恐れを知るものは、無限の空を目指す   作:めんつゆ

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外伝~シークレット・オリジンズ~
  外伝  「そうして彼女は空を目指した」 上


 

 

 

静かな空間にカタカタとキーボードを打つ音だけが響く

私の視線の先にはいくつものケーブルにつながれた“あの子”の姿。

それを母親が子供を慈しむように柔らかに眺めつつ私は操縦者として、今日の初めての試験飛行(フライト)に関する報告書を作成していた。

 

(今回のフライトは素晴らしかったわね・・・さすが、最新の技術を詰め込んでできた最新型ね、私の意見もしっかりと反映されていたし・・・)

 

手を止めずに報告書を作りつつ心の中で、今日の心躍るようなフライトを思い起こしていると・・・空気が抜けるような音とともにバタバタと騒がしく、私の友人が入ってきた。

 

「おい!“ナタル”!まだおわんねーのかよ!さっさと終わらせて飲みに行こうぜ!」

「・・・私は今報告書を作成しているんだけど、あなたはいいの?“イーリ”」

「んなもん、後でやりゃあいーんだよ!」

 

はぁ・・・私は思わず溜め息をつき首を振った。首を振ってどうなるというものでもないけれど、一応、一言忠告を

 

「そんなこと言って・・・あとで泣きを見ても知らないわよ」

「ん・・・なんだ?」

 

 私の忠告など、どこ吹く風と言わんばかりにイーリは右手にコーヒーのはいった紙コップをにぎり、左手にもったシンプルなドーナッツをかじりつつこっちを仰ぎ見た。

・・・もう知らない。

 

そんな風に、彼女のことを無視して仕事に集中しようとしたとき、イーリが急に

 

「なあナタル・・・なんで、お前はこの業界に入ってきたんだ?」

「何よ?いきなり・・・」

 

 そういいつつ、私は報告書の作成を行っていた手を止め・・・私の後ろで飲み終わったコーヒーの紙コップをもてあそぶ彼女のほうへと振り返った。

 

「いや、なんだか急に気になってな・・・」

「あなたってホントにいつも唐突ね・・・私は今、この子のことで忙しいんだけど?」

 

 そう言ってはみたが、すでにこの作業を始めてから結構な時間がたっている―――そろそろ休憩を入れるほうが作業効率も上がるだろう・・・まあ、別にイーリに知られたところでどうってことないし、話してもいいかしら

 

「ちょうど休憩にしようと思っていたし・・・ドーナッツを買ってきてくれるならいいわよ?」

 

 目の前の彼女は眼をキラッと光らせて、おいてあった包みを取り出した。

 

「実はここにあるんだなぁ」

「あなたの、食べかけじゃない・・・」

 

 彼女から包みを受け取って、中身を見つつ呆れる。

イーリってばこんなに買うから・・・あとで泣きを見ても知らないわよ?

・・・ちょうど、糖分がほしかったところだし、まあいいか

私はため息をつきつつ、語りだした。

私の中で綺羅星のように輝くあの思い出を・・・

 

「私はね―――

 

 

            ◆             ◆

 

 

 あの頃・・・私は学校のパソコンを借りて、ずっと調べものをしていた。

調べていることは一つ・・・飛行機についてだ。

 

 空・・・

 

人類という重力に縛られた種族は、つい近世になるまで憧れるしかなかった・・・

 

遥かな高み

 

無限に広がっているもの

 

そして、私たちは“飛行機”という翼を手に入れその高みへと手を伸ばすことができた。

 

・・・私は空がすきだ。

流れる雲―――

鮮やかに色を変える様―――

そして澄み渡るような青空が・・・空を見ているだけで落ち込んでいた気持ちも明るくなってくる

 

 昔父に基地のカーニバルに連れて行ってもらったことき、一番楽しみにしていたのは基地の飛行隊によるアクロバット飛行だった・・・私も、あんなふうに空を自由に飛ぶことができたら、どんなに気持ちがいいだろう・・・・

 

でも、私にはそこに行くことができない―――恋い焦がれるように憧れるだけだ。

 

「ナタル!」

「は、はいぃ!」

 

そんな風に考え事をしていると、ふと後ろから声をかけられ・・・びっくりしつつも振り向く・・・そこにみなれた私のクラスの担任教師の顔

 

「何が、はいぃだ・・・もう7時だぞ。いい加減、家に帰らないとご両親が心配するんじゃないか?」

 

 パソコンの時計を見て驚いた・・・もう門限をとっくに過ぎてしまっていたからだ。

 

「もう!こんな時間!早く帰らなきゃ!」

「パソコンは消しとくから・・・それよりナタル、本当に進学しなくてもいいのか?」

「は、い・・・私は店を継がなくちゃいけませんから・・・」

「お前の成績なら、どんな学校にでもいけるんだけどなぁ・・・」

 

 先生は、残念そうに顔をゆがませた。

 

「すみません」

「謝るようなことじゃない、気が向いたら言ってくれ」

「はい、さようなら」

「おう、さようなら!最近は物騒だから気を付けて帰れよ」

 

 自分のバックをひったくるようにとって私は家路を急いだ。

 

私の家が学校から近い、と言っても急いで走って15分はかかる。

あんまり通りたくはないけれど―――“近道”ししなきゃ

急ぐあまり、いつもはあまり通らない裏路地を走り抜ける選択をしてしまったのだ。

 

 この選択を取らなければ、私はピザ屋の店員として人生を送っただろう・・・

 

 父と母と一緒の安心だけれど、自分の夢をあきらめる道

 

 そんな人生で、いいと思っていた。

 

 彼から教えてもらった言葉に―――禍福はあざなえる縄のごとし、というチャイナのコトワザがある。

 

 まさしく、人生はその通りだった。

 

 肩で息をしつつ、全力で家まで走る私の前に、ガラの悪そうな男が立ちはだかった。

びっくりして足を止める―――すると、隠れていたのか・・・今までかけてきた路地にも、男が二人現れた。

 

(やばい・・・)そう思いつつも、まだ脇を駆け抜ければ何とかなる、と思っていた・・・

だが、現実は甘くなかった。

 

「なあ・・・お嬢ちゃん、こんなところで走るなんて危ないなぁ~」

 

 目の前に男は下種な笑みをうかべて、こっちによって来る。

後方確認・・・後ろの男たちもじりじりとにじり寄ってきていた。

「・・・大丈夫。すぐ走り抜ける・・・からッ!!」

 

 それだけ言うと前に向かって突進する。わきのダストボックスの上を走ればあいつらの虚をつけるはず!

前の男さえなんとか切り抜けられば何とかなる!

 

・・・そう考えつつ、ダストボックスの上に飛び乗ろうと地面をけった瞬間、

 

「いまだ!」

 

ふたが閉じていたはずのダストボックスが開き・・・そこからもう一人の男が現れた。

 

そして自分の意志とは裏腹に、男に飛び込む形になった私は・・・・抵抗するまもなく、いともたやすく捕まってしまった。

 

「お嬢ちゃん・・・そんなに俺が好きなのかい?」

ダストボックスから出てきた男の臭気が鼻につく・・・手や足を振り回して抵抗するが、男の力は強く、私の力じゃビクともしない。

 

「やめて、はなして!」

「はなすわけないだろぉ!」

 

私は壁に押し付けられた。

 

「い、いやぁあああああッ!!「・・・おい!」」

 

 助けを求めるために挙げた声は、奴らが取り出したぼろきれを口に突っ込まれて、消えた。

 

「むーっ!むぅぅぅ!」

 

服がむりやり引きはがされる

(いや・・・誰か、誰か!助けて!)

男たちが、周りを取り囲んだ

(なんで!なんで、こんなことになったの?)

私を捕まえた男の舌が頬をなでる

 

ああ・・・これは報い、なんだ・・・分不相応にもあの空にあこがれたことの・・・

 

こんなことなら“夢”なんて見なければよかった・・・

 

 

 

 もう、すべてにあきらめて、目をつむった私に、男たちの下碑たヤジが飛ぶ。

 

「この嬢ちゃん、あきらめやがったぜ!」

「じゃあ、俺からな!」

「チっ・・・とっと済ませろよ」

「おい!ダズ!お前が最後だ!見張りやっとけ!」

「くそっ!サツに怪しまれる前に済ませろ!俺も待ってるんだからよ!」

「ははははは!大丈夫だぜダズ!こいつ早漏だから5分も、もたねぇ!」

「うるせぇ!」

 

 うるさい・・・もう・・・どうでも、いい

すべてを拒絶するように固く目を閉じた私は、ただ不幸という嵐が過ぎ去るのを待つかのように無関心を決め込んだ。

 

 ・・・少し離れたところで声が響いた気がする。

 

「なんだてめぇ!」

「・・・警告する、その子に謝って二度とこんなことをするな」

「見やがったな・・・やっちまえ!!」

 

 何か重いものが、金属の物体にぶつかる鈍い音が響いた。

 

 “空気”が、変わった。

 

「こいつ、ダズを・・・」

「やっちまえ!」

 

 さっきと同じ音が“きっかり二回”、あたりに響いた。

 

 私を抑え込んだ男は、そんなことなど気にならないように興奮し・・息を荒げ

 

「うるせぇな・・・・これから“お楽しみ”だってのに―――うわっ!!」

 

 急に私を抑え込んでいた力がなくなって、ぺたん、としりもちをついてしまった。

恐る恐る、ギュッとつむいでいた瞳を・・・開く

 

 目の前に彼はいた。

 

少しくたびれた暗い緑色のジャケット・・・どこかのサラリーマンだろうか?

 

どこか幼さを残す顔つきと、黒い髪の毛・・・アジア系人間だろうか?

 

そんな彼が・・・片腕で自分より背の高い男の襟首を持って・・・持ち上げていた・・・

 

「・・・おい、“お楽しみ”の最中申し訳ないが・・・お前のお友達はいいにおいがするベットの上で、夢を見ている・・・お前もそうなりたいか?」

 

 私を抑え込んでいた男が・・・息が苦しそうに顔をしかめつつ顔を横に振った。

 

「OK、抵抗するなよ?・・・」

 

 彼は男を地面におろす前に、耳元に口を近づけて何やらささやいているのが見えた。

男の表情がみるみる青くなって、がたがたと震えだした。

 

 ・・・彼がこっちを振り向く―――羽織っていたジャケットをこっちに投げ、視線をそらしつつ、一言

 

「大丈夫だったかい?このジャケットを着るといい、すぐに警察が来るからね・・・」

 

 投げ渡されたジャケットを胸にその時はただ、助かったことがうれしくて・・・涙がこぼれた。

 

 

◆               ◆

 

 

 

 

 

 




 いかがだったでしょう外伝一作目!

 今回の主役は22話に登場したターシャちゃんです!
全国100万人のターシャちゃんのファンの皆様、お待たせしました!!
・・・えっ、そんなにいないって?

 まあそれは置いておくとして、作業の進捗状況についてです。
 この外伝1弾は3話続いていまして、現在は第2弾に映っておりますので・・・まだ本編までの先は長いです。
 もう少しお待ちください!

 感想や、ご指摘、質問などいつでもお待ちしております!

では、この辺で・・・

おやすみなさい
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