恐れを知るものは、無限の空を目指す   作:めんつゆ

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 ドーモ、読者のミナ=サン めんつゆデス。

大変長らくお待たせしました。今回―――めちゃくちゃ長いです。
ご注意を。それと作中にある★マークは今回主に作業用として使っていたBGMをかけるのにおすすめのポイントです。
ちなみに今回は主に爆闘宣言ダイガンダ―挿入歌 GET A VICTORY!  遠藤正明を聞いておりました。


 外伝 「一夏、その想いを刃に乗せて」 下

 

 

           □                 □

 

 

カタパルトによって高速で押し出された白式が大空に向かって飛翔する。

そして、俺の視線の先には余裕綽々と言った表情のセシリアがうかがえた。その正面に相対するように加速した機体を制御し空中に静止する。

こんな風にISを自在に扱えるのもISの機能のおかげだ。ここまで扱いやすいのならなんであんなに難解な授業を受けているのだろうか?などという疑問を感じている図太い自分に高まっていた緊張が少しほぐれるのを感じつつ口を開いた。

 

「またせたな!」

「本当にいつまで待たせるのかと思いましたわよ?」

 

片手で呆れたようにジェスチャーを入れながら返すその様子に緊張、と言ったものはまるで感じられない。さすがは代表候補、とでもいうべきだろうか?

 

「それよりも……あのコミックギーグは何処に行ったのか、貴方はご存知かしら?予定では彼が私の記念すべきIS学園での初戦の相手のだったはず」

「ハルが今にいて何をやっているのか、俺は知ってる。だが、お前に教えるつもりはない」

「まぁ……別に“どうせくだらないこと”でしょうから別段、興味もわきませんわ」

 

―――“くだらない”、だと?

 

「やはり男はこの程度なのでしょうね。決められた約束も守れずに放り出す何て……」

 

―――ハルが“やらなきゃならないことじゃない”、でも……いかなかったら何千、何万という人の命を救いに行く行為が“くだらない”だと?

 

「子供みたいにコミックになんか興じている暇があるのならもっと他にやるべきことがあるでしょうに」

 

―――何もわかってないくせに

 

「少しは見どころがあるとも思っていましたが……やはり、“コミックギーグ”なんて過去のブームにしがみつく見苦しい……」

「……黙れ」

 

セシリアのハルを侮辱する言葉が俺の心に突き刺り、冷静でいさせようとした理性の壁をたやすく打ちこわした。

千冬姉の忠告がいかに正しかったのか、既に頭ではその重さを痛感していたが自分でも“その衝動を抑えることができなかった”。

 

体がまるで溶岩が流れているかのように熱く、ひたすらに熱くなる。

俺の心の内側で声が聞こえた気がした。

 

一言

 

『コイツに本当の闘争を教えてやれ』と

 

どろりと粘つくようなその声がひどく懐かしく感じたのと同時に、こみ上げてきた言葉に言い表せない衝動と共に俺は徒手空拳のままセシリアに突っ込んだ。

だが、完全に不意を突いたと思った俺の突進は―――セシリアの眉ひとつ動かさない、弧を描くような円軌道でいともたやすくかわされた。

すぐさま、白式を反転させ向かい立つ。

 

「ふふっ……まるで獣、いえ犬ですわね?」

 

アイツの、セシリア・オルコットの声がひどく不快に聞こえる。

 

「うるさい」

「まあ、そんなしつけのなってない犬コロにはお仕置きが必要ですわね」

 

白式が俺に警告を発する。敵ISからのロックオンを確認した、と

 

「しつけて差し上げますわ!このセシリア・オルコットとブルー・ティアーズの奏でる円舞曲(ワルツ)で!!」

 

次の瞬間、セシリアのISが手に持っていたライフルを滑らかに構えそこから放たれた光条が俺の体を貫いていた。

白式によって拡大された反射神経や思考速度が狙撃される、その事実を伝えてくれはしたが……実際に回避するとなると挙動に移るまでワンテンポ遅れてしまった。

機体がはじかれるような衝撃と共に大きく揺れる。

 

―――喰らった。それがどうした、今度は俺の番だ!!

 

瞬間湯沸かし器の様に沸騰した頭が“やり返す”と思う。本能的にPICで慣性を制御し、バランスを崩した白式をそのままセシリアに向かって加速させる。だが、現実は無常で、“代表候補生”という壁は―――思ったよりも厚かった。

正面から一射、飛来してきた正確な狙撃を速度を殺さないように気をつけつつ機体をそらしてぎりぎりの所を躱した先に―――もう一射が“おいてあった”。

高速化した思考が回避の命令出すよりも早く、再びの衝撃が俺と白式を揺さぶった。

 

芸術的、としか言いようのないタイミングで直撃させられた狙撃のせいで完全に勢いを殺された俺に、先ほどは無視した白式から損害報告が網膜に投影される。

 

『バリヤー貫通。残存シールドエネルギー60%装甲損害レベル低』

 

既にシールドが40%も削られてしまった。

IS戦の勝敗がシールドエネルギーの削りあいによって決まるという以上、既に圧倒的に劣勢だ。

しかし、俺の全身が前へ前へと突き動かされるような衝動とふつふつとこみあげてくるような高揚感が俺に言葉を投げかけているような気がした。

 

『戦え!決着はいまだついていない!戦いは、これからだ!』

 

何なのだろう?この衝動と高揚感は?

 

熱くなった頭にかすかに残った理性が投げかけた疑問は、俺自身の心の声にかき消された。

 

『まあいい、まずはあの女を叩き潰すのが先だ』

 

そんな当初の目的とはまるで違った思いが織斑一夏を突き動かし、三度目の突撃に身を投じさせた。

 

次は躱せる、という心の内側から湧き上ってくる直感に従って

 

           □                 □

 

 

―――いったい何者なの!?この男は?!

 

試合が始まってから15分。既に相手の第三世代型ISは被弾20を超え実体ダメージも中破レベル、残存シールドエネルギーが30%を切って撃墜まであと少しだ、とブルー・ティアーズは私に教えてくれている。

もう勝負の大勢は決した、と言っても過言ではないはずだ。

だが、今私の心を支配する感情は勝利への“高揚感”でも相手を下す“優越感”でもない

 

得体のしれない“ナニカ”に対する“恐怖”と“おぞましさ”の二つだけだった。

 

相手はボロボロ、こちらは無傷、それなのにあの男は―――またっ!!

 

また突っ込んできた。

ISが人型たる所以である携行武器さえ携えない、まるで野生の獣の様な勢いで

 

もう何回目の突進だろう、数えることさえやめてしまったその突撃を手に握ったスターライトの狙撃とリチャージがすみ機体から勢いよく分離していくビットの連続攻撃でいなしていく、そう“いなすことしかできなくなってしまった”。

最初はたやすく直撃できていたはずの狙撃が今はむなしく空を切り、避けた先に“おいておいた”回避機動予測射撃もするりと機体をスピンさせきれいに躱される。

ビットでの意識範囲外から発射するオールレンジ攻撃さえ、をひらりひらりと木の葉が舞うかの様に器用に回避する。

もはや認めざるを得ない。

 

織斑一夏は成長している、それも“異常な速度”で、だ。

 

確かに私の攻撃に“慣れて”来ているのもあるのだろう、それでも異常だ。

高々十五分でスターライトでの狙撃をたやすく回避し、躱しづらいBT兵器のオールレンジ攻撃を被弾せずに堪え、フェイントと本命の射撃を見分けるようになり、ISの高速思考による機動予測を超えた動きで避ける、これらすべてを学習してしまっている。

なおかつ、直撃を与えたのは最初の抜き打ちのような狙撃と、回避機動予測射撃だけ、それ以降の攻撃はすべてかする程度に抑えている。

 

私も最初はスターライトの狙撃だけで済ませられると考えるほど彼を侮っていた。

彼は奇異にもISの兵装の一切を展開せず、まるで犬が獲物に飛びかかる様に愚直に、ただ真っ直ぐに、全身を武装に固めた私に突っ込んでくるだけだったから。

だが……突撃の回数が増えるごとに少しずつではあるが機動の鋭さが磨かれている。

攻撃を受けさせないようにするために距離を離すまでの攻撃が、一射、また一射と少しづつ増えていく。

 

 

彼が私の攻撃を学習していることに気が付いた時には、すでに遅く―――本気でBT兵器を運用しても落しきれないほどに彼と私の間にあった“実力の差”は縮まっていた。

これまで代表候補生として選出されてから、それを維持するためにこなしてきた私の血のにじむような努力をあざ笑うかのように、いともあっさりと私の磨いてきた戦闘技術に対応していく。

そんな彼の姿を見て、私とさして変わらない少年が―――ひどく“おぞましく”感じたのだ。

 

これまでそう感じた人間には掃いて捨てるほど出会ってきた。

 

お母様の残してくださった遺産を狙う親戚、経営者、資産家(ハイエナ)の集団。

 

耳あたりの良い言葉ですり寄ってきた会社の重役たち(ゴキブリの群れ)

 

声高に正当性を主張し、味方だと安心させるように甘言と共に忍び寄ってきた親戚に雇われた弁護士たち(ウジムシども)

 

しかし私が今感じている“おぞましさ”は今まで出会った“おぞましさ”とはまるで違う。

彼、いや……正確には“今の織斑一夏”だが、教室やオープンチャネルで話した時とは豹変していて、評するなら―――人間というよりも、“死の間際まで追い詰められた野生の獣”と形容するほどの狂気と獣性を感じた。

 

何よりも……実体ダメージも中破レベルでところどころ装甲が欠落し、残存シールドエネルギーが30%を切っていて、既に負ける寸前だというのに彼は、あの織斑一夏は―――

 

 

――― 哂(わら)っているのだ。

三日月のような薄い笑みを顔に張り付けて、この不利な状況を愉しむかのように……それが何よりも怖かった。

 

まるで、そう……“まるで彼が人間じゃなくって、人の皮をかぶったバケモノ”の様だったから、そして彼の瞳には一欠けらの恐怖も微塵の焦りもなく、ただ強い意志だけがこもった眼でこちらを凝視する彼の瞳が、理解の範疇を超えて言葉に言い表せないほど“おぞましく”て“恐ろしかった”から。

 

だが、もはや勝敗は決した。

このまま距離を詰められないようにビットでけん制しながらスターライトでの狙撃を続ければ、時間はかかるだろうが勝利は確実だろう。

勝ちにこだわるというのならばこのまま、時間を稼ぐだけでいい。

彼の異常な速度での成長、というイレギュラー(不確定要素)考慮しても機体の損傷、残りのシールドエネルギーから見て織斑一夏は勝手に自滅するはずだ。

だから、このまま時間を稼ぐのが最良の選択、のはずなのだ。

 

しかし、私の心に棘のように突き刺さっていることが一つある。

そんな風につかんだ勝利に“勝った”と胸を張れるのだろうか?

 

違う!!

 

そんな空から零れ落ちてきたような“勝利”を、与えられた“勝ち”を―――

 

セシリア・オルコット()は認めない!!

 

だったらどうするべきなのか―――そんな問いは自分に問いかけるまでもない。

 

 

此方から勝負を仕掛けて勝利をもぎとるのだ。

 

徹底的に、完全無欠に、圧倒的に!

 

後から言い訳など通用しないほどに完膚なきまでに―――勝つ!

 

そうしなければ、私のプライドが許せないし、何よりも“男に負けるなんて”我慢ならない。

 

男なんて……どいつもこいつも、“娘を怖がるほど情けないろくでなし”か、肥え太る豚のように貪欲で!排水溝に詰まったヘドロのような汚い内面を見てくれの良い仮面で隠した、俗物だけしかいないのだから!!

 

そんな私の本音を込めるかのように、意識を戦闘に集中させる。

 

まずは、足止めに使用しているビットの出力を調整し、より連射の利くように変更。織斑一夏の正面に集中させて弾幕を張る!

私が下した指示の通りに4基のBTビットが猛禽のように周囲を高速で旋回し隙を見つけては攻撃を仕掛けるという、基本的なオールレンジ攻撃のフォーメーションから相手の前面に集結し火力を集中させた、いわゆる弾幕を張るような形に隊形を瞬時に変わる。

 

「もらったぁぁあああああ!!」

 

これを好機、と見た織斑一夏がまったくスピードを緩めずにそのまま飛び込んできた。

 

予想通りの行動に、思わず薄い笑みがこぼれる。

確かに、あの男の学習能力は脅威だ。

だがその能力には弱点が一つだけある……それが学習、という行動である以上―――

 

―――初見の攻撃および戦術には、必ずしも対応できるわけではない!

 

これはこれまでの戦闘の間に何度も確認して来たことだ。

“織斑一夏は初見の攻撃には必ず対応せずに攻撃をやめ、距離を取る”。

そうした見た攻撃を遠距離で確認し、どんな攻撃なのかということを分析し、ある程度の危険域や攻撃範囲の予測、そして私が戦術として取りたがる優先度を今までの戦闘記録から評価し、その情報に対する精度を高速で上げて行っている、と考えた。

 

そして精度を上げた情報をもとに攻撃を仕掛けてくる。それがさっきまで私の攻撃を躱し続けられた回避機動のタネだ。

 

そして、戦闘開始前に彼の様子が変わった、あの時の会話。

 

そこに付け入る隙がある!!

当初の想定通りに初めて私が使った射撃をばらまくような隊形に距離を離した織斑一夏へ向けて、オープンチャネルで通信を開く。

 

「16分49秒―――素人にしては、ずいぶんと持ちましたわね」

 

織斑一夏は取り立てて慌てた様子もなく、さっきまでと同じ薄ら笑いのままこちらを瞥見するだけだった。

 

「・・・・・・」

 

 あの男が、何の返答を返さないのは想定済みだ。だから―――彼をだしに使う。

 

「さすがは学園が手配した、日本の第三世代型専用機とかの著名な初代ブリュンヒルデ(織斑千冬)の弟、とでも言うべきかしら?これならまだ戦ってはいませんが……あの量産機しか与えられなかった“できそこないのコミックギーグ”より楽しめた、と言っていいでしょうね」

 

ハイパーセンサー越しの彼の顔が変わった。三日月のような薄ら笑いが消え、明らかに怒りのこもった眼差しで睨み付けてくる―――かかった!

未だ、反論の一つも言わない彼をあおる様に呆れた様子をよそおい口を開いた。

 

「あら……何か、ご不満でも?“違うというのなら口で反論して”みてはいかがかしら?」

「……アイツは、自分の意志で打鉄を選んだのだ」

 

さっきまでの獣のような凶暴な薄ら笑いは立ち消え、静かにゆっくりと、だが確かに理知的に彼は語りだした。

それを確認しつつ、空中に滞空していたすべてのBTビットを回収し高速で砲身の冷却、エネルギーの急送リチャージを開始する。

 

自分の意志で打鉄を選んだ、ということはどこかの企業や国家から試作型第三世代実験機提供の打診があった、とみて間違いないですわね。

 

ですが……そうなりますと……

 

「なるほど、では……彼は第三世代型ISの専用機と第二世代型ISの量産機の間に存在する、隔絶した性能差という物を知らなかったということでは?」

「違う…・…そうではない!山田先生が言っていた。アイツは学校が始まる前の間にびっしりと予習を受けていたらしい、だから、そんなことはありえない!」

 

織斑一夏との会話と続けながら、ブルー・ティアーズに網膜投影させて、BTビットや機体の状況を確認する。

このまま……最低あと30秒、最高は時間をかけられるほどに良い、とにかく……可能な限り時間を稼ぐ。

 

 それにしても……山田先生から補修授業を受けていたのね。

その知識があったからこそ、私の問いかけにも、織斑先生の質問にも自分の考えを持って答えられた、ということなのかしら?

でも、そうなると…………

 

「では、彼は自分であの第二世代が量産機、いえ……訓練機を専用機として選んだ、と?」

「……そうだ」

「それこそ、どうかしているとしか言えませんわ!“ツール(道具)でしかない”ISをわざわざ性能の低いタイプを選んで自分の専用機とするなんて」

 

 誰だって、第三世代型実験機と二世代型訓練機の二機の中から自分の専用機を選べ、と言われたのならば第三世代型実験機を選ぶはずだ。

第二世代には何もない。単純な機体性能差だけではく、母国で待機している大量の研究者、技術者のサポート、操縦者をサポートする手厚い福利厚生制度、第三世代型特有の操縦者のイメージ・インターフェイスを用いた特殊兵器の存在。

そして……何よりも、第三世代型ISの実用化、量産化にこぎつけた場合に操縦者に与えられる報酬と名声、“第二世代型ISはすでに兵器として完成されている”それ故にこの全てを得ることができないのだ。

 

「……違う。アイツはお前や俺よりも―――もっと広い視野で世界を見ているだけだ」

 

 広い視野?世界?それがなぜ専用機選択時の判断材料になるのかしら?

それよりも……そろそろ彼も私の目的が時間稼ぎ、ということに気が付いてもいい頃でしょう。

幸いにもBTビットのほうは砲身の冷却も終了しましたし、リチャージも40%は終了していますわ。

そして、“奥の手”の用意も終わっています。

 

そろそろ―――この舞台の幕を下ろすと致しますわ。

 

「織斑一夏さん、私にはあなたが言っていることの意味はわかりません―――ですが、加藤陽さん、そして今までに貴方に申しあげた礼節を欠く発言を全てを、謝罪させていただきますわ」

 

私は彼に向けて今まで構えていたスターライトの銃口を下げ、恭しく一礼をする。

視界をそらし戦の最中に相手に頭を垂れるこの行動は、まったくの無意味であるどころか相手に対して隙を作るだけではある。

でも、この試合に決着をつけるに当たり、絶対に“私にとって必要な行動”なのだ。

 

そう……これは―――

 

「……何のつもりだ?」

「―――決意、表明ですわ。これから貴方の事を“男の中の代表者”から、“敵”として認識して全力で落しに行きますわ」

「ふんっ……時間稼ぎは終わった、というところか?」

 

やはり、気づかれていましたか―――でしたら……ここからは日本でいうところの真っ向勝負、という奴ですわね。

 

「いいだろう―――こちらもいい加減、決着をつけたいを思っていたところだ」

 

 さっきまでの落ち着いた様子は立ち消え―――再度、野生の獣を思わせる鋭い眼差しと相対するものに威圧感を与える凶暴な薄笑いを浮かべて、ポツリとつぶやく。

 

 網膜投射された情報を整理し“彼の初動に備える”。BTビットのチャージ状況は65.08%。砲身の冷却は万全、概算して標準出力なら6発、低出力速射モードなら約30発、と言ったところかしら。

その最中、ブルー・ティアーズが警告を発した。

 

『敵ISのスラスターにエネルギー収束を確認、吶喊の兆候と見とむ』

 

「いよいよ、ですわね」

 

出来る限りの手は打った、後は―――

 

「―――往くぞ」

「来なさい、織斑一夏」

 

―――織斑一夏を打ち倒し、勝利をこの手に掴み取るだけだ。

 

 彼が今までと同じように最大速度まで機体を加速させる。それに呼応させるように4基のBTビットをパージ。速射モードに設定、織斑一夏の移動進路上でオールレンジ攻撃を開始する。

 

彼のISを360度全方位を取り囲み高速で回転しつつ、攻撃を加える。オールレンジ攻撃のも最大の利点である、攻撃の檻―――全方位同時多角攻撃がまっすぐに向かってくる織斑一夏に襲い掛かる。

 

しかし、彼は私の作り上げた檻など意にも関さぬ、と言っているかのように一切の減速なくひらり、ひらりと流れるような回避を続けつつ、BTビットの砲火の薄い部分を縫うように私に向かって飛び続ける。

 

(やはり、もうオールレンジ攻撃にまでほぼ、対応できるようになるまで学習してしまいましたか)

 

 彼の様子を眺めながら、心の奥でぼやく。

うらやましい限りだ、あれだけの“才能”があるのなら……どんな者にでさえ彼は勝てるようになるだろう。

 

だが、“私は絶対に負けるつもりはない、男だけには―――絶対に”

 

 

彼の機動から予測される、機動ルートをブルー・ティアーズが想定し、網膜に投影する。

その数、約30。

ビットによって彼の機動が制限されていなければさらにその数は増えていただろう。

 

ですが、まだ足りません。

 

約30の可能性のうちから直感に従い彼が選択する、と思った回避機動ルートに向けてスターライトでの狙撃を始める。

彼が前後左右から襲いかかるビットの射撃を躱した先に、私の放った狙撃が突き進む。

完璧なタイミングで飛来した光条は、瞬時に行われた前進しつつのバレルロールで標的を穿つ事無く虚空に消えて行った。

 

 まだ、足りない。

 

極限にまで集中し引き伸ばされた思考と時間の中で彼がじりじりと迫ってくる。

 

代表候補生となり、ブルー・ティアーズのテストの最中で何人ものアグレッサーを打ち落としてきたはずの攻撃がアリーナの空に消えていく。

 

相手を囲み、捕えて離さないビームの檻(オールレンジ攻撃)

 

|高度な演算と経験からくる直感で放たれるライフルの狙撃《スターライトmk-3》も

 

織斑一夏(あの男)を止めることも、捕えることもできない。

 

高低差こそあれど、直径200mと学生の訓練用に調整されたIS学園のアリーナは射撃戦主体のISにとって“狭すぎる”。よってブルー・ティアーズと織斑一夏のISとの現在の距離は当初の状態で107m。

 

しかし今、現在は―――

 

「もぉらったぁぁぁああああああ!!!」

 

網膜に映った、織斑一夏のISとの距離を現す数字が高速で消えていく。

 

 

―――残り、8.31m。

通常の時間感覚ならば、もう“一瞬のうち”に彼の拳が私に届くと言ってもいい距離。

 

最後の悪あがき、とばかりに彼の背後に食い下がっていたビットからレーザーを照射。

わずかばかり高度を下げ、完全に回避する彼。

 

―――残り、3.78m。

 

近すぎる。遠・中距離狙撃のスターライトはクロスレンジ(接近戦)において無用の長物だ。

投棄し、格闘戦用ブレード“クレッセント”を呼び出す。

 

―――残り。1.00m

ブルティアーズによって拡大された視界と、思考速度により彼の拳がこぶしを振りかぶる一瞬が、ゆっくりと何秒にも感じる。

 

さっきの彼の発言の通り、私は織斑一夏の間合いに入られた。

此方の兵装で役に立つのは“投擲用”に調整されたブレード一本。

近接格闘戦の成績だけは、お世辞にもいいとは言い難い私だ。

次の瞬間にも彼の拳が私に突き刺さるだろう。

 

もはや、逆転はかなわない?負けた?これでthe end?

 

いえ―――ショウタイムは“これから”ですわ!!

 

“ここまで抑え込んできた感情”がせきを切ったように溢れ出し、口角が吊り上る。

 

同時に、スカート状のアーマーにセットされ、ただの装甲だと思われていた2基のユニットに生命の息吹が宿る。

 

超至近距離で期待から切り離された二つのユニットが、織斑一夏に向かって猛進する。

 

悪あがきと断じたか、野獣のような今の織斑一夏にも自分の状況への認識があったのかは定かではない。だが―――彼はユニットを無視してさらに距離を詰めた。

 

―――残り、0.3mジャスト!

 

丁度、ユニットが織斑一夏に衝突する寸前、私はある命令を下した。

同時に、口から言葉がこぼれだす。

 

「これで……フィナーレ(終劇)ですわ!!」

 

その瞬間。

 

ブルー・ティアーズから切り離された二つのユニット、“弾道型BTビット”(ミサイルビット)が中に抱えている高性能爆薬の満載された片方4基、計8基の誘導ミサイルと共に誘爆し二機のISを巻き込んで―――

 

つんざくような轟音と共にアリーナの空を赤く染めた。

 

 

           □                 □

 

 

強烈な轟音と共に閃光が、目の前で爆発する。

 

その様子が写真か何かで切り取られたかのように、完全に静止しているような錯覚を覚えた。

 

目の前で爆発しようとしたものは……ミサイルか何かだろう。

現在の白式の状況をチェック

―――残存シールドエネルギー49。総量の約10%。

―――実体ダメージ、胸部装甲中破。左肩部装甲軽度の損傷。右脚部装甲小破。左脚部装甲大破。実体ダメージ総括、推定大破。

―――機体考察。各部装甲のダメージ、および序盤に直撃を受けた胸部装甲の損傷により

 

絶対防御の発動は不可避。

 

推定大破の状態から鑑みて、残存シールドエネルギーのすべてを消費。

 

白式―――機能停止。

 

俺は、負ける?

 

違う!!白式が機能停止する?

 

”それがどうした”

 

まだ俺は生きている―――ならば負けではない。

この身を覆うヨロイ(白式)がなくなったところでどうということは無い。

振りかぶったこの拳が、あの女に突き刺されば”俺の勝ちだ”

 

静止し、思考だけが加速した時間の中で同じ風景を写すだけだった視界に変化が起こった。ちりちりと何かわからない物が視界をよぎる。

 

(なんだ?―――まあいい。そんなことよりいつになったらこの錯覚が終わるだろうか?)

 

未だ、終わらぬ時間の加速した感覚にいら立ちが込み上げてくる。

 

そんなとき不意に囁き声が聞こえた気がした。

 

『お前の”思い”はその程度だったのか?』

 

最初からわかりきっていた、とでも言いたげな諦観に満ちたその囁きが、なぜかひどく不愉快に感じる。

 

(俺の思い?俺の思いは”あの女を叩き潰して俺の強さを証明することだ”!)

 

先ほどの囁きとは違った声がガンガンと頭の中で俺を鼓舞するように吠える。

 

『戦え!あの女を叩き潰すまで!』

 

本当に

 

『争え!己の本分を果たすのだ!!』

 

本当に?

 

『相手の鎧を引きちぎり、勝利の栄光と歓声を一身に受けよ!!』

 

本当に―――そうだっただろうか?

 

『相手の肉を貫き!腸を引きずりだし!吹き出す血をその身に浴びろ!!!』

 

違う――――そうじゃないだろ、織斑一夏。

 

『それが―――』

 

俺が本当にやるべきだったことは……俺が本当にしたかったことは……

 

さっきまでちりちりと視界を揺らめいていた何かがきちんとした形を持って視界に現れる。

 

黒目黒髪、ほりは深いがどこにでもいそうな顔。

顔見知りにしか基本的に話しかけたり、絡んだりしないし、女性(会長)にからかわれると真っ赤になるほどのへタレ。

冷静にいるべきだと自分を律しているくせして、目の前で人が傷つくことを見過ごせないお人よし。

そのくせ、自分のやった行動のリスクだけを後になってから自責するバカ野郎。

 

目的のために自分で自分を痛めつけ、それが常人とはかけ離れた行為だと自覚している狂人。

 

運命に抗う者―――俺の親友が目の前に現れた。

 

ようやく、俺は思い出す。

自分にすべきと科したこと、そして……俺が本当に今、したいと思っていたことを

 

『闘』(違う!!俺は―――アイツの……グリーン・ランタン(加藤春)サイドキック(相棒)!!)

 

その答えを聞き満足したかのような柔らかい笑顔を浮かべてアイツが消える。

 

―――サンキュ、HERO(相棒)

思い出させてくれた友に礼を内心で礼を告げ、さっきからガンガンと頭を叩く五月蠅い声に向かって宣言する。

 

(織斑ぁ、一夏だぁあああああ!!)

 

 

口から今までため込んだ思いを吐き出すように飛び出した叫びが、先ほどまで脳内を反響して俺を鼓舞し、突き動かしてきた声をかき消す。

 

 今まで、俺は何をしていたんだ!戦うことが楽しくてしょうがなくって、まるで自分が、自分じゃなくなったような……そうか!!

 

今になってようやく、千冬姉の話を思い返した。

千冬姉の言っていた”無理”の意味って……こういうことだったんだ。

確かに、まるでどろどろであつあつの蜂蜜みたいに体にまとわりついて体を熱くするくせ、どこまでも甘い、いや……甘美な言葉、っていうのはああ言う物なんだろうか?そんな感覚さえ受けさせた。

 

そして、ハルのことを侮辱され怒りに包まれた俺は、身構えようとする気さえ起こさせないほど、すんなりと”取り込まれてしまった”。

 

そして、我を失って当初の目的を忘れてた結果がこれだ。

 

白式はボロボロ。シールドエネルギーもほとんど残っていない。眼前には今まさに爆発しようとしている一対のビット。

この、自分の思考以外が停止したようなうまく説明できない空間がなくなってしまえば、瞬時にビットの自爆に巻き込まれ、絶対防御が起動し白式に残されている僅かなシールドエネルギーを全て奪い去られ―――俺は負ける。

 

絶体絶命、ってやつだな

 

 もはや打てる手の存在しないような状態だが、“詰んだ”と自身の敗北を受け入れるのは嫌だった。

 

だって俺はまだ何もしていない。

 

それに織斑一夏。

 

あのアホ(ハル)の口癖を忘れたか?

 

“この中で最も偉大なエネルギー、それは…………”

 

不可能を可能にし

理不尽を打ち倒し

絶望を希望に変え

荒波に漂う一縷の希望を手繰り寄せる

 

万物に宿った奇跡ともいえるエネルギー

 

『意志の力だってな!!』

 

 まだだ!まだ、勝負は終わってない!だったら―――逆転の目だってあるはずだ!!

それがどんなはかないものだって、あきらめない限りチャンスはある!

 

『ふん……この状況で、随分と余裕だな』

 

そんなとき、先ほど俺が我を忘れているに聞こえた不機嫌そうな囁きが聞こえた。

ただし、さっきとは少し声にこもっているトーンが違う。

いうなれば……あきらめ、というよりも呆れているといった感じか?

 

この声は一体……?

 

『……本来ならば落第点、と言いたいところだが……情けで及第点にしてやる』

(お前は一体?それに、落第点とか及第点って何を言ってるんだ!?)

『お前の示した決断、現状維持をさせる程度には私に響いた』

(お、おい?)

『その対価だ。ありがたく受け取れ』

(だから!どういう―――)

『さっさと行け、そろそろ思考加速も限界だ』

 

その瞬間、止まっていた視界が震えた気がした。“声”言ったことの意味はよくわからなかったが、今の状況がもう長く続かないことと“声”が何かして俺を助けてくれたことだけは直感的に理解した。

 

聞きたいことは山の様にあるが……そんな猶予は残されていないだろう。

でも、これだけはッ!!

 

(なんだかわかないが……ともかくありがとう!助かった!!)

 

『忘れるな―――いつも見ているぞ』

 

さっきと同じ不機嫌そうな声、でも……その声色にほんのわずかな歓びが滲んでいたは見逃さなかった。

 

 

瞬間、今まで動くことを忘れていたように静止していた全てが、自分のすべきことを思いだしたように動き出す―――応援しつつ遠巻きにこちらを眺める観客の女生徒達、なぜかピットから飛び立とうとしている訓練用ラファールの群れ、ブレードの腹を眼前に突き出し少しでもダメージを軽減させようと腕を振るセシリア、そして俺の体が高速で後ろに引っ張られる感覚と共に―――目の前にあったはずの二つのミサイルビットがまったく同じタイミングで爆発した。

 

 

           □                 □

 

「一夏ッ!応答しろ一夏ぁ!!」

 

周囲を明々と照らした爆炎と広範囲にまき散らされた黒煙しか映らぬ中継映像に向けて箒の悲鳴に近い言葉が投げられる。

しかし、反応はなく。

この試合が始まり、一夏の目つきが変わった頃から様子がおかしかった千冬も声を荒げてインカムに向けて言葉を放つ。

 

「しっかりしろ!一夏!」

「あの……織斑先生?」

 

真耶が、何やら言おうとしているが……|弟を心配するあまり、職務を忘れかけている姉には通じない。《頭に超弩級が付くブラコン》

 

「だから!早く応答しろと言ってるんだ!!」

「篠ノ之さん?あの……勝手に予備のインカム使われると……困るんですが」

 

真耶が、注意の言葉を投げかけるが……|思い人を心配し涙さえ滲ませている乙女は聞く耳持たず。《恋愛脳やら乙女エンジンを実装している、すいーつ(笑)》

 

「「―――一夏ッ!!!」」

 

話を聞かない二人に良い加減、堪忍袋の緒が切れそうになってきた摩耶が口元をひくひくさせつつモニターに視線を移す。

そんなとき、とある“事実”に気が付く。完全にモニターの情報など気にも留めていないだろう二人にそのことを伝えるべく、憂鬱になってくる気持ちを奮い立たせようとしたとき―――空中を漂っていた黒煙が晴れ

 

その主と共に白亜の鎧が姿を現した。

 

 

           □                 □

 

 

耳元で誰かが俺を呼ぶ。聞き覚えるある声だったが、至近距離で爆発を受けたせいか思考がまとまらない。

 

『―――かっ!!』

 

えーっと……誰の声だっけ?

 

『しっかりしろ!!』

 

可笑しいな……声が、二種類聞こえる。

 

「――――るんだっ!!」

 

ん……のど元まで出かかっているのに出てこない。この声は……

 

『『一夏ッ!!!』』

 

怒鳴りつけるような、でも必死で何かを訴えかけるような二人の声にようやく正常な思考能力が戻る。

 

なんで、俺……確か後ろに引っ張られて……今どうなってんだ?

 

混乱して、通信を送ってくれた周囲取り囲んでいたが晴れていく

黒煙の向こう側から、驚愕に目を丸くしたセシリアと所々装甲が欠損しているブルー・ティアーズの姿がハイパーセンサーを通して鮮明に映し出される。

 

「そんな……あの、ミサイルビットを犠牲にしたカミカゼを―――無傷で回避するなんて……それに……装甲形状の変化―――まさかッ!!」

 

えっと……俺、なんでセシリアからこんなに離れているんだ?

それに、なんで俺―――完全武装のラファールの集団に囲まれてるんだ?

一体何があったんだ?誰か説明してくれよぉ!!

 

心構えはできていたはずだったのに、余りに予想外でかつ自分の意志の解せぬ状況に混乱はピークを迎える。

 

『一夏ぁ!』

「箒か!?」

 

そんなとき俺を心配する幼馴染の声が耳を打った。

混乱のせいか、セシリアとの試合の最中だという事も忘れて箒に質問を投げかける。

 

「箒、これは一体どんな状況なんだ?」

 

投げかけた質問の答えはすぐに帰ってきた。ただし、質問を答えたのは投げかけたはずの幼馴染ではなく、聞きたかったこともまるで分らなかったが……

 

『一夏―――意識はしっかりとしているか?体に違和感は?痛むところがあるのならすぐに言え。試合は中止だ。お前の周りにいる先生方の指示に従って着陸できるか?』

 

声の主―――実の姉が普段の落ち着いた様子からは想像できないほど、早口で捲し上げる。

だが、俺の意識はその中の一言にだけ向けられていた。

 

「なぁ……千冬姉。ハルは来てるか?」

「何を言い出すかと思えば……お前は自分の事だ―――」

「―――教えてくれ千冬姉、アイツは“其処に”いるのか?」

 

一瞬の逡巡。そのあとに千冬姉は重々しく口を開き一言だけ呟いた。

 

「まだ来ていない」

「そうか、じゃあ……」

 

ここで俺が退く訳にはいかなくなったな。俺の行動の結果でこうなったんだ。

最善の目標が果たせなくなったとしても、なすべきことをなす。

それが、サイドキックである俺のやるべきこと、だと……思う。

そのためには―――

 

「じゃあ……千冬姉、頼みがある―――俺はまだやれるから試合をこのまま続けさせてくれ」

「織斑。お前がなぜ教員の搭乗するISに包囲されているのか、その理由は理解しているのか?」

「してない―――けどッ!やらなきゃならないんだ!」

「一夏……お前も気が付いているだろう。“今の状態の”白式でも残されたシールドエネルギー残量では、勝つことができないという事実に。なぜだ?なぜ、たかが模擬戦でそこまでやる?」

 

 たかが、模擬戦。そうだ……これは模擬戦。誰かの命がかかっているわけでも、アイツが背負ってるような世界の命運がかかってるような実戦じゃない。

 

でも!

 

「俺が……俺の意志()がやる、って決めたから……だから!」

 

ハルの居場所を守るために、俺がアイツの秘密を守る。

 

「はぁ―――それで私が納得するとでも思っているのか?」

「頼む、千冬姉」

 

 弟が自分に向ける、ひたむきな眼差しに千冬は弟の成長を自覚する。

瞳には今まで“自分が守ってきたはずの存在”がいつの間にか“誰かや何かを守る者”特有の強い意志の光がともっていた。

 

千冬が弟の成長を嬉しく思う反面、自分が“この言葉”を言った後、試合終了後に訪れるだろう始末書の山が想像できてしまい、頭が痛くなってくる。

だが、大人の責任とは子供のためにやりたくもないことをやってやることだ。

徹夜をする決意を固め、滑らかに口を開いて彼女は口にする。

 

「いいだろう」

 

肯定の言葉を

 

「ありがと……」

「ただし!お前の素振りが少しでもおかしくなったらその時点で、教員部隊のISで介入し試合を終了させる。わかったな?」

「ああ、わかったよ。ありがとう千冬姉」

「織斑先生、だ。いい加減覚えろ馬鹿者が。それと……終わったら精密検査を受けろ、準備させておく」

「かしこまりました!織斑先生」

 

 一夏のこぼした笑顔に千冬はまだまだ子供だな、と素直に思いつつこれから行う手回しへ思考のリソースを回し通信を切った。

 

今度は山田先生から通信が入る。千冬姉との協議の結果、再開まで3分間のインターバルが与えられることが決定したらしい。

 

即座に試合続行の情報が教員部隊と、セシリアに告げられる。

ラファールは上空、遮断フィールドぎりぎりに退避し、セシリアは放出していたBTビットを帰投させ、地上に投棄したスナイパーライフルを回収しに地表へ向けて緩やかに降りてゆく。

インターバルとして与えられた3分間の間に一夏は白式の被害状況から“目的を達成するための方策”探ろうとステータスチェックを始める。

 

その時、“ようやく”一夏は気が付いた。

機体情報の投影されている網膜にそこに大きく何かのボタンが投射されていることに

 

「ん……?なんだこれ?」

 

興味本位でそのボタンをタップする。

その瞬間、膨大な情報が俺に流れ込んだ。

機体の現在の状況、“強化された機能”、“新しく追加された機能”、“現在の白式”の3Dグラフィック画像。その全てが俺に一つの事実を教えてくれる。

 

フォーマット(初期化)フィッティング(最適化)の終了、すなわち―――ファースト・シフト(一次移行)が終わり白式が真の意味で俺専用になったという明確な事実を。

 

白式のアップデートされた情報のすべてが俺自身の事であるかのようにすんなりと理解できる。

3Dグラフィック画像と、アリーナのカメラから取得したリアルタイム映像が試合開始前に確認した姿とは少し変わった、白い鎧の姿を教えてくれた。

 

西洋の騎士鎧を思わせる重厚な装甲。

より大型化し大きく飛び立とうとする鳥のように降り曲がったアンロックユニット(スラスター)

そして、かつての白式の装甲色である白さとは毛色の違った、透明で透き通るような白さ。

 

工作機械が創りだした精美な美しさを纏っていた工芸品のような白式ではない、職人の細やかさと芸術家の大胆さを兼ね備えた、いうなればまるで人が丹精込めて作り上げたかのような、勝手に動きだしそうなほど生き生きとした脈動感に美しさ。

 

これが……俺だけのIS、俺の専用機―――白式の真の姿、か。

 

“そんなことより”も情報整理だ。一次移行の余韻に浸っている暇は一秒だってありはしない。

 

一夏は、残り時間を注視しつつ思考をめぐらせる。

 

どうする?―――まだ、ハルは帰ってきていない。

いつ、あいつが帰ってこられるのかさえ分からない。

となると……可能な限り攻撃を回避して時間を稼ぎ、試合を長引かせるべきなんだろうが

―――問題がある。一つは“白式の状態”の事だ。

白式の実体ダメージは回復した。

白式の各機能の性能も向上していることだろう。

俺自身もまだまだ戦える。気力・体力ともに有り余っている。

だが、“戦闘中に失ったシールドエネルギー”だけはどうしようもない。

一次移行の時にほんの僅かばかり回復したみたいだったけど、現在の残量116、どれだけあがこうと結局は、総量の10%しかのシールドエネルギーが残っていないのだ。

 

この程度のエネルギー量じゃ、1発射撃をかすらせることさえ致命傷になりかねない。

 

つまりは、俺にはこれから一切の被弾が許されない。

4基のビットと正確無比なセシリア放つ狙撃のすべてを躱しきらねばならない、というのだ。

 

それだけじゃない、“千冬姉の提示した条件”の事もある。

おかしくなった―――どんなことをしたかはわからないが、あの全身が熱くなるようというか蕩けるようなあの感覚と戦え、とやかましかった声が原因だろう。

 

あの感覚から抜け出せたのは……“あの囁き”とハルのおかげだ。

だが、次またあの感覚と声が俺に襲ってきたとして俺は……

いや、やめよう。

俺が己を律しあの感覚と声を乗り越えなければ―――目的を達するはかなわない。

 

やるしかないのだ。

 

己に言い聞かせるように内心で呟く。しかし、その言葉に言ったところで俺自身を疑う気持ちは重く胸にのしかかったままだった。

そんなとき、白式がピットから通信が入ったことを教えてくれた。

通信をつなぐと……そこにはなぜか目を少し赤くした幼馴染の顔があった。

 

「箒、どうかしたのか?」

「どうかしたのか?ではない!心配をかけさせおって……まるで一夏が別人となってしまったかのような気がしたんだぞ」

 

そっか……そこまでひどい豹変ぶりだったのか。

 

「心配かけさせて、ゴメンな。俺はまだ大丈夫だから―――」

「―――大丈夫な物か!織斑先生から聞いた。お前はまだ戦う気でいるのだろう?」

 

箒がすごい剣幕で俺を睨む。

それが、単純に俺を心配してくれていると理解できてしまうだけに、心苦しさだけが募ってくる。それでも、退く訳にはいけない。

 

「そうだ」

 

俺の肯定の言葉を聞いた瞬間、箒は顔をうつむかせ重々しくため息を吐きだすと、すぐに顔を上げる。そこにはさっきまでの剣幕など欠片もなくいつもの眼光鋭く、何事に対しても真っ直ぐな俺のよく知る幼馴染の顔があった。

 

「ならお前にアドバイスだ」

「アドバイス?でも………」

「いいから聞け!これは昔“とある人”から教えてもらった言葉なのだが、“、頭はcoolに体はhotに”だ」

 

イマイチ理解できずに首をかしげていると箒が顔を真っ赤にしつつあわてて捕捉入れる。

 

「その……なんというか、無駄な感情とかは体を流すようにして頭をすっきりさせろっていうことだ、と思う……たぶん」

 

なんだか“まるで何事もないときのように”慌てている箒の顔を見ていると一回まわって落ち着いてくる。口角が上がって自分が笑っているのを自覚した。

 

「たぶん、とか思う、か……なんか不安になってくるなぁ」

 

ちょっとしたいたずら心が湧きあがってくる。

 

「そんなことを言うな!これでも必死で……」

「わかってる。サンキュ、箒のおかげで行けそうな気分になってきた」

「そうか―――ならよかった。厳しいと思が、やって見せろ一夏」

 

そう微笑んで告げる箒、言外されてはいないが……“奇跡”でも起こさなければ勝つのは不可能だとわかっている、と直感的に理解できた。

 

「まかせろ」

 

起こしてやるさ、“奇跡”ってやつを

 

箒との通信を切ったのを確認して今度はセシリアからオープン・チャネルで通信が入ってくる。残り時間あと約一分、なんのようだろうとそそられる興味に従い通信をつなぐ。

 

映像越しの彼女、ナイフの様に鋭くだが、狼狽、疑問と言ったいろんなものが混ぜ込まれた複雑な顔をしていた。

そのまま、10秒ほどお互いの顔を見つめあっている、という状況に一夏が少しイライラしてきた。

そして、通信をつないだというのに話し出さないセシリアに痺れを切らした一夏が自分から問いかけた。

 

「それで―――いったい何の用だ?」

「あ、ああ……失礼いたしました、それで……あきらめる気はありませんの?」

「どうして、そんなことを聞くんだ?」

「根拠としては一つ、貴方のISに残されているシールドエネルギー残量が少ないこと。二つ、今の私との力量の差をあなたは自覚していることでしょう、そして何よりも―――あの状態でない貴方に“私を倒しきれる”、と思って?」

 

 やっぱ……全部、見透かされてるか。俺の抱える問題点を全て提示するその言葉が胸に突き刺さる。セシリアがそうまで言うのだからたぶん“あの時”の俺はよっぽど強かったのだろう。でも、制御できなければ意味はない。

セシリアが説得するかのように言葉を重ねる。

 

「私から言うのもなんですが、貴方はよくやりましたわ。土壇場での一次移行もその後の対応もお見事、としか言い様にありません。ですが、今の貴方では―――」

「―――ありがとう、セシリア。代表候補生でこれだけの腕を持つお前にそう言ってもらえてとてもうれしい、けど……」

 

一夏は、言葉に今の自分の思いを全て込めるように言葉を切った。

 

「……俺は退くわけにはいかない。それが、俺がアイツに誓ったことだから」

「その“誓い”を果たすために、奇跡のような確立にかけて私に挑む、と?」

「ああ」

 

 美しい、セシリアが素直にそう思えるほど一夏の眼差しは真っ直ぐで、澄んだものだった。セシリアには、その眼差しが勝負をあきらめさせようとしていた自分の浅ましい部分を貫くように感じられた。

今の彼に抱いている印象が口からこぼれる。

 

「……貴方は、強いですわね」

 

 技能や能力が、という意味ではない。心の強さ、とでもいうべきだろうか。

それを彼から感じる。かつて相対して来た“男ども”とはまるで異なるものを。

彼が男たちの中で例外的に強いのでしょうか?それとも……

 

「俺よりも、遅刻してるアイツのほうが強いさ」

 

「そうでしょうか?彼の搭乗機は―――」

 

私には、彼が強いとは思えなかった。

彼があまりに普通の人間だったから。

彼の言っていることに現実味、といものが欠けていたから。

しかし、織斑さんは私が“知りたかった、強さ”について答えてくれた。

 

「そういうことじゃない。アイツの強さは―――心だ。俺がアイツの教えてもらった詩にこんなものがある。」

 

そうして、一夏は朗々と語りだした。

 

 

漆黒の夜の闇も、耀く日の光も、

 

いかなる悪をも見逃さぬ

 

闇の力を崇める者よ

 

畏れよ我が光

 

意志の光を―――

 

 

「いい詩ですわね」

 

不思議な詩だった。何かに立ち向かう者の詩、とでもいうべきなのだろうか?

オリジナルなのか、引用された物なのかは定かではない。

けれど、こんな詩がすっと出てくる人ならば、彼の言った現実味のない話にも何かしらの理由があるのかもしれませんわね。

 

そんなことを考えて悔いるとブルーティアーズが戦闘再開まであと10秒だと教えてくれる。

おしゃべりは……ここまでね。

弱者から脅威に、脅威から敵に、敵から……この短時間で私の下した評価を次々と変えていった彼にスターライトmk-3を構える。

 

「そうだろう?―――じゃあ一丁、奇跡ってやつを起こしてやりますか!」

「フッ……やってみるといいですわ!現実の厳しさという物を教えてさしあげますわ!」

 

そして、両機のカウントが零になった瞬間。再度戦端が開かれた。

 

真っ先に一夏に向けて構えられたスターライトから閃光が迸った。

それを右方向への急加速で回避する一夏、すぐに白式を振り次の狙撃に備える。

しかし、予想した次射は待てども訪れず、代わりに周囲を2基のBTビットが取り囲みレーザーで攻撃をかける。

それを直角を描くような3三次元機動でたやすく回避する一夏。

 

一夏はその攻撃に疑問を抱いた。

 

こんなにセシリアの攻撃は甘いものだったか?

理由はわからないが、一夏にはその攻撃があまりにもイメージからかけ離れたものに感じられてならなかったのだ。

もっと自分の想像していたのはもっと苛烈で―――完全に計算づくされた、いうなれば詰将棋のような攻撃だったからだ。

初撃を回避しただけでは終わらない。そのあとに豪雨のような連続攻撃が絶え間なく降り注ぐ、それが頭の中にイメージとして浮かんできた。

 

箒のアドバイスのおかげか、体は熱く頭はクリアだ。

そして一夏は逆転へ突破口を見出すこととなる。

 

(あれはッ!!)

 

何度目かのビットの射撃と交わした時、ハイパーセンサーが一瞬停止し少し下降した後また飛行を開始したのを一夏は見逃さなかった。

“攻撃を行ったBTビットがスパークしている”のを。

 

続いて飛来したスナイパ―ライフルによる狙撃を急降下して回避しつつ、一夏は高速で思考をめぐらせた。

 

―――もしかして、セシリアのISはこれまでの戦闘でかなりダメージを受けている?

その可能性が高い。セシリアの操るビットは一度回避しても必ず時間差ですぐに次のビットから射撃が来た。スナイパ―ライフルによる射撃の頻度ももっと多かったし、精度だってすごかった。

 

間違いない。セシリアのISに搭載された装備に限界が来ている。

 

このまま、時間を稼ぐか?…………いや!回避に徹するだけでもエネルギーは減っていく、だったら“別の方法で時間を稼ぐだけだ!”

 

“セシリアの機体を破壊して修理に時間を掛けさせる”、この方法ならかなりの時間を稼げるはずだ。

 

ISには自己修復機能がコアにもともと備わっている。

これにより軽度の損傷なら放置しておくだけで万全の状態にかいふくしてくれる。

しかし、実体ダメージ、ISが戦闘中に判断する実戦判定における中破。精密検査時に判明するISの機体ダメージクラスC以上の場合は人の手による修繕が必要となる。

 

それを狙う。修理が必要となれば、控えている上級生、整備課の人達から同国人で選出された、専用機のある学生のために専用機もち専属の整備クルーによる修繕が必要となるはずだ。

 

そうなれば……かなりの時間が稼げるはずだろう。

 

それこそ―――1時間以上。

 

(山田先生と箒に感謝しなくちゃな)

 

内心で補修を行ってくれた山田先生と、補修を取り付けてくれた箒に感謝を述べる。

 

でも、容易なことじゃない、残り10%程度の白式で、至近距離であの爆発を受けているとはいえ、白式の解析が投影された網膜にはまだシールドエネルギーの半分以上が残されている。

肝心の実体ダメージも中破に近い小破。ダメージ判定で言えばBがいいところだろう。

そこから一段階、完全中破にまで追い込まなければならない。

 

でも、これを……約束を果たす、と決めたのは俺だ。

だったら―――逃げるわけにはいかない。

 

その決意を後押しするかのように白式が網膜に新しい情報を投影する。

投影された文字には現在使用可能武装一覧と書かれていた。

一覧、と言ってもそこに書かれてあるのは一つの武装の銘のみ。

 

「これ……はッ……!?」

 

その銘には見覚えがあった、かつて世界最強として勇名をはせた自分の姉が現役時代、携えていたその刀、いや……IS用だから近接格闘専用ブレードというべきか?

まぁ……そんなことはどっちだってかまわない。

 

 

 

 

一夏は“それ”を腰から引き抜くように実体化させる。

その太刀―――“雪片弐型”は陽光に反射する白銀の雪でできているかのように白く輝く刀身を再び煌めかせ、この世界に現出した。

 

実体化させた雪片弐型を体の陰に隠すように腰構えで構える。

 

千冬姉から受け継いだ力を腕に

箒から託された言葉を頭に

ハルから教わった誓いを胸に

 

一夏は今まで消費を抑えるように絞っていたスラスターの出力を全開で吹かした。

今までとは比較にならない速度の加速が一夏を襲う。

それを心地よく思いつつ、射撃を終了し次の射撃に備えて移動しようとするビットのすぐそばまで近寄るとすれ違いざまに一閃。

 

セシリアの後のことを考えない全力戦闘でスラスターと砲身が劣化し動きが鈍くなったBTビットはいともたやすく二つに両断され、小さな爆炎へと姿を変えた。

 

「くっ……!」

 

悔しそうに歯噛みしながらスナイパーライフルで仕掛けてきた狙撃を、そのまま加速を殺さず移動し避ける。

 

「やはり、気が付きましたわね……」

「ああ、お前の武装―――もうボロボロだろ?」

「ええ。ですが、一発当たれば私の勝ちなのは変わりませんわ!!」

 

そのまますきをうかがう様にアリーナを円周機動で巡っていた俺に向けて温存しておいた残る三機のビットとライフルの狙撃が襲い掛かった。

温存して置いた二機の機動がさっきまでの二機とは違って滑らかなのにすぐ気が付く。

セシリアも自分の機体がボロボロだったことは重々承知だったみたいだ。

でも!

 

周囲を取り囲んで同時攻撃をかけようとするビットの檻を全力噴射で突破し、即座に反転。

此方を包囲しようと一直線に並んだ瞬間、再びの袈裟切りで残るBTビットは三つの爆炎へと姿を変えた。

 

「お前の機体の弱点はレーザー射撃なのと……ビットの数の少なさだ!!」

 

山田先生の補修で、なぜここまでレーザー、熱線、荷電粒子砲、斥力砲などの超兵器が実装されているのに未だ実弾兵器が駆逐されないのか、という質問をぶつけたことがある。

 

答えは――――実用化されISに搭載されるサイズものでは“コストと信頼性に劣るから”だからだ、と笑顔で教えてくれた。

本来、例とした上げた超兵器は大量破壊兵器として扱うのが優れているらしい。

それこそ“一撃必殺”。莫大な超火力で敵のすべてを薙ぎ払う。

だが、それだけのものとなると巨大化する。

しかも、IS以外には絶対的な防御力を誇るISを撃墜できないというおまけつきだ。

と、なれば後は簡単。どの国も巨大な的を作るくらいなら、実弾兵器の性能を向上させようという方針になり巨大兵器は没になったらしい。

 

そして、セシリアのISに搭載されている兵装のほとんどはレーザー射撃だ。

レーザーは弾速に優れ、火力も高い。

しかし―――射線を少しそらせば回避できない物ではないのだ。

それを補い、さらなる高火力を実現するためのビットだろうが……いかんせん4基では数が少なすぎる。もっと数が多ければ俺のとった戦法のすべては意味をなさず、すぐにハチの巣になっていたことだろう。

 

でも、そうじゃなかった。それが俺の勝機だ!!

 

全てビットを叩き落とした勢いのまま本体に向けて白式を加速させる。

ハイパーセンサー越しのセシリアの表情が一瞬だけ悔しそうに眉を顰め、すぐに俺に向けてライフルを構え、移動する一夏の進行ルートに合わせて射撃を開始する。

 

一射目、機体を急停止、逆噴射させ眼前を通り過ぎたレーザーをしり目に再びセシリアに向けて加速する。

 

二射目、頭の奥で俺がレーザーを躱している様子がコマ送りの映画の様に再生される。その通りに機体を急制動させ、左に抜けていく。

なんだか、あの声に差し金みたいで少し気持ち悪かったが、声自体は聞こえていないし問題ないと判断。そのまま直進。

 

三射目。あと少しほんの少しで雪片がと届くほどにセシリアが間近に迫った。直感的に感じる、“ここで減速したらまた距離を取られる”雪片を上段に振りかぶり、さらに白式を加速させる。

そして……レーザーの周りを巡るように白式をスピン。

一夏は一切の減速なくその射撃を回避した。

 

そして、ついに待ちに待ったその時がやってきた―――雪片弐型の届く間合い、すなわち逆転のチャンスが!!

 

振り下ろした雪片が、わずかに機体をそらしたセシリアに回避された。

雪片が躱されたせいで一夏の体勢が崩れる。

 

「……まだ、だぁぁぁ!!」

 

しかし、その崩れた体制のまま放たれた鋭い蹴りがセシリアに向けて放たれた。

セシリアはとっさにその一撃を左のアームで防御するが、パワーアシスト機能で強化された蹴りはもとより傷ついていたアームガードごと左腕を粉砕する。

それを受けて交代しようとするセシリアに追いすがる様に加速し……4

 

(逃がすか!)

 

心で裂帛の気合と共にウィングスラスターとビットプラットフォームを兼ねた右アンロックユニットに向けて切り上げを放った。

 

(これで……右翼はもらった!!!)

 

完全に入った、という確信と共に突き刺さった斬撃は―――ガキィィンという金属音と共にはじかれた。

 

「そんな!?」

 

そのことに狼狽している一瞬のうちにセシリアは反転し高速で距離を取られた。

白式が即座に今の攻撃が通らなかった原因を考察し俺に教える。

 

『高密度シールドエネルギーの影響と判断。解決案―――』

 

そうか……忘れてた。アンロックユニットは四肢の装甲部よりも覆われているシールドエネルギーの密度が高いんだった。

けど、ダメージレベルをCにまで上げさせるためにはアンロックユニットの一つぐらいきれいに大破させないと……これからの方策に悩む一夏に白式は解決策を提示した。

 

『―――本機、ワン・オフ・アビリティ(唯一使用能力)“零落白夜”の使用を推奨』

 

なんで、一次移行したばかりの白式にそんなものが搭載されているんだ!?

しかし……白式が俺の疑問に答えてくれるのをセシリアが悠長に待っているわけもなく、再び襲い掛かったスナイパ―ライフルの狙撃を急上昇して回避。

 

迷っている時間は無い。

 

雪片弐型に念じる。“アイツのバリアーを断ち切れ”と強く、ひたすらに強く。

その思いにこたえるように雪片が淡く発光する―――どうしてこうなったかはわからないが……たぶん、行ける!!

その直感に従い、もう一度最大出力でスラスターを吹かし爆発的な速度でセシリアに追いすがる。その道を阻むようにセシリアから何度目かわかなくなった狙撃が立ちはだかった。

本能的に回避しようとする俺を白式が鼓舞する。

 

『行けます。切り払ってください』

「まかせろっ!!」

 

人が光を切り払うなんて不可能だと普通なら判断できるだろう。だが……白式と綱がている俺にはそれが逆立ちしたって不可能だとは思えなかった。

その言葉と自分の判断に従い無造作に発行する雪片を振るった。

 

そのまま加速する俺に突き刺さり、地面に叩き落とすはずのレーザーは

 

振るわれた雪片に接触した瞬間

 

細かい光の粒のようなものに霧散し、後には驚愕に目を丸くしたセシリアと……そこに到達するまでの一本道だけが残された。

その道に従いさらに白式のスラスターをふかして機体を加速させる。

狙いは先ほどと同じ右のアンロックユニット。

 

「これで……もらったぁぁぁああああッ!!」

 

淡く発光する雪片が、セシリアのISの右側に突き刺さった瞬間。

大きなブザー音が鳴り響き……

 

【試合終了―――勝者、セシリア・オルコット】

 

というアナウンスと共に俺の初陣は終わった。広義的には敗北に―――でも、俺にとっては勝ちだ。

 

 

◆                 ◆

 

 

 あの後浮くこともままならなくなった白式とセシリアのIS、ブルーティアーズというらしいは上空で待機していた先生方のラファールに支えられてお互いのピットに戻った。

そこで待っていたのは、俺をいたわるような行動でも温かい慰めの言葉でもなく。

千冬姉からの出席簿の一撃と、箒の冷たい視線だけだった。

…………俺って何か悪いことしたか?

 

そのあと“織斑先生”からのありがたいご指摘の言葉( 説 教 )と、セシリアのブルーティアーズがダメージレベルCの損傷を受けたため、整備課ブルーティアーズ専任スタッフの生徒による修復の間、模擬戦は一時中止することが決定した。

と教えられた。

自分の成果をかみしめる余韻すらなく、千冬姉の話が終わった後はすぐに山田先生の付き添いでアリーナの医務室に直行し精密検査を受けさせられたが。

 

そして……一時間後。俺が検査を終わらせピットに戻るのとブルーティアーズの修理が終わるのと―――アイツがジョーイ先生の肩を借りて足を引きずりピットに帰ってくるがほぼ同じタイミングだった。

 

そのあと千冬姉から説教を受けているのを、山田先生から俺の検査結果について説明を受けつつ楽しく拝見させてもう。

これぐらいはいいだろ?いくらなんでも待たせすぎだぜ、ハル。

 

でも……アイツは帰ってきた。ジョーイ先生の肩を借りて、足を引きずりながらおぼつかない足取りで……見たところ血色も悪い、白いのを通り越して土気色だ。

その憔悴しきっている顔がアイツが行ってきた行為のむずかしさを証明しているようで……思わず、なんであいつを止めなかったんだと考えてしまっている自分がいる。

 

これは……俺のエゴだな。

あの道を選んだのはハルの意志だってのに―――そうごちて、自省する。

まだ、ハルのやるべきことは終わってない。

でもこれだけは言わせてくれ―――お疲れ、ハル。

 

後でしっかり労わってやろうと、今は内心だけにとどめたいたわりの言葉を伝えなかった。

アイツのやっていることの本質を俺が理解するまで、ほんの少し前の事だった。

 

 

 




 設定


ISに表面に展開されたスキンバリアーの密度に関して

戦闘用パワードスーツにおける弱点の一つとして挙げられるのが”可動域の減少”だ。
戦闘用である以上、搭乗者の安全確保のために各部を装甲で覆い搭乗者を守らねばならない。しかし全身装甲型には大きな欠点が存在する。それが可動域の減少に伴う緊急時における即応性の減少、関節部に施す装甲の問題の解決、長時間の着装時に発生する不快感から搭乗者に発生するストレスだ。
それを解決するためにISはバイタルエリア、四肢に限って装甲を装着し、装着した搭乗者ごと機体表面全てをバリアフィールドで覆う、という荒唐無稽な方式だった。
しかし、その反論は篠ノ之束のもたらしたエネルギー装甲技術とコアの莫大なエネルギーによって解決した。
これが、コアに内蔵されているスキンバリアー(皮膜装甲)である。

スキンバリアーのより、ISはその容姿から想像ができないほどの防御能力と環境固定能力を発揮する。
ゆえに、ISはその外見からは想像できない、戦車を凌駕する防御の力、深海・高空・真空など人間が生存できない状況での生存適応。人間の生存に最も良い状況を固定するためどんな状況でも高いパフォーマンスを発揮する(これ以外にも酸素を生成する機能など極限状態の生存適応に関した機能が存在している)

絶対防御機能もコアからの危険信号により、被弾箇所に展開するシールドの出力を一気に上昇。それにより危険な攻撃を防ぐ、という機能である。

さて話は本筋からそれてしまったが、人間の重要箇所が人体の動体に集中している以上スキンバリアーの出力には各所に差がみられる。と言っても本来ならばどんな攻撃も通さないほどに強固な防御能力なのだが。
基本的に四肢の装甲部<アンロックユニット<装甲から露出している四肢<頭部以外のバイタルパート<頭部と言った振り分けである。


ダメージ判定

A 比較的軽微な損傷。即時実戦復帰可能。短時間で自己修復可能。

B 

 機体装甲に一部の欠損が見られる等実戦復帰は可能なれど、自己修復機能で回復させるにはここまでが限界。IS学園の模擬戦では起こってもこのレベル損傷までしか起きない。これ以降は、ISの情報収集に異常が発生する(フラグ)

C 
 
 戦闘自体は不利になるが可能。しかし、避けられるならば避けるべし。機体装甲身体保護重要部に多数の欠損などがみられる・内部回路に破損・断線がみられ機能が低下する、アンロックユニットに大きな損傷が見られるなど、絶対防御に振り分けるリソースが上昇し、突如機体が停止するなどのリスクが上昇する。無理をすれば戦闘も可能。ここから兵器として運用するならば人の手による補修が必要。自己修復の場合1~2週間ほど使用を控え、1ケ月は戦闘を控えること。
  
D 機体外装の一部が欠落する、アンロックユニットが消失する、内部回路が大きなダメージを受け機能が停止するなど機体運用面における重大な損傷を受けた状態。戦闘は不可能。機体コアに残された機能を全て動員し戦場から退避すべし。
ここまでダメージを受けると人の手による修繕が無ければ完全再生は不可能。自己修復にかかる期間は不明。

E 機体がコアを残して完全に大破した状態。再生不能。同系種フレーム、外装、内臓武装などを一からコアにインストールする状態。自己再生は不明だが、おそらく不可能。



 ドーモ、ミナサンお久しぶりです。
いや……長かったです。社会人は忙しいですね……もう、感想いただいてるのにあと、すこしで投下できるから!と執筆作業に時間がとられ、こんな有様ですよ。
投下か終わって、予告入れたら速攻返信しに行きます。
何よりも初の2万字越えですよ?時間もかかるわけですなぁ。。。千字程度だったあのころが懐かしい……

 さて今回の戦闘シーンいかがだったでしょうか?
様々なトラブルが重なり、なかなかスピードの上がらなかった中手探りで描いたので楽しんでいただけのなら幸いです。
内容については……一夏の異常性、セシリア視点でのこと、そこから戻ってくる様子、決着、といった流れだったのですが……描写に凝るとここまで時間がかかるのですね。もっと執筆速度を上げられるようにしなくては。

では次の投下に関してですが……正直未定です。これから詳細なプロット起こして更に書き出すので大体二週間くらいをめどに見ていただければ幸いです。

では今日はこのあたりで失礼します。
感想、ご指摘、質問、読了宣言など何でも構わないので感想欄に頂ければ作者の餌になり尻尾を振って喜びます。

それから外伝の結合に関してですが……ここまで長くなってしまったので一応、アンケート録ります。期限は次の投下までです。ふるってご参加ください。

それでは失礼します。おやすみなさい。
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