転生っ娘にツイてしまった転世した俺の話。 作:高ノ宮 伏魔殿
歌が聞こえる
赤ん坊のお昼寝の時間らしい。
海と大地を守る 八の神獣
大空からは四の神竜の唄が聴こえる
我らは祈り 奇跡の光を見るだろう
命を授かりし小さき者よ
その瞳は何を見る
神獣様が踊るとき 神竜様が唄うとき
あなたは何を捧げましょう あなたは何を捧げましょう
……
ごぎげんよう。ここはワルプ村だよ。
オイラかい?オイラは生まれたての小さなデビルさ!
こんなRPG(あーるぴーじー)のNPC(えぬぴーしー)みたいなセリフを言いたくなるほど、のどかな村だ。
そこで子守唄を歌っているのはエリスという若い女性で、俺の双子?と呼んで良いのかは分からないのだが、半年前に俺と一緒にこの世界に誕生した赤ん坊の母親がエリスである。
髪は明るい茶色で、笑顔がめちゃくちゃ可愛い!文句のつけようの無い美人。お母さんでこれなら赤ん坊の将来も楽しみだ。
そのエリスの旦那である男の名前はモルドー。幸せそうな顔しやがってこの野郎!と、言いたくなるような顔をしている。
俺より若いくせにこんな可愛い嫁さん貰いやがって!
ガッデェェム!!
なんて思ってはいない、本当だよ?本当に本当だよ?
その二人の愛娘として生まれた赤ん坊はメルと名付けられた。
メルは両親と同じ明るい茶色の髪がすでにふさふさしており、真ん丸い瞳は綺麗な青い色。とても可愛いらしい顔立ちである。
メルはその可愛らしい口をポカンと開けてよだれを垂らしながら寝ている、爆睡だ。
気持ち良さそうに寝ているのだが、生まれた時から意識のある俺からすると子守唄の内容が気になってしょうがない。
世界に点在する化け物の話なのか!?
生け贄の話なのか!?
出来るなら何も捧げたくないよ! こえーよ!脅すなよ!
とか思いながら聴いている。
魔法がある世界だからと言って化け物が存在するかも分からないのだが、俺みたいなのが居るのだから化け物も居るのだろう。
まぁ、変な唄だ。
メルは普段から大人しい子である。
悪魔と体の一部が繋がっているとは思えないくらい大人しい。
この可愛い赤ん坊に迷惑をかけるまいと、俺は一人で遠くの地へ行った方が良いのでは?…と強く考えてしまう。
とある珍事件がきっかけでそう思うようになったのだ。
珍事件の話だが、俺の体は通常時では物をすり抜けられる状態になっている。幽霊みたいなもんだ。
だが意識を少し集中すれば、物を触り、動かすことができる。
それに気付いた時、俺はテーブルに置いてあった花瓶を試しに持ち上げてみた。
その時に“そういう時に限って”というやつなのか、タイミングよく部屋に入ってきてそれを目撃したエリス。
いつもはおっとりした優しいお母さんであるエリスの口から
「は…!?なにこれ……!!」
といつもより4オクターブくらい低い声でドン引きされたのだ。
さらには、大慌てのエリスに連れて来られたビショップのミルザが、およそミルザが知っている魔法は全て出しきったのでは?と思ってしまうくらい、ミルザはあらゆる呪文を半狂乱で唱え続けた。
俺の中の“ビショップ”のイメージが簡単に崩れ去ったことは言うまでもないだろう。
呪文の詠唱を終えたミルザは――
「キエェェェエイィィ!!」
と昔テレビで見た剣道の達人みたいに叫びながら、この家で長く愛用されていただろう花瓶を、持っていた杖で盛大に叩き割った。
というのが珍事件の一連の流れだ。
俺からすれば珍事件だが、この家始まって以来と言える大騒ぎに家主モルドーは魔除け人形を買い寄せメルの部屋の片隅へと設置した。
魔除け人形の見た目は…
日本人形とフランス人形を足して、仕上げに硫酸をぶっかけた。
というような俺に恐怖を与えるに十分な作りである。
魔除けというよりは、この人形そのものが呪いのアイテムなんじゃね?と思わせる。本当に怖い。いや、マジで。
その人形と目が合ったならば、その日は一人でトイレに行けない、お風呂に入れない。という状態になるに違いない。
もし俺が思春期のガールだったなら、こんな人形を買ってくるような父親は
“キモい臭いこっち来んなの刑”に処(しょ)すところだ。
俺がただのちっさい悪魔っ子だったことをモルドーは感謝するべきだろう。
その珍事件の後から俺は旅立ちを考え始めていた。
やはり異世界でもイレギュラーな存在というのは人々に恐怖を与えるらしい。
正直な話、食事も睡眠も必要無い俺にとって、メルの可愛い寝顔が見れなくなること以外は一人になることに大したデメリットは無い。
メルの体と繋がっている部分の影は俺の意思次第で簡単に切り離せることは、すでに実験済である。
その実験の時に、ビクつきながら村をぐるりと一周したことはこの体に生まれ変わった俺の中で、最初の“新鮮なスリル”を感じた体験だった。
まぁ、いつまでもここに居ては仕方がない。迷惑をかける前に行くとするか、
お別れだね俺の相棒、可愛いメル。
『さようなら、元気に育てよ!』
俺からの一方的な相棒だったけど、お前との生活は癒しの日々だったよ。夜泣きもぐずりも少ない珍しいタイプの赤ん坊だったということもあり、余計に可愛いさだけが思い出に残るであろう。
俺は スッ と影を切り離し村の南西に目をやる。
そこには、見えるのは“ウラド”と呼ばれている山脈。
メルの両親や村人の会話から聞き得た情報によると、ウラド山脈を越えると少し大きな街“ベクール”があるらしい。
折角、別の世界に来たのだから色々な街でも見に行こう。
というわけで俺は一直線に飛び始めた、目指すはベクール!
息を吸う、というか空気を吸収する度に勢いは加速する。
スピードを上げても疲れ知らずで、エネルギーも必要無し!
なんて便利なんだ悪魔ポディ!!
普通の人間が徒歩でワルプ村からベクールの街まで旅をした場合、旅慣れた人でも7日程は必要らしいが。
飛行経路は順調だ!快適な空の旅をお楽しみ下さい!
―――ギューン!
『このスピードなら、1日とかからっカハッハ!!』
急にガツンと意識が何かにが引っ張られた。
時速300kmの早さで自転車を走らせている時、急に着ていたパーカーの帽子部分を引っ張られた感じだ。
勿論、そんな状況を体験した事はないけどね。
何とか体勢を保っているが、これ以上先に進むことが出来ない。
むぐぐ…、どうして…、ムキュッ!!
見えない謎の力に抗っていると、謎の力が一気に強くなった。
グイッ!!
抵抗することも出来ずに、俺は飛んできたスピードと同等のスピードでワルプ村の方へと引き戻されていく!!
「ああぅぅ!ちゃい!」
訳も分からず舞い戻ってきた俺を無邪気な女の子がお出迎えしてくれた。
『ハハ…ただいま、メル。』
他の人には見えていないらしき俺の体なのだが、
どうやらメルにだけは俺の姿が見えているらしい。
そして俺はこの可愛いらしい相棒と一定以上の距離を離れることが出来ないようになっているのかもしれない。
それともメルの意思で俺を引き寄せる事ができるのだろうか?
そうだとしたら、影の繋がりが切れていても意思の力だけで引っ張る事ができるという事になる。
うちの子、天才なんじゃないかしら!?
離れることが出来ない存在……、
運命共同体……!!
可愛い瞳は俺の事をじっと見つめている。
こんな眼で見つめられたら
“貴様の事はこの我輩が守護してやろうグハハハハ!”
という気分になってしまう。
ほんの数分の別れだったけど――
『改めて宜しくな、メル!』
「あぅ!」
メルは真剣な顔をして声を出した。
は?返事?な訳無いか。俺の声が聞こえる事は無いのだから。
―――。
『メル?』
「あぅ」
少しそっぽを向きながらメルが声を出す。
『あぅ、あぅ?』
「あぅ、あぅ」
メルがとても面倒くさそうな顔でしぶしぶ声を出す。
…って、えええええぇえ!?
転ツイpoint②
【モルドー】メルのお父さんであり、エリスの旦那である。茶色の髪で眼鏡を掛けている。
畑仕事で体は毎日動かしているのだが、なぜか少し
ぽっちゃりしている。
【エリス】メルのお母さんであり、モルドーの奥方である。茶色の髪を肩にかける位のミドルヘアで笑顔が可愛い。
村の中でも人気のある美人なお母さんなだけに、モルドーとの結婚はワプル村の怪奇事件としてヒソヒソとネタにされている。