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PMCは地方都市の治安維持や行政サービスを国家から委託されているため、鉄血と戦う他にも都市の警備というのは大切な仕事だ。
普段は戦術人形に巡回警備をさせているのだが、この日は指揮官自身とAR-15がバディで巡回警備を担当することになっていた。
それも、民間人に紛れるようにカジュアルな服装をして、武器もギターケースに隠している。民間人を装って警備というわけだ。
「指揮官、どうして私までこんな格好を?」
AR-15は女学生風の衣装をまとい、どこか落ち着かなそうな様子だ。ペルシカが用意していたAR-15用の衣装がこれだったのだから、指揮官にはどうしようもない。
「ペルシカさんに文句言ってくれ。俺はカリンに売りつけられた」
指揮官は戦闘時にも動きを阻害しないよう、ストレッチ生地のジーンズにグレーのパーカーという出で立ちだ。指揮官はいつもギリーフードを四六時中被っているから、素顔を曝け出している姿が、AR-15には新鮮に見える。
それに、パーカーもブレザーも脇の辺りに取り付けた拳銃を隠しておくにはもってこいだ。良い選択だったといえよう。
「カリーナさんのファッションセンスも捨てたものではないですね」
「俺は戦闘服か、あのフードがなきゃ落ち着かん」
「そろそろ慣れてください。もう狙撃兵じゃないでしょう?」
「今は、な」
そんなやり取りをしつつ、手ぶらの警備は続く。AR-15は指揮官がいつもに比べて近いように感じ、一瞬メンタルがおかしくなりかけてしまう。冷静さを崩してはならない。その筈なのに、頬が赤くなるのを止めることができないのだ。
「指揮官、近いですよ……!」
「この方がいい」
「なっ……!?」
AR-15の顔が一瞬で赤く染まる。それこそ、彼女の髪の毛以上に。AR-15のそんな乙女心を知るよしもない指揮官はただ、いつも通りの鉄仮面を貼り付けていた。
「この方が戦術人形だと気付かれにくい。人形に人間に向けるような感情抱くのは変人ってのが一般的らしいからな」
「……わかっててやってるのね」
AR-15はわずかに頬を膨らませる。あからさまに不満だと言いたげだが、指揮官は周辺の警戒をしていて、灯台元暗し。そんな表情には気付いていない。
「まあな、それに職員どもから人形性愛者って言われてるのもよく知ってるし」
今度こそAR-15は噴き出す。指揮官は恥じることも隠すこともなく、ちょっと売店行ってくるくらいの気軽さで言い放ったのだ。
職員から異常性癖と陰口を叩かれ、何故か制服の上でもギリーフードを常に着用してる変人扱いされ、それでも尚動じない。どれだけ図太いのだろうか。
「……いいんですか?」
「ああ。実際この所は人形と任務を共にすることの方が多いしな。情も移るさ」
最早AR-15には巡回警備どころではなかった。指揮官は本当にそういう趣味なのだろうか、だとしたら自分にもチャンス……違う、そう見られている可能性はあるのかと考えてしまう。
「ならばフードはどうしてです?あれは文句のつけようがないほど変人みたいですけど」
「……俺は機械じゃねえから、覚えていられることには限りがある。忘れたくないのさ。死んでいった奴らのことを」
「あのフードが?」
「死んだ仲間の血をひと掬いずつ塗ってきた。目立たないけど、俺が行き着く先まで連れて行ってやるために」
嗚呼、やはり指揮官はそういう人だ。やはり変人だ。そして、底抜けに優しすぎる。
「なら、私が死んだら連れて行ってくれますか?」
「ああ。だが俺の方が先に死ぬだろうさ。なんたってヤワな人間だしな。すぐ死んじまう」
だから人間は嫌なんだよ、と指揮官はクスリと笑った。そう、機械の私なら、彼にいくらでもついていける。
AR-15はそれを少しだけ誇りに思っていた。そんな指揮官と雑談をしながらの巡回も、前に見た映画と照らし合わせたなら、デートとでも言える代物なのだろう。
あとは、何か甘いものでもあればいいかもしれない。きっと帰ってからヤキモチを妬かれるかも知れないが、それは任務を共にした者の特権だと思う事にしよう。
「指揮官、そろそろお疲れでしょう?あそこで休憩していきませんか?」
AR-15は指揮官の袖をくいくいと引いて、とある店を指差す。
この地区はグリフィンのスポンサーでもある富裕層が住んでる地区でもあるため、難民地区や一般の地区とは店がまた違う。パティスリーなんて最たるものだろう。
AR-15が物をねだるとは珍しい。それを無下にすることもなかろうと、指揮官はコクリと頷く。別にやましいことはない。仕事中の休憩時間くらい確保されてしかるべきなのだから。
誘われるままに店に入った指揮官はその内装に思わず感心した。昔のような木製の内装に暖色系の照明、古いクラシック音楽と、シックな雰囲気でとても落ち着く所だ。
「良さそうな店だな」
「そうですね……指揮官、これは……」
AR-15の呂律が何故か回っていない。声帯モジュールにバグでも起きたのかと指揮官は疑いつつ、AR-15の指差すプレートを見てみる。
何やらキャンペーンをしていたらしく、カップルは2個目のケーキが無料だという。なるほど、カップルに偽装しているから確かにそう見えるだろう。これはお得だと指揮官は思う。
だがAR-15がバグる理由は今ひとつわからない。本当にバグならばチョップで直そうかと思案しつつも、その目線はプレートからケーキへと移っていた。
「……選ばないのか?」
「し、指揮官!?何を見ていたんですか?」
「ケーキ」
「も、もう!」
顔を赤らめたAR-15は慌てているのか怒っているのか今ひとつわかりにくい。とは言えケーキの魅力には抗えないらしく、すぐに指揮官共々ショーケースに釘付けになってしまっていた。
漸く目標を決めた2人は店番の人形に飲み物とケーキを注文し、窓際の席に着いていた。空は珍しく晴れていて、日差しが心地いい。
頬杖をついてぼんやり空を見る指揮官を、AR-15はただ静かに見つめていた。普段はフードで隠された彼の横顔を目に焼き付けておける事が、何よりも嬉しかったのだ。
他の人形以上に彼を知っている。そんなささやかな優越感。そして、自分だけがそれを知っていればいい。自分だけでいいというささやかな独占欲。
今の再生技術なら消せるはずの顔の傷を消さず、鋭い目を今は穏やかにしている姿を、ぼんやりと眺めていた。
ロシアではあまりに目立ちすぎる黄色味がかった肌、短く刈りそろえた黒髪を伸ばしたなら、きっと綺麗なのだろう。AR-15はもったいないと思い、いつの間にかその髪に手を伸ばしていた。
「……どうした」
「髪、伸ばさないのですか?」
「必要ないさ。俺には邪魔だから」
「きっと綺麗ですよ。意外とサラリとしてて、艶もいいですから」
「……昔は少し長かった。でも寝癖が酷くて、ライオンヘアーってあだ名つけられてから短くしてるんだよ」
そんな余りにも滑稽な理由に、思わずAR-15は噴き出してしまう。人の評価なんて気にしない、ゴーインマイウェイな指揮官がそんな事を気にしていたという事実に、笑いがこみ上げたのだ。
「何がおかしい」
「だって、人形性愛者とか変人と言われても気にしない指揮官がですよ?ライオンヘアーって言われたのを気にしていると思うとどうしても……!」
「うるせえ、ハイスクールの時なんだから」
指揮官は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。そこへ助け舟を出すかのように、紅茶とケーキが運ばれてきた。
紅茶の香りが鼻をくすぐる。デコレーションの美しいケーキは見ただけで口の中を甘くしてしまう。
そして、その時間を共有するのが楽しい。同じ話題で笑い、楽しんで、一緒に食事をする。警備と言うより、本当にデートのようだ。
いつもの服を脱いで、銃もケースに仕舞っているから、気を抜いていられる。スコープの狭い世界から目を離せば、広い世界もあるものだ。
この休憩が終わったら、基地へ帰還することになる。楽しい時間はこれで終わりだ。少しでもゆっくり話して、ゆっくり食べて時間を引き延ばそうか。
そして、次に指揮官と巡回任務に着くのはいつだろうかと、AR-15は楽しみに思っていた。