恐れを知るものは、無限の空を目指す   作:めんつゆ

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第28話 「ハル、同類と出会う」

 

 

 

 

 ハルは、驚きのあまり丸くなった瞳で少年をじっくりと見つめる。将来は間違いなくイケメンになることが一目でわかるほど整った顔立ち。

上質の絹を思わせる黄金色の髪。

涙でぐしゃぐしゃになりながらも、どことなく”高貴さを感じさせる”雰囲気。

 

何処をどう見ても、将来あの女泣かせ(一夏)の後を継ぎそうな少年だ。

とてもじゃないが、“人間じゃない”と急に言われても信じられない。

 

スプー、説明してくれ。何がどう“違う”んだ?

 

 すぐに脳内にある映像が投影されてきた。それは病院で目にするレントゲンの写真の様で、体のサイズからから目の前の少年のものだとすぐに見て取れる。

 

―――なるほど、これは確かに……“人間じゃない”な。

 

 納得したと言わんばかりにうなずきながら、もう一度じっくりと凝視したその画像には人間にとって必要不可欠な“肺”と呼ばれる器官が存在せず、その代わりに見たこともないような謎の臓器が収まっている。

 

【心臓やその他消化器関係はきちんと存在していますが……肺だけがあなた方人類とは異なっています。私のベータベースに無い新種の病気にかかっている、という可能性もありますが……】

 

とりあえず、テレパスを繋いでくれ。

【……だと思いました。カウント3で接続します】

よろしく。

 

 少しでも泣いている少年の警戒心を和らげようと、膝をついて視線を合わせる。

今この子は此方に視線を合わしてはいないけど、きっと急に話しかけられれば驚くはずだ。

……焼け石に水かもしれないけど。

 

【3・2・1・……now()

 

 スプーの無機質な声から、打って変わって子供らしい高い声が俺の心に届いてくる。

 

【ひっく……ちちうえ……どこにおられるのですか?……ぼくが、離れたばっかりに……お許しください、ちちうえ】

 

 ここにいない父親に向けられた謝る少年の声は、心の声だというのに泣いているように聞こえる。言葉は通じない、その上知らない人間に囲まれて独りぼっちでいるのだ。当然の事だろう……俺にできるのは、“これ”ぐらいだ。

 

初めまして、といったほうがいいかな?

 

 彼がうつむいていた顔をパッとあげて周囲を不安げに見回す。話しかけられた声は男性のものだというのに、女性である楯無さんのほうにまで顔を向けているからその狼狽ぶりはよっぽどのものなのだとすぐにわかった。

 

こっちだよ。

 

 こちらに向いた彼の瞳にあるは、あふれるほどの恐怖と一抹の警戒、そして……アクセントの様にくわえられた驚愕、俺にできることは“これ”ぐらい。

 

初めまして。俺の名前は、加藤陽。“バカ”やってます。君のお名前は?

 

 にっかりと満面の笑みを浮かべながら、心の底から湧き上る素直な言葉を投げかけた。

先ほどとは違う驚きで丸くなった彼の瞳に、俺は畳み掛けるように言葉を投げかける。

 

びっくりしたかな?驚かせてごめんね。でも、話が通じない以上、しょうがなくってね……勘弁してくれると、たすかるよ。そんなことより、君のお父さんはどうしたんだい?はぐれちゃった?だったら……

 

 マシンガンのように、投げかけられる俺の質問に、痺れを切らせた相棒がさげずむような声色で割り込んでくる。

 

【あなたの脳には脳の代わりに、何が詰まっているんですか?泥でも詰まっているんですかこのダル】

でたよ……まったくお前はいつも、いつも“いいタイミング”で出てくるんだから少しは自重、という言葉を覚えたほうがいいんじゃないか?

【自嘲?ああ、貴方が大好きな行動じゃないですかwまじワロスww】

言ってくれるじゃないかこのおしゃべりリングめ。

【ほう……“すぐに人を頼る”へタレに言われたくないですね】

お前には、立場の差というのを理解させなきゃダメみたいだな。

【いえ、理解しているじゃありませんか】

真面目に言ってるのか。

【ええ。大真面目ですとも】

てめ、そこに直れ。そのおしゃべりな口を塞いでやる。

【口を塞ぐ……相変わらずあなたは、バカですね】

やかましいわ!

【一見装飾品に過ぎない私の、“ない口をどうやって塞ぐ”というのですか?その方法を明確に提示していただこうではありませんか】

え、あ……

【さあ、立場の違いとやらを教えていただこうではありませんか】

そ、そのぉ…………

【ほら。せっかく“彼という観客を前にして”あなたの正当性を主張するチャンスですよ?】

だから………

【さあ】

えっと、だからな……

【さあ】

その、だからなぁ…………

【さあ。あ、以降そのおよびだからは禁止でお願いしますね】

………………

【良いですか少年。この状況を完全勝利というのです。よく覚えておきましょう。―――】「ぷっ…………あははははは!」

 

 淡々とした口調のスプーの声をさえぎって、少年特有の軽やかなカラカラとした笑い声が鳴り響き、彼の顔がほころぶ。

ようやく明るい表情を見せた彼に、俺の内心で喝采が上がった。

 

よっしゃ、成功。顔を見るなら笑い顔が一番、ってね。後で感謝替わりに磨いてやるとするか。

【そんなことはいいですから、早く話を進めてください。時間がもったいないでしょうが】

 

―――まったくひどい奴だろう?いつもこうなんだ。

【あの……ぼ、ぼく……?】

 

彼は、自分が笑ったことを恥じているかのように少し赤面しながら、恐る恐るといったふうに思念を送ってきた。

 

なんだい?

【あなたはいったい……?】

さっきいたとおり、“馬鹿”な男さ。それよりもなんで泣いていたのか、その理由を聞いてもいいかな?

【…………その、父上とはぐれてしまって…… 】

そっか。さびしかったよね……オッケー。あとは、俺たちに任せろ。

【えっ!?】

 

先程とはまるで違った驚きに彼の目が見開かれる。

 

【でも、僕と貴方は今日会ったばかりなのに……】

イストラクション・ワン。馬鹿()は困っている人を見捨てない。

【でも、そんなことをして貴方に見返りなんて……】

インストラクション・ツー。馬鹿()は見返りを求めない。

【でも、僕は!!―――ごめんなさい。声を荒げてしまって……せっかくのご厚意ですが、大丈夫です。僕は自分で何とかしますから。】

 

 お互いの思念波が行きかう精神世界での叩き付けるような思念波とは裏腹に、実際の彼は顔をうつむかせて表情を隠した。取り繕うようにとってつけた言葉が何かがあると俺に確信させた。

親を探す手伝いを断るくらい、“重大な何か”があるってことか。でもね……少年。

 

インストラクション・スリー。馬鹿()は助けを求める者がどんな者であっても、手を伸ばすことをやめない。

【あ、なた……は、】

ドーモ、バカです、とでも言おうかな?

【ガース。父上の御名前はアーサー】

 

 彼……いや、ガースは恐る恐る、とった口調で短く返す。

俺に対して警戒していることがすぐに見て取れる。誰だってそうだ。不安というものは影のように纏わりつき、実体のない重さとともに体を縛る。独りぼっちという状況がそれを余計に助長させている。

でも、彼は勇気を示した。誰かに助けを求める、という行動を伴って。

 

だったら、俺がやることは一つ―――“結果”をもって彼の勇気に報いる。

 

オッケー。任せときな、ガース君!君のお父さんは必ず“俺たち”が見つけて見せる!

【……うん】

 

 か細いその一言に、不安と恐怖―――ほんの僅かばかりの信頼をないまぜにした複雑な感情を感じてモチベーションが高まってくる。

 

まずは楯無さんと情報交換することから、始めるとしますか。

 

 そうさらにやる気を奮い立てるようにひとりごちると、俺は意識を現実のもとへと戻した。視界の先にはなにやら不満げな盾無さん。どうかしたのかな?

 

 

「楯無さん、どうかしました?」

 

 彼女は頬をぷぅっと膨らませて、むくれたご様子で。

 

「どうかしました?じゃあないわよ。さっきから何度話しかけても何の反応も返してくれないし。なんか時折、彼と意味深なアイコンタクトしてるし……こういう時、私はどうしたらいいと思う?」

「―――その、全面的に僕が悪かったです」

「……よろしい。で、彼の名前は?」

「あ、はい。えっと……って、なんで!?なんで俺が彼の名前を聞いてたことを知ってるんですか!?」

「だって、“バレバレだもん”。それよりもちゃきちゃき話さないと日が暮れちゃうわよ」

 

 俺がガースの名前と探すべき父親の名前を教えた瞬間、楯無さんが渋い顔をして呟く。

 

「手がかりはそれだけなの?」

「はい。……あと、強いてあげるならガース君と同じようにどことなく高貴な顔立ち、後は金髪って線が強いぐらいですけど……」

「う~ん。ちょっと、それだけの手がかりで探すのは……」

 

 楯無さんの言いたいことはわかる。正直俺だって、もうちょっと情報を聞き出したかったけど……彼は、ガースは怯えてる。自分をとりなしている今の環境全てに。そんな彼に見ず知らず俺がずかずかと押し入って無理矢理に聞き出したのが、この情報だ。

 

だから―――

 

「わかってます。ちょっと時間がかかりそうなので、楯無さんは先に学園に戻っていてください。最後の最後でこんなんになっちゃってちょっと申し訳なく思っていますが、“約束”しちゃったので」

「わかった。約束しちゃったならしょうがないよね……」

 

 僅かばかりのさみしさをにじませた顔をうつむかせた彼女に胸がちくりと痛むが、俺はやると決めたことだ。

 

翻すつもりはない。

 

「はい」

 

 短い彼女の一言と共に急に放り投げられた相棒を、落さないように慌ててキャッチすると、放物線の先の彼女は“一気呵成”と書かれた扇子を広げ、いつもの自信たっぷりな笑顔でにっこり笑って。

 

「さあ。ささっと見つけて学園に変える前にディナーとしゃれ込みましょう?」

 

 彼女の浮かべる笑顔が、俺の顔にも伝播して口角が持ち上がる。

 

「……そうですね。無論、俺のおごりってことで」

「いいの?高くつくかもしれないわよ?」

「それくらい、どうってことないですよ」

「じゃ、まずは……」

 

 そう言って、楯無さんは携帯を取り出すととある番号をコール。そして、すぐそばの茂みからピロピロという電子音。それと同時に聞こえてきたのは“どこかで聞き覚えのある”声の数々。込み上げてきた頭痛を抱えつつ聞こえてきた電子音の方に向かっていくと……その先には。

 

「ちょ!一夏ぁアンタなんで、尾行行動中に携帯マナーにしてないのよ!!」

「ンなこと言ったって、気が付かなかったもんはしょうがないだろう!」

「お二人とも、そんなに声を荒げますと……」

「セシリア。多分、もう遅いとおもうぞ」

「大体分かった。つまり、これを使ってアーサーさんを探せっていうことですね」

 

 振り返ったその先の楯無さんは“知略縦横”の扇子と共にVサイン。って……この状況も読んでいたっていうことなのかよ。あいかわず読めない人だなぁ……

 

【そんなことより、さっさとはじめないと日が暮れますよ】

「わかってるって。行くぞスプー(相棒)

 

 楯無さんから返された相棒を定位置に収め、ポケットから携帯を取り出し、自然な動きで撮影ボタンをプッシュ。その様子を見て一気に青い顔になった四人を相手取り、説得(脅迫)するために口を広げた。

 

青い顔をしているっていうことは悪いことをしている自覚があったわけだよな―――っていうことは、されている側の俺が対価を要求しても何の問題もないだろう?

なあそうは思わないか?箒ちゃん。鈴、セシリア……そして、間違いなく首謀者であろう一夏君?

 

 交渉は三分で終わった。結果、四人は喜んで協力を申し出てくれた。うん、友達って大切だなぁ……ちなみに、激写!衝撃!世界初の男性IS操縦者のただれた日常―――の写真は、世に出されることはなかった、ということだけは確かである。

 

 

 

◆                 ◆

 

 

【―――で、ついに日が沈んでしまったというのに手がかりはゼロ、と……】

「ま、まだ日が沈んだだけだし」

 

 

 すっかり夜のとばりに包まれ、負け惜しみの言葉を口にする俺にスプーが痛烈な突っ込みを入れる。

 

【そんな震え声で言い訳する暇があるんでしたら、この状況を打開するアイディアでも考えてください】

「……ごもっとも」

 

 一夏たちと合流し、無理矢理人探しを手伝わせてから既に時計の長針が二回り。手分けしてアーサーさんを探してはいるが、本人が見つかるどころか……手がかりさえもなしのつぶて、と来ている。

俺が唯一、ガース君とコミュニケーションが取れる、ということでガース君と行動を共にし、彼の体力も考えて休憩のために先ほどまでいた海浜公園に戻ってきているのだが……そのガース君の表情が、暗い。その上うつむいているから、余計に暗く感じてしまう。

 

そうさせている理由は明白だ。

 

 これだけ探して手がかりなし、だもんな。しかも日もとっぷりと暮れちまってときたら余計に不安になるよなぁ。暗い顔になっても……当然か。

しかし正直手詰まり、といっていい状況だ。マジ、どうしよう?

警察を頼るっていう手は使えないし、こんな街中でリングの能力でも使おうものならめちゃめちゃ目立つから現状では使えないと来た。それで残る手段は人海戦術しかなかったわけなんだけど……

 

「この調子、じゃあなぁ……」

【ぼやいたところで状況は好転しませんよ】

「わーぁってるって―――お、いいもん見っけ」

 

 その呟きと共に、腰を上げ“いいもの”の所にむかって軽くダッシュ。小銭を突っ込みラインナップの中からお目当ての品をすぐに見つけた俺はボタンを二回プッシュ。ガコンという音と共にでてきた“それ”を手に彼の下に戻る。

 

「スプー、繋いでくれ」

【ラージャ】

 

そして、うつむく彼に買ってきたそれを突き出す。

彼は見たことがないのか、目を丸くしてこちらに顔を向ける。

 

【……これはなに?】

 

 なかなか手を伸ばそうとしないガース君の警戒を和らげるようににっこりと笑って。俺は隣に腰を落ち着かせ、プルタップを開ける。口に含まれた液体は“あの時”とは違ってキンキンに冷えていて梅雨入りを間近に控え、すこし火照り気味の体には心地よい。

 

「これはね。“ココア”って言う飲み物だよ」

【飲み物。これが、か?】

「うん、そうだよ」

 

 ガース君が俺に倣い、プルタップを開ける。警戒しつつも口に含んだ瞬間、彼の顔が変わった。さっきまでの暗い顔がぱっと明るくなり、ごくごくと勢いよく一気に飲み干してから驚いたようにつぶやく。

 

【…………なんだ。これ!?】

「どう?気に入ってくれた?」

【うん!なんか、今まで飲んだことがない感じで、とろっとしてて、ふわってしてて…………なんていえばいいんだ】

「その感覚を、俺たちは“甘い”って表現するんだよ」

【あまい、あまいか……もっと、もっとないか!】

「はいはい、ちょっと待っててくれよ」

 

 すぐに買ってきたお代わりを手渡すとガース君はご満足げな笑みで元気よく答えた。

 

【カトウ、ありがとう!】

「気に入ってもらえたのなら何よりだよ」

【ねぇ。“地上には”こんなにおいしいものがたくさんあるの?】

「ああ。このココア以外にも、いろんなおいしいものがたっくさんあるんだよ。ほんとは色々と教えてあげたいけど……今はちょっと無理そうだ。君のお父さんと会えたらもっといろんなことを教えてい上げら―――」

【…………】

 

 その話題を切り出した瞬間、自分の喜びを体全体で表していた彼の顔から笑顔が消え、再び貝のように口を噤んでうつむく。

 

やっぱり、ダメか。でも……ここでガース君から、アーサーさんに関するもっと詳しい情報を手に入れないと、状況は動かない。

 

「ねぇ。ガース君。ちょっと俺の独り言に付き合ってくれないかな」

 

 しかし、返ってくるのは静寂とおどおどとした視線のみ。

関係ない。これから話すのは独り言。だから俺は視線をベンチの向こう側。波の音が響く海に向けて独り言を始めた。

 

 

「今、俺たちが飲んでいるココアね……実は、俺―――苦手なんだ」

 

「味が嫌いっていうわけじゃないよ。俺も甘いものは好きだし、似たような飲み物を飲んだりするしね……でもこのココアの甘みは、ダメなんだ」

 

「蕩ける様な甘みが、柔らかい喉越しが、缶のココア特有の安っぽいカカオの香りが……」

 

「大切な人との思い出を連想させて、ね」

【ねぇ】

 

 不意に俺の脳に彼の声が響く。彼の方に視線を向けると先ほどとは全く違う、凛としてわずかばかりの影を纏わせた顔つきで俺の顔をまっすぐに見つめる彼が、明瞭な意志のこもった甲高くも澄んだ少年の声で俺に質問を投げかける。

 

【その思い出は、いいものじゃなかったの?】

 

 確かめるような声色に彼が、半ば確信を得ているのがわかる。

 

「うん、あんまり……いい思い出とは、言えないな」

【そっか……その、カトウ。残念だったね】

「―――なにがだい?」

【君の大切な人は、もう“ここ”にいないんだろう?】

「よく、わかったね……俺としてはぼかしたつもりだったんだけど」

【父上が僕に思い出話をしてくれるときに、そんな風に心が苦しそうな顔をしていたから】

「そっか。君のお父さんも俺と同じような経験をしたのかな……」

 

 そこでいったん話が途切れ俺とガース君が、缶のココアを飲む音と波間をはじける潮の音だけが撫ぜるようにあたりに響く。

 

こわばり、固まってしまった空気から静寂を破ったのは、俺ではなく彼の方だった。

彼……ガース君はベンチから立ち上がり、真正面から俺に向き合うと静かに話を切り出した。

 

【カトウ、僕は“あなた達”を信用できません】

「そっか」

【…………でも、あなたは、あなた方は別だ。だから―――ハル!何者かが“海中から”高速で接近してきます。推定300ノット以上、あと10mで上陸します!】

「なっ……!」

【来ます!】

 

 身構える暇さえなく、人気のない海岸線に派手な水しぶきと共に降り立った“その男”は輝くような金髪に、ずぶ濡れのトレンチコートをまとった体をこちらに向け、鋭い視線で一喝するようにつぶやく。

 

「それまでダ」

 

 持っていた缶を放り投げ、すぐにガース君を背にかばった俺は警戒を強めつつ男を睨む。

抑えているとはいえ、ここまでスプーの探知能力に引っかからなかった―――っていうことは何かしらの異能をもったものだとみて間違いない。最悪の場合、リングの力を使わなければ切り抜けられないだろう。

 緊張を和らげようと口の中に広がりだしたつばをのみ、俺はすぐにでも戦闘態勢に入れる体勢を崩さずに男に声をかける。

 

「…………貴方は、何者ですか?」

 

 その答えと、行動の一動作に至るまで見逃さないように全身に気を張りながら次のアクションを待つ。

 

だが……行動を起こしたのは“彼”ではなく、俺でもない。

 

まったく予想だにしていなかったところから、状況は動きだした。

 

【父上!!】

「へ?」

「ガース!」

 

 俺の後ろにいたはずのガース君が、今海から出てきたばかり不審な男に駆け出し飛び掛かる様に抱きついた。金髪の男はそれを受け止め顔をほころばせ、何やら俺には分からない言語で話し始めた。

 

「……なあ、スプー」

【はい。なんでしょう、ハル】

「これは俗にいう、めでたしめでたしというモノでいいのかね?」

 

 全身を張っていた緊張を空気と共に吐き出すように短いため息をつきつつ、口にした相棒への質問は……

 

【いいんじゃないですか?】

 

 あきれたような相棒の投げやりな一言と共に、肯定された。

 

 

◆                 ◆

 

 

「このタビは、私の息子がお世話になりまシタ」

 

 そう言って軽く頭を下げたガース君の父親は人あたりのよさそうな笑みを浮かべた。

 

「いえ。俺が勝手にやったことですから」

「ホラ、ガース。お礼を言いなサイ」

 

 父親の言葉に倣うように、ガース君がぺこりと頭を下げた。自分の父親……アーサーさんと手を繋いだ彼の顔は柔らかく微笑んでいる。

 

俺としては……その顔が見られただけで満足なんだが。

【そうもいかないのが、我々の哀しいサガですね】

まったくだ。

 

俺の独白に答えるようにスプーが、テレパスで割り込んでくる。

 

スプー、準備は?

【できています。貴方の合図でこの公園は完全に私の支配下にはいります】

公園内の人間は?

【この公園内から半径500m以内にヒトは確認できません。我々を遠方から監視できそうなビルにも人影はありませし、“十分に話せる状況”だと判断します】

上空の衛星や、“俺を監視している無人探査機”はどうする?

【そちらの方にもダミーを流す準備はできていますよ。ただ、長時間は難しいかと】

時間をかければかけるほどボロが出やすくなる、か。

【その通りです。タイムリミットは五分ぐらいと見積もってください】

 

 正直、今このタイミングでリスクを冒し、自分の身を危険にさらしてまでやるべきことか?―――と言われれば、YESと言い切れないのが俺の現状だ。

だが、誰が仕掛けたのかわからない監視(遠くの陰謀)よりも目の前に差し迫った火種(謎の人型知的生命体)

そして……俺のやるべきことは“意志あるモノ”を守ること。

自己保身を先に立てて、やるべき事を為せないのなら……“俺がいる意味はない”。

 

「スプー、始めるぞ」

【了解しました。カウントスタート、ハル。急いでください】

 

 急にどこからか聞こえてきた初めて聞こえる声に、驚いたように周囲を見回すアーサーさんに、俺は話を切り出した。

 

「アーサーさん、お話があります」

「カトウサン。今の声をご存知なのですカ?」

「申し訳ありませんが、手持ちの時間が少ないので手短にいかせていただきます。現在、この公園は電子的に我々が掌握しており、衛星軌道上の衛星からその辺のライブカメラまで、俺たちの会話も映像も残っていません。人による監視がないのは再三確認済みです」

「えっと……カトウサン、私にはあなたが何を言っているのか……」

 

 表面上は平静を装っているように見えるが、一瞬だけアーサーさんの顔に影が差したのを見逃さなかった。わずかばかりの緊張と、警戒に染まった彼はとぼけた口調で話をそらそうとする。

 

「ここで話している内容は俺たち以外の誰にも漏らさないと約束します。だから―――今から言うことに正直に答えてくださ……」

 

 その瞬間、彼が息子を片手に抱え軽やかに飛び上がる。しかし、その飛距離はセンチとかという生易しい距離ではなかった。

予備動作なしの一足飛びで10m近く飛び上がり、俺の前の方に着地した彼は、音もなく取り出した黄金に輝く三叉の槍を威嚇するようにこちらに向け、いつでも飛び掛かれるように身を低くし、鋭い眼光で答える。

 

「キミがみたことは忘レ、貝のように口を噤むコトダ……でなけれバ―――」

「でなければ始末する、ですか?」

「ッ!」

 

 アーサーさんが息をのむ音が俺にも聞こえてくる。状況はまさに一触即発。いつ彼が手にした槍を突き出してきてもおかしくない状況だというのに、俺の心はひどく落ち着いている。

 

確信があったからだ。根拠もない、自分勝手な憶測にすぎないけれど俺の胸の熱いものは確かに訴えていた。

 

彼は、アーサーさんは俺の敵じゃない、と。

 

 

「こちらからは危害を加える気はありません。貴方に聞きたいことは一つ。貴方は、貴方達は―――“意志を持つ存在を傷つけますか?”」

「わからナイ。だが……そうしなければならない問題があリ、“それ以外の選択肢がないというのであれバ“、私は迷わずそれを打ち倒ス、それが私の務めダ」

 

 堂々と言い放った彼の顔に一部の敵意も、逡巡もない。しかし、真剣そのもので彼は言い切った。“それしか選択肢がないのであれば”と。

自分の思い込み通りの返答に思わず、にやけてしまう。

 

彼は俺の敵じゃない。彼は“ある意味”俺と同じ―――誰かのために自分を殺すことのできる人間だ。

 

元から害意がある相手なら……わざわざ警告するなんて手段は使わず、おれを始末するか誘拐して情報が漏れないようにするはずだ。その方が確実だし、安全だ。

だというのに彼はそうしなかった。

 

 そして、先ほどの問いにも彼は真摯に向き合ってくれた。安易に傷つける、傷つけないという問題じゃないこの問いに、“わからない”という俺を同じ答えを以て。

だから、俺は―――

 

「誠意あるお言葉、ありがとうございます。もう一度自己紹介をさせてもらいましょう。俺は加藤陽。“またの名を”―――」

 

 

 全身にみなぎる意志とそれを集める相棒にGoサインを出す。

“いつもと同じように一瞬で”、繁華街から少し離れた公園のほの暗い夜の闇を塗りつぶすように輝くまばゆい光と共に俺の体が変わる。

 

純白の手袋。顔を覆うドミノマスク。全身をつつむコスチュームの中心で声高に存在を主張するランタンのシンボル。

 

そして、彼に倣うように威風堂々と自分の正体を口にする。

 

「グリーン・ランタン。あなた方と同じ……人以上の力を与えられた存在です」

 




ドーモ、読者サン。めんつゆデス。

更新が遅れてしまいもうしわけありませんでした。
なんか、日常生活でのごたごたからスランプ気味になってしまいまして……
ちょい、微妙な出来かもしれませんが……お楽しみいただけたのであれば幸いです。

本当は今回の話でアーサーとハルの邂逅を終わらせるはずだったのですが……予定道理にはいかないもので、話しきりました。次回の更新ではケリがつくはずなのでもう少々お待ちください。

といっても、セカヲワの更新もありますのでもうしばらくお待ちいただけると……ちなみに今回出てきたアーサーさんもDCコミックスのキャラクターでアメリカじゃ結構有名なキャラです。わかったあなたはすごい!

では、このあたりで失礼します。お休みなさい。
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