恐れを知るものは、無限の空を目指す   作:めんつゆ

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 第4話 「ハル、自覚する」

□                  □

 

 光陰矢のごとしとはよく言ったものだ。

前世で聞いた話だが、生まれてから20歳になるまでの体感時間と、20から死ぬまでの体感時間は一緒らしい。

 

つまり、精神年齢24歳の俺にとっての4年間なんてものは、あっというまに過ぎ去るうたかたの夢のようなもので、

・・・それでも何もできない間は、結構長く感じたが・・・

今年の七月でやっと、やっと、俺は四歳になった!

 

 小さいことだと思うが、幼稚園の帰り、家に帰るまでに図書館に寄れるようになったのは大きい、やっと情報を収集できる。ちなみに、賢さんは自分の仕事で、よく海外を飛び回っているから、黙って図書館に通っているのは気が付かれない。そして、晴香さんや幼稚園の先生の前では俺の、完璧ないい子のこどもを演じることで疑いすら持たれていない!

フフフ、これが、俺が長年(1年)かけて考えた、完璧な計画だ!ほころびなど、存在しないっ!

 

 そして、この世界に生を受けてからずっと悩んでいた問題にやっと、自分なりの結論がでた。

 

俺は“加藤陽”として生きていこうと思う。“俺が殺してしまったのか?”、“元々死ぬ定めで俺が中に入ったから、生まれることができたのか?”それは、神ならぬ俺には分からない・・・

 自分がいていけない存在だと思って、自殺をしようと考えたこともある。

だが、それでも、俺はこの世界で“加藤陽”としてせいいっぱい来ていこうと思う。

問題にベストの結論は出ないが、これが俺の考えたベターな選択だ。仮に俺が死んだところで“加藤陽”は戻ってこないし、そのあとも世界はなんてこともなかったかのように流れ続けるだろう。

 

人が本当に死ぬのはその人を覚えている人が、誰もいなくなったときだという・・・

それに、「愛の反対は無関心だ」とある人は言っていた。

俺は“佐藤晴彦”、“加藤陽”という人間がいたことを唯一知る大人だ。この結果から俺は目をそらしてはいけない。逃げてはいけない。精一杯生きて、あの子が俺に“託したもの”を成し遂げなきゃならない。

それが俺の最適解(ベター)だ。でも、自分の正体は二十歳になるまでは伏せておこうと思う。きっとあの二人でも混乱すると思うから、一応ここまでのことを・・・ここまで書いたところで俺を呼ぶ声が聞こえた。

 

「やべ!早く隠さないと!」

 

二階にのぼってくる音がする。おそらく晴香さん、俺の“お母さん”だ。このノートを見られるのはまずい、早く隠さないと・・・大きな絵本の奥にノートを突っ込んだところで晴香さんが子供部屋のドアを開けて入ってきた。

 

 「ハルちゃぁ~ん、ママと一緒にお夕飯のお買い物に行きましょう~♪」

「う、うん、わかったよ。お母さん、お仕事はいいの?」

 

晴香さんは、どうやらそれなりに有名な作曲家だったらしい。行動範囲が家の中にしかなかったときに家の中で楽譜が詰まった本をたくさん見つけた。

家のリビングにあるグランドピアノもその名残らしい。現在は、自宅で作曲活動を行っていて、俺が幼稚園に行っているときに仕事をしているようだ。

 

「うん、全然大丈夫だよ~それより明日には、賢ちゃんが帰ってくるからたっくさんおいしいものを食べてもらうように、頑張らなくっちゃ!」

「じゃあ、僕もいっぱい手伝うね!」

 

そういいながら、母に手を引かれ最寄りのスーパーマーケットに向かう。

 

「ありがとね、ハルちゃん。それよりも幼稚園でお友達はできた?」

「えぇ~と・・・それは・・・」

口ごもる俺、やっべぇ~この話題は俺のもっとも苦手な話題だ・・・

「まだ、できないの?ハルちゃん?何事も自分から話しかけないとお友達はできないよ?」

「うん・・・ごめんなさい・・・」

俺は、正直言ってあまり友達作りがうまいほうではない。もともとそうだった・・・気がする。思い出そうとしても、家族以外に思い出せなかったのがその証拠だ・・・

その上、いま俺は、一人で幼稚園を出た後、図書館や本屋によって帰ってるから・・・

ぶっちゃけ、遊んでいる余裕は無い。遊ぶよりも情報の収集を行ったが落ち着く・・・というか、周りの子供が精神年齢低すぎて、話についていけない。

俺は、ジェネレーション・ギャップを感じているのだ。

「別に怒っているわけじゃあないんだよ?でもね、お母さんはちょっと心配なんだよ・・・このままいったらハルちゃん一人ぼっちになっちゃうかもしれないでしょ?」

「うん・・・わかった・・・頑、張る・・・」

「よし、じゃあ、この話はここまでっ!せっかくだから何か食べていこうか?」

「いいの!?」

「うん、もちろん!何が食べたい?」

 

 よしっ!久しぶりの外食だ!何にしようかなぁ?・・・・ハッ!・・・まてまて俺は四歳児だぞ・・・どこに入ろうが、せいぜいお子様ランチが関の山だろうが・・・くそっこの体が憎らしいっ!早く大人・・・せめて小学生になりたいっ!

 

「ベニーズで・・・いいよ・・・」

「本当に?本当にそれでいいの?」

「うん・・・」

「ママ、ベニーズはいやだなぁ・・・ハルちゃん、お寿司は食べたくない?」

 

 晴香さンッ!あなたは神だっ!寿司ッ!それは甘美の味ッ!脂ののった刺身の、の口の中でとろっとろける触感ッ!ホタテや甘エビの、絶妙な甘みッ!それらを支えるシャリのどっしりとした存在感ッ!そして子供が行っても不思議ではない違和感のなさッ!

あえてもう一度言う・・・晴香さんは神!

 

◆      ◆

 

「ありがとうございました~」

「・・・それにしても、よく食べたねハルちゃん。七皿も食べるなんて、ママびっくりしちゃたよ~」

「うん、すごくおいしかったんだもん!ちょっと食べすぎちゃった!」

 

 やっぱり寿司は最高だぜ!アジ、ホタテに、サーモン、甘エビ、カニ味噌まで食べちまった!

 

 「それに種類も・・・ずいぶんと珍しいものを頼んでたね・・・」

「うん!すきなんだ~!」

「そう・・・」

 

よく見ると、晴香さんの表情が硬い・・・何かあったのだろうか?

「お母さん・・・なんかあった?」

「え・・・そんなことないよ~ちょっと賢ちゃんに何を作ってあげるか考えてただけ!」

「そっか!じゃあ何作るの?」

「だんだん、寒くなってきたし、クリームシチューと賢ちゃんの好きな魚のフライにしようと思うんだ」

「了~解っ、じゃあ、必要なのは牛乳と白魚と野菜とかだね!」

「うん!そうだよ」

「お母さん、うちに玉ねぎあったっけ?」

「ん~と・・・もう残り少なかったから、買っとこっか?」

「わかった、とってくるね」

 

「やっぱり・・・なのかな」

俺が玉ねぎを取りに行くときに、晴香さんの声が小さく聞こえた気がした・・・

 

 

 

 




今夜は二話連続投稿です。
お楽しみいただけたら幸いです。
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