・・・晴香さんは、助からなかった。
家への帰り道、酔っぱらった運転手が、ハンドル操作を誤り歩道に突っ込んできたらしい。
それに気づいた晴香さんは、俺を放り投げて・・・巻き込まれた。
これが予定を一日早めて帰ってきた賢さんから聞いた、なんてこともない、どこにでもある悲劇の顛末だ。
だが、そんなことはどうでもいい―――これは、罰だ。
きっと、糞の役にも立たない神様とやらが油断していた、この世界で受け入れられると思っていた俺を、“思い上がるな”とばかりにふりかざした、鉄槌だったのだろう。
あの事件から、すでに一カ月が経とうとしていた。
だが俺の心はあの場所に立ち止まったままで、一歩も動いていない。
目を閉じると、あの時の光景が脳裏に浮かぶ・・・あれ以来俺は人と顔を合わせられなくなった。
もうすでにあの人の遺体は骨だけになって墓に入っているはずなのに・・・俺は・・・部屋から出ることすらできない・・・
出ようとすると声が聞こえるんだ―――
“加藤春香が死んだのはお前の責任だ”
“お前が普通の子どもだったらこんなことも起きなかっただろう”
“外に出て、賢に何と説明するつもりだ?”
“おまえは周りに死をまき散らす”
“お前はいていけないものなんだ”
“苦しめ”
“消えてなくなれ”
“すべてはお前の責任だ”
“早めに命を断っておくべきだった”
“死ね”
こんな言葉が、頭に響く。
こんなことは幻聴でこの部屋には俺しかいない、それは分かっている。
でも、ダメなんだ。怖いんだ俺は、俺にかかわった人が死ぬかもしれないのが、そして、俺が糾弾されるのが・・・“お前のせいだ!”って言われるのが
あれ以来、賢は家で仕事をするようになった。
外に出れない俺の世話をするためだ。
毎日、怖がる以外何の反応も示さなくなった俺を、毎日起こしに来て、俺のためにご飯を作って、自分の研究の話や、今晩の献立などのとりとめのない話をしてくれる。
だが、“佐藤晴彦”の心は動かない
□ □
晴香が―――死んだ。
夜、酔っぱらいの車に引かれたらしい
その時僕は、予定が早まり一日早く帰国できたサプライズとして、成田から東京に戻って、二人のためのお土産を選び、のんきに家に向かっていたところだった。
晴香に何はあったなんて知らずに・・・知ろうともせずに!
晴香の凶報をうけとって、すぐにタクシーで晴香が搬送された病院に向かったおかげで・・・何とか死に際には・・・間に合うことができた。
◆ ◆
「晴香ぁ!!」
息を切らしてICUに駆け込むと医師から
「旦那さんですか?実は奥さんの血液のストックがなくて、手術が行えません!誰かパラボンベイ型のお知り合いはいらっしゃいませんか?!」
そうだ―――僕の妻はパラボンベイ型という非常に珍しい血液型をしている。そしてこの血液は同じ、パラボンベイ型の人間からしか、輸血できない・・・
「ッ!!すみません・・・心当たりは・・・ありません」
「そうですか・・・党員としては最善を尽くしますし、今最寄りの病院に問い合わせて、輸送させてはいますが・・・最悪の事態は・・・覚悟しておいてください」
「先生!患者さんの意識が戻りました!!」
「なんだと!中へどうぞ・・・こんなことは医者をやっていてはじめただ・・・」
ICUの中に入ると管につながれた愛する妻と・・・焦点の定まらぬ瞳で妻を眺める息子がそこにいた。
「晴香!しっかりしろ!がんばれッ!」
夢中でそんなことを言って晴香の手を握ると
「・・・けんちゃん・・・?」
晴香が口を開いた。
「晴香!がんばれ!直ぐに血液が来る!それまで頑張るんだ!」
「ううん・・・むりだよ・・・じぶんのことだもん・・・わかるよ・・・」
「無理だなんでゆうな!!先生!何とかならないんですか!?」
涙があふれ出す。
後ろの医師に問いかけると、とうつむきつつ首をふられた。
「けんちゃん・・・先生を・・・困らせないで・・・」
「いやだ・・・!おいていかないでくれ・・・晴香っ・・・」
「だ・・・め・・・、おってきたら・・・ぱんち・・・だよ」
「ッ!!」
「それよりも・・・ハルをお願い・・・たんすをみて・・・」
「わかった!!わかったから逝くな!晴香ッ!」
「ごめんね・・・賢ちゃん・・・」
そういい晴香は笑った・・・
そして、無慈悲な電子音が部屋に響きわたった。
ハル、ひきこもっちゃいましたね~~(顔をそむけながら)
ここからは、ハルの父、賢の視点で物語が進んでいきます。
さぁ賢さんはいかにして引きこもり4歳児ハルを外に引っ張り出すのか?
ちなみに賢さんはなのはstsのユーノ先生をモチーフにしています。