フレームアームズ・ガール外伝~その大きな手で私を抱いて~ 作:コマネチ
その後に母親はタクシーを呼んでもらい、病院へ直行。すぐさま入院となり、色々と手続きを踏んだ後に、出産の手術となった。手術室に母は運ばれていき、マテリア達とマスターはその前の廊下で待機する事になる。
「……暇だね」
フレズがぼそっと呟いた。マスターとの用事を済ませた後、なぜか戻ってきた。現在の時刻はもう日が暮れかけている。
「呑気な発言じゃないあなたぁ」
怒りをにじませてマテリアは呟く。病院じゃなければ怒鳴っていたかもしれない。マテリアの方はかなりイライラしていた。
「悪かったよ」
その横でトモコは長椅子で横になりながら寝息を立てていた。
「マテリア!大丈夫なの?!」
と、そこへ更にFAGが現れる。ドローンに乗ったイノセンティアとレティシアだ。マテリアにとっては予想してない珍客だった。「なんであなたが」と言いたげなマテリアだったが、察したのかフレズが説明した。
「ボクが連絡したんだよ。イノセンティアだって心配はしていたんだよ」
「いやだからって友達まで連れてくるのは……」
「えー、でも皆来ちゃったしー」
イノセンティアが自分の後方を示すと、轟雷とスティレットとアント姉妹が姿を現した。
「心配なのは私もですよマテリア!」と轟雷。
「人をタクシー代わりにしといて何かと思えば他人の出産?!」と轟雷を吊るしたスティレットが愚痴る。
「なんか面白そうだからきたよー」とブリッツガンナーに乗ったアント姉妹。
「あなた達……呼んでないから帰ってくれないかしらぁ、特に最後のお二人さん」
見世物にされてるようで腹が立つ。せめてアント姉妹は追い出そうとするマテリアだったが、
「んー……。どうしたのマリちゃん」
「あ、ごめんねトモちゃん。起こしちゃった?」
騒がしさに目を覚ますトモコ。と、更に来客はこれで終わりではなかった。
「マリ……」
そこへスーツ姿の男性が現れる。トモコの母と同じ位の年齢だろうか。それを見たフレズは「おじさん誰?」と邪険に扱うが……。
「……お父様」
マテリアは言った。トモコの父親だ。
「……パパ」
トモコがわずらわしそうに呟いた。未だに父親には良い感情を持ってないらしい。フレズとイノセンティアも「まだ仲直りしてないんだ」とその時点で察した。
「……何しに来たの」
冷たく言い放つトモコ。その場の異様な雰囲気にFAG達が固まる。
「トモコ……」
「一緒にいてほしい時にはいないのに……ママ、さっきお腹痛いときもいなかったのに……こういう時だけなんで来るの?」
「トモちゃん……。ねぇ落ち着いて」
父親は長椅子に座っているトモコの両肩を持ち、そして目線を同じ高さになる様に、床に膝をついて向かい合う。普段相手に出来ない娘に対しての、出来る限りの誠意だった。
「トモコ……ゴメンよ。お仕事で……」
「いつもそうだよね。お仕事お仕事って、今日のお散歩だって、マリちゃんがいなかったら……」
「トモちゃん……」
「パパなんて……パパなんて家族じゃない!」
「トモちゃん!!」
「パパなんていらない!サンタさんがくれたマリちゃんの方が!ずっと家族だよ!」
両手でマテリアをぎゅっと掴むトモコ。それは「お前よりもこの子の方がずっと大事だ」という意思表示であった。
「トモちゃん!そんな事言わないで!!」
もう耐えられない。そう言わんばかりにマテリアは感情を吐き出す。
「マリちゃん!マリちゃんまでパパの味方するの?!」
「違うよ!パパは最初っからトモちゃんの一番の味方だよ!」
「嘘だよ!」
「嘘じゃない!だって!だって!!!」
マテリアが何を言おうとしているか父親は感づいた。止めようとするもマテリアは止まらない。
「私をトモちゃんにプレゼントしたの!」
「っ!マテリア!駄目だ!」
「私をあなたにプレゼントしたの!!あなたのパパなのよっ!!」
マテリアは声の限り叫んだ。
「……え?」
なんで……?とトモコは茫然とする。
「……パパはね、お仕事でいつもトモちゃんの相手をしてあげられないの。いつも気にしてたのよ」
マテリアの両頬を涙が伝う。父親もマテリアの大きさからは考えられない迫力に、止めようと思えなかった。
「……だって……そうでしょ。子供との約束は守りたくたって守れない。でもお仕事をやめたらトモちゃんの生活が大変になっちゃうわよ。でも、それで我慢していたらトモちゃん、お引越しで友達とお別れになってしまった。だからあなたのパパは、友達として、私をあなたに用意したの」
そうだ。マテリアが来た翌日の夜。トモコのパパとマテリアは初めて会った。そして言われた「トモコの友達になってほしい」と。
「トモちゃん、私、トモちゃんの事大好きだよ?でも、私だけを好きでいて欲しくないの」
「……なんで黙っていたの?」
「パパのプレゼントって聞いたら、お前はこの子を大事にしないかもと思った……」
「そんなの……」
「トモちゃん。勝手かもだけど、パパなりの思いやりなの……」
複雑そうな表情でトモコは俯く。
「……解ってるよ。私だって……。お引越しで、お友達が欲しいって願わなかったら、マリちゃんと会えなかったって事位……、パパのお仕事も私やママの為だって事……でもさ」
トモコの両目からも涙が流れてくる。
「寂しかったんだもん。ずっと家にママと二人で、友達とお別れになっちゃったの、許せなかったんだもん……」
「パパの方も……ゴメンな。お前と一緒にいてあげられなくて……」
「パパ……ごめんなさい!パパ!!」
マテリアを抱えたまま、父親に抱き付いたトモコ。と、直後に手術室のランプが消えて手術着の医師が出てきた。
「先生……」
「えぇ、生まれました。男の子です。母子共に健康ですよ」
やり切った顔で答える医師に、「やった」と言った表情になる父親とトモコ、そしてマテリア、
「とりあえず説明いたしますのでこちらへ」
「えー!すぐ会えるわけじゃないのー!?」
赤ちゃんの顔が見られると思っていたトモコはぐずりそうになる。それをなだめるマテリア。
「駄目よトモちゃん。お母さんも赤ちゃんも疲れるんだから」
「うー……」
露骨に不満そうになるトモコ。
「そういうわけだから皆、私達はやらなきゃらいけない事があるからもうこれ以上相手出来ないわ。じゃあね」
「じゃあ私達ももうこれ以上出来る事はないですね」と轟雷。
ただ一人、イノセンティアだけが、待ってマテリア。と彼女を引き留めた。振り返るマテリアに彼女はこう言った。
「おめでとう。マテリア」
「……えぇ、イノセンティア。ありがとう」
――
そして数日たって……
『おぉー!』
その場にいた全FAGが感嘆の声を上げた。場所はトモコの母親の病室。そこへ生まれたばかりの赤子の寝たベッドが運ばれてきた。まだ目が見えてないのか、寝息を立ててずっと寝ている。
「これがロールアウトしたての赤ちゃんだね!」
「物みたいに言うんじゃないわよ!!生まれたばかりと言いなさいフレズ!!」
「しー、マリちゃん。泣いちゃうから静かに」
「はーいべろべろばー」
「轟雷、寝てる時にあやしても無駄だから……」
――赤ちゃんか……。……いつかFAGと人間でも赤ちゃん、作れるかな……――
マテリア達の横で、マスターの顔を思い浮かべながらスティレットは思う。直後に「何考えてんだろ私」と顔をしかめた。
「なんか……不思議だよね」
皆がはしゃぐ中、イノセンティアだけ神妙な顔をしていた。
「イノセンティア?」
その様子がマテリアには気にかかった。
「ついこの間まで、いなかったのに、今はいる。私達みたいに工場で作られたのとは違う。どこから来たのかなって考えるとすごく不思議で……」
「そうね……。増えたのよね……トモちゃんの家族が……」
感慨深そうになるマテリア。
「マリちゃんも家族だよ。そしてこの子はマリちゃんの家族」
「トモちゃん……うん!」
「やぁ皆、おっと、先客がいたかな」
そんな中、病室に父が入ってくる。仕事が早く片付いたのだろう。しかしトモコはそれに喜びの声を上げた。
「あ、パパ!」
「何度見ても、お前に似てるよな」
生まれたばかりの赤ちゃんを見ながらトモコに父は言う。
「もう!私こんなにお猿さんみたいじゃないよ!」
そりゃないだろう。と笑う父親。つられて母も笑った。
「僕の方も仕事がひと段落しそうだよ。これからはもっと早く家に帰れそうだ」
「え?!本当!?」
「トモコにも寂しい思いさせちゃったからな。今度何か買い物に行こう。何か欲しい物があったら何でも買ってあげるよ」
そんなに高い物は勘弁してね。と母親は付け足す。
「私は……別にいいよ。……代わりに、この子にFAGを買ってあげたいな」
生まれたばかりの弟を見ながらトモコは言った。
「あらトモちゃん……どうして?」
「マリちゃんと一緒にいて思ったの。こんなに素敵な友達、私だけが一緒じゃ勿体ないって、だからこの子にも最初のお友達としてFAGをあげるの!」
トモコの発言にマテリアは思う。今まで自分でもらってばかりの子が、自分からしてあげたいという意志を持った。それは一つ大人になったという事実。マテリアにとってとても感慨深い物だった。自分の主、そして友達の成長を見ながら、マテリアは胸がいっぱいになっていくのを感じていた。
「もちろん買い物にはママも一緒だよ!マリちゃんも一緒にFAGを選びに行こうよ!」
「えぇ、トモコ」
母も同様の心境だったのだろう。満ち足りた笑顔で答えた。
――
暫く月日が流れて……。
「……うーん……」
トモコの家のリビングで、箱から上半身を起こして一体のFAGが目を覚ます。機種はマテリア・black、マリの色違いだ。
「あ!起きた!」
トモコが待ちきれないといった感じで新しく起動したマテリアに詰め寄った。その後ろには両親も揃っている。
「ん……あらぁごきげんよう。可愛いあなたが私のマスターかしらぁ」
マリと比べて若干低いトーンで黒いマテリアは問いかけた。
「いえ、あなたのマスターは別にいるわ」
白いマテリア、マリは黒いマテリアに答えた。マリを見るや黒いマテリアは目を輝かせる。
「まぁ!私のアナザーカラ-のマテリア!あなたの様なお姉様がいらっしゃるとは!ここの生活も楽しくなりそうですわぁ!」
「だからあなたのマスターは別にいるって言ってるのよ。ほら、あそこよ」
「あそこ?……へっ?」
黒いマテリアは、マリの示した場所を見て固まった。……トモコの母が抱えていた赤子がそこにいたから。
「あなたのマスター、ユウちゃんよ。年齢は三か月よ」
「わ……私にベビーシッターをやれと?」
マリが来た時と同じ反応だったと母は苦笑する。
「いえ、あの子の友達、そして家族になるのよ。マスターとしても素敵な方よ」
「じゃあまずは名前決めようよー。白いのがマリちゃんだからテアちゃんでいいよねー」
「あらいいわねトモちゃん」
「いやよくありませんわ!名前文字の余りじゃないですか!!」
黒いマテリア、テアは自分の名前のいい加減さに思わず大声で突っ込む。
「ン……ふぎゃぁぁ――!!!」
その突っ込みが癇に障ったのか、赤子、ユウは顔を崩す程の形相、そして大声で泣き出した。
「あ……」
「もう。あなたが大声出すから泣いてしまったじゃない」
耳を塞ぎながらのマリの指摘にテアは焦り出す。
「そ、その……ごめんなさい。そんなつもりじゃ」
「よしよし、大丈夫よ。この子はいつも泣くか寝るかばっかりなんだから」
あやす母親、じきに収まって落ち着くユウ。
「ね、改めてこの子の友達になってくれないかしら?」
母はユウを抱っこしたままテアの前に向けた。新生児のユウは、まだよく見えてない目で、目の前のテアに手を差し出した。
「あ、よ、よろしく……」
テアの方も手を差し出し、触れたテアの手を、ユウは弱い力ながらも握る。と、同時にニコッと笑顔を見せた。
「っ!笑いました!笑ってくれましたわお姉様!」
思わぬ反応に嬉しくなるテア。
「よかったじゃないか。ユウも君の事気にってくれそうだね」
「あら、ユウが笑うのなんて初めてよ。このタイミングで笑顔を覚えるなんて、あなたとは運命の出会いかもね」
その言葉に嬉しくなるテア、それを見ながらマリは「チョロいわねこの子」と笑みを浮かべていた。
「あなたの言葉がこの子の学びになるわ。優しい言葉で話しかけてあげてね。テア」
「は!はい!」
「よろしくね。私達の新しい家族」
そうトモコは笑ってテアを迎え入れた。