転生っ娘にツイてしまった転世した俺の話。 作:高ノ宮 伏魔殿
三日目に、ルベルアがミハエルと戦闘訓練をしている間にメルはある事を心に決めていた。
それは10才になるまでの三年間を浮遊城で暮らす、というもの。
メルの意思は変わらないと判断したルベルアは、一度ワプル村へ帰ることを進めたのだった。
―――浮遊城 鐘の広場――
何百年も静だったこの広場。
しかし今日は住人達が一人の人族の少女を取り囲み、なにやら騒がしくなっていた。
少女は天使王に認められ、天使族の盟主となった子である。
だが、集まった住人達の殆どは少女よりも、久しく見ていなかった“明るく笑う王”を目当てに集まっていた。
それでも、中には「初めて盟主様が来た時に、私がトイレの場所を教えたのよ!」とか「私があの時、盟主様のためにトイレのドアを開けたの!」などと話している人達もいる。
天使族の中でも盟主・メルはすっかり有名人となったようだ。
「二人なら大丈夫だとは思うが、道中気を付けてな!戻ってきたら宴でも開くとするか!ガハハハハ!」
笑うミハエルは初めて見たときより、かなり若く見える。
一度、村に戻るメルにミハエルは二つの物を手渡した。
村で騒ぎを起こした事への謝罪の品と、メルの傘下に入ったことを証明する文書だ。
それを受け取ったメルはミハエルにペコリと頭を下げ、笑顔で返す。
「それでは、行ってきます!」
メルはルベルアの存在が皆に分かるよう、背にはらりと布を掛けてから跨がり、リエルに向かい両手を振る。
『よし、行こうか』
「うん!」
ルベルアは背に乗ったメルを影で包み込むと、魔力を溜めた。
ググ…グググ……!――ッッキュッンッ!!!
ルベルアは一瞬でトップスピードに達するとそのままの勢いで飛んで行く。
メルはルベルアの影で包まれており、快適そうだ。
「んルルアルアサンン!!ハハヤハヤスギギギィ!!」
メルの顔の皮はブルブルと震えた。
前言撤回、メルはあまり快適そうではない。
「ギギッ……………………………………………。」
…………。静かになったメル。
すまん、急加速は控えた方が良さそうだな…。
飛行するルベルアは流れる景色を堪能し、想いを巡らせた。
◇
来るときは見てなかっけど、低空で飛んでると時々モンスターも見えるな。
小さな村も見えるけど、モンスター対策は大丈夫なのかな。
自分で飛んでみてよく分かる、
この世界は広くて美しい。
この広がる自然、俺が住んでた“北海道”を思い出すなぁ。
けど、この世界の方が人間が余計な手を加えていないから、美しさではこっちの方が上かな。
もし普通の人間に転生してたら、俺はこの世界でどう暮らしていたんだろう。
◇
ルベルアがそんなことを考えてしまう程に綺麗な景色であった。
メルは気絶しちゃったからな、ワプル村から浮遊城に戻る時は少しゆっくり飛んでメルにも見せてやるか。
――――ルベルアが浮遊城を飛び立って一時間と少しが経った頃、早くもツナウ山脈へと差し掛かっていた。
そろそろスピードを落とすとしようか…。
急加速の反省を活かして緩やかに減速したルベルア、
自転車と同じくらいのスピードまで落として飛行しながらも、ツナウ山脈を越えてワプル村目前に差し掛かった。
『メル、起きられるか?そろそろ着くぞ』
「うんっ、ふぁあぁ…。ここ…どこ?」
気絶したまま眠ってしまったメルが、大きなあくびと共に目を覚ます。
『おう、起きたか?もうツナウ山脈を越えたからな、ワプル村はもうすぐだぞ』
ルベルアはそう言うと、メルを包んでいる部分の影を少し開いて外が見えるよう小窓を作り出した。
「わぁー!気持ちいい!あっ、でも虫が来たら守ってね!」
メルは何かを思い出したようにおでこを擦る。
『このスピードなら大丈夫だろ、もう見慣れた場所だな』
「村が見えてきたー!!」
村を見つけたメルがはしゃぐ。
おおー、なんか久しぶ……あっ!
『浮遊城で当たり前にしてたから忘れてたけど、このまま飛んでったら大騒ぎになるよな』
「あっ!そうだね、誰かに見られる前に降りよう!」
ルベルア達は村を出発した時と大体同じ場所へと降下した。
浮遊城を出発してから一時間と三十分くらいであった――
――ストッ。
「うへへ!ルアさんっ、先に行っちゃうからね!」
着地するなりメルは村へと走り出した。
メルの前世の両親は、そこにどういった理由があったのかは分からないが、彼女に愛情を与えることが出来なかったらしい。
親の事を思い出すと全身を震わせて涙をながす程に。
そんな彼女が会うのを楽しみにして走り出す姿は、ルベルアのおっさん心をキュンとさせた。
モルドーとエリスは変なところもある。が、メルの笑顔を見るにきっと素晴らしい親なのであろう。
ルベルアも久しぶりのワプル村に、わくわくしていた。
◆
さて、俺も久しぶりに村長のジジイにイタズラしてくるか!
見慣れた景色。見慣れた連中。
あー、やっぱ故郷は良いなぁ。
村長のジジイは…と、…あれ、居ないな。
メルが帰って来た知らせでも聞いてモルドーの家にでも行ったのかな。
とりあえず村長のジジイの歯ブラシを……!!
歯ブラシの入った棚に鍵が付いているだと!?
おのれ!ジジイめ!無駄な対策を……。仕方ないから鏡に“た…すけ…て…”とでも書いとくか。読めないだろうがな。
◆
ルベルアは四日振りに
モルドー宅はまだ午前中だと言うのに“わいわい”と賑わっており、いつもの顔触れも集まっている。
お?あの様子だとメルも今着いたばかりか。
早く帰ったと思ったけど、メルの奴、自分で村中に知らせながら走ってきたんだな。
「メ゛ル゛ぅ!本当に…本当に無事で良がっだぁ~!」
モルドーは号泣しながらメルに抱きついている。
悪い奴じゃないんだが、締まらないお父さんだ。
モルドーは両鼻から鼻水を流し、左鼻の穴から鼻提灯(はなちょうちん)を出している。
「お父さん、泣かなヒッ!ちょっと離れて…」
メルは貰い泣きしそうになっていたが、モルドーの鼻提灯(はなちょうちん)を見て一気に引いた。
「そうなのよ!えっ?バース君が?えーっ、あはは!」
エリスはバースの母親と談笑している。
四日振りに娘が帰って来たのにマイペースすぎだろ。
あと、何か知らんが笑われてるぞバースよ。
「メルよ、戻ってきた所悪いのじゃが天使族との話はどうなったんじゃ?」
村長のジジイがモルドーの背中を擦りながら尋ねる。
「はい、天使族の王ミハエル・カーライル様から村長に書状を預かってます。あと、テスタントさんが来たときの騒ぎのお詫びの品も頂きました」
メルはそう言うと、小さな鞄からミハエルの書状と小包を取り出し村長のジジイへ渡した。
村長は書状を見る前に、メルの様子から悪い事態にならなかったことを察し安堵の表情を浮かべる。
「そうか、此度は小さなお前に任せてすまんかったな。ご苦労であったぞ、メル」
村長のジジイはたまに村長っぽい事を言う。
「はい、私は大丈夫です。それよりも村長、小包の中身は何ですか?早く見たいです!」
小包を出したメルは途端に子供のように“そわそわ”して村長のジジイを急かしだす。
「まてまて、急かすでない…。どれ…。」
村長は一旦、書状を懐に入れて小包を開く。
ガサ…ガサガサ……。―――!
小包なは深い青色の石が入っており、
青の石は不思議な光を放っている。
おぉー……!
集まる村人達の口から感声が洩れる。
村長のジジイが石をまじまじと眺めながら言う。
「なんとも美しい石じゃが、一体どうしたものかの」
その言葉にメルがポツリと言った。
「ラピスラズリ……!」
ラピスラズリ、俺も前世で名前くらいは聞いたことがある。
女の子が好きそうなパワーストーンだったか?
「なんじゃと!?ラピスラズリとな!?それは真なのかメル!」
村長のジジイは急に取り乱してメルを問い詰める。
「えっ!う…うん、昔お店の広告で見…」
メルは村長のジジイの勢いに慌てて答えようとした――
『メル!ちょっと待った!店はマズイだろ!』
それを聞き、今度はルベルアが慌ててメルの言葉を止める。
ルベルアの言葉にメルは“ハッ”とした顔をして言い直した。
「あの、天使の王様が昔お店で買ったって言ってました!」
「ふぅむ。ラピスラズリと言えばワシが剣士をしていたときに噂だけは聞いたことがあるのじゃが、確か凄まじい力を持った古の宝石じゃったかな……。そんな宝石を店で……?大昔には普通にあったんじゃろうか」
村長のジジイはラピスラズリを大切そうに包み直すと、
徐(おもむろ)に小包をテーブルへ置き、懐からミハエルの書状を取り出し、封を切った。
「どれどれ…」
―――
余を含む天使族、浮遊城はメルの傘下と成った。
詳しいことはメルから聞け
メルに持たせた小包には天使族の秘宝の一つである
“
此れは邪気を払い幸運をもたらす力を持つ
盛大に奉り村の繁栄に役立てて欲しい
それと一つ
人には姿の見えぬ 余の使い魔を貸した
メルにしか使えぬがその存在を理解せよ
ではいつか逢えることを願う
天使王 ミハエル・カーライル
―――
◆
なんて偉そうな文書なんだ…。
天使の王様がこんな俗な文章を書くなんて、元の俺なら絶対に想像出来なかったな。
書いた本人を知ってるから納得できるけどさ。
そして最後の文、使い魔って俺の事だよな…ククク。
先にメルとミハエルで口裏を合わせてくれれば村の手前で降りなくても良かったのに。
◆
村長のジジイは一文、一文、ゆっくりと読み上げた。
「ワシら人族よりもずっと高貴な種族じゃと思っとったが、案外親しみやすそうな王様じゃのう。ラピスラズリはやはり凄い物じゃったか!天使族の秘宝と書いておるが、店で買ったとは」
書状を読み終えた村長のジジイが難しい顔をしてテーブルの小包を眺める。
「それで、結局ミハエルさんと何があったの?」
談笑を止め、静かに話を聞いていたエリスがメルに問いかけた。
そりゃそうだ。肝心な事が何も書いてなかったからな。
「えっとね、ずぅーーーっと暇してた王様が、久しぶりに楽しめたからお友達になろう!って言って、私を盟主にしてくれたの!」
メルの天才子役ぶりが発揮される。
が、危険だった部分を誤魔化した所為で支離滅裂な説明となってしまう。
「まぁー!王様とお友達になっちゃうなんて凄いじゃない!!」
―――ムギュ~~っ!エリスが力強くメルを抱きしめ、豊満な胸がメルの呼吸器を綺麗に塞いだ。
村長のジジイが何かを納得したように、“ポンッ”と手を打つ。
「そうじゃったか。心配しておったが天使の王が平和的な考えで良かったのぅ!しかし、メルを盟主とし傘下に入るとは破天荒な王様じゃのぅ。
まぁ、これで今回の件は終わりでいいかの。ゲイン殿、早速ラピスラズリを奉る祭壇を作る打ち合わせをしようぞ」
村長のジジイはすっかり安心し、大工のゲインを連れて自宅へと戻っていった。
村長のジジイが家に戻る頃には、モルドー宅に集まっていた村人達も解散し、家族水入らずの状態となっていた。
しかし、モルドー宅ではメルからの重大な発表が残されている。
皆が帰るのを見送ったモルドーとエリス。
モルドーは食事テーブルの椅子に座り、エリスは温めていた料理をテーブルに並べた。
「皆帰ったね。お昼の時間は過ぎちゃったけど。ご飯にしようか、いっぱいメルのお話も聞きたいしね!」
モルドーは四日振りの家族勢揃いをとても喜び、ぽっちゃりした頬が上に上がっている。
「そうね!今日は丁度メルちゃんの大好きな、芋と豆の煮付けよ!」
エリスが素敵な笑顔でモルドーに賛成する。笑顔が可愛いなぁ。
ってか、7歳児の好物シブすぎだろ!
ルベルアはメルがこれから両親に話す内容を知っている。
数日ぶりのメルとの食事を嬉しそうにするモルドーとエリス、この後の展開を想像したルベルアは、二人が可哀想に思えた。
“俺には見ていられない”
ルベルアはそっとメルに近づき囁く。
『メル、俺は少し散歩してくるから。その、なんだ……頑張れよ。途中で考えが変わったならそれでも良いからな?』
俺の言葉にメルはこちらを“チラッ”と見て僅かに頷いた。
どうやらメルの考えは変わらないらしい。
――――スゥーーッ!
ルベルアは壁をすり抜けモルドー宅を後にした。
はぁ。
メルの近くに居てあげるべきだったかな?
いや、きっと大丈夫だよな。
昼時の村は外に居る人が少ない――
おっ!あれはメルにこてんぱんにフラレたバースの弟じゃないか、珍しく一人か?
一体、こんな所で何をしてるんだか……あっ、やっぱり鼻に指突っ込んでる!
バースの弟、マドカは鼻に指を入れたままテクテクと歩いている。
やることの無いルベルアは何も考えずにその後をついていく。
ここは……村長のジジイの家じゃないか。
マドカは何も喋らずに無言で村長の家に入って行く。
「なんじゃこりゃあ!悪魔!!悪魔の仕業じゃ!!」
家の中から大きな声が聞こえてきた。
村長のジジイがルベルアの
そのまま村長のジジイは教会の方へと走っていった。
シュタタタタッ!―――
足速えーなオイ。
マドカはドアのすぐ近くに居たのに気づかれずに放っておかれた。影の薄い子である。
マドカは無人となった家の中をトコトコ進み、
ルベルアはそれをじっと眺めている。
子供だけど、平気で人ん家にずかずか入って大丈夫なのか?
(※ルベルアの日課は村長宅での悪戯である)
住居不法侵入である!打ち首じゃ!
いや、打ち首はやりすぎか。
マドカは村長のジジイの書斎へと入ると、机の一番下の一番大きな引き出しを開けた。そこに入っていたのは一つの小包。
まさか?ルベルアは少し“ザワッ”とした。
マドカは躊躇すること無く小包を取り出し、手際よくその包みを開ける。
さすがにまずいな、止めよう!
傍観をやめ、マドカに近づくルベルア。
今ならミハエルの使い魔として天使族の秘宝を守ったって事にもできるだろうし、マドカはまだ小さな子供だから未遂なら怒られるだけで済むだろう!
そう考えたルベルアは手を伸ばした――
「僕は七歳だよ。だけどね、中身が無いの」
ルベルアの背筋に寒気が走る――
今まで一切喋ることの無かったマドカが突然口を開いたのだ。
感情を出すこと無く……ただ、謎の一言を。
マドカが“両手”でラピスラズリを持ち上げると、
栓の抜かれた彼の鼻から見えない何かが溢れ出る……。
ルベルアの伸ばした手はラピスラズリに触れ―――
意識が…… 遠く……
光が…… 眩しい……
―――――――!!
「先生来て下さい!!
転ツイpoint20
【大工のゲイン】
ライフの一つである大工として村で働く男。
主に家を建てたり、修理したりしている。
堅気な男であり、頼まれた仕事があれば休憩も取らずに作業を続ける。
ワプル村の匠と言えばゲイン其の人である。