アメリカ合衆国、世界をけん引する大国であるこの地は古くはネイティブアメリカンの土地だった。イギリスからの開拓民が来たことを皮切りに、この国は数々の人種が暮らす国となった。
現在のこの国はイギリスを始めとした欧米諸国からの開拓民の子孫、アフリカ大陸から奴隷として連れてこられた人々の子孫、中南米からの移民、中国や韓国、日本などのアジア諸国からの移民が生活している。そして、忘れてはならないのはこの地に古くから生きているネイティブアメリカンも今もこの国に住み続けている。
今では世界有数の大都市であるニューヨーク、カジノを始めとした娯楽が有名なラスベガス、豊かな自然とビーチで知られるマイアミを始めとした様々な都市が発展する大国となったアメリカ。だが、この国にも曰くつきの地がいくつか存在する。中世ヨーロッパのような魔女裁判が行われたセイレム、謎の火球現象によって消滅したン・ガイの森。そして、マサチューセッツ州エセックス郡にあり外部からは断絶され寂れた港町であるインスマス。
2017年6月14日、インスマス町より北に4km地点の海岸。
付近をパトロールしていた保安官が砂浜に打ち上げられている青年を発見した。青年は衣服を身に付けておらず、身分を証明する持ち物を一切持っていなかった。身体的な特徴からアジア系、日系人と思われる青年は保安官の拠点であるニューベリーポートの病院に運ばれた。
この青年、身分を証明する持ち物を一切持っていなかった。その代わりなのか彼の腰にはデボン紀の甲冑魚ダングルオステウスの頭骨を模したパーツが着いたベルトが巻き付いていた。その他にも彼の足の指には水かきが、胸にはエラらしきものが肉体にあった。
青年が病院に運ばれてから数日。アメリカの首都ワシントンD・Cに本拠地を置くFBIから捜査官がニューベリーポートへやって来た。
クラーク・D・モルダー、エイガスタ・J・スカリー。FBIの中でも超常現象に関連する事件の捜査をメインに行うXファイル課に所属する捜査官の二人は青年を保護した保安官からの依頼で調査に来たのだった。
「なぜ身元不明者のことで私達が呼ばれたのかは分かったわ。でも、モルダー。私達が適任と判断されたのはなぜかしら?医学的見地での意見が欲しいなら専門の医療機関に協力を取り次げば良いじゃない。」
車を運転するモルダーに今回の件で呼ばれたことについて話をするスカリー。
今回の件では本来であればFBIが介入することは無い。保護され青年の身体的特徴からFBIのXファイル課の話が出たのは彼女が理解できた。だが、そうであれば専門機関、この場合は大学病院のような大きな医療機関に真っ先に話が出るのではないかとモルダーに訊ねた。
「それは局長も言ったそうだ。だけど、その青年の発見された場所はあのインスマス町とニューベリーポートの中間地点だ。潮の流れから考えても青年がインスマス町から流れて来た可能性があるんだ。」
「あの魚人事件で有名な町ね。良いわ、まずその青年に会いましょう。」
モルダーの運転する車はスカリーを乗せて目的地であるニューベリーポートに到着するのだった。
ニューベリーポート市警、モルダーとスカリーは件の青年を発見した保安官であるジム・エクリ―に話を聞いていた。
「保護した青年の身元についてはまだ分からない。何せ、身分を証明するものは一切なかった。今、移民局や日本大使館、中国大使館などの連絡を取って行方不明者に登録されていないか調べている最中だ。」
エクリ―保安官からここまでのことを聞いたモルダーとスカリー。実際、移民局を始めとした各機関に調査を依頼しているが進展は無いようだった。
「それで、なぜ我々に?他に適任の部署があったでしょう?」
今回の一件でエクリー保安官がFBI、それもXファイル課に調査の協力を依頼した理由をスカリーが問う。
「確かに行方不明者、それも日系と思しき人物なら先程名前を上げた各機関に調査を協力する。だが、彼の唯一所持していたものについてあなた方なら何か分かるだろうと思って調査を依頼した。それに、彼が居た場所が例のあの町の近くだ。もしも、あの町に関係する人物ならば、私達の手に負えない。」
エクリ―保安官の話を聞き、ここまで沈黙を守っていたモルダーが口を開いた。
「それでは、例の青年のいる病院を教えてください。私達の方でも出来る限り調べてみます。」
そうして、モルダーとスカリーはニューベリーポート市警を後にした。
青年が運ばれた病院へ向かう中、二人の話題はインスマス町とそれに関わる事件に関してだった。
「保安官が言っていた例のあの町ってインスマス町のことかしら。」
「十中八九そうだろ。あの町ではカルトが関与した事件で、町民のほとんどが逮捕されたからな。」
インスマス町、周囲から断絶されたこの港町では今から50年以上前に住民の大半が逮捕されるという前代未聞の事件が起きた。住民が逮捕された理由、インスマス町はとあるカルトに支配された町であり、偶然旅行者によってこのカルトの存在が知らされたのきっかけであった。カルトの名前はダゴン秘密教団と言い、周囲の町の住民や旅行者の行方不明事件に関与していた危険なカルト教団だった。
マサチューセッツ州の軍まで動員されたダゴン秘密教団の逮捕はインスマス町に悪い意味で有名になってしまった。なお、この時の逮捕の際に教団の構成員が軍や警察に抵抗したのだが、この時に半魚人のような、人間から逸脱した姿の構成員が居たとの記録が残されている。
「Xファイルに残されていないから超常現象とは何も関係ないでしょう?カルト教団なんて、本来のあなたの専門分野と密接な関係があると思うのだけど、モルダー?」
「プロファイルのことを言っているなら、それは買いかぶり過ぎだよスカリー。確かにあの町で起きた事件は未解決事件や超常現象と関係あるようには見えない。それでも、そう言った不確かなことにも目を向けないと。」
Xファイル課にいる風変わりな男、それがスカリーから見たモルダーの評価だった。だが、彼の視点は決してばかげたものではなく、彼の専門であるプロファイリングからの観点であることを彼女は知っていた。
法医学の分野に携わり続けているスカリーは長くこの相棒と仕事をして、彼が変人(なのは確かだが)よりも捜査官として一流であることを理解するようになった。
今回のニューベリーポート市警からの依頼にすぐに承諾したモルダーの正義感を、彼の人となりを知るスカリーはその判断に忠告を入れながらも同行した。
「ええ、分かったわ。じゃあ、例の青年のいる病院に急ぎましょう。」
スカリーの言葉にアクセルを踏むモルダー。この時の二人は、まさかこの青年と関わることで50年以上前に壊滅したカルト教団と対峙することになるとは全く予想だにしていなかった。そして、この青年と出会ったことで彼らが追い続けている超常現象の、それも現実にはあり得ないと考えられるようなものと対峙するとは思ってもみなかった。
ニューベリーポート市立病院、件の青年が運ばれた病院に到着した二人は青年の主治医となっているウィリアム・ハウス医師から話を聞いていた。
「基本的に彼は身体的特徴を見て東洋人であることは間違いないでしょう。ただ、彼の足の指には水かきが、胸部には魚のエラに酷似した器官がありました。」
ハウス医師の話から青年の身体的特徴を詳しく聞く二人。その中で彼らは事前に聞いていた青年の特徴にやはり気にかかった。
「水かきにエラ、特殊メイクや先天性の身体的特徴では?」
スカリーの質問にハウス医師は青年の写真、CT画像、MRI画像を提示する。
「最初、私も特殊メイクを疑いました。ですが、水かきは彼の肉体の一部でしたし、エラに酷似した器官は完璧に機能しています。」
ハウス医師が提示した写真やCT画像、MRI画像を確認するスカリー。法医学を修め、検視官としての経験のある彼女はそれらの画像が青年の肉体にある水かきやエラが決して特殊メイクでは無いことを指し示していた。その中で、青年の腰、へそに当たる場所から巨大な神経組織らしきものが青年の肉体の神経系と繋がっていることも見て取れた。
「これは一体?」
スカリーがその神経組織についてハウス医師に質問をする。
「私もそれについては詳しいことは分からないとしか言えません。ただ、それは青年の腰にあるベルトの機械と思われるものと密接に繋がっていて、青年の神経と深く結びついていることは分かります。」
そう言うとハウス医師は青年の腰にあるベルトの写真をモルダーとスカリーに見せる。一見、ただの玩具のように思えるそれに興味を示したのはモルダーだった。
「すみません、ドクター。これは?」
「青年の腰にあるベルトです。先程お話しした神経組織がそのベルトの、魚の骨のような機械の中にあると思われます。」
その写真を興味深く見るモルダー。そのモルダーを見たスカリーは、写真の代物が相棒が得意とする超常現象に類するもの、もしくはそれに近いものだと直感する。
「ドクター、その青年と面会できますか?」
スカリーがハウス医師に聞くとハウス医師は渋い表情となる。
「それなんですが、彼はここに搬送されてから一度も目を覚ましていないんです。話を聞くことは難しいと思います。」
ハウス医師の言葉にモルダーが話し始めた。
「この写真のベルトを直接確認するだけ構いません。それにスカリーに彼の肉体を直接確認することも必要なので。」
モルダーの言葉にハウス医師は青年の面会を許可した。
モルダーとスカリーは看護師の案内の元、青年のいる病室へ入る。
青年は穏やかに寝息を立てており、ぱっと見は何も問題は無さそうに見える。
スカリーが看護師の補助の元、青年の水かきとエラを確認する。その後、モルダーとスカリーは青年の腰にある例のベルトを見る。
ベルトは金属光沢を帯びており、その色は鋼のような色合いをしていた。ベルトの中央には何かをはめ込む窪みがあった。なお、一番目を引くのは魚の頭骨を模したパーツだった。
ベルトを見たスカリーはそれが自分の専門外だと即座に理解できた。それが古代文明の遺物だと言われても完全に否定することはできないと彼女は考えていた。
一方のモルダーは青年の腰にあるベルトを興味深く見ていた。元々は犯罪心理のプロファイリングを専門としている彼は目の前にあるベルトについて自分の見立てを脳内でまとめていた。
「へえ、中々に興味深いね。」
意識してか知らずかそう小声で漏らすモルダー。
結局、青年はモルダーとスカリーがいる間に目を覚ますことは無かった。
病院を後にするモルダーとスカリー。ニューベリーポート市内のモーテルに宿泊した二人は今日得られた情報を整理することにした。
「やっぱり、青年の身元が分からないのが大きいわね。身元さえ分かれば、彼の親族の情報も分かるのだけど。」
「彼のベルトだけど、見たところ金属でできていたけどそれが何なのかは分からないな。鋼や合金のようであるみたいだけど、それ以上は僕も見当が付かないな。近くの研究機関か鑑識で調べてもらえるか確認してみよう。」
今日得られた情報を次々と上げていくモルダー。それをスカリーは話をしながらパソコンにまとめていた。
一通り情報をまとめ終えるとスカリーがモルダーに話し始める。
「ねえ、モルダー。あの青年、Xファイルに関係すると思う?」
超常現象が疑われる事件のたびに投げかけるこの質問。その質問にモルダーは常々「これこそ僕達Xファイル課の扱うべき事件だろ?」と逆にスカリーに投げかけてきた。スカリーはいつも通りのモルダーの返答を予想していた。
「彼の身体的特徴を考えてもXファイルに類するものだろう、スカリー?それにあのベルト、ドクターが話していた情報から見て、普通では考えられないだろ。」
いつものような返答を聞き、またかと思いながらもこの相棒が暴走しないようにブレーキをかけ始める。
「確かに、通常では考えられないわ。でも、モルダー。彼の体については、少なくとも遺伝子の突然変異が疑われるわ。彼の身元が分かり、彼の生物学上の家族について判明すればすぐに解決できるわ。」
「その部分は君の専門だろ。僕が言いたいのはあのベルトそのものさ。詳しく調べれば普通では考えられないようなことが分かるかもしれない。」
得意げな表情のモルダーを見るスカリー。なお、こういった論争では平行線にしかならないため、スカリーはすぐに明日に行うことを整理する。
この日の話し合いは翌日に調査で、青年の発見場所の近くにあるインスマス町や青年のベルトについて専門家の情報を得るなどといったことを確認したのだった。
その夜、モルダーとスカリーはそれぞれの部屋で眠りについたのだった。
モルダーとスカリーが眠りについた時と同じ頃、病院にいる例の青年がうなされていた。
「はあ、うっ!はあ、ぐっ!」
息が荒くなる彼。青年がうなされるのに合わせ、彼の腰にあるベルトにも変化が生じる。鋼色だったベルトは濃紺色となり、魚の頭骨を思わせるパーツが銀色へ変化した。
「や、やめろ、やめろ。」
夢の中でうなされる青年。その夢が何なのか、彼にしか分からない。
「やめろ、やめろ、やめてくれ!!」
そう叫ぶと同時に目を覚ました青年。荒く呼吸する彼の肉体は全身が脂汗まみれだった。彼は窓の方を見るや否やベッドから跳ね起き、病室を急いで出て行った。
翌日、、モルダーとスカリーは青年が病院から失踪した知らせを受けた。
モルダーとスカリーは準備を整えると病院へ向かった。
病院ではハウス医師が慌ただしい中で対応していた。
「病院の防犯カメラから彼は裏口から病院を出たらしいです。今、ニューベリーポート市警が捜索してくれています。」
ハウス医師からの話を聞き、病院における状況を確認する二人。病院ではこれ以上の情報を得ることが出来ず、二人は病院を後にすることを決めた。
「なぜ、彼は意識を取り戻すなり病院から出たのかしら?」
「目覚めてすぐに知らない場所なら逃げ出すのも無理はないだろう。ただ、その理由は彼自身に聞かなければ分からないよ。」
病院から出た二人は青年がなぜ病院から逃げ出したのかについて話をする。
「もしかすると、あの青年はインスマス町の関係者で町から離れてしまったことを知って逃げたのかもしれないな。」
「モルダー、彼がインスマス町の関係者だとしても普通逃げるかしら?」
「カルトが支配していた町の関係者ならやましいことがあれば逃げる可能性は大いにあるよ。まずは、彼を見つけよう。」
話の中で二人は青年の捜索に協力することになる。
同時刻、ニューベリーポート市の郊外にある路地裏。そこに青年の姿はあった。病院で着ていた病衣からどこから入手したジーンズにスニーカー、Tシャツ、ジャケットといういでたちとなっていた。
路地裏に潜む彼は、自分が何者なのかを思い出そうとしていた。
「俺は、俺は、、、俺はジン。そうだ、俺は、俺の名前はジン。他は、他は、クソっ。分からない、分からない。」
青年=ジンは自分の名前以外の全ての記憶を失っていた。それが一体どういうことなのかをジンは分からなかった。ただ一つ言えるのは彼がどうあれ、普通の人間では無いということだけが彼の肉体が物語っていることだった。
そんな中で、ジンに近寄る複数の人影があった。
「おい、てめえ。どこから来やがった?」
地元の不良3人がジンに近寄って来た。
ジンは自分に近づく不良に即座に気付いた。不良たちが自分に向ける敵意を敏感に感じ取ったジンはこの場から離れようとする。
「おい、無視すんじゃねえよ。イエローモンキー。」
イエローモンキー、日本人を含めたアジア圏の人々への蔑称を言いながら不良たちはジンの行く道を塞ぐ。
ジンのことを見た不良たちは拳銃やナイフを出し、ジンを脅し始める。目の前のアジア系の青年が恐怖に怯えることを想像する。だが、この時にジンに関わったことが大きな間違いだと不良たちは知る由も無かった。
数分後、路地裏には痛みに呻く不良たちとそれを見下ろすジンの姿があった。
不良たちの腕や足は本来の曲がる方向とは真逆の方向に曲がっていたり、顔面も元の形が分からない状態まで変形している。
ジンは痛みに呻く不良たちをそのままにその場を離れた。
モルダーとスカリーは知らせを受け、不良たちがジンと出会った現場を確認していた。
「一体、彼はどこへ行ったのかしら?」
スカリーの問いかけに対してモルダーは店で購入したニューベリーポートの地図を確認していた。
ジンの目撃された場所に赤く点を付けたその地図を見るモルダーに対して地図を取り上げるスカリー。
「少しは私の話を聞いて、クラーク。」
自身のファーストネームを呼んだことでそれがそろそろ仕事に集中しろという注意であることを知るモルダーはすぐに返事を返す。
「聞いているよ、スカリー。」
「ずっと地図を見て、少しは考えていることを話してよ。」
スカリーが地図を渡したことでその地図を元に現時点での見立てを話し始めるモルダー。
「病院から目撃された場所を線で結んでいくと僕たちの探している彼はどんどんと内陸の方へ進んでいることが分かる。」
地図の赤い点を結ぶと徐々に内陸の方へ進んでいることが分かる。
「内陸の方へ向かっているって、どこへ向かっているのかしら?」
「大都市と言うよりもまるで水辺から離れようとしているみたいだ。」
モルダーの指摘からジンの行動ルートがビーチや川から離れていることが分かる。
「どうして、水辺から?」
「その理由は本人に聞いてみれば分かるだろう。それに、ここからそう遠くは離れていないはずだ。」
地図に付けた印とここまでの動きからそのルートを予想したモルダー。それから1時間ほどでモルダーとスカリーはある倉庫のシャッターが無理矢理こじ開けられているのを確認した。
拳銃とライトを準備した二人はこじ開けられたシャッターから中へ入る。そこには一心不乱にどこかから盗んだと思われる食べ物を食べるジンだった。
「FBIだ。言葉は分かるかい?」
モルダーの問いかけに反応したジン。食べていたものを食べきり、モルダーとスカリーを見る。
「あんたたち、俺を追っていたのか。」
「ええ。少し話を聞くために一緒に来てくれるかしら。」
スカリーの問いかけにジンは立ち上がって二人を見つめる。
その次の瞬間、ジンは驚異的な身体能力を発揮し、モルダーとスカリーを飛び越えて倉庫から出てしまった。
「待て!!」
モルダーとスカリーは急いで追うが既にジンの姿は無かった。
夕方、モルダーとスカリーはニューベリーポート市警に居た。保安官のエクリ―からジンの行方を聞くためだった。
「君たち二人の背丈を優に超える程のジャンプをして逃げた彼はまだ見つかっていない。まるで、忍者だな。」
「彼とは少しですが話ことが出来ました。警戒心を解かなければ姿を現してくれないでしょう。」
「とは言うが、隠れてどこにいるか分からない相手に警戒を解くとしてもだな。」
ジンは巧みに姿を隠している所為かニューベリーポート市警でも見つけることが出来ないでいた。そして、この時にニューベリーポートに居た誰もが海からジンを狙って何者かが現れることを知らなかった。
ニューベリーポートビーチ沖合、海面から無数の何かの影が見える。その影はニューベリーポートを横断するメリマック川の河口から市街地へ入っていく。
警察の捜索から逃れ続けるジン。自身に迫る何かを感じ取り、その場に立ち止まる。
メリマック川から入って来た影はそのまま川から市街地へ進入した。
その姿を見た住民たちは一目散に逃げ始める。中には警察へ通報する者や銃を持ち出す者も居た。
その影は街明かりや夕焼けの明かりに照らされその姿を見せた。魚とカエルを混ぜ合わせ人型にしたような半魚人たち、インスマース達だった。
インスマース達を率いるのはカニの特質を兼ね備えた上級インスマース、クラブインスマースだった。
「さあ、探せ。我らが主の器を、ネプチューンを探すのだ同胞よ!!」
クラブインスマースの指示を聞き、目的であるネプチューンを探し始めるインスマース達。
インスマース達が現れたことを聞いた警察がその場に駆け付け、インスマース達に発砲する。
クラブインスマースは同胞の行動を妨げる警官たちに自身のハサミを振るう。
ハサミが振るわれ警察官たちは宙高く打ち上げられた。
ニューベリーポート市警で事件を聞いたモルダーとスカリーはFBIへの救援を要請、自分たちも現場へ急ぐ。
車で現場へ向かうモルダーとスカリーは現場の方向へ走るジンの姿を見た。
「モルダー、彼がいたわ。」
「何!?どこに!」
「怪物が現れた場所へ向かっているようだったわ。ほら、前に。」
スカリーの指が示す方向に信じられないスピードで走り続けるジンの姿があった。
ジンの走るスピードはかなりものであり、車のスピードと同じくらいのスピードで走っていた。
ジンはインスマース達の姿を見るや否や勢いよく蹴り倒す。
次々と現れるインスマース達をあらん限りの力で殴り蹴る。
インスマース達はジンの存在に気付き、殺到する。
向かってくるインスマース達をなぎ倒していくジン。
ジンの姿を見たクラブインスマースはそのハサミを使い、ジンを拘束する。
「見つけたぞ、ネプチューン。このまま我らと共に来てもらおう。」
「誰が、お前らなんかに!」
「すでに貴様の肉体は我が主のためのものへ作り替えられた。無駄な抵抗はよせ。」
クラブインスマースの言葉にジンはあらん限りの力で抵抗する。だが、通常のインスマースを容易く屠った彼でもクラブインスマースの強固な甲羅と力には対抗できなかった。
ジンは自身の名前以外の記憶を失いながらも、目の前の相手が自分の失われた記憶や肉体について知っていることを察知した。その上で、彼らの目的が自身にとってあまり良いものでは無いことも理解できた。
「離せ、離せ、離せ!!」
常人では考えられないような肉体に変貌してもなお、ジンはまだ人間だった。その人間であろうという意思に惹かれ、ニューベリーポートビーチの海から蒼く輝く何かが飛来した。
その何かはそのままジンの腰にあるベルト、アクアスドライバーにセットされた。
≪ダングルオステウス≫
重低音の音声がアクアスドライバーの起動を知らせる。そのままアクアスドライバーは自動で稼働、ダングルオステウスダイノクォーツが展開する。
≪デスアウト。アクアジーン、インジェクション。仮面ライダーネプチューン。ダングルオステウスボディ。≫
アクアスドライバーからダングルオステウスダイノクォーツの力がジンの肉体に直接流れ込んでいく。
「っ!!ぐっ!!ガアアアアア!!」
肉体がより強力な物へ作り替えられている中で激しい苦痛が生じる。苦痛の叫びが上がる中でジンの姿は徐々に変化していく。皮膚の下に強靭な鱗が生成され、鱗が強固な甲殻となる。両手足や背中には鋭いヒレが生え、ジンの顔も両目が巨大な複眼となり、顎と歯は一体化してより強固なものへ変化する。最後にジンの額から赤く輝く結晶が角のように突き出る。
仮面ライダーネプチューンダングルオステウスボディ。インスマース達の改造によって変貌したジンの姿である。
「その姿は、この星の生物の姿を取り込んだか。すぐにでもその忌々しい石ころを破壊してやる!」
クラブインスマースは空いているハサミでアクアスドライバーにはまっているダイノクォーツを破壊しようとする。それに対して仮面ライダーネプチューンは右腕を勢いよく振るい、自身を拘束するクラブインスマースの腕を両断した。
一瞬、何が起きたか理解できなかったクラブインスマース。次の瞬間に襲ってくる痛みに斬られた腕を抑える。
自由の身となったネプチューンは周囲にいるインスマース達を攻撃していく。新たに備わった両腕のヒレで次々とインスマース達を切り裂いていく。
両腕のヒレで切り裂くだけでなく、荒々しく飛び掛かり、その強靭な顎でインスマース達ののど元に食らいつく。その戦い方は獣そのもの、荒々しいその戦い方によりインスマース達の返り血を浴びるネプチューン。
「うおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
雄たけびが上がり、次々とインスマース達が命を落としていく。気付けば、インスマースはクラブインスマースだけだった。
「バカな、こんな、こんなことが!?」
傷口を抑えて狼狽するクラブインスマース。
ネプチューンは狙いをクラブインスマースに決めるとアクアスドライバーのレバーを操作する。
≪デスフィニッシュ。ダングルオステウス。≫
アクアスドライバーの音声から必殺の準備が整えるようにネプチューンの右腕のヒレがより巨大に鋭いものへ変わる。
それを見たクラブインスマースは恐怖のあまり命乞いをする。
「辞めろ、ヤメロ、辞めてくれ!!」
その懇願をネプチューンは右腕の一閃で黙らせた。デススライサー、死をもたらすその斬撃はクラブインスマースの肉体を脳天から両断、その命を刈り取った。
ネプチューン、ジンの戦い振りをずっと見ていた人物たちが居た。モルダーとスカリーは目の前で起きた戦いに理解が追い付かなかった。ただ、それが自分たちがこれまで専門としていたXファイルに類するものだと理解することはできた。
ネプチューンはモルダーとスカリーを一瞥すると宙高くジャンプして姿を消した。
ネプチューンが姿を消すころにはもう夕日は地平線の向こう側へ沈んでおり、夜空が顔を出し始めていた。
事件から数日後、モルダーとスカリーはFBIに戻って報告書を書いていた。
スカリーは上層部が納得するような文言を考えるのに頭を悩ませ、モルダーは自分が目撃したことをそのまま書いていた。
そんな中、モルダーのデスクの電話が鳴り響いた。
「はい、モルダーです。はい、はい。分かりました。」
「どうしたの?」
「僕たちに客人だ。」
電話を受けた二人は客人が待っている場所へ向かう。そこにはひげを蓄え、サングラスをかけた40代の男がいた。
「お待たせしました。Xファイル課のクラーク・モルダーです。こちらは相棒のエイガスタ・スカリーです。」
「初めまして。俺はオーウェン・クライグです。今日はあなたがたが目撃した半魚人について話しを聞きたくて。」
サングラスを外した男、オーウェンはある写真を二人に見せる。それにはジンとジンが変身したネプチューンの姿、インスマース達が映っていた。
「俺は奴らの専門家だ。あんたたちに協力して欲しい。」
そう言うオーウェンはヴェロキラプトルの絵が刻まれた結晶、ヴェロキラプトルダイノクォーツを見せる。ここからモルダーとスカリーは長きにわたる人類とインスマース達の戦いに関わることとなる。その中でジンと再会し、彼に課せられた残酷な運命についても知ることとなる。