転生っ娘にツイてしまった転世した俺の話。 作:高ノ宮 伏魔殿
奇っ怪な影の悪魔がここに一匹、
『あぅ?あうあぅ?あぅ。』あ、いや違うんだよ、
赤ちゃんプレイをしている訳では無いのだよ!
そう、俺はこんな存在であるからして他人と話すことすら出来ないまま過ごしていく事になるのではないか?
と、覚悟というか諦めを持っていたのだ。
しかし、俺の覚悟を無駄にさせるような嬉しい裏切りが起こったのである。
メルには俺の声が、声というか思念というかテレパシーというか。
とにかく、メルとならば会話が出来るということに気付いたのである!
どうやら意思を込めて伝えようとした時の俺の心の声はメルに直接伝わるらしい。
だがしかし、相手はまだ生まれて半年の赤ん坊。
つまり、下等種族の青二才でしかない!
おっと、すまん。言い過ぎた!
意思が伝わる事が分かったのは良いが、しっかりとした会話が出来るようになるまでには早くても もう半年くらいは先の事になるだろうか。
とはいえ、半年後の楽しみが増えたと思えば儲けものだ。
エリスはメルを抱き上げながら寝かしつけている。
やがて寝ついたメルを子供用のベッドへそっと置くとそのまま部屋を出ていき、パタパタと動き始めた。
家事を開始するらしい、大体決まったいつもの行動パターンである。
家事をしているエリスも可愛いと思う。
床に張り付いて眺めるととても素敵な景色が広がる。
モルドーには勿体ないくらいに可愛い!
モルドーめぇぇ…!!!
まぁ、俺はそんなことで妬んだりはしないのだが。
ふむ、優しい俺は昨日モルドーが隠していた銀貨を別の場所に隠しといてやろう。
さて、ここからは俺の自由時間。
ぶっちゃけ何時でも自由なのだが、自分ルールの決め事だ。
メルもしばらく眠るだろうし、俺はまた村でもフラフラと飛び回ってくるとしようか。
今日は何をしようかな、また村長のジジイにでもイタズラしてくるか。
スィーー。俺は壁(かべ)をすり抜けて外へ出る。
――グイッ!
おふっ!?
すり抜けた壁から部屋の中へ引き戻された。
あたし、こんなの初めて!
いやいや、可愛い子ぶりっ子の定番セリフを想像してる場合じゃない、しかも言われたこと無かったわ!!
初めての壁抜(かべぬ)け失敗、しっかりしろよ俺…。
気を取り直して、スィー。
――グイッ!
うおっふぅ!
良く見るとメルが俺の下半身を引っ張っている。
おっと、下ネタでは無い。
下半身というか影を切ったときの尻尾みたいにチョロンと伸びた部分を握りしめて引っ張っている。
全く、可愛い奴め。寝ぼけて変なモノを引っ張っちゃうなんて!
って、誰が変なモノやねん!!
「きょおは行かないで、はなしをきぃて」
!?
突然の謎の声に一瞬呆然とする俺。
この状況、声の主は一人しか居ない。だが、そんなまさか…。
俺は恐る恐る返事をする。
『メル?』
メルを見つめてそっと尋ねてみた。
メルも俺の事を見つめている。
「そぉだょ。驚かせてごめんなさぃ。ずっと前から話しかけようと思ってたんだけど、心の準備ができなくて」
ヒィー!ビックリした!怖えぇー!赤ちゃん怖えー!
メルはキリッとこちらを見つめ、伝えたい言葉を的確に話そうとしているのが分かる、しかし赤ん坊としての限界なのか言葉使いはたどたどしい。
逆に言えば、言葉使いがたどたどしいだけであり、生後半年の赤ん坊ではあり得ないレベルの言葉を喋り出した。
『おどど!どぅ、どうしたんだい?しゃしゃべっしゃ喋ることができるのかメル!?ずと前から!??』
あまりの驚きに33年と半年生きてるおっさんがあり得ないほど挙動不審になりながら、天才赤ちゃんに質問をぶつける。
「ぅん、喋れた…の。わたしも同じだから。……。あなたは、あの人の話、覚えてないの?」
メルがこっちの顔色を伺いながら、主旨のよく分からない質問をしてきた。
以前から喋ることは出来た。という事は俺にも理解できた。
『同じ?あの人?…すまないけど、何の事を言ってるのか全然分からない…。』
俺は意味が分からない様子を隠す事なく正直に返答する。
こういう時に知ったフリをして答えるのは良くないのだ。
「私達が生まれ変わった時に、現れて色々話してた人。あなたの所には現れなかったの?」
メルは一瞬、その人の事を話して良いのか迷った様子だが、真ん丸な目をして聞いてきた。
『すまない、俺は気付いた時にはこの世界に居て。メルの肩にさ………くっついてたんだからね!』
元おっさんは急にデレた!!
『ん?というか…“私達”が生まれ変わった時…?つまり、メル…君も前世の記憶があるのか?』
俺としても聞くのが怖い質問だが、聞かない訳にもいかない。
「そう…だね。私も前世の記憶があるの。私……、良い子じゃ無かったから、生まれ変わるときに神様みたいな人にね、罰として…生まれかわる魂に呪いをかけてやろう。って言われたの…。」
“良い子じゃ無かったから”
そう言った時のメルは、いつもの可愛いらしい赤ん坊の顔からは想像出来ない程に、悲しそうな表情を感じさせた。
「だからね。生まれた時に悪魔さんを見て、ああ…これが私の呪いなのか。きっと沢山酷い事…されるんだろうなって、そう思ったの」
メルは小さな口を一生懸命動かして話している。
まるで半年間 塞き止められていたダムを解放したように、思いを語っている。
『ふむ…俺は君の呪いだったのか…。』
「ううん!それは違ったの!…と思う…の!私の呪いは昔の私から続いているもの…だと思うから…。それにね、あの時悪魔さんが居なくなったら、と思うととても寂しくなったの。だから…その…思いきって話かけ…たの。」
ゴニョゴニョと歯切れ悪くメルがつぶやく…。
そりゃまだ歯が生えていないのだ、歯切れが悪いのは当たり前だ。
正直、所々何と発音してるのかよく分からない。
滑舌の悪さで言うなら90才のジジイと話してるのと大して変わらない。
“悪魔さん”と言ってる所など“ひゃくみゃひゃん”と聞こえそうなくらいだ。
多分現状だと“悪魔さん”と“佐久間(さくま)さん”を聞き分けることはほぼ不可能だろう。
いや、どうでもいい。
90歳のジジイとメルでは、可愛いさの数値が桁違いにメルの方が高いけどね!!
おっと、危ない。勝手に脱線した心を戻し、話の内容を考える。
『あの時…?』
あの時とはいつのことだろう。半年以内のどれか…と言えば1つしかあるまい。
『ああ、確かに…ミルザがアンチデーモン!ホーリーショック!キル!キル!ゴーバックヘル!とか叫んでるとき少し体がピリピリしたからなぁ。消えててもおかしくなかったかもな、ハハ。』
現時点(げんじてん)での忘れられない出来事ランキング断トツ1位、ミルザ狂乱の件の話で間違いないだろう。
「クススッ…、それじゃなくて…!あの時のミルザさんは怖かったけど…。とにかく悪魔さんは私に嫌なことをする気がないってことは…もう分かってるから…。だから…、これからも宜しくね!ってことでひとつお願いします!」
(ひゅとちゅおねがいひましゅ!)
キュン!とする俺。
なんだろう。俺的には話の展開(てんかい)が早くて助かるが、初めての会話でここまで言ってもらえるなんて。嬉しいじゃないか!
この半年間、メルは一生懸命に話の内容とか考えていたのかな?
健気(けなげ)で可愛い奴めっ!グフフフフ…
自分の言葉に照(て)れて部屋の隅の方を向くメル。が肩をビクッ震わせる。
どうやら不意にあのスプラッター人形と目があったようで、小さく「ヒッ…」と洩らし目線を部屋の中央に戻した。
『つまり、仲良くしようって事だよな?もちろん!こちらこそ、宜しくな!俺達は切っても切れない縁(えん)で結ばれてるみたいだしな!』
俺は自分の見た目が悪魔なのも忘れてニコやかに微笑みかける。
目は鋭く吊り上がり、口は裂けたように赤く広がった。
ちょっと泣きそうな顔をしたが俺を傷つけまいと話を続けようとしたメル。
しかしそこで足音(あしおと)が近づく。
トットットットッ、ギィ。
ノックも無く(当たり前だ)部屋へと入ってきたエリス。
目をパッチリと開いてベッドに座るメル。
危なくエリスに“会話をできる事”がバレそうになりキョトンと放心状態になっている。
それを見たエリスの顔は瞬く間に緩んだ。
「まぁー!起きてたのメル?起きてたのに泣かないなんて、お利口さんですねぇ~!お母さんびっくりしちゃいました~!」
エリスが幸せそうにメルに頬擦りする。
メルがチラッとこっちを見る。
『返事をしなくても良い、聞いてくれ。俺達はまだこの世界のことを全然知らないし、バレない限りは目立たず普通の生活をしてた方が良いだろ?赤ん坊のフリも大変だと思うが宜しく頼む。』
「あぅ?」
メルは少し後ろめたい表情を作る。騙すの?と言いたげだ。
『なぁに、“可愛い赤ん坊のメル”でいればエリスもモルドーも幸せなハズさ!周りに俺しか居ないときは気を使わなくて良いからさ!一緒にこの世界の事、知っていこうぜ』
「うきゅ!」
分かった!と言いたげにメルが声を出す。
「うきゅ~ですねー!メルちゃんふふふふふふ」
現在進行形でエリスは幸せそうである。
半年間、可愛い赤ちゃんだったメルだが…実は俺と同じように前世の記憶を持った転生者だった。
それに、メルは初めから俺が転生者だったことを知っていたらしい。
そのなかでよく今まで俺にもバレずに赤ん坊をやり通したものだ。
彼女の前世は女優とかスパイだったりして!?
呪いがどうとか言っていたが…。呪いとかが当たり前に存在するような世界から転生したのだろうか。
とにかく、俺と彼女がこの世界に同時に転生したという事実は変わらない。これぞ運命の出会い!!
俺の目標は定まった。
呪い付きだろうがなんだろうが、構わない。
俺が全ての災いをハネ退ける悪魔になれば良い!
俺はメルと共にこの世界をどこまでも歩んで行こう!
そう心に誓った。
転ツイpoint③
【ジンミー人形】モルドーが魔除けとして購入した人形。売り主の話だとこの人形の効果は絶大であり、地縛霊ですら逃げ出すという。但し、一度購入するととてつもなく処分に困る。
捨てたら呪われるかも。家に置いておくのも見た目が怖すぎるので好まれない。
通称“スプラッター人形”