すでに夜闇に包まれて久しいこの場所、立つ男―――二人、一人は俺……
そして、もう一人…木陰から音もなく表れた男、彼は”世界で最初にISを動かした男”
俺の数少ない、友人…織斑一夏だった。
誰もいないと思って油断していたところに現れた一夏の存在は俺心を動揺させた。
まだ―――大丈夫、まだ、ごまかせる!
そんな風に自分の思いを奮い立たせ…なんでもないかのように笑顔を作り…一夏に話しかける。
「一夏!どうしたんだ?こんな時間に、これから寮に向かうとこだから…」
「ハル。…無理、しなくていいぜ」
ッ!―――無理?何を、言っているんだ?一夏は…
「俺が何を無理してるって?何のことを言っているんだ?それより…」
しかし、話題を変えようとした俺の言葉は……右手の相棒が発した言葉でさえぎられた。
【いいえ、もういいでしょう…ハル】
「スプー!?なんでこんな時に…今は一夏もいるんだぞ!!」
しまった―――思わず素が出てしまった…じゃなくて!
なんでスプーが急に話し出したんだ?
一夏の無理をしているっていう言葉の意味ってなんなんだ?
なんで”俺以外に”誰もいないはずのこの場所にアイツはこれた?
スプーや打鉄が警告しなかった理由は?
俺の頭の中に噴出した疑問が…一つの仮定を導き出した。
導き出された結論は……
「スプー……お前が一夏をここに呼んだのか」
【はい】
「なんで…なんでなんだ!どうしてい…「それは、俺の口から説明する」…一夏」
一夏は草を踏みしめつつこちらに近寄ってきて、へたりこむ俺のすぐ目の前に腰を下ろした。
「なあ…ハル、このままじゃあ世界が滅びるって―――本当か?」
「なんの…ぐっ!……」
ごまかそうとした俺の言葉は、電光石火の早業で俺の胸倉をつかんだ一夏の行動によってさえぎられた。
ISスーツごと胸倉をつかまれた俺はその息苦しさに不快感を感じ一夏を睨みつける、が―――その瞳に宿る意志の光を感じ……直感的に“ごまかすのは無理”だということがわかる。それに、一夏の瞳から感じる悲しさも、な…
一夏に胸倉をつかまれたまま、自問する―――一夏を巻き込んでいいのだろうか?
俺の戦いに
……ダメだ。巻き込めない
俺が果たすべき責任なんだ―――俺がやらなきゃ…誰がやる?
そんなのは嫌だ―――絶対に嫌だ
だって……俺は知っている。
そしてその行いの尊さも
だったら……ゴメン、一夏……
俺は、“ある覚悟”を込めリングに意志を通す―――だが、それだけで終わるはずだった行動は想定外の要因に妨げられた。
【ハル…いい加減逃げないでください】
スプーだ。
(いったいどうやった?)
だが、本来スプーはグリーンランタンの補佐を行うためにリングに搭載された、“管理用AI”に過ぎない……行動の決定権はアイツには存在しない―――そう、アイツから聞いた。
だから、今俺がやろうとしている“一夏の…俺に関する記憶の消去・改ざん”を知ることはできてもその行動を阻害することはできないはずだ。
そんなとき一夏が
「ハル…お前は十年来の、俺より付き合いの長い友達なのにスプーさんのことがまったくわかってないんだな……」
「どういうことだ?一夏…お前はスプーに何を吹き込まれんだ?」
「全部、だ。スプーさんは俺にはじめっから全部教えてくれたよ。
お前が実際の年齢と違う記憶を持っていること、お前が力を得たこと、親父さんを目の前で失ってその責任を果たす決意をしたこと、そしてこの世界に強大な異星人がやってくること――――ソイツと戦うためにハルが無理をしていること…全部、な……」
一夏は一度言葉を切り、何かを込めるようにもう一度…今度は訴えかのように語りだした。
「なあ…ハル、なんでお前は無理をしてまで…自分を傷つけてまで戦うんだ?
それを隣で見ている奴の気持ちを考えたことがあるのか?」
そういって一夏は悲しそうに手を放した。
悲しそうにこちらを睥睨する、彼に…俺は嘘をついた。
「戦うって…何とだ?お前、打鉄の外ずけ対人対話用インターフェイスでしかないスプーに言われた冗談を真に受けてんのか?全部ジョークさ…全部、な…」
ゴメン―――一夏…軽蔑してくれて構わない…でも、こっちの世界にお前が来る必要なんてないんだ……だから、俺はお前を突き放す。
俺の言ったこと全部が嘘だと、そう思わさせる。
この決断で、お前が俺のことを嫌いになったとしても……俺に悔いはない。
「なあ…スプーさん、コイツ嘘つくのスゲー下手だな」
【すみません一夏さん、このマダオ最近まで私以外の他人と接触していませんでしたので腹芸とかそっちのほうはまるで駄目で…】
『織斑殿、お初にお目にかかりまする。拙者…加藤陽の専用機をやっております打鉄と申すもの…以後、主ともどもお世話になり申す』
「こちらこそ初めまして!よろしくな、打鉄」
【このタイミングでは自己紹介とは…やはり、鉄屑ですね】
『なんだと!骨董品!拙者が下手に出ていればよい気になりおって…』
【何か、不満でも?】
『あるに決まっておろう!大体………』
「おもしれー機械の漫才なんて初めて見たぜ」
そういってさもおかしそうに、笑い出す一夏の顔を見ていると…心の中からふつふつと、なんでこいつら俺の気持ちも考えずに漫才なんてはじめてんだという理不尽な怒りとこのアホのために何を俺は今まで悩んでいたんだろ…というむなしさが湧きだしてきて
「……なんで、お前らはふつーに漫才やってんだ!?」
気が付けば、そう怒り顔で突っ込んでいた。
そんな俺の激昂した言葉に、一夏はどこか吹っ切れたような美しい顔で
「そんな見え見えの嘘に引っかかるアホがいるなら見てみたいね」
そう…のたまった。
そんな表情を浮かべられて、俺が感じていた怒りはさらに燃え上がり一夏に噛み付く
「嘘っていう根拠は?どこにある!!」
一夏ははぁ…と深いため息をつき呆れて腹も立てぬといった風な顔をして
「ハル…お前は気が付いてないかもしれないけど、お前嘘をつく前に一瞬、哀しそうな…いや、罰の悪い顔するんだよ…正直、バレバレだぜ」
「それは…でも、【ハル、“でも”、”だけど“、”だって“は禁止ですよー賢さんにも言われたじゃないですか】……」
必死にごまかそうと、無理矢理な論理で作り上げられた嘘は俺のことをよく見ていた二人にあっさりと感化されてしまった―――やっぱり…俺、口がうまいわけじゃないよな……
どうやったら論破して、さっき一夏が言っていたことを嘘だと自覚させられる?
考えろ!
そんな風に頭を抱えていると、スプーがいつもの様に無機質に俺に話を切り出した。
【ハル…さっきあなたは私になぜ“命令に逆らえるのか”、と聞きましたね……】
くそっ!ダメだ…ここまで来たら―――いや、あきらめるな!俺の問題に一夏を巻き込んでいいわけがない!!
混乱する思考を頭の中で振り回している俺に、スプーがテレパシーと声音の両方を使って話を続ける。
【…簡単な話です。私が生き者となったから…私を物としてではなく…命あるモノ、一つの生命として扱ってくれたから…
俺の反応なんてお構いなしにスプーは話を続ける。
【最初は武器に名前を付けるなんてよっぽどさみしい人なのでは?と思いましたよ…ですが、あなたが一人でも戦うことを決意して…“戦うために必要だ”なんて言って自分の体を痛めつけて、そのせいで何度も痛みに泣いて…恐怖に震えて…それでも戦う意思を折らなかったあなたの姿を見て…】
やっと、スプーが訴えかけてることの真意に気がついた俺は、何か言い返そうとして口を開いてはみたが…何も言葉が思い浮かばず閉口する。
【私は初めて、自ら思いました―――あなたと共に戦いたい、と…】
「だったら、既に一緒に戦っていてくれてるじゃないか…なんで一夏をここに呼んだんだ?」
俺の問いにスプーは怒りをにじませるように言った。
【あなたが…私の話を聞き入れてくれないからでしょう!】
「月での修行は俺が戦うために必要だった。それはお前もわかっているだろう?」
【わかっています…ですが……】
狼狽したかのような声色のスプーに隣から助け舟が入った。
「なあ…ハル。お前は、目の前で俺や箒、いや“誰か”が傷つきそうになっていたら…どうする?」
俺は急に割って入った一夏のほうに改めて視線を向け、すぐに答えた。
「そんなの決まっている、すぐにその人の前にいって…俺のできることをする」
俺の答えを聞いた一夏は悲しみの色をさらに濃くして
「そのできることって……自分が傷つくようなことでも、か?」
「ああ…それが、それこそが俺の選んだ生き方だと思うから」
一夏はうつむき、何かを堪えるように訴える。
「お前は…それを隣から見ている奴の気持ちを考えたことはあるのか!」
っ!!―――そうか…そういうことだったのか?だからスプーは…でも、俺の考えを曲げるつもりは、ない。
やっと、スプーの真意に気が付いた俺は…それでも、意志を曲げずに遠い昔…父さんが死んでから、アメリカに行くまでの間に考えていた言葉を口にした。
「それは……ある…」
俺の…いや、スーパーヒーローと呼ばれる者たちは、はたから見れば単なるドMか、頭のイカレた狂人だ…自分から危険に飛び込んで行って、傷ついて、守ったものから責められて
…最後には命を散らす。
そして、戦いには終わりがない。
なんと、報いのないことだろう…仮に、自分の愛する人がそんな自傷行為みたいな真似をしているのなら…どんなことをしても止めようとする、はずだ。
「…あるけど……俺はこの生き方から逃げるつもりはない!」
しかし…俺はもう知ってしまった。
失うことの辛さも
無力の嘆きも
力の意味も
だから、俺は―――引き返せない
この与えられた力に、伴う責任を果たさねばならないんだ
そんな俺の“間違った”の吐露に一夏は涙をにじませながら否定する。
「やっぱり…やっぱり全然わかってねーよ!お前が責任感の強いクソ真面目なヤローだってことなんてもうとっくにわかってんだ!!
なんで自分一人で全部背負い込もうとするんだよ!
俺や…スプーさん、打鉄だって…お前が無理してんのは目に見えてわかってんだよ!」
打鉄はディスプレイを使って俺を案ずるかのように否定する。
『主…あなた様の生き方はご立派にございます―――ですが、この新参者にすぎぬ拙者にも主がいかほどの思いを込めて使命を果たさんとしているのかは、わかりました!
しかし…しかしながら、主はもう少し我を出してもよいのではないでしょうか?』
スプーが万感の思いを込めるように否定する。
【あなたはばかです。
まったく質問の本質を理解してません…
私は、あなたがこの使命を他人に押し付けられるほど、厚かましくないことも…
本当は自分の責任の重さに潰れてしまいそうなほど恐がっているのも…
それをわかっているから自分を追い込んだことも…
全部知っています】
そして、みんなは一つの結論を提示した。
「だから俺達を…」
『拙者たちを…』
【もっと私たちを…】
頼って「くれよ!『いただきたい!【ください!】』」
―――誰かを頼る、か…そういえば十年前にメタヒューマンを探してアメリカに行って以来考えてたこともなかったな…いつも自分が何とかしなきゃって…気負いすぎていたのかな?
考え込むことなどせずに自分の心にあった思いがぽつぽつと口からこぼれだす。
「俺が強くならなきゃ…パララックスには勝てないんだぞ」
一夏が励ますように声をかける。
「さっきも言っただろ?そんなんじゃ誰にも勝てないって…なんで俺なんかがそんなことお前に言えるかわかるか?」
「わからん、教えてくれるか…一夏」
一夏はにじんでいた涙をぬぐい
「自分に自信を持てないヤツは、自分の力に疑念が生まれる―――だから、最後の最後でその疑念が邪魔をして全力を発揮できないんだ。…千冬ねぇの受け売りだけど、前に剣道をやっていた時に実感したから、あるって断言できるぜ」
一夏の話に次いで打鉄がディスプレイを発生させる。
『一夏殿は主より物事の道理というモノを知っているようでござるな…』
そんな風に知ったかぶる打鉄に問いかける。
「なあ、打鉄…我を出せって言ったけど…俺自身は結構我を出しているつもりだったんだが?」
『(*'へ'*)ぷんぷん
ならばなぜ、主は“自分を抑えられない”とおっしゃっておられたのか?その“抑えらぬほどの思い”…それこそ主が我を出していないことの証にはではありませぬか。』
その話をスプーが補完してくれる。
【ハル…あなたには言うまでもないことかもしれませんが、グリーンランタンの隊員になるための条件とはなんだか知っていますね?】
「…ああ。“どんな生き物”でも“生き物でなくとも”意思のある者たちの中からただ、一つ、“恐れを知らぬ者”のみが選ばれれる…だろ」
俺の答えを聞きスプーは懐かしむように話を続ける。
【ハル…“恐れを知らぬ者”とはどんなものだと…思っていますか?】
「そりゃあ…恐怖を感じないヤツのことを言うんじゃなかったのか?」
【私もあなたという人を知るまでは、そうだと…それでいいと思っていました
―――ですが、今は違います】
その無機質な声色に、強い思いがこもっていることが俺の心に伝わる。
【ハル、“恐れを知らぬもの”と“恐れを忘れたもの”は違うのです】
“恐れを知らぬもの”と“恐れを忘れたもの”は違う…?
どういうことだ?どっちも恐怖という感情を克服したという点では同一じゃないのか?
【恐れを忘れることは誰にでもできます―――ただ恐怖という感情を切り離せば…それでおしまいです。しかし…これは、恐れから逃げている証なのです】
その言葉に…今までの、必死の努力を全て否定された気がした―――だから、言い放ってしまった。
秘めていた思いを
「じゃあ…どうすればよかったっていうんだ!!味方はいない…情報もゼロ!俺はただでさえ弱っいていうのに
それなのに、俺は…俺はッ!」
相棒は包むような優しい声で俺のささくれ立った心を引き継ぐ。
【わかっています…戦うのが怖かったんでしょう?】
「ッ―――――!」
そうだ…認めよう
俺は
自分の力が及ばないのではないか?と何度も思った。
でも―――逃げたくはなかった。
俺の受け継いだ力の責任から…自分の良心から…
その両方から…逃げるのだけは嫌だ!
だから…
恐怖に震えるあしを踏みしめた。
痛みを感じることに自分を慣らした。
不安にまみれた心を責任感の鎧で覆った。
そうやってやっと、
【あなたは―――それでいいんです】
「へ?」
唐突に訪れた肯定の言葉に、思わず情けない声がこぼれた。しかし、そんなことなど
【あなた恐怖を知っています…しかし、恐怖に膝を屈せず立ち向かっている―――
“恐れを知る者にしか真の意味で恐れを乗り越えることはできない”のです】
【だから…あなたの心を、あなたの他者に向ける優しさを切り捨てないでください】
―――わかった
「なあ…俺は十年かかっても未だにヤツと戦う不安を乗り越えられない“臆病者”だ。
それでも、そのままでも…いいのか?」
その問いかけに、一夏がまっすぐな視線で肯定する。
「お前が臆病者だって?ハルみたいなアホじゃなかったら誰が、世界を滅ぼした化けモンに立ち向かえるんだよ?」
打鉄はいつもの様に肯定する。
『拙者もスプーと同じ…ように感じられます。拙者が拙者として主に仕えられていられるのは“あの日”主にねぎらいの言葉を投げかけていただいたから…そう思えてならないのです
だからこそ…これ以上自分の心を傷つけないでくさい』
そして、相棒が
【あなたは…以前、自分が頑張るだけ、と言いましたね?】
「ああ…」
【あなたは十分頑張りました。今度は、いえ…これからは私たちにも協力させてください】
俺を肯定した。
ふと、父さんが残した言葉を思い返す。
もし不安があるならそれを乗り越えなさい。
恐怖に震えるなら僕たちのことを思いだしなさい。
そして、恐れずに人に接しなさい。
きっと君を受け入れてくれる、友が…そして、愛してくれる人がそこにいるはずだよ…
まずは自分が動き出すんだ、そうすることでしか世界は動かないよ。
…俺はなんで忘れていたのだろう?答えはあの日すべて父さんから託されていたじゃないか。ならば、もう悩む必要は―――ない!
俺は…顔を上げ目の前のあいつを見つめる。
「一夏…助けて…くれるか?」
アイツは満足げに表情を緩めさせて一言
「もちろんだ!!俺たちは…もう親友だろ!」
ここは
俺…親友ができたよ
そんなあったかい気持ちで
「これからよろしくな、
感謝の言葉を
ドーモ、読者=サン、めんつゆ=です。
日刊を目標にしながらなんだか文字数が7000字を超えてすでにキャパオーバーの地獄に到達した男めんつゆです。
更新が遅れてしまいもうわけありません。
基本的に一日大体3000字程度が限界でしたので……心理描写って難しい!
それはそうと…いかがだったでしょう、十三話は?
今回の話のメインはハルが月面での生活で歪んでしまった心を人間らしい形に戻すこと、でした。
ほんとはもっと短かったのですよ?でも…なんだか、どうして歪んだのか、とか説明しているうちにどんどん文字数が増えて行って…本来はなぜスプーがあんなネタまみれになったのか作中で明かす予定でしたが…どうしても話のノリ的に入らないことがわかりまして…今後も入れられそうにないのでこの場で明かさせていただきます。
なぜスプーがあんなにネタまみれになったのか!
その真実は―――ハルの会話に興味を持ってもらうため、でした。
いやー月面でスプー以外に会話相手もいないでずっと修行してきていたら…絶対ゆがむなぁーと思いまして、一夏という自分の戦いを知り理解してくれる友人を得させてやっと戦うだけの人形でよかった心が、戦闘能力はそのままに人間に戻ってくることができました。
あとは…事後処理だけですね!―――と言ってもその事後処理で1話消費する模様…セシリア戦はいつだって?私が知りたくらいですよ!
では、今日はこの辺で失礼します。
また、感想、質問、ご指摘など反応を返してくれればめんつゆにとってとても助けになります!気が向きましたのなら一言お願いします。
ではおやすみなさい