私が殺した彼女の話   作:猫毛布

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47.タノシイお買い物

 シャルロット・デュノアは久しく踏んだ故郷の大地を懐かしく思い、そして後ろを振り返った。そこには仏頂面すら作りこまれたのではないかと錯覚を覚える精巧な人形が妙に着飾ってソコに立っていた。

 ツバの広い帽子と真っ白いワンピースが身長と相まってその少女を随分と可愛らしく見せている。尤も、顔には仏頂面が貼り付けられているのだが。

 

「ようこそ、フランスへ!」

 

 ニッコリと自身の中に感じている何かを弾き出すように、シャルロットは笑顔でルアナ・バーネットを歓迎した。

 

 

 

 あのシャルロットの宣言をルアナが了承するのに時間は必要ではなかった。ただその言葉を受け入れた、それだけなのだ。

 しかしながら、すぐに行く訳にもいかず、他の二人と合流して買い物の続きを続行をしたのだ。その買い物中もルアナはシャルロットの観察をしていたが、相変わらず笑顔を携えていた彼女の心情を理解することは出来なかった。

 そして寮へと戻ってきてからも、相変わらずな彼女はいつの間にか買っていた猫の着ぐるみパジャマ二着と犬の着ぐるみパジャマ二着を取り出して自身を含めた四人に着せた訳である。いや、どういった経緯でそうなったのか、さっぱり分からないのだが、結果から語ればそういうことなのである。

 黒猫ラウラと白猫シャルロット、黒犬で尖った耳のルアナと白犬で垂れた耳の簪。確かに桃源郷はソコにあったのだ。緩んだ顔でニヘニヘ笑っているシャルロットはルアナへと伸し掛ったり、ラウラを抱きしめたり、簪とお喋りしたり。誰が為の理想郷なのであろうか。尤も、ルアナは思考を何処かに飛ばして目を虚ろにしていたのだが。

 

 

「……? どうかしたの?」

「別に」

 

 何も喋らないルアナに対して首を傾げてみせたシャルロット。ルアナは数日程前の自分を思い出して何かが削れる音が聞こえた。きっと幻聴だろう。深呼吸をして、ルアナは帽子のツバで表情を影に隠した。

 その行動にも首を傾げたシャルロットだったが、深く内容は聞きはしない。ルアナの手を取ってゆっくりと歩き出す。

 

「少しだけ寄りたい所があるんだけど、いいかな?」

「もう歩いてる」

「うん。でも、嫌って言ってくれないんでしょ?」

「……美味しい料理店なら歓迎する」

 

 そんなルアナの言葉にシャルロットは苦笑して、善処するよ、と一言告げて歩く速度を少しだけ早めた。前を向いている彼女の顔は、ルアナには見えない。けれどいつもの様な笑顔も、呆れる様な苦笑も、相変わらずな緩んだ顔も、ソコに無いことだけはルアナはわかる事が出来た。

 

 

 

 

 

 

 

 一時間程度、タクシーに揺られて到着したのは墓地であった。途中で購入した花束を持ってシャルロットは一つの墓石の前で停止した。なんの変哲もない墓石。周りにあるものと大差などない。

 違うといえば、その石に彫られた内容だけ。そこにはシャルロットの母の名前が刻まれている。たったそれだけの違い。それだけ違っていれば相応に意味が生じるのだ。

 シャルロットは花束を墓石へと置いて、一歩だけ後ろへと下がる。瞼を落として、顔を俯かせ、言葉を発しない。その後ろでルアナは変わらず仏頂面でシャルロットを見ていた。

 

 ルアナには理解することの出来ない気持ちだ。単なる石に花を添える事も、父とも呼べる人間との関係を断ち切る事も、その辛さも、その悲しさも、その決意も。いいや、意味合い的には理解することも出来ている。けれど心情的には理解していない。あるのは合理的な、利害的な判断であり、ソレはシャルロットの心情を表すには程遠いモノだ。

 だからこそ、ルアナはシャルロットの申し出を受けた。さっぱり理解出来ない理由であっても、ソレは彼女が選択したことだ。一夏が許可をして、そしてシャルロット自身が選択をした。故にルアナに彼女の選択を否定する事は出来ない。否定する権利など無い。

 ルアナ・バーネットが人格者であったならばそれこそ家族との関係改善に努めただろう。例えソレがシャルロットの望む事ではなかったとしても、だ。ソレによって、自分が被る被害を計算に入れても、聖人ならそうしただろう。

 

 だが、ルアナは聖人とは程遠い存在である。彼女の行動基準は一夏を中心にしており、今回の事も周り回れば一夏へと帰着する。それは例えシャルロットがどの選択をしたとしてもだ。

 

「……うん、もういいかな」

「終わった?」

「ありがとう。お母さんに伝えるだけは伝えたよ」

「…………そう」

 

 素っ気なくルアナは答えた。その口から死者に言葉など通じない、という言葉は出さなかった。シャルロットの心を決めるのに必要な行為、とルアナは判断し、否定はしなかっただけだ。

 シャルロットは笑顔ではあったけれど、どこか痛むのか、学校で見せる花の咲くような笑顔ではない。困ったような、決意したような、けれどもまだ迷っているような、そんな感情を飲み込んだ笑いを浮かべている。

 

「お母さんは怒るかなぁ……」

「どうして?」

「お父さん……デュノアさんの事が大好きだったから……」

「そう……」

 

 ルアナはそれだけを呟いて流れた風で飛びそうだった帽子とスカートを抑えた。シャルロットは流れる髪を押さえ付けて、顔をまた俯かせた。

 

「うん。きっと考え直しなさい、って言われそう」

「それで、考え直したの?」

「考えても、結果は……変わらないよ」

 

 シャルロットの口から吐き出す様に出された言葉。何かを我慢して吐き出した言葉はシャルロットの顔を歪めるには十二分だったらしい。

 故にルアナはその口を噤む。深い青色の瞳にシャルロットを映し込み、しっかりとその顔を収めるだけにした。元々ルアナが口を出すような問題ではない。

 

「うん。よし、それじゃあ、ご飯食べに行こうか」

「食べれればなんでもいい」

 

 気持ちを振り切った様に言葉を垂れ流したシャルロットは先日の買い物で購入した腕時計を確認してから当初の予定を口にする。その言葉に少しだけピクンと動いたルアナは仏頂面にどこか嬉しそうな雰囲気を纏わせてぶっきらぼうに答えた。

 

「えっと……持ち合わせはあんまりないので、容赦して頂ければ」

「私のお腹に問えばいい」

「仕返しなんだね! 泣きそう!」

 

 踵を返して地面を踏んだルアナから調子はずれな鼻歌が聞こえ、シャルロットの口からは態とらしいうわ~んなんて鳴き声が出された。

 

 

 

 

 

 

◆◆

 

 なんて事もない昼食も終わりシャルロットがルアナの体を奇妙なモノを見るかのように見ていた。そんなルアナはお腹をポムッと叩いて息を吐き出していた。

 

「一体……どこに入ってるのさ」

 

 そんな事を言い始めたのはシャルロットである。いくら珍妙なモノをみる視線でルアナを見たところで答えはない。簪や一夏がこの場に居たならば「今日はそれほど食べなかったな」と心配そうに声を出しているのだが、それでもルアナの食事風景をあまり見ていないシャルロットからすれば食べ過ぎの領域を軽々と超えていた。

 それなのに、腹部には何も入っていないようにスラリとしている。まるでちょっとしたマジックの様だった。

 

「お腹」

「いや、絶対入ってない! 入ったなんて認めない!」

「……入った端から分解されてる」

 

 『消化』ではなくて『分解』という言葉で語るルアナ。シャルロットはシャルロットでルアナの事を【ルアナ・バーネット】とすっかり頭の中から抜けていたので『分解』という言葉を『消化』という言葉に置き換えているのだが。だからこそ、ルアナがキョトンとして言ってのけた言葉に対してもため息を吐き出しているのだ。

 その事に気付いたルアナはシャルロットを呆れた様に見て口を開く。

 

「私は擬似ISよ。忘れたの?」

「あ……」

「食べた端からエネルギーにして体内に貯蓄しているだけ。外部からの供給がソレぐらいしか無いから、食べる量も自然と増える。体が太らないのは栄養として食べ物を摂取していないから。これでいいかしら?」

「う、うん」

 

 淡々と吐き出された説明口調にシャルロットは面食らう。ルアナはといえばせっかくした説明にシャルロットが追いつけていない事に頬を軽く膨らませている。

 

「アナタの知識なら悠々と分かる筈だけれど?」

「いや、その、ルアナ?」

「何かしら?」

「……バーネット?」

 

 何かを声に出そうとしてルアナは頭を抱えて溜め息を吐き出す。そういえば『ルアナ』と『バーネット』が同一存在である事をシャルロットは知らなかった。自身はずっと自分の事を『ルアナ・バーネット』と呼称しているのだが、一夏の言葉と『バーネット』と呼ばれている時の突拍子もない言動で未だに一人の人物として見られてはいない。

 瞼を落としてこれから先の事を思案したルアナは『バーネット』と呼ばれる存在である方が都合がいいと判断した。そもそも『ルアナ』としてデュノア社と商談する気はなかった。というより、出来ない。ご飯に容易く釣られてしまうからだ。

 

「……面倒ね」

「えっと、バーネットさんは今までの経緯を」

「知ってるわ。ルアナ・バーネットが見たことは全て知っているに決まっているでしょう」

「あ、はい」

 

 バーネットを演じるルアナに思わず敬語を使ってしまうシャルロット。その目の前には先ほどと格好は変わらないというのに、仏頂面から魅惑的に口を歪めている美少女がいるのだ。同一人物だとは思えない。

 無表情や仏頂面である『ルアナ』と歪んだ笑みが似合い戦闘狂である『バーネット』。ルアナにとっては『バーネット』である方が楽であったが、それでも一夏の為に『ルアナ』を作り出した。手の掛かる妹分として。だからこそルアナは自身が同一人物である、という事を主張はしても『ルアナ』と『バーネット』が別人格ではない、という事は主張しない。ソレをするのは一夏の役目であり、一夏がルアナの呪縛を解いた時だ。そういう考えでルアナは演じている。

 目の前でタジタジとするシャルロットにルアナはふぅ、と息を吐き出して思考を切り替える。どうやって目の前の存在をイジメるか、なんて今考えなくていいことなのである。

 

「じゃあ、行きましょうか。シャルロット」

「うん。……バーネットさんとお父さんが話すのかぁ」

「何か問題が?」

「いや、大丈夫だよ。ルアナよりも頼りになると思って」

「……そう。別にいいけれど」

 

 本当にどうでもいい。どちらも同じ存在なのだから、その言葉に意味はない。けれどもルアナ・バーネットは何処か詰まりながらその言葉を吐き出した。その僅かな間に何を思ったか等誰にも解らない。ルアナ本人でさえ、分かってはいないのだから。

 

「あと、シャルロット。私に対してはいつもの扱いで構わないわよ」

「え? ホント?」

「……抱きつくのはやめなさいよ」

「いつもそんな事してないよ!」

 

 少しだけ顔を赤くしたシャルロットは慌てた様にルアナの言葉を否定した。その後に「たまに、だよ。うん、そんなにいつも抱きついてないよ、ね?」と一人疑問を呟いたのだが、ソレに対してルアナは一切の反応を見せなかった。

 いつもの調子に戻ったならば、その方が話は早い。余り緊張されても面倒だ、と随分利己的な考えでその発言をしたことをルアナは誰にも喋る事はないだろう。なんせ得など一切無いのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

「こちらにて少々お待ちください」

 

 そう言われ、出されたコーヒーにすら手を付けていないルアナ。格好は相変わらず真っ白いワンピースだというのに、足を組んでソファに背中を預け静かに瞼を伏せている。

 その隣にいるシャルロットはどこか居心地の悪そうにそわそわして、背筋を伸ばして膝に手を置いている。ギュッと力を入れられた手が緊張を物語っている。そんな手をチラリと視界に入れたルアナは心の中で溜め息を吐き出す。

 

「今なら引き返せるわよ」

 

 これはルアナとしての感情ではなく、単なる一般論としての言葉だ。ルアナにとって選択は絶対である。けれどもその選択者がこうしてブレているのだ。

 そのブレている選択者はルアナの声にビクリと反応して深呼吸を繰り返す。いつもの様な明るさとは対照的に小さく大丈夫と呟いたシャルロット。決して大丈夫だとは思わなかったルアナだったが、決定が覆されない事を理解して改めて瞼を閉じた。

 

 シャルロットの頭の中では、デュノア家で起こった事の顛末と継母との不仲、そして父でありデュノア家の代表取締役である存在が繰り返されていた。このまま彼らとの関係を絶つ事はシャルロット自身の決断だ。ソコに至るまで沢山の事を考えて、いっそ利害なんてモノを廃止してまで考えた。考えた結果の決断だと言うのに、いざこの場に至れば想いが揺らいでしまう。

 

「失礼する」

 

 そんなシャルロットの思考を止める様に男の声が聞こえた。その方向を見れば見慣れた、とは言い難いが見知った顔がある。自身の父親だというのにそう思うのに違和感があったが、それでもシャルロットはそう感じてしまう。思わず立ち上がり、頭を軽く下げたシャルロットに対してルアナは座ったままデュノア社長に視線を向けただけである。

 デュノアはそんな二人を視界に入れて、対面であるソファへと腰掛けた。

 

「まず待たせた事を詫びよう。こちらも忙しくてね」

「別に構わないわ。むしろ多忙なアナタをこちらの都合に合わせてもらった事を感謝すべきね」

「要件を聞いていればそうなる。どれほど多忙であったとしても時間を空けていたさ」

 

 デュノアが肩を竦めて言った言葉に対してルアナは決して反応しなかった。彼が時間を取れる様にシャルロットが説明したことは、自立型ISのデータを取得した、という内容のみである。企業の社長としてこの情報がどれほど価値があるのか、彼はよく知っている。加えてデュノア社が企業として衰退していることもソレに拍車を掛けた。

 

「それで、君が情報提供者かい?」

「ええ、私が情報よ」

 

 その言い回しにデュノアは少しだけ違和感を感じたが話を進めようとする。

 

「情報をありがとう。感謝するよ、これでデュノア社が市場で活躍できる」

「あら、何か勘違いをしているの?」

「何の事だい?」

「情報提供するけれど、相応の対価は払って貰おうかしら」

「ふむ。デュノア社として君に投資しよう。どうだい?」

「ハッ、衰退企業に援助して頂かなくて結構よ」

「では、お金が目当てかな? 当然、相応に払うつもりではあったけれど」

「金には困ってないの。それこそ一生を生きるには多すぎる額を持っているわ」

 

 ふむ、とデュノアは顎を摩った。目の前の少女を見て、チラリとシャルロットを視界に収める。咎めている訳ではなく、先ほどから一言も発しないシャルロットを訝しげに思っただけなのだ。

 ともあれ、デュノアからすれば自立型ISのデータは垂涎モノであることは確かである。デュノア社としてソレを手に入れる為に支払えるモノを考えれば先ほど上げた二つが最初に来る。

 

「なるほど、君は特殊なモノをご所望の様だ。デュノア社社長として無理が無ければ君に提供しようじゃないか」

「そう。ならシャルロットを下さらない、デュノアさん」

「…………は?」

 

 呆気に取られた。妖艶に微笑む目の前の少女が言い放った言葉が理解出来ない。当然である。突然の選択なのだ。

 

「ちょっと待ってくれたまえ。どういう事か説明してもらえるかい?」

「どういう事も何も、そのままよ。私の隣に居る彼女、シャルロット・デュノアが欲しいのよ」

 

 何事もなく、淡々と言い放ったルアナに対してデュノアは頭痛を感じる。目の前の少女は何を言っているんだ。何か夢でも見ているのか、と感じた。

 そして、色々と考えた末に、その疑問を口に出す。

 

「……つまり、失礼だが、君は同性愛者で私の娘を嫁にしたいが為に情報を提供するのか?」

「よ、嫁!?」

「ねえ、シャルロット。アナタのお父様は随分と冗談が上手いのね。口が裂けてもその言葉が吐けるか気になる所ね」

 

 物騒な事を言い放ったルアナに対してシャルロットは父による嫁発言に少しだけトリップ気味になっている。顔を赤くさせて、白いウェディングドレスを纏う自分とその隣にタキシードを着用した誰かがいるのだ。

 そんな顔の赤いシャルロットを見て溜め息を吐き出したルアナ。その目の前で自分を落ち着ける様に珈琲を飲みこんだデュノアがふぅ、と息を吐いた。

 

「いや、すまない。が、父である私の気持ちを汲んでほしい所だ」

「アナタの気持ちなんて必要ではないわ。今は私が望みを言っただけ。否定するとすれば私は同性愛者ではない事と、アナタの娘を嫁には迎えない、という事かしら」

 

 そこはしっかりと否定したルアナの声にようやくトリップしていたシャルロットが帰還した。尤も帰還した所でまた緊迫してしまい喋らなくなるのだが。

 デュノアはふむ、と呟いて少女を見る。目の前にいる少女はトンでもない事を言っているが、間違いなく商談相手である。決して娘が同級生を連れてきたわけではない、という事をようやく理解した。

 

「そうだね。他のモノでは代用出来ないのかい?」

「私はシャルロットを望む、と言ったのよ」

「もしもソレを断れば?」

「あら、自分でもわかっているのでしょう?」

 

 当然である。デュノアは目の前の少女への交渉材料を持ち合わせていない。対してルアナはデュノアを調べていたし、自立型擬似ISである自身のデータを渡せばデュノアに取って利益になることも知っている。加えて大人の汚さというモノもルアナは理解していた。だからこそ、デュノアがシャルロットを差し出さない、という事はデータも手に入らず、更に言えばIS学園に性別を偽り入学させた事が世間に露呈してしまう。IS学園から既にペナルティを食らっているのに、ソレを負えばデュノアは潰れる事になるだろう。

 そこまで思考して、デュノアは別の視点でモノを考える。一人の父としての事である。

 

「……答えは急ぐものかい?」

「火急に。データが欲しければ余計に、ね。私としてはこのデータを売る所はココでなくてはいい訳だし」

「…………フザケるな、と言いたいね」

「ご勝手に。アナタが喚いた所で私の望みは変わらない訳だし」

「……シャルロットはコレを了承しているのか?」

「私は……」

「それも意味の無い問答だわ。今の彼女は物でしか無いもの。ソコに意思を求めるのは商品に意思を求めているのと変わりないわ」

「娘をそう扱う人間の元へ行かせたくは無い」

「そう、ならこの商談はなかった事になるわ。残念ね」

「待ってくれ」

「あら、デュノア社社長様が随分と子供らしい事を言うのね。娘はやれないが、情報は欲しいだなんて」

「当たり前だ。私とてシャルロットの親だぞ」

「なら、即答で娘はやれないと口にすればいい。私は未だにその言葉を耳にしていないのだけれど?」

 

 そうルアナが言えばデュノアの顔が歪む。彼を責める事など出来ようか。会社の命運を握る情報と自身の娘を天秤に掛けているのだ。

 奥歯を噛み締め、デュノアはシャルロットを見た。その視線に気付いたシャルロットは顔を強ばらせながらもしっかりと視線を返す。父として自分は何をやれたのか、精々当たりの強い妻から逃がす為にIS学園へと送っただけだ。

 

「……君の持っているデータは確かに自立型ISの物なのか?」

「ええ。偽りのデータを持ってきてシャルロットは売りません、なんて言われたく無いもの」

「…………わかった。確認したい事がある」

「どうぞ」

「デュノア社と…………()()()()()()()()()の関係は続くのか」

 

 その言葉に反応したのはシャルロットであった。尤も口は開かずに顔を上げて自身の父を見ただけではあったが。

 自身が選択した事であっても否定して、自分の娘を選択してくれると思った。心の何処かでソレを望んでいた自分がいた事も確かである。けれど、結果は散々であった。ルアナとデュノアで交わされる会話などシャルロットの耳には入っていない。ぐちゃぐちゃになった心の中に否定と肯定が入り混じり、混乱する。感情が溢れる。息が詰まる。

 

 強く握った拳が痛い。爪が手の平に食い込んで尚強く握り締め、その痛みでシャルロットはどうにか自分がソコに在るという事を理解出来ている。そんな手を上から覆うように別の手が重ねられた。持ち主が吐き出した言葉は淡々とした冷たい物であるが、その手はしっかりと人肌に暖かく強く握った手を解いて優しく握られている。

 シャルロットが強く握れば、軽く握り返して反応してくれるソレは十二分にシャルロットを支える事が出来ていた。

 

「――では、ここらで商談を成立させましょう」

「…………悪夢か何かだと思いたいね」

「これでも譲歩した方よ」

 

 娘を奪った癖によく言う。とは口が裂けても言えなかった。デュノア社としては十二分に利益になった。変わらずシャルロットへの武装提供も出来るし、そのデータも得れる。けれど、ソレに比例するように父として、家族としてのデュノア家からは一切関係を絶たれた。

 デュノアにとってどちらが最良か、などと論じる事は出来ない。彼には抱えている社員もいる、その家族もいる。自身にも家族がいる。その会社を守る為の選択を罵る権利などありはしない。

 

「……シャルロットをよろしく頼む」

「ソレはデュノア社長からの言葉かしら?」

「一人の父としての言葉だ」

「なら聞き流しましょう。社長の願いならばもう少し毟れそうだったけれど」

 

 残念ね。なんて呟いたルアナは立ち上がる。既に念書まで書いて全ての商談は終わったのである。

 手を繋がれたシャルロットも導かれる様に立ち上がり、ルアナへと寄っていく。チラリと疲弊した顔を天井へと向けて深い息を吐き出している父だった者を視界に入れた。扉が閉まりきるまで、その姿を目に収めてシャルロットの視界は閉じられた扉を目に映した。

 瞬間に、何かを打ち付けた様な鈍い音がシャルロットの耳に入った。発生源は先ほどまで自分達がいた部屋であり、おそらく何かを殴った音だろう。

 

「最後まで社長は演じる事が出来なかったわね……せめて私達が去るまでは演じきってほしかったけれど」

 

 それは無理そうね、と付け加えたルアナは溜め息を吐いて持っていた帽子をシャルロットへと被せた。被せられたシャルロットは驚きながらルアナに手を引かれていた。

 

「被ってなさい。泣くのは後にして」

「え、あ……」

 

 ようやくシャルロットは自分が涙を流している事に気がついた。心に生じた虚無感が別の感情となって瞳からこぼれ落ちていく。意識すれば止めどなく溢れてくるソレを隠すようにシャルロットは帽子を深く被った。

 堪える様に、けれど漏れ出している嗚咽にルアナは小さく溜め息を吐き出した。

 

「理解に苦しむわ」

 

 そんな事を更に小さく呟いた。




意味の無いアトガキ



鈴「アンタっていつも猫背よね」
猫毛「はぁ……」
鈴「ほら、もっと胸を張りなさいよ! 自信を持って歩きなさい!」
猫毛「……うん」
胸を張る。
鈴「その胸は私に対しての嫌味かぁ!!」
猫毛「ふぇぇぇぇ!?」

って、鈴ちゃんに怒られながらおっぱいを揉まれる夢を見ました。
鈴ちゃん、私におっぱいは無いよ……。
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