「すまない…ちょっと時間を割いてもらえるか?」
四限の授業が終わった休み時間、俺はそう言って彼女に話しかけた。
「何かしら…あいにくとわたくしも、あなたのような下賤で、無益な、オタクにかかわっているほど暇ではないのですが…?」
彼女―――イギリス代表候補生、セシリア・オルコットに
「10分で構わない。それとも……代表候補生様はその程度の時間をとれないほど、過密スケジュールなのか?」
一瞬、考え込むようなそぶりを見せた彼女はすぐに結論を俺に告げた。
「いいですわ。ただし、ここで話してくださらない?」
「ここで、か……」
今教室には、授業が終わったばかりだからか一夏や、箒ちゃんを含めまだ沢山の生徒がたむろしている。
まぁ…いいだろう“別に俺にとってはなんてこともないし……”
「OK、じゃあ…」
そこでいったん言葉を切り、次の言葉を強調させる。
「俺って…なるべくなら、勝負事には正々堂々と当たりたいっていう信条があるんだ……」
「はぁ…?それが何か?」
此方の話の意図が理解できない彼女は不思議そうに、そう聞き返した。
「だから…言っておく、実は昨日は君の挑発に乗ってかっとなってしまったが…本当は君と戦う時わざと…負けるつもりだった」
「な、なんですって!!あなた、私を愚弄しますの?」
烈火のように怒りを顔に包ませて俺に食ってからそうと、席から立ち上がろうとする彼女を手で制して、話を続ける。
「…ああ、すまない」
そういって俺は彼女に頭を下げる。
「ッ!何のつもりなのですか?いまさら謝ったところで…」
「許されるとは、思ってないさ…でも、これはけじめだ―――君に対する宣戦布告をするための、な」
「宣戦、布告、ですって?」
「ああ、正直昨日“あること”があるまで…キミのことなんて眼中になかった。昨日だってあの後やっすい挑発に乗ったことに自分で後悔したくらいだ」
「ッ…そう、そんな腰抜けがなんで今更やる気に何てなったのかしら?」
彼女の顔から怒りが消えた…いや、あれは怒りをためている感じだな
そんなことを考えつつ話を続ける。
「ああ、理由は二つ。昨日君と別れた後…あることがあってね。そのあることのおかげで自分の思いに背を向けることをやめられたんだ。そしてもう一つは―――ある人と負けられない賭けをすることになったからだ」
「ふん、あなたは代表候補生であるこのわたくしを甘く見ているのではなくって!なんなら―――」
「ハンデはいらない」
彼女が続けようとした、隠しきれない怒りとにじみ出る自信に満ちた言葉をさえぎる。
そして、俺は告げた。俺の……宣戦布告を
「賭けの内容を教えてやるよ――――俺はあんたを五分で大地に叩き落とす」
「それが、できればあなたの勝ちだと?」
「ああ、それだけ言っておきたかった…時間を取らせてゴメン」
それだけ彼女に言い残して、俺は背を向ける。
その背に向けて彼女は言葉を投げかけた。
「貴方はッ…!本当に私に勝てるとでも思っているの?」
「ああ、もちろんだ」
「その根拠を聞かせてはいただけないかしら?」
根拠ね……普通に経験の差もあるが―――ここはあれしかあるまい。
「なぁ…オルコットさん、君は宇宙で一番偉大で、強い力ってなんだか知っているかい?」
「それに何の関係―――ッ!失礼しました。一体それは何かしら?」
振り返って彼女の怒りに燃える青い瞳を見つめる。
そして、全身にみなぎる“意志”と共に答えを告げた。
「それは―――“意志”の力だ。かくあれかしと思い、すべての物事を始める燃料になり、そして達成させるための太い芯にもなる」
「なるほど…ご高説どうも、とでも言っておこうかしら?」
「そんなたいそうな物じゃあないさ…今度こそ失礼する。たぶん次話しかけるのはアリーナだと思うから、それじゃ」
それを捨て台詞に俺は、今度こそ彼女の前から立ち去った。
教室から出た俺に近寄り心配そうに話しかける男が一人―――一夏だ。
「ハル、その…なんというか……あんなこと言ってよかったのか?」
そんな風に心配げに話かける一夏に俺は極めて冷静に返す。
「…あんなの、っていうのが何を指しているのか、がイマイチ要領得ないけど…いいのさ。あれで」
俺は今のすっきりとした心境をそのまま一夏に告げた。
今の俺の心境とは違い、きっと彼女は今心の中で…薪にガソリンをぶちまけたように怒っていることだろう―――プライドの高い彼女ならなおさらだ。
そんな挑発をした自覚がある。
だが、それがどうした。
俺は“使命”というお題目で自分の気持ちを抑えることをやめた。
そして、
その賭けの対抗馬になっていることを彼女に告げずに賭けに挑むほど俺は、面の皮が厚くない。
「これで…俺は彼女に何の負い目もなく全力で勝負することができる、彼女もここまで挑発されたらたぶん全力で来ることだろうな」
でも…なんだか―――燃えてきた
さて、っとそれじゃあ……今は昼休み、まだ放課後の楯無会長の特訓の前に立ちはだかる普通教科の壁に挑む活力を得るために……
「一夏、そろそろ飯に行こうぜ。箒ちゃんも先に行って待っていてくれているんだろう?」
「ああ!ハル、昼は何食べるんだ?」
「ん~…おれはなぁ……」
【ハル…最近のあなたの食事にはビタミンが……】
『……それはなりませぬ!主!……』
そうして、隣の親友とくだらない話をしつつ時たま茶々を入れてくる相棒たちに突っ込みを返しながら俺は食堂に足を向けた。
◆ ◆
先ほど脱いだ制服をきれいに畳んで男子専用ロッカーにつっこむ。
思いは固めた―――宣戦布告も済んだ―――ならば、後は…
「修行だ、修行あるのみ」
『0(`・ω・´)=〇
主!拙者も全力で事に当たりますゆえあの高慢ちきの鼻を明かしてやりましょう!』
ISスーツ姿で気合を入れる俺に打鉄が発破をかける。その気遣いに俺も反応を返そうと口を開いた、が…いつも見たく相棒の脳内突っ込みにさえぎられる。
【ハル…やる気があるのはいいのですが、特訓の相手が更識楯無だということを忘れないでください】
(わかっているさ…でも、この賭けに勝てばこれ以上の追及を避けられる)
【……もしやあの賭けですべてが万事解決、とでも思っていませんよね?】
―――えっ?…あの賭けで全部解決するんじゃないのか?
【賭けはあくまで直接的な追及をこれ以上避けるための策です…それに勝とうが負けようが、あんな条件では抜け道だらけですから―――気が付かないうちに調査を続けられていると考えたほうがいいでしょう】
……確かに、今考えてみると、仮に俺が勝ったとしても彼女は工作員…俺に知られずに調べ上げる方法なんていくらでもあるだろう……っていうことは―――まさか!!
【気づきましたね。最悪の場合……彼女の記憶改ざんも視野に入れておいてください】
「ッ!だがッ!!」
【近くに彼女が来ています。これ以上更衣室にいると怪しまれるやもしれません…行きましょう】
(……わかった)
内心でこれからのことを考えつつロッカー室の出口に向かう。
俺の本心では記憶の改ざんなんてしたくはないと、そんなことをする権利なんてないと大声で叫んでいる―――だが、仮に彼女に真実を告げたとして、これ以上巻き込む人間が増えて俺のせいでその人に何かがあったら……どうなる?どうする?
俺のいる世界は“切った張ったですまない”…俺の周りの人に危害が及ぶことも十分考えられる。
いくら彼女が一流の工作員であったとしても……
【ハル!!】
俺がロッカールームの扉を開けた瞬間、やっとスプーが警告を発していたことに気が付いた。
だが…時すでに遅し―――扉を開けた瞬間、“何か”が俺の胸板にぶつかる感覚を受ける。
柔らかい触感が二つ…うん、いやな予感しかしない。
その予感が俺に伝えている危険信号をうけて……脅威対象を確認するために、長年使っていなかった錆びだらけのブリキ人形のように首をぶつかっている“何か”に向ける。
水色の―――それが視界に入った瞬間、電光石火の速さで後ろ飛びに飛びずさっていた。
「な、な何をしに来たんですか!」
「いやぁ~ハルくん、昨日アリーナで見たときも思ったけど結構いい体してるねぇ」
「話をそらさずきちんと答えてください!楯無会長!」
そうか…スプーが警告していたのは、彼女……楯無会長のことだったのか。
―――っていうことはさっきの柔ら…おおおおちおちおち落ち着け仮にあれがおぱ……じゃない!何を考えているんだ俺は!!
【………童貞、乙】
(うっさい!)
「……そいんだもん、心配しちゃったよ―――っていうか聞いてる?」
ヤバイ、さっきの衝撃を考えていたら……話を聞きのがした。
どことなく感じた気恥ずかしさに、会長の顔が直視できない俺はうつむきつつ謝る。
「……ごめんなさい」
「よろしい。でも…自分から話を振っておいてそういうことするのはよくないと思うんだ」
「反省、します」
「も し か し て♪何か違うことを考えてたのかなぁ?」
その声に俺をからかっているときのスプーと同じ声色を感じた俺は、疑念を感じてうつむいていた顔を上げる―――案の定彼女の顔に浮かんでいたのは楽しむような、からかうような…そんな表情。
そんな顔を見せられれば羞恥心とか気恥ずかしさなどという感情は水平線の彼方に吹き飛ばされてしまうことだろう。実際に俺がそうだった。
冷水をぶちまけられたかのように一瞬で落ち着きを取り戻した俺は努めて冷静に
「そんなことより、俺がのろのろしていたから迎えに来てくれたんですよね?謝りますからさっさと行きましょう。」
彼女が今身に纏っているのは、IS学園の制服ではなく―――ISに乗る際に着用する水着のようなスーツと膝上まで伸びるロングソックス型サポーター…つまりはISスーツだ。
俺のコーチ、と聞いていたが……彼女がマンツーマンで指導してくれるのだろうか?
そんなことを考えていると、彼女は表情を変えて
「ちぇっ、つまんないのー」
と明らかにご不満のご様子…こちらは内心、ざまあみろと言った心境である。
かといってこれ以上彼女のご機嫌を損ねるも何なのでさっさとアリーナへと向かうことを提案する。
「つまらなくて結構。それよりも会長、そろそろアリーナに向かいませんか?」
「うん…それもそうね。じゃあ、行きましょうか」
そうして俺たちはロッカー室を出て、アリーナに向かって歩き出した。
ふいに打鉄が口を開いた。
『ヾ(・∀・`o)ネェネェ
主、昨日おっしゃられていた…ISスーツの件、“彼女なら”何とかできるだけのコネがあるのではないのではござらんか?』
昨日言っていたっていうと……へそ出しのISスーツが落ち着かない、ってあれか!
確かに、彼女ならそう言ったコネはたくさんあることだろう。
表の意味でも裏的な意味でも…な。
何せ彼女は―――“公的な国際IS競技に出場するロシアの国家代表なのだから”
今日の授業中、スプーにはずっと“セシリア・オルコット”についてと“楯無更識”という女について情報を探ってもらっていた。
セシリアのほうは大金星だと断言できる。彼女の来歴からIS学園入学前の訓練の内容。彼女が代表候補生としてIS学園に来る祭、イギリス政府に与えられた専用機“ブルー・ティアーズ”の情報もばっちりだ。
しかし…問題は隣にいる彼女、更識楯無についてだ。スプーの言によると…あまりにも簡単に情報が手に入った、らしい。ただし…彼女についての情報そのものはかなりぼかされていて“深い部分”については何もわからず…その他の個人的情報についても正しいことしか書いていない。
無論彼女の専用機についても、なぜ他人種でかつIS学園の学生である彼女がロシアの国家代表に選出されているのかという点について、どこのデータベースを探しても…わからなかったらしい―――データベースからすべての情報を消したりするのではなくある程度真実の混ぜ込みダミーを気が付かせない。たぶん俺たちができなかった追認調査の対処もキチっとしているのだろう。なるほど…これが完璧な偽装か。
これからの参考にすべきか、などと考えていると……ふいに彼女が口を開いた。
「ねぇ、ハルくん…キミは戦ううえで一番重要なことって、なんだと思う?」
「戦ううえで重要なことですか?」
『主、
歩む歩幅はそのままに顎に手を当てて打鉄の回答を考える。
スプーが話に割って入ってこないっていうことはきっとは答えを知っているのだろう……ならば、ここは俺がしっかりと答える場面だ。
さて、間合い……間合いねぇ?
どれだけ強力な攻撃でも正しい間合いで使わなければ回避は容易なものになる。
その点では間合いはかなり重要だ―――攻撃の成否にも、回避にも関係してくる。
だが、違う。
「打鉄、たぶん…違うと思うぜ」
『(ー△ー;)エッ、マジ?!!
なんと!主は答えをすでにご存じである、ということにござるか?』
「ああ、会長答えは―――」
質問をしっかり聞けば分かることだが…彼女は“戦闘”といった。つまりは“IS戦闘オンリー”を指しているのでない、それ以外の戦闘行動も含めてことだ。
ならば俺の答えは一つ
上手に使えば、万金の金貨よりも価値があり…圧倒的な戦力差をひっくり返す灯になり、
確実に、堅実に着実に勝つ可能性を引き寄せる
それは―――
「情報ですね」
「―――あたり」
あ、あっててよかったー。ここまでドヤ顔して外れていたのなら…ぜってースプーのいじり地獄だったと思う。
彼女は満足げな笑みを浮かべ…話を続ける。
「いやぁーやっぱり君は手のかからない子だねぇ…」
そんな風にしみじみと言っている彼女を見ていたら……急に俺のいたずら心に火が付いた。
「じゃあ、手のかからない俺は一人で練習しましょうか?」
理由はわかないが、そんなぶー垂れて言った冗談を彼女は真に受けてしまったようで…なぜか、大声で突っ込まれた。
「それはダメ!絶ッ対にダメ!!」
「ひゃい!―――わ、わかりました」
……横でいきなり大声出さないでほしい。また噛んじゃったよ―――つーか…この後の展開って
【ひゃい、はないでしょう…もっと面白い反応を返していただかないと】
(だ か ら !お前を楽しませるために生きているわけじゃない!)
そんなこんなで脳内漫才をしていると…いつの間にかピットにたどり着いていた。
隣の楯無会長は、さっきの一括以来うつむいていてこちらを見ようともしない。
明らかにおかしい―――何かあったのかと向き合い…恐る恐る声をかける。
「あの…楯無会長?どこか具合でも悪いのですか?」
「あ、その…大丈夫よ!!それよりも早く始めましょう!!」
「?」
もしかして…会長…動揺しているのか?急にどうしたんだ?―――頭に浮かんだ疑問は消化することができずに消えて行った。
彼女が自分のISを展開したからだ。
どこか睡蓮の花を思わせる装甲…ISというモノは打鉄しか知らない俺だが…装甲部分が恐ろしく少ない。きっと体捌きなどを装甲で動きずらくされるのを嫌ったのだろう。
―――女性特有の柔らかさと言い様に表せない危険な“ナニカ”を漂わせた花。
それが彼女の専用機“ミステリアス・レイディ”を見た第一印象だった。
(睡蓮じゃなくって、毒のある水仙だな…こりゃ)
【わかっているならば、その毒にやられないように気を付けてくださいね】
そんな俺の素直な感想にスプーの刺した釘を、うぃっと?の聞いたジョークで返す。
(わかってるさ。でも古今東西…昔からいうだろう?毒も食らわば皿まで、ってな)
【では、せいぜい食った毒で腹をくださないように】
(サンキュ…スプー)
感謝を込めたテレパシーを相棒に送り、俺も待機状態で押し黙り、戦意を高めていた艦を受ける打鉄に声をかける。
「さて…じゃあ…一丁行くか!!」
『応!かしこまりましてござる!!』
その打鉄の気合の乗った返事と共に一瞬、体が光に包まれ昨日展開した時と同じく鎧武者然とした装甲に包まれ…もう平静を取り戻したらしい楯無会長はにこやかに
「OK!じゃあ…始めようか!」
「はい!!」
俺たちは会長の後に続いて、空を飛ぶとき特有の重力のくびきから解き放たれたかのような浮遊感に包まれ、ピットから空へと駆けだした。
イメージ通りの急加速―――一瞬で地から離れ上空二十五メートルくらいで静止している会長に対面するように、俺も打鉄を制止させる。
「会長、それで何をするんです?」
「うん…それは―――ねっ!」
突然、裂光の気迫と同時に握りしめた右手を突き出す―――一瞬で右手に生成された槍…いや、
なるほど……こういうことか、思考を戦闘用のものへと“切り換える”
彼女の突然の攻撃を回避するべくPICをカット、すぐに重力が俺をとらえて下に落下する。
その機体にかかる重力を利用し、さらに重力波推進を下方向に発振。
この機動で彼女の初撃を回避することに成功した。
初撃だけだったが
落ちるように下降を続ける俺の耳をスプーの警告がたたく。
【ハル、後方から銃撃!】
「ッ!!」
相棒の発した警告の通りに回避するべく機体を大きく右に切る。
よし、これで!
「甘いッ!!」
だが、彼女のほうが一枚上手だった―――俺が回避した右方向に射線を合わせられ背中に衝撃。すでに地表を滑るホバー軌道に移っていた俺は予想外の衝撃に盛大な土煙をまき散らしつつ、大地にこすり付けられるように減速…アリーナの壁に叩き付けられた。
「っ…、打鉄!損害報告!」
次が来る
そう直感的に判断し叩き付けられた体はそのままに直線に移動。自分で作った土煙の中に隠れる。
『はっ、損害は軽微にござる。しかしシールドが先ほどの衝撃で5分の一ほど削り取られたでござる』
「仕掛けてこない!?」
楯無会長も
―――いや、ちがう。
頭に浮かんだ回答をすぐに書き換える―――
これは…
“強者の余裕”、だ。
(スプー!あの人の位置は?)
【あなたの睨んだ通り……初撃の位置から動いていません】
(なるほど…完全になめられてるな)
そんな苛立ちを含ませた志念波を、あいつは冷静にフォローする。
【でしょうね…さすが、コーチを申し出るだけはあります】
(確かに……でも、こっちのほうが学ぶことが多い!)
【まさしくその通りです。打鉄のサポートは私が行います―――“出がけの一杯”はいかがでしょうか?】
ここまで来たらもう、言葉はいらない。打鉄に使える武装を表示させる。
基本兵装のアサルトライフル“焔備”に近接戦闘用ブレード“葵”、一番の特徴の大型実体シールド“黒金”ね……なんというか…悲しいぐらい貧弱だなぁ……
そんな嘆きをスプー経由で感じ取った打鉄がすねる。
『(´;ω;`)ウッ…
拙者だって…もっと、いろんな武装入れられる容量、あるんでござるよ……でも…兄者と比べられると……』
「あ、ああごめん!そんなつもりはなかったんだ!今度一緒に新しい武装入れてもらおうな!な!」
さすがにスプーと比べるのは打鉄がかわいそうだ。そんな思いでなだめすかしつつ…右手に焔備を展開させる。
「続きは―――終わってからだ」
『かしこまりましてござる。主…御武運を!』
その励ましに、“勝つ意思”を一層、強めながら…スプーのダウンロードした情報に従い、銃口を構える。
「さて…会長。俺のもてなしは盛大だが…満足してくれるかい?」
そんな風に呟いた言葉は、漂っていた土煙を切り裂いて飛翔する砲火とくぐもった銃声にかき消された。
さあ、ここからが正念場だ!
◆ ◆
【―――などと一週間前に被疑者は豪語しており……】
「なるほど!で……結局一勝もできなかった、っていうわけなんですか?」
【そうなんですよ!何が俺のもてなしは盛大だ(笑)ですよ。情けない】
.
あれから早…一週間、いや七日?それとも168時間?―――言葉遊びはやめよう。
既に、曜日は月曜日。
セシリア・オルコットとのIS模擬戦、いや…彼女との賭けの……当日だ。
しかも、開始の三十分前に俺は……さっきから俺の相棒と親友がひっじょ~うに耳の痛い話を、当事者の俺そっちのけでしているのを聞かされている。
アワレ!ブッダの慈悲はないのか?
……あれ?こんなノリ、前もなかったっけ?―――やめよう思い出したところでへこむだけだ。そんなことよりニュース!ニュースだ!!スーパーヒーローたる者常に世間の情報に精通してないとな!!
二人の俺をディスる会話を無視してロッカールームに備え付けのテレビから流されるニュースに注視していると……ふいに打鉄が二人の会話に割り込む。
『主は、何の非もございませぬ!拙者が…拙者が、第三世代型だったのなら……』
そんな二人のたわいのない話を、一番歳若の打鉄が真に受けてしまったようで…これからの大一番を前に明らかにテンションが低い…ったく、俺が弱かっただけで別に打鉄が悪いわけじゃないのに
「打鉄、そんな気にすんなって!今日の相手は会長じゃあない。この一週間、専用機が来なくて体力づくりしかしていなかった
『(ノД`)・゜・。
主…感無量にございます!拙者は…拙者は……』
「それで、スプーさん……スプーさんから見てあいつ、ってどんな戦い方をするですか?」
―――ん?ちょいまて…たしか、模擬戦は“総当たり戦”じゃなかったか?
これってもしかしたら一夏なりの情報収集か?だとしたら随分とずさんだなぁ……こんなのスプーが教えるはず―――
【私を使う時は特に大火力に頼って戦うことが多いですね。それと分身を創り出してから囲んでタコ殴りとか、相手を箱の中に拘束してだんだんと箱を小さくしていって押しつぶすとか】
―――ないと思っていた
「……えげつねぇ……」
「うっさい!これが一番合理的なんだからいいだろ!!」
【まあ…あくまで敵を想定したイメージトレーニングでしたけどね】
「それにしたって……なぁ?」
明らかに引いた様子でこっちを見る一夏に、バタバタと手振りまでして弁明する。
「違うんだ!あの、その、なんというか俺の敵ってもっと……星を丸ごと一個消し飛ばすとか、そういうのをイメージしていたから!だから!本気だせばもっと繊細なコントロールだってできるんだぜ!!」
俺の必死の弁明は…一夏の生温かい視線で受け入れられた。
「わかった、わかった。ハルはすごいなぁ……」
「そんな、(棒)とかつきそうな棒声で言われても説得力無いわ!!」
「はい、はい……でIS戦のほうはどうなんだ?」
「はぁ………」
からかう様に笑いつつも、情報を引き出そうとする一夏に呆れた俺はため息をこぼしつつ素直に教えてやる。
「IS戦での俺の基本スタンスは経験に基づいた機動戦だ。加速力は低くとも運動性は負けてない、と思っているからな。それ以外にも隠し玉がいくつか……っと、サービスはここまでだ」
「え~っ!?初心者にもうちょいハンデくれてもいいと思うだけど?」
口をとがらせつつ愚痴る一夏に、今度は俺が笑って
「出血大サービスだ。せいぜいがんばれ、若葉」
発破をかけるために言い放ったその言葉を、あいつは待っていたかのように不敵に笑い
一言
「へっ!若葉を甘く見ていると痛い目見るぜ!ベテラン!」
なるほど…一夏は俺に勝ちに行く気か―――面白い!!
ここは答えなきゃ……男じゃないな!!
「じゃあ、彼女には悪いが―――前座はさっさと済ませて…“男の勝負”、と行きますか?」
「同感だ!」
「全力でいくぞ」
「わかっている」
俺たちの間に…もう、言葉はいらない。一気に空気が張り詰め“戦う”ことをイメージさせる。
さて、じゃあそろそろ時間だ。ピットに行って打鉄の最終確認でも、するか。
戦う意思に満ち満ちた心に従い、腰を上げた
瞬間
[速報が入りました!!アメリカNYの“クイーン工業第四石油コンビナート”で十分ほど前に謎の大爆発が発生しました!!]
「なに!?」
備え付けのテレビに駆け寄り、かじりつく。
[現在情報が錯そうしていまして、詳しい状況は不明ですが……周辺には多くの住宅街も隣接しており……大変な被害が予想されます]
コンビンビナートでの爆発?しかも住宅部のすぐ隣、だって?
―――俺が、行く
【いけません!後10分後には模擬戦が始まります!“彼女”も見ているのですよ!!】
「だめだ。スプー、裏付けも含めて被害の概算を“今”出せ」
【―――わかりました。3秒お待ちを】
1秒……
2秒…
3
【でました。発生したのはNYのほぼ中央、ベイヨン地区です。すでに警察、消防が協力して住民の避難を開始していますが…すでに住宅部にまで火の手が回っているようで】
「もういい」
これ以上は聞く時間さえ、惜しい。これは―――すでに“人の領分を超えたものだ”
“人”じゃあ…助けを求める手のすべてを…握ることは、できないだろう
ならば―――俺が行く
保身をしなければ正体がばれる?
それが、どうした
助けを求める声と、救いを求めて伸ばされた手が待っている
それだけで“俺が行く理由”としては十分だ―――十分すぎる
一緒に食い入るようにテレビを見ていた一夏がぽつりと一言
「行くんだな?」
「ああ…すまないが、後は―――」
アイツは俺に向き合い…思いっきりの笑顔と励ますようなサムズアップで俺の背を押す
「まかせろ、“頼むぜ”!ヒーロー」
「おう“頼むぜ”、サイドキック」
男同士には言葉はいらないって、ほんとのことだったんだなぁ……
そんなことを考えつつ、擬態機能で“織斑一夏”へと姿を変え全力で駆け出す。
目指すは海―――そこまで行けば全速が出せる
駆けること十分、目的地にたどりついた。全力で走ってきて乱れた息を整えつつあたりを警戒する。
そんなとき既に俺の説得を放棄した相棒たちが、俺に告げる。
【ハル周辺約500mに生命反応なし、IS学園の観測設備のハックも済んでいます―――いつでもいけますよ】
『主!遅ばせながら拙者もハイパーセンサーで周囲を確認しました。気を付けて、まいりましょう』
「悪いな…打鉄、でも、すぐに、カタを付けて、戻ってくるつもりだから」
ここまでの全力疾走で息も絶え絶えだが、強い意志を込めて打鉄に言う
さて―――御託はここまでだ。息も整ってきたことだし、ちょっくら……
「地球の反対側まで行ってくるとしますか!!」
そう気合いを入れて、海へと飛び込んだ。
□ □
人気のない木陰から“織斑一夏”の姿をした“彼”が海に飛び込むのを確認して僕は姿を現す。そのまま、いましがた彼が飛び込んだ水面を眺め“眼で”見える“光纏うもの”となった彼の後ろ姿がすごい速さで波間に消えていくさまを眺める。
―――やはり、彼が……彼こそが!!!
「熱くなっちゃったな…反省しなきゃ。さてっと」
僕はおもむろに携帯を取り出し、“あの人”の番号をコールする。
「はい、やはり……かれが」
「その通りです。僕の目で見ましたから……一応何があってもフォローできるように用意はしておくつもりですが……」
「わかりました。ではそちらのほうはお願いします」
そういって、僕は通話を切り―――もう一度だけ彼が飛び込んだ海を一瞥し…仕事道具を取りに行くために踵を返し校舎に向かって歩き出した。
ドーモ、読者=サン。めんつゆ=デス。
大変長らくお待たせしました。
おそスト16話いかがだったでしょう?楽しんでいただけたのなら幸いです。
今回は、次のオリジナル展開に行くための布石の回でしたね……
ザンネンながら、スーパーヒーローとしての矜持を持つハル、次回の活躍をお楽しみに!!
本日もネタといえるほどのものはありません…ですが、あと2話後にはアメコミネタ満載のお話をご用意しておりますので、そちらもお楽しみに!!
では今日はこの辺で失礼します。
質問やご指摘、感想などいただければ幸いです。
おやすみなさい