フレームアームズ・ガール外伝~その大きな手で私を抱いて~ 作:コマネチ
「あー……やらかした」
真上に太陽の輝く昼時。高校の中庭でベンチに座った少年がぼやく。時刻は昼休みとなり、各々の生徒が昼食の準備に取り掛かる。ある者は持ってきた弁当を広げ、ある者は購買へ、コンビニへと足を運ぶ。
無論この少年も弁当を持ってきて意気揚々と机に弁当を広げる……といきたかったが、鞄の中を探しても見つからない。早弁で食べた覚えもない。忘れたな……と少年は結論付けた。
「どうしたのさ。いつものテストの赤点取った時みたいな顔して」
友人が少年に話しかける。昼休みはいつも一緒に食べる気安い仲だ。更に部活、バスケ部の後輩を含めての三人が中庭のベンチに座る。ここでの昼食が男三人による華の無い憩いの時間だ。ちなみに友人は部活は一緒ではない。
「悪い。弁当忘れちゃったよ。ちょっとコンビニまで行ってくるわ」
少年は立ち上がる。運動部らしい引き締まった体つきが目立つ。
「あーぁ、こりゃ後が怖いねぇ」
「?なんでさ」
「だって毎朝起こしてくれる彼女が作ってくれる弁当だろ?」
「忘れたら彼女泣いちゃうぜ」と友人が付け足す。
「うそぉ!?先輩彼女いたんスか?!」と後輩が口を開く。
「うそぉ!?ってひでぇなおい!」
「あ、スンマセン。いやだって先輩、学年一のスケベ魔人って異名で、女子の評価散々じゃないですか!」
「謝ってる意味がない!!」
「反論は出来ないよな。クラス一の脳筋でその上どスケベ」
「こないだの部活秘蔵のエロ本没収騒動で、一番必死に先生に懇願してましたからね先輩。血涙流す位に」
と、その時だった。
「あー、いたいた。探したわよマスター」
上空からの黄色い声、一つの影が男達の前に降り立つ。蒼い装甲をまとった少女だ。それも15㎝程度しかない。可憐な顔つきとサブアームに握られた大型のランス。そして各部のブースターとジェットエンジン。
「あ!フレームアームズ・ガール!」
目線の高さでホバリングする少女に対して後輩が声を上げる。フレームアームズ・ガール(以下FAG)。ナノマシンで構成された肌とプラスチックの武装。ASと呼ばれる人工自我を持ち、その表情豊かさは人間に限りなく近い新世代ホビーだ。
「あれスティレット。どうしたよ」
「マスター。見て解らないの?!これよこれ!」
スティレットと呼ばれたFAGはサブアームに吊るされた物を突き出す。ナプキンで包まれた弁当箱だった。
「あ、俺の弁当!」
「なーにが俺の弁当よ!今朝早く起こしたのに二度寝してギリギリで慌てて起きるからでしょ!」
「別にいいだろー。部活で疲れてたんだからさ!」
「どうだか、遅くまで……あ、あんなハレンチな本読んでるからでしょうが!」
途中から顔を赤らめどもるスティレット。ハレンチ、という物は別に説明不要なあれだ。
「バカ!後輩見てる前で言うなよ!」
「知らないわよ!学生ならもっと健全な物に打ち込みなさい!」
「だから部活に打ち込んでるんでしょうが!」
口喧嘩を続ける少年とスティレット。後輩は予想していたスティレットのイメージとのギャップに唖然としていた。
「彼女って、あのFAGなんですか?」
「まぁね。アイツが面倒見てる内になんかあんな関係になっちゃってさ」
「まるで幼馴染だ……」
「ちょっとそこのあなた達!」
話している二人にスティレットは食って掛かる。
「彼女じゃないわよ!私達FAGは人間とのコミュニケーションが目的だもの!こういったやり取りは想定の内よ!」
「あ、そうなの?」と後輩。
「そうよ!覚えておきなさい!私達は所詮人形!」
そう言ってスティレットはマスターである少年に向き直る。また何か言おうとしたが、今ので興味が削がれてしまったようだ。
「まぁいいわ。ここで言い争い続けていてもバッテリーの無駄よ」
「ったく、弁当届けに来たなら素直に置いて行けよ」
「フンだ。……毎朝四時に起きて仕込みやってて、それで忘れましたなんてやられたらこうもなるわよ」
「な、なに?!」
頬を膨らませながらぼやくスティレット。そして初めて知る弁当の秘密にたじろく少年。
「こりゃお前が悪いな」
「先輩。女の子泣かせちゃ最低っす」
友人と後輩もスティレットに加勢する。
「げぇぇ!お前ら裏切るなよ!」
「どうせ味方するなら綺麗な方の味方をしたいだろ」
「可愛いは正義っす」
「フフン、FAGは繊細なんだから!大事に扱いなさい!」
「……大事にはしてるつもりだよ」
そう言った時だけ、少年の顔はさっきまでの軽い顔ではなく、真剣な顔つきとなった。それを察する様にスティレットも「あ……」と黙る。
「……ゴメン……マスター」
「……なんてな。気にすんなよ」
元の軽い笑顔になってスティレットを、場を和ます少年。
「うん……さて、私も暇じゃないもの。もう帰るからね」
スティレットも又、しゅんとした表情から、さっきまでの凛とした表情へと戻った。
「雨に気を付けろよ」
「今日は雲一つない天気だから大丈夫よ。後マスター」
「なんだよ」
「残さずちゃんと食べてよね。後感想も」
楽しみにしてるから。そう言いたげな表情だ。その時少年の心は和む。
「あぁ」
「加えてマスター」
「だからなんだよ」
「捨てるからね。あの本『むっちんプリン』シリーズ」
不潔よ!そう言いたげな表情だった。その時少年に衝撃が走る!
「ま!待ってくれ!それだけは勘弁してくれ!」
「問答無用!じゃあね!!」
意地悪そうに舌を出すスティレット。そう言って小さな彼女は空高く舞い上がって行った。
「こうしちゃいられねぇ!今日は早退してむっちんプリンを守らなければ!」
「先輩、今日の部活他校との練習試合っす」
「レギュラーメンバーがそんな理由で休んじゃいけないよなー」
「ぐぁぁ!人は解り合う事は出来ないのかぁぁ!!神よ!何故この世はこんなにも理不尽なのですかぁぁ!!」
あまりにも冷たい現実に、少年の絶叫が中庭に木霊した。……今日も平和である。
――
硝煙立ち込める空港の上空でスティレットは飛ぶ。ここはセッションベースによるバトルステージ、ステージは空港だ。敵を探すスティレット。
「出てきなさい!私が怖くなったのかしら!?」
次の瞬間、ハンガーの出入り口からミサイルがスティレット目掛けて飛んでくる。かなりの数だ。
「ミサイル程度で!」
スティレットは本体の手に握られたガトリングガンを撃ちながら迎撃。漏らしたミサイルもスティレットはサブアームの刀で切り払う。
「これ位のミサイル!引き離すまでもないわ!」
「でもその場にとどまったのは失敗よねぇ」
「っ!?」
スティレットは声のした後方を見る。パワードスーツ型のサポートメカ『ギガンティックアームズ』にまたがった片目隠れロングのFAGが、スティレットを捕まえる。そのまま地面に真っ逆さまに落ちる。
「放しなさい!」
向かい合う形でサブアームを掴まれたスティレットが叫んだ。
「そうはいかないわ!防御の弱いスティレットタイプならこの高さでイチコロよ!」
「警告はしたわよ」
掴まれたまま落とされるスティレットはいたって冷静だった。不審に思ったFAG、レーフは次の瞬間に自分のギガンティックアームズに大きな衝撃が走るのを感じた。そして次の瞬間ギガンティックアームズは爆発炎上。
「何?!これは!」
「だから言ったでしょう。私の膝蹴りは痛いんだから」
見るとスティレットの膝部から細長いドリルが突き出しているのが見えた。レーフのすぐ横に深々と突き刺さったドリルをスティレットは引き抜き脱出。そのまま地面に落ちて爆散するレーフとギガンティックアームズ。それを地面に降り立ったスティレットは眺める。
「お姉ちゃんを!よくも!」
更にミサイルが飛んでくると共に、さっきのハンガーから二機目のギガンティックアームズが壁を突き破って突っ込んでくる。妹のライだ。そのまま対処が間に合わず爆風に晒されるスティレット。その場にミサイルは立て続けに降り続け、舗装された地面は爆発によって見る影もなくなってゆく。
「ふふん。跡形もなくなっちゃったわね」
破壊の後を見ながら得意げになるライ、しかし次の瞬間。
「わざと受けたのよ」
「何?!どこにいるの?!ッ!」
次の瞬間、スティレットがドリルランスを突き出して地面から飛び出してきた。ギガンティックアームズの真下だ。操縦しているライが気づいた時はもう遅い。そのままギガンティックアームズは貫かれて爆散。地面を掘り進んでミサイルを回避。そして移動したのだ。
「おねぇちゃーん!!」
ライの断末魔に目もくれず、スティレットは次の相手を探す。
「雑魚の相手は飽きたわよ。もう出てきたらどうなの轟雷」
「いいでしょう。こちらもあらかた片付いた所です!」
そう言うと、スティレット同様にサブアームと長い脚部を持ったFAGが飛び出してくる。その名は轟雷。
「私のリナシメントアーマーと!」
「キマリスアーマー!どっちが優れているか決着をつけるわよ!!」
大剣と大鉈をサブアームに持たせる轟雷、ドリルランスと刀を持ち突撃するスティレット。
「ぅおおっ!!」
スティレットのランスを大剣で防ぎ、大鉈のパイルを向ける轟雷。
「はぁぁっ!!」
そのパイル付大鉈を発射直前に刀で弾くスティレット。そのまま膝のドリル『ダインスレイヴ』で仕留めようとするが轟雷も銃剣で突き刺そうとする。いったん離れる二人。そのまま何度もお互いの武装を打ち付けた。
「はー、二人とも頑張っちゃってまぁ」
それを見ながら敗退したFAG、レーフがバトルの壮絶さにため息をあげる。勝てるわけないわ。といった表情だ。
「私達も頑張ったんだけどねぇ、さすがライバルとうたわれた二人」
その横でライもぼやく。しかし更にその隣、レティシアとイノセンティアは目を爛々と輝かす。
「凄い!凄いです!轟雷さんの他に、このお店にこんなに強いFAGがいたなんて!」
「どうしてこの間の大会では出なかったんですか?!」
「新人のあなた達は知らないか。あの二人は元々ライバル関係で互いに競い合っていた仲よ」
「ちょっとトラブルあってね。暫くここに来れない時があって。その間に轟雷がバトルで勝ち星を上げてたから、戦績的には轟雷の方が上になっちゃったわけ」
「いわば無冠の帝王だねアイツは」
「へぇー」
まるで憧れのアイドルの様に見る二人、その視線の先の二人は舞うように戦いを続ける。
暫くして時間切れのアナウンスと共にバトルは終了。バトルステージは解除され、模型店の中と切り替わる。二人の緊張の糸は切れ。その場に。息を上げながら仰向けに倒れた。
「ハッ!ハッ!暫く来ないと思ったら全然なまってないじゃないですか!」
「ハァーッ!ハァーッ!当然よ!こっちは私生活でもバトルみたいな生活してんだから!」
「屈辱ですよー。今回も引き分けかぁー!」
バトルが終わり、それぞれのFAGが専用の椅子とテーブルに座る。彼女たちの大きさに合わせた施設の様な物だ。大きさはドールハウスとほぼ同じ。自立可動のFAGはマスターの自宅を拠点に、ここを集会所の様に使う事も多い。
「それにしても悔しいわ。新しい後輩の子が出来たっていうから、その子達の前で轟雷倒そうと思ったのに」
「意地悪ですねスティレット。レティシア、イノセンティア、彼女はこういう意地悪な奴なんですよ。覚えておいてくださいね」
新入りの後輩二人に告げる二人。二人は何と言っていいか解らず苦笑い。
「あなたが言えた事かしら。バン○イにケンカ売るなんて馬鹿丸出しな考えのあなたが、後輩から憧れるだけのFAGとは思えないわ。あなた達、憧れるなら私にしなさい」
再び頷くわけにもいかず苦笑いの二人。
「あ、あの、なんだか轟雷さんとは随分違ったFAGなんですね」
話題を変えようとするレティシア。
「そうね。こいつと違って私は自分の相応ってのを理解してるつもりよ。所詮私達は人形。第二世代型FAGはずっと人間に近い情緒を与えられたけど、それは覆せないわ」
第二世代、というのは轟雷やレティシア達の事だ。その前の第一世代FAGは自我を持たず。簡単な受け答えができる程度の知能しか与えられていない。
なおも轟雷を比較するスティレット。藪蛇だったと言葉を止めるレティシア。
「あ!だったら!スティレットさんのマスターってどんな人なんですか!?」
今度はイノセンティアだ。FAGにとってマスターの話は自分の存在理由に直結する話でもある。
「?私のマスターは……そうね。馬鹿でスケベだけど、放っておけない奴。かな」
強気そうな顔から一転して乙女の顔になるスティレット。
「優しい人なんですよ。スティレットのマスターは」
轟雷がスティレットのフォローをする。さっきまで怒っていたとは思えない穏やかな表情だった。
「よしてよ。私が毎朝起こしてあげないと全然起きない奴よ。いっつもバスケのユニフォーム汗臭くしてさ。なんで人間ってあんな一時の事に夢中になるのかしら、こないだだって夏風邪ひいちゃって、無理してバスケの大会出たんだから。ほんっとワケ解んない」
「その時、風邪が悪化して、スティレット凄く取り乱してましたよね。『マスター死んじゃったらどうしようー!』って大泣きして」
「な!なによ!マスターが大事なのはFAG共通でしょ!」
「それで必死に看病してたんですよ彼女は、風邪が完治した時は本当にいい笑顔したんですよ」
「何よ。私は転勤してるマスターのご両親からマスターを任されてるのよ。それ位当然の事なんだから」
――だからつい最近までここへ来れなかったのか――と納得する新人二人。今のスティレットは凄く誇り高そうだ。
――
「なぁスティレット。洗濯位は俺がやるって」
家に帰って、スティレットは家事全般をこなす。そんなスティレットに風呂から上がったマスターが声をかける。マスターにとっては家事をFAGに任せるのは少々むずかゆい。
「洗濯のイロハも知らないならひっこんでいてよマスター。以前無理やりやって色が移ったのは誰かしら?」
そう言いながらテキパキと自分以上の大きさの洗濯物を、洗濯機に放り込み。手順をこなしていくスティレット。完全に慣れている。この洗面所は完全にスティレットの独壇場だ。ちなみにFAGのナノマシンは水に弱いので、食器洗いは食器洗浄機に任せてある。
「それを言われると……でもなんかお前に頼りっぱなしってのも情けなくなるなぁ」
「頼っていいのよ。私達は人形なんだから」
「そっか。で……スティレット。本当にお前あの本捨てたのか?」
あの本、言うまでもなく昼に話していたあの本、数冊セットだ。
「むっちんプリンシリーズなら言ったでしょ?あんなのにうつつを抜かしてたら彼女なんてできないわよ」
こんな美少女が傍にいるのに……そうスティレットは言いたいがこらえる。
「そうか。……で、スティレット、もう一つ話があるんだが」
「何よ。後はスイッチ押すだけだから待ってよ」
そう言ってスティレットは洗濯機のスイッチを入れた。脱水までかければ残りの水気はFAGでも耐えられる。
「で、何?」
そう言うスティレットにマスターは二枚の紙を突きつける。
「今週の日曜。遊園地に一緒に行かないか?」
きょとんとなるスティレット。二枚の紙は遊園地のフリーパスチケットだった。みるみるうちに真っ赤になるスティレット。
「そ!それってデート?!ば!バッカじゃないの!?そういうのは人間の彼女と行くもんでしょ?!なんで私が!」
「いや、日頃お前にはお世話になってるからさ。そのお礼も込めて」
「~何よ。そんなんで釣ったってむっちんプリンは戻ってこないわよ……。」
「それは関係ないよ。お前には純粋に感謝の気持ちがあるんだよ」
「ふ、ふーん。まぁいいわ。折角の申し出ですもの。精々彼女が出来た時の予行練習にでもするのね」
「おう。じゃOKだな。じゃあまた後で細かい日程を決めるから」
そう言ってマスターは洗面所を出る。いなくなった直後にスティレットは振動する洗濯機に降り立つと悶絶しながらもんどりうつ。
――きゃー!!マスターにデートに誘われちゃった!お弁当は腕によりをかけて作らなくちゃ!どんな服着ていこう!お小遣いは貯まってるから新しい一張羅買わないと!どの手順で回ろうかな!!きゃーきゃー!!――
スティレットが洗濯機の上でゴロゴロ転がってる中、洗面所の入り口付近で、彼女のマスターはそれをこっそり覗いていた。
――本当は部活の罰ゲームってのもあるんだけどさ……、でもアイツが喜んでくれて良かった――
そうスティレットの嬉しそうな挙動に安堵するマスターだった。
残りは明日、明後日の夜九時に投稿します。