???「これでFinish!?な訳無いデショ!(野太い声)」
と、ジャマイカから来たお人も言っておられる。というわけで本編だぁ!!
―――大変、長らくお待たせして申し訳ありませんでした。
というか、あとがきもやる気力がありませんので明日にでもやります。本日は本編だけお楽しみください。
本話の推奨BGM
☆ デジモンテイマーズ 進化曲より EVO
★ デジモンセイバーズ挿入歌より believer
今回も長くなってしまいましたが、楽しんでいただければ幸いです。
□ □
「ぉ゛お゛お゛お゛お゛ぉぉう゛う゛ぁ゛ぁぁあ゛あ゛あ゛ぁぁ゛お゛お゛ぁおぁお゛お゛ううおぅあぁぁ―――――――――――――――――――――――」
わが主の、この世のものとは思えない
ああ、まただ。また拙者は――――――――
主を守ることができなかった
残されたすべてを出し切り、それでも届かなかった主の為したことは
生身の人体など触れれば一瞬で蒸発してもおかしくない光条を目の当たりにし
己が体を投げ出すことだった
主は自分の体を
しかし……光の速さで襲い掛かるそれを防ぎ切るには、余りにも……あまりにも
時間が足りなかった
その対価は、すぐに訪れた。体を覆った光の鎧を貫いて主の肌が焼かれる
僅かに零れた程度の光でさえ……その身を焼くには十分すぎるほどだった
露出している肌が次々と黒く染まっていく―――炭のように真っ黒で
生気の一切を感じさせぬモノへと変わっていく、主を……殺していく
内も外も焼かれる痛みに主が、叫び声が木霊する
その叫びの中、主は自らの体を癒し続ける
そうしなければ自分の命が危うくなってしまうから
だが……主の受けてる痛みとはどれほどのモノだろう?
焼かれ、治し、燃やされ、癒し、焦がされ……
……延々と続く、終わりのない痛みとはどれほどの苦痛なのだろう?
一つだけ言えることは―――
“あの時”と同じように拙者の中の“ナニカ”に形容できない感覚が走っている
それだけだった
何倍にもの時間に感じた“七秒”が過ぎ去った後に残されたのは
見るも無残な姿へと変わってしまった主の姿
肌を、喉を、目を、髪を、腕を、爪を、そして……心を
ありとあらゆるものを焼かれた主を拙者は“また”見ていることしかできなかった
もはや、一歩も動くことのできない拙者に主の心が問いかける
―――俺を下ろせるか?
ああ、このお方は……これ程傷ついて、常人なら痛みに狂ってもおかしくないはずなのに
戦うつもりなのだ
戦えばどうなるか、常日頃から仰っていることをわかって……受け入れて
“それでも”、と言い放つのだ
“ナニカ”に走る形容できない感覚が強くなる
答えなかった拙者をほおって、身を守る鎧から自らを縛る枷に変わった装甲に手をかけた
主が高熱で装甲と張り付いた肌を切り離すぶちぶちという音が
エネルギー切れの拙者に搭載された集音センサーに残った
枷を外した主は支える者を無くした塔のように大地に倒れ伏す
無事なところなど、ひとかけらも残っていない体をぶるぶると震わせ
真っ黒に染まった腕を振るいかろうじて生きている掌で体を起こした
そうして、あのお方は優しい口調で言うのだ
未だ役に立たない喉から呻き、心でしっかりと
―――肩、借りるぞ。
黒いISに焼かれて熱くなった装甲に触れる
わずかに残っていた掌もジュウ……という鈍い音と共に焼けていく
その痛みに体をびくんと震わせつつ立ち上がった主は
ふらつく体を動かぬ木偶とかした拙者にもたれかけさせ
―――打鉄、お願いがある
ゆっくりと語りだした
自分が、これから戦うこと。おそらくもう学校にはいられないこと。そして……
“拙者を残していくこと”
本当は声を荒げて問いかけたい、意地を張ってでも共についていきたい……でも
エネルギーの切れた拙者にはどうすることもできない
ただその声を受け止めるしかできない己の身を呪った
主は言ってくれた
拙者と、拙者たちと過ごしたこの2カ月は人生で最高の時間だった
主は拙者が嫌いだから置いていくんじゃない、俺と一緒に行ったら“お前は戻れなくなる”
主や兄者と同じ、
せっかく手に入れた“自分”を自分のために使え
後のことは織斑先生に任せとけ
あの人なら何とか取り計らってくれる
だから、あの人だけには本当のこと言え……と
最後に、治した喉を鳴らして“笑って言うのだ”
「―――それと“
主は黒くなった皮膚に手をかけ―――無造作に“むしり”だした
その瞬間、主をとりまく“それ”はかわった
今までは、なんというか……柔らかかった、と形容するべきものが
冷たく、固く、とがった、とで言うべきものに
主が既存の法則を超越させ、肌を肉を髪を……すべてを生まれ変わらせる“再生”
体を癒す様を見せつけるごとにそれは強いものとなって行った
すっかり、元通りの姿となった主―――
そして、拙者は先ほどのお言葉の真意を知ることとなった
「ば、ばけもの……!?」
「なによ……あれ……あんなことあり得ない……」
「嫌っ嫌っ!なんであたしがこんな目に……ここから出してよぉッ!!!」
「彼は―――加藤陽は人間じゃないんだ!」
「だから、女でもないのにISが操縦できたのよ!!」
「あ、あいつがいたからあのISが来たんじゃない……?」
「……そうだ」
「だから、いたいってぇ……加藤君」
「きっとそうに違いない!!」
「でも……」
「あのバケモノのせいで私達がこんな目に……」
「みんなを……だましてたの?」
「……ハル……よせ、もう……」
「―――死ね」
「ハルさん……おやめください」
「くたばれ!バケモノ!」
「出ていけ!全部お前の責任だ!!」
「「「死ね!死ね!!死ね!!死ね!!死ね!!死ね!!死ねっ!!!」」」
普通の人々が主に向ける仕打ちを
―――なぜ……どうしてなのでござる
どうして、誰かを……あなた方を守るために身を投げたものを責められる。
肉を焼き、血を流し、痛みに堪えたものを憎める。
なぜ、そんな目で主を睨む。口汚くののしれる。
これが……ニンゲンか?こんなものと拙者たちは―――“共に生きていかねばならぬのか”
拙者は、機械だ。正直、心という物はよくわからない。
でも……“これが心を持つ人間のすることなのでござるか!?”
主……このようなモノと“共に在れ”、と仰るのでござるか?
主を捨て去り、“このようなモノに仕えろ”、と?
―――そんなことは無理という物でござる
このようなモノにわが身をささげる位なら拙者は……“自分など―――
「……言い忘れてた。打鉄……お前が今どんなことを思っているのか。
何を見ているのか、リンクが切れた俺には分からない」
主―――なぜ、このようなモノを守るために戦うのでござるか?
これをわかっておいでで、ずっと戦って……これからも戦い続けるおつもりか?
「だから―――これは俺の勝手な思い込みだ。
もし、今の惨状を見てお前が人間に絶望しているというのなら……大きな間違いだ」
なぜ、そう言えるのでございますか?
こんなあさましき者をかばって……傷ついて……ののしられて……
“それでも”と言い続けれるのでござるか?
「ここにいる人たちはみんな普通の人達なんだ。
普通に生きて……普通に笑って……普通に泣いて……普通に怒り……大切な人と過ごす。
だから、彼らは恐れるんだ“理解できないもの”を―――自分を、大切な人を守るために
そして、それは時にすごい力を生むんだ」
―――それではッ!主の……主の心は何となされる!?
主とて、笑わぬわけでも、泣かぬわけでも、怒らぬわけでもない
―――何より大切な人と過ごす時間を望んでおられるではござらぬか!?
守るために―――他者を傷つけてよい道理はない!
そうではござらぬか……主……
「でも……守りきれないモノも、そこにはあるんだ。それを少しでも少なくしたくて俺はこの道を選んだ。
だから……これは俺がわかってやったことだ。オマエが気に病む必要は一切ない」
・・・・・・
「もし、お前が今この状況に怒っていると仮定して言おう。その怒りは正しいものだ。
俺がもし、お前やスプーに同じようなことをされてたら―――怒り狂って殴りかかってる、と思う。大切な人にひどいことをされて怒らないやつはいない。
でも―――“それでも”相手を赦してやってくれ」
・・・・・・・
「“赦す”というのは難しいことだと、誰かから聞いたおぼえがある。
痛いこと、苦しいこと、つらいこと、そういったすべての仕打ちを飲み込んで
―――相手を受け入れる」
・・・・・・・
「確かに難しい。でも、俺達にとって“これ”は必要不可欠なことなんだ。
これを―――失ってしまったら……
その最後の一線なんだって、なんかのアメコミで読んだ気がする」
・・・・・・こんな時まで、そんなことをおっしゃるのでござるか
「でも……俺はこう思いたいんだ。俺が正義だとかうぬぼれるつもりはないけど“善きもの”は“悪しきもの”に負けない、俺のやっていることはいたちごっこで終わりない戦いかもしれない。
“それでも”信じたいんだ。“善きもの”は“悪しきもの”に勝つって」
・・・・・・ばか、でござるな
「だから、お前には“善きもの”であってほしい。そして、“悪しきもの”に打ち勝ってほしいんだ。こんな勝手なこと言ってゴメンな。もう一度言うようだが、これからお前は自由だ。
好きに―――いきなさい」
・・・・・・本当に、主はばかです
機能を停止したはずのセンサーが寄りかかっていた主が拙者から離れていく感触を感じる
歩き出した主は、少しだけ立ち止まり……ある一点を見つめた
主の眼差しが何を見つめているのかを―――そして、己が主が何を感じているのかを
・・・・・・やはり、やはり主は“それを望んでおられる”のではありませぬか
そらしていた顔を敵へ向け、再びゆっくりと歩き出した主が
拙者から離れていく
一歩、一歩
ゆっくりと
だが―――確実に
そんなとき兄者の声が、物言わぬ
【あなたは―――それでいいのですか?】
―――よくはない、断じてない
【私には……彼を救うことができません、そこの
―――では誰が、誰があそこで……痛みに耐えている主を守れるのですか!
【……だから、貴方が救いなさい。貴方がハルと共に在りたいと願うのなら】
でも……拙者は……
【貴方に“しか”できません。貴方が―――決断しなさい。“貴方の意志で”】
・・・・・・拙者の、意志……
【ただ、貴方がこの状況をひっくり返すような奇跡を体現できなければ“ハル”と同じ道を歩むのは不可能だ、とだけ言っておきます】
それきり黙った兄者の声に
☆
―――機械の塊に過ぎない拙者の中の“ナニカ”が動き出す
なれば……これからどう生きようが自由のはず
言ってくれるではないか、この“骨董品”が……
拙者は主から逐電された
拙者は己が意志を持って加藤陽に仕え続ける
先ほどの感覚とは違う、明確な熱さ
そう……言葉に表すなら燃える様な熱を持って
あの時、ニューヨークの炎の中で
セシリア・オルコットと対峙したアリーナの壁で
そして、“私”が“拙者”となったあの小さな倉庫の中で
感じた
そもそも、機械でしかない拙者が“感覚”などというあいまいな物を感じている時点でおかしいのか?
いいだろう、あの主と共に往くには“
おかしい?普通じゃない?狂っている?
―――それがどうした。拙者はあのお方だからこそ仕えたいと願った
凡百の者どもには好きに言わせてやろう
拙者は“善きもの”である。“善きもの”であろうと思う
だが……誰に言われようが拙者は止められない
おかしくなってやろう
普通じゃなくなってやろう
狂ってやろう
その先に拙者が目指す“特別”がある
―――考えなさい。お前の中に望む答えは在る
不意に誰かがそう言われた気がした
強く優しい、でも主のモノでも兄者のモノでもなく今まで一切聞いたことのないそれを
……信じた。確信があったわけではない
でも“そうすべき”だと拙者の“ナニカ”が言っていた
拙者が望むもの
それは力だ。兄者を見返し、主を守る―――“体”も、“心”も、“この居場所”も
単純な力とは少しちがう力
そのためには何が必要だ?
主の武器は“ただ”一つ
剣でも銃でも盾でも速さでもない―――意志だけだ
強く毅くひたすらに剛く……それ故に脆い、意志
それを力に変える“宇宙でただ一つの武器”
それはッ!!
―――想いなさい。答えを得ただけでは足りない。まだ“扉”に触れただけだ
その“扉”を開くにはお前の大切な人を想い自身の変容に耐えるだけの
“強い意志”が必要なのだ
主……あなたはばかでござる。本当に、この世随一の愚か者でござる
己のみが傷ついてそれですべてが万事解決、そんなことはござらん
自分を責め、追い込み、傷つけ、“それでも”と言い続ける
得た友も、大切に思った時間も、その時感じた思いさえ捨てて
進んだ先に―――あるものは“逸脱”でござる
ヒトからの逸脱、象徴としての完成
かつての拙者や伝えに聞く兄者と同じく……心を持たぬ現象でござる
ただ、そこに存在し人々を助け、悪と戦うだけのSUPERHEROという
それになってはなりませぬ
それになれば主の心は―――他者を思いやる優しさは……
“無駄なモノ”として切り捨ててしまわれる
そんなモノになった主は見たくないのでござる
拙者にとっての主はあの倉庫で……ただ兵器として扱われ、意味も解らず戦わされた
拙者という個体に言葉を投げかけてくださった、“あの主”にほかならぬのでござる
だからっ!!
―――願いなさい。“強き意志”を手に入れたのなら、お前のすべきことはこの一つだ
ただひたすらに強く……それが、それこそが“変わってしまった”お前の
頼む―――拙者の中にある、“ナニカ”よ。
主を守るために……あのお方と共に在るために―――力を、拙者に力を……くれッ!!
その瞬間、拙者の中から“ナニカ”が爆発したかのように湧き上がってくる。
天文学的な情報の波が自分のすべてを駆け巡る。
ボロボロの機体に、力が漲る。
在るべき形へ、在るべき姿へ、装甲材の分子一片まで変わっていく感覚。
―――他者のために、自ら考え、意志を固め、それを願う。
それは“心”を持つ者にしかできぬことだ。
さぁ……行きなさい。
“
お前の大切な人が、待っている。
そして、“昼間の日差しの中でさえ”まぶしく感じるほどの緑色の光がはじけた。
後にこの現象は観測史上世界初の現象として取り沙汰されることとなる―――
“
第24話「打鉄―――――――再誕」
□ □
完全に元通りになった体に、敵意の視線が突き刺さる。
どろりと重く、黒く、汚いものを見る様なそれは―――俺が想像していたものよりもさらに重いもので、少し辟易としてしまった。
この視線を向ける、彼らに対してじゃない。
“この事態を予想していたにもかかわらず”悲しい気持ちになってしまう甘い俺に対してだ。
「……さあ、気合を入れろ。これで見納めなんだ。最後くらい……良いかっこで出てて行きたいだろ、俺ッ!!」
そういって自分自身を鼓舞するように言葉を吐き出しゆっくりと一歩ずつ歩き出す。
視線の先には俺を痛めつけてくれた三機のIS。
そこに、無機質ながら不満げな口調で“相棒”が混ざってくる。
【ハル、本当にいいのですか?】
「打鉄のだ―――」
【違います、“あれ”がそんなタマですか。……このまま学園を去ることです】
「……いいんだよ、これで。俺はもう“ここ”にはいられない。あんなモンを見せたんだ……当然の反応だ。でも、打鉄は違う。アイツは自分で決められる。だから―――」
その瞬間、自分の後ろで光が爆発した。
背中越しに現れた“その光が”あまりにも慣れ親しんだもので……ハルは敵前だということも忘れ、思わず振り返ってしまった。
(打鉄が…発光している?……それにこの光はっ!)
【だから、言ったじゃないですか“アレ”はそんなタマじゃないと】
まばゆいばかりの緑の奔流―――それはすぐに収まった。
だが、その見る者を魅了するほど幻想的な光はひとたび瞬いただけで狂乱に堕ちた人々の心に平静を取り戻させた。
そして……光が収まったその場所には
全身を焼かれ、ボロボロの鉄塊となった
代わりに
“磨き上げられた翡翠のように輝く”提灯がそこに在った。
それの前に、慣れ親しんだ空間投影ディスプレイがすっと現れる。
『主、拙者を置いてどこに行かれるおつもりでござるか?』
「う、ち……がね、なのか?」
【この状況でアレがそれ以外に見えたならあなたの目は節穴という物です】
スプーのツッコミも耳に入らない。なぜなら……ソレは自分にとって慣れ親しんだ、先輩から受け付いた、“自分の命よりも”大切なものに見えたから。
『打鉄、というのは少し語弊があるやもしれませぬが……あなたの相棒でござるよ』
「なんで……その姿は一体……?」
『拙者がその望んだからでござる、主と共に在りたい、と』
その言葉に思わず、怒りが込み上げてきて胸が熱くなる。
「ッ!……お前は俺の行動とそれにつながる彼らの反応を見ただろう。俺たちがやっていうことはそういうことだ―――さっきも言っただろう……お前は自由に生きろって」
『かつて、申し上げたではござらぬか。貴方様にお仕えする覚悟はできている、と』
「だけど……」
『いつまでもうだうだと……拙者の意志で決めたことでござるッ!たとえ主にも文句は言わせぬ!!そう背中を押してくれたのはほかでもない、主ではござらんか』
【ハル、いい加減観念してください。貴方はもう何も捨てる必要などないのです。貴方がヒトのままでいるために、私やアレがいます】
『だから―――
……また、こんな感じか。たしか少し前も二人、いや一夏も含めてだから……三人か?
アイツ等に叱られたんだっけ。もっと、他人を頼れって。
十分、頼ってるつもりなんだけどな。俺なんて“一人じゃ何もできないし”
それに、俺は……俺は、幸せを求めてもいいだろうか?
幸せを知ったら……俺は、また弱くなってしまうじゃないか。
平穏なそれが愛しくて、大切にしたくて、壊したくなくって……そのせいで“使命”をおろそかにしてしまう。
―――そう、なってしまいそうな自分がいる。
それだけ、この数カ月は楽しかった。楽しすぎたんだ。
“そんなことは許されないのに”
そんな俺の葛藤を察したように
『以前、主がお父上のお話をしてくださったこと、覚えておいででござるか?』
「……ああ」
打鉄と再会したあの薄暗い倉庫で、俺は打鉄におおよその事情を説明した。
俺が、この世界の人間じゃない可能性があること。母が死んだこと。その死を自分の責任だと感じていたこと、リングと出会ったこと。そして―――“父さんを助けられなかったこと”。
『お父上は、主に“恐れずに人に接しなさい”と仰られた、そうでござるな?』
「ああ、その通りだ……」
『その言葉の意味を主は考えたことは、ござらぬか?』
「―――“意味”?それは……」
あの言葉は俺に対する忠告だ。……それ以外に意味があったのか?
そこで思考停止していた俺に―――
『お父上は、主が“こうなってしまう”ことも予知されておられたのかもしれませぬ。だから……“主が人間から逸脱し人から排斥される者にならないよう”に言い残してくれたのでは?―――あくまで、拙者の推論でござるが』
ッ!……そっか、父さん。やっぱり俺は父さんやママには勝てないわ。でも、ゴメン。
俺は……
「俺が、俺たちが人々から排斥されるのは“覚悟の上”だ―――」
だから……と続けようとした言葉を
『それは違うでござる。そんな覚悟は要らないでござるよ―――必要なのは―――』
そこでアイツは言葉を切った。
IS間で行われるプライベートチャネル越しに飛び込んできた、その声を
俺に伝えさせるように
「ハルッ!お前が男だというのなら……何とかして見せろ!」
幼きあの日からまるで変わらぬ真っ直ぐなあの子の声が
「ハルさん……取り立てて言うこともありません、ですが……信じています。貴方がこの状況をひっくり返すのを」
出会った時と同じように自信満々に、でもあの時とは違う、穏やかの口調の彼女の声が
そして……
少し、うつむいたままこちらと眺めようとしないあの人が言葉を紡いだ
「……ハルくん。あんなことして……あとでお仕置きだから覚悟しておきなさい」
「た、楯無さん……?」
何時もとはまるで様子が違う彼女の姿に思わず、心配する言葉がこぼれた。
しかし、俺の心配などなんのその。すっと顔を上げた彼女は怒りを体現するような無表情で言葉を継ぐ。
「だから……とっとと、あんなのぶっとばして……“帰ってきなさい”!!」
「……………」
「返事ッ!!」
「ハ、ハイ、ヨロコンデー!!」
その剣幕に、さっきまで考えてたこととか、冷静に理性で考えるとか、そう言ったことは全部ぶっ飛んで……反射的に、本心を言えば―――“素直な思いが”口から飛び出していた。
「……よろしい。じゃあ“頑張って”」
そうして、彼女は柔らかく……そして、ドキッとするほど魅力的に、笑うのだ。
ダメだな……俺は……やっぱ
どこまで行こうがへタレだわ
胸の奥で、くすぶっていた何かが熱く燃えあがってくるのを感じる。
……いいか。それが俺だ。“それでも”って言ってくれる人がこれだけいてくれる。
だから―――一夏じゃないが……ここで、やらなきゃ“男じゃない”ってやつだよな!
「―――はいッ!!」
そうしてプライベートチャネルは切れた。
タイミングを見計らったかのように
『人々の中で“平穏を受け入れる”覚悟という物でござる、と拙者は思いまする』
「うまいことまとめるじゃないか―――やるぞ……打鉄」
そんなメラメラと燃え上がってる俺の気持ちを削ぐようにアイツが話題を変える。
『主、その前にお願いがございます』
「って!!ここは応!とか……行くぞ!!とかそーいうとこじゃないのか!」
先ほどまで黙り込んでいたスプーが、おどけた口調で茶々を入れる。
【ハル……私達にそんなシリアスが長時間続くわけないじゃないですか。せいぜい私たちはシリアルで限界ですよwww】
「やかましい!!って……今気が付いたんだが、もしかしてコレ……」
【はい、絶賛オーロラビジョンで放映中です。ああ、ちなみにですが貴方とアレとの会話も実況されてましたから】
「………………」
【付け加えると、思念波通信で貴方をいじるのも飽きましたし、これからスピーカーをデフォルトで使っていきますので】
さらりと非常に重要なことをぬけぬけと言い放った相棒に抗議の言葉が飛び出す。
「……はぁ!?ちょ、おま―――」
『―――兄者、ここは拙者のステージでござる!少しお静かにしてくだされ』
……もう一人の相棒にさえぎられたが。
「だから!おいッ!!」
【わかりました。せっかくですし頑張りなさいな】
「なあってばぁ!!」
『応援、感謝するでござる』
「お、俺の話をきけぇぇぇえええ!!」
やっぱり、俺はこんな扱いか!と慟哭するように飛び出したツッコミがアリーナに響き渡った。
「ぷっ……くくく……そうだよ!それでこそハル達だぜッ!!」
先ほどまで不景気な面で地面を睨んでいた親友が抑えきれないとばかりに吹き出し、くすくすと笑いだした。
それを皮切りに―――打鉄がアリーナに零れる呟きを拾ってくれた言葉が耳を打った。
「ぷっ!……何よあの三文芝居!笑えるわ~」
「…………なんだ、元気じゃん」
「なんかさぁ。あんなことしてるからもっと血も涙もない奴かと思ったわ」
「あれってどういう原理なの?」
「まだ判明してないISの新技術!?」
「なんだ。ネタバレしたら納得―――つーか、誰よ。バケモノとか言ったの」
「あんなことをしてたら……そりゃ誤解されるわよね」
「私は―――なんてことをッ―――」
「どうだっていい!助けてくれ!!」
「MO・GE・RO!!」
「MO・GE・RO!!!」
「……ごめんなさい」
『だから』
『頑張って!!』
その声が胸に響く。無論それだけではないのもわかる。どう見たって納得していない顔で
恨めしげにこちらを睨む人々もいる。
でも……それでもいい。俺は―――
「なぁ二人とも。俺は、俺達も“幸せや平穏”なんてものを、求めても……いいのかな?」
【ええ。貴方は―――人間なのですから】
『先ほども仰ったでしょう。貴方はそれを受け入れる覚悟、それを持ってよいと』
ハルは自分の目頭が熱くなるのを感じて掌で乱雑に拭った。そして話をそらすようにアイツに問いける。
「なぁ……さっきの願いってなんだ?」
『簡単なことでござる。拙者―――“打鉄”をやめたので新しい名を主より賜りたく存じます』
【―――やめておきなさい。ハルのネーミングセンスはごみクズ以下ですよ】
「やかましいわ。俺も自覚してるからわざわざ公言すんな」
『それでも、拙者は主に賜りたいのでござる。新しき己を示す名を』
梃子でもひきそうにないアイツの様子に俺は一つ、思い描いていたものを言葉にした。
俺達の掲げる色
穢れ無き色
命満ち溢れた色
宇宙を充たす色
耀く宝玉の色
その色と合わせるは振るう力
まばゆく輝くそれ
生きとし生けるものすべてを照らすそれ
俺の携えるそれ
合わせて―――
「……
【ハル、謝罪と賠償を……】
「いいからだまってろ。な!―――どうだ?」
一拍置いたアイツは、静かに新しいウィンドウを展開し意志を伝える。
『―――最高でござる。拙者はこれより主を守り、主の敵を打ち砕き、主の助けを求める者を助ける、緑の煌めき、翠煌にござる!!』
「気に入ったみたいでよかったよ。さて……」
そこで言葉を切り、振り返る。
そこには律儀にもこっちの話が終わるのを待っていた様子の黒いIS達。
「いやあ、お客さんを待たせすぎたね。にしてもこんな隙だらけだったのに攻撃してこないなんてなぁ……」
【これはジャパニーズ様式美、お約束という物ではありませんか?】
「いや……それを実際にやるのはアホだろ。ま、やることは単純だ。“叩き潰す”―――行けるな翠煌」
『いつでも、でござる。主―――あれをやってはいかがか?』
「……あれ?あれっていうと……まさか!」
『その“あれ”でござる。せっかく良い機会なのですから偶には前口上、というのもよろしいかと具申、もうす』
「オッケー!じゃあ……行くとしますか」
ハルは左手でランタンとなった翠煌を掲げ、右手で
無論、その行動に意味はないが―――雰囲気だ。
そうして、ハルは言葉を紡ぎだした。誓いの言葉を。
「
『
「
『
「Beware……my power《畏れよ…我が光》!」
『「
★
その瞬間、再び光がはじけた。
再びの閃光が晴れた先には―――一人の男の姿があった。
しかし……打鉄を纏っていた時の姿とはまるで違う。
ISの特徴である、肥大化した四肢は小型化しより体にフィットした具足のような姿に。肩部に存在していた盾型
そして……露出していた腹部は堅牢そうな胴鎧に覆われた、すなわち日本古来の鎧武者そのもののような姿へと形を変えた。
「さて……調子はどうだ?翠煌」
『いつでも行けるでござる』
自分の姿が映し出されたオーロラビジョンを眺めつつ、さっきまで纏っていたISとは同じものだとは思えないほどに姿を変えた自分の姿に、ぼやきが口から零れ落ちる。
「にしても……なんというか、大部変わったな」
【はい。さっきまで全高が2m以上あったのに今ではハルの体とほぼ同サイズです】
『これでいいのでござる。素晴らしいではござらんか!甲冑は武士の魂でござるよ』
自信たっぷりに言い放った翠煌にハルの突っ込みが飛ぶ。
「いやいや、デザインのことを言っているんじゃなくって!」
『大丈夫でござる。必ずや主のお力になれる、そう確信しておりますゆえ』
また漫才が始まりそうな雰囲気に、いい加減痺れを切らしたのか黒いIS達が腕を振り上げた―――攻撃が来る。
「翠煌、避けるぞ。一夏たちは……」
『……否!このまま受け止めるでござる』
「おい!俺はまだ―――」
黒いISの腕に内蔵されている銃口が紅く輝く。
さっきよりもチャージが速い、問答をしている時間は無いな。
そんな風に冷静に状況を判断した俺は打鉄に問う。
「翠煌!お前を―――信じる!!」
『来るでござる。為すべきは一つ、想い、願い、形にしてくだされ……主の意志を!!』
その言葉だけで翠煌に何が備わっているのかを瞬時に理解する。
了解だ、俺のできること、やるべきことはいつだってひとつ。
強い意志を持って、想い、願い……形にするだけ
翠煌の言葉のすぐ後に黒いISから放たれた、真っ赤なレーザー
先ほど俺を焼き、一撃で白式と交流を戦闘不能にしたそれは
「―――盾ッ!!」
緑色に輝く、俺の後ろ全てを覆うほど
それに呼応するように翠煌が新しいウィンドウを表示する。
『
ハルは受け止める、と答えた翠煌の言葉から結果が想像してできていても自分の口の端に浮かんだ微笑を堪えることができなかった。
今まで打鉄で使ってきたどんな武器よりも体に、いや……心になじむ。
そんな俺の心情など知る由もない無人機、その向こうで踏ん反りかえってるであろう指示を出している人間に向かって啖呵を切る。
「これはオマケだ、取っときな!」
球を投げるようなモーションと共に新たなイメージが頭の中で産声を上げる。
たった今敵の攻撃を防いだ盾を“回転させる”イメージ。盾は、瞬時に高速で回転を始め―――その姿を巨大なチャクラムに変える。
狙いは、さっき一夏が袈裟切りにした一機ッ!
ギィィインという空気を切り裂く音と共に目標に向けて“真っ直ぐに”飛翔するチャクラムを防ごうと、最初の一機は腕の甲を前にして守る様に待ち構える。
「残念、俺の攻撃は―――」
一旦切った言葉と共に、軽く腕を振ると……“愚直なまでに直進していた”チャクラムはISの腕の寸前で弧を描くようにするりと機動を変え“防御のない真後ろから”そのコアの詰まった頭部と体を繋ぐ首を綺麗に両断した。
「―――防げないのさ」
さっきまでIS三機がかりであれだけ苦戦していた相手をあっさりと一蹴したハルを称賛するように、アリーナから爆音のような歓声が上がる。
讃える者も、恐れる者も、信じる者もその垣根などなく。
その歓声を背に受けてハルは新しいイメージを翠煌に込める。
「せっかくいい
『……なるほど、良い提案でござるな』
役目を終えたチャクラムは、“アメコミで言う鉄板ネタ”“困ったら出てくる“国民的スポーツ”、それを体現するような大柄のバッターへと姿を変える。
【バッター、振りかぶって……打ちました】
スプーのアナウンスの通り
打たれた
【ハル、取れなかったらネットで晒してあげますからwww】
「お前はなんでそういう人の不安をあおるようなこと言うかなぁ……」
いつも通りの相棒の煽る言葉に口から不満がぼやきとなって零れ出る。
そんなぼやきもなんのその、撃たれた打球は正確に俺の胸に収まった。
役目を終えたバッターが名残惜しそうに空気に溶けて消えて行く。
「……ま、普通にとれるんだけどな」
【何、自信げに言っちゃってるんですか?自分で打ってるようなものなんですから取れて当たり前じゃないですか】
「…………スプー、お前もう黙れ」
【それは私の自由意思に反する行為ですので認められません】
『主!!』
翠煌の警告と共に二機の黒いISが腕を振り上げ、こちらに向かって突っ込んでくる。
「大丈夫だ」
イメージするは剣、固く鋭く重厚なロングソード。
右手に現れたそれを握りしめ、大地を軽く蹴って黒いISを迎え撃つ。
一機が放った大ぶりのストレートは、先ほどと同じように目の前に盾を創り出し、受け止める。
その陰から飛び上がったもう片方のISに向けてロングソードを投げつける。
自分に向かって飛来して来たそれを防ぐために黒いISの足が止まった。
「悪いが、それを待ってたんだ」
イメージするのは巨大な拳、厚く、大きく、重たく、広いあの二体をまとめて吹き飛ばせる大いなる鉄拳。
右腕にまとわりつくように翠煌が生み出したソリッドライトが俺の腕を一瞬で巨人の
「おぉぉぉりゃぁぁっ!!」
思いっきり振り上げられた巨拳が二機のISを叩き付け、土煙をまき散らしながら、こちらに向けて迫ってきた速度よりもはるかに速い速度で壁に向かってぶっ飛ばす。
それを認めたハルは、口うるさい相棒に向かって……テレパシーで指示を送る。
(さて、スプー……せっかくここに面白いものがあるんだ。一丁本気で“アレ”やってみないか?)
【―――その言葉を待っていました。全力を出してかまいませんね?】
スピーカーではなく自分が発したのと同じテレパシーで帰ってきた、その言葉の響きには、遊びなど一切感じさせられぬ真剣みが込められている。
(ああ、任せる)
【30秒でけりをつけます、“向こう側”と話す内容でも考えててください】
(了解)
テレパシーでのやり取りはそこで終了したが、拡大された視界の先、盛大に巻き上がった土煙の向こう側でむくりと静かに立ち上がる二機の姿を見て、本当は“やりたくないんだけどなぁ”などと内心で考えつつもハルは翠煌に向けて感謝の言葉を呟いた。
「翠煌……なんつーか、“時季外れのクリスマスプレゼント”をもらった気分だよ」
『それはよかったでござる。それよりも……』
「わかってるって、パワーチェック」
『はい?ぱわぁちぇっく、でござるか?』
「ああ、ゴメンな、いつもの癖で……残りパワーはどれくらいある?」
『なるほど。そういうことでござるか……残存ぱわぁは98ぱーせんとでござる』
なるほど……パワーの減りが予想以上に少ない。これなら、“アレ”ができるな……
心の中で考えていたアイディアが実現できそうで、不謹慎ながらもわくわくして来たハルはテンション高めの声で翠煌に声をかける。
「OK!じゃあ翠煌―――ここってさ、俺にとっては家みたいなものだろ?」
『はい、確かに……今の主がそう思っておられることはわかりまする』
にやりと笑い、翠煌に俺のアイディアを明かした。
「じゃあ、せっかく来てくれた
翠煌は俺の言葉の裏に隠された真意にすぐに気が付き、顔文字付きのウィンドウで賛成する。
『( ̄ー ̄)ニヤリッ なるほど―――以前仰っておられた、“アレ”をやるのでござるな
……任せてくだされ!』
その瞬間、土煙を切り裂いて再びのレーザー攻撃が飛来する。
先ほどは圧倒的な脅威に感じたそれを、臨み。
ハルはイメージした―――自分と共に戦う“戦士の姿を”
「ちょっと時期外れだが……“クリスマス・パーティー”でも始めるとしようか」
その呟きと共に緑色の戦士たちがハルの前に現れ放たれた光条をはじき返す。
鋼の鎧が七機。大きさもまちまち、姿かたちは似ているが、よく見ると微妙に違う。
その手にはただの一つも武器を有さず、感情を感じさせぬのっぺりとした鉄面皮で静かにたたずむ戦士。
かつて、ここではないどこかで―――自分の成したことの責任を果たすために、人類を新たなステージに導くための道しるべを示そうとした男。
人は彼の事をこう呼ぶ。
天才
狂人
SUPERHERO
しかし、その本質は―――
彼が生み出した分身ともいうべき存在。
鋼の鎧に、ありったけの先端技術を詰め込んだ、人の次なる可能性。
それを彼は“
『なんというか、変な気分でござる。拙者自身が分身したような……』
「すぐになれるさ。翠煌、ターゲットはISのコア反応だ。―――“容赦するな”」
『かしこまりましてござる!』
ハルはゆっくりと右手を掲げ、ぱちんと小気味の良い音で指を打ち鳴らす。
「叩き潰せ」
敵にとっては残酷ともいえる、攻撃開始の合図を。
重力を振り切る様に七機が黒いISに向かって同時に突っ込んだ。
|ほとんど違いの見受けられない双子のような二人《マーク2とマーク3》が自分よりもさらに巨大な黒いISを後ろから羽交い絞めにする。
呼応するように、その二人からすると
『ふむ……さすがに思う通り、とはいかないでござるな』
その翠煌のコメントと同時に、黒いISが羽交い絞めにしていた二人を腕を振り回し、力に任せた強引な挙動で引きはがす。
『しかし……上方注意、とだけ言っておくでござるよ』
その行動を待っていたかのように上空で待機していた、三人が“おもてなし”を始めた。
|胸に刻まれた逆三角形のモジュールが特徴的な一人《マーク6》がその胸から放たれた太い光線で
|前世帰りでもしたかのように体の各所をマッシブにした一人《マーク7》が先ほど放たれた弾幕よりもはるかに濃密なそれで弾幕を形成した。
その炎の雨が過ぎ去った後―――わずかに機体装甲に傷を作った以外に目立った損害のない二機が現れた。そのまま三人に向かって突撃し、互いが互いの有利な状況を作ろうとする
『うむ……やはり“拙者一人では”傷をつけることも叶わぬか―――しかし!』
地上に残っていた4人が上空で繰り広げられる戦いに身を投じるために舞い上がる。
『主の邪魔はさせん!!』
一瞬だけ、翠煌は意志の力と思考を切り離し“黒幕との対話”に望んでいる自分の主を偲び、再びドックファイトに集中した。
対話、いや……交渉が成立するにしろ、決裂するにしろここで敵を逃すわけにはいかないのだから。
□ □
彼女は焦っていた。最初は“あの子の調査”という簡単な目的だけだったはずなのに、予想していなかった人間が、予想外の行動をし、そのせいで思考していたすべてのプランが崩壊してしまったからだ。
「いやぁ……さすがの束さんにも、全っ然っ!予想してなかったよ~」
指先は高速で空間投射式キーボードのキーを叩き続け、瞳は貪欲に“ゴーレム”から送信されてくる情報を吸収し―――脳が高速で回転する。
「まさか、束さんの仕掛けたロックを解除して“真の形”になる子が現れるなんてねぇ」
ぼやく言葉もそのままに、彼女は大きな空間投影ディスプレイに投影された映像を望み……違和感を覚えた。
おかしい、なぜ“pg-02と03”はすぐに破壊されない?
あれだけたやすく“pg01”を無力化したんだ。
同型機に過ぎない二機も一瞬で叩き潰せるだけの力を持っているはず……まさかっ!
その違和感にこたえるようにスピーカーから無機質な合成音声が飛び出した。
【始めまして、私はグリーンランタンと申します】
「君は―――どうやって……そうか、pg01のコアを使ったんだね」
刹那の黙考で正解を導き出した彼女を称賛するようにその声は彼女以外の誰かに言葉を投げ渡す。
【なるほど―――ハル、どうやらあなたの正体もお分かりの様ですよ。これでは私の話す意味はありませんね】
【わかった。これからは俺が話そう】
「君が……初めまして、とでも言っておこうかな?」
束はまだ、幼さを感じさせる少年の声にむけて挨拶を投げかける。
しかし、帰ってきた反応は……ひどく、冷淡なものだった。
【ええ、実際に会うのは初めてですね……篠ノ之博士。こんなことになってしまって残念でしょうがありません】
「なにが、残念なのかな?」
【この手で―――箒ちゃんの姉である、あなたを逮捕しなければならないからです】
「この束さんを逮捕?君が?…………笑わせるね」
【じゃあ、今すぐあのアリーナのISを叩き潰して、其方にお邪魔しましょうか。気づいておいでかもしれませんが、俺が捕えると言った以上―――それは確実に近いです。今なら手がかりもありますからね】
束は言葉をハッタリではないとすぐに理解した。なぜ残された二機のゴーレムが破壊されないのか、その答えが時間稼ぎに過ぎないとわかってしまったからだ。
「じゃあ、逮捕した束さんをどうする気?某国の研究機関にでも引き渡すの?」
【いえ、貴方は―――監禁します】
「IS学園で監視されているキミの立場でそれができると思ってるの?」
【はい、それくらい訳はないです。貴方を普通の人間から認識できなくして、拘束するだけで済みますから】
「それだけの力を持ってる、っていうわけだね……いやぁ……これは詰んだかな?」
束はすべての行動をやめ、どっしりと椅子に体を沈めこまさせた。
【ですが……一つだけ、貴方を助ける手があります】
「それは?」
【以後、彼らに対する一切の干渉をやめ、表舞台にも出てこないでください】
「それだけは無理だね―――“絶対に”」
【なぜですかっ!】
束は先ほどまで勤めて冷静な口調だった彼の豹変に驚き、少しだけ眉を顰めて、内心でハルの事を哂った。ああ、この子は“私と違って善い子なんだな”と。
「理由なんてないさ。ただ束さんにも譲れないものがある……それだけだよ」
【…………なら、交渉は】
「ねぇ、加藤陽君。束さんからも一つ提案があるんだけど、聞いてみる気はないかい?」
そうして彼女は囁く。―――善い子を誘惑する魔女の甘言のように。
【―――提案とは?】
その言葉を聞いて、彼女は確信する。彼、加藤陽は―――私の提案を受ける、と。
だから、抑えることができなかった。嘲弄と愉悦、そしてほんのわずかばかりの後ろめたさが込められた笑いを。
「君の進化した専用機……いや“君の力”を解析させてよ」
【なっ……貴方は自分がどういう立場か理解していっているのですか?】
「うん、君が白騎士事件の時の奇跡の立役者でしょ。ああ……あとNYのも見てたよ……すごいパワーだったね」
【ハル、私は反対です。あまりにもあからさますぎる】
再び、声が無機質なモノへと変わる。なるほど……彼にはIS以外にも自分をサポートする存在が付いているんだね、と感心しつつ束は無言を貫いた。
きっと、私の想像道理なら―――
【いや……悪いが、スプー。―――俺はその提案を受ける】
【ですが!】
【彼女の行動を抑制できて、かつこちらにもメリットはある。わかってるよな?俺たちはなりふり構ってはいられない、っていうことは】
【…………わかりました】
「相談は終わったかい?」
【ええ、聞いていた通りです。ただし―――この約束が破られた場合】
「わかってるよ。そんなことはしないさ。でも、最初は白式の性能チェックのつもりだったんだけど……とんだ逸材が飛び込んできたもんだ。まぁ以前から“興味は持ってたんだけど”―――」
おどけるように言う束に、ハルの苦虫をかみつぶしたような声がさえぎった。
【一つ、聞いておく必要があります。なぜ“ISを創ったんですか?”】
「“必要だからさ”」
彼女は先ほどのおどけた声から一切の感情を消した声色で答えた。
【いいでしょう。ただ―――俺たちがあなたの思い通りに動くとは思わないことです】
「肝に銘じておくよ」
束は脳内でハルの評価を少し改めた。確かに彼は“甘い”様だが……必要なら非情になることもできる、それだけの覚悟を感じる声だったから。
きっと、彼は私がどんな手を使って制御しようとしても“それを蹴散らす自信がある”のだろう。
面白い。それだけの力があるのなら“彼を”……あの人を……
っ!……だめだ、まだ堪えろ。
【では、いつ接触しますか?】
「…………ああ、ごめんごめん。たしかIS学園には7月に林間学校があったよね。そのとき会いに行くよ。それまでに束さんもやることがあるし」
【―――いいでしょう。それじゃあ、ここにいるISはこれから指定する座標に転送させます】
「へぇ……そんなこともできるんだ」
【ええ。ですから、ちゃんと迎えに来てあげてください】
「おっけー……会えるのを楽しみにしておくよ、“はるちゃん”」
【―――その名で俺を呼ぶな】
ひどくドスの利いたその声を最後にスピーカーは押し黙る。
しかし、彼女はそんなことなど気にも留めずに堪えていた笑いを解き放った。
「ぷっ……あははは…あははははははは」
そして、彼女以外には有機生命体の居ない部屋に笑いが響き渡った。
「やった……これで―――守れる」
ずっと、長いという言葉さえ陳腐に聞こえるほど長く
□ □
“戻ってきて”すぐさまハルは湧き上がるいら立ちを抑えることができず、口から悪態がこぼれた。
「………クソッ」
『主?』
ハルは、心配してウィンドウを表示した翠煌に気が付き、自分の腹の底に渦巻く怒りに再び蓋をして努めて冷静に答えた。
「―――すまん、翠煌。お前たちを……」
【まったくです。あのアマはきっと利用する気満々ですよ。私たちも、彼らもね】
『主のそのお心だけで十分でござる。
それにまだ彼らは“それを感じることさえできませぬ”ゆえ』
【今度実際に在ったら私たちに隠し事などできませんから、しっかりと問い詰めましょう。彼女の言う“必要な理由”とやらを】
「はぁ……そうだよな。過ぎたことは悔やんだってしょうがない」
畑違いな話だが、腹の底にたまったいら立ちを吐き出すように翠煌の操るアイアン・リージョンとドックファイトを続ける二機の黒いISを睨む。
イメージするは槍。確実に目標を捉え、光の速さで敵を貫く最速の槍。
開いた両の掌にソリッドライトが集まり形を成す。
「だから、これは“餞別だ”―――」
そして、宣言と共にそれを投げつけた。
結局何もできない自分へのいら立ちを込めて。
めまぐるしく立ち位置の入れ替わるドックファイトの最中。その緑の光は幾何学的な軌跡を描き、正確に二機のISを貫いた。イメージ通りに。
『これで終わりではござらぬよ!!』
黒いISに突き刺さったはずの光の槍はさらに速度を増し、地面に二機のISを串刺しとした。ハルは、そこに向けて自身の持っていた首をおもいっきりブン投げた。
【さあ、盛大にお願いしますよ。あのアマがビビるくらいにね】
イメージしろ。描くは宇宙が生み出す超自然的現象。
イメージしろ。黒く、ほかの一切の存在を許さぬそれを
イメージしろ。星を喰らう天体の姿を
イメージしろ。光さえも逃げ切れぬ重力の檻。
イメージしろ。“ランタンの力をもってしても圧倒的に劣化した贋作にしかすぎぬ”
それの名を―――
「―――とっとと、“自分になって”きやがれッ!!」
―――ブラックホールといった。
刹那、という時間さえ長く感じるほどの一瞬だけ、それは現れた。
極めて高密度かつ大質量で、強い重力のために物質だけでなく光さえ脱出することができない天体、ハルの創り出したその天体は模造品というのもおこがましいほどのひどいものだったが……その短時間でさえその場に重大な被害をもたらした。
一瞬のうちに黒いISが消失した。
その半径10mほどのアリーナの大地、空気、粒子、原子といった目に見えぬ物もすべて含んだ空間自体を抉り取る様にまきこんで。
刹那、という時間さえ長く感じるほどの一瞬たったそれだけの時間で、だ。
だからだろう。その現象はこの世界の限られた人間にしか認識できず、一切の痕跡も残らなかったため調べ上げられることもなく、それに伴い太平洋のとある場所に同じ反応があったことも認識されること無く、ハルはただ単純にアリーナ全体からの歓喜と感謝のこもった歓声で迎えられられたのは。
しかし、いまだ彼の心は曇り空のように淀んでいた。
(もし、仮に“彼らが彼らとなる”ことができたとして……人類はそれを受け入れることができるのだろうか?)
そんな、血なまぐさい戦いの有様がイメージできてしまったからだ。
しかし、その瞬間。来るかもしれないIFに対して
「この―――ばかぁぁぁあああああっ!!!」
「へっ?…………げふぅぅぅぅうううう!?」
なぜか消失したアリーナの遮断シールドを、自身の専用機で飛び越えそのままの勢いでハルに突っ込んでくる彼女。その声を聴くまで気が付かなかったハルには避けることさえかなわず、激突された。
た、楯無さん?なんで―――ッてそれよりも!!
イメージする。衝撃を殺す、柔らかいもの……具体的に言うとすごいクッション。
創り出したそれが衝撃に押されてぐにゃりと歪み、俺ととほぼ同サイズの翠煌とそれと比べて一回り大きい
いきなりの事でさっきまでのブルーな気持ちなど、どこかに吹っ飛んでしまったハルが、口調を荒げて抗議する。
「何してるんですか!危ないでしょうが!!あなたは、女性なんだからもっと、体を大切にしてください!!」
「こっちのセリフよ!!」
すぱーんと小気味の良い音と共にハルの頭が思いっきり打ち据えられる。
「何するんです、痛いじゃないですか!」
「さっき言ったでしょ、“お仕置きする”って……ほんとにバカなんだから」
「うっ…………」
ハルは、先ほどの剣幕と学園を去る気だった自分がやらかしたことを思い出し、思わずばつが悪くなって視線をそらそうとする。
「人の話の最中に、目をそらさない!」
楯無に顔ごと掴まれて物理的に、視線を固定されることとなったが。
「まったく、ISの搭乗者保護機能にあんな機能まであるなんて、世界初の発見なのよ?それが無かったらどうなっていたか……」
しかし、ハルはその楯無の声がなぜかうれしく感じた。少し遠くから一夏と鈴の声も聞こえてくる。特に一夏の顔は今にも怒鳴り出しそうなほど怒りに満ちている。
これから、楯無さん、一夏、もしかしなくても織斑先生、きっとおまけに山田先生、もしかするとジョーイ先生の5人から説教地獄が待っている、とわかっているのにハルの心は、先ほどのブルーな気持ちなど、どこかに行ったかのように晴れ晴れとしていた。
そうだ―――俺はこの場所を……平穏を得ることを選んだ。
だから……“俺は、俺のまま”使命を成し遂げる、いや……成し遂げてみせる!
篠ノ之博士が俺達を罠にはめようとしようが
俺を忌み嫌う人々がいようが
そんなことは関係ない。
俺が、俺のことを信じてくれる人たちのために闘う。
その果てに、何があろうと俺は自分の信じる最善の道を突き進む。
「ハルくん……聞いてる?」
「ハァァァルゥゥゥゥッッ!!」
そんなハルの決意を後押しするかのように
空は青々と澄み渡っていた
ドーモ、読者=サン。めんつゆデス。
大変長らくお待たせした上に、あとがきも後からの追加となってしまい申し訳ありませんでした。
さて、24話の解説なのですが……なんというか、ホントは裏話なんてする気が無かったんです!!
ただ、なーちゃんはアホハルのキチガイ行動見てどう思うんだろうな……なんて考えてたら、なーちゃん視点も入れるべきだなんて思いついちゃって。
そしたら、多分楯無なら、天災と自分の実力差も理解してその上で、使える手を使うんだろうな、とか思いついちゃって……そしたら簪ちゃんまで出てきちゃって(ちなみに出番はタッグトーナメント時だった模様)
墓穴を掘る様に長くなってしまった次第です。
もともと、やりたかったことは打鉄が再誕して、翠煌へと昇華させる。
この辺は結構、できたかなと自己評価してます。まだ、機械だと自己を定義しているために、心を認識できない打鉄が、ハルの愚かな行動を目の当たりにし、それに対する普通に人の反応を見て、自分の意志で変革を望む。
そんな心を表現するようみ気をかけてみました。
今まで良いとこなかったハルの活躍シーン、だったのですが……またここでも問題が……何でもできる、ソリッドライトの描写が難しすぎる―――絵にするとすごい映えるのに文章に起こすのがとんでもなく手間取りました。
ちゃんと、すごさが伝わっているといいのですが……こればっかりは描写の技術を向上させる以外にありませんからね……精進します。
更には、天災さんとちょろあまハルも接触させましたし……正直詰め込みすぎましたかね?
次回からはもう少し文章量減らして、スピードを上げつつテーマを減らすことを目標としたいですね。
さて、次回の投稿なのですが……スピードを上げる、と言ったくせにすみません!多分一カ月ぐらい先になりそうです(-_-;)
理由は単純、細かいプロットができてないからです。
基本的にめんつゆは大プロット(本編の大まかな流れ)→中プロット(その話でやることの詳細)→小プロット(話の肉ずけ、入れたいセリフなどの立案)→本編を書き出す、と言った流れが最近なってうまく書けるようにできてきた法則です。
ですが、現在中プロットのストックが終了しました(涙)ですので、次の話……具体的に言うとタッグトーナメント終了くらいまで中プロット、小プロットの作成に入ってから本編書き出します。
やっと、こぎつけたデート回なのに……めげてたまるか!
と、言うことで気長にお待ちいただけると幸いです。
では本日のネタ紹介!
>スーパーヒーローとヴィランの境界線
これはバッツがオマーシュ元です。
アンダー・ザ・レッドフード、という作品です。かなり面白いので調べてみるのもおすすめですよ。
>打鉄に話しかけてきた謎の男
さ、さあ……誰なんでしょうね(震え声)サッシの良い方はすでにわかるかも……しかし、まだわからない読者の皆様のために感想欄でのネタバレはご勘弁を!!
>リヴァース
お前は強いのか?―――ヤバイ、抑えろ俺の中のヴォイドをwww
というのは冗談で、文字面がきにいったのが採用基準でした。最初はエヴォルト(進化)とか考えてましたが、新しく生まれ変わる、という感じから再誕、という漢字にしました。
>シリアス、よりシリアル
ギャグはシリアスをぶっとばす―――これは真理です。
>拙者のステージでござる
ここからは俺のステージだ!!\(\メ/)/
顔文字には無理があるが、現在絶賛放送中の仮面ライダーの決め台詞。
>MO・GE・RO!
はい皆さんご一緒に、MO・GE・RO!!
>謝罪と賠償を……
それ以上はいけない!
>盾
初期案では盾をキャップのモノ、次にムジョルニア(ソー)、ラストでアイアン・リージョン(アイアンマン)とマーベルビック3ネタで行く気がしましたが、そこまでやるとNYの件との関係疑われて、怪しまれるかな……と思い却下。
>バッター
アメコミでは鉄板ネタらしい。困ったらやらせるという感じ。というか国民競技だからか?
>アイアン・リージョン。
アイアンマン3をイメージしていただけるとわかりやすいかと、ただ使ったのはマーク1からマーク7までの旧式機ですが。
>マイクロブラックホール
グリーンランタンの力がいかにヤバいか、という表現のために登場させました。
正直、マジで使ったら地球に重大な影響が出るとか、そもそも作れなくね、とかツッコミはご勘弁を。
そういうチートですので。
ちなみにハルはこの現象を一種のワームホールとして使ってコアを逃がしました。
こんな感じで失礼します。
いや、今回も長くなってしまった……
感想、誤字脱字報告、ご指摘、読了宣言など、いつでもお待ちしておりますので気軽に書き込んで行ってください。
では、失礼します。
追記 誤字脱字修正終了しました―――本当に指摘してくれた童虎さんには感謝しか申し上げられません<(_ _)>