恐れを知るものは、無限の空を目指す   作:めんつゆ

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 第25話 「ハル、らぶらぶ(爆)でぇとのはじまり」

 

 

 

 六月第一週の日曜日。赤、オレンジ、ピンクetc.―――この日のために必死に頭を捻ったことが想像から難くないほど、あでやかで色とりどりの勝負服に身を包んだ男女が行き来する繁華街の駅前に、どう見ても場違いな一人の少年の姿があった。

 

同年代の少年たちからしたら少し長めの脚を覆っているのは“どこかで見覚えのある”白いズボン。ちらりと見ただけで、まだ着こなしきれていないオーラがあふれている。

 

インナーとして着込んでいるのは、卸したてだとわかる真新しいTシャツ。しかし、そのチョイスは……最悪だ。

小さい子供が着るような、なりきりTシャツともいうべきベルトにポーチなどがプリントされたそのシャツは少しサイズが小さかったのか、彼の筋骨隆々と表現すべき肉体に押されてぴっちりと窮屈そうには肌に張り付いている。

 

 トドメとばかりに上着として羽織っているのは、地味で年季を感じるダークグリーンのジャケット。

くたくたにくたびれていて、少し袖の所が色落ちしているという、オマケ付だ。

 

 

 そんな周囲から浮きまくって、道行く人々の注目を一身に集めている彼は、そんな視線など気にも留めずポケットから取り出した携帯で時刻を確認する。

無感動なデジタル数字は待ち合わせの時間まで、まだ十分近くあることを彼に教えてくれた。

 

「さて……このまま十分間、ただつったって待ってる……っていうのも何か落ち着かないな」

 

 ぽろりと口から漏れた独り言に、呼応するように彼の耳元でしか聞こえない絶妙な音量で彼の相棒が話を切り出す。

 

【そうです。ここはバラの花束の一つでも……】

「いや、バラはないだろう……っていうか、いきなり話しかけるなよ。びっくりするだろうが」

 

 彼はつい先ほど時間を確認した携帯を再び取り出すと、“通話をしているかのような自然なしぐさ”で耳を携帯に当てる。

そして、通話ボタンの押されていない携帯を通して自らの右指に収まった相棒に話を切り出した。

 

 

「……それでスプー。なんでいきなりバラの花束なんだ?」

こういう時に(デート)プレゼントは必須のモノでしょう。】

「でっ!で……デートじゃなくって一緒に映画を見に行くんだ。いいか……これはデートじゃない、映画を見に行くだけだ、映画。うん。オッケー」

 

 自分に言い聞かせるように言ったことを繰り返す自分の相棒に、呆れて次の言葉が出てこなくなったスプーは、仕方が無く同意の念を示して話を逸らす。

 

【はいはい、そーですね。今日はデートじゃなくって映画観に行くだけですからね】

「そそそぉうだ!落ち着くために……こ、コーヒーでも飲もう!」

 

 彼女に会う前からすでに一杯一杯と言って風体の相棒の

 

【ハル、やめておきなさい。今朝もそう言ってコーヒー飲めないくせに食堂で頼んで、後で死ぬほど後悔してたじゃないですか】

「だ、大丈夫だ。かかかうのは缶コーヒーだから」

【それで、うっかり指が滑ってブラックコーヒーのボタンを押してしまう、と?】

「…………………」

【……そうですね。話を変えましょう。ハルあなたは今の状況についてどう思います】

 

 その瞬間、先ほどまで慌てふためいていた彼の雰囲気が一瞬で別人のように変わる。

 

「“おかしい”、かな」

【やはり同意見ですか。打鉄が翠煌へと進化を果たした、あのクラス対抗戦からもう二週間も経ちますが、異常なくらいに私たちの生活は穏やかです】

「俺や一夏たちがメディカルチェックを受けている間に、あの人―――国際IS委員会、監査委員“マチス・マローン”氏が発表した声明、のおかげだっていうことはわかる」

【はいですが、それでもここまで世間からの追及を逃れられるとは……裏があることを感じてなりません】

 

 ハルはいったん会話を切って少しうつむき、考え込むように口を閉じた。

そんな相棒をよそにスプーは、捲し上げるように怪しい点を挙げていく。

 

【それに、クラス対抗戦が中止になってから“1日も経たず”にISが搭乗者保護機能の一環として生体再生を行う、という実証データを発表したのも怪しさ満点です】

「……」

【そんな、実証するのに時間と金のかかりそうな実験をしておいて、立証に成功した結果を今まで秘匿していたことには、何かしらの意図を感じてなりません】

「…………」

【第一、あの男は事件が終わってから直に学園を離れましたが、それ以降に来島した外部の人間はあの男の派遣した特別調査チームだけ】

「………………」

【世界で唯一のIS搭乗者育成機関、IS学園が襲撃を受けたというのに、報道機関は完全に沈黙を続けたまま。“明らかに何かしらの情報操作をされています”】

 

 ずっと目の間に立ちふさがっていた、問いを解くためのヒントが見つかったかのようにハルは顔を上げスプーの話に乗る。

 

「そう、そこなんだ。今まで調べてきた情報からしたら国際IS委員会の権威というのはそこまで大きいものじゃない。だというのにこの情報操作の手際はなんだ?」

 

 人の口に戸は立てられぬということわざがあるくらい、噂はものすごいスピードで伝染する。それが衝撃的なものであればあるほどその速度はより速くなるものだ。

だからこそ……情報操作という物は非常に難しい。それもスプーがやっているハッキングのように電子的情報を改ざんしてそれで終わり、というわけはなく情報伝達の手段(携帯)を持った1000人近い観衆が自分の目で確認している、衆人監視の中での出来事を情報操作で何とかできるはずがない。

現に、時たま一組を訪れているほかのクラスの観光客の興味を俺は完全に失っている。

その分、もう一人の一夏が注目されているようで……おっと、話がそれたな。

 

学内でこれだけ俺の噂が駆け巡っている、ということは学外にこの噂が流出した場合、この比はない混乱が起こる。そしてそれに乗じて俺への干渉が増えるということがたやすく想像できていた。

 

―――単純に翠煌自体を欲する奴、それとは逆に俺の身柄を欲する奴、俺と翠煌の両方を欲する奴。

間違いなくそういったやつらの接触が増える、そう確信していたのだが……

 

「どういう手段を使ったのかはわからないけど、あの事件がIS学園外に漏れているようには見えないんだよな」

【その通りです。膨大なインターネットの情報をいくら洗っても、そんな事件があったという噂さえ流れていませんでしたね】

「今俺が学園外に出てきていることだって、違和感バリバリだ」

【あの男か、それ以外の誰かか……どちらにせよ何かがあるとみて間違いないでしょう。しかも、ここに翠煌はいません。貴方を狙う人間からしたら、鴨がねぎをしょってやってきた、というところでしょうか?】

 

 スプーの言葉にハルは、少し表情を濁らせて肯定した。

 

「たしかにな」

 

 ハルの指が無意識に、携帯を握っていない左手の親指で人差し指を撫でる。いつもなら、そこに収まっているはずの何かと会話に混ざりたがる自分以上に世間知らずの、硬い感触はそこにはない。

当然だ。今も翠煌はIS学園で一人、調査という名目で研究者の目にさらされている。

 

「翠煌、ひどい目に合わされてなければいいんだけど……やっぱり―――」

【俺も学園に残っていればよかった、ですか?】

「……………」

 

 図星を刺されて黙り込むハルをたしなめるような口調で、スプーは事実を繰り返した。

 

【今日ここに来る前にさんざん翠煌から釘を刺されたのをもう忘れたのですか?】

「いや、忘れたわけじゃないけど……」

【あなたも言っていたではありませんか、彼の連れて来たスタッフは優秀だと】

「いや、それはそうなんだけど、偽装って線もあり得るじゃないか」

【で、仮にそうだった場合どうするんですか?翠煌を奪取でもします?あなた以外には動かせない上に、コアの消去もできなかったあれを?仮に解体してからの技術解析が目的だったとしても、“あれ”がそんなにおとなしくしているタマですか】

「いや、翠煌がそうだとしても、何かあったら……」

【貴方はこれから嫁に行く娘を持った父親ですか!?そんなことを考える脳のリソースがあるのなら今日のデートのことでも考えておきなさい!!】

「ででででぇぇぇとって!!だから、デートじゃなくって―――」

 

 

 瞬間湯沸かし器のように真っ赤になったハルが、反論しようと口を開いた瞬間

 

 

「ごめーん!!ハルくん待った?」

 

 彼女の声がハルに耳に突き刺さった。反射的にその声が聞こえたほうへ、ぎこちなく顔を向ける。

そして、移した視線が彼女―――更識楯無の姿を捉えた。

急いできたのか少し頬に朱色が付いた顔。

彼女の髪の色と同じ、薄い青を基調としたコントラストの美しいワンピースが少しラフな感じを受けさせ。

何時もの制服と同じはずなのにワンピースの下からするりと伸びた美しい足を覆ったタイツ姿が大人の色気を感じさせる。

トドメとばかりに、頭にちょこんと乗せた黒い帽子が小悪魔的なかわいらしさを強調させる。

そんな、彼女の今時の女の子らしい、“デートを前にして”気合が入りまくった出で立ちをみたハルは―――

 

「ハルくん、どうかしたの?そんなに汗ダラダラ流して?」

「………………」

 

理論武装して作り上げた壁を一目見ただけで粉砕され、女の子と初めて話すコミュニケーション障害者のように、先ほどから真っ赤にしていた顔をより赤くして全身の汗腺から汗が噴き出した。

 

【…………DT、乙!!】

 

 完全に硬直しているハルの脳内に相棒のテレパシー(ツッコミ)が響き渡るが、その程度で動じるほど、DT力は甘くなかった。

しかし、状況を整理しようとするあまり、真っ白になって動きを止めてしまった彼の体はすぐに覚醒させられることとなる。

ほかならぬ、彼をフリーズさせた張本人の手で。

 

「あ、わかった!あんまりお姉さんがきれいなもんで見とれちゃってるの?いや~私って罪なオ・ン・ナ♡」

「…………………」

【……本当にめんどくさい人ですね。ハル、いい加減そのスカスカの脳みそ動かしてください】

 

 楯無のからかいも、届いていないハルに呆れたスプーが呟く。

 

【まったく、デートごときでこの有様とは……さすがはへタレですね。さて……】

 

 どうやって、このへタレを動かしますか、スプーがそう自答するように続けようとした言葉は、少しむっとした顔の彼女によってさえぎられた。

 

「ハルくん。善は急げ、よ……さあ、行きましょ!!」

 

楯無はその言葉を体現するかのように、ハルの空いている左手を取り引いて歩き出した。

その不意に訪れた、自分のものとは違う人肌の温かさがハルを取り巻いている混乱から一発で解き放った。

 

「へ?」

 

 なすがまま、手をひかれてゆっくりと歩き始めている自分の体を省みて、ハルの口から間の抜けた声がこぼれだした。

 

「さ、まずは映画館に行くんでしょ?」

「はい。そうですけど……って!」

 

 自分がまるで子供のように彼女に引かれていることに気が付いたハルは、少し歩調を速めて楯無と並ぶように速度を合わせた。

 

「ちょっと!た、楯無さん。俺、自分で歩けますから!その、手を………」

「ん?何、きこえないなぁ~~」

「だから、手を離して…………」

「うふふ、真っ赤になっちゃって……ハルくんはうぶだなぁ」

 

 いまだ携帯を握ったままの右手でスプーが内心でぼやく。

 

【このDT、女の色気にコロッとやられてしまって……これだから童貞は仕方がありませんね。】

 

 その声色には、あきれつつもこの状況を楽しんでいる彼の思いが確かにこめられていた。

 

【さて、あとは……“彼”に連絡をして一応の仕事は終わりですね―――あとが楽しみです】

 

 その言葉と同時に、とある少年の携帯にメールが送られる。内容は一言。

 

動いた

 

それだけで、今日が終わった後のおかしい話のタネができるというのもだ、と彼は誰にも聞かれない心の中で呟いた。

 

 

           □                 □

 

 

「……なんで、アタシはせっかくの休みにこんなことしてんのよ」

 

 彼女の不満げな一言は誰にも聞きとられることも無く、大勢の人が行きかう雑踏の中に掻き消えて行った。

彼女の眼差しの先には、どこで仕入れたのかわかない最新鋭のハンディ・ビデオカメラを糧に握って、身に纏った学校の制服があからさまに周囲から浮いて目立ちに目立ちまくったバカな思い人の姿が(一夏)

 

(なんでアタシはこんな男に惚れちゃったんだろ……いや、そんなことより……どうしてこいつは……)

 

 彼女はじっとりとした半目で左右をゆっくりと流し見る。

 

(コイツらにも声かけてんのよ!!)

 

 そこには、動きやすさを重視しながらもわずかに添えられたフリルがかわいらしさをアピールしている箒、そして、ロングスカートをしっかりと着こなし清楚な雰囲気を保っているセシリア―――自分と同じ男を好きになった女(お邪魔虫)の姿がそこに在った。

 

(ど う し て こ う な っ た )

 

 思わず、おとといのことを思いかえす。

確か……今週の金曜、一夏から「日曜日、一緒に出掛けないか?」と言われたのが始まりだった。

いきなりの一言にその日の授業に全然身が入らなかったり、丸一日かけて手持ちの少ない服から精一杯のおしゃれを考え出したり、一夏の事だからどうせ行き当たりばったりだと思ってデートコースを調べたりした結果が、あそこのファッションセンス、っていう言葉の後ろに草か(笑)がついてるような親友の出刃亀ですって!!

あ、アタシの努力って……

 

 ふいに、自分の肩を叩かれてそちらを向くと、死んだ魚のような目をした箒がゆっくりとうなずいた。

その目がありありと語っている。

 

―――この阿呆に、期待した私たちがバカだった、と……

 

 見れば、セシリアも同じ目をしてこちらを見ている。いつもなら輝くほどきれいな金髪もどこかくすんで見える。

 

ああ、アンタらも“そう”だったのね……

 

 いつもなら、一夏をかけて日々相手を出し抜こうと熱い火花を散らしているアタシ達の間に生温かい空気を感じる、えもいわれぬ一体感ともいうべきそれは、どこか心地よくいつまでも続くものだと思われた。

 

「どうかしたんだ、みんな?」

 

 このバカ(一夏)が間抜け面かかげて話を振ってくるまでは。

 

そのあまりにおちついて、何でもないかのようにふるまう一夏の顔が視界に入った瞬間、今までの不満や怒り、やるせなさと共に“ぶちっ”という何かが切れる音が聞こえた気がした。血液が沸騰して顔が真っ赤に染まる。

 

「どうした、じゃないわよ!この……………」

 

―――とりあえず殴る、全力で殴る。後先考えずにまず殴る。

 

その一念で繰り出そうと振りかぶった右ストレートは……予想外の妨害を受けた。

 

 振りかぶった腕ごと箒が鈴を羽交い絞めにしたのだ。鈴のどうして、という驚愕と不満の込められた抗議が口から飛び出す寸前、セシリアの手で口をおおわれてしまい、鈴が発せたのは、むーむーというくぐもったうめき声だけ。

当然、怒りに満ちたまなざしを二人に向けるが、そんなことなど気にも留めずに、不思議そうな顔をしている一夏に、普段と変わらない口調で話しかけた。

 

「いや、一夏……何でもないぞ」

「はい。箒さんのおっしゃる通りですわ。それよりもハルさんが携帯を取り出しましたわよ。しっかり監視しておいたほうがよろしいのではなくって?」

「ほんとか!!」

 

 鈴を羽交い絞めにする箒と、口をふさいでいるセシリアという異様な光景にはじめは違和感を抱いていた一夏も、セシリアの一言ですぐに意識をハルの方に向けなおした。

彼の頭の中では、すでに先ほど感じていた違和感など宇宙のかなたに吹き飛ばされていることだろう。

 

再びハルと楯無のデートを覗き見することに没頭し始めた一夏をよそに、セシリアが気づかれないように鈴の耳元でささやく。

 

「鈴さん。落ち着いて私たちの考えを聞いていただける気があるなら…………何も言わずにうなずいてくださいな」

 

 鈴は瞬くような時間だけ考え込むそぶりを見せそれから、ゆっくりとうなずいた。

満足げな笑みを浮かべてセシリアが箒に目配せする。それに気が付いた箒が鈴を拘束していた力を緩めた。

羽交い絞めになっていた鈴が解放され二人のほうに瞬間、にやりした顔をして何かいたずらを思いついた子供のような顔になっていた鈴が仕返しとばかりに二人を強襲した。

 

無論二人とも、IS操縦者になるために日夜努力を続けているIS学園の生徒。そのカリュキュラムには当然のごとく無手での対人格闘術も存在している。

しかし、素早くかつあまりにも自然な動きから放たれた鈴のスリーパーホールドは、戦闘に備えているはずの箒とセシリアが反応できないほどの速さで無防備な首に突き刺さった。

鈴はそのまま二人の顔を自分に近づけるように力任せに引き寄せて、してったりいわんばかりの笑みで話を切り出す。

 

「で……なんでアタシを止めたのか説明してもらいましょうか?」

 

 小声で問いかけられた鈴の質問を、セシリアがこれまた囁くように答えた。

 

「それはこっちの台詞ですわ。こんな衆人環視の真っただ中でIS学園の制服を着た男に殴りかかると……国家代表候補生ならばどうなるか、お分かりではなくって?」

 

 痛烈なセシリアの指摘に、沸騰していた血液がすぅっと冷め頭が回りだしていく感覚を鈴は感じた。

 

一夏をここでぶん殴る→周囲の通行人(ヤジウマ)に写真撮られる→ネットにさらされる→ス キ ャ ン ダ ル 大 爆 発 →非難が中国政府のほうに来る→中国に強制送還…………そこまでの想像図が頭の中でありありと映し出された鈴は、先ほどの赤い怒り顔から一気に真っ青な顔になって、自分がやろうとしたことのヤバさに気が付く。

 

(これって国際問題になるかもしれないレベルの事だったんじゃない!!)

(というか、二人が止めてくれなかったら……アームロックなんて(こんなこと)までしておいて今更、気が引ける気がするし……そもそも、ライバルって話でもあるけど―――)

 

 葛藤している自分の心境がにじみ出ているように、体をふるふると震わせながら、バツの悪い顔を浮かべて

 

「その……ゴメン。あと、アリガト」

 

 歯切れが悪く、でもしっかりと……謝りの言葉を言い切ってからアームロックを緩めた。

それを聞いた二人は一瞬だけ、驚いたような顔を浮かべてからすぐに浮かべている表情を変え、わざとロックを解かずに女同士の内緒話を続けた。

 

セシリアが、上品な笑みで肯定する。

 

「かまいませんわ。それに……」

 

後の言葉を繋いだ箒が、ぶっきらぼうながらも優しい顔で、鈴を肯定した。

 

「私たちも、その気持ちがわかる……思わず手が出そうになったからな」

「ええ、ですがここは堪えて一夏さんへの“お仕置き”は学園でたっぷりと、というのはいかがでしょう?」

「ISを使った実戦形式の演習だと言えば、いくらでも言い訳はつくな」

 

 腹の底にたまった黒いものを吐き出すように、“イイ”顔で笑う二人の姿が、鈴にはとてもうれしく思えた。

 

「アンタたち……」

 

 思わず鈴がしみじみとしていると―――不意に通行人の話し声が三人の耳に飛び込んでくる。

 

「あれってさ……ニュースでやってた、“あの彼”じゃない?」

「え~。ただのコスプレじゃないの?」

「そうかな?」

「そうじゃないの?気になるなら声かけてみる?」

「う~~ん……」

 

 その話し声が三人の脳裏に危険信号を突きたてた。“このままでは面倒なことになる”と。

もう、これ以上の邪魔は勘弁、とばかりに三人は一瞬のアイコンタクトで瞬時にやるべきことを確認する。

 

とりあえずは一夏の制服を何とかしないと…………周囲から目立ってしょうがない。

あとはその間あの二人を見てることと、先回りして準備を整えておくことかな?

 

やることが決まったのなら、後は行動あるのみだ!!

 

「箒、アンタ……あの二人の監視を頼める?」

 

箒が胸を張って答える。

 

「まかせろ」

 

「セシリア、アンタは……」

「私は二人が向かうという話の映画館にさきまわりしますわ。もうタクシーは呼んでありますの?」

 

 自分の一番向いていることを瞬時に察知したセシリアが、アタシが言い終わる前に溶融たっぷりで答えた。

なら……アタシは……

 

「じゃあ、鈴頼むぞ」

「あのおばかさんを見える格好にしてきてくださいな」

「まかせといて!しっかりと、デートに見えるように着飾らせてくるから!!もちろん―――手早くね!」

 

 三人は顔を見合わせて、くすりと笑うと各々の目的のために駆け出した。

 

 さあ!当初の予定とは違うけど……せっかくの休日、楽しませてもらうわよ、一夏!!

 

未だ、IS学園の制服姿でういている一夏の腕を取って駆け出す。

目指すは安さが売りのファッション・ショップ、売ってるものが安物だとしても、後はコーディネイターの腕の見せ所だ!

せっかく譲ってもらった、この役得。まずはたっぷりと楽しませてもらおうっと。

無論、時間に気をつけて、ね。

 

(それに―――正直、ハルのデートっていうのも気になるし)

 

 内心でそうつぶやきつつ、鈴は走る足を止めない。ぎゃーぎゃーとさっきから一夏の抗議がうるさいが、あとで話せばいいでしょ、と完全に無視。

サンダルを履いた、その軽快な足音が梅雨に入って一気に増した蒸し暑さを吹き飛ばす勢いで、アスファルトに響き渡った。

 

 

 古来より伝わる格言に“鹿を追う者山を見ず”という物がある。

一つのことに夢中になるあまり、他のことに注意を回す余裕がなくなることをさしたことわざである。

さて、ここで鹿というのは説明するまでもなくハルと楯無の二人の事である。

―――だが、それを追う者……“狩人”が単独だとは限らない。

 

 

           □                 □

 

 

「ね~かんちゃん……やっぱり、やめよ~よ~」

 

 彼女が今日ここに来る前から何度も繰り返している、間延びした忠告が聞こえる……ありがたいとは感じるが、聞き入れるわけにもいかず。再度の忠言は今いる人影のない路地裏を反響し、多くの人が行きかう喧騒の中に溶けて行った。

 

「………………」

 

 繰り返される彼女の言葉に、少しばかりの罪悪感を感じながらも手に持った携帯の操作を止めずに淡々と設定をこなしていく。

 

「かーんちゃ~ん。無断で家の機材持ち出しちゃって……絶っ対、絶っ対!怒られるよぉ~」

「なら……本音は帰ればいい。私は……“彼”のことを知るまで帰る気はないから……」

 

 突きはなすように言い捨てた私の言葉に彼女……布仏本音は、もともとふにゃりとしていた顔をさらに破顔させて「えへへー」と笑い、おっとりとだが引く気がないことがはっきりとわかるほど芯の入った声で再び語りかけた。

 

「かーんちゃーん。私はっ、かんちゃんの専属メイドだよ~?メイドが主の要望をかなえるのは当たり前の事、だよ」

「…………そう、なら好きにすればいい」

 

 つっけんどんに短い言葉を言い捨てしまう自分を心の底で自省する。

 

―――違う、そうじゃないのに。なんで……私は“ありがとう”って……こんなに簡単な一言さえ言えないのだろう?

やっぱり……私は……“ダメな子”で……

 

「か~んちゃん!なんで急に“彼”、ハルくんのことを興味持ったの~?」

 

 その質問で、はっとなって顔を本音の方に向ける。そこには不思議そうに首をかしげた本音の顔があった。

 

「それは…………」

 

…………言えない。これは単なる自己満足で、言葉にすることを躊躇するほど醜い嫉妬で。

 あれだけ“優秀なあの人”と……普通に接することのできる“平凡な彼”に対して向けられている―――ただ、やきもちを焼いているだけに過ぎないのだ。

 

いや……違う。やきもちだけじゃない。

 

彼のプロフィール、模擬戦記録、アリーナでの記録映像などといった私の権限で閲覧できる情報にはすべて目を通しした。

だからこそ言い切れる。彼は間違いなく……平凡、と呼ばれる人間だ。

才能があるわけでも、財力を持っているわけでも、取り立てて容姿がいいわけでもない。

 

“私と同じ平凡な人間だ”

 

でも―――私と彼とはここまで違う。

 

その差を……なぜ彼がああなった原因を、知りたいのだ。

それを知ることで彼の異常性も学園に来るまでの不透明な過去も説明できると考えたからだ。

 

あの圧倒的に不利な状況で、立ち向かう意思を持つことも

仲間を守るために、死んでもおかしくない状況に身を投げ出す勇気も

激痛でショック死してもおかしくないほどのやけどを負って、それでもおれないつよさも

 

平凡な人間ならもちえるはずもない“異常”だ。

 

だから……それを知ることができれば―――

 

「ま~かんちゃんが言いたくないならいいよ~」

「…………うん。終わった。本音……」

「おっけ~~」

 

 深く答えを聞かずに話を切ってくれた本音の気遣いが、ダメな私を甘やかすように溶け込んでくる。それをありがたく思う反面、自分のダメさ加減に気持ちはさらに鬱屈となってきた。

そんな私の心境など知る由もない、本音が元気いっぱいに持っていたトランクを開けて中の機材を開放する。

 

「……対人カメラチェック、パッシブレーダー、アクティブレーダー、バッテリー残量、光学迷彩システム……全て異常なし。システム起動」

「更識試製対人調査カメラ、出撃~~~が~んばって来てね~~」

 

 ぶんぶんと軽く手を振る本音をメガネ型ディスプレイ越しに眺めつつ、リンクさせた携帯でシステムと起動させると無音で10機のユニットが空中に飛び出し、一瞬の電光を身に纏うと共に、その姿を消した。まるでそこに何もなかったように存在を消したカメラを称賛するように本音が声をこぼした。

 

「や~光学迷彩、すごいね~~」

「最新技術を惜しげもなく使った……コスト度外視の試作品だから」

 

 10機のカメラがとらえた様々な情報がディスプレイに送られてくる。

その情報を処理しつつ、簪はどこかに場所を移すことを考えていた。

 

(……このままここにいたら、怪しむ人間も出てくる。どこか屋外で、めだ―――)

 

 しかし、その思考はまたもさえぎられた。

本音が簪の腕を取って、歩き出したのだ。

 

「ちょ、ちょっと……本音、離して……」

「え~~でも~仕様書じゃあ、あのカメラってぷらっとふぉーむから出撃させた後は~AIで行動する自律行動型だったじゃないですか~」

「で、でも……」

「だったら、せっかくのお休みを楽しんでも問題ないですよね~~~」

 

 振りほどこうとしたが、家の訓練で学んだ体術関連の成績では負けっぱなしだということを思いだし、その上仕様の通りなら自分にできることが少ないことにすぐ、気が付いてしまい抗議の言葉は尻すぼみになって消えて行った。

 

「ほら~~今日はこんなに、いい天気ですよ~~」

 

 本音に引かれるまま、路地裏から人通りの激しい表通りに出ると梅雨に入ったばかりだというのにまるで夏のようにまばゆい日差しが簪のうつむいた顔を明るく照らし出した。

不意に足を止めた本音がこちらを振り返る。

 

「……本音……その……」

「な~んで~すか~?」

 

 おっとりとした口調ながらもその眼差しは真っ直ぐだ。真っ直ぐに、私に問いかけている。

 

―――あまり、自分を追い詰めないで、と。

 

その真っ直ぐな瞳を私は見つめることができない。

私に、そんな価値なんてないから。でも……何とか絞り出すようにゆっくりと……

 

「……あくまで……あの二人の尾行……だからね」

「は~~い!かしこまりました~~」

 

 そう返される前のほんの一瞬、本音の瞳が悲しみの色に染まった気がしたが、それを私には気のせいだとして、認めることが来できなかった。

再び、手を引っ張る本音に続いて私は人の行きかう雑踏の中で足を踏み入れた。

 

 

           □                 □

 

 

 薄暗い部屋の中に何重にも分割されたモニターがとある映像を映す……ハルをからかいながら映画館に向かう楯無。それを尾行する箒、服を着替えさせてほかの二人と合流するために再び駆け出した一夏と鈴、人々の波に紛れながら映画館へと向かう簪と本音、本来なら簪が受信するはずの映像も含めた―――この街に存在しているありとあらゆるカメラが明確な目的を持って彼らを追っていた。

その全ての情報を処理しつつ……一番大きいモニターに映し出された”ただ、一人の少女”に熱い視線を送る者がいたことは、ほかならぬかの者にしかわかりえぬことであった。

そして……”彼女”の口が言葉を紡いだ。

 

 

「マスター……彼らが動き出しました」

「……わかった。引き続き準備を続けろ」

「イエス、マスター」

 

 その声が何を意味するのか―――それを知る者は、まだかの者たち以外には誰もいない。

 




 ドーモ、読者=サン。めんつゆデス。

……前回投稿のスピードがあげられる(楽観視)などと言ってしまい、すいませんでした!!<(_ _)>

ほとんど一ケ月かけちゃいました(泣き)。一応、二部終わりまでの中プロットは完成したんですけど……リアルが忙しくなってきまして(-_-;)
なかなか執筆に時間がかかっている間に、ちょいスランプ気味に…………
一ケ月もかけて一万字程度とみてると残念すぎる結果で申し訳ありません。

 なんとか、更新ペースを上げるように頑張るつもりですが、また遅くなってしまうかもしれません。

ま!完結あきらめるつもりはありませんけどね!!

なんか、気晴らしに違う小説に手を出してみるのもてかなぁ……

さて、今回の内容ですが。顔見せです。
ハル・楯無・スプー組、一夏・ヒロインズ組、簪・本音組、そしてそれを監視する謎の影……次に次ぐらいでその正体が!(予定道理に行くといいなぁ)

 ハルが来ているプリントTシャツというのはこのキャップのTシャツですwww

http://www.garapa-gos.com/?pid=37521919

やっぱり、ハルのファッションセンスは死んでいる(笑)ちなみにズボンは制服ですww
まあ、実際にこんな格好でデートに来る男がいたら、出かける際に制服で出ている一夏さんほどではないですけど目立ちまくりでしょう。

あと、原作では制服で学外に出てきてたんですけど……あれってあぶなくないのかなぁ……などと思い、一夏コーディネイトのシーンを追加した次第です。

 では、今日はこの辺ですかね。これから仕事ですので。
次の投稿は、ちょっと遅くなるかもしれませんが一ケ月以内には確実に投下しますので!どうか……気長にお待ちください。

 
 感想、誤字脱字報告、ご指摘、読了宣言など、いつでもお待ちしておりますので気軽に書き込んで行ってください。

では、失礼します。
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