フレームアームズ・ガール外伝~その大きな手で私を抱いて~ 作:コマネチ
「じゃあマリちゃんのお友達なんだね」
その後、イノセンティア達はマテリアの家に連れ込まれた。ごく普通の一軒家である。
「そうよトモちゃん。とっても仲のいい友達なんだから」
マテリアの嘘。幼稚園児である主はそれを信じ込み、覗いていた二人を歓迎する。
「あはは……どうも」
「こ、この人があなたのマスター?」
「その通り」
「初めまして。トモコです。六歳です」
誇らしげにするマテリア。初々しく挨拶するトモコと名乗ったマテリアのマスター。
――こんなにマスターは純粋そうなのに……――と二人は思った。あまりにもFAGとキャラが違いすぎる。
「折角来てくれたから、今日は皆で遊びましょうよぉ」
純粋そうなマスターに反して、マテリアは含みのある笑顔で言った。
「いやぁそう言いたい所ですけど、私達はマスターが待っていますんで」
「じゃあ今日はミィちゃんもハルちゃんも来るから皆で遊ぼうよ!」
マスターの発案、マテリアを除く二人のFAGは『え?!』と固まる。
「あら!それいいわねトモちゃん!いつもは私がおままごとで赤ちゃん役だったけど!今日はこの二人にやってもらいましょう!」
マテリアがどんどん話を進めていく。二人の表情は更に引きつった。
「ちょ!ちょっとマテリア!確かにボク達がついていったのは謝るけど!さすがにそれは!」
「……トモちゃん。この二人遊びたくないって」
「えぇ……そんな……」
涙目になるマスター、小さな子供にそんな顔されると二人もバツが悪い。
「解った!解ったから!遊ぶよ!それでいいんでしょ!」
――
「だぁだ、だぁだ」
「はぁいイノセンティアちゃん、ミルクでちゅよー」
赤ちゃんがつけるおしゃぶりをつけたスク水美少女フレズ、それが母親を真似る幼稚園児に抱っこされていた。
「はーいフレズちゃん。オムツ変えましょうねー」
「……勘弁してよ……」
げんなりした表情でフレズは呟いた。三人のFAGはそれぞれ、幼稚園児三人の相手をさせられていた。とはいえ雑には扱われていない。子供達全員が人形を労わる年齢に達していたのは幸いと言ったところか。
「もう不機嫌そうな顔しちゃってー。笑って笑ってー本当に世話が焼けるんだから―」
マテリアが赤ちゃんをあやすガラガラを振るいながら笑う。だがイノセンティア達にはマテリアの笑顔は凄まじく邪悪に見えた。
「マテリアァァ。さすがにこれは恨むよぉぉ」
「あーら、これ位で泣き言とはだらしないわねぇ。私はいつもこういう役を一人で受けてるっていうのに」
――受けてるんだ……――
と、そうこうしてる内に「ただいまー」という女性の声が玄関から聞こえた。「あ、ママだ」とトモコが玄関に走って行った。友達の二人もFAGを掴んだまま走って行った。
「うわぁっ!誰が帰ってきたの!」
「マスターのお母様よ。粗相のない様にね」
廊下に出るとそこにいたのは30代あたりであろう女性だ。
「ママ、おかえりー」
そう言ってトモコは彼女のお腹に抱き付いた。FAG達は母親の姿に妙な違和感を覚えた。
「あれ?あの人、お腹が……」
そう、太っているわけではないのだが、彼女のお腹は妙に膨れ上がっていた。それは人間で言うところの……。
「……二人目がいるのよ。トモちゃんのお母さん」
「え!?確か人間で言う妊娠って奴?」
「あら。マリのお友達?」
FAGに気づくや挨拶をする母親。
「あ、どうも……」
「お帰りなさい。検査の結果はどうでしたか?」
マテリアの方も母親のコンディションが気になったようで問いかける。
「順調よ。予定日に生まれるかは解らないけどね」
「健康で生まれてくれるのなら何よりですわ」
「マリ、あなたにも世話をかけるわね。トモコの面倒を見てもらって」
「お気になさらず、人の望むサポートをする事こそが私達FAGの存在理由ですから」
誇らしげな顔で答えるマテリア。フレズ達やトモコに見せた笑顔とはまた別の類の笑顔だった。
「今日はパパも早く帰ってくるから。久しぶりに皆で一緒にご飯食べられるわね」
母親の一言、それにトモコは一瞬で表情が曇った。
「パパ、きらい……」
「トモちゃん。ダメよ。そんな事言っちゃ」
困った表情でマテリアはなだめる。
「だっていつもお仕事でいないんだもん」
「トモコ……」
「パパのお仕事の所為で、皆とお別れになっちゃったから!パパなんかいなくていいもん!」
「トモコ!」
「待って下さいお母様!ねぇトモちゃん。そう思っていたとしても、お友達がいる前でそういう発言はよくないと思うわ」
トモコの両手に持たれたマテリアが、トモコに向かい合いながら言う。
「マリちゃん……」
「もうすぐお姉ちゃんになるんだからさ、見て。お友達の二人も困ってるじゃない」
二人の友達はどうしていいか解らず。黙っていた。
「ミィちゃんハルちゃん……」
「トモちゃん、わたし達はトモちゃんがお引越ししてきたから、お友達になれたんだよ」
「パパのこと、そんな風に言っちゃだめだよ」
「……うん。ごめんね」
申し訳なさそうな表情でトモコは二人に謝る。
「お友達にもちゃんと謝れるんだからさ。とりあえず今日はパパに会ってみましょうよ。ね」
「……うん」
「よし、それじゃ今日はごちそう作るからね!」
母親もそれを見て安心した様だ。
「お母様。では私も手伝いますわ」
「あなたはトモコと遊んでいて。あなたが一番トモコの扱いには慣れているんだからね」
「じゃあ次はお化粧ゴッコしようよ!皆で!」
「あらいいわねトモちゃん!この二人の顔に思いっきりお化粧しましょう!」
トモコとマテリア、賛同する友達二人、その笑顔とフレズ達の心境はもう説明しないでもいいだろう。
「?お化粧はマリちゃんもだよ?」
「え?いや私は……」
うろたえるマテリア。今日くらいは自分は標的にならずに済んだと思っていたのに。
「……嫌なの?」
じわ、と涙目になるトモコにマテリアはブンブン首を縦に振って肯定を現した。
「そ!そんな事ないわよぉ!私トモちゃんのお化粧だーいすきっっ!!!!!」
そう言いながらマテリアは覚悟を決めたのだった。
――今日はどんな顔になっちゃうのかしらぁ……――
――
「じゃあ私達帰るねー」
「またねトモちゃんー。皆ー」
暫くして、ともこの友達達は親に迎えに来てもらって帰って行った。それと共にイノセンティア達も解放される事になった。
「ぐぁぁーっ!や!やっと終わった!」
くてんと音を立てて倒れこむフレズとイノセンティア。お化粧ごっこで顔を滅茶苦茶に落書きされていており、お互いの顔は非常にカラフルとなっていた。
「お疲れ様。早く顔吹きなさい」
そう言ってマテリアは小さなタオルを二人によこす。マテリア自身も顔にお化粧と称して顔に落書きをされていた。
「もう時間ね……。トモちゃん、私の方も、この二人を送ってくるわね」
「うん、マリちゃん気を付けてね」
そうやって拭き終わったマテリア達も、模型店にドローンで、そしてフレズのエアバイクで帰ってゆく。三人が飛ぶ空は、もう夕方と言っていい時間だが、日が長くまだ明るかった。
「お友達二人も食べていけばよかったのにね」
「気を使ってくれたんでしょ。若いのにしっかりした子達だわ」
「……その……マテリア。ごめんなさい」
ドローンに座ったイノセンティアが、隣のマテリアに話しかける。下に四脚アームを備え付けたドローンは、FAGが余裕で腰掛けられるほど大きい。
「……マスターの事を悪く言った事かしら?」
「うん……」
「ま、今日は手伝ってくれたから、チャラにしてあげるわ」
「ボクも知らなかったよ……君のマスターのお母さんが、赤ちゃんを製造していたなんて」
「そんな機械的な言葉は不愉快よ。妊娠と言いなさい」
不快そうな言い方と表情でマテリアは言った。楽しみに水を刺されたといった顔だ。
「でも大変じゃない?あぁやって小さい子を相手するのって、子供でも私達よりずっと力は強いんだから」
「そうねあなた達、運が良かったわね。あの子、去年まではFAGを何体も破壊してるのよ」
そのマテリアの発言に青ざめるイノセンティア達。
「なんて嘘よ。大丈夫。私が家に来た時から私を妹みたいに優しく扱ってくれる子よ。母性っていうのかしらね。あの年齢で持ってるものなのね」
その発言に胸をなでおろす二人。そして気になっていた事を問いかける。
「……トモちゃんのお父さんって、仲悪いの?」
「悪いけど、それには答えられないわ」
答えるマテリアの声に遊びがない。この件に関しては何も答えたくないらしい。
「そうなんだ……辛くない?そういう家族間の問題とか、子供の相手とか」
今日子供の相手をして、どれだけハードか身を挺して理解した二人。いつも余裕のマテリアがこんな苦労をしていたとは思わなかった。
「そうね。でも私にとって彼女の笑顔は最高に綺麗よ。泣き顔なんかよりずっとね。その為なら苦ではないわ」
「なんていうか、意外だね。試作型マテリアは『女は泣いている姿が至高』って考え方があったって聞いたけど」
「私は私よ。試作型ではないわ。でも……試作型だったとしても、同じ風に振る舞ったとは思うわ」
「どうして?」
「ウッフフフ。こう見えて献身的な性格してるのよ。私達マテリア型は」
――
その後に帰ってマスターには怒られた。マテリアはあらかじめ模型店にいるマスター達には連絡を入れていたらしく、怒られたのは勝手についていった事に関してだけだった。
「全く、こんな遅くまで待たせて」
「でも意外でしたね。マテリアのマスターがそんな小さな子供だなんて」
轟雷もマテリアのマスターの事を話されて、意外に感じていた。
「そうだな。FAG自体ある程度成人した人が持つものだと俺も思ってたよ」
その横で僕は小学生ですけどね。とフレズのマスターが答えた。
「じゃあ私は帰るわね。……まぁ今日は助かったわ」
そう言ってマテリアは家に帰ろうとする。
「あ、待ってマテリア。その……元気な赤ちゃんが生まれる事を祈ってるから……」
「イノセンティア……ありがとう」
最後にフッと優しい笑みを浮かべてマテリアはその場を後にした。
――
数日後。
「ママ!早く早く!」
「はいはい。待って」
再びマテリアと彼女のマスターの家だ。予定日は近く、三人でする日課の散歩も警戒を怠れない。
――この光景も何度目だろう――
そう思いながらトモコの肩に乗るマテリア。もう自分がこの家に来てから半年がたつ。
――
クリスマスの日に、プレゼントとして初めて起動した時は驚いたわね。こんな小さな女の子が私のマスターだったなんて。
「……ふぁぁ……」
場所は子供部屋のベッドの枕元。包装されたプレゼントから出されて目を覚ました瞬間。目の前に可愛らしい女の子が目を輝かせていた。その人がトモちゃんだった。
「あら。ごきげんよう。可愛らしいマスターさん」
「すごーい!喋るお人形さんだー!」
私は表面上余裕に振る舞っていたけど、実際は戸惑っていたわ。私の予想とまるで違ったんですもの。この人はマスターでは無いかもしれない、とも十分考えられた。
「あなたがこの街での最初のお友達だね!あくしゅしよ!」
「?あなた、引っ越してきたの?」
「うん!サンタさんに『お友達が欲しい』って言ったらプレゼントであなたが来たの!」
「まぁ本当に喋るのね。最近の人形は凄いわね」
部屋に入ってきたマスターのお母様も、感心と驚きが混じった声を上げてたわね。そしてすぐにこっちの疑問を察してくれたのか、答えを話したわ。
「うちはね、主人の仕事の都合で、昨日引っ越してきたばかりなの。この子の友達も、それで離れ離れになっちゃってね」
いきなりそんな事を言われて、正直戸惑ったわ。でもともちゃんの期待を込めた笑顔と、何よりお母様のお腹……。
「?そのお腹は?」
今よりも膨らみは少ないけど、妊娠してるというのは私にも解った。
「私の弟がいるの!」
嬉しそうにトモちゃんは言った。
「もうトモコったら、まだ解らないって言ってたじゃない。こんな体だからね。こっちじゃ頼れる人も少ないから、あなたにこの子のお守りを協力してもらいたいの。お願いできる?」
「ベビーシッターだなんて……私達の本来の用途ではありませんわ。でも……断れないじゃない。これじゃあ」
「嫌?」とトモちゃんは泣きそうになる。冗談のつもりでの反応だったけど、こういう反応は予想以上に私のASにくるわね。まぁ育児が自分の使い方ではないと愚痴ったのは本音だけれども。
「そ!そんなことないわよ!私はマテリア!よろしくね!わぁっ!」
握手として自分よりも何倍もの手に握られた私、大きなトモちゃんの手は私の肩ごと掴み、引き寄せる。
「まてり……?じゃあマリちゃんね!」
「マリちゃん……まぁ、可愛いからいい……かしら」
そうして早半年、すくすくとトモちゃんは大きくなって、時間が流れるにつれて、確実に環境が変わりつつあるのを実感した。ここではいないけれど、トモちゃんのお父様もトモちゃんの事をとても大事にしていたわ。
だって、私がこの家に来た日の夜。お父様から言われたから、私が買われた理由は……。
――
「……生まれる時は、お父様も一緒にいるといいわね」
マテリアはそれとなくマスターの父親の話題を出す。様子見も兼ねた質問だ。
「……パパきらい」
トモコはそれに対して露骨に嫌そうな顔をする。まだ駄目か……とマテリアはASで呟いた。
「……そういうのはよくないわよ。もうすぐお姉ちゃんでしょ?」
「私はママと弟ちゃんとマリちゃんがいればいいの!」
そう言ってマテリアを抱きしめるトモコ。……父親の話題になるとどうもこれだ。
「でもパパも、トモちゃんやママの為に頑張ってると思うけどなぁ」
「やだ。……今日だって、お休みの日なのにパパお仕事で出かけちゃったもん。本当は今日皆でお散歩行く約束だったのに」
「……ねぇトモちゃん。それ以上は」
言っちゃ駄目。どうにかなだめようとするマテリアだが、トモコは止まらない。母だとどうしてもマテリアよりキツイ言い方になる為、自分でどうにうかしたい。というのがマテリアの考えだった。
「マリちゃんが来たクリスマスだって、本当は私と遊んでほしかったのに……」
「トモコ!それ以上言っちゃ!……うっ!」
見かねた母の発言。その時だった。母がお腹を押さえてその場にうずくまる。
「お母様?!どうしたんですか!まさか!」
陣痛か!とマテリアは判断する。
「急いで救急車を呼ばなければ!!」
「駄目よ。確か陣痛は救急車駄目だって……!」
まだ呼べないと母は告げた。トモコもこの状況にどうしていいか解らず、母親に泣きついていた。
――人を呼ばなきゃ……!なんでこんな時にドローンを忘れてきたの!――
「大丈夫。少しすれば収まるからその時に……」
出産経験がある所為か、一人母親は冷静だった。とはいえのんびりしてられない。
「あれ?マテリアじゃん。どうしたの?」
その時だった。あっけらかんとした声が響いた。マテリアにとってはよく聞いた声だ。
「フレズ?!どうしてここに!」
「マスターが病院で入院してるからお見舞いだよ。……ねぇ、君のマスターのお腹、大丈夫?」
母親の様子を見てフレズは状況を飲み込んだ。
「生まれそうなの!タクシーを呼んで頂戴!!」