恐れを知るものは、無限の空を目指す   作:めんつゆ

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  第20話 「ハル、ベットの外が恋しい」

 

 

 あの楯無さんとの対話の後、一夏と箒ちゃんに付き添われて医務室にまで戻ってきた俺は、目が笑っていないジョーイ先生から説教を兼ねた俺の体に関する状況説明を受けさせられた。

ジョーイ先生の話によると、今の俺は体のあちこちに軽い打撲がいくつかあるのと、“原因不明の傷”が一か所あるらしい。

 

喀血の原因とみられる、折れた肋骨の欠片肺に刺さってできた裂傷。

それだけなら“ただの大怪我だった”でも―――その肋骨が折れたと思わしき場所が存在しない、とくればよくわからないと言われる理由もわかるだろう。

 

まさにこれはミステリーだよ、と何処からともなく取り出した黒縁メガネをかけて深刻そうに言ってた、だが………

俺にはこの手品にも似た謎のタネがわかっている―――スプーの仕業、いやおかげだ。

 

おそらく、スプーは俺に内緒で決定戦の間もリングの修復機能で傷ついた体を再生してくれていたんだと思う。

“それにしては修復が速い”と俺でも疑問に思うが………

スプーに聞いてみてもわからないと言っていたしまぁ、調子が良かったんだろ。

 

 

それが―――三日前のことだ。

そう、三日前の事なのだ………すでに怪我は全快している。

だが

 

 

「なんで、まだ退院しちゃぁいけないんですか!!」

 

むくれて口にした恨み言がカーテンの向こうに吸い込まれる。

既に代表決定戦のあった日から数えて6日―――未だに俺は……ジョーイ先生から退院の許可をいただけずベットの住人となっていた。

 

「君の体の精密検査が終わるまで退院はさせられないよ―――なぜか意識が戻ってから傷が全快した理由もわかってないしね」

 

カーテン越しにジョーイ先生が、おざなりな回答を返してくれる。

此方を一瞥もしないことから、扱いの雑さがよくわかる。

 

くそう……早く退院できるようにあの日、一夏にリングを返してもらったついでに、ケガを全部治しちまったのは早計だったな……大丈夫だと思ったのに……

スプーの言うこと聞いときゃよかったな―――後悔先に立たず、とはよく言ったものだ。

それにしても……暇だ。

いっそ、窓から脱走するか?

この男子用医務室は校舎の一階にあるため窓の外がそのまま、芝生に接している。

おあつらえ向きに、窓も空いていることだし―――

 

「ああ、ハルくん。もしこのあいだみたいに脱走したら―――今度は正座で説教だからね」

「はい、ワカリ…マシタ」

「じゃあ、僕はちょっと学園長に呼ばれてるから出てくるね。部屋の物は“壊さなければ”―――自由にしていいから」

 

それだけ言い残しカーテンの向こうでドアが閉まるバタンという音が聞こえる。

この三日間、彼を観察していて気が付いたのだが……結構な頻度でジョーイ先生は轡木学園長によばれている気がする。

学園長も何か持病でも抱えているのだろうか?―――いや、それよりも・・・

 

・・・・・・バレテタァァァーーー!

アイエエエ!口に出してなかったのにナンデ、ナンデ―――!?

 

………なんと、いうか……ツッコミがいないボケほど間抜けな物はないな……

こんな時に何かしらの反応を返してくれる、俺の愛すべき相棒のスプーと打鉄は、今も一夏の下にある。

二人を付けてみんなで病室に帰ってきたらジョーイ先生が二人の帰り際に、一夏に預かってもらう様に言ってきたのだ。

何でも、病室でケガ人がISや装飾品を付けているのが嫌、らしい。

 

その時はすぐに退院できるだろうと、甘く考えて了承したけど―――こんなことになるなんて思ってもみなかった。

 

―――考えてもどうしようもないことを考えても仕方がない、そんな気分で転んでいたベットから立ち上がり、あたりを物色し始めた。

せっかくお墨付きを頂いたんだ。さすがにフィギュアは触っちゃまずいだろうが、BRぐらいなら大丈夫だろう。

 

「おっ?これなんて暇つぶしにはいいんじゃないか?」

 

そういって俺が手に取ったBRには…“魔装戦隊ウィザーズ”と書かれたラベルと……

白い戦装束に身を包んだ一人の男のパッケージ、それを備え付けのテレビにセットしリモコンの再生ボタンを押した。

 

 

□                 □

 

 

今日の授業も終わり、放課後―――いつもなら戦闘訓練や本国から送られてくる新型装備の試験を行っているはずだが……今の私は紙袋を手に医務室の前に立っていた。

目的は一つ、彼―――加藤陽と実際に会って話すことだ。

本当なら彼が意識を取り戻してすぐにでも会いに来るつもりだったけれど、なかなか踏ん切りがつかなくって……一夏さんには感謝しなくてはならないわね。

 

 

 

◆                 ◆

 

 

あのクラス代表決定戦の翌日、私は一夏さんに謝った。

彼と加藤さんに投げかけた暴言と―――加藤さんの怪我について、だ。

 

私は彼が怪我をしていることに気が付いていたのに、彼のやせ我慢を信じてしまった。

隠していた奥の手を含めた、持てる力のすべてを込めて彼を打倒しようとした。

その結果が―――アレだ。

今でもしっかりと鮮明にその姿が思い出せる。

 

私の最後に放った一撃が彼に突き刺さり、重力に曳かれて落ちてゆく彼。

 

彼を助けようと、ブルー・ティアーズを必死に制御しようとするけれど―――

彼の与えたダメージは深刻で、飛び上がることさえできぬ機体から私はハイパーセンサーで増大した視界から落ち行く彼を見ていることしかできなかった。

 

絶妙のタイミングで現れたあの人がいなかったら……きっと彼の怪我は大怪我では済まなかっただろう。

 

無論、謝って済むことではないことは自覚している。

それでも、謝らずにはいられなかった。

 

彼は私から逃げなかったから

第二世代機(旧式)の量産機なのに

口から血を吐き出しても

足をがくがくと振るわせても

ISがボロボロになっても

 

真っ直ぐな瞳をこちらに向けて、必死で闘ってくれたから

彼の親友である一夏さんからしたら、自分だけではなく親友にまで侮辱をしてだけではなく、危なく殺しかけたのだ―――罵倒してしかるべき女だろう、その覚悟をもって話した。

でも、彼は柔らかく笑って

 

「俺のことに関しては謝ってくれたから―――これでいい」

 

そのあまりに落ち着いた彼の様子に、私は理解できなかった―――だってもし私の大切な人に同じことをされたら、私はきっと責めるから、責めてしまうから

だから、思わず口調を荒げて“なぜ私を責めないのですか”と、疑問の言葉が飛び出してしまった。

 

彼は照れ臭そうに頭をかきつつ少しうつむいて

 

「泣いている女の子に怒りをぶつける、なんて男のすることじゃないし……それにきっと、あいつも“そんなこと望まない”と思うから―――だから、さ……」

 

その時初めて気が付いた。

自分のほほから涙が零れ落ちていたことに―――そして

幼きあの日―――なぜ?そう問いた―――“母の言葉”を思い出した

 

 

◆                 ◆

 

 

「ねぇ、お母様……なんでお父様とご結婚なさったの?」

 

 

 

記憶の母は絶世の美女、という言葉がかすむほど美しく、炎の様に苛烈で―――

何よりも有能な人だった。

 

今現在、私に残された最も大きな遺産―――“ヘレン・エンタープライズ”を一代で起こし、世界各地に広がる販路形成、優秀な専属研究者の育成と引き抜き、盤石とも言うべき基盤を十年そこらで作り上げた“経営の天才”であった。

 

無論のごとく母は私にも厳しく、会社経営の分野に始まり―――帝王学、射撃、武道、化学、工学、医学、哲学、馬術、ダンス、礼儀作法etc.“後継者”に必要とされるありとあらゆる技術をたたき込んだ。

幼い私は、母の与える地獄のような扱きに必死に食らいついて行った。

その成果だったのか―――私は幼いながら、とある疑問に行き着いた。

 

なぜ―――母と父が結婚したのだろう?

 

私の目に映る“父”には魅力と呼べるものは微塵も存在しない、それだけではなく………あまりの情けなさに『将来は情けない男とは結婚しない』そんなことを考えずにはいられぬほどに―――父は情けない人だった。

 

そればかりは今でも、同じ思いだ。

 

“父は情けなく、魅力など微塵もない”

 

記憶に残る父の姿は―――高い背を猫のようにまげて、ガリガリに痩せ、ネズミの様に目をきょろきょろとさせて……髪もひげも伸び放題の風体で、いつもひどいクマを目の下に湛え……何をしているわけでもないくせに、いつも深いしわを眉間に寄せて

 

そのくせ何かを“恐れていた”―――まるで“気狂い”の様に……

 

父、といっても別に何かをしてもらった覚えさえない―――あの人は私にさえ恐怖にゆがんだ表情を浮かべることがあったから

 

そのことが、あまりにも悲しくて……

老年ながら父の世話をしている執事に質問したことがある。

母の教育の始まる前の……本当に幼い頃のことだ。

それでも、鮮明に思い返せる。

 

「なぜ、お父様は私を避けるの?」

 

彼は少し困ったように髪をかき―――一瞬、悲しそうな表情を浮かべてから諭すように

 

「私にもわかりかねます―――ですが……これだけは言えます、旦那様はお嬢様のことを愛しておいでです」

「私を避けているのに?」

「はい、お嬢様……その通りです。ですがお嬢様、覚えて置いて下さい…“愛する”ゆえに―――“遠ざけねばならぬ”時もある、ということを」

 

幼い私には、その真意はわからなかったけれど……その執事が、私を安心させるために言った戯言だろう、そう判断した。

 

言わずもがな、なことだが……私は父のことが嫌いになった。

正確には父のような男を、だが

 

 

だからだろうか……そんな父と完璧な母が結婚したことがまるで理解できなかった。

父はこのオルコット家に婿入りした人間だと教わったし、母ほどの人間ならたとえ父と離婚したとしても…母との婚約を望む人間は掃いて捨てるほど、いたはずだ。

父を“捨ててしまっても”何の不都合もなかったことだろう。

 

でも、母は父を見捨てなかった―――どれほど仕事が忙しくともに父との時間を大切にし、いつもしかめっ面の父に語りかけ、華のような笑顔を振りまいた。

 

 

それがどうしても理解できなかった私は―――二人きりの時間の時に母に問いかけた。

なぜ、“あんな男と結婚したの?”と

 

 

母は、夫が侮辱されたことに怒るわけでも、哀しむわけでもなく………あの執事の浮かべていたのと同じ、困ったような、悲しそうな笑みを浮かべて

 

「セシリアは……あの人のことが嫌い?」

 

柔らかく降り注ぐ雨にも似た静かな口調で私に問いた。

 

何時も、厳格な母のことだから…こんな話題出しただけで怒られると思っていた私は、少し拍子抜けをしつつ、母の目を覚ませるつもりで

 

「嫌い、です」

 

本心を告げた。

母はこっちにおいで、と私を膝の上に載せて

 

「じゃあ…あの人の―――どんなところが嫌い?」

「“全部”です―――」

 

後に続く父の罵詈雑言を、母は可笑しそうにくすくすと笑いながら聞き流した。

そして、つらつらと出てきていた悪口が少なくなってきてから……母はまた口を開いた。

 

「うふふ……そうね、あの人は良い父親―――いえ、いい男には見えないわよね」

「そのとおりですわっ!」

 

話しているうちにイライラしてきて語調の荒くなってしまった私をなだめるように優しく頭を撫でて母は話を続ける。

 

「落ち着いて…セシリア。いい?あの人はね」

 

一度言葉を切った母は……私を撫でる手を止めずに続ける。

 

「“弱くて―――弱いからこそ強くなれる人”なの」

「どういうことなんですの?」

「わからないなら、それでいいわ―――でもね、セシリア覚えておきなさい……」

 

私を撫でる手を止めて、両手で私を抱きしめる母、その手がかすかに震えていることに気が付いたけれど、母の柔らかい体に押し付けられた私はその顔をうかがうことができなかった。

 

だが―――

 

「お母様、どうして“泣いているの”?」

 

少し震えた言葉と体から察することができた。

母が何かを堪えるように涙を流していることに

 

「なんでもないわ、それよりも覚えておいてね。

“ そんな人間こそ世界を変えられる可能性を持つ”ということを」

 

その真剣な思いの込められた言葉に……私は小さい声で

 

「わかりましたわ、お母様」

 

そう、返すことしかできなかった。

 

「こんなことしか言えなくて…ごめんなさい、セシリア……」

 

母の口調に明るみが増す。

 

「そうだわ…セシリア、あの人を好きになった理由じゃないけれど、いいことを教えてあげる」

「なんですか?」

「いい?人を好きになるっていうことはね、すごいことなの―――」

 

 

◆                 ◆

 

 

「だから―――泣くなよセシリア。俺がついてるから」

―――それでね…そのすごいことは……いつもあっさりと起こるのよ

 

彼が強く、温かい……太陽のような笑顔を浮かべる。

 

なんだか彼の笑顔を見ているだけで心の芯に温かい日差しがさしているかのように、ゆっくりとでも確かに心が熱くなってくる。

それだけじゃない。なんだか頭もぽっと熱くなってくるような錯覚を受ける。

何かを口にしようとしたけれど、言葉が思い描けない。

 

すごい―――自分が自分じゃないような錯覚を感じる。

 

思い浮かべた感覚に自分自身でハッとする。

さっきから百面相をしている私を気遣ってか、彼があわてたように声をかける。

 

「お、おい……大丈夫か?セシリア?」

 

しかし、私は彼の心配などお構いなしに思考に没頭していく。

 

そう、そうゆうことなのね……お母様……

 

「ありがとうございます」

「へ?どう……いたし、まして?」

 

私はその日―――織斑一夏は好きになった

 

 

◆                 ◆

 

 

 あれから、どう見ても一夏さんに好意を寄せている箒さんに宣戦布告したり……一夏さんに加藤さんのお見舞いの相談をして、その品をチェルシーに準備してもらったりといろいろありましたけれど……

ようやく、ここに来ることができましたわ。

紙袋を一瞥して、軽いノックをする―――反応がない。

もう一回、今度は少し強めに―――しかし、反応がない。

寝ているのかしら?そんな軽い気持ちで扉を静かにあけると目隠しのカーテンの向こうから人の話し声と聞き覚えのある声で一緒に誰かがすすり泣く声が

 

『「ヒーロータイム」』

「『無事に完了―――ってな!』」

 

「ぐすっ……なんで……俺は……」

 

―――って泣いてる?

何かあったのかと勢いよくカーテンを開けると

空間投影ディスプレイに投影された何かの映像とそれを眺めてティッシュを片手に涙をぬぐっている彼の姿が私の視界に飛び込んできた。

 

 

    □             □

 

 

・・・・・・き、気まずい―――どうしてこうなった……

 

じっとりと出てきた脂汗を手で拭いつつ考えをめぐらす。

ベットに腰かける俺と先ほどカーテンを開けた彼女、セシリア・オルコットに椅子を勧めてから五分……俺が椅子を勧めるために発した言葉以外に、いまだに会話はなく―――

彼女がなんでここに来たかさえ分からぬ俺にとっては……非常に気まずい状況が続いていた。

 

とりあえず状況を整理しよう。

 

頼れる相棒がいないため、自分の頭中で自問自答しつつ情報を整理し始める。

 

俺は何をしていた?

―――ジョーイ先生の私物のブルーレイを見ていた。

 

彼女はいつごろ現れた?

―――ちょうど、ブルーレイのラストシーンごろにやってきた。

 

彼女の目的は?

―――わかってたらこんな苦労はしていない、俺が言った侮辱の謝罪を求めに来たとか……そんなのだろう。

 

目的もなく来た、という線だけはない。

―――プライドの高く能力も優秀な彼女がわざわざ足を運んだ以上何か目的があったはず。

 

だったら、なぜ目的の話を切り出さないのだろう?

―――何か切り出しにくい原因でもあったのか?

 

ん?―――“切り出しにくい原因”?

 

自分の行動を思い返す。

俺はラストシーンでどんな状態だったっけ?

……“主人公に共感して”でも、“自分が情けなくって”…ボロボロ泣いてた

―――って、これか!!

病室に入ってきたら男が大泣きしている状態で…何気なく話しかける。

これは……話しかけづらいだろ……

 

これは、俺から話し始めないと……どんな話題で?

 

………やべー、まじやべーわ。

なっんにも話題が浮かばない……

 

話題を見つけることにさえ苦労する、あまりのコミュニケーション能力の無さに、自分が情けなくなってくる。

 

でも、ネガティブになってる場合じゃない!セシリアのほうがもっと話しかけづらいはずなんだから!

話題はベターな天気の話!

目線をセシリアに合わせる!―――そして

出たとこ勝負!とばかりに気合を入れて口を開いた。

 

 

 

「セシリア……きょぶっ!!!」

 

おーらい……さすがコミュ症()だ、絶妙のタイミングで……やってくれるぜ。

“また”古典的なミスを犯した自分を自嘲しつつ、脳裏に文章が浮かんでくる―――

―――結論=出たとこ勝負イクナイ

 

「・・・・・・って、またこんなんかい!!」

「ぷっ……くすくす……」

 

何時も体面を気にしている彼女が、笑いを抑えきれずに声を殺して笑い出す。

笑っているのを隠そうとうつむいていることが彼女の育ちの良さをうかがわせるが……

面白がられている事実に何の変りもない。

同じようなことを何度もやらかす俺の言えることではないけれど、つい口をとがらせ愚痴がこぼれた。

 

「そんなに、笑わなくたっていいじゃン……よく噛むんだから」

「くすくす……彼の言っていたとおりね」

 

彼?―――ああ、あの野郎…よけーなこと言いやがって……

 

 

「彼っていうのは……あのスケコマシ(一夏)のことですかな、レディ?」

 

やっと、笑いの虫も落ち着いたようで顔を上げるとこちらをリラックスした様子の彼女の顔が―――また、やらかしたのは癪だが…まあ、いいか。

 

「ええ、ジェントル。一夏さんに聞いていましたの―――」

 

「アイツはすごいようで、すごくあろうと努力している、いろいろと残念な奴だから……だからあんまり色眼鏡でみないでやってくれ、とおっしゃっていましたわ」

 

その言葉に胸が熱くなる。どこか寒い日に熱い飲み物を飲んだ時の様に体の深いところからじんわりと温まってくる、アイツ…いや多分、“アイツ等”のメッセージに

―――さんきゅ

心の内側で感謝を言葉にした。

 

「ところで、お嬢さん…そんな残念な男に何のご用でしょうか?」

 

照れ臭さを隠したくって、からかい交じりに発した俺の言葉に彼女は真顔になって答えた。

 

「今日ここに来た理由は他でもありません。貴方に謝罪をするためにここに来ました」

「謝罪?なんか謝るような事されたっ……」

「貴方は死ぬかもしれなかったのですわよ!」

「そりゃ…まぁ……別に今は何ともないんだし、しゃ……」

「それでは私の気がすみませんわ!!」

 

最後まで俺の言葉を言わせないほど真剣な彼女の形相に、若干引きながら

 

「そ、そうかでも―――」

「でも、なんでしょうか?」

「やっぱり、謝る必要なんてないよ。色々と理由はあったけど、それでも最後までつづけたのは俺の意志だから」

「そう、ですか……」

 

未だ納得していないような口ぶりの彼女に、やっぱり俺ってうまく言葉が上手くないなとほほをかきつつ、話題を変える。

 

「話題は変わるけど……あの時強さについて俺に聞いたよね」

「ええ……」

「なんで強さにこだわるんだい?」

「それは―――」

 

言葉を詰まらせて言いよどむ彼女に俺の口から歯が浮くようなセリフがこぼれだす。

 

「今から俺はかっこよくない人形だ。言いたいことがあるなら人形に言ってみたらどうだい?」

 

そんな、ジョークに彼女はあきれたように渇いた笑みを浮かべ、ぽつりぽつりと語りだした。

自分の父親のこと、その父親のせいで同じような人間が嫌いになったこと、父と母がなぜ結婚したのかという話―――そして

 

「でも…本当のことは結局わからずじまいでしたわ―――二人とも逝ってしまったから」

「死んで、しまったのか?」

「ええ、もう3年も前のことになりますわ。私に残されたのは大きな遺産と“それを狙うあさましい亡者”だけでしたの」

 

一拍置いて発せられた彼女の言葉には、虫を食いつぶしたような苦々しさがにじみ出ていた。

 

「“彼ら”は実に貪欲でしたわ。政略結婚、後見人…ありとあらゆる手段を用いてお母様の育て上げた会社を奪い取ろうと画策していましたもの」

 

彼ら、ね……なるほど。

ここが彼女のターニング・ポイント、“父のような人間”から、“男全体”に嫌悪感を向けられるようになった、その原因……か。

信頼していたはずの相手から裏切られることほどショックなことは無い。

幼い彼女の心はヤスリをかけられたかのように傷ついたことだろう。

 

 

「だから、あんなに男を嫌っていたのか……ゴメン」

「そんな、こちらが謝りに来ましたのに!」

 

俺が謝ろうとして、彼女がそれを制止し、彼女が謝ろうとして俺がそれを止める。

話は平行線をたどり、窓の向こうが茜色に染まりだしたころ、いい加減にイライラしてきて俺が半分切れた口調で言い放った。

 

 

「ええい!いつまでもこんなことしてられるかってんだ!!俺が謝らないから、お前も謝るな!―――いいね!!」

「は、はい!ですが……」

「い・い・ね!」

「……はい」

 

いきなり俺が出した大声に驚いた様子の彼女に、念押しまでしてやっと納得してくれた様子の彼女が

 

「ぷっ……うふふふふ……くすくす」

 

急に小声で笑い出した。

なんだか、その笑いにつられて俺も口の端が緩んでくる―――だ、ダメだ!我慢できない!

 

「くっ……あはははははは!はー長いことなにやってたんだか!」

「まったく、ですわ」

 

ひとしきり笑って、やっと落ち着いてきたころ、俺は彼女に右手を突き出し晴れ晴れとした笑顔で告げる。

 

「“これからよろしく”、セシリアさん。俺はハルでいいぜ」

 

彼女もそれに応え…今日一番の善い笑顔で

 

「こちらこそ、ハルさん。私も呼び捨てで構いませんわ」

 

俺の手を握った。

この日、俺の脳内にある友達のリストに一つ、名前が増えた。

 




ドーモ、読者=サン。
めんつゆ=デス。

まずは―――すいません!!ほんとは一話で何とか、鈴を出して対抗戦まで持っていくつもりだったのですが、セシリアの昔語りとか、心理描写とかイケメン一夏さんのニコポとか!入れたいことがありすぎて分割することになりました!!

戦闘シーンを楽しみにしていたミナサン、もう少しお待ちいただけますか?
次の回で鈴を出してやっと戦闘に入りますので!!

では、内容の話です。
今回はセシリアの過去話とハルとの対話のお話でした。
原作を読んでいるときずっと謎だったセシリアの両親について突っ込んだ話となっております。
楽しんでいただけたのでしたら幸いです。

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