恐れを知るものは、無限の空を目指す   作:めんつゆ

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注)前回と今回出てきた作品は現在やる夫スレヒロイン板(新)で連載中のスレッド
「やらない夫は独りだけの戦隊ヒーローのようです」より、【読みきり】と【連作1】の中で掲載された、”ビギンズ・ヒーロー”のお話をもとにしています。
とても面白い作品ですので読んでいただけると話の流れがよくわかるかと思われます。

読まれない方は、そんな痛々しいくも気高く頑張るヒーローのお話と思っていただければ幸いです。


  第21話 「ハル、涙の訳は」

「それにしても意外でしたわ」

 

 俺たちが手を離して、すぐにセシリアがからかう様に笑い話を切り出した。

セシリアの浮かべた柔らかい笑みが彼女の星のような美しさを際立たせる―――やっぱり、女の子、いや人は笑ってる顔が一番いいな。

そんな風に考えつつ、彼女の話を促した。

 

「何がだ?」

 

何気なく口からこぼれた疑問の言葉を、もっと考えて話せばよかったと後悔するまで五秒。

 

「ハルさんって意外としっかりしてそうでしたのに―――涙腺が緩いことが、ですわ」

「え?………」

 

のんきを決め込んでいた俺の顔が、信号機の様に後悔の青から恥ずかしさ赤にめまぐるしく変わる。

そんな様子をからからと品の良い笑みを浮かべているセシリアだが……俺は弁明するために反射的に口を開けた。

 

「ち、違うんだ!セシリア」

「どうしてかしら?別にいいと思いますわよ。“別に趣味なんて個人の自由”なんでしょう?」

 

あからさまに面白がっている彼女だが、ここで否定しておかないと何かやばい気がする!

具体的には―――扇子がトレードマークのあの人の影がががが……それだけは避けなきゃ!!

 

「あれは……な!その……」

「その……なんですか?」

「そう!たまたまだ!俺がそんなに涙腺緩いわけ………」

「ウソ、ですわね。さっき言ったでしょう。私、嘘を見抜くのが得意なんですの」

 

やっぱり、嘘をつくのは、よくないね!…じゃなくって!!

バレバレじゃねーか!どうするんだ俺!!

だらだらと冷や汗を垂れ流しつつ焦る俺にセシリアが迫る。

 

「では…ハルさん、さっきなんで泣いていたのかしら?」

「えっと………」

「さあお答えください!」

「それは、その………」

 

恥ずかしくって言えないだよ!察してくれよ!淑女なら!!

此方の心情などお構いなしに答えを迫るセシリアに、頭を抱えてしばらく悩みこみたい衝動にかられる。

 

「さあ……さあ!さあ!!さあ!!!」

「誰にも……言わない?」

「ええ…誰にも言いませんから私に教えてくださいな」

 

そして彼女の晴れ渡るような笑顔に、俺の少ない脳みそが白旗を振って降参した。

 

「参った―――笑うなよ?」

「ええ。笑いませんとも」

 

未だ、改善の余地の見られない自分の押しの弱さに呆れてため息がこぼれた。

しかたない、正直に白状しよう。

情けない自分を自嘲しながらセシリアにベットの上においてあったブルーレイを手渡し、重い口を開いた。

 

「その、パッケージに映っている主人公に“共感”したのと…その……なんだ……」

 

此方を注視しているセシリアの期待に満ちた視線が痛い。

そんなに期待して見られても困るんだが……

 

「あ゛ー―――“すごい”って思ったから」

「それだけですの?」

 

期待が外れたとばかりにきょとんとした顔になった彼女にジト目を向けて

 

「それだけだ。セシリア…いったい俺にどんな回答を期待していたんだ?」

「ハルさんですからもっと“すごい理由”なのかと思いましたわ」

「すごいって…別にいいだろ。それよりもセシリア………」

 

  口ではセシリアとの雑談を続けつつ、俺の脳みそはさっきの質問を思い返していた。

“すごい理由”ね―――ある意味そうなのかな?

俺がセシリアに明かした涙の訳は二つとも正しい―――でもそれがすべてじゃない。

一つ、最も大きくて、最も真に近いものが抜けている。

 

それは―――“慙愧の念”だ。

 

俺の記憶の底のほうに残っていた特撮の戦隊ものとは、これはまるで違った。

戦うべき相手がいて、目的を持った主人公が戦う。

そう、“それだけは”よくある展開だった。

でも…それしかなかった。なかったんだ。

お約束の、ご都合主義の、主人公補正の…そう呼ばれるもののすべてが―――なかった。

 

主人公の“彼”には何もなかった。

 

それなのに―――それなのに、“戦うことを選べた”のだ。

 

敵と戦わねばならぬ宿 命(リユウ)も無く

―――俺にはある、託された使命と未だわからぬ過去が

 

彼は巻き込まれただけだった。たまたま、“妹”の下に“勧誘”が来ただけだった。

でも、“戦えるものがいない”から

 

―――ただ、それだけの理由で“意思を固めた”。

 

俺は知っている

 

何かと戦うために“意志を固めること”、いや…それを持ち続けることの難しさを

 

やらない理由ならいくらでも存在した。

 

自分には無理だという、未知への諦観

家族を巻き込む可能性という、絡み付く自縛

与えられた力を間違えずに使えるかという、自分への疑心

うまくできなかったらという、ifへの不安

 

それらすべてが後ろ髪を引く、でもそれでも“俺は”戦うことを決めた。

だからだろうか?主人公にすぐ共感できて、かつ単純にすごいなと賛美することができたのは……おかげで後の衝撃がより強くなってしまったが

 

 

敵を前に手を取り合う戦友(ナカマ)も居らず

―――俺にはある、俺の親友にして伴に並び立つものが

 

 彼には、戦場に並び立つ戦友は存在しなかった。かつて敵に立ち向かっていた、幻想の存在にして“最強の種族”も、それを敬い焦がれ、身を鍛え“人を超えた戦士”も、異能を携えた“護国組織”も“ニンジャ集団”も―――そのすべてが滅び姿を消していた。

事実を知り、敵と独りで戦うことを理解しても

 

―――それでも彼はおぞましき敵を前に“逃げなかった”。

 

 

俺は知らない

 

独りで敵に抗う孤独を……圧倒的不利な状況で逃げ出さずに立ち向かうことの意味を

 

俺には相棒がいたし……何より俺は使命を受けたときから“負けるわけにはいかなくなった”から―――だから、絶望的な状況で逃げれば一縷の望みのある場合…俺は逃げて、逃げて生き延びて……次に必ず勝つべきなのだ。

助けを求める者を見殺しにして、助けを求める声を振り払って……無様でも、卑怯でも“らしくない”ことだとわかっていても―――俺に負けることは許されないのだから

それが…俺が一生悔やみ、他者から責められることとなっても“結果の前に”俺の心情など関係ないのだ。

 

でも、彼は勝率がゼロコンマの戦いに身を投じた。

助けを求める人々の声にこたえて…自分の身を危険に投じた。

 

なんて…“すごい”のだろう

同じ状況で俺に同じことができるだろうか?―――このあたりでできる、と断言できない自分が情けなく思えてきた……そして、ラストに近づくにつれその思いは変わることとなった。

 

 

敵に抗うための資 格(チカラ)も持たず

―――俺にはある、大いなる力を宿した二つの指輪が

 

彼は“選ばれた者”ではなかった。“選ばれた者”達とは隔絶した絶対的な差があった。

出力にして数百分の一、敵を薙ぎ払うツルギ(武器)も、敵の攻撃から身を守るヨロイ(防具)も、必殺の念を込めたキセキ(魔法)もそのすべてが欠落していた。

 

―――それでも彼は勝鬨を上げた。全身に数々の傷を負い、敵を打ち倒して

 

その勝鬨が俺の胸に突き刺さる。すでにこれがフィクションである、という事実は頭になかった。意志は固めた、力もある、仲間までいる―――そのくせにいまだに不安を振り切れない自分がただ、ただ……情けなかった。

 

“彼のような恐れを知らぬモノこそスーパーヒーロー(グリーンランタン)にふさわしい”そんな心の声が心の隅から湧いてくるのが悔しかった。

 

そんな自分に腹が立って…涙がこぼれた。

 

俺は―――

俺は―――

俺はッ!―――

 

「………さん?……ハルさん!?」

 

セシリアが俺を呼ぶ声で、ハッとする。

どうやら少し思い返すつもりが大分考え込んでいたようだ。

心配げにこちらを覗き込む彼女に、何でもない風を装って手を振る。

 

「大丈夫ですか?まだお加減がよろしくないのではなくって?」

「ごめんごめん。ちょっと思うところがあってね」

「―――ならいいですけど……それより!話の最中に別のことで考え込むなんて失礼ではなくって!?」

 

ぷりぷりと少し怒ってる彼女を視界に入れ、反省する。

確かにやってることはひどいな―――謝るように顔の前で両手を合わせ

 

「謝るよ、以後は気を付ける」

「ならいいですけれど……」

「話は変わるんだが―――」

 

まだ怒り足りないかのように話し続けようとした彼女の会話をさえぎり、むりやり話題を変える、“あの代表決定戦”のあと疑問に思っていたことを

 

「―――あの時、俺を撃墜した最後の一撃ってなんだったんだ?」

 

代表決定戦で俺の放ったイズナ落しのあと、“背中から”何かの攻撃を受けた気がした。

ビットの熱線でも、誘導弾でもない何か単純で原始的な衝撃を喰らって墜落したはずなんだが……どうにもわからなかったんだ。

 

「ああ、これですわ」

 

彼女は軽い笑みを浮かべてISから武装データを投影させた。

そこには―――

 

「近接格闘戦専用ブレード“クレッセント”?」

 

半月型の刀身がどこかアラビア系の刀剣を思い起こされるそのブレードを見て、少し考え込むが―――わからない。格闘戦用ブレードをどうやったら上空の俺に届かせることができるんだ?

 

いつまでたっても答えの出ない俺にセシリアは歌う様に言った。

 

「ハルさん、私こう見えても“ダーツなど”が得意なのですよ」

 

ダーツ?ダーツ、ダーツ……って!まさか!!

セシリアが与えてくれたヒントが俺の疑問の穴にぴったりとはまる。

 

「セシリア…あの遠距離の噴煙の中から、しかもボロボロのISで……“投げた”のか?」

「はい!その通りですわ!」

 

 

自信満々に少し尊大に胸をそらした彼女に、俺は驚きの眼差しを向けることかできなった。

俺のイズナ落しの衝撃は、セシリアのISをほとんど大破寸前に追い込むほど強烈で、実際にすぐに身動きが取れなくなってることから…それは間違いない。

しかし、いくらISの補助があるからと言って……射撃と投擲ではやっていることの難易度が違う。

 

基本的に、遥かに投擲のほうが難しいのだ。

目標に当てるためには、高い空間把握能力と筋力、未来予知にも似た行動予測が必要になってくる。

威力も射程も射撃に劣るし、速度も射撃にはかなわない。

“一つだけ”勝っているのは……予想の範囲外から攻撃がやってくる“意外性”だ。

それにしても―――粉塵の中を相手に気取られないように背中に当てる、これは神業、と言っても過言じゃないぞ。

 

「すごいな、セシリア」

「私の特技なのですわよ。よろしければ今度“一夏さんと”ご一緒にご教授いたしましょうか?」

「ああ……それもいいかもな―――ん?」

 

なんで一夏の名前がでてきたんだ?

そんなことを考えていると、あわただしくドアが開いて誰かが駆けこんでくる。

カーテンの向こうから現れたのは……

 

「一夏?なにやってんだ?」

「おうハル!セシリア!―――話せたみたいでよかった……それよりも!ちょっと身を隠させてくれ!」

「あの……一夏さん?」

 

明らかに焦っている様子の一夏は窓を大きく開けると、俺の座っているベットの下に潜り込んで

 

「俺は、窓から逃げた。いいね?」

「あっ!おい……」

 

それきり、何も言わずに岩のように静かになった一夏の行動に俺たちがきょとんとしていると、すぐの野獣のような怒り声と共に“原因”がやってきた。

 

「「一夏ぁあああああああああ!!」」

 

お次の来訪者は……

 

「って、箒ちゃん?」

 

幼馴染の箒ちゃんに―――誰だ?

少し小柄な体躯に、黄色いリボンで二つに分けた茶色い髪、肩がのぞくように改造された制服と翡翠の瞳が幼さを強調する、少女がそこに立っていた。

“普段なら”かわいい女の子、そう評価をつけただろう。

 

箒ちゃんと同じように後ろから何か鬼やら虎みたいなオーラらしきものが立ち上るほどに怒りにみちた表情を浮かべてなければ、という言葉が前につくのだが

あっけにとられている、俺たちに箒ちゃん()が問い詰める。

 

「ハル―――あの……愚か者を見なかったか?」

「えーと………一夏の、ことか?」

「その通りだ!」

 

な、なんて…プレッシャーだ!

 

どうする?ベットの下のコイツに何か原因があるのは間違いないだろう。

さて…本当のことを教えてやるか、それとも………

これからの対応を考えていると、空いている窓に注目したのかもう一人の少女がこぶしを震わせて叫ぶ。

 

「一夏のヤツ……ここから逃げたわね!!」

「おい、凰鈴音といったな!ここは―――」

「わかってるわ!あのアホを捕まえるまでは―――」

 

「一時休戦よ!」

「一時休戦だ!」

 

何か意気投合した鬼と虎は完全に置いてけぼり状態の俺とセシリアを放っておいて窓から飛び出した。

過ぎ去った嵐を後に…おそらくここで隠れている男の指に収まってる相棒に思念通信をとばす。

 

(おい、スプー…いるんだろ?)

【ここにいますよ、ハル】

(挨拶は良いから、説明してくれ)

【はい、実はですね……】

 

◆                ◆

 

【……と、言うことなのです】

(な~るほど……)

 

スプーの話を要約すると、俺が入院している間に、隣のクラスに転校生がきてその転校生がさっきの彼女―――凰鈴音という少女、ということらしい。

俗にいう幼馴染(2号)という奴だ。しかし、その凰さんが一夏と“結婚の約束”をしているらしく……それを小耳にはさんだ箒ちゃんがマジ切れして、一夏に問い詰めようと追いかけている最中、一夏がまったくその約束を覚えてないことが発覚して…凰さんもこの追いかけっこに参加した、と……

 

「うん、これは約束を忘れた一夏が悪い!」

「お前!親友を売るのか!?」

 

俺の口からこぼれた言葉を聞いてもぞもぞとベットの下から這い出してくる一夏を無視して、携帯で箒ちゃんの番号をコールし…一夏が医務室にいることを教える。

それを聞いた一夏が逃げ出そうとセシリアの前に出た瞬間!

 

「一夏さん……どういうことか…教えていただけますか?」

 

静かながら有無を結わせぬ口調の彼女が、他かなどの猛禽類にも似た獰猛な笑顔で一夏の腕を抑えてチェックメイト(詰み)を宣言した。

 

それから五分後―――コンクリートの床に正座させられた一夏を前に三人の少女が集った。

 

「それで」

 

箒ちゃん()が口にしたセリフを凰さん()が継ぐ

 

「この落とし前は」

 

凰さん()が継いだセリフをセシリア()がまとめた。

 

「一体どうなさるおつもりですか?」

「それはその……」

 

真っ青になってダラダラと冷や汗を流している一夏がいかにも哀れに感じるが……

 

『主、助け舟はお出しにならないのでござるか?』

 

ついさっき、回収した打鉄がいつもの定位置から疑問を投影した。

 

「とは、言ってもなぁ……結局は自業自得だし」

「ハル!たのむ、助けてくれよ!!」

「一夏…それより私は“約束”とはどういうことなのか、と聞いているのだが?」

「一夏!あんたあの約束忘れたって、どうゆうことかって聞いてんのよ!!」

「一夏さん、私もその約束とやらの内容が気になるのですが?」

 

……助け舟は出さないつもりだったけど、これじゃ解決は時間かかりそうだし……しょうがないか。

立ち上がり、医務室の中にあった冷蔵庫の中から人数分の飲み物を取り出し手渡した。

―――缶コーラしかなかったが…あとで補充しとけばジョーイ先生も怒らないだろう。

 

「三人とも落ち着いて、まずは冷静になってくれよ」

「ハル、だが……」

「その間に一夏が、状況を整理すること!」

 

箒ちゃんの反論を切って、俺は自分の缶を開けた。

三人ともしぶしぶといった様子でコーラをあおりだした。

少し考え込むようなしぐさを見せた一夏がポツリ、ポツリと話し始める。

 

「えーっと…箒と一緒に今日の練習を終わらせて……その時鈴がやってきて…約束の話をして……」

「一夏、約束ってどんな約束をしたんだ?」

「えっと……」

 

はっきりさせずに逃げ出した一夏に怒っているのもあるだろうが結局のところ、焦点はそこだ。

なんで結婚の約束をしたのか、という疑問の箒ちゃん。

なぜ大事な約束を忘れてしまったのか、っていう凰さん。

そもそも、約束とはなんなのか、という風体のセシリア。

まずは一夏が約束を思い出さなければ話にならない、と俺は思う。

 

「あっ!……あれか?」

「思い出した?」

 

凰さんの顔が一気に明るくなる。

なんというか…箒ちゃんに似てわかりやすい子だなぁ……

 

「おう!たしか……」

 

ゴクリと、息をのむ音が聞こえる。三人の少女たちの眼差しは真剣そのものだ、

 

「……鈴の料理の腕が上がったら毎日酢豚を―――

「そう、それっ!!」

「おごってくれるってあれだろ?」

「なっ………」

「はぁ?………」

「それは………」

 

(………スプー、これは味噌汁的なサムシングという解釈だよな?)

【その通りです】

 

目の前に燃え尽きたように白くなって固まった三人の少女たち、何かを褒めるようにうんうんとうなずく一夏、一気にカオスとした室内に俺の独白がしみわたった。

 

「結論、一夏はやっぱりスケコマシ」

『(?´・ω・`)ナニナニ

主…スケコマシとはなんなのでござるか?』

【打鉄は深く知らなくてよいことですよ。まぁ、あまり名誉とは言えない称号とだけ覚えておいていただければいいです】

『( ..)φメモメモ

わかりもうした』

「スケコマシとか人聞きの悪いこと言うなよ」

「だって、事実だし」

 

一夏の反論をよそに、視線をずらすと落胆した様子の凰さんの肩を箒ちゃんとセシリアが肩を叩き慰めているのが目に入った。

 

「その、凰……なんといったいいかわからないが…お前も苦労しているんだな」

「えっと…凰さんでよろしかったですか?……あまりお気を落とさずに」

「……鈴、でいいわ……」

 

そんな三人の美少女の姿が、また哀愁を誘った。

こうやって人は大人になっていくのか……いやはや、不憫な……

 

「お~い、どうかしたか?」

「一夏話がこじれるからお前は黙ってろ、な!」

「ところで……アンタが噂の“二番目の男”?」

「ああ、加藤陽だ。ハルでいい……その、なんというか……頑張れ」

「ありがと、ハル。アタシも鈴でいいわ」

 

そういって彼女はブルーになっていた表情筋を無理やり力を入れて手を差し出した。

本日二回目の握手を返した時に…一夏がベットの上に転がっていたものを手に取った。

 

「なぁ…ハルこれなんだ?」

「それはさっきまで見てたブルーレイだが」

「へぇ、きになるなぁ」

 

一夏の一言にいかにも興味津々といった表情で箒ちゃんが食いついた。

 

「ほう……なんならみんなで見るか?」

「なになに・・・まそうせんたいうぃざーずって、これ特撮ものじゃない!」

 

鈴が文句ありげにぼやくが―――たぶん一夏が見たいって言ってるから見る方向性に落ち着くのだろう。

それよりも、だ。

 

(ヤバイ、また見たら―――泣いちゃうも)

【ハル?あなた、“まだ”―――】

 

リンクで俺とつながったスプーが、俺の思いを解したのかどこかさびしげなテレパス(思念波)を送ってくる。

 

「俺も特撮好きだし……いいじゃん、見ようぜ」

 

一夏まで同調して場は完全に見る方向性に固まってきていた。どうしよう―――反対すべきか…悩むように顎に手をかけた時、黙っていたセシリアが俺のほうを一瞥しておちゃめにウィンクをしてから、自信ありげに口を開いた。

 

「お待ちになってください一夏さん」

「どうかしたかセシリア?」

「その…“まそうせんたい”、とやらよりも……こちらを見ませんか」

 

彼女は持ってきた紙袋から―――新品のブルーレイを取り出し、みんなに見せる。

外のパッケージには真紅と群青のツートンカラー、蜘蛛の巣の様に全身を覆った黒いラインがその両方を引き立てさせる、俺がこの世界で最初に出会ったスーパーヒーロー。

 

AMAZING(驚異の)SPECTACULAR(壮観な)など多くのあだ名のある男

 

“スパイダーマン”の姿がそこにあった。

 

「セシリア……これって」

 

疑問の言葉はセシリアの美しい笑顔で返された。

 

「はい、お見舞いですわ」

「こんなの探すの大変だっただろ?」

 

パッケージにはスパイダーマンの文字以外には何も書いていなかった。つまりこれは十年以上、俺がまだ家族と一緒にいられた頃の作品だということになる。

 

 

「それほどでもありませんわ。少し会社から没になった試作品を取り寄せただけですから」

「・・・・・・まじで?」

「はい。この映画を撮ったのも権利を持っているのもうちの会社でして無理を言って送ってもらいましたの」

 

訳がわらからなそうな顔をして、頭上にエスチョンマークを浮かべている一夏たちにむけて捕捉をしてやる。

 

「とりあえず、すごいものとだけ理解しとけばオーケーだ」

「なるほど……ハルはコレを知ってるのか?」

 

その言葉が耳に突き刺さった。どうやら一夏はこの稀代の名作を知らないらしい。

―――当然か。俺が宇宙に行ってた間にISの登場による男女間の差別意識が急速にひろまったって、山田先生も言ってたし……たぶん女尊男碑的な世論の波に押されてコケちゃったんだろう。

 

この作品のことを知っている人が少ない、というのは悲しいが、それでも

 

「ああ。これは最高だぜ。セシリアの案に乗るようだけど……みんなで一緒に見ないか?」

 

これからみんなに知ってもらえればいいんだ。

“彼の戦い”は自分がもっと落ち着けるようになったら紹介しよう。

 

そんなへこみそうになってきていた自分の心がゆっくりと上向きになろうとした。

 

その時!

 

「でも、これそれほど時間もかからなそうだしこっちから見ればいいんじゃないの?」

 

空気を読まずに、ポツリと漏らした中華娘の一言で和らぎかけていた顔が固まった。

 

「本当だ。コレ映画じゃないな」

 

スケコマシが中華娘から受け取ったパッケージの裏面を確認して呟く。

 

「ならば、そちらの最初の話だけ見てそれからセシリアのお土産を見ればよいのではないか?」

 

ツンデレ武士娘が話をまとめ。

 

「決定ね!それじゃあ準備するわ!」

 

中華娘がとどめとばかりに結論を打ち出す。

 

「みなさん!その……明日もあるのです、から……」

「何言ってるんだ?セシリア明日は休みだったはずだろ?」

 

なんとか助け舟を出そうとしたセシリアも、スケコマシの的確な指摘で撃沈された。

セシリアが美しい眉をひくひくと痙攣させながら助けを求めように俺に目線を合わせる。

その視線に「どうしましょう?」という意思を込めた瞳に俺は、頭をかいて深いため息を吐きだした。

 

「これから言うことは楯無さんには内緒だからな?」

 

◆                ◆

 

「―――と、言うわけで俺はみんなと一緒にこのドラマをあんまり見たくないわけなんだ。

知らず知らずのうちにまた泣いちゃうかもしれないから」

 

 そうして、俺がフィクションの特撮ドラマで泣いてしまった、という事実をみんなに告げると、さっきまでへらへらとしていた一夏の顔に真剣のような鋭さが増したのが見て取れた。

 

「なるほどね~~アンタ、見かけと違って結構子供っぽいのね」

「私も意外だったな。ハルは落ち着いている、という印象を抱いていたのだが」

「いまだに子供っぽくて何が悪い。趣味にとやかく言われる筋合いはないぞ」

 

何も知らない二人向けに唇をとがらせてむくれたような“ふり”を見せるが、俺の事情を知っている一夏から感じる鋭い視線が、俺に突き刺さる。

そんなときだった。

 

『主、一つ質問を申してもよろしいでござろうか?』

 

先ほどから黙っていたもう一人の相棒が口を開いたのは。

急に空間に投影されたウィンドウに鈴が何やら驚いているが、それを無視して俺は心中で思念波を送る。

 

(打鉄なんだ?できれば後に―――)

【ハル少し待ってください】

 

スプーを経由して打鉄に届けられるはずの、俺の思いは……ほかならぬスプーの声にさえぎられた。

 

「アンタ!さっきは気が付かなかったけど、これなんなのよ!?」

「ああ、これは俺の専用機の打鉄だ」

「ハァ?……ISが意思表示するなんて、聞いたこともないわよ?」

「私も初耳だぞ!」

「私もですわ!」

「どうしてこうなったか、ということは俺にもわからないし今度6月の連休に開発元の倉持から技術者が来て調査するんだと……知りたいことがあるなら打鉄に聞いてくれ」

『これまでは、主の手前―――抑えておりましたが名乗らせていただくでござる。拙者は打鉄、加藤陽の専用機として学園から与えられたISでござる』

 

興味津々といった様子の三人が待機状態の打鉄を質問攻めにしているのにちょいちょいと捕捉を入れながら、思念波通信でスプーに問いかける。

 

(どういうことだ?)

【私は打鉄ともつながっているので質問の内容は知っています。だからこそ言いますが、打鉄の質問は思念波ではなく自分の声で返してください】

(その理由は?)

【打鉄だけではなく、この場にいるすべての者も知るべきことだと思うからです】

(俺が彼を見て涙を流した三つ目の理由を、か?)

【はい】

 

確かに、”俺の事情を知っているのなら”俺が涙を流した理由が、セシリアやみんなに言った”共感”と”驚嘆”の二つだけじゃい、っていうことに気が付くのもわかる。きっと打鉄が、使い手が誰かに情けないとか言われて悔しいと思っているのも理解できる。

だが……

 

「打鉄、さっき言っていた質問ってなんだ?言っても構わないぞ」

 

三人の美少女にちやほやされていた打鉄は俺の口にした言葉に即座に反応し、ウィンドウを表示する。

 

『主!先ほどの主の流した涙の訳、本当に二つだけなのでござるか?

もし……もし、本意をお隠しなればここにいる皆の衆に申しあげてみていいがか?

きっと、皆も受け入れてくれるはずでござるよ』

 

打鉄の俺を気に掛けるけなげな様子に、うれしくなってくる気持ちを抑えきれなくって口の端が緩む。

 

(ここまで相棒から心配されるなんて俺は幸せ者だな)

 

でも、だからこそ……

 

「ああ、それだけだ」

 

おれは”それだけだと、言い切った”

 

言うわけにはいかなった。

言ってしまえば、”知らない彼女達”の中に疑念が生まれ真実に迫ってくる可能性があったし、”知っている一夏”がまた俺のために思い悩んでくれるとわかりきっていたから……

だからこそシークレットアイデンティティ(俺の秘密)を明かすわけにはいかない。

俺の敵に狙われないように。

 

俺が傷つく分にはいい。俺は腕が折れても、足が引きちぎられても、はらわたが焼き尽くされても、眼球を抉り取られても、勝つために氷の様に冷徹に炎のように激烈に戦えるように十年かけて備えてきた。

でも―――この学園に来て、まだ一カ月もたっていないっていうのにその短い期間だけで気が付いてしまった。

 

俺は大切なみんなが俺のせいで傷つけられたら―――

俺はそんなタタカウジブン(心の鎧)を保つことができない、きっと“狂乱にのまれて暴走してしまう”だろう。

 

そう、断言できる―――できてしまう。

 

今ではもはや、かすかにしか思い返せないおぼろげな前世の記憶を含めた、俺が生きてきた人生の中でママや父さんと暮らしていた幼き頃の記憶(家での生活)と同じくらい、今の学園生活が輝いて感じている、そう……感じているんだ。

 

理由は―――月での反動もあるのだろう。

でも、IS学園での生活は驚きと喜びの連続だった。

必要ないもの、と断じていた勉強が次々と新しい発見をさせてくれた。

当たり前の様に饗される食事が……ママや父さんの手料理を思い起こされた。

最初は気おくれてしていたクラスメイトとの他愛のない会話が楽しく思えるようになった。

箒ちゃんの一夏に対する恋模様が平和を実感させてくれた。

一夏がともにいることが頼もしかった。

 

何より……朝起きたときに“おはよう”、そう俺に挨拶してくれる彼女が……愛おしかった。

 

ここはもうただのISに関する情報収集の場ではない、そう思ってしまう自分がいる。

 

大切な人や人間を傷つけられたら、普通の人間はどうなるか?

答えは簡単だ。

怒るに決まっている。

でも、多くの人の命を背負っているスーパーヒーローにはそんなことは“赦されない”

何処までも公のためにあるべきなのだ―――それは自覚している。

だが、俺はやっぱりスーパーヒーロー足りえないのだろう。

 

でも、それがどうした。

 

今、スーパーヒーロー足りえないというのなら―――足りえる存在へいたれるように、努力すればいい。

 

そのために第一歩がこれ以上“誰にも俺の秘密を明かさない”、この選択だ。

危険に至る可能性を少しでも減らすために

 

俺の決断を口にしてから、少し間をおいて打鉄が淡々とした文調で一言だけ

 

『了』

 

とだけ表示し、すぐにウインドウを消した。

―――ゴメンな、でも……ありがとう。

そう心から思いつつ、いまだいぶかしげに此方をにらんでいる一夏に左手の打鉄を指から外して軽く放り投げた。

 

「一夏、ちょっと映画観る前にみんな一緒に購買で飲み物でも買ってきてくれ。俺の好みは打鉄が知ってるから」

 

打鉄を受け取った一夏が、呆れるようにため息をついて

 

「わかった。みんな、行こうぜ」

 

みんなを連れだって出て行った。

部屋を出る前にこちらを一瞥した一夏のどことなくいやらしい笑みが鼻についたが、怒る気力もなかったので猫を追いやるように手を振って医務室から追い出した。

再び静けさに包まれた医務室のベッドで俺は右指の相棒に語りかける。

 

「なぁ、スプー……俺は間違っていると思うか?」

【あなた自身がすでに決めたことを私がどうこう言う気はありません。それにあなたは絶対的に正しい選択肢など存在しない、ということはご存知でしょう】

「もちろんだ。でも、俺は―――」

 

相棒の俺を肯定する言葉が、じわっと心にしみわたってくるように感じた。

気が緩んだ、としか言いようがない。

つい、戦う決意をしてから口にすることだけはしなかった“いまだに振りきれない思い”が緩んだ口から零れ落ちてしまった。

 

「俺は―――SUPERHERO(リング)にふさわしいと思うか?」

 

そこ答えは……意外なところから答えられた。

 

「なに?映画の話?」

 

俺の後ろから聞き覚えのある声が、耳を打った。

驚きと共にすぐさま振り向いた窓の向こうに“颯爽登場”と書かれた扇子と何時もの笑顔と共に―――彼女、更識楯無が音もなくそこに立っていた。

 

「おじゃま、します」

 

そんな軽快な挨拶と共に軽やかな跳躍で室内に降り立った楯無さんは

 

「え、ええ映画の話です。それよりもいつからそこに!」

「ふぅ~ん……本当に?」

 

試すような笑みを浮かべて畳んだ扇子を口元に持っていき

 

「随分と、真剣そうな顔だったけど」

 

一転、真剣なまなざしとなった彼女は俺の独白のすべてを見ていた、そう告げたのだ。

 

「真剣な内容だったんです」

「……それじゃ、いいことを教えてあげる。私は、君のことをHEROだと、思うよ」

「どうしてです。俺は―――そんなに立派な人間じゃない!本来、ここにいることさえふさわしくない人間なんです!」

「うん」

 

 

まただ。

また、彼女を前にすると本音が抑えられない。冷静でいられない。顔も向き合えないほどに心が激しく暴れだす。

何なのだろう?この感覚は?

その感覚の答えさえ出れば、口からあふれ出す俺の心情が止まってくれると思った。

しかし、スプー(相棒)さえも答えてくれない自問を心の中で幾度繰り返せども答えは現れず、俺の口は勝手に動き続けた。

 

「俺は恐いんです!戦うのが……相手を傷に何もだんだんと、何の感慨も感じなくなってくる自分の心が」

「うん」

 

「傷つけられた人々をただの数字としてしか感じなくなってくる俺の考えが!」

「うん」

 

「俺は情けないんです。このみんながいる楽しい生活がずっと続けばいい、なんて心のどこかで考えている自分の無責任さに」

「そう」

 

「俺は不安なんです!自分がやったことのせいで多くの人の命が―――」

「もう……そこまででいいよ」

 

背中から柔らかく毛布の様に包み込む感覚と優しい……それでいて柔らかい、幼子を安心させるかのようなあの人の声。

うつむいて地面しか見えなくなって、口から思いがこぼれだすのが止められなかった俺がようやく止まった。

 

「もう大丈夫だよ」

「た、てなし……さん?」

「うん?落ち着いた?」

 

抱きしめられている。

そう、気が付いた。いつもならば恥ずかしくなってゆでだこの様に真っ赤になってしまう俺だったが、その時は違った。そんな心の余裕は全くなかったから

 

「君はHEROだよ。頭にSUPERが付くかどうかはわからないけど」

「でも―――」

「ハルくん、私はね……」

 

一瞬の溜めのあと彼女はふわっとした女性特有の声で語りだした。

 

「こう思うんだ。HEROってね……目の前で泣いたり傷ついている人のために何かをしてあげられる人なんだって」

「それはっ!そうですが―――」

 

確かにその通りだ。

でも、それは普通の人間の理屈だ。“俺みたいな”力のある者にとってはそれをやらないことは“大いなる責任に背を向ける”ということになるのではないか?

そもそも、人々を助けるべきHEROが自分のことでこんなにも悩んでいていいのだろうか……いいはずがない。

俺のそんな思いを察したのか彼女がポツリ呟く。

 

「そうは思えない?」

「―――はい」

「そっか。でもね、ハルくん……もし、君が自分のことをHEROだと認められなかったとしても、“君に助けられた人にとって”君はHEROなんだよ」

「でも……」

「でも、なに?

“君が行動したから助けられた人”が“助けてくれた君”と、いるかどうかさえ分からない“行動することさえしなかった、君が思うHEROにふさわしい素養を持っただれか(ヒト)”のどちらがHEROだと思うかな?」

「わかっています!そんなことはわかっているんですっ!!でも……」

「ねぇ……ハルくん、君はほんっとに真面目な子だね」

 

すこし呆れたような声で、彼女はささやく。

 

「ifの可能性、そのすべてを潰してご都合主義なハッピーエンドに向かう、なんて不可能っていうことは、聡いキミならわかっているでしょう?」

「そうだけど……」

 

それでも、と言った俺の声を聴いたからか彼女は抱きしめていた手をゆっくりとほどき俺の正面に向かい立ち、畳んだ扇子を口元に当てたいつものスタイルで自信満々に言い放つ。

 

「だったら、そういう時はおねーさんに相談しなさい!きっとなんとかしてあげるわ!」

 

その時、ようやく思い返した。

ifへの不安におびえることの無意味さも、人に相談する―――恐れずに人と接する、その大切さも……すべて、父さんの残した言葉にあったことだ。

わかっていた、つもりだった。

でも、違ったんだ。

俺は……みんなが傷つくことを恐れて、恐れずに本心からみんなとぶつかっていくことをしなかった。

自分の問題だと切って捨てて抱え込んでたのだろうか?

 

「それにねッ!」

 

楯無さんはいったんそこで言葉を切ると、カツカツと入口のドアにまで進み……一気に開けた。

 

バタンと何かが倒れる大きな音と共に

 

「ちょっ!」

「痛いですわ!!」

「アンタ!押さないでよ!!」

「いいから早くどいてくれ!重たいんだ!!」

 

その向こう側から現れたのは……

 

「みんな!!」

 

知らないうちに購買から帰ってきていた、一夏たちが達磨が倒れるように倒れ込んでいた。

 

「貴方には私以外にも頼れる仲間がいるんでしょ?だったら誰かに相談すればいいんじゃないかしら」

 

満面の花のような笑みで俺に言い放つ彼女は、それだけ言い残すと未だ団子状になっているみんなに手を貸すために俺に背を向けた。

 

「いつつ……」

「貴方達、盗み聞きはおねーさんよくないと思うわよ?」

「すみません、気になったもので」

『鈴殿 !早くどいていただかないとセシリア嬢が』

「それにしても一夏君、映画へのお誘いありがとね!公務終わらせて急いできちゃったわ」

「一夏!アンタこの人だれなのよ!!」

「ああ、このひとはな……」

「痛い!痛いですわ!!」

「こら鈴!暴れるなら降りてからにしろ!!」

 

開け放たれたカーテンの向こう側で、そんなやかましいやり取りが見て取れる。

そんな様子を見ていると、なんだか心のつっかえがとれたみたいな感じを受けた。

そんな俺に相棒が慈しむような口調で語りかける。

 

【あなたの記憶にアクセスして、私もあの作品を見ました】

(そっか……)

(情け、ないよな。“恐れを知らぬもの”でなくちゃならないランタンがいまだに不安を振り切れずにいるなんて)

 

自分に呆れかえるように思った自嘲の言葉は

 

【はい、情けないです】

 

あっさり、肯定された。

だが、やっぱりかとブルーになり始めた俺の心に、相棒の言葉が響き渡る。

 

【ですが―――それがあなたでしょう?】

(えっ?)

【クソ真面目で、情けなくって、へタレで、いまだに童貞で―――それでも、苦しい決断から逃げない、あきらめが悪く常に最善の道を探し続ける】

 

一拍置いて、さらに強く太陽の光のように暖かい光と声が心に染み入る。

 

【それが私の相棒です。そんな大馬鹿者であったからこそ、私はあなたと共に在ることを決めたのです】

(でも……俺よりも)

【確かに―――あなたよりも、“彼”のほうがよっぽど強いランタンとなれるでしょう。ですが、そんな“ありふれた”強いランタンよりあなたのほうがよっぽど魅力的です】

(魅力、か?)

【ええ。あなたには今までのただ強いランタンとは違う―――真の意味で弱者を「思いやる優しさがある、と少し前にも言ったでしょう】

(たしかに、そうだけど……)

【あなたはあなたらしいスーパーヒーローを目指せばいいんです。自信を持ってください。貴方が今までし来たことは“何も間違ってはいません”】

(…………)

【さあ、顔を上げて!あんまり私との会話だけにかまけているとみんなに不思議がられますよ!!】

 

 スプーの発した思念波が終わるのと同時に、ほら、とばかりに一夏がジュースを放り投げてくる。

それを危なげなくキャッチして

 

「一夏……飲み物を投げるなよ」

「悪い悪い!どこか上の空だったからな」

「あ!お菓子あるじゃん!!開けるわよーー!」

「ふむ……ものの見事にオレオ一色とは―――そんなにジョーイ先生は好きなのか?」

「これで、ディスクのセットは終わりましたわ!すぐにでも始められますわよ!」

「ああ、そういえば……ハルくん!デートの日にちだけど……」

 

 がやがやと騒がしい中で急に思い返したかのように、楯無さんが―――爆弾を落とした。

 

「・・・・・・あっ!」

「「「デェェェェトぉぉ!?!?」

 

三人の美少女がその甘美な言葉に食いついた。

 

「か、かか会長!その話は本当ですか!!ハルとデートする、というのは!」

「デート……デート……一夏さんと……うふふふ」

「デートかぁ……いつかはアタシも」

 

明らかに狼狽している様子で、問いただす箒ちゃん。何やら妄想にふけっているセシリアと鈴。

それでかという俺は―――

 

「そ、そそそそうでしゅね。たしきゃにしますけど……なななにもこんなタイミングで言いださなくってもよかったのではないのですきゃ?」

 

デートのことなど考えないように遠くへ放り投げていたせいか……ひどく狼狽してた。

 

『主!気をしかとお持ちになってくだされ!』

「ハル……大人になって………」

 

打鉄が心配し、一夏が浸る様に呟く。

 

「おおち、おちおちつかないと」

 

その一心でボトルのキャップを開いた、次の瞬間!

プシュッ!というはじける音と共に炭酸飲料だった中身が爆発した。

 

「「「「「ぷっ……はははははは!」」」」」

 

一気に冷水をかけられた気分できょとんとしている俺に、一夏がしてやったりと言わんばかりに大笑いをしながら叫んだ。

 

「ドッキリ成功!!」

「すまない、ハル……私はぷっ!……止めたのだが」

「くすくす……箒さん、途中で笑ってしまっていては説得力が薄いですわよ」

「あはははははは!あーおかしい!あの表情ったらないわ!」

「うふふふ、ハルくん見事に引っかけられたわね」

『主?いかがされましたか?もしや一夏殿の提案したどっきりとやらがお気に召されませんでしたか?』

 

ああ、そうか―――俺は……少し難しく考えすぎてたのかもしれない。

 

(なぁ、スプー……こんなバカどもの中にいたんじゃ……正論とか理屈、道理何て小さいことなのかもしれないな)

 

【そうですね。でもあなたが“今”思っている通り】

(そうか)

 

SUPERが付くにしろつかないにしろ、どんなヒーローにも“一つだけ特殊な能力”がある。

 

それは―――理不尽を打倒して人々を、人々の笑顔を守ること

 

こんな気のいいバカどもに囲まれているんだ。

“俺にだって”できるはずだ。

スーパーヒーローとは、夜中にタイツはいて街中を徘徊する変態、それがどうした!

なってやろうじゃないか!!!

 

“偉大な先輩たち”の様に強いわけでもない

“画面の向こうの彼”の様に絶対的に迷わないわけでもない

 

俺なりの……弱い俺自身だからこそなれる、“SUPERHERO”ってやつに

 

そんな思いと共に口を開く。

こんなバカなことをしてくれた愛すべき親友に向かって口が空いたままのボトルを振りかぶって叫んだ。

 

「よっくもやってくれたなこの野郎ぉ!!」

 

その顔に未知への不安も敵への恐怖もなく

ただその時その一瞬を全力で生きるという意思に満ちた満面の笑顔で

 

その後、学園長の呼び出しから帰ってきてから目の当たりにした、荒れ果てた医務室とみんなに食い散らかされた秘蔵のオレオの説明を求められてジョーイ先生の雷が落ちたことは、言うまでもないことである。

 




 ドーモ、読者=サン。めんつゆ=デス。

更新が遅くなってしまい申し訳ありません。……就職してから明日でやっと二週間なのですが……きついです。
休みが月給不定期二日のくせして日中の休憩時間が一時間半とか……そのくせスタートは4時……労基先生が息をしてないの!

っと、私事はさておき……今回の話は全快でまとめる予定だった、ハルの涙の訳、セシリア戦でハルが撃墜された理由、鈴の登場、ハルの迷いの解消と……こうやって見るといろいろ詰め込みましたね……

いかがだったでしょうか?楽しんでいただけたのならば幸いです。
ちなみに今回はほとんどネタを仕込めてません、ネット環境がなかったので……
やっと手に入ったネット環境も遅いと……これは厳しい、ですが完結は諦めてませんのでご安心を!
次は依然ご指摘のあった一夏回になります。それが終わったらようやくクラス対抗戦ですね……先は長い。

では、また更新が遅くなるやもしれませんが鋭意努力しますのでお楽しみに!
感想、ご指摘などいただければ幸いです。

では、失礼します。
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