転生っ娘にツイてしまった転世した俺の話。 作:高ノ宮 伏魔殿
#1 ツイてない俺の話。
人が生きていく中で、転機になるような大事件というのは突然やってくる。
それは人に限らず、動物や虫、植物…星や生命体とは呼びにくいものでも、きっとそういう風にできているのだろう。
転機は本当に突然やってくる。
それがそのモノにとって良い事だろうが悪い事だろうがお構い無しにやってくるのだ。
◇
俺の人生には、二つの転機が訪れた。
はじめの転機は俺が生まれる前、
自分の誕生日に両親を事故で亡くしている。
母親のお腹の中に居るときに起きた事故だったらしく、亡くなった両親の親、つまり俺の祖父母からすると、“残された希望”として大手術のもとに取り出された赤ん坊が俺である。
“奇跡的に無事だった赤ん坊”は地元の新聞に小さく載ったと祖父が言っていた。
そんな普通とは違う状況で生まれた俺を、我が子以上にとても大切に育ててくれた祖父母。
「元気ならそれで良い!」は祖父母の口癖。
好きな事を家計の許す範囲で自由にやらせてもらいながら、甘く、時に厳しく育てられてきた俺。
そんな俺も気付けばもう33歳、早いものだ。
結局、二人にひ孫を見せてやることはできなかった。
子供どころか…33歳にして彼女も居ない…。居たこともない!
寝坊した朝、街角で食パンを咥えた女の子とぶつかる事もなく今日まで生きてきたのだから、彼女が居ないのもしかたがない話だ!と誰か言ってくれ。
…クソッ、彼女欲しかった!
とにかく、物心付く前から祖父母が親として存在してくれていたので、俺自身は事故に対しての悲しみ等は無かった。
だが、祖父母は亡くなったあの時まで、事故の時の悲しみを胸に抱いていたことは間違いないだろう。
「おめぇの父さん、母さんとこさやっと行けるわぁ…」と言っていた悲しくも優しい顔はとても印象深く俺の心に残っている。
祖父母の旅立ちが俺に訪れた第二の大きな転機。
とは、ならなかった。
確かに多少の不幸を気にしない俺でさえ、暫く鬱ぎ込む程とても悲しい別れだったが、
それは明確に違うと分かっている。何故か?
二度目の転機はなんの変哲もない“普通の日”の筈だった、“今日”やって来た来たのだから。
そう、今日は普通の日だったんだ……。
田舎街で大学に行かずに就職を選んだ俺は就職企業の二度の倒産を経て、今の建築会社に入社した。
そんな俺は建築現場の作業員としてこき使われるべく、今日も仕事場へと車を走らせた――
昨日、難攻不落だったゲームをクリアしたし、やる気は上々!
天気も良いな、雲一つな……ん!?
ナンダアレ?
一瞬見上げた空の端に何かが映った。
新手のパフォーマーか?………ッッとかいってる場合じゃねぇ!!
人だ!
人がちっさいビルの屋上にいる!フェンスも手摺もない屋上の端に!!
それは誰の眼にも、一目でヤバい状況と確信できる立ち位置。
俺は車を急ブレーキで止め、すぐに車から降り、ビルに向かって走った。
「こんな田舎で!テレビドラマじゃあるまいし!何で俺が通る時間に……!」
俺は悲鳴に近い文句を吐き出しながら全力で走った。
ビルはもうすぐそこ。
俺は走りながらビルを見上げ、見間違えであることを祈るようにもう一度ビルの屋上を確認する。
人!女性だ!やっぱり居た!
状況的に向こうもこちらに気付いているはずだが、俺に対する反応を見せない。
ビルは3階建、すぐに中にさえ入れれば、全力で走り階段をかけ上がりさえすれば、30秒もあれば彼女の元に行けるはず。
俺はスポーツ、ゲームなどの遊び、仕事でさえも考えるより先にやってみる!やってダメでも出来るまでやればいいだろ!という矛盾を押しきる単細胞の感覚派。
自他共に認める“脳筋野郎”だ。
であるからして、俺とは違う“頭の回転が早い人達”が思い付くような救助方法をこの状況で思いつくはずが無い。
「ハァ!ハァ!…ドアは…!あそこか…!……」
もし鍵がかかってたら横の大きな窓を割って入ろう、きっと人助けの為なら許してもらえるだろう。そう思いながらドアに手を伸ばした――その時
飛んっ…だ…!
女性が飛び降りた!!
俺の頭は真っ白になる、真っ白になりながら、俺は彼女めがけて横に跳んでいた。
3階建てのビルの屋上から飛び降りた人を助けられる、そんな漫画の主人公のような力が俺にある筈がない。
そのくらいの事は分かっているのに、どうしてそうしたのかは自分でも分からない。
考えるよりも先に体が動いてしまったのだから仕方がなかった。
それが映画撮影で、俺が映画監督だったならば、彼女が俺の所に落ちてくるまでのシーンはカップラーメンが出来上がるくらいの時間を使うと思うのだが。
残念ながらそれは映画撮影では無かったし、俺は映画監督ではなく建築作業員である。
あっと言う間に。“あっ”と言う間も無い程に一瞬で彼女は俺の上へと落ちてきた。
「よけ…!」
女性は何かを叫びかけた。
――ゴッッ!!
それ以上ない程のリアルな音が響き、一瞬火花のようなモノが散るのが見えたが、目の前が真っ暗になり俺の音は消えた。
普通の日だったはずの“今日”と共に。
およそ意識が無い中での意識。とでもいうのか、この中で考えてみるに俺は元々ヒーローのような存在に憧れていたんだと思う。
突然の出来事にその思いが強く爆発し、もし俺に特別な力があったとしたらという期待で、女性を救える行動をとったのかもしれない。
そして結果は明白。俺はヒーローになる事に失敗、きっとあの女性を助けることも出来ずに自らも死んだのだろう。
あの瞬間、彼女は何て言おうとしたのかな。よけ…。
余計なことすんな!とかかな?ハハ…。
だとしたらちょっと凹む……。
いや、物理的にも俺の頭は凹んだだろう。
けど、確かにそうだな…余計だったかもな。
まぁ、死んじまったもんはしゃーねぇか!
じいちゃん、ばぁちゃんに会えるかな……。
最後に感じたあの衝撃、巨大な鈍器でぶっ叩かれたような衝撃は筋肉自慢の俺にも死んだと理解させるに十分足るものであった。
それからしばらく時間が経ったように感じるのだが、俺は変わらずに遠い意識の中で、もう一人自分が居るかの様に自分に起きた出来事を整理しながらモヤモヤと過ごしていた。
深澤 円(フカザワ マドカ33才、独身)の物話はここで終わり。
第二の転機は俺の人生をあっさりと終わらせてしまったのだ。
◇
終わっ…ん?光が……。
生きてた?俺、生きてた…?
「あふ、えああ、ああ」
声が聞こえる。小さい子の声?赤ん坊の声?
子供の声…。
病院?病院だとすると、小児科?それとも産婦人科?
だが何故だ、小児科も産婦人科も俺とは関係無いはずだが。
俺の目はまだ見えない。
「おめでとうございます!元気そうな女の子ですよ!」
看護婦さんらしい人の声が聞こえる。
やはり産婦人科なのだろうか。
「はぁ、はぁ、ありがとうございます。
この子、泣かないですけど大丈夫ですか?」
母親らしき人の心配そうな声からは出産での疲れが伺える。
「大丈夫ですよ、声も出ていますし。健康そうなお子様ですよ」
看護婦さんらしき人が返事をする。
看護婦さん(仮)とでも名付けようか。
俺の目はまだ見えないが、それにしても声がとても近い。
まるで耳元で話しているかのように近い。
「それでは加護を掛けますね。ホーリープロテクション!」
……ん?普段では聞きなれない単語が聞こえた気がする。
いや、モーリープロダクション?…それだと看護婦さん(仮)の滑舌は壊滅的なダメージを受けていることになるのだが。
「ありがとうございます、ビショップ ミルザ様」
母親らしき人がほっとした声でお礼をする。
う…ん。ビショップ?どうやら看護婦さんではなくビショップだったらしい。ビショップて!ゲームじゃないんだから!
……。なんか変だと思ったんだよ、俺だってさ…。
はぁ…。ハハハ…うん。どうやらそういうことらしい。
こういった時、人は焦るべきところなのか、喜ぶべきところなのか。
こは日本ではないようだ。というか世界が違うらしい。
俺の身には基本起こり得ない、転生というレア事象が起こってしまったようだ。
何となく今の状況は想像できたが、目はまだ見えない。きっと俺は可愛い赤ん坊に…。
多分こういう場合でもなんとか出来ちゃうのが転生者の特権なのだろう!というかそうであって欲しい!
力を込めてみる、全身の感覚を研ぎ澄ますように。
…
スイーーーン!
…ふぁ!?何事か?体が軽い?飛んでる?
フライングベイビー!?
妖精?俺は妖精に生まれ変わったのか?先程居たビショップさんは魔法的なものを唱えていたし、魔法があるなら妖精がいても不思議じゃない。
「あきゃっん!」
赤ん坊が何かを言いたげに口を開く。
赤ん坊の声。
俺?俺が喋ってる?いや待て待て感覚が無い!赤ん坊って自分の意思で喋ってる訳じゃないのか!?なにこれ怖い!
むぅ!やはり優先するは目かっ!
全神経を目に集中させ息を大きく吸い込んだ(つもり)。
するとビリビリと力がみなぎってきた。ぼんやりしていた白い光に色が入る。見え…てきた…。見えた!
木造の優しい雰囲気の家の天井だ。天井が…近い!!
俺は天井のすぐ下をふわふわと浮いていたのである。
見下ろすとそこには横になり休む大人の女性がいた。その隣に赤ん坊が入れられた揺りカゴが大切そうに置かれていた。
赤ん坊は俺の生まれ変わりでは無かったらしい。
人間として転生出来なかったのは少し残念である。が、そうなると俺は何者なのか気になるところだ。
妖精ならまだ良いのだが、ハエや何かだとしたら…ゾッとする話だ。
確かめねば…!
自分の姿を映すべく、俺は窓の前へと向かう。
大きく息を吸った時から体は自由に動かせている。
どうやら息を吸うことで力がみなぎる体らしい。
窓の前、映った自分。黒い。とにかく黒い。二本の角?に見えなくもない影、ぽっかり真ん丸で黄色い目。
目以外は全て黒い。黒の中に黄色い目と口のところがたまに赤く裂けて見えている。
……悪魔?恐ぇぇぇえええ!!可愛くねぇぇぇ!
恐ろしい見た目。と言うほどでは無いが、地球人100人に聞いたとしたならば、悪魔という返答が8割近くにはなるだろう。
…………って、うぉい!!悪魔?影?嘘だろ!?
いや、これってどういう扱いになるんだ!?ヤバいだろう…。悪魔だぞ…?悪魔というかシャドウというか…。
我輩は悪魔である。脚はまだ無い。
とか言ってる場合じゃねぇ!
んぁ~、まぁ。虫嫌いの俺的にはハエよりは良かったか。
よく見ると、赤ん坊と俺の間に黒っぽい線が繋がっている。
線というか、これは影だろうか?
考えることが苦手な俺は、とりあえず繋がった影を手繰るように赤ん坊の元へと近づく。
「きゃ!あうぅあぁ。んにぃ。」
無邪気に笑う名前も知らない赤ん坊。
今のところ、俺に対しての嫌悪感は持って無さそうで良かった。
俺もこの赤ん坊もこれからどうなるかは分からないが、こうして俺の第二の人生…?悪魔だから、悪生?アクセイだと響きが嫌だな。影生?が始まってしまったのである。
転ツイpoint①
深澤 円【ふかざわ まどか】
ガテン系で働く、脳筋のおっさん。
死によって転生したが、人間ではなく。実体(じったい)の無い悪魔というか、シャドウのような存在として生まれ変わった。
元の世界でも “ある条件を満たした男ならば魔法使いになれる”という言い伝えが在るのだが。
彼はその条件を満たしている。