(リミッターをカットした、と言っていたがどれほどのものだろう?)
そんなことを考えつつ何時もの様に全力でスラスターを吹かすと―――瞬間、私はミサイルの目の前にいた。
「なっ・・・」
回避するまもなく直撃。
その瞬間日本上空に―――大きな爆炎が何個もきらめいた。
・・・頭を振って思考をしっかりとさせる。
どうやらスピードが速すぎて、目標に近づくどころかぶつかってしまったようだ。
「あはははは!ちーちゃんってば面白~い」
「うるさい!それよりもなんだ!これは!」
本当にこれがISなのか?あの加速、今までの加速と比じゃない速度だった。
「だから、リミッターを解除したって言ったでしょ~にしてもあんな方法で第一波を落とすなんて・・・やっぱりちーちゃんは面白いなぁ~」
「そんなことより次はどこからくるんだ!?ナビをしろ!」
「ん~次はね~・・・」
そこからはもうミスもなく飛来するミサイルを“切り落とす”ことができた。
リミッターを切ったISの力は、今までテストしてきた自分から見ても“すさまじかった”。
沖縄でオーストラリアから出たミサイルをたたき落としたすぐあとには、北海道に飛来したロシアからのミサイルを切り払っていた。
“普通の人間”なら最初の爆炎で恐怖で震えてしまっても責められないだろう
バイザー越しとはいえ、ハイパーセンサーで送られてくる情報は、目の前で起こっているかのようなリアルさがあったからだ。
だが今の私には・・・
正直―――恐怖など微塵もなかった。
それどころか何か・・・心の奥から湧き出すような“昂揚感”
そして、こんな状況に“愉しさ”さえ感じていた。
直ぐにこのことを私は後悔することとなる
それから30分後、すべてのミサイルをたたき落とした私は・・・全身に満ちる“昂揚感”と、心の中を渦巻く“愉しさ”が混ざり合って一種の“絶頂感”ともいうべき感覚が体を支配していた。
だからだろうか―――その時急に送り付けられた通信に激高してしまったのは
「そこの所属不明機!・・・応答せよ!」
うるさい
「那里的所属不明机!•••应答!」
だまれ
「거기의 소속 불명기! •••응답해라!」
せっかく・・・この感覚に浸っているのに・・・
「Членство неизвестная машина там! ... Ответ!」
邪魔をするのか?
「The affiliation unknown machine there! ... Answer!」
ならば・・・貴様らは、
敵か?
血が上っていた頭は―――逃げることなど一顧だにせず・・・
束に交戦許可を求めていた。
◆ ◆
気が付いた時にはすべてが終わって、束のラボにあるソファーで寝かされていた。
「もう・・・朝か?・・・ッ!」
「あっ・・・ちーちゃん、おはよ~」
それだけ言って私に突進してくる。
何時もなら片手でアイアンクローでもしてやるところだが・・・そんな余裕は、無かった。
くっつかれるままにしていると、ふつふつと疑問がわいてくる。
あの後、どうなったんだ?
いや・・・ミサイルをすべてたたき落としたところまでは覚えている―――だが
私は“あの後”何をしたんだ?
緊張で体がこわばる。
そして、私は恐る恐る口を開き・・・友にその答えを求めた。
「束・・・あの後何があったんだ?」
束は・・・いつもどおりの笑顔を浮かべ
「なんにも・・・ただ、“白騎士”に向かってきた軍隊を全滅させたくらいだよ!」
(全然、何にもなくないだろ!!)と内心で束に対して愚痴を思いつつも・・・
一番聞きたかったことを聞くために口を開いた。
「それで・・・被害はどうなったんだ?」
「ん~とね~被害総額が・・・「そういうことを言っているんじゃない!!」・・・わかってるって、“この事件”で負傷者は出たけど死者はゼロ!さっすがちーちゃん!!」
それを聞いて、思わずため息がこぼれた。そして、こわばっていた全身から力が抜ける感覚がする。さっきまで寝ていたソファーに再び、腰を下ろしてさっきの話に出てきた聞き覚えのない言葉に疑問を抱いた私は、再び疑問を解消するために口を開いた。
「束、さっきの話に合った“白騎士”というのはもしかしなくとも・・・“IS”のことか?」
「そ~だよ・・・っと!!」
束は立ち上がって何かコンソールを操作し、いくつもの映像を空間に投影する―――これはニュース番組の映像か?
表示された映像は、日本国内のものだけだったが、それでもほとんどの局がこのニュースしか流していないことがわかる。
ちょうど、事件内容を振り返っていたらしいキャスターによると・・・どうやら、私が眠っている間に日本の総理がこの一連の事件に関する情報を国民に公開した、ということが分かった。
その際の説明時に“白騎士”という仮称で説明をしたと映像の中のキャスターは教えてくれた。
“IS”はその形状が他の航空兵器とは一線を画した―――まるで鎧のような形状だ。“白騎士”と呼ばれるのにも納得がいった。
それにしても騎士か・・・なんだかくすぐったいな
「そーいえば、ちーちゃん!ちーちゃんが忘れちゃってる間、具体的にいうと軍隊の相手をしている間にすごく“おもしろい”ことがあったんだよ!!」
“おもしろい”こと・・?
もう束との付き合いも長いが・・・束が自分で作ったもの“以外”で面白い、なんていう表現を使っているのは聞いたこともない。
そんな表現を使ったことにいぶかしさを感じながら、束に話の続きを促した。
束はさっきのニュースとは別の・・・映像を投影した。
「なんだ・・・これは!?」
その画像を見た瞬間、驚きで目が丸くなった。
私の目の前に、どう見ても自然現象とは思えない・・・透明がかかった緑色の竜巻、いや叩き付けるような雨粒も見えるから、嵐というべきものか?
緑色、それだけでも異常と分かる。だが、問題はその大きさだ―――
“日本を丸ごと”覆っている。
そんな嵐なんて聞いたこともない
更に嵐について詳しく知るために・・・束のほうに顔を向けると
「さらにすごいことはね~ これ、“突然”おきてしかも“瓦礫だけ”を空中に巻き上げたんだよ。“一人も”人間を殺さずに、ね・・・」
そこには、私の“知らない顔”をした束がいた。
彼女は笑っていた―――ただし、今までいつも見てきた“愉快さ”や“楽しさ”からくる笑いではなく・・・
私にはそれが・・・どこか、どす黒く“形容しづらい何か”に感じられた。
「たば・・・ね?」
そんな、初めて見た彼女の顔に驚きを感じ・・・私はどんな言葉をかければいいのさえ分からずに・・・ただ彼女の名前を絞り出すことしかできなかった。
そんな絞り出すような、かすかな声を束は敏感に聞き取って
「なっにかな~ちーちゃん!?」
すぐにいつもの私の知る束の顔に戻った。
「いや・・・何でもない」
それだけ、返したが・・・今思い返すと、内心では安堵していたのかもしれない。
篠ノ之 束が変わらず、私の友達である、ということが自覚できて
携帯で時間を確認すると、既に朝の10時を過ぎ・・・いまさらになって昨日の戦闘による空腹感を感じる。
「そろそろ帰る」
「え~っ!も~帰っちゃうの~?」
あからさまに不満げな表情をして束はむくれたが、早めに何か食べないと腹の虫がストライキの合図として、サイレンを鳴らすかもしれない
束にはまた、何かあったら呼べ、とだけ伝えて私はラボを後にした。