恐れを知るものは、無限の空を目指す   作:めんつゆ

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  外伝 「そして、彼女はその名を継いだ」

 

 よく晴れているな・・・そんなことを思いつつ書類仕事の手を止め、窓を眺める。

 

くまなく晴れ上がった紺青の冬の空

 

まるで、“彼”と出会ったあの日のようだ。

 

あの日彼に出会うことがなければ、私は“楯無”になることができなかっただろう・・・

 

ハルくんに出会うことがなければ・・・

 

◆                 ◆

 

私の家は古くからの名家、というやつで・・・父も母も私には厳しい

物心ついた時から何に使うのかもわからない、特殊な武術、気配消し目標を追跡するための追跡術、それ以外の薬学、生物学、戦術など多岐にわたる分野の知識を叩きこまれた。

今になって思い返すと修行、とでもいうべきものだったのだろう。

 幼心にそんな両親の修行が嫌で仕方がなかったのだろう。今思い返してみると途中で抜け出したり、勉強の最中に居眠りをしてしまったり・・・お世辞にも真面目とは言えずに子供時代を過ごしていた。

 

 そんな時だ・・・たまたま母が、山深くにある更識の集落から出かけて町に来る用事があり、それに付き合って家を出ることを許された。

内心、これはつまらない家から抜け出せるチャンスだと思い・・・母が目を離したすきをみはからって―――抜け出した。

 

 最初の1時間はとても楽しかった。今までいた山奥の更識の集落では見たことがない、きれいな物、おいしそうな食べ物、そして、楽しそうに暮らしている人々

そこにいるだけで楽しくなるような気持ちで街中を走りまわった。

 

 だが、世話を焼く妹もなく、話を聞いてくれる母も友達もない・・・一人きりでここに来た私の気持ちが長く続くはずもなく・・・すぐにさびしくなってしまった。

 

 誰もいない・・・というのがこんなにさびしく怖い気持ちだったのか?

一人で何かすることには慣れているつもりだったのに・・・

そんなとき前に訓練で山中の森に一人で放り出されて、サバイバルした時のことを思いだした。その時は一人きりで森にいることにわくわくしていたのに・・・今はわくわくするどころか、さびしい気持ちで胸の中がいっぱいだ。周りには人がいっぱいいるのに誰も私のことなんて気にも留めていない。

 

 目から涙がにじみだす。

 

あの時とは違う・・・あの時はサバイバルが終われば誰か知り合いが迎えに来てくれた。でも考えなしに飛び出してしまった今は・・・そんな望みもない。

そんな風に自分がしてしまったことの結果に気が付いた私は涙がこぼれそうになるのを乱雑に手で拭って、母を探しに今まで駆けまわってきた街中を探し回った。

 

◆                 ◆

 

 だが、いくら探しても・・・母もそのお付の人さえ見つからなかった。

あきらめずに探し続けてきたけれど、街中にあった森に着いたところでついに限界が来てしまった。

 

きっかけはその森の中にいた親子連れを見たことだった。

仲睦まじいその様子を見たことで、さっきまで抑え込んでいた寂しさこみあげてきた。

さみしさのあまり我慢していた涙があふれだす・・・

抑えていた嗚咽が口から洩れる

ずっと、言わないように我慢していた言葉がせきを切ったようにこぼれだした

 

「ひっく、おか~さん、どこ~?」

 

 そんな風にびーびーと泣いていると・・・ふと、普段の訓練で鍛えられた聴覚がこちらに誰か近寄ってきていることを告げた。

 

「ねぇきみ、どうしたの?」

 

柔らかい声で彼が話しかける―――違う、お母さんじゃない

 

「おかあさんがね・・・いないの・・・」

 

だがもしかしたらお母さんの居場所を知っているかもしれない・・・そう思った私は彼にそういった。しかし、期待はしていなかった。本心ではきっと彼も無関心を決め込んで去っていく、そう思い込んでいたからだ。でも・・・

 

「じゃあ、俺と一緒にお母さんのところまでいかないか?」

 

 そういってくれた。返ってきた答えが自分が思っていた答えと違かったことで、思わず顔を上げて見ず知らずの彼に聞いてしまった。

 

「お母さんがどこにいるか知ってるの?!」

 

 彼は少しもうしわけそうな表情を浮かべつつ

 

「悪いけど、君のお母さんがどこにいるかは知らない」

 

浮かれていた気持ちが一気に下がっていった。でも、次の言葉を聞いた瞬間

 

「でもね手を貸してあげることはできるよ・・・だからさ、泣かないで、一緒にお母さん探そう?」

 

 私の二つの瞳からあふれていた涙がきれいに止まった。さっきまで彼は目の前にいたけれど・・・ずっと“孤独感”を感じていた。でも・・・彼が言ってくれた“手を貸す”という言葉でその孤独感は去り・・・自分が“えもしれぬ安心感”につつまれているのが、わかった。そんな感覚に戸惑いを覚えた私は、彼の言葉に黙ってうなずくことしかできなかった。でも、彼はそんな私に柔らかい笑みを浮かべて

 

「俺の名前はハル。よろしくね!君の名前はなんていうの?」

 

と自己紹介・・・私はというと、何か気恥ずかしくなってしまってか細い声で

「かたな」とささやく

 

小さく囁くような声で言ったために聞き取れなかったのか彼は私にあだ名をつけてくれたようで・・・

 

「よろしくね!なーちゃん!」

 

はじめてつけてもらったあだ名にちょっと戸惑いを覚えつつも、今度は彼に聞こえるように

 

「う・・・うん!よろしく!ハルくん!」

 

 そういうことができた。

 

 

◆                 ◆

 

 ハルくんと一緒にいた時間は今まで独りぼっちだった時間を補って余りあるほど楽しかった。

ハルくんと一緒に悩んで、歩いて、話して、ほっとどっくをかじって・・・そんな“いつも”とはかけ離れた時間が、とても楽しく・・・愛おしく感じられた。

しかし、どんなに楽しい時間でもいつか終わりを告げる。

 

 母が見つかったのだ。

 

 最初は母が見つかってとてもうれしかった。でも・・・それ以上にハルくんと別れるのがさみしかった・・・きっと、あの更識の集落に戻ったら二度と、会うことができないだろう・・・それがわかっているだけに彼と離れて、会えなくなるのがつらかった。

そんな私の心の内を見越したように彼は私にプレゼントと約束を残してくれた。

 

プレゼントはヒーローのお人形

 

そして、約束は私のおすすめのものを教えること

 

 この二つだけを残して彼は去って行った。

 

◆                 ◆

 

 母たちと一緒に集落に戻ってすぐに私は現在の更識当主、十六代目更識楯無から呼び出しされた―――十中八九今日の無断行動のことだろう。でも、今の私は後悔していない・・・たくさんの人に迷惑をかけた自覚はある。でも後悔だけはしていない、もしこの無断行動をしなければ“ハルくん”にも会えず、更識での訓練さぼって私という人生を目的もなく惰性で過ごしていただろう

だから、あの人に何と言われようが、後悔だけはしない

その決意だけ固めて私は党首の執務室の戸を叩いた。

 

「はいりなさい」

 

 当主の許しを得て室内に入る。

黒縁のめがねに穏やかそうな表情・・・それが私たちの長、いや私の父・・・更識楯無の特徴だ。一見はどこにでもいそう(・・・・・・・・)な当主だが、その本質は苛烈で容赦がなく・・・どんなことだって表情一つ変えずにやってしまう、そんな人だ。

 

「およびでしょうか・・・当主様」

「巴からきいたよ・・・抜け出して勝手な行動をとったそうだね?」

「はい」

「それで反省はしているのかい?」

「はい、お母様やお付の皆さんに大変な迷惑をかけてしまいました」

「そうかなら―――」

 

 これから言い渡されるだろう罰を想像して身構える・・・父は娘だろうと決して容赦はしない、でもどんな罰だろうと甘んじて受ける、そんな風に思っていると父の口から飛び出した言葉があまりも予想外で思わず固まってしまった。

 

「―――いい、これからは勝手な行動を慎むように・・・それよりも刀奈、君は町を見て回って何を感じた?」

「・・・・・・」

「刀奈ッ!」

 

 固まっていた思考が父の一括によって動き出す。私はハッとなって父に聞いてしまった。

 

「私の罰は・・・ないのですか?」

「ああ・・・それよりも、さっきの質問を答えなさい」

 

 町を見て感じたこと?―――それは・・・

 

「この更識の集落と違って、いろんなものに満ち溢れているのに・・・なんというかさびしいところだと・・・感じました」

「それだけか?」

 

本当は違う・・・寂しさを感じたのは自分がその場に合っていない“疎外感”を感じたからだ。でも、ハルくんと出会って・・・その疎外感はなくなりもっと違う、何か言葉では言い表せないような“何か”が芽生えた。

 でも・・・“更識”である私は、いつどこで野垂れ死んだとしても文句は言えない、その自覚がある。きっと普通に生きていくことさえ・・・難しいだろう。

だから、口ごもった。

しかし、口ごもっている私を見て・・・お父さんがふと口を開いた。

 

「・・・今、この部屋には、私とお前しかいない・・・だから当主ではなく、刀奈・・・

君の父として言わせてもらうよ。お父さんに君が変わった理由を教えてもらえないかい?」

 

 変わった理由?

私自身は変わった、なんて自覚はなかったから・・・どんなところが変わったのか父に聞いた。

 

「私・・・変わりました?」

「ああ、前からしたら劇的に・・・目がよくなった。以前の刀奈は何をやっていても“やる気”というモノが感じられなかったからね」

 

 そうだったんだ・・・たしかに修行は真面目にやっていなかった。やる気があるとは、お世辞でも言えないようなありさまだっただろう。

でも―――お父さんは“今は”そうではないといった。

なら・・・

 

「きっと・・・約束をしたからだと思います」

「巴の話にあった、ハルという少年のことかい?」

「はい、お父さん・・・私・・・!」

「お前の言いたいことはわかる・・・彼にまた、会いたいのだろう?でも、父としてはまだしも、当主としては許すことができない」

「ッ!」

 

 やっぱり・・・もう二度と、ハルくんにはあえないのかな・・・

父の顔を見ていることがつらくなってうつむく

 

「・・・だが、彼が住むこの国を守ることはできる。前に話したことがあったよね・・・この国は(日本)狙われやすいと、でもなぜ日本が狙われやすいか、”更識の家が”昔から続いてきたかについては話したことがなかったよね」

「はい」

 

「刀奈・・・神というモノをお前は信じるかい?・・・」

 

◆                 ◆

 

 そして、父の口から告げられた更識の歴史は、私を激しく動揺させた・・・たしかに“そんなモノ”が日本にあるならどんな国や組織もそれを求めるだろう・・・そしてそれが間違って振るわれたとき・・・世界は阿鼻叫喚の地獄と化す

そんなことになったら・・・ハルくんは・・・

 

そんなの嫌だ

 

絶対に嫌だッ!

 

「それで刀奈・・・君には二つの道がある。一つはこのまま“普通の”修行を続けて・・・“ただの更識”になる道。そしてもう一つは―――」

 

 父の話が私の耳を打つ・・・でも、あんな話を聞いてしまったら、もう私が進むべき道は決まっている。

 

「これから、“楯無”になる修行を初めて“楯無”となる道だ。“楯無”になるためには更識の中で最も強く、最も賢く、そして・・・最も汚くならなければならない・・・それをわかっているね?」

 

「はい」

 

「では、更識刀奈―――君の決断を聞こうか?」

「私は・・・“楯無”を目指します。

彼が・・・ハルくんが生きているこの国を、いえ“世界”を守るために」

 

「結構・・・」

 

 それから・・・私の修行は今までの修行が砂糖菓子に見えるほど厳しいものとなっていった。

 

◆                 ◆

 

 そして去年、IS学園入学を目の前にして・・・私は父、第十六代目 更識楯無を打ち倒し―――“刀奈”の名前を捨てた。

 

 それから・・・一年、ISという“個人が集団に勝ち得る手段”を手にした私は、日本政府の要請を受けIS学園生徒会長という肩書を受け継いだ。

 今年は・・・妹、簪ちゃんもこの学校に乳がすることが決まっている。

だが、正直言って私たちの関係は・・・冷え切っている。私が楯無を目指すようになってからも楯無になってからも自分のことで精一杯で、それまでの様にあの子にかまってやれなかったからだと思っている。今度入学してきたら・・・

そう考えていると、ふいに携帯が鳴った。

 

 電話の相手はIS学園理事長・・・そして彼の口から驚きの事実を聞かされることになる私は、次のお茶会の話かと思い・・・その時に簪ちゃんのことを相談しようなどと考えていた。

 

そして

 

すべての

 

オリジンは

 

フルスロットル・スクールライフ(全速力の学園生活)へと

 

つながる

 




 皆様こんばんわ!昨日は体調不良を理由に更新をお休みしてしまいすみませんでした。いかがだったでしょう今回の外伝は?この外伝ではなぜあの時なーちゃんがあそこにいたのか、そして・・・彼女が楯無となった理由を描きました。
個人的にはちょっとイマイチな出来なので又書き直すかもしれません・・・
ですが、楽しんでいただけたなのなら幸いです。

それはそうと第二章のタイトルが決定しました!

その名は!

フルスロットル・スクールライフ(全速力の学園生活)です!

現在書き溜めは本編3話まで終わっていますのでサクサク更新を目指して頑張ります!!

では感想、批評、質問などお待ちしております。

それではおやすみなさい
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