父の死とその遺言により・・・彼は外に向かって歩き出します。
 まだまだスーパーヒーローとしては未熟で、恐がりな彼のことを応援してあげてください。

 最後に、“見なかったこと”にする必要も“気が付かなかったふり”をする必要もない、するべきではない。というのは私の持論です。
といって、自分でも実践できているか?と言われると怪しいところもあるのです
が・・・
彼には見なかったことにすることも、気が付かなかったふりをすることもしてほしくなかったので・・・

では今日はこの辺で失礼します。
おやすみなさい
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