転生っ娘にツイてしまった転世した俺の話。 作:高ノ宮 伏魔殿
遂に天使族の住む大地“浮遊城”に降り立った二人は何をするのか。
(・∀・)えっ?またコント?
(;^ω^)もう少し、もう少しでシリアスがやって来ますから!何卒見捨てないで~!
ここはワルプ村からドラゴンに乗って片道2時間40分、
天使族の住む地“浮遊城”
浮遊城には、城だけでなく城下町も含まれており、
島の端に行かない限り浮いてる島という感じはしない。
島が空を動いてるわけでもなく、800年程前からずっと同じ場所で浮かび続けているとか、なんとも不思議な島だ。
この浮島の特徴としては、見上げる空が素晴らしく綺麗である。
何にも遮られずに、見渡す限り淡い青色が広がっているのは雲より高い位置にあるからであろう。
街並みも美しく、白い石畳の道や白い石壁の建物など、白い石が多く使われており、それが空の青と非常によく合っている。
俺の建築魂が刺激される町並みだ。
生活環境としては高度な位置にもかかわらず、酸素も薄くなく風が強いわけでも寒いわけでもないとメルが驚いていた。
この状態を保っているのは魔法や結界の類いなのだろうか。
島に住む天使族は動きを見る限り大人しそうな人が多く、
男は寡黙、女はおしとやか、といった雰囲気であるが実際はどうなのだろう。
見た目は人族と同じく十人十色、けれど髪が白と黒の混合色で眼が黒目の部分が赤、白目の部分が黒――というのは皆同じらしい。
天使って言っても、俺のイメージとは全然違う。
命の恩人を気持ち悪いとか言っちゃうような恩知らずな奴も居るしさ。
くっそー、テスタントの奴。
いつかお礼を言わせてやりたいぜ!
メルがそんなルベルアを一瞥(いちべつ)する――
「ねぇ、ルアさん!まだ怒ってるの?」
メルが上目遣いをしながら、キュッと脇を閉めてグーにした両手に顎を乗せる“
それを見たルベルアから、負のオーラが消えてゆく。
くぅ、色気ひとつ無い七歳のガキんちょなのに……中身が子供じゃないだけに女の武器を知ってやがるぜ、末恐ろしい奴め!!
『怒ってないわい!』
くぅー、照れてしまったぁ!
完全に俺の敗けだぁ!
俺達がここで暇そうにしているのには訳がある。
テスタントが先に主君の所へ報告に行き、謁見の準備が出来たらメルを呼びに来る。という事らしいのだが、まだ暫くかかりそうだ。
『メル、まだ時間あるだろうし、ちょっと城下町を探検に行こうか』
「うーん、けどこの“鐘の広場”で待ってるように言われたし」
『それじゃあ、俺はちょっと見てくるわ!』
綺麗なお姉さんが沢山居るかもしれないしな、ククク。
「えー、待ってよ!私も行くー!」
結局ついてくるんかい!!
城下町にはどこで仕入れてくるのかは分からないが、新鮮そうな果物を置く店や肉を置いてる店まで存在していた。
天使でも肉とか食べるんだなぁ、なんとなくベジタリアンだと思ってたけど俺の偏見か。
『おっ、喰い物屋があるぞ、行ってみよーぜ!』
見つけたのは軽食屋といった感じの店。
「わっ、なんか良い匂いがする~!けどルアさんて食べ物食べれるの?食べてる所を見たことないけど」
メルの言葉に固まるルベルア。
あれ?そういえば俺ってこの7年ちょっとの間、空気だけで満足して生きてきたのか?食べ物に対する欲求は感じたことが無かったけど、
そのことにすら気付かず生きてきたなんて。
『メル、確かにそうだな。この体の所為なのか今まで食べるって事を考えたことすら無かったよ……。実際、物を喰えるのかも分からん』
「よし!じゃあ何か買ってくるから試してみようよ」
暫くして――
「買ってきたよー!」
メルが可愛らしい小瓶を持って帰って来た、やっぱり女の子だな、スイーツか。
『お帰り、なんだそれ?』
「えーとね、ラミスっていう鳥の肉を骨付きのままトロトロに煮込んだ物みたい」
そう言いながらメルはルベルアに小瓶の中身を見せる。
『おお、フルーツとかスイーツ系を買ってきたのかと思ったら、なかなか渋い選択だな!見た目的にはトロトロに煮た手羽先って感じか』
「あっ、フルーツが良かった?私、手羽先って食べたこと無いから食べてみたかったの」
少し照れて頬を掻くメル。
『あー、俺の世界だと誰でも食えるくらい普通にあったんだけどな。俺の知ってる味と似てるならきっとメルも気に入るさ!』
「あ、いや、うん……そう……なんだ。まぁ、とにかく先に食べてみてよ。ルアさんって私にしか見えないけど、もしルアさんが物を食べれるなら他の人からは食べた物がふわふわ浮いて見えるのかな?」
んー、言われてみればそうなのか?
『まぁ食ってみれば分かるか、どれどれ――』
俺は小瓶の中から鳥肉を取り出し、
トロ~っとした肉が垂れ落ちる前にスッと口へと運ぶ。
モグ…モグ…。舌の無い俺にも味覚は……あるようだ。
少し塩味の付いた肉が溶けて口いっぱいに旨味が広がる。
……ゴクリ!
『――んん、旨い!何故俺は今まで食事を忘れてたんだ、こんな楽しみを!この世界の料理も旨いじゃねぇか!メルも食べてみろよ、イケるぞ!』
ルベルアは食事の素晴らしさを思い出した。
「う、うん!私も食べる!――もぐ…もぐ…。 ごくん…。
ぁ~っん!美味しい!もっと買ってくれば良かったぁ!お金ならあるし、買ってこようかな」
メルはトロトロ手羽先をかなり気に入ったみたいだが、何かを思い出したようにルベルアの方を“バッ!”と見る。
「うーん、やっぱり私じゃ分かんないや!もともとルアさんが透けて見えてる訳じゃないし」
『ああ、そう言えば周りから見たらどうなってるんだろうな。ちょっとあの人の前をチョロチョロしてみるか』
あの人というのは、路地に設置されたベンチに座り本を読んでいる天使の女性、
色白な肌が日の光に薄く輝き、腰くらいまでありそうなツヤツヤした髪を頭の横で束ねてある。
たまにそよ風がその髪を揺らすが女性は気にせず赤い瞳で本を読む。
◆
天使だ!
テスなんとかってエセ天使とは違う、本物の天使だ!
しかも、ワンピースのスカートである!
俺が彼女の前をうろつく、すると彼女には俺の姿が見えないので、宙に浮かぶ手羽先もとい“手羽先の亡霊”だけが見える!
え?シュールすぎる?そんなのはどうでも良いんだ。
彼女はそれに驚き後ろへひっくり返る。
そこが重要だ!
椅子に座るスカートの女性が後ろにひっくり返る、
すると素敵な光景が見えてくるだろう?
そう言う事だ…。
全ての神々は我が計算の前にひれ伏すが良い!
◆
『じゃあ、試してくるわ!』
ちょっと緊張する、
スゥーハァー!スゥーハァー!
「ちょっと!こんな空の上で何かあったらどうするの!?スゥハァ禁止だよ!速く行ってきて!」
――女性の前まで来たルベルア。
まだ女性に反応は無い、というか彼女は本に夢中だ。
『全然みてくれないぞ?』
俺がそう言うと、メルは女性に声をかける。
「あの、鐘の広場はどちらへ行けばありますか?」
すると女性は本を読むのを一旦止め、広場への道をメルに教え始めた。
ルベルアはその間に女性の目の前をこれでもかと、伝説の魔物“
しかし女性は一切反応せずニコやかに道を教えた後、再び本を読み始めた。
メルはペコリと頭を下げて、その場を離れた。
「食べた物も見えないみたいだね。え?ルアさん、なんでガッカリしてるの?見えない方が安心して食事できるじゃん」
メルがガッカリするルベルアを置いて、鐘の広場へと歩きながら言った。
クッソー、女子には分からないさ!!
――俺達が“鐘の広場”へ戻ってくると、既に待っていたテスタント。
「メルさん!何処へ行ってたんですか?我が主はもうお待ちですよ」
「ごめんなさい。少し街を見物してたら迷ってしまって」
メルは咄嗟の嘘を自然に言える子に育った。
「そうでしたか、貴方は私の恩人です。あとでたっぷりとご案内しますよ。ですが、今は謁見の間へ向かいましょう」
三度も殺されかけた相手を恩人と呼ぶテスタント。
城へ入ると、謁見の間への道は入り口から真っ直ぐに続いている。数人の天使族兵士が警護しているとはいえ簡単な造りであり、外敵の侵入などがあった場合の守備が心配になる造りだ。
通路脇にある部屋にも沢山の兵士が居るのだろうか。
俺がそんな事を考えているうちに、謁見の間の入口へ到着した。
メルは少し緊張しているようだ。
それが伝染し、俺にも緊張が走る。
スゥー、ハァー、スゥ“”ギュウッ”痛ッ!
メルが俺の尻(的な位置)をつねり、キッ!と睨みつけた。
『あっ、ああスマン。スゥハァ禁止だったな』
深呼吸さえ出来ないなんて、俺にとって世知辛い世界だぜ。
「我が主!客人をお連れしました!」
――ギィィ。
テスタントが叫ぶと、謁見の間の扉が勝手に開いた。
部屋の中には兵士がそれぞれ五人づつで通路を挟んで整列している。
その先の巨大な椅子に座るのは背丈がテスタントの倍はあろう天使族だ。顔の周りに蓄えた髭と鋭い眼光が異様な雰囲気を作り出している。
ひと目でそれがテスタントの主君なのだと分かる。
ただならぬ威圧感を放つ天使族の王が、見た目とは裏腹に優しい声で言った。
「入るが良い」
「はっ!」
テスタントは“さぁどうぞ”と、一度メルの肩をポンと叩いた後で部屋へ入った。
「お邪魔します!!」
メルはガチガチに緊張しながらテスタントに続く。
失礼します!ではなく、お邪魔します!と言うところ可愛いんだよなぁ。まぁ、俺も緊張してるんだが。
俺はメルにピッタリとくっついて行った。
近付くとその威圧感は更に増す。
天使族の王はかなり長い刻を生きているのだと見た目で分かるが、その気配は現役バリバリの戦士と言った所だ。
天使族の王は眼前まで来た人族の女の子をまじまじと眺め……
「ふぅむ。テスタントの報告は聞いたが、余は其方が生まれた日に同じ方角から不吉な力を感じてな。テスタントを倒す実力からも只者とは思っておらぬが、一体何者なのだ?」
うぇぇぇ怖えぇぇぇ!
優しそうな声なのに、なんちゅう迫力だよ。
「あ、あううあわわ、私は――
あまりの迫力に泣きそうなメル
――わ、わだすは村の子、あっワルプ村の子供ですだ!」
緊張のあまり田舎っぺみたいな話し方になっている。
『メル、落ち着け。お前はテスタントの恩人なんだからドンと構えとけ』
ルベルアの声に、メルは一瞬“ビクッ”としたが小さく頷く。
「緊張してしまい、すいません。私はワルプ村で育てられた普通の子供です。村には剣や魔法を教えてくれる人が居て、小さな時から色々教えてもらいました」
メルはうっすらと汗を滲ませ手をギュッと握りしめている。
王の表情は変わらず、
やがて王は顎に手を当てながら言った。
「ふぅむ、では其方は何者であるか?」
――――!!!
ま、まさか!?
姿が見えないからとお気楽にしていたルベルアだったが、一気に緊張が高まる。
見ると、メルも急激に汗をかいている。
二人の焦りも仕方のない事、
今まで何度も試したが誰かにルベルアの姿が見えたことなど無いのだから。
どうする!どうしたらいい!?
王が再び口にする、
「むぅ?聞こえなかったか?其方は一体何者なのだ?」
――。
く、答えるしかないか……、
『俺は――
「我が主よ、私はテスタントです」
不意を突いてテスタントが答える。
!?
ふぁっ!!?
メルも“アイアイ”みたいな目をして、テスタントを見ている。
驚く俺達をよそに表情を変えない王が答え返した――
「ん?ああ、テスタントか。」
『……。』
「……。」
コイツ、許すまじ!
転ツイpoint⑭
【ラミス】高度の高い場所を渡る渡り鳥の一種。
水色の羽に覆われており、白鳥のように首が長い。
ラミスの肉は癖の無い淡白な味なので、料理の味を作りやすく食用として人気な鳥である。
エンドルゼア北東では割と多く見られる鳥。