身体が異様に重く感じる。机に転がるエナジードリンクの缶はこれで何本目だろうか。それでも、書類はなくならない。報告書がまだ纏まらない。貴方は時計の針に目をやり、ため息をつく。
0時をとうに超え、そろそろ1時。それも夜のだ。深夜にデスクのライトだけを頼りに本部への報告書をまとめる。度重なる鉄血との戦闘、徹夜で前線で指揮をとって、戻って来れば負傷した戦術人形たちの修復、それに伴う資材の使用量の報告やら戦闘の報告。報告書だらけだ。
そんな最中、パソコンが壊れてしまい、新しいものが来るまで手作業になってしまう。もう指にペンだこが出来て、インクもかすれ始めている。
いつまでも終わらない。終わりが見えないその生活に、底しれぬ闇を感じる。もういい、目眩もしてきたし、なるようになってしまえと、貴方は意識を手放した。
※
どれほど時間が過ぎたことだろうか。意識を手放してしまえば一瞬に思えるその時間。しばらくぶりの柔らかな物の上に寝ているようだ。
枕も、温もりがあってなんだか落ち着く。規則正しく、頭を撫でる何かはさらに心を落ち着けてくれる。時折聞こえる鼻歌は子守唄か。まるで、子供をあやすようなその優しい歌声に、胸の鼓動も落ち着いたように拍動し、眠りを誘う。
霞む視界が段々とはっきりして来る。変わらぬ執務室の景色だが、この視点は恐らくソファーのあたり。つまり、ソファーで寝ていたのか。ならばこの枕はなんだろうか。
視線を動かせば、健康的な脚が頭の下から伸びている。誰かの膝に寝かされていたのか。誰だろう。今度は首を動かし、その誰かの顔を見てみる。
「お目覚めですか、指揮官さま?」
それは、貴方の副官であるカリーナだ。着崩した制服は変わらないが、いつもの活発で溌剌とした雰囲気ではなく、なにやら穏やかで、優しい目をしてこちらを見ている。どうやら、ずっと撫でてくれていたようだ。膝枕をしながら。
「変な音がしたから見てみたら倒れていたんです。もう、何本エナジードリンク飲んだんですか? 過労の上に慢性カフェイン中毒、その他諸々でかなり体に無理が来ていますよ」
それでも、やらなきゃならない仕事がある。体を起こそうとする貴方を、カリーナが止めるように肩を掴み、再び膝の上に寝かせる。
「今は休んでください。体を壊しているんですから無理はいけませんよ。ヘリアンさんもこの事を知って青ざめていましたから。しっかり休ませろとのことです」
過労で倒れたなんてヘリアンさんに知られたらなにを言われるか不安ではあったが、どうやらヘリアンさんなりに気遣ってくれたようだ。ならば、今は甘えてしまおうか。カリーナの誘惑に、抗えなくなりつつある。
「そういうわけで、しばらくの間私たちが指揮官さまを癒して差し上げます。頑張ったご褒美と思ってくださいね」
そっと頭を撫でるカリーナの手が気持ちいい。それが、眠気を誘う。疲労がそれを後押しして、眠りへと誘う。カリーナの歌う子守唄が心を落ち着けてくれる。
撫でる手がリズムを刻むように、それに合わせて聞こえるカリーナの優しい歌声。心を落ち着け、安心させる魔法のような歌声が頭に響き、胸のあたりに何か温かいものが広がるような感覚がする。
頭を撫でられている。それだけなのに、どうしてこれほどまでに心地いいのだろうか。膝から伝わる人肌の暖かさが、じわりと暖めてくれる。それに、縋ってしまいたくなる。
安らかな気分で、久しぶりの眠りに意識を沈める。穏やかな眠りに、疲労が消えて行くかのような気分になる。このまま、この時間が続けばいいのに。
まだ、この歌声を、温もりを感じていたい。それでもこの眠気にはどうしても抗えない。視界が暗闇に包まれていく。それでも怖くない。カリーナの歌声が聞こえるから。カリーナの優しい手が、頭を撫でているから。カリーナの膝の温もりが、頬に伝わってくるから。
だから、この優しい時間に身を委ねて、このまま眠ってしまおう。今は甘えてしまおう。遠のく意識。最後まで聞こえるその歌声に導かれるように、眠りに落ちていく。
眠る貴方をカリーナは撫で続ける。愛おしそうに、心配そうに。カリーナ自身も多忙の身ではあるが、指揮官である貴方はそれ以上なのだ。
どうにかしてあげたい。そう思ったカリーナは一つの答えに辿り着いた。それは、1人では出来ないことであるが、この基地で指揮官を慕うものは何もカリーナだけではない。
これは、戦術人形たちを巻き込んだ、カリーナの一大作戦である。