ずいぶんと気楽に飛んでいたが…もうあたりはだんだんと夜のとばりに包まれ暗くなってきていた。さすがに羽目を外しすぎた、と思いつつ地表に向かって急降下。そのまま地表スレスレで完全静止し、緩やかに軟着陸させる。その後、打鉄を待機形態に変化させる。
「はぁ~楽しかった!!どうした二人とも?」
さっきからほとんど反応をよこさない二人に疑問を感じ…そう問いかける。
しかし、“テレパシー”で伝えられたスプーの言葉に、何も考えずに空を飛べて舞い上がっていた俺の気持ちは…まるで冷水をぶちまけられたかのよう現実に立ち戻らされた。
【ハル…落ち着いて聞いてください。何者かがこちらを監視しています】
(確認しろ…通りすがりって線は?)
【ありえません。生体反応で把握したことですが…彼女はこのアリーナの放送席からこちらを監視していました】
(なんで、俺は監視されている可能性に思い至らなかった!)
【すみません、不確定情報だったので言いませんでした】
(いや…お前のせいじゃない、それよりも…これからどうするかだ)
そうスプーにテレパシーで伝え、アリーナの地面に寝っころがる。
これですぐにピットに移動しなくても怪しまれることはない。つい、さっきまで上空で飛行していたんだからな―――慣れない飛行で疲れた、と判断させられるだろう。
小声で…打鉄に
「打鉄…たしかISのハイパーセンサーに集音マイクの機能はなかったよな?」
『はい、主…それが何か?』
「確認だ。俺を監視している奴がISを保持している場合、ハイパーセンサーで遠距離から監視はできるが、盗聴はできないっていうことのな」
前提条件はクリア。次は監視している奴の行動を把握しないと―――誰だか知らないが…そっちが先に監視なんてことをしてきたんだ。こっちもやり返させてもらうぜ。
(スプー!件のヤツの状態を監視してくれ!何か不審な行動をとっているようなら、すぐに報告してくれ!!)
【その間、ハルが…これからの行動を決定してくださいね】
(わかった)
俺は満天の星空を眺めつつ思考の海に潜る。
現状を整理だ―――前提として俺が監視されている。監視されている理由は不明、襲撃前の情報収集かIS学園側の放った監視か…そのどちらかだろう。
それと俺は今ISスーツだから紙袋に入った制服を取りに南側のピットによらなければならない。
さて、現状俺が取りうる手段は…二つ。
一つ、スプーにナビをしてもらって監視者に接触しないよう逃げる。
メリットはこの場で接触しないから次の接触に向けて対応策を練れること…ただし、これは問題を先送りにする選択肢だ。根本的に解決するためには相手か、その上の指示を出したものに接触しないといけない。
二つ、このまま監視者に対して気が付いていないふりをして、偶然をよそおい接触する。
これの明確なメリットは特にない。だが、相手が監視だけの場合だった場合、虚をついて情報の一つでも漏らしてくれれば御の字、という感じか?
だが、個人的にはこちらの選択肢のほうが性分に合っている。
いずれ接触しないといけないのなら、受動的に相手が接触してくるのを待つのではなくこちらか積極的に接触して心理的アドバンテージを得る、こっちのほうが俺は好きだ。
だったら結論は……一つ!!
(俺のほうから……【ハル!こちらを監視していた人物がこちらに向かってきてます】)
『Σ(っ゚Д゚;)っ
主いかがなさいましょう?』
(俺の…【どうしますか?】)
『お急ぎを!こちらでも確認できました、既に南側のピットに降りてきています』
(俺……【さっさと決断してください。このマダオ】)
……ぐすん。
なんで俺の考えたことも言えずにこんな批判されなきゃなんねーんだよ……
チクショウ…考えたこと全部無駄になったじゃねーか。
さっきまで俺の悩んでいた時間を返せよ!
もういいや……ここでこっちに人が来るのを待とう。
(もう、待つ……)
そして、俺は“彼女”が来るまでの間しつこい、スプーのテレパシーと打鉄の警告メッセージを無視して、美しい夜空を眺めた。
それにしてもきれいな夜空だ。アリーナがライトアップされてないから余計に綺麗に見えるのか?……そんなことを考えているうちに足音が近づいてくる。
……きたか。
寝転がっている俺の脚のほうから聞こえていた足音がふいに止まる。
「ねぇ…キミ、こんなところで寝っころがって…何してるの?」
どこか、綿あめのような柔らかく甘い…でも、どこか作った感じをうける声。想像の通り女性だったな……
「疲れたんで、休憩していただけですよ」
「ふ~ん、ねぇ…きみ、アリーナの使用規則ってしってる?」
使用規則?そんなのあったのか?えーとたしか…織斑先生が“第3アリーナ”の使用許可を取ってくれて……あれ?
「打鉄…今、俺たちがいるアリーナって第何だっけ?」
『第・・・』
「ここは第1アリーナよ」
………や ら か し た
(なんで言ってくれなかったんだ!!)
テレパシーで相棒にそう訴えかける。
だが、うちの賢い相棒様は…至極当然かのように
【あなたがいくら忠告しても、私のテレパシーを無視して物思いにふけっていたからですが…なにか?】
(……なんでも、ありません…すみませんでした)
【まったく、あなたはいつもそうなんですから……】
頭に響くスプーの説教を甘んじて受けていると…ふいにほほに冷たいものが当たって飛び起きる―――頭に情けない声をあげて、とついたが……
「ひゃぁあ!!」
「あはははっ!変な声♪おねーさんを無視するのがいけないのよ?」
急に飛び上がったことにより、目の前でかがんでいたらしい彼女の顔がすぐそばに見える。
「ふぇええええ!?」
思わず、奇声をあげて座ったまま後ろに後ずさりしてしまう。
いったん彼女から離れたことでやっと彼女の顔を見ることができた。
幻想的な青い髪に宝石を連想させるきれいな目口元に浮かべた微笑……
彼女を見た瞬間、俺は固まった…
なぜだろう、初めて会ったはずなのに…初めて会った気がしない…そう、これは…一夏にあった時に似ている―――これは
だったらどこで出会った人物だ?
わからない…でもどこかで…
そんな様子を見て彼女は浮かべていた微笑を、からかうようなイメージを抱かせる意地の悪い笑みへと変え。
「ぼーっとしちゃって…おねーさんの顔に見ほれちゃった?」
「違います!あなたこそいきなり何をするんですか!?」
彼女は後ろ手に持っていたものをこっちに向かって投げる。
彼女から投げられたものはよく冷えたスポーツドリンクだった。
(さっきはこれをほほに当てられたんだな)
「先輩からの差し入れよ、飲んでおいたほうがいいわ。見たところ随分と飛んでいたみたいだし……」
これはありがたい、正直のどがカラカラだったんだ……じゃなくって!!
「貴方は一体…何者なんですか!?」
「私?私はあなたを含めた、
そういって彼女は自信に満ちた表情を浮かべいつの間に手に握っていた扇子を開きそこに書いてある言葉をアピールするかのようにこちらに見せる。
『生徒会長』?…なんで生徒会長がこんなところにスポーツドリンクもっているんだ?
「不思議そうな顔してるわね?じゃあ織斑先生から聞いてなかったかしら?第三アリーナに人を手配しているって?」
「あっ……」
そういえば、そんなことを言っていたな…もしかして……
「あなたがその……織斑先生が手配してくれた…」
「そう♪ところで…何かおねーさんに言うことはない?」
……今の時間は大体日没してから少し経ったぐらいだから、大体6時過ぎくらいか?それで、織斑先生と話してたのが3時くらいだったから―――まさか!!
「もかして、ずっと第三アリーナで待っててくれた、んですか…?」
「うん、織斑先生の頼み事だからね~むげには断れないよ」
「うっ……」
「それでこんなに暗くなるまで女の子を待たせて何かないのかな?」
「……ご、ごめんなさい」
「よろしい」
そういって彼女は満足そうに扇子を開いた。
そこには『善き哉』の三文字が…あれ、多芸な扇子だな?
とりあえず地面にへたり込んだままだと話を続けずらいので立ち上がって尻に着いた土を払う。
「それで、わざわざ探してくれたんですか?」
「そうよ♪さて、そろそろ終わりにしないと寮の学食しまっちゃうわよ?」
「ほんとですか?じゃあ急がなきゃ!じゃあ失礼します生徒会長!!」
これは好機だ。これでうやむやにして逃げる!!
正直、彼女のペースを崩すつもりが、完全に俺のほうがペースを崩されちゃってる。
ここは戦略的撤退だ!!
【相変わらずですね…このマダオは……ここで攻めないと情報なんて……】
(うるせい、逃げるぞ)
一礼してから、ダッシュで彼女のわきを抜けて南側のピットに向かおうと駆け出す。
が…そんな俺のもくろみは目の前に突き出された扇子によってもろくも崩れ去った。
たかが扇子…されどその扇子をのけたら何か違うもので足を止めさせられる、気がする。
この人…俺を逃がさないつもりか?
「…さっきの話を聞いたら、腹の虫が暴れだしそうなので失礼したいのですが……」
「ごめんね~あなたへの話はまだ終わってないのよ。もう少し時間をいただいてもいいかしら?」
「手短に、お願いします」
「さっきの飛行を見させてもらったわ…随分と激しく、楽しそうに飛ぶのね」
さっきの飛行?あんなの“誰にもできるだろ?”それだけの能力を
「それが何か…?“あんなの”誰にでもできることでしょう?」
「“あんなの”ねぇ…まあ、いいわ。加藤君…たしか来週、イギリスの代表候補生とIS戦をするんでしょう?」
織斑先生から聞いたのか?…事実である以上ごまかす意味はないな。
「そうです」
彼女はその答えを聞いて満足したかのように笑みを広げる。
「このままであの子に勝てると思う?」
「いえ……勝てるとは思いません」
彼女の顔から、一瞬、ほんの一瞬だけ笑みが消え驚いたような表情になる―――すぐに笑顔に戻ったが…その一瞬を俺は見逃さなかった。
考えろ
今…彼女の顔が一瞬、真顔に戻った!?
これは俺が彼女の予測の外に出た、と考えていいのだろうか?いや……
「なら…おねーさんが鍛えてあげようか?これでも…「いえ、結構」…どうして?」
どうして…って聞かれるとは思わなかったな…でも、ここで目立つ”メリット”はないしそれよりも…
…さっきまでうかべていた笑みが消えた!?―――これは、情報を引き出せるか?
「勝ちに行く気がないからです」
「そう…随分と、意気地がないのね」
彼女は失望したような悲しい顔で俺の目を見つめる。
その、どこか愁いを帯びた視線が―――“いつか見たあの少女を思い返させ”
俺の心をかき乱した。
わからない
なんでこんなに心がぎゅうぎゅうと締め付けられる感じがするのだろう?
目の前の彼女は俺を監視していたのに…俺を危険にさらす人なのかもしれないのに
ついテレパシーで相棒に
(なあ…スプー…俺、修行が足りないな)
【…その通りです。ですが…“私は”嬉しく思います】
(どういう…っ!)
「ねぇ…加藤君聞かせて、さっき“勝ちに行く気がない”って言ったよね…じゃあ、なんで君は…そんなに“悔しそう”な顔をしているの?」
悔しそう?俺が、か?俺が今回の話に乗ったのだって、俺が我慢できずに安い挑発に噛み付いちまったのが原因だ。それを理解しているし、俺が持つ
でも、自分が何か釈然としないものを感じているのも、確かだ。
だが……
「さあ…知りません、もういいですか」
俺が下した決断は……逃げる、ことだった。
そんな俺の情けない決断を、彼女はそれ以上責めようとはせず……
また柔らかい笑みを浮かべて掲げていた扇子を下ろしつつ
「そっか、わかった。じゃあ……またね」
そう、言った。
なぜかそれ以上彼女の顔を見ていることができず…
顔をそらして、正面を見つめて駆け出す―――
その前に、きっともう会うことのない彼女に
「今日はありがとうございました。スポーツドリンク後でいただきます」
と、だけ言い残して駆け出した。
振り返る音と、彼女の視線を感じる―――だが、もう振り向くこともできなかった。
ドーモ、読者=サン。めんつゆ=デス。
いかがだったでしょう?おそスト第11話は?
やっとヒロインの登場ですよ……長かった……それよりも、楯無さんのかわいさがうまく描写できない!!くっ…こんなに表現が難しいなんて…精進します。
書き溜めが…書き溜めが…進まない。これは日刊がつらくなってきたか?
とりあえず限界まで頑張ります。
今回はネタなし。というか当分シリアスが続くのでネタはないと思います。
では、また感想などいただければ幸いです。
この辺で失礼します。
おやすみなさい