盾の悪魔の成り上がり   作:血糊

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プロローグ

 俺の腕に噛み付いているレッドバルーンを、無理やり引き剥がして投げ捨てる。

 

 何度も殴り続けているにも関わらず、一向にコイツの元気さは衰えることを知らない。結局コイツを倒すことは諦めて、一度街に戻ろう。

 

 そう、考えている時に、それは起こった。

 

 背後から、何者かに押し倒された。

 

 

 

 「な、あっ!?」

 

 

 

 何が起こった? 俺はすぐに顔を上げる。

 

 目の前に居たのは、巨大な、狼だ。

 

 ただ大きな狼というわけではない。目と鼻からは炎が噴き出していた。口からは、大量の涎が垂れていた。

 

 まるで、北欧神話に出る怪物のようだった。

 

 目の前に、その狼の魔物名が出てきた

 

 

 

 『フェンリル』

 

 

 

 俺の思った名前と一致していた名前を持つその魔物は、俺に向けているその切れ長の赤い瞳をスッと細める。

 

 さながらそれは、獲物()を見定めた狩人(フェンリル)だった。

 

 間違いなく強いだろう。そこまで戦闘の経験がない俺でも、空気が物理的に張り詰めていることが分かるのだから。この背筋を這い登るものこそ、本物の恐怖というものだ。

 

 逃げなければならない。だが、なぜかそいつから俺は目が離せない。

 

 その隙を逃すはずもなく、フェンリルは俺に飛び掛ると、俺の左腕を食いちぎった。

 

 

 

 「ッがあああああああああああああああああああッッッ!!!??」

 

 

 

 腕が食いちぎられただけのはずなのに、四肢が張り裂けそうな激痛だった。

 

 視界が白黒に点滅して、意識を失いそうになる。

 

 かろうじて繋ぎとめられた意識の糸を手繰り寄せながら、左腕のあったところへと目を向ける。

 

 骨と肉が剥き出しになった肩から、どくどくと血が流れ出ていた。

 

 傷口は熱い。だが、対象的に体が寒くなってくるのを感じ取れていた。

 

 手繰り寄せていた糸がするりと手から抜け落ちそうになるのを、必死にこらえ続けながら、思う。

 

 

 ……思えば、この世界に来てほとんどろくな目にしか遭ってなかったな。

 

 攻撃できない盾の勇者となり、この異世界に召喚されて三日目で冤罪をかけられ、人生の底辺まで突き落とされる。その後も、こちらの持つ金目当てに近寄ってくる輩に何度も絡まれたり、素材の買取をぼったくり同然までの値打ちにまで下げられたりした。

 

 そんな不幸が続き、さらにはろくにレベルを上げられていないうちに、確実にボスクラスの強さを誇る化け物に襲われる。これを理不尽と言わずに何と言う?

 

 俺が何をしたっていうんだ?

 

 望んでもいない世界へと勝手に召喚されて、そして貶められ、終には魔物に食い殺される。

 

 俺は何か悪いことをしたのか?

 

 ここまで酷い目に遭わせられるくらいの悪行をやった覚えはない。やったとしても、それは反応としては間違っていないのだけは確かだ。

 

 何で俺だけがこんな目に遭わなきゃいけないんだ?

 

 俺が、護ることしか出来ない、盾の勇者だからなのか……?

 

 

 

 

 

 ――憎い。

 

 俺を何処までも不幸にし、あまつさえこんな理不尽な末路を与える……こんな世界が憎い。

 

 ああ……もしもこの死に際に、死ぬのと引き換えに願いが叶うというなら、俺が願うのは唯一つだけだ。

 

 

 

 「――こんなクソみたいな世界なんて、滅んでしまえ」

 

 

 あの女も、王も、あの三勇者共も、俺が犯罪者だと信じて糾弾する奴らも、皆、死んじまえ!

 

 その憎悪を吐いてから、俺はついに意識を取り落とした。

 

 だから、その直後に起こったことは知る由もなかった。

 

 未だに俺の腕を咀嚼し続けていたフェンリルの首が、一刀のうちに切り落とされたことなど……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 水音の反響する音が聞こえる……

 

 この音は何だ? ここはどこだ?

 

 地獄にでも来たのだろうか。その割には妙に音が生々しいのだが。

 

 ……まさか、まだ俺は生きてるのか?

 

 薄暗い場所で、まずは冷たい床に寝かされた体を起こそうと腕に力を入れようとしたところで、俺は意識を失う前に左腕を失ったことを思い出した。

 

 まだ健在している右腕で、あるはずのない左腕の存在を、確認した。

 

 縫い合わされたような後も見られない。まるで、失った腕を再形成したような感じだ。

 

 誰かが、俺を助けてくれたのか。

 

 だとしても、何故?

 

 善意で助けたのはありえない。この国の連中は俺の盾を見たら即座に盾の勇者だと気づくだろうから。

 

 何らかの打算があった上でだろうか? となると、何らかの要求がある可能性がある。

 

 失った左腕を戻してくれたのだ、おそらくかなり大きな要求が来るかもしれない。

 

 手での感触からして、おそらくここは洞窟の深部だろう。一本道のようだからどちらかが出口に繋がるはずだ。

 

 流石に洞窟で迷った場合の対処法とかまでは分からない。

 

 さて、どうしようか。そう考えた時だった。

 

 

 

 「気がついたようね、盾」

 

 

 

 いつの間にか、純白のドレスを着た女が目の前に立っていた。

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