スペースアヴェンジャー   作:アサルトゲーマー

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最終話です、どうぞご覧ください。


死ねない理由と生きる理由

 

 カシュ、と缶を開ける音が響いた。

 

 ここはマイケルのセーフハウス、地下倉庫だ。そこの主であるマイケルはテーブルに着いて一人で食事を取っていた。

 缶詰から中身を取り出し、口に運ぶ。その傍に相棒の姿は無い。

 

「一人の食事って、こんなに味気ないものだったんだな」

 

 塩を振っただけの脂っこいシーチキンがあんなにも美味しかったはずなのに。マイケルは独り言ちた。

 

 

 彼の生活はかつてアザミの存在によって大きな転機を迎えていた。

 ドッグフードをひと手間加えることで美味しく食べる方法を教えてもらい。生活の分担を決め。STを弄っているときに魔法でアシストをしてくれた。

 マイケルの生活にはあの日から常にアザミという存在があった。

 

 アザミの居ない生活ではそれまでは不便だとも思っていなかったことでも酷く面倒に感じ、全てのことに倦怠感が付きまとう。

 後回しにするのは駄目だと思っても何もする気が起きない。こんなことは彼の父親が亡くなって以来のものであった。

 

 彼は机に突っ伏しながら相棒、アザミのことを頭に思い浮かべる。

 不思議な力を使い、なんでも器用にこなし、しかし他人と接するのはてんで不器用な彼女。何か大きな秘密を抱えているようで、そしてそこが魅力的だった。

 

 ふと上を見上げる。視線の先には相棒と世界中を共にしたSTファルコン。その頭部と肩部は大きくえぐれ、ガンナー席があった場所が丸見えになっていた。

 

 

 

 

 

■■■

 

 

 

 

 

 激闘の末、STサナトスは砕け散った。パイロットであるアヌビスの安否は分からないが、宇宙空間に放り出されたのであれば先は長くないだろう。

 

「やったぞ相棒!俺たちはあのアヌビスを倒したんだ!」

 

 ブラウン管に映るマイケルの顔は喜色に染まっている。それを見て私は、ああやっと終わったんだなと息を吐いた。緊張していたのだろう、手にはじっとりとした汗が付いていた。

 

「ここまで身の危険を感じたのは初めてだ」

「流石の相棒も弱音を吐くぐらいには弱ってるか」

「ああ…もう駄目だと今日だけで何度も思ったよ。だけど皆生きている」

 

 私はSTファルコンであたりをぐるりと見回した。そこには大小さまざまな損傷を受けているものの、まだ健在のライバルたちが私たちを注視していた。ほどなくしてブラウン管いっぱいにいくつもの顔が現れる。

 

「やったわね貴方たち!」

「流石だ」

「わしの発明品はどうじゃったね?ひょーっほっほ!」

「ふ…よくやった」

 

 それぞれが思い思いの言葉で祝福してくれる。そして私はその流れに便乗することにした。

 

「おめでとう、マイケル…いや、相棒」

 

 私の心は安堵と達成感で満たされた。いつになく浮かれていたと言っていい。だからこんな下手を打ったのだ。

 

 

「お前だけは逃がさんぞ!!マイケェェェル!!」

「なっ!?」

 

 

 突如STサナトスの瓦礫から飛び出してくる一発の高誘導ミサイル。私は慌ててハンドガンのトリガーを引くものの、弾は発射されなかった。

 

「こんな時に不発か!」

 

 とっさにハンドガンを投げつけたが当たるはずもない。

 こうなったらなにふり構っていられない。私は魔法を使ってミサイルを曲げに掛かった。しかしどれだけ曲げようともミサイルは直ぐに軌道を修正してくる。ミサイルは重く、素早いためこれ以上曲げるのも難しい。必ずSTファルコンのどこかに命中するだろう。

 ハンドガンは撃てず、ST用ボムも切らしている。ライバルたちは満身創痍で戦える状態ではない。万事休すだ。

 

「すまない、マイケル」

「相棒…?お前まさか!」

 

 ガンナー席とパイロット席の隔壁を下し、通信を切って覚悟を決める。

 隔壁が閉まったことで緊急モードが発動したコクピットの中で操作レバーに触れて周囲を限界まで強化する。

 パリパリと音を立てて補強されていく内壁。質量を増やしながら膨張した内壁はディスプレイと私を除くすべてを押し潰し、強大な装甲に変化した。

 

 けたたましくブザーが鳴り響くなか、私はブラウン管に映る妻の姿を見つける。

 

「君も、きっとこうするだろう」

 

 忘れもしない、妻が死んだあの事故。彼女は暴走する車から私を救うため、私を突き飛ばしたのだ。そんな心優しい彼女なら、彼のために犠牲になる事を許してくれるかもしれない。

 

 ぐんぐんと近づいてくるミサイル。私はSTファルコンを回転させ、それを強化した頭部に導いた。

 STファルコンの頭部にはガンナー、つまりは私が居る。

 

 身震いが止まらない。これを食らえば私は間違いなく死ぬ……。

 怖い。死というものはこんなにも恐ろしいものだったのか。

 いや違う。私が怖いのは失うこと。心残りがあること。

 

 心残り。それは勿論、

 

「嫌だ。君を置いて逝きたくなんか、」

 

 誰かに向けたその言葉は最後まで紡ぐことはできず。私の視界は光と炎に呑まれた後、深い闇に閉ざされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぶはっ!!」

 

 私はなぜか水中に沈んでいた。辺りは真っ暗でどちらが上かも判らず、口中にしょっぱい味が広がったことでここが深い海の中だと気が付いた。

 慌てて気泡を作り出してその中に潜り込む。もう少し脱出に時間が掛かっていれば私は潰れていたのではないだろうか。ぞっとする。

 少し呼吸を整え、今までにあったことを思い返す。記憶の最後にあったのは接近するミサイルと死を恐れた自分、そして炎に呑まれるコクピット。

 

「何故私は生きている?」

 

 また私は死んだのか?そしてまた別の地球にでも飛ばされたのだろうか?

 それとも何かしらの奇跡が起きて宇宙からここまで瞬間移動でもしたのか?

 考えても分からない。私はひとまず海上に出ることに決めた。 

 

 

 

 

 

 

 足元には血のしみ込んだアスファルト。前を向けばガラスの割れた高層ビルたちが目に入り、後ろに傾いた自由の女神像が空を見上げている。

 自分の記憶が確かならここはアメリカのニューヨークなんだな、と。どこか遠い出来事のように考えていた。

 

 チラリと視線を移すと駐車場の車に乗り上げる形で転がる緑の残骸。大きな手投げ弾が爆発したような大穴。そして上半身と下半身が泣き別れした緑のゴリラSTが見える。

 

 私は街を歩く。追いはぎも居なければ発砲音も聞こえず、釘打ちバットなどの武器を持った青年グループもあまり見かけない。

 それどころか小さなマーケット市場まである。私はそれの一つに立ち寄って店主らしき人物に話しかけた。

 

「すまない。以前来た時より大分様変わりしているようだが何かあったのか」

 

 半ば答えが分かっているような質問。だが訊かずにはいられなかった。

 

「ああ、それはね。ここの支配者が変わったんだ。前はグイドーとかいうゴリラが仕切ってたんだけどこいつが随分横暴でさ。それに心を痛めた正義の味方がガツンと追い出しちまったのさ!」

 

 ホラアレ、と指を指す店主。その先にはゴリラのST。

 

「そんでもってゴリラの取り巻き達も一斉に捕まっちまって、ここにも平和が訪れたってわけさ」

「店主。新しい支配者の名前は分かるか?」

 

 ああ、うん。確かね…。店主はそう言いながら額を揉む。この間がどうにももどかしい。早く答えてくれ!

 心の声は聞こえていないだろうが、店主は私の期待に応えるように手を打った。

 

「思い出した!確かマイケル!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マイケル・アンダーソン!」

 

 

 

 

 

 

 私は居ても立っても居られず、マイケルの名を叫びながら地下倉庫に飛び込んだ。

 いつかのようにテーブルに突っ伏していた彼は体をびくりと揺らし、椅子を蹴飛ばして立ち上がる。

 

「相棒!お前生きてたのか!」

「ああ!ああ!私は死んでなんかいない!」

 

 わき目も振らずにマイケルへと駆け寄り、その体にしがみ付く。

 本当は別の地球なんじゃないかと疑っていた。でもマイケルは私を知っていて、受け止めてくれた。

 自分を受け入れてくれる人がいる。それがこんなにも心地良いものだなんて!

 

「マイケル…すまなかった。私はあと少しで君を置いて死ぬところだった…!」

「相棒…」

「でも、君を失う事の方がもっと恐ろしかったんだ…!」

 

 涙で前が見えなくなる。私は目をぎゅっと閉じて、マイケルの服に顔を埋めた。

 

「あんなことをして、すまなかった…」

「いいんだ」

 

 彼がポンと頭に手を置いた。そして優しく髪を梳く。

 それが堰を切る引き金となったのか、私は年甲斐もなくワンワンと声を上げて大泣きしてしまった。

 

 

 

 

「マイケル。私は今まで生きる目的を見失っていたんだ」

「ああ」

「だがな…新しい当面の目的が見つかった。それは君と共に生きることだ」

「なんだって?」

「君は目を離すとすぐにでも事件に巻き込まれて死にそうだからな。さすがにそれでは夢見が悪い」

「……」

「そ、それに。君といると毎日が楽しい。君さえよければまた共に暮らしたいのだが、どうだろう」

「ああ、俺のほうも覚悟は決まったぜ。アザミを必ず幸せにしてみせる」

「……?マイケル、君は何か勘違いをしていないか?」

 

 

 

 

 この後マイケルと私の間に認識の違いがあることで少しの話し合いをしたが、結局共に暮らすことになった。

 そして少し前から魔法の力が強くなっているように感じる。一体何がどのように作用しているのかは全く不明だが、マイケルからはよく笑うようになったと言われる。このことから考えて、きっと私が生きる明確な目的を自覚したからなのだろう。

 鏡に映る妻の姿は確かに微笑んでいる。それはきっと私が過去()ではなく(マイケル)を選択した証。

 

 

 私は死んでいないだけなんかじゃない。いま、私は確かに生きている。

 

 




これにてマイケルとアザミの物語を幕引きとさせていただきます。

最後までご拝読いただいた諸兄姉の皆さま、本当にありがとうございました。
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