思い返せば、私はあまりのことにテンションがおかしくなっていたのだろう。
彼の都合も考えず・・・カトーと一緒に帰る途中で様々なことを聞かせてもらった。
日系人のカトーは、ついさっき“メトロポリス”についてたまたまメインストリートを歩いていた時に、悲鳴を聞いて助けに駆けつけてくれた、らしい。
わざわざこんなド田舎に来た理由を聞くと・・・なぜか、うれしそうに人探しだと言っていた。
カトーは、このあたりに住んでいる友人を探しにわざわざこんなド田舎までヒッチハイクで拾った車を乗り継ぎしてきたらしい・・・本当だろうか?ヒッチハイカーにしては荷物もほとんど持っていないけど、まあいいか。
二人で楽しく聞いたり、聞かれたり・・・そんな風におしゃべりをしているうちに、すぐに私の家 兼、父さんのお店“ピザショップ action”についてしまう。
そこでカトーと一緒にドアを開けると・・・明りの消えた店内から誰よりも先にママからの怒声を殴りつけるように聞かされることとなった。
「ターシャ!!こんな遅くまで・・・なにを・・・あなた!!」
怒り心頭なママは私がカトーのジャケットを被ってた裏に無理に引き伸ばされたせいボロボロになった服を確認しとすぐにパパを呼び、パパがキッチンから出てくる
何も言わずとも状況を把握したパパが重苦しい表情で口を開き・・・
「その男はなんだ」とぶっきらぼうに言った。
そのまま家族三人で家族会議に入ろうとしていた瞬間、ふとカトーが口を開いた。
「あの・・・詳しい話は俺がしますので・・・まずは着替えさせてあげてはどうでしょう?」
「じゃあ・・・お前からたっぷり、と聞かせてもらうじゃねぇか」
パパは険しい表情を浮かべ、ママに私を頼むといって・・・すでに人気のない店舗のカウンターに座る様にカトーに目で示すと自分の手で店舗部分と住居スペースを分けているドアを閉めた。
ママは私が、落ち着いているのを確認してから・・・私を部屋に押し込んでさっさと下に戻っていった。
二階の自分に部屋で新しい服に着替えながら、カトーの身を心配していると・・・
「・・・アーッハハッハハッハ!」下からパパの大きな笑い声が家をふるわせた。
どうやら、いらない心配で済みそうね・・・私は手に彼のジャケットを持ってもう行っても大丈夫、だと自信をもって下に降りて行った。
◆ ◆
「どーして、ここで話を切るんだよ・・・」
「あら・・・私にはコーヒーでのどを潤すことも許されないの?」
そういって彼女に空の紙カップを示し、備え付けのコーヒーメイカーの電源を入れ、スイッチを入れると自動で機械がコーヒーを入れ始め、コポコポとコーヒーがドリップされる音が響く・・・
痺れを切らせたイーリが話の続きをせっついた。
「なあ・・・続きは?どーせ入れるのに時間がかかるんだから、続きを話してくれよ」
「しょうがないわねぇ・・・あのあと、パパにハルは気に入られて友達を探す間うちで住み込みのバイトをすることになったの」
「へぇ・・・ところで、なんでカトーからハルって呼び名がかわっているんだ?」
「彼に聞いたんだけど、日本での暮らしが長かったから言い方を間違えたんですって」
「ふぅ~ん・・・とんだ田舎もんだったんだな・・・ナタルの初恋の男は」
「そうよ」
イーリが驚いて目を丸くしているのがわかる・・・内心、ちょっとしてやったりと思ったのは内緒だ。
「てっきり、ナタルってそういうことに興味がないって思ってたんだけどな・・・」
「別に、否定する気はないわ・・・じゃなかったら話さないしね・・・ただ、初恋っていうよりも・・・あの時の私は恋に恋する女の子だったってだけよ」
「ふーん・・・おっと、ドリップも終わったみたいだぜ!続きだ!続き!」
「まったくもう・・・」
口ではそう言ってあきれつつも、私は軽やかに語りだした。
私の喜劇の終わりを・・・
ハルがうちに来てからの3ケ月はまさに夢のような時間だったわ・・・
自分もピンチを助けに来てくれたヒーローが同じ家で暮らしているんですもの15歳の子供としては浮かれちゃったのね・・・
学校に行くとき以外はずっとハルについて回っていた気がしたわ・・・
ハルったらおかしいのよ、いつも仕事には熱心に取り組むのに、どうでもいいことでミスをするんだから・・・やれ、子猫が木から降りれなくなっておろそうとしたら、木から落ちたとか、せっかくのピザの配達なのにチップをもらい忘れて、パパから怒られたりしてたり・・・そんな、かっこいいのにどこか抜けている彼に私は夢中になったわ・・・いえ、正確には夢中になろうと・・・ね。
今ならわかるの・・・自分が今まで叶わないと分かっていながらも―――ずっと抱いていた空へのあこがれが、ハルっていう
でも、3ケ月一緒に生活していて気が付いちゃったのよ・・・ハルの目がどこか遠くを見ていること、そしてひとりきりになると途端にいつもつけている緑色の指輪を見つめて、どこかさびしげな表情を浮かべていることに、ね・・・
最初はそれが友達を見つからない寂しさからだと思っていたわ。でもかれがあの時そうしてくれたようにそばにいてくれれば・・・いつかは彼が振り向いてくれると、おもいこんでいたのよ・・・
◆ ◆
あの晩、私が自分の部屋で勉強をしていると急に私の携帯にメールが入った。
ハルから、話があるから屋上で待っているといわれたのだ。
・・・これはもしかして、プ、プロポーズというやつでは・・・
そろそろクリスマスだし、そのお誘いかもしれないし・・・
・・・
お、落ち着きなさいターシャ!!coolに、coolになるのよ!!
内心そんなことを考えながら、上着を羽織って屋上に向かうと・・・彼はそこにいた。
「やあ・・・待っていたよ。ターシャ・・・」
彼は満天の星空とともに、真剣な表情で私を迎えてくれた。
もしかして・・・本当に、プロポーズ?
わ、私・・・まだ十五才なんだけど・・・
でも―――ハルが相手なら・・・
そんなことを考えて顔を赤くしつつ・・・話を促す。
「で・・・話って何?」
かれは言いづらそうに、一回か二回口を開けたり開いたりしていたが・・・私の目を見て、話し始めた。
「実は、探していたやつがミズーリのほうで見つかったっていう連絡が来たんだ・・・」
えっ・・・そんな―――嘘、よね?
「だから明日、“ここを起つ”予定だ。もう、ノアさんたちには話を通してある」
嘘・・・嘘、嘘ッ!嘘ッ!!
「・・・嘘よね・・・ハル?エイプリルフールはまだ4か月も先よ・・・?」
「嘘じゃない。俺は明日、この家から出ていく」
「じゃあ、ハルの友達が見つかったら・・・戻ってきてくれるわよね?」
「いや・・・もうここには戻らない、ここで・・・お別れだ」
彼の目を見続けていることができない、うつむき目頭から涙が滲みだす・・・
「なんで!どうして急に・・・別に戻ってきてくれたっていいじゃない!!私・・・」
その時の私はハルに裏切られて気持ちでいっぱいで・・・今まで彼との関係が壊れるのが怖くて―――ずっと言わないでいた、彼への思いを・・・我慢できずにぶちまけてしまった。
「あなたとずっと一緒にいたいって、そう思っていたのに!!」
彼は何も言わない・・・ただじっと、うつむく私を見つめるだけだ。
それが、私の怒りを誇張させた。
彼に詰め寄り・・・罵倒する。
「どうして!私がどこかいけなかった?!だったら言って!直して見せるから!―――」
しかし、彼はその罵倒すら自分のみで受け止めて・・・何も言わない
「言いなさいよ!!」
「・・・お願い・・・ハル・・・私を・・・すてないで」
そんな彼の姿をみて私の罵倒は、だんだんとか細くなっていき・・・最後には懇願となって口からこぼれる。
そんな私の姿を見て・・・やっとハルは重たい口を開いた。
「いや、ダメなんだ・・・もうここには戻れない」
「・・・どうして・・・?」
もはや、とめどなく流れ出る涙をそのままに・・・私はハルの顔を見上げる
「ターシャには、話しておくな・・・実は俺が探していた友達と会ったら俺はすぐに、この国を離れるつもりだったんだ」
そんな・・・じゃあ、ハルはそんな気なんて初めから・・・
「じゃあ!なんで・・・私を助けたのよ!こんな・・・こんな惨めな気持ちを味あわせるため!?・・・そんなことして・・・楽しいの!!」
ダメ・・・もう自分でも言っていることが支離滅裂なのはわかっているのに・・・口からは彼をなじる言葉ばかりが流れ出す。
「違うよ・・・たしかに君を助けたのは偶然だ。ここに滞在することになったことだってそうだ・・・でも、ここに戻らないって言った理由は一つだ」
「それって・・・なに?」
「ターシャ、君が・・・一人で立つためだ」
どういうこと?
そんな私の信条なんてお構いなしに彼はそのまま話を続けた。
「あの晩・・・一緒に帰るときに、空の話をしてくれたよな?おぼえているか?」
「うん・・・したよ」
それが、どうかしたの?あの時はあなたがそばにいてくれるのがうれしくって・・・それで―――“叶わない夢”の話なんてしちゃった・・・それだけよ
「じゃあ・・・いい加減、目を覚ますんだ。
きみが本当にやりたいことは・・・こんなことなのか?
違うだろう?
あの話をしている時の君は・・・」
そこでいったん話を切って私の涙を手で拭い
「本当にいい笑顔をしていた。
だから・・・いい加減、自分の心に嘘をつくのはやめるんだ」
・・・なによ・・・なにも・・・ハルのくせに・・・わからないくせに・・・どうして!!
「どうして!そんなこと言うのよ!!・・・
ねぇ・・・ハル、叶わない夢を見続けることっていいことなの?
あきらめてほかの夢を目指すことはいけないことなの?
おしえてよ・・・ハル」
「ターシャ・・・たしかに夢を見るってことは大変だ。
夢をかなえるためにたくさんの苦難や努力が要求される・・・
・・・あきらめるって手もあるだろう
でも!君は行動したのか?
叶わないなんて誰が決めたんだ?
全部、決めたのは自分自身だ。
あきらめて、現実に流されるよも先に自分がしたいことをするんだ!!」
そんなハルの言葉が・・・心に響いた。
私は、空へのあこがれをハル以外の誰かに口にしたか?
NO
私は、空に行くために何か努力したか?
NO
私は自分の心に嘘をついていたか?
YES
・・・曇りの空が晴れるように澄み渡った感覚だ・・・
私の怒りも、流した涙も今の感覚を前にしたら・・・すべてがかすんでしまう。
たぶん私は、だれかにこういってほしかったんだと思う・・・
自分の夢をあきらめるなって、だから私は・・・
「ありがとう・・・さようなら、
「さようなら・・・
それだけ言って自分の部屋に戻った。
次の日、ママから聞いた話によれば・・・彼は昨晩にうちに置手紙をのこして去って行ったらしい。
その手紙には、私の話を聞くようにって書いてあったみたいで・・・
◆ ◆
「それで・・・両親に話した結果、快くOKをもらって軍人になることを志した、っていうわけ・・・まあ途中でIS学園が設立されて、その第一期生として入学することになったけどね」
「なるほど・・・にしてもそのハルってやつにまた会いたいっていう気持ちはないのか?」
「そんな気持ちはないわ・・・特に今は、ね・・・」
ちょうど話し終わったと同時に、部屋のドアが開き一人に兵士があわてて入ってくる。
「失礼します!!」
何かトラブルのようだ・・・内心、報告書の作成がまた、遅れることを気にしながら入ってきた兵士の話を聞く。
「司令部から出頭命令です・・・ナターシャ・ファイルス大尉、イーリス・コーリング大尉、すぐに出頭願います」
デスクから立ち上がって、凝り固まった体をほぐしつつあきれたようにイーリに問う
「あなた、また何かやったでしょう?」
「やってねーし・・・!にしてもなんだ?こんな時間に・・」
そんな風に軽口をたたきつつ指令室へと足を向けた。
そして、その日ISの登場以来の激震が世界を揺らすこととなる
人類史上初のISが動かせる男性が、同時に二人も見つかることとなったからだ
いかがだったでしょう?
これで外伝一作目そうして彼女は空を目指したは終了となります。
お楽しみいただけたでしょうか?
もし、お楽しみいただけたのなら幸いです。
ナターシャは原作に出てきたキャラとなりますがこれから3つの外伝では本編に出てきていないキャラクターを扱いますのでお楽しみに!
では、おやすみなさい