スーパーからの帰り道、何気ない話を晴香さんとしながら帰る途中、息の道では気が付かなかった、あるものを見かけつい立ち止まってしまった。
急に立ち止まった俺を心配して晴香さんが俺の顔を覗き込む。
だが、俺はそれすら目につかず、立ち止まった前にある本屋の看板に心を奪われたままだった・・・そう、それは・・・
「スパイ、ダー、マン?」
そのか細く絞り出したような声は、覗き込まれていた晴香さんにきかれていたようで
「あら、ハルちゃん知ってるの?この漫画、今度アメリカで映画になるっていうはなしだよ~」
よく、しっている。
スパイダーマン、本名ピーター・パーカー 化学が好きで叔父叔母夫妻に育てられた、さえない少年で、学校の帰り科学館で放射線放射実験を見ているときに、たまたま実験室に紛れ込んで、放射線を浴びたクモにかみつかれる。
これが彼の人生を変えた。
彼はクモにかみつかれたことで、壁にくっつくことできる体毛、鉄のパイプをたやすく握りつぶすだけの怪力、細い紐の上を素早く移動できるほどの平衡感覚。
そして、自分に迫るあらゆる危機を察知する超感覚“スパイダーセンス”を手に入れる。
この力を得た、ピーターはこの超能力を利用してお金を得ようとする。
その目論見は大当たりした。彼は一躍、時の人となる。だが、彼は些細なことで強盗を見逃す。自分が強くなったために慢心したのだ。
それは思いもよらぬ形で帰ってきた。
この世で最も愛する叔父の死という形で・・・
怒りに身を任せピーターが犯人を捜すと、犯人はあの時見逃した強盗だったのだ。
こうして彼は“大いなる力には大いなる責任が伴うこと“を知る
そして、自らの力の責任を果たすためにスパイダーマンとしてNYにはびこる悪と戦っていく・・・という誕生秘話《オリジン》だ。
この漫画は、いや、アメリカンコミックスは、俺の世界にあったものだ。
そして、この世界は俺の世界の過去ではないとおもっていた。
理由はあきれるほど単純だ。この世界にはスーパーマンが存在しなかった・・・
小さいことだが、俺の記憶が飛び飛びである以上、判断基準として残っていた趣味の記憶でも状況を判断する要因たり得る。だが、元祖、スーパーヒーローであるスーパーマンが存在しなければ、他のアメリカンコミックスのヒーロー漫画は存在しない、そう思っていた・・・
だからこそこの世界は俺のもといた世界の過去ではなく、それに良く似た異世界だと判断したのだ。
だが、その前提は崩れ去った。
頭の中をぐちゃぐちゃにかき回したみたいに混乱していると
「ハルちゃん・・・この漫画、欲しいの?」
「えっ・・・あっ・・・でも、高いし・・・いいよ」
そうしてうつむく俺・・・
「そんなこと、気にしなくていいんだよ~、だいたいハルちゃんがものをほしがること自体とっても、珍しいことなんだから!ママとしてはそれだけでうれしいよ~」
「でもっ・・・!」
「いいから、ちょっと待ってなさい♪」
そういうと、晴香さんは俺を書店の外に待たせて自分だけ店内に入り、数分後、大きな包みを持って出てくる
「一冊だけじゃなくって、こんなにいっぱい買ってくれたの?!」
包みを開けるとスパイダーマンだけではなくほかのアメリカンコミックスも10冊ほど入っていた。
基本、アメコミは高い、それも普通のマンガとは比べ物にならないくらい。
「うん!でも、さっきも言ったでしょ。うれしかったって・・・だからこれぐらいの出費なんてなんてこともないさ~」
そう言うと、晴香さんは満面の笑みをうかべた。
「それよりも、こうときはなんていうのかな~?」
俺も、難しいことを考えるのはやめ、今はただこの出会いを単純に喜ぶことにした。
そして、こういう時の一言は一つだ。
「うん!ありがとう!」
「どういたしまて。じゃあ早く帰って一緒に読もうか。」
◆ ◆
家に帰ってさっそく包みをひろげる・・・スパイダーマン、X-men、そして・・・
「これは・・・マーヴェルズ?!」
このアメコミは前世で俺も持っていた覚えがある・・・たしか、マーベルユニバースにすむただの新聞記者からみたマーヴェルズ《驚嘆すべき隣人》の話だ・・・
「ハルちゃん、どれにするか決めた?」
買ってきたものをしまい終わったのだろう、晴香さんがやってくる。
「じゃあ、これ読んで」
そういってマーヴェルズを差し出す。
「うん、じゃあママのお膝の上に座って」
「えっ、横から見るからいいよ・・・」
正直、20歳をむかえた男が母親の膝の上に座るというのは・・・恥ずかしい・・・
「だ~め」
そういうと晴香さんは、俺のわきに手を入れ抱え上げる
うん・・・抵抗するだけ無駄だ・・・あきらめよう・・・
◆ ◆
「へ~おもしろいね~これ、絵もすごくきれいだし、話もすごくしっかり作ってあるし」
ああ、そうだろう。アメコミは、漫画というくくりだが、芸術的側面も持っているし、その本質に、勧善懲悪のヒーローものとは少し違うニュアンスが存在するのも事実だ。
「でも、なんでスパイダーマンじゃあなかったの?」
「なんだか、こっちのほうがかっこよく見えたんだ、それに・・・」
この時俺は致命的なミスを犯してしまった。そのツケをのちに俺は支払うこととなる。
「ビシューク・ロスのほうがキレイだったんだもん」
「・・・ねぇ・・・ハルちゃん、お母さんに黙ってること・・・ない?」
「うぇっ・・・!そんなこと・・・ないよ」
なんなんだ?いきなり・・・何か俺って変なことしたっけ?
「いきなり、どうしたの?」と問いかける。
「ハルちゃん。お母さんもお父さんも、ハルちゃんがとっても頭がいいのはもう気づいてるんだよ」
「えっ、あの、それは・・・」
「でもね・・・英語の読み方は知らないはずでしょう?」
「えーっと、えーっと・・・それは」
頭の中で言い訳が作られては、消えていく・・・思考がまるでまとまらない・・・冷静にならなきゃならないのに、心臓が早鐘のように打つ
そして、次の瞬間俺の心はさらにかき乱された。
「ハル・・・君は、何?君は何を隠してるの?・・・」
―――こわい、怖い、恐い、コワイ―――
俺は前にあった晴香さんの手をはねのけて、一目散にかけだした。
「まって!ハル!」
後ろから俺を、呼び止める声が聞こえる・・・だが、俺は脇目も振らず走り続けた・
◆ ◆
―――あれからどれくらい経っただろう―――
すでにあたりは夕焼けにつつまれている・・・だが俺の心境はそんな景色が目に入らないほどぐちゃぐちゃだった。
「くそっ!なんであの時、逃げちまったんだ俺はッ!あれじゃあ暗に、図星つかれたって言ってるようなもんじゃねぇか!」
この公園まで走ってきて、やっと少しは冷静になれた。まだ頭ん中はぐちゃぐちゃだが、状況を整理しなきゃな。
現状・・・晴香さんから逃げて家から出てきた。
現在地・・・図書館の近くの公園。
理由・・・
「俺が普通じゃないってばれたから、だよな?
なぜ・・・ばれたんだ・・・?俺の演技は完璧だったはずだが・・・」
これからどうするか・・・帰らない―――却下、4歳児が夜に外を歩いてると補導される。
となると、帰るしかないが・・・いっそ、全部ぶちまけるか?これが今一番の最善手《ベター》だってことは、わかってる。
なら、
「どうしてあの場から逃げ出したんだ・・・?」
そんなことを考えていると、ほほに何かが当たった。
「・・・熱いっ!」
気が付くと後ろから手が伸びている。振り向くとそこには、
晴香さんがいた。
「ハルみ~っけ!」
「なんで・・・ここが?」
「君は今年四歳になった、私の息子なんだよ。あ~ゆう反応も想像していなかったわけじゃないから」
そういうと晴香さんは俺を抱きしめた。今度は逃がさない、と伝えるように、強く。
「探すのには苦労したよ~キミ、こんなところまで来てたなんて、もぉママに内緒でこんな遠いところ来ちゃだめだよ。」
「さぁ帰ろう?クリームシチュー作ったから」
俺は口を開く
「なんで・・・何も聞かないんですか・・・」
「だって、君が言わないっていうことは何か理由があるんでしょ?
しかも逃げるほどの理由が、だったら聞かないよ」
違うんです!俺は・・・なんで逃げたのかも自分で分かってなくて・・・それで、あなたに向き合う準備すらできてなくって・・・
「でもね、ハル・・・私と賢ちゃんは、ハルがどんな存在でも、どんなことを考えていても、ハルが私たちのことを嫌っていたって・・・ハルの味方だよ。
だから、決心がついたら話してほしいの。あなたのことを、私たち二人に」
今・・・わかった
おれがあの時家から逃げたのは、恐怖を感じたからだ・・・
ただ、怖かっただけなんだ・・・自分がこの世界のものじゃないと否定されるのが、そして“お前なんていらない、私の息子を返せ”って糾弾されるのが・・・
ほほが熱くなる。顔が真っ赤になって涙がこぼれそうになるが、グッとこらえる。
「ほら、ハル・・・言いたいんでしょ?・・・我慢しなくていいよ」
「きっと、信じてなんてもらえませんよ・・・」
「ううん、信じるよ。だから、はなして?」
俺を抱いていた手をひらき、俺の眼を覗き込む、あの人。
「わかった。話します・・・まず、俺の意識はあなた達二人の息子のものでありません」
「うん」
「俺は、佐藤、晴彦といいます」
「うん」
「変な夢を見て・・・目が覚めたら、二人の赤ん坊になっていました」
「うん」
「それで、最初はこれも夢の続きだと思ってて・・・いつかは夢が覚めるものだと思ってました」
「うん、でも夢じゃなかったんだ?」
「そう、です。だから、これが小説とかにある、転生っていうものなのかと思って」
「うん」
「俺の意識がこの陽くんの体に入ったせいで、陽くんは生まれてきませんでした」
「そうかな?」
「そうです!ここにある“加藤陽”は“佐藤晴彦”が混ざった、いわば、まがい、物なんですよ?俺が、俺がいなかったらお二人の息子さんは、普通に生まれてたんですよ!・・・なんで・・・なんで俺を責めないんですか・・・」
「だって、私の息子のハルは、君なんだよ。いっつも、私たちに迷惑をかけないように気を張ってて、でもたまにうかっかりをやる・・・それ以外なんてわからないよ。・・・だからもう、泣かないでハルちゃん」
ふと気が付くと、俺の両目からこらえていたはずの涙があふれ出していた。
「おれっ・・・あなたたちの、むすごじゃ、ないんですよ・・・ぞれでも・・・いいんですか!?」
声はもう涙声になって聞き取りづらい。
「だ~か~ら~、それは君の思い込みだってば!私の、私たちの子供は一人!加藤陽はきみだけな~の!」
もう・・・がまんできない。
「ごめんなさい・・・」
「なんで謝る必要があるの?」
「おれ・・・ずっと・・・心苦しくて」
「うん、怖かったよね・・・さびしかったよね。くるしかったんだよね?」
「う、ん」
「じゃあ、とりあえず泣きなさい。泣いてすっきりしちゃいなさい」
その後おれは生まれて初めて声を上げてないた。
◆ ◆
「すみません・・・見苦しいところをお見せして」
やっと涙が止まった俺がそういうと、晴香さんは明らかに不機嫌そうな顔で
「敬語禁止!もぉ、家族なんだから!そんなこと気にしなくていいの!」
「でも、晴香さん・・・」
「ママ!」
「えっと・・・」
「マ~マ!」
「あのぅ~・・・」
「マ~マ!!」
これは何かの罰ゲームだろうか?ママ以外の呼び方を頑として認めない雰囲気を醸し出しつつ、満面の笑みを浮かべている晴香さん。
・・・え~い、ままよっ!!
「まっ、ま・・・」
「やっ、た~!やっとハルがママって呼んでくれた~!!もお死んでもいいよ~!」
・・・やばい・・・想像以上にこれ恥ずかしい・・・
「あの・・・ママ?なんで気づいたの?結構、頑張って隠してたんだけど?」
「えっ・・・隠してるつもりだったの?」
「俺の、四年間の努力って・・・」
そういいつつ、うなだれる俺、もぉ夕日向かって叫びたい気持ちだ・・・夕日なんてとっくに沈んだけど・・・
「じゃあ、これ飲んで、さっさと帰ろうか?」
そういいつつ、最初に俺のほほにあてたのであろう缶のホットココアを取り出す晴香・・・ママ。すでにアイスになっていたが。
二人で飲んだアイスココアはとても甘く、受け入れてもらえた俺にとってはとても新鮮に感じた。
そう、いななれば、“世界が変わった味”だった。
そして、昼間と同じように二人で手をつなぎ、(俺は恥ずかしかったが!)家路についた
◆ ◆
だが、俺は油断していた・・・ママに受け入れてもらったことで、自分がこの世界を受け入れれば、世界に受け入れてもらえると、この世界の一員としてふるまっていけると、信じていたんだ・・・
だが、それは、幻想だった。
けタたマシいサイレンの音ガ耳を打ツ
「俺はわるくねぇ!俺は・・・!!」
目ノ前に赤い水ガ広がッテイル
「きこえますか!もしもし!もしもし!」
目ノ前デアノ人ガ倒レテイル。
「あげます!イチっ、ニッ、サンッ!」
その日俺は、心を開いた女性をうしなった・・・
俺のせいで
いかがでしたでしょうか。おそスト第五話。
ハルはここからどんどん鬱屈としていきます。しかし、最後には必ず立ち上がることでしょう。
それと、当分ハルの出番はありませんw
主役ですが、うだうだしているので違う視点から回想しつつオリジンが進みます。
アメコミでスパイディが出てきたのは・・・まぁ察している方もいらっしゃるかもしれませんが・・・ハルの精神をいじめるためです。
それではまた