恐れを知るものは、無限の空を目指す   作:めんつゆ

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  第23話 「ハル、無粋な行為をする」

 

 ハイパーセンサーで拡大された視界にカタパルト射出が可能になるまでの赤いシグナルが映る。あと現実時間に換算すると3秒ほどで俺は空中に打ち出され、鈴との戦闘が始まる。

一夏はびりびりと肌が震えるような緊張感を心地よく感じていた。

 

セシリアとのクラス代表決定戦でもなかった感覚だが、これが俗にいう武者震いという物なんじゃないか?

話だと学園の生徒だけじゃなくて諸外国から大勢の人が感染に来るらしいし……

 

そんなことを考えているうちにシグナルが緑へと変わりカタパルトに満ちた莫大なパワーが一夏と白式を天空高くへと押し上げた。

 

 先に射出されていたらしい鈴が不敵な笑みを浮かべて待ち構えているのが見て取れる。

その身に纏うのが、甲龍―――中国が開発した中・近距離戦用第三世代型IS。

IS先進国の中でも数少ない、実証機ではない量産試作型の第三世代型IS。

すなわち十分にデータの蓄積され、量産にゴーサインのでた信頼性の高い技術と優秀な性能を兼ね備えた機体。

 

 事前に調べた情報じゃ、衝撃砲っていう特殊兵装を標準装備しているらしいけど……どこだ?

 

一夏が調べてきた情報を確認するようにきょろきょろと見回していると、鈴が通信で怒鳴り込む。

 

「一夏ぁ!あんた何じろじろ見てんのよ!!」

「ああ、悪い。鈴を見てた」

 

 ここで織斑一夏がオープンチャネルで発した言葉を、全ての事が終わった後に怒りに顔をゆがめた二人の少女に問い詰められることは言うまでもないことである。

 

(正確には鈴のISを、だけどな……まぁ、言わないでもわかるだろ)

「にゃ、にゃに言ってんのよぉ!こんな……衆人環視の真っただなかでぇ!!」

「それがどうした?別に恥ずかしがるようなことじゃないだろ?知らない仲じゃないし」

 

 ゆでダコのように真っ赤になった鈴に、きょとんとした一夏がぼやく。

自分がどんな爆弾を投げ込んだか、その危険性に気が付かずに。

―――余談となるが、この日某組でひそかに行われている織斑一夏ヒロインレースなるモノの倍率が大きく変動し、これを見ていた中国の政府担当者が鈴に織斑一夏を落とすように指示することを決め、この様子をモニタールームで見ていた彼の姉がどうやって火消しをしようかと頭を悩ませることとなるのだが……それは、完全な蛇足という物である。

 

「ししし知らない仲じゃないって!……って、何言ってんのよ!あたしはっ!!」

 

 動揺していた鈴が自分をたしなめる言葉と共に両手で顔を覆い、気持ちを入れ替えようとしている。

それを不思議そうに眺めつつ、一夏は昂ぶっていた心のボルテージがさらに上昇していくのを感じた。そして、また“あの感覚”に取り込まれないように箒の言葉を心中で繰り返す。

 

体はhotに、頭はcoolに―――よしッ!!

 

 

「……一夏、この話は後にしましょ。それよりも―――」

 

―――鈴の準備も終わったみたいだ。

顔を追っていた手の下にあったのは、強い意志の込められた双眸。

鈴が続けようとした言葉を察し取り一夏が割り込む。

 

「わかってるさ。手加減するなよ?」

「―――冗談!誰に言ってるつもりよ!せいぜい私に速攻でやられないように……気を張ってなさいッ!!」

 

 鈴の言葉が終わったのと同じタイミングで、試合開始を伝えるブザーが鳴り響き、一夏は機体を甲龍に向かって爆発的に加速させた。

 

(まずは、一撃入れて流れを掴むッ!!)

「でぇえぇぇりゃぁぁぁあああああっっ!」

 

 白式の高出力スラスターと大出力の慣性飛行システムモジュールがうなり、瞬時に実体化させた雪片とが裂帛の気迫と共に大上段から振りぬかれる。

一夏が内心で会心の一撃だ、と自らの放った一閃を自画自賛してにやりと薄い笑みを浮かべる。

 

しかし、その会心の一撃は……

 

「そんな、フェイントもクソもない一撃を通すわけないでしょうが……」

 

……ガキィィインという何かを受け止める金属音でさえぎられた。

鈴の呆れるような呟きと共に、“見えない何か”が白式に叩き付けられた。

 

「うぉっ!!」

 

衝撃は軽いものだったが、密着した状態を引き離すには十分すぎる威力があり、一夏は体勢を崩す。そこに本命の一撃―――先ほど一夏の雪片をたやすく受け止めた異形の青竜刀による強烈な横凪ぎが襲い掛かった。

 

「うわぁあああっ!?」

 

 崩された体勢のまま、青竜刀の追撃を喰らった一夏。

 

「くそっ!やりやがった……」

 

 アリーナの壁際まで吹き飛ばされた一夏は、崩れた体勢からPICを駆使して何とか立て直すことに成功する。

しかし、その怒りを込めて鈴を睥睨しようとする一夏の瞳に白式からの警告が表示された―――すなわち……鈴のさらなる追撃だ。

 

「ッ!」

 

悪態をつく暇もなく、そのままスラスターを吹かして急上昇。

自分の先ほどまでいた場所に“見えない何か”が炸裂し、粉塵を散らす様子をハイパーセンサーによって拡大された視界がとらえた。

ISスーツの中で冷や汗をかいている一夏に鈴からお褒めの言葉が届く(チョウハツ)

 

「へぇ……さっきの斬撃はそれなりだったけど、今の反応と機動は褒めてあげるわ」

「お褒めに預かり、恐悦至極。それよりもさっきのが、噂の衝撃砲か?」

 

その発言が飛び出したことに驚いたように目を丸くして、開始の位置からほとんど動いていない鈴が遥か上方へと追い立てられた一夏に顔を向けた。

 

「……アンタが“龍咆”の事を知ってるなんてね」

「学園のデータベースで調べても、名前しかわからなかったけどな」

「へぇ―――一夏、アンタ変わったわね」

「……そうか?」

「昔のアンタのままだったら、対戦相手の情報なんて調べようともしなかったでしょうが!中1の時の映画の事、忘れたとは言わせないわよ!!」

 

 怒り顔で怒鳴りかかる鈴の気迫に思わず押されて、一夏は自分の思い出を思い返すこととなった。

 

(中1?中1の時の映画、かぁ…………なんだっけ?)

 

 そんな風に一夏が頭にクエスチョンマークを浮かべているのを、鈴が見逃すはずもなく。

途端に不機嫌そうな顔になった鈴がジト目で睨む。

 

「……そうよね。アンタがそういうことに無頓着だってことはわかりきってたわよ」

「えっと……その、なんというか……アレだ、アレアレ!」

 

 そのジト目と落胆したようなか細い声に、何となく自分が悪いことをしている気になった一夏がしどろもどろとしてると、鈴が満面の笑みに変わる。

 

(鈴が許してく、れた……?ヤッター!)

 

一夏が内心で寛大に見えた鈴に喝采を上げている……が、開いた口から出た言葉は

 

「まったく、変わったかと思ったけどそういうとこは変わらないのね……

ねぇ、一夏ぁ―――これからアンタ“で”憂さ晴らしするわ。せいぜい長く持ってね☆」

「へっ!?」

 

 次に瞬間、再びの白式から投射された警告のすぐ後に、不可視の衝撃波が一夏に向かって撃ち出された。それを瞬時に左にスライドして回避する一夏に、オープンチャネルで発せられた鈴の悪態が届く。

 

「ちっ!外したか」

「あ、あぶね~なあ……話してる最中にいきなり仕掛けんなよ!?」

「うるさい、私の怒りを思いしれぇぇぇっっ!!」

 

 鈴の怨嗟がこもりにこもった声と共に衝撃砲が連続で打ち出され、一夏は泡を食って逃げ回ることとなる。こうして再び、戦端は切られた。

 

 

           □                 □

 

 

「あれが、衝撃砲か……」

 

ぎりぎりのタイミングであったのにもかかわらず、アリーナ全体を見回すことのできる良い席を入手することに成功した箒が観客席に備え付けられている大型空間投影ディスプレイを睨みつつ呟く。

その呟きを補足するかのようにセシリアが言葉を紡いだ。

 

「厄介ですわね。空間自体に圧力を加えて砲身を形成いたしますから、目視による予測回避は不可能に近い。その上砲弾自体を余剰で発生する衝撃そのもので実弾兵器と違って弾切れ、という概念が無い―――」

「―――さらに付け足すと、攻撃の度に砲身を再生成するからセシリアちゃんのブルー・ティアーズと違って砲身の劣化に気をつける必要もない」

 

急に割り込んできた聞き覚えのある声に、二人が振り向くとそこには楯無が難しい顔で腰かけていた。

 

「楯無会長!?」

「二人とも、席ありがとね」

「いえ……それよりも……」

 

箒は彼女と共にいるべき男の姿を探しあたりを見回すが、そこに彼の姿はなく。

既にそのことに気が付いていたセシリアが愚痴をこぼした。

 

「もうっ!一夏さんの試合が始まっているというのに、ハルさんはどちらへ御出でなのからしら?」

「楯無会長はご存知で?」

「……いいえ。私にもわからないわ」

 

 しかし、箒は少女は見逃さなかった。楯無が答えるまでの一瞬だけ浮かべていた憂いを帯びた瞳を―――その瞳の意味を考える間さえなく、楯無が真剣な口調で語りだす。

 

「それよりも……一夏くん押されてるわね」

「はい。相性はあまり良いとは言えませんから」

「確かに近接装備しかない白式と一夏君にとっては、バランスが良くて安定性の高い兵装で固めた甲龍と鈴ちゃんは難敵よね」

 

 その通りだ、箒は内心そうごちた。

現に今の一夏は吐き出される衝撃砲の雨を避けるためにアリーナを縦横無尽に駆け回っている。白式にある装備は雪片弐型一本、ゆえに甲龍に近づかなければ話にもならない。

しかし、鈴には衝撃砲だけではなくあの青竜刀もある。

 

これだけの情報で戦況を判断すれば、一夏は不利だ。

むしろISに触りだしてまだ二カ月程度で代表候補生相手によく耐えている、と何の事情も知らない者なら判断することだろう。

そういう者の続く言葉はわかりきっていて、こう言うだろう―――

 

―――あとどの位耐えられるかな?“どうせ”勝てないのによく粘るな。

 

しかし、私たち三人と、ここにはいないアイツそして何よりも……一夏は違う。

アイツの目は死んでない。セシリア戦での最後でも同じ目をしていた。追い立てられつつもギラギラとたぎる思いをため込んで一瞬の勝機を探っている、そんな目だ。

 

その、私の思いを肯定するかのようにセシリアが微笑をうかべ、口を開く。

 

「ですが……一夏さんには“アレ”があります」

 

楯無さんも、一夏の苦境など何でもないかのようにニコッと笑い、応えた。

 

 

「ええ。一夏君には“アレ”があるわ。私が教えた技能(アレ)とハルくんが仕込んだ技術(アレ)。この二つに白式だけが持つ必殺技を組み込んだ―――」

「一撃必殺の奇襲なら勝利を掴み取れる可能性がある、ということですね」

 

 急に割り込んだ私の言葉を聞いた楯無会長は、一瞬だけ驚いたように顔を変え、すぐに満足げに目を伏せて、肯定するようにゆっくりと頷いた。

 

 

           □                 □

 

 

 機体を小刻みに振れさせて細かい相手のロックをさせにくくする、ハル直伝の飛行技術で、衝撃砲をばらまく鈴からアリーナを回る様に逃げながら一夏は思案する。

 

逆転の一手を

 

 とりあえず、“これ以上このまま逃げ続けて勝機を待つ”という選択肢はない。理由は単純、鈴が俺の回避機動のクセを掴みつつある感じがするからだ。

今は何とか被弾を抑えて残りシールドを70%にとどめているが、鈴に俺のクセを掴まれたらもっと被弾は増えることだろう。

現に、この間セシリアと模擬戦をしてもらったら俺は近づくことさえできずに、アウトレンジから狙撃とビットでボコボコにされた。

 

白式は大飯ぐらいだ、エネルギー管理に気を抜いたらすぐに自滅する。

 

つまり、俺が仕掛けられるチャンスは刻々と狭くなってきていて……逆転を狙うためには俺から攻撃を仕掛けるしかない。

 

(問題は―――それを鈴が見越してるはずだ、っていうことだ)

 

 こんな軌道をして、かつ未だ鈴にこちらから仕掛けていないんだ。ばれていないと考えるほうがおかしい。

それを掻い潜って“アレ”をたたき込む方策を可能な限り短時間で見つけなくちゃならない、か…………

 

一夏が難問に頭を捻っていると、衝撃砲の雨がやみ、不意に鈴からオープンチャネルで通信が入る。

 

「はい、一夏!右に左によくかわすじゃない。龍咆は砲身も砲弾も見えないことが一番のウリだって言うのに―――まるでバッタみたいよ?」

 

 ハイパーセンサー越しに見えた鈴の顔がからかう様に笑う。

わかってる、これは挑発だ。俺の突撃のタイミングを崩し、自分のほうにさらに流れを引き寄せるための。

 

「…………へぇ、いいじゃんバッタ。俺は嫌いじゃないぜ。昔そういうヒーローがいたしな」

 

 それを自覚していて一夏は微笑を湛えつつ、あえて鈴の話に乗った。鈴の目論見を崩し自分に流れを引き寄せるために。

 

「あら?いまだにそんなもんの話が飛び出るなんて、一夏はまだまだ子共ねぇ」

 

 わざと話題をそらした発言を、鈴は余裕たっぷりに返す様を見せつけられながら、一夏は白式を甲龍に向けてじりじりと移動させ始めた、気が付かれないようにゆっくしりと静かに、“必殺”の間合いまで。

 

「そうか?俺は今でも結構好きだぜ。あーゆうモン(HERO)が」

「嘘つきなさいよ!アンタ、昔から家事とかそう言ったことにしか興味なかったじゃない」

「ワリィ、訂正するわ……昔好きで―――今、また好きになったんだ」

 

 

◆                 ◆

 

 

 物心つくまでは、好きだった。憧れてもいた、と思う……

 

毅く、雄々しく、気高く、弱者を見逃さない、そんなHERO達(彼ら)

 

でも、時間が止まらないのと同じように、いつまでも子供ではいられない

 

俺は気が付いた。

 

“俺”というお荷物を養うために、千冬姉がどれだけ身を削っているのかを

 

初めは帰りが遅いな、などという違和感にすぎなかった。

しかし、千冬姉があれだけ好きだった剣術道場やめたことで目が覚めた。

 

立ち代りのように俺を自分の通っていた篠ノ之剣術道場に突っ込み、夜遅くに迎えに来るときにはいつも疲れた顔をしていたから。

 

だからその時、彼らに願い……それが叶わなかったとき、彼らを呪い……叶う筈のない願いだと(現実を)知ったとき俺は彼らへの関心を失った。

 

俺の千冬姉を助けてくれ、という願いは……

なんで助けてくれない、という呪いに変わり……

呪いは、どう“自分以外に”自分にとっての大切なものを救ってくれるものなどいない、という達観へと変わった……だから、俺は千冬姉の手を煩わせないように問題を起こさずに―――早く自立して、千冬姉に楽をさせてやる為だけに方法を模索してきた。

 

でも、そんなときにアイツが俺の前に再び姿を現したんだ。

 

一度きり、それも一日限りの間柄だったが……アイツの、加藤陽という男のことをずっと忘れることができなかった。

その頃、上手くいってなかった箒との関係改善のきっかけをくれたからか。

その日にあった、世界を大きく揺さぶった出来事のせいか。

生まれて初めて、実感のある“死”に最も近しいものだったせいか。

 

今になっても、その理由はわからない。

 

でも、俺はこう思ったんだ―――アイツは、ハルは……“特別”なんだ。

出会ってからアイツがうかべていた、まるで千冬姉と話していると錯覚するほどの“大人びた態度”、時たま浮かべる“憂いに満ちていた眼差し”、そして言い様に表せないが俺達とは違う“ずれ”を感じたんた。

 

 その答えが“アレ”だった。ハルの境遇と決断。

 

そうして俺は知ることとなった――――HERO、その言葉の重みを

 

 

◆                 ◆

 

 

「なぁ……鈴。HERO、いや……SUPERHEROっていると思うか?」

「…………」

 

 鈴は話しかけられた質問の答えを探すことさえせず、急に一夏がうかべた眼差しに見とれてしまい内心、どぎまぎしていた。

自分が知っている一夏とはまるで別人のような深い思慮と少しばかりの悲しみが混ぜ合わされたようなその顔が……とても美しく見えたから。

 

(なによ!ほんと……別れて一年で、私も随分変わったと思うけど、変わりすぎじゃない?あの眼は反則よ、ほ……惚れ直しちゃったじゃないっ!!)

 

「……おい鈴?大丈夫か?」

 

 問いかけられた問いに何も答えない鈴を不振がった一夏が声をかけることでようやく、鈴の意識が現実に戻ってきた。

 

「えっ?ああ、何よ?」

「そうか?顔赤いけど………」

「だ、大丈夫だって言ってんでしょ!それよりもさっきの事よね?えっと……マンガじゃないんだし、いるわけないでしょ」

 

第一なにがすーぱーよ、とからか様に笑う鈴に一夏はそうだよな、とつられるように笑い、一瞬だけチャンネルを切って小さな声で呟く。

 

「……それで、いいんだよな?」

 

 “この場にいないはずの誰かに”向けて紡がれたその言葉は“彼”以外の誰にも聞かれる事無く風に消えて行った。

 

「さて―――一夏、もう時間稼ぎもいいんじゃない?」

 

不意に、鈴が真剣みを増した声で伝えた。

どうやら、鈴は会話を打ち切って一気に決着をつける心づもりらしい。

望むところ、とばかりに一夏は薄い笑みを浮かべる。

白式と甲龍の相対距離は50mほど、十分にいい距離だ。

 

「ああ。そっちも準備は整ってるか?」

「いつでも!……まったくもう少し突っ込んで来ると思ってたのに……」

「そうしたらもっとシールド、削られてただろ」

「当然じゃない!」

「やっぱりか……じゃあ、こっから衝撃砲のヤバさが上がる、とみていいな」

「―――想像に任せるわ」

 

 それだけ言い残してオープンチャネルを切った鈴が、不敵な笑みと共に連結させた先ほどの青竜刀をバトンでも回すようにクルクルと回し構えなおした。

 

 さて、後は俺が突っ込むだけなんだけど……絶対何かしてくるよなぁ……

そのための挑発、というか時間稼ぎだったんだろうし。

しかし、こちらから仕掛けないという選択肢はない。

だったらっ――――――

 

 一夏は白式に纏われた足を何もない空中を踏みしめるように少し広めに開いて、雪片で八相の構えを拵えた。その構えは一撃必殺、それのみを念に置かれた突撃の構え。

 

「こっちからいってぶった切るっ!」

 

白式のスラスターからエネルギーが一旦放出され、それが再び白式の中に取り込まれる。

 

準備は整った。はち切れるほどに満ちたエネルギーに火をつけようとした瞬間!

 

一夏の後ろ、あり―あの中央付近でズドォオオオンッという盛大な爆発音とともにアリーナの濛々とした土煙が舞い立つ。その異常事態に振り返った一夏が目の当たりにしたのは……土煙の向こう側にうごめく影―――それと同時に鈴が吠える。

 

「一夏ッ!試合は中止よ!すぐにピットに撤退しなさいッ!!」

 

その鬼気迫った鈴の声に、直感的に今の状況の危険性を察知した一夏が準備のできていた瞬時加速で鈴に接近し、鈴の隣で静止。いまだおさまらぬ土煙の向こうで不動のまま待機している“それ”を睨んだ。

 

「何しに来たのよ!あんたはあっ―――」

 

 一挙手一動作さえ見逃さないという勢いで“それ”を睨みつつ鈴は一夏を逃がすための言葉を紡ぐ。

 

しかし、一夏は警戒するように雪片を片手で構え、いつでも飛び出せるように構えながらその言葉をさえぎる。

 

「いや、俺も手伝う」

「何言ってんのよ!あんたなんかいなくても大丈夫よ!さっさとピットに行きなさいっ!」

「俺にだってやれることがあるっ!!」

「やかましい!アンノウン(未確認機)に対して自分の思い通りに攻撃できるなんて甘いこと考えてんじゃないわよ!!」

「そっちこそ!残ってるシールドエネルギーは何%だ!?」

「ッ!……それは……それより!手伝うっていうことは先生たちのISが出てくるまで粘る、っていう意味なのよ!わかって―――」

 

 鈴の言葉の最中、土煙の中の影が腕を振り上げるのが見えた―――来るッ!

直ぐ、鈴は俺との会話でヒートアップしているようで、その動作を見逃している。

即座に鈴を両手で抱えるように抱え込んで、左に全力移動。

 

間に合うかッ!?

 

 

一夏が、回避するにはギリギリで思わず体をこわばらせた、その瞬間。再びの爆音がアリーナに鳴り響いた。

 

正確には―――自分と鈴に襲い掛かるであろう衝撃に備えていた一夏の視線の先、アリーアの中央で。

 

「ちっ……この間、入れたばっかの虎の子なのにまるで効いてるようには見えねぇな」

 

 そうオープンチャネルで吐き捨てすてるように愚痴を言い張ったソイツは、担いでいたバズーカと片手に有していたコンテナを放り投げると両手にアサルトライフルを実体化させた。

 

「さて……そこの、バカップル二人組。手を貸してくれ―――3分でコイツをやるぞ」

 

朝食の献立を訪ねるように、たやすく言い放ったアイツが不敵な笑みを浮かべる。

―――まったく、相変わらず最高のタイミングで出てくるやつだ。

 

「オーライ。任せとけ、HERO(ハル)

「頼むよSIDE KICK(一夏)

 

そうして、アイツは両手の焔備をばらまくように撃ち始めた。

 

 

           □                 □

 

 

 アンノウンの周りを円で囲むような機動で旋回を続けつつ、両手の焔火をばらまき続ける。網膜に投影された焔備の残弾数が急速になくなっていく様を理解しつつ俺は二人に作戦を提案する。

 

「打鉄に装備されている武装はたぶん、牽制ぐらいにしか役に立たない。だから、俺がアレの注意をひくから一夏がヤレ。鈴はそれの援護と俺のバックアップを頼む」

「りょう―――」

 

 急に現れた俺に対して、鈴が内心うかべている狼狽を隠すように疑問をぶちまけてくる。

 

「って……ハル!?なんであんたがここにいんのよ!それよりもほかの増援は?あたしがバックアップってどういうことよ!?」

 

 その答えへの回答を口にする前に、眼前のアイツがこちらに向けて腕を振り上げる。

―――来るな。地を這うようなホバー旋回をやめ急上昇。

ゴォッという強烈な閃光と共が未練たらしく漂っていた土煙を切り裂いて、俺がさっきまで規則正しく周回していた機動ルート、その先にあるアリーナの特殊装甲壁に突き刺さる。

 

「レーザーか……」

 

瞬時にスプーの解析が入り、そのレーザーがセシリアのブルーティアーズよりもはるかに強力な物である、という言葉を伝えてくる。しかし、問題はそこではない。

 

(俺の周回軌道を予測していた?随分と賢いな。

打鉄、鈴への説明を頼む。

スプー……もう一度確認するがアレに“有機生命反応”は無いんだよな?)

【はい、あれに“有機生命体”は搭乗していません】

 

 自らの攻撃によってようやくハイパーセンサーの補正なしにその姿を俺たちの前に表した“ソレ”―――全身を装甲で覆ったフルスキン(全身装甲)に、異常なまでに肥大化した腕部を接地性を重視したと思われる脚部でしっかりと支え、表情の見えないフルフェイス型のバイザーに包まれた頭部を持つ、異形のIS。

それを睨みつつ、俺は焔備での牽制を続けた。

 

 

◆                 ◆

 

 

 俺達がいるこのIS学園に謎のISが接近してきている、という警告をスプーが発してから約20分前。現在の状況は―――最悪だ。

 

第一に、今日が各国からたくさんの来島者が訪れる一大行事の日だったことが俺の足を引っ張った。

訪れるVIPの安全、企業スパイや軍情報部のスパイに対する警戒のため島の警備体制が普段の三倍以上に強化されたのだ。無論、ハッキングを仕掛ける学園のシステムに対しても通常時よりも厳しい警戒の目があり……本来なら、スプーのハッキングをかけさせてシステムを一時的に掌握、その後俺が迎撃に出て迎撃が終わった後、全ての痕跡を消去する。

この、俺の常套手段が使えなかったのだ。

 

 第二に、敵の数が多いのも問題だった。敵が単体だけだったのなら、遠距離から一撃限りの狙撃をたたき込んで、その疑いの目を今日の来島者になすりつけることも可能だったのだが―――相手は3機。たとえ首尾よく一撃で一体を葬ることができたとしても、残った二機が警戒を強め、隠密性をかなぐり捨ててこちらに突っ込んでくる可能性が高くあった。

 

 よって今、ここに謎のISが一機しかいないのは俺が、現在進行形で残りの二機を足止めしているからである。

―――といっても、ばれないように使っているのはスワローverだ。

よく持ってくれてはいるが、俺も戦闘に参加する以上……もって“3分”がいい所だろう。

 

NY大火の事から考え出した。“目立たない”ことを念頭に入れて俺が創造した新しいスワローは、きちんと仕事を果たしている。果敢に突っ込み、センサの集中しているであろう頭部にまとわりついている。でも、ソリッドライトの形状を変化させることができない以上、ひっくり返ったって火力が足りない。

 

 そして、第三に―――“この襲撃をもくろんだ何者”か、が謎のIS三機を送り込むだけで済ませるはずがない、という確信があったからだ。

現に、スプーの話によると今アリーナ……というか学園自体が“これを仕組んだ何者か”によって電子的に完全に制圧され、俺たちの居るアリーナ内部とピット、そして強固な遮断シールドに覆われた観戦室が完全に隔離されているらしい。

つまり―――これ以上の増援はくる可能性のほうが少ない。

俺がアリーナに乱入なんて無粋なマネをしなければ、直前までの真剣勝負で消耗している一夏と鈴だけで相手をすることとなっていたはずだ。

まぁ……裏ワザを使えればなんとでもなるが……前提条件を満たさなければ使えない以上、無いものとして考えたほうが上策か。

 

 

しかも、相手は10機以上のISによる最大火力攻撃を同時に受けても防ぎきれるように設計された遮断シールドを突破して来た……それだけの火力を有している、とみて間違いがない。

イコール……相手の攻撃を一発でも喰らったらアウトの可能性が大、その上に増援もない。

相手は3分以内にもう二体、おかわりが来る―――被害を出さないためには“本気で”やることも考慮に入れないといけないな。

 

その瞬間、牽制を続けつつ思考にリソースを割いていた俺に相棒からのテレパスが入る。

 

 

◆                 ◆

 

【ハル、一夏さんにはすべての情報をお伝えておきました】

(ありがとな、スプー―――コアの正確な位置はわかったか?)

【はい、当初の想定通り……センサーやほかの重要部品の集中している頭部にありました】

 

 

 

「と、なると……狙うは頸か」

 

 山田先生との補修やこの二か月間授業で教わったことを思いだし、うなる様に呟いた。

ISの稼働に関する重要な機器、PICコンバータ、武装が収納されている量子サーバー、機体や搭乗者を保護しているシールド、機体を制御している高性能CPUなどが収納されているだけでなく、機体本体を動かすエネルギー源でもあるコア。

通常の場合、搭乗者がいるからコアを切り離す何て荒業は使えない。

そんなことをしなくても、決着がつくということでもあるのだが……しかし、対IS大型榴弾砲を無力化したあのISなら話は別だ。

おそらくだが“俺たちの中で決定打を持っているのは一夏しかない”。

 

鈴の武装はまだ不確定だが……スプーの解析の結果、衝撃砲には“致命的な弱点”があることが分かった。

 

それが、“威力の低さ”と“飛距離による減衰率の大きさ”だ。

衝撃砲はその名の通り、空間に砲身を生成しその際に生じた衝撃自体を砲弾として打ち出す兵器だ―――だが打ち出し、砲身から射出された衝撃波はすぐに空気中に拡散してしまう。

 

だからこそ近距離で使えば使うほど威力が上昇する反面、離れれば離れるほど威力が落ちるという欠陥は生じてしまった。

 

(それでも、“見えない攻撃”っていうアドバンテージは高いし、あくまで牽制用の武装だと割り切って何か関連技術を応用した強力な兵装を準備していると思うんだけどな)

 

「ハル話は聞いたッ!牽制は任せる!」

 

一夏が切羽詰った表情を隠しもせずに怒鳴る。

それを頼もしく覚えつつ、俺は再び思案を巡らせる……問題は……

 

「問題はどうやって“アイツの動きを止めるか”、よね?」

「―――そうだ。打鉄のワイヤーガン程度じゃアイツを……って、予想していた反応と違ぁうッ!?」

 

 鈴が素直に俺の指示を従って冷静な分析と俺が今考えていた問題点を言ったことでつい声が上ずってしまった。

 

「一夏から聞いたわ。あと2機、すぐにでも来るのよね?」

 

 鈴が浮かべている真剣な眼差し。その真剣さに俺も冷や水をぶっかけられたように冷静になる。

そうだ―――今はそんなことを考えているような余裕はない。

俺達がこいつらを撃退できなければ……どんな被害が出るが想像もつかない。

だから……

 

「ああ。一夏なら確実にアイツを倒せる。さっき言った通り……」

「それで、アンタどうやってあの化けモンの動きを止めるつもり?」

「それは……組み付いてでも……」

 

 鈴はハルがしどろもどろになりつつ言った非現実的な案にはぁ……と呆れたように小さくため息をついて続ける。

 

「……なんで、そこまで分析できてんのに考えるがそんな案しかないのよ……こういう時はね―――」

 

 そうぼやきつつ鈴は連結した青竜刀を左手に持ち替え、軽く開いた右手に新たな武装を実体化させた。

ガチン、という何かが接続される金属音と共に何か、口を開けた龍の頭部を模したと思われる先端部覗く。

こぶし全体を覆うあの形状……ナックルガードか?

 

「素直に仲間を頼りなさいよね!!」

 

鈴のすぐ隣で滞空していた一夏が、不思議そうに問う。

 

「鈴……それなんだ?」

 

 彼女はナックルガードに包まれた拳を自信に満ち溢れた微笑で掲げる。

 

「近接射撃戦特化型衝撃砲、“ 轟咆 ”(ごうほう)。相手に密着しないと使えない使用局面の難しさの代わりに、“巡洋艦を一撃でバラバラにさせて吹き飛ばす”だけの威力を誇る―――私の切り札よ!」

「…………それ、もしかして俺に使うつもりだった、わけじゃないよなぁ……」

 

 真っ青になり冷や汗が滲んでいる一夏が震える声でつぶやく。

その様子に鈴が視線をそらして、明らかに自信なさげに答えた。

 

「そ、そりゃぁ……そんなことする……わけないじゃない」

「こっちを見て言えぇぇぇ―――ッ!!」

 

―――あれは近寄ってきたところに叩き込むつもりだったな……間違いない。

【古事記にも書いてある】

『同感にござる』

 

 この切羽詰った状況に、三文芝居を繰り広げている二人に思わずほほが緩む。

言葉には言い表せないがいい感じだ。緊張がいい感じにほぐされてる、という感じか?

そんな心境を察してか、相棒達が語りだす。

 

【あなたは真面目すぎるんです】

(そうかな?)

『主には、拙者や兄者だけでは無く―――たくさんの仲間がいるではござらんか。

 もう少し、心にゆとりを持たねば見えぬモノもあるとある、と拙者は考えますぞ」

(諫言感謝するでござるってか?)

『主、拙者のあいでんてぃてぃを取らないでくだされ!!』

 

先ほどの様子とは打って変わって、抗議して来た打鉄を笑った後、意識を入れ替える。

 

さて……行こうか

 

 もうほとんど弾切れになってきていた焔備による牽制をやめ、謎のISから距離を取り一夏たちと合流する。俺の想像とは違い、すぐに追撃は来なかった。急に移動し集結した俺達を警戒するように、こちらに頭を向ける。

神ならぬ俺にはその意図はわからない。

迫っているだろう僚機を待っているのか、それともそれとはまた別の思惑があるのか。

ただ、これだけは言える。

 

「これはチャンスだ―――一撃で決めるぞ」

 

 俺が両手に握った焔備のリロードを行っている横で鈴がまちくたびれた、とばかりに轟咆を装着して肥大化した右肩を回す。

 

「いつでも行けるわよ。一夏アンタは?」

「もう待ちくたびれた、って気分だ」

 

 その言葉の通りに一夏は再びの突撃体勢。八相の構えに瞬時加速の準備が整った状態に戦意に満ちて爛々と光った眼で答える。

 

「わかってるとは思うが……あれは“無人機”だ。

容赦は要らん―――雪片の最大出力で首を刈り取れ!

でも……お願いだ。頭だけは攻撃しないでやってくれ―――頼む」

 

「応ッ!!」

 

 頼もしく吐き出したその言葉と共に俺が突っ込む。

瞬時加速機動。残弾がフルにまで戻った焔備が銃弾の雨を吐き出しつつ、スラスターと慣性が敵に向かって俺を押し出す。

それに気が付いた敵が自らの主兵装、腕のレーザー砲をこちらに向けて応射を始める。

非常に正確で、威力も十分。

俺と打鉄じゃあ……一発もらっただけで戦闘不能になりそうな一撃。

だが……

 

正確なだけ(それ)じゃあ俺には当てられねぇよっ!!」

 

 マニュアルPIC制御でかすかに機体をそらし、その閃光を躱しきる。

再び放たれた両腕のレーザーをきれいに躱すと、もう敵の目前。

 

―――これはオマケだ……遠慮せずにもらっておけ。

 

瞬時に焔備を量子化。流れるように実体化させた対IS用グレネードをばら撒く。

【カウント、スリー、ツー……ワンッ】

 

『 今っ!! 』

NOW!!(今っ)

 

 空中に Vの字を描くように謎のISの頭部をかすめ急上昇。その瞬間。

置き土産の各種グレネードが最高のタイミングで炸裂し―――爆発、噴霧、チャフ、トリモチが順繰りに謎のISに襲い掛かった。

うろたえるように身じろぎした黒いISに迫る影が一つ。

 

「最ィッ高ォォッ!!」

 

 打鉄の陰に隠れるように瞬時加速で接近した鈴が俺に対する賛美と共に、”両肩のあたりに滞空していたアンロックユニットが肥大化した右腕のあたりに移動”し―――その右腕を叩き付けた。ほんの一瞬、それこそ刹那の時間だけ不可視のはずの衝撃波が見えた気がした。

 

ドオォォォンッッ!!

 

 爆発音と似た、だが確かにちがう爆音と共にアリーナの中央が大きなクレーターへと変化を遂げる。轟咆の反動を利用してか鈴は瞬時に次の者へその空間を開け、既に迫ってきているその者を仰ぎ見るかのように顔を上げ口を開いた。

俺も退避をやめ、振り返り―――同時に叫ぶ。

 

 

「「一夏ぁぁッ!!!」」

 

 自らに迫る危機を直感的に察知したのか、謎のISは守る様に両腕をひきあげた。

 

でも……もう遅い。

 

俺たちの叫びにこたえるように白刃を煌めかせたような軌跡が閃き……

 

「ォ雄おおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉっっ!!!」

 

 瞬時加速で極限にまで加速させ、零落白夜でありとあらゆるモノを両断する、その意思が込められ刀、という形状から逸脱し“光の剣”でも言うべきものに姿を変えた雪片弐型の一閃が謎の黒いISを“袈裟切りに”両断した。

 

 その瞬間、観客席から空も割れんばかりの歓声が轟く。

だが、それを無視して俺は一夏に檄を飛ばした。

 

「まだッ!首を―――」

 

 俺の言わんとすることを瞬時にかつ、完全に理解した一夏が、それを継ぐように叫んだ。

 

「頸ィッ!置いてけェェェェッッ!!!」

 

 横凪に振るわれた雪片弐型が黒いISの首を切り飛ばす―――かと、思われた。

 

狂乱の怒声から、歓喜の歓声に包まれたアリーナを二条の光条が貫き

 

一夏に空間を開けるためだけに少しだけ後退していた甲龍と……

 

雪片を振りかざしたままの白式を……

 

同時に貫いた。

 

 

「一夏ァ!鈴ッ!?」

 

 自分が今とおってきた道を引き返すような機動で二人の下へ舞い戻る。

 

(くそっ!スプーなんで気が付かなかったッ!!)

 

 考えられる最悪のタイミングで訪れた、それに思わず内心で悪態をつく。

 

【あの二機は最後のスワローを撃退した後……“瞬時加速”を使ったものとみられます】

(それで……一気に射程圏内に移動した、ってわけか……それよりも二人はッ!?)

 

 光条が消えたその場には力なくその場にへたりこむ、二機のISと二人の姿が―――

―――ヤバイ!

二人の所にまでたどり着いたのと,同時ににフリーハンドになっている両アームで二人を抱え上げるとすぐさまその場を離れ壁際にまで駆け抜ける。

しかし、壁に到達したのと同時に……過重に耐えかねた打鉄のアームが悲鳴を上げた。

 

『主申し訳ござらん……重量オーバーで、ござる』

 

 パチパチという両アームが漏電するような音と共に、パワーアシスト機能がダウンした。

持ち上げていた白式と甲龍が地面に叩き付けられそうになるのをハルは必死にこらえ……少しだけ衝撃を殺すことに成功した。

ドン、という重々しい音がそばで聞こえる。

……しかし、ハルには二人を気遣う余裕はなかった。

アリーナの上層からゆっくりと二機のISが降りてきたからである。

 

―――クソッ……考えろ!逆転の一手をッ!!

 

 降りてきた二機へと注意を払いつつ、ハルの脳細胞はフル回転していた。

敵を倒すため、ひいてはみんなを守るために……

 

【ハル、二人のバイタルチェック終了、二人とも特に異常はありません。ですが……攻撃のショックで意識は喪失。ISも絶対防御の発動のためすべてのエネルギーを使い切っています】

 

「―――で、こっちは武装を扱うための腕部が逝ってるってか」

『主!二人を起こして逃げ回れば……』

「ダメだ。一発かすったらアウト、なんて状況に二人を“巻き込む”わけにはいかない」

 

となれば導き出される答えは一つ―――“ヤるしかない”

 

こちらからは攻撃ができない

 

二人は動けない

 

敵は二体でかつ強力

 

助けはない

 

舞台は整った……いや、“整ってしまった”

 

「くくっ……」

 

俺には成さなければならない使命がある。

そのためにはどんなことだって受け入れてきたつもりだ。

でも、今―――俺が“本気で戦う意思を固める”たったそれだけでこの事態は収拾する。

これだけの“危機”が目の前にあって……

そのことが“理解”できていて……

かつ、“使命”があるのもわかっているのにうだうだと悩んでいる。

 

そんな自分が情けなくて笑いをこらえることができなかった。

 

―――わかってる。SUPERHERO(俺のやっていること)とはこういうことだって

 

 ふいにあの夕暮れの中で聞いたのと同じ……弱気な俺が猫なで声が耳元で囁いた。

 

 誰からも評価されず 恐れられ (そし)られ 憎まれ 怨まれ 

 狂人だと(けな)され  利用され 排斥され 疎まれ 

 人類の敵(バケモノ)だと撃たれ 裂かれ 突かれ 焼かれ―――殺される

 

 それがオマエのやっていることの本質だ

弱い彼らには強いものを妬むことしかできない

石持ち追われ……最後には捕まり解体される

 

何よりも“絶対に”人としての当たり前な幸せも平穏な暮らしも訪れることは無い

―――未来永劫、な

 

なぜオマエがそんな貧乏くじを引き必要がある?

オマエに与えられたのは現世に現れた神の力―――それをじゆう……

 

―――それがどうした

 

 耳元で鬱陶しい“それ”にあの夕暮れの中で言いたかったことを叩き付ける

 

   みんな俺が選んだ道だ。俺が望んだことだ。俺の信じたオース(誓い)

   

何よりも―――俺はみんなが泣いている顔、恐怖に震えた顔、哀しんでいる顔や、憎しみいがみ合っている顔よりも“笑顔が好きだ”

 

こう……言葉には言い表せないけど胸が温かくなる感じがする

だからあの日父さんの前で素直に誓えた

 

オマエのそれは“ヒーロー願望”いや……“メサイア・コンプレックス”というモノではないのか?

 

それで―――実際に人が救われるなら“俺はそれでいい”

と、いうか俺のくせに何小難しい話してんだ?

俺はいつだってうだうだと長ったらしく悩んで、悩んで、悩みつくして

―――決めたことはやる、いや……やり遂げる奴だったろう

 

 やっとのことで黙った猫なで声に、何となく違和感を覚えつつもハルは独白する。

 

でも、心中で一瞬ぐらい……“人並みな幸せ”ってやつを偲ぶくらいは、許されるよな?

 

この二カ月にも満たない“平穏な学園生活”

 

偶然から始まり……一夏と箒ちゃんに再会する機会を与えられ、打鉄という新しい仲間が増え、一夏が理解者となり、セシリアとぶつかりあい和解し、鈴とも知り合った。

俺を取り囲むスプー以外のみんな……クラスメイト、織斑先生、山田先生、ジョーイ先生。

そして―――楯無さん。

そのみんなと過ごすとりとめのない毎日が楽しくて……愛おしかった。

 

その全てを捨て去り、思い出だけを背負って再び戦い続ける覚悟が―――ようやく定まったのをハルは自覚していた。

 

 

「さぁ……あとは―――“ヤル”だけだッ!!」

 

 自らを鼓舞するような声と共に使い物にならなくなった打鉄の両腕部を量子転換し格納する。

右手の中指、そこにあるエメラルドの指輪を高らかに構えようとした瞬間。

 

二機の敵の腕が振り上げられ、昼だと言うのにまぶしく感じるほどの光条が各々二本ずつ……計4本のレーザーが静止していたハル多とに襲い掛かった。

 

(回避はッ……するわけにはいかない!ここで避けたら一夏と鈴がッ!!)

【ハル!あの兵器の照射時間は7秒間です!耐えきってください!!】

「打鉄ぇぇぇっ!!」

 

瞬時に、防御を選択。残された打鉄の武装の中から黒金を実体化。二枚の黒金をそれぞれ一枚ずつ一体の攻撃に当てる。しかし、加速した視界が容赦のない現実を突きつける。

高い防御力と再生能力をもち戦車砲の連射を受けても耐えきれる、という触れ込みの黒金がものすごいスピードで融解しているのがわかる。

実際に打鉄が網膜に投射する耐久力概算値が高速で減って行っている。

 

(これじゃ7秒も持たない―――打鉄!すべてのエネルギーを黒金の再生に回せ!戦闘用、パワーアシスト機動用、絶対防御に至るまで残ったもん全部だッ!!)

『主?……承りましてござる!』

 

耐久力概算値が必死に抗うように数値を乗降させる。残り4秒―――

これなら何とか……安堵しそうなになった俺の視界がそれを捉えるのと、相棒がそれを察知したのはほとんど一緒だった。

 

倒れ付し、袈裟切りに肩口から両断されたはずのそれ―――最初に侵入してきた黒いISが残された右腕を“こちらに向けた”

 

【ハルッ!!】

 

 思考するまでもなく体が直感的に動いた。

 

 

           □                 □

 

 

「……ぅ……ゥゥうう…………」

 

 頭がガンガンと痛む。まるでハンマーで思いっきりぶん殴られたような衝撃からやっとの事で、しっかりとした思考がリブートして来た俺はうつぶせになっていた体を起こそうと行動を起こした。

 

(今の状況は?何があった?ハルは、鈴は無事なのか?)

 

ジュウゥゥという何かの溶けるような音が不安を掻き立てる。

しかし、パワーアシストの切れて鉛のように重くなった白式を自分の筋力だけで動かすのは容易なことではなかった。

 

(クソッ…!重い……)

 

のろのろとやっとのことで両手が地面につく。これであとは身を起こすだけ―――

その瞬間、聞こえた、いや……聞こえてしまった。

 

“誰か”がジャンプし、重量物が着地したとき特有の重々しい音と共に

 

「ぉ゛お゛お゛お゛お゛ぉぉう゛う゛ぁ゛ぁぁあ゛あ゛あ゛ぁぁ゛お゛お゛ぁおぁお゛お゛ううおぅあぁぁ―――――――――――――――――――――――」

 

ナニカを堪える様な、重々しい……獣の雄叫びが空を切り裂き響き渡った

 

“何かが誰か”……瞬時に理解し、顔を上げた俺の視界に敵二機の攻撃を盾で受け止め

 

“残る一機の攻撃”を自分の体を使って受け止めるハルの姿が

 

 

―――俺に失敗と敗北を悟らせた

 




ドーモ、読者=サン。めんつゆデス。


 おっおっティナ=サン。カワイイお!あんな幼女が妹……はっ!?
お、俺は、何を言っているんだ!?さっさと本題に行かなければ!!

まずは読んでいただき、ありがとうございます。
今回も楽しんでいただけたのなら、幸いです。

さて、今回の内容は……鈴と一夏の戦闘!そしてハルの乱入!一夏、鈴との共闘!!そして―――敗北(暗黒微笑)

 いやぁ……ウチのハルくんは俺teeeができるのですけどねェ(黒笑)ナンデで何時もどこかのドMみたいにボコボコなんでしょうねェーーめんつゆ、わかんなぁい(爆)

次回をお楽しみに。とだけ言っておきます。

それと今作オリジナル衝撃砲の弱点と鈴の奥の手轟咆。
あれ……衝撃を打ち出す、って聞いた時から思っていたことなんですよ……
直ぐ衝撃って拡散しね?って
といってもめんつゆは理系の知識などはありませんし、ぐぐってもよく理解ができませんでした、ですからSF=すこしふしぎと考えていただければ幸いです。

つまりはあんま突っ込まないで!!ナンデもしますから(爆)

ちなみに楯無さんの意味深な顔は……なんなのでしょうね(笑)
考察してみてください。

一夏のHEROに対するあこがれ、というのもオリジナルです。子供ならみんな持っていうようなもの、中学時代はバイト漬け、進学先は就職に有利、姉が育ててくれた、という情報から思いつきました。

一夏はハルから知っているのです、HEROとSUPERHEROは似ているようでまるで違う、ということを。

それと、シールドのほうもオリジナルです、原作一夏と違ってウチの一夏さんはエリート?ですから!零落白夜や瞬時加速を無駄に使うことはしませんので……わざと危機感をあおらせるために衝撃砲ばら撒いた鈴のほうが減っている、という表現をしました。

トドメはきちんとさしてますしね!!(暗黒微笑)

今回のネタ


首置いてけ

 なぁ
大将首だ!!
大将首だろう!?
大将首だろうおまえ
(島津の方言で「こんにちは、いい天気ですね」の意)

とのこと―――さすがすーぱー薩摩人(震え)実際恐い

ではこのあたりで失礼します、感想、ご指摘質問などいつでもお待ちしております。

次回の投稿はがんばっては見ますがまた、2週間をめどに見ていただければ幸いです。

では、失礼します。





―――終わったぁ!!ついーと上げて!報告書いて!ビギンズみるぞぉ!!



六月八日 ご指摘があったので少し加筆しました。轟咆を外付けから……掌の崩拳に接続して、さらに肩部の衝撃砲も一か所に集中させて威力を向上させる、というイメージデス。

ご指摘ありがとうございました。
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