今回もよろしくお願いします
リニアトレインが低軌道ステーションに到着し、大洗女子一向は発着ロビーへ移動した
「んん〜〜!やっと着いたぁ!私達今宇宙にいるんだよね!?」
「うん!沙織さん元気になってくれて良かったあ。」
「沙織さん……壁に勢いよく激突したと聞いたのですが本当に大丈夫なんですか?」
「もう大丈夫!触ると痛いけど血とか出なかったから心配しなくていいよ。……てかそれよりもさ。」
沙織は華の隣で足をプルプル震わせ青ざめた顔をしていたリュウセイに目をやった
「リュウセイくん大丈夫?もしかして乗り物酔い?」
「いえ…違うんです………五十鈴さんと色々なお店を食べ歩きしてたのですが……ちょっと食べ過ぎちゃって……。」
「ごめんなさいリュウセイさん……いっぱい美味しそうなお店があったのでつい夢中になって……。」
「い、いいんですよ!とても楽しかったですしこの後の作業も頑張れると思うので!それに…五十鈴さんと一緒にいれて…その…えっと……。」
「華と一緒にいれて何!?何なの!?」
「だから……その……とても嬉し……!?ご、ごめんなさ〜い!」
突如リュウセイは飛び上がって物凄いスピードでトイレの中へ入って行った
「リュウセイさん……何を言おうとしてたんでしょうか?」
「………頑張ってリュウセイくん。」
「(リュウセイはホワイトベースに直行する様言ってあるし大丈夫だな…。)よーしそれじゃあ旅館に行くから皆着いてこいよー。結構人いるからはぐれんなよー。」
ロックオンに先導され大洗女子一向は合宿先の旅館へ向かおうとした。そしてその一向を物陰からナオとさらが覗いていた
「いざみほさんを発見してもどう近づけばいいかわからないもんだね。」
「他の生徒さんもいてちょっと近寄りづらいね…。」
「不審者と思われるのも嫌だし中々難しいですな。むむむ……。」
「どうしようお姉ちゃん……もうみほさん行ってしまうよ……。」
「う〜〜〜〜〜ん………やっぱこういう時は突撃取材だよ!レディィィィィィゴーーーーー!!!」
ナオは物陰から飛び出てみほへ向けて一直線に走り出した
「お姉ちゃん!そんないきなり走ったら転んじゃうよ!」
「間に合ええええええええええ!え?」
人混みの中みほへ向かって猛ダッシュしていたナオであったが、途中でつまづいてしまい顔面から思い切り地面へ突っ込んでしまった
「きゃあ!お姉ちゃん大丈夫!?」
「イタタタ………私とした事がお姉ちゃんなのにこんなかっこ悪い姿を見せてしまうとは………グス……。」
「あの………大丈夫ですか?」
すると転んでしまったナオにみほが声を掛けてきた。みほはナオから鼻血が出ている事に気づきティッシュを手渡した
「ありがとうございます………あ!あなたはみ……じゃなくて!お気遣いありがとうございます!」
「西住殿ー?早くしないと置いてかれちゃいますよー。」
「もしかしてみほの知り合い?」
そして沙織達もみほとナオのもとに近づいてきた
「ううん。ちょっと転んじゃったのが見えて心配になったの。立てますか?」
「はい!もう元気100%です!………この人混みの中でよく見えていましたね。流石ニュータイプです。」
「え…………?」
ナオの言葉を聞きみほは手に持っていたカバンを落としてしまった
「みほ?どうかしたの?」
「他の皆さんにはまだ話していないのですか?自分がニュータイプの力を持っている事を。」
「にゅーたいぷ?何それ?」
「……ッ!」
沙織がみほに尋ねると突然、みほはその場から逃げ出す様にどこかへ走り出した
「え!?ちょっとみほ!どこいくの!?」
しかしみほの姿は既に人混みの中へ入り見えなくなってしまった
「西住殿!」
「みほさん!追いかけましょう!見失ったら大変です!」
沙織と華と優花里はみほの後を追うため人混みの中へ入って行った
「あちゃー、ちょっと唐突過ぎましたかねぇ。」
「お姉ちゃん。私達も追いかけましょう。」
「…………おまえ達、一体何者だ?さっきの西住さん普通じゃなかったぞ。」
敢えてその場に残った麻子はナオとさらに質問した
「フッフッフッ。別に名乗る程の者じゃあないですよ。通りすがりのプリティシスターズとでも言っておきましょうか。」
「誤魔化すんじゃない。それに西住さんがニュータイプとか言っていたがどういう意味だ?とにかく一から説明しろ。」
(あれ…………?この人どこかで………。)
さらは麻子の顔を見て何かを感じた
「みほさんの事はみほさん本人から直接聞くべきだと思います。私の方から言えるのはニュータイプとはこの世界の神様になる存在。その資格をみほさんは……正しくはみほさんが『器』としてその役目を担う、とだけ言っておきましょう。」
「神様?器?ますますわけがわからないぞ……。」
「……少し喋り過ぎちゃいました。そんな事よりどうやら荷物を忘れて行ったようなので届けに行きましょう!さら、どこへ行ったかわかる?」
「うん、だいぶ遠くまで行ったけど位置はわかるよ。」
「さっすがさら!それじゃ私達に着いてきてください………えー、お名前何ですか?私、島田奈桜って言います!ナオって呼んでください!こっちは妹のさらです!」
「し、島田桜空です。」
さらの方は少し恥ずかしそうに目を逸らしながら自己紹介した
「冷泉麻子だ。あんた達姉妹なのか。よく見ると確かに似ているな。」
「本当はさらの髪も緑なんですけどね。色々と事情がありまして。では参りましょうか!」
こうして麻子もナオとさらと一緒にみほのもとへ向かうのであった
(冷泉麻子さん………マコ………もしかして……?)
沙織達は発着ロビーを出てみほを追ってショッピングエリアに入った。しかしかなり混雑していた為完全にみほの事を見失ってしまった
「みほさんどこへ行ったのでしょうか……。」
「そう遠くには行ってないと思うのですが……それにしてもこうも広いと私達まで迷子になってしまいそうですね………。」
「……………こっちかもしんない!」
沙織はそう言うと突然走り出し華と優花里は半信半疑で沙織の後に続いた
(何だろう……………なんかこの先にみほがいる気がする……。)
沙織は自分でも訳がわからなかったが何故かみほの気配を感じていた。気配を追っていくと大きな噴水のある広場に出て、近くのベンチにみほは座っていた
「みほ!」
「…………。」
みほは何も答えずうつむいていた。沙織はみほがこれまでにない程弱っているように見えた
「西住殿こんな所にいたんですね!……西住殿?」
「みほさん……何か嫌な事を言われていたのですか?」
「……………3人はさっきの人の話聞いた事ある?」
「ニュータイプとか言ってたっけ?何の事か全然わからなかったけど……。」
「ニュータイプというのは機動戦士ガンダムの世界に出てくる宇宙に出た事で新しい進化を遂げた人類の事ですよ。作中ではその力に目覚めた人達は感覚や意識が研ぎ澄まされたり、超能力の様な力を手に入れ向かってくる敵と戦っていたと思います。
ただあくまでアニメの話なので先程ニュースでやっていた様に現実にニュータイプが本当にいるのかはちょっと信用しきれないです……。」
「ニュータイプはいますよ。実際に。」
するとみほ達の前にナオが現れ、その後ろから麻子とみほの荷物を持ったさらがやって来た
「あ!さっきの人!」
「先程は失礼しました。モビル道界隈でニュータイプとして有名なみほさんに会えてつい軽率な事を言ってしまいました。」
「ニュータイプって……西住殿がですか!?」
優花里は驚愕しながらナオに迫った。みほは依然として表情を暗くしたまま俯いていた
「ええ、先程あなたが言っていたのと同じ様な力をみほさんは持っています。……去年の全国大会は残念でしたね。でも世間がどう言おうが私達はみほさんが悪いとは微塵も思っておりません。」
「その話はしないでください……お願いします………」
「ちょっと辞めてよ!みほは前の学校で辛い事があったから転校してきたんだよ!?それを思い出させる様な事言わないでよ!」
「………わかりました。ただいつまでも一人で悩み続けるより誰かに話した方が楽になると思います。良ければご友人の皆さんに話すのはどうでしょうか?」
「あなた達は一体何なのですか……?」
「私達みほさんのファンなんです!みほさんの活躍は中学生の頃から見ていました!何とか元気になってもらおうと思ってたのですが、私達はもう必要ないようですね。さら!」
「うん。これみほさんが先程落として行った荷物です。姉が色々やかましくて申し訳ありません。本人も悪気があった訳ではないんです。」
さらはみほに荷物を渡して頭を下げた
「う〜、確かに初対面なのにやかましかったですよね………ごめんなさい……。」
「届けてくれてありがとうございます……。全然そんな事ないですよ………。」
「ありがとうございます!それではこれにて失礼します。またどこかで会いましょう!」
ナオは元気良くみほにそう言うとさらと共に立ち去って行った
「………行っちゃったね。何だか少し怪しい人達だったね……。」
「うん………そうだね……。」
「西住さん。もし良かったら西住さんが大洗に転校して来た本当の理由を教えて欲しい。」
意外にも麻子からそんな質問が飛んできて沙織達は少し驚いた
「麻子?どうしちゃったのいきなり…?」
「さっきの話を聞く限り西住さんがニュータイプという力を持っていて、それが原因で前の学校で何かあったんだろう。そして同じ事を繰り返すかもしれないと恐れて突然あの場から逃げ出したんだろ?」
「凄いね麻子さんは、何でもお見通しなんだね……。」
「みほさん………私も聞かせて欲しいです。悩み事があるなら一人で抱え込まず私達を頼って欲しいです。」
「私も聞きたいです!……西住殿にはとても感謝しきれない程の恩があるので私も西住殿の力になりたいんです!」
「華さん…優花里さん…………わかった。ちょっと長くなるけど話すよ……。」
「みほ…………。」
みほは顔を上げ4人にこれまでの出来事を話し始めた
11年前、みほは家族と共に島田流の新型MSの演習を見学していた時新型のパイロットと接触しニュータイプへ覚醒した。初めは何の変化も感じなかったが小学校へ上がりモビル道を始めてしばらく経った頃、自分に向けられている他者の意識や感情を察知する事が出来るようにまでなっていた。これによりモビル道の試合でもかなりの功績を挙げる事ができ、クラスメイトやチームメイトに披露する事で注目される存在になり家元出身でもあったが故に段々と有名になっていった
やがて姉と同じ黒森峰女学園の中等部に入学したみほは更にモビル道に励んだ。多くの輝かしい結果を残す中、島田流が公言した事で学会やモビル道界隈の中で話題になっていたニュータイプという存在、みほこそニュータイプなのではないかという噂が上がる様になった
そして極めつけは中学生全国大会決勝戦にてみほは単機で敵MSを20機撃破するという戦果を挙げ、みほは賞賛の意味や原作に登場するその存在に例えた物としてニュータイプと世間から呼ばれ始めた
みほは引っ込み思案な性格だったのに、学校で多く声を掛けられモビル道でもチームメイトから頼りにされ毎日が幸せだった。姉のまほは親友が一緒に高等部へ上がらず他の高校へ入学した事に気を落としていたが、自分が活躍した事で元気になってくれたのでとても嬉しかった。たまに自分に悪い感情を向けている人もいたが周りの多くの仲間が支えてくれたおかげでそんな物はなんの気にもならなかった。この時までは………
第62回モビル道高校生全国大会決勝戦…………決勝戦に駒を進めたのは、大会9連覇中の黒森峰女学園とプラウダ高校だった。しかしその年のプラウダ高校は異常な事にメンバーが2年生と1年生しかおらず、中学時代から注目されていた選手も全員辞めてしまったようで公式戦において全く姿を見せた事の無い選手しかいなかった。
しかしそんなチームで一回戦から勝ち抜いて来たというのもあって隊長のまほは油断せず全力で叩き潰すと全員に言い聞かせ試合が始まった
『こちらアルビオン。現在ポイントB603進行中。レーダー内に敵影無し。各自警戒を怠るな。』
ステージは宇宙、ルールはフラッグ戦。先にフラッグ機かフラッグ艦を撃破した方の勝利で、決勝戦はMSとMA合わせて計50機と揚陸艦や戦艦、補給艦合わせて計20隻までとなっていた。
試合が始まってしばらく経ち、黒森峰とプラウダの艦隊とMS部隊がぶつかり合った結果両校共に戦力が分断されてしまった。みほはジムカスタムに乗りフラッグ機として参加していた
「みほ、調子はどうだ?」
「お姉ちゃん。私は全然大丈夫だよ。」
「そうか。想定よりも状況が悪くなってはいるが心配するな。おまえは必ず私が守る。」
姉のまほはとても頼もしかった。これまでまほと共に戦ってきた中でどんなに最悪なピンチになっても姉は最後まで必ず自分を守り切ってくれた。まほの乗るGP01フルバーニアンがいる限りみほは負ける気がしなかった
「ちょっと副隊長!せっかく護衛してあげてるんだから私も頼りにしなさいよ!」
「あれ?エリカちゃん妬いてるの?」
「ちょっと〜無駄な事は辞めた方がいいって。隊長が相手じゃ勝てないって。」
「べ、別に嫉妬なんかじゃないわよ!先輩も辞めてくださいよ!」
まほの他にも中等部の頃から一緒にモビル道を続けてきた逸見エリカや楼レイラ、赤星小梅や2、3年生の中でも精鋭の先輩達がいてくれた。
まほのフルバーニアン、エリカのGP02、小梅と先輩のジムキャノンIIが2機、レイラと先輩達のジム改4機、そして強襲揚陸艦アルビオンがいたからこれ程の戦力があれば最後まで戦い抜けると思っていた
「予定通りこのまま合流ポイントC302に向かう。総員気を抜くなよ!」
「………………。」
まほが皆を鼓舞する中、みほは隣で護衛してくれていた小梅が先程から無言を貫いている事に違和感を感じた
「小梅さん?どうかした?」
「……………。」
「小梅さん……?あの、返事お願いします!」
「副隊長?どうかしたのですか?」
「逸見さん!小梅さんが通信に答えなくて……」
みほがそう言いかけた時、先輩のジム改1機が突然撃ち抜かれた
「な、スナイパー!?ちょっとレーダー手は何やってんのよ!」
『そ、それがレーダー内には依然として敵影0です!……ミノフスキー粒子も撒かれてない様ですし……これってもしかして……。』
「敵スナイパーはアルビオンの、戦艦の射程距離外から狙撃をしているということか……厄介だな。全機散開、デブリを盾にしながら接近し敵スナイパーを撃破する!」
まほの号令と同時に先輩達の機体はいち早く動き始めた。しかしフラッグ機のみほは動けずにいた
「ちょっと副隊長何やってんのよ!狙撃されるわよ!」
「小梅さん返事して!小梅さん!」
しかし小梅はみほに答えなかった。エリカはみほと小梅の機体を掴み狙撃されにくいようアルビオンの影に避難した。しかしその間にもスナイパーによって先行していた先輩のジムキャノンIIが撃破された
「クソッ!プラウダの狙撃機といえばゲルググJ……けどゲルググJの照準補正器ってこんな遠くまで狙えるんですか?」
「おそらくマニュアルによる超長距離狙撃だろう。それをできる奴がプラウダにはいる。そういう事だ。」
まほはジム改のパイロットにそう告げながら冷静に頭を働かせた。そしてスナイパーの位置を狙撃位置を定めて、邪魔なデブリと狙撃を避けながら最大速度でスナイパーへ接近しようとした
「流石西住まほ………あの速度で接近してくるとは。カチューシャ、行けますか?」
「……行けるかですって?行くしかないでしょ!」
「小梅さん!無事なの!?小梅さん!」
「ちょっと副隊長!あーもう何なのよこれ!レイラ!とりあえず私とあんたでこの2人を守るわよ!」
「う、うん!」
エリカとレイラはみほと小梅の機体と共にアルビオンの後方へ退避した
『アルビオンより各機へ!前方より高速接近中の熱源1!モビルアーマーです!』
「何!?」
するとスナイパーが狙撃して来た方向から高出力のメガ粒子砲が放たれた。まほやアルビオンは何とか回避したが射線上にいたジム改が2機撃破されてしまった
「あのMAはビグロ……いやヴァルヴァロか!」
「クラーラとレーニャはノンナと一緒に奥のフラッグ機をやりに行きなさい!西住まほは私が止めるわ!」
ヴァルヴァロはまほの機体を抜きアルビオンの方へ向かおうとした。まほは追いかけようとしたがヴァルヴァロに取り付いていた機体が1機、まほの前に立ち塞がった
「ケンプファー………貴様がプラウダのフラッグ機か。大将が自ら前線に出てくるとは戦闘の基本がなっていない様だな。」
「私達はただ勝つだけじゃ駄目なの………あんた達金持ち共を自分の手でぶっ飛ばして……私達の強さを世界に示さなきゃならないんだから!」
「………おまえを落とせば私達の勝利だ。全力で行かせてもらう!」
「まだ止まれない……私もノンナも皆も………こんな所で止まる訳にはいかないのよ!」
カチューシャのケンプファーとまほのフルバーニアン。2人の魂が今、決戦の宇宙で激しくぶつかり合った
「逸見さん!小梅さん意識が無いみたいなんです!早く審判員の所に連れて行かなくちゃ!」
みほは小梅の名前を呼び続けていたが返事が全く返って来ない為みほは医務室に連れていくべきと判断した
「今攻撃さてれんのよ!?そんな事してる暇があるわけないじゃない!」
「そんな事って……小梅さんは私達の友達じゃないですか!だから早く……。」
エリカはみほのそういう所が気に入らなかった。みほが友人を大事にするあまり時と場を弁えず友を第一に行動しようとする所が癪に障った。
「ちょっと二人とも喧嘩しないでよ!って嘘!アルビオンが!」
そしてとうとうゲルググJによる狙撃でアルビオンが落とされてしまい、前方のヴァルヴァロがどんどん距離を詰めてきた。しかしそれとほぼ同時にアルビオンからの救難信号を補足していた生き残りのジム改部隊が応援に駆け付けてくれた。
「待たせたね逸見!楼!副隊長!援護するよ!」
「先輩……ありがとうございます!副隊長も援護してください!」
「でも……小梅さんが……。」
「小梅の事はいいから!あなたニュータイプとか呼ばれてんだからそれらしく戦いなさいよ!」
みほはエリカの言葉に大きく突き放されたような感覚がした。みほは小梅の機体を抱えてエリカ達の元から離脱して行った。そしてヴァルヴァロとそれに取り付いていたプロトタイプケンプファーが仕掛けてきた
「副隊長………もういいわよ!レイラ!先輩!援護お願いします!」
「逸見?副隊長はどうしちゃったの?」
「この状況下で戦いたくないとわがままを言ってるだけです!私達で敵部隊を殲滅します!」
みほは小梅の機体と共に戦場となっていた場所から少し距離のある所まで移動した
(敵の気配はない……ここなら………。)
みほはジムカスタムのコクピットから出て小梅の機体に近づきハッチを叩きながら小梅の名前を呼んだがやはり返事は返ってこなかった。一人で審判員の元まで小梅の機体を運んでいける自信がなかったので、みほは端末を使ってジムキャノンIIをハッキングしそれによってコクピットハッチを開く事にした
少し時間が経って、ハッキングは成功しみほはコクピットハッチを開く事に成功した
「やった開いた!小梅さん!!!」
思っていた通り小梅は意識を失っており、その上どういう訳かコクピット内の酸素がほとんど無くなっておりかなり危険な状態となっていた
(なんでこんな事に………急がなきゃ!)
みほほ小梅の腕を担ぎ自分の機体まで運ぼうとジムカスタムの方へ移ろうとした
「見つけたわよフラッグ機!こんな所に隠れていたなんてね!」
見上げるとそこにはかなり損傷し左腕を失ったケンプファーがおり、近くにはノンナのゲルググJとクラーラのプロトケンプファーも待機していた
「嘘………お姉ちゃんがやられたの………?」
「?あなた西住まほの妹……あのニュータイプとか呼ばれてる子ね!あなたともやりたかったのよ〜!」
「お願いします少し待ってください!病人がいるんです、すぐに医務室に連れていかないと!」
「へぇ〜、そう………よくそんな嘘言えるわね。あんた私達の事なめてるの?」
「そんな……時間が無いんです!早く連れていかないと!」
「見た所その子酸欠みたいね。それじゃクラーラのコクピットに入れてあげるからこっちに渡しなさい。」
カチューシャはそう言いケンプファーの右手をみほの元へ差し出してきた
「それじゃあ代わりに審判員の所まで連れてってくれるんですか!?」
「………試合が終わってないのにそんな事する訳ないでしょ。あんたさっきから甘ったれた事ばかり言ってんじゃないわよ。いいから早くMSに乗れ。私と戦え。」
みほはこれ以上にない程のプレッシャーをケンプファーのパイロットから感じた。左腕をもがれ装備もサーベルしか残っておらずかなり消耗していたはずなのに、ここからが本番だと言わんばかりにモノアイを光らせこちらに闘争心を向けてきた。みほは目の前にいる悪魔のような存在を恐ろしく思い、それに加えて小梅の事が何よりも心配だった為すぐにでもこの場から逃げ出したくなった
そしてみほは小梅を連れコクピットの中へ入るとあるスイッチを押した。するとみほのジムカスタムのバックパックから白旗が上がった
『黒森峰女学園フラッグ機戦闘不能!優勝はプラウダ高校!!!』
みほはこれしかないと思った。小梅を医務室に運ぶために試合を終わらせるにはこれが一番の最前法だと思ったから迷わずにはいられなかった。みほはそのまま機体を動かし医務室へ運ぶため一番近くの審判員の艦へ急いだ
「へぇ………やってくれんじゃない………。」
カチューシャはあまりの後味の悪さにかなり憤りを感じていた
医務室に運ばれた小梅の容態は想像以上に深刻な物だった。命に別状はなかった物の、まだ意識が戻っておらずそのままステーションの病院に入院する事となった。医師はあと少し遅れていたら本当に危なかったかもしれないとみほに告げた。
その後みほは全く気乗りしなかったが帰る為にも港のアルビオンへ向かった。すると港の入口でエリカが待っていた
「逸見さん………。」
「副隊長………申し訳ございません……小梅の状態があんなに悪かったとは知らず、勝つことばかりに執着していました………。」
怒られるとばかり思っていたが意外にもエリカは自分の非をみほに謝ってきた
「仕方ないよ………だって機体の中の酸素があんなに少なくなってるなんて普通思わないよ……。」
「それがその件についてなのですが、小梅の機体の担当の整備士もちゃんと補給しており、出撃時も彼女から異常は無いとの報告を受けていたらしく記録もちゃんと残っていたんです。だから………おそらく小梅自身が……機体に積んでいた酸素を捨てたとしか……。」
「え………?それどういう事ですか?」
エリカにも原因はわからなかったのか答えることができなかった。停泊していたアルビオンが近くなってくると通路の壁に寄りかかるまほの姿が見えてきた
「お姉ちゃん………。」
「みほ………すまなかった。私がやられてしまったばかりにおまえを守る事ができなかった……。今回の敗因は全て私の責任だ。本当にすまない。」
まほはそう言ってみほとエリカに向かって頭を下げてそう言った
「そんな!隊長のせいではありませんよ!悔しいですが私達よりもプラウダの方が純粋に強かったと言うしか……。」
「本当にそうかしら?」
声がした方を見るとそこには優勝旗授与式を終えたカチューシャとノンナがこちらへ向かってきた
「………優勝おめでとう。我々の完敗だよ。プラウダが君達の様な精鋭を今まで隠していたとは思わなかったよ。………次は勝つ。」
「あなたの方こそ中々だったわよマホーシャ。……それよりもあなたがフラッグ機のパイロットね?」
「は、はい……私です……。」
「あなたフラッグ機だっていうのによくあんな事できたわね。そんなに私達の事舐めてくれていたなんて流石は家元さんね。」
「誤解しないでもらおうか。みほは意識不明のチームメイトを助けようとしてリタイアしたんだ。むしろ人として讃えられるべき事をしたと私は思っている。」
「ふーん。意識不明になったチームメイトを助ける為に試合よりも助ける事を優先する。随分感動的な展開ね。……それも全部ニュータイプ様の筋書き通りなんでしょ?」
カチューシャがみほを見てニヤリと笑みを浮かべるとまほはカチューシャの胸ぐらを掴みあげた
「貴様……今何と言った?」
「カチューシャ!離しなさい西住まほ!」
「大丈夫よノンナ。何度だって言ってあげるわよ。黒森峰の副隊長西住みほは、自分のエゴのために仲間をあんな目に合わせる様な奴だってね!これで世間に仲間思いの優しい副隊長って報じてもらえる訳だし、西住流にとっていい客寄せパンダじゃない!」
「な、あなたなんて事を!」
エリカが思わずカチューシャに迫ろうとしたが、それよりも先にまほがカチューシャの顔を拳で思いきり殴った。その衝撃でカチューシャの小さな体は後ろへ吹っ飛ばされその光景を見てみほとエリカは息を呑んだ
「カチューシャ!!!西住まほ!」
「イチチ……辞めなさいノンナ。口切れちゃったけど大丈夫よ。」
「みほが……私の妹がそんな事をする訳がないだろう!みほは確かにニュータイプだ!だとしてもこの子はそんな事をするはずがない!」
「だってわかってないんでしょ?意識不明になった子が宇宙での戦闘にも関わらず自ら酸素を捨てていた原因が。普通じゃありえないけどそこにいるニュータイプにはできるんでしょ?…………洗脳とか。」
「まだふざけた事を抜かす様だな……。貴様!」
まほは再びカチューシャを殴る為近づこうとしたが、カチューシャの背後から凄まじいスピードで一人の少年が走ってきてまほの首を掴むと片手で持ち上げ壁に叩きつけた
「がっ………な…んだ……ぐあっ…………!」
「きゃあああ!お姉ちゃん!!!」
「隊長!!!」
「………………………。」
少年はまほと同じくらいか少し低い程の身長だったのに、抵抗するまほに全く動じす無言のまま目を見開くとさらに強く絞め上げた
「辞めろ三日月!相手は女だぞ!」
「いくら何でも死んじゃうよ!三日月駄目だ!」
少年の友人と思しき青年が二人止めに入ったが、少年はまほの首から手を離さなかった
「ぐあっ…………あが………たす……け……」
「……辞めて三日月。私は全然大丈夫よ。いじめられてた訳じゃないから。」
「………………わかった。」
カチューシャの声を聞き少年は手を離しまほは解放された
「ゲホッゲホッ!ゲホッゴホッ!はぁ……はぁ……」
「隊長!大丈夫ですか!?」
「三日月が乱暴な事をしてしまって本当に申し訳ございません。ほら昭弘も!」
「あー、ウチの仲間が乱暴な事しちまって本当にすいませんでした。ったく俺らだって決勝控えてんのに何やってんだよ!さっさと謝れ!」
「えー、ごめん昭弘。」
「謝る相手がちげーだろ………なんで俺なんだよ……。」
「でもこいつカチューシャの事殴ってたんだよ。謝りたくないなぁ。」
「三日月!女の子には乱暴しちゃいけないって前に言ったでしょ!早く謝んなさい!……そうだ最後に西住みほ。」
カチューシャはみほに近づいてきた
「ここまで言わせてもらった訳だしあんたからも私に何か言いたい事があったら聞かせなさいよ。」
「私は自分の意思で小梅さんを助けようとしました……。たとえ優勝できなくても……仕方ないと思いました。」
「そう……それならもうモビル道はやめてもらえないかしら?優勝がかかってるのに何が何でも勝ちに来ようとしないなんてまともに勝負する気が無かったんでしょ?生まれた時から何もかも手に入れてるからって……私達を見下してんじゃないわよ。」
「そ、そんな…………。」
「ま、ニュータイプなんて呼ばれてる以上いい様に使われそうね。それじゃ私達はもう帰るから。じゃあね〜。」
カチューシャは最後にそう言うとノンナと少年達と共に去って行った。みほはモビル道に向いてない事よりも他の子達とは全く別の存在である事を確定づけられた事が何よりも辛かった
「すまないなみほ。怖い思いをさせて……私が弱いばかりに……。どうして私はこんなに………弱いんだ………クソっ………!」
まほは顔を下げて座り込んだまま静かに泣いていた。みほはまほの傍に寄り添うと同じ様に涙を流した。
その後全国大会で大活躍したカチューシャにはバルバトス、ノンナにはグシオンという異名が付けられ、
プラウダはニュータイプのいるチームに勝利した事からニュータイプを天使となぞらえて『天使を狩る者』と呼ばれる様になった
それから数日後、何故か先日のまほとカチューシャのやり取りが何者かに録画されメディアに流出してしまった。雑誌等にも載ってしまい軽く炎上してしまった為黒森峰女学園側はまほに6ヶ月間モビル道の公式戦の謹慎処分を下す事となった。その際まほは母からの命令で西住流の関係者と共に修行に出る様言い渡され、まほは学園艦から去ってしまった。
加えて小梅の意識も未だ戻っておらず、原因も判明していなかったことや大会10連覇を逃した事でチーム内で責任の擦り付け合いが起こっていた為、流出した動画からみほが小梅を洗脳したからあの様な事が起こったという意見が多く出された。そんな確証は一切無いというのに学校でもその噂が流れ始め、皆がニュータイプという未知の存在であるみほを怯えた様な目で見るようになりあからさまに避けられる存在になっていった。今まではよく声を掛けられたりお昼を共にする人達もいたがそんな世界は完全に無くなり皆がみほに恐怖を抱いていた。モビル道の訓練も全く身が入らなくなり、周りのチームメイトは小梅の件やまほがいなくなった事からみほに強く当たる事が多くなり、みほはあまり訓練に出なくなってしまった。
たまに高等部へ上がらず転校した先輩から励ましのメールが届いたが、それでもみほは立ち直れず気づけばモビル道の訓練どころか学校にも行かなくなっていた。母はみほがニュータイプである事をはなから認めていなかった為相談しても気の持ちようだと言われ一蹴され、同室のエリカからも同じ様な事しか言わなかった
そして冬のある日、自室のポストに大きめの封筒が入っており、中には転校に必要な書類と『県立大洗女子学園』の資料が入っていた。一体誰がこんな物を入れたのはわからなかったがみほはとりあえず資料に目を通す事にした。みほはモビル道が無い事や、ニュータイプとしてではなく普通の女の子として生活したいと思いついに転校する事を決意した。母から何とか許しを得てみほは学園艦を去る前に、小梅が意識を取り戻したと聞いたので今まで一度も行っていなかったが小梅のお見舞いに行く事にした。病室を覗くとベットの上で他のクラスメイトと談笑している小梅の姿があった。みほは思い切って入ろうとしたが、彼女自身も他のクラスメイト同様みほが原因だと思っているのではないかと思い怖くなって部屋に入る事ができなかった。結局お見舞いに行く事なくみほは黒森峰女学園の学園艦から一人寂しく去り大洗女子学園に向かった
「みほ……そんな辛い事があったんだね……。」
「私知らなかっです……西住殿がそんな目にあっていたなんて………。」
「でもみほさんが誰かを洗脳しただなんて絶対にあり得ないと思います!いくらなんでもこんなの……!」
「事件の収拾をつける為とはいえ酷すぎるな……。」
みほの話を聞き終え4人はそれぞれ思いを口にした
「今となっては誰が洗脳してたかなんて小さな問題だよ……。ただあの時は私だけこの世界から仲間外れにされた様な気がして……もう誰も私の隣にはいてくれないと思ったから転校を決めたんだ……。」
「で、でも今のみほには私達がいるよ!だからもう……」
「ありがとう沙織さん。でももうおしまいだよ……私がニュータイプだって皆にバレた以上、また黒森峰の時と同じ様になるに違いないよ……。だからもうおしまいなの……何もかも……。」
「そんな訳ないじゃん!みほのばか!」
沙織はみほに声を大にしてそう言った
「え………?」
「だって私達みほの友達じゃん!確かにニュータイプが怖い力を持ってるって言うけど、それでも今までずっと仲良くしてこれたじゃん!私これからもずっとずっとみほと友達でいたいよ!」
「沙織さん……。」
「沙織さんの言う通りですよ。とても温かくて優しいみほさんをそんな風に見る事なんてできません。もっと私達を信じて欲しいです。」
「私もです!西住殿があの時声をかけてくれなかったら私は今も一人ぼっちでした。だから私も西住殿を一人ぼっちにはさせたくないです!」
「ニュータイプとはいえ西住さんだって私達と同じ人間だ。それにせっかくできた友人と関係を断たねばならないなんて流石に私でも寂しいぞ。」
「皆………。」
みほは顔を上げ4人を見て目からポロポロ涙を零した
「まだ私達始まったばかりなんだからさ、おしまいだなんて悲しい事言わないでよ」
「うん………!ありがとう……ありがとう皆……うわあぁぁぁん!」
「せっかく皆で宇宙に来たんだし楽しい思い出もいっぱい作ろうね。みほ。」
「うん………!うん………!」
沙織はみほが泣き止むまで彼女を抱き寄せた。その後みほが泣き止んでから、桃からの怒りの着信が来ていたことに気づきみほ達は急いで旅館へ向かった
「西住みほさん…………やはり彼女の力は未だ健在だったみたいだね。」
みほ達と別れたナオとさらはシャトルへ乗る為港に向かっていた
「ねぇお姉ちゃん。さっきの冷泉麻子って人どこかで見た気が……。」
「おや、さらも気付いたんだ。私もカテゴリーSがまさか大洗女子学園にいるとは思わなかったよ。」
「彼女の事はどうするの……みほさんだけだと思ってたけど……。」
「んー、今更来てもらっても仕方ないしおじさんにバレなければいいんじゃないかな?それよりもみほさんが私達の記憶を覗かなくて良かったね〜!アブナイアブナイ!」
「私達が事件の真犯人だとわかったら、きっとみほさんもの凄く怒るよね。」
「ハハハ、だろうね〜。でもあんなペラペラの動画だけで人を簡単に捨てれるなんて……オールドタイプは相変わらず酷い人ばかりだねまったく。」
「そうだね…。じゃあついに始めるんだね…………?」
「……とりあえず今日は月に戻って皆と相談してみほさんを迎えに行くのはその後にしよう!この世界を導くには私達ニュータイプが必要なんだから………。」
ナオとさらは『νA-LAWS』と書かれたシャトルに乗り込んでいった
その夜、黒森峰女学園学園艦にて……まほは暗くなった自室の机の上に届けられていた小包を置いた。差出人は書かれていなかったがまほはそれが誰からの荷物なのか察していた
(4ヶ月………修行という名目で独り宇宙を彷徨っていた………恐怖と孤独で頭がおかしくなりそうだったよ………だがそんな事になったのも全て私が弱かったからなんだろう?)
まほが小包に入っていた箱を開けると中には黒い和風の仮面が入っており、まほはそれを取り出すと自分の顔に装着した
(ならばいいだろう……今までの私を捨て、誰よりも強く生き、いつか全てを取り戻してみせよう。待っていろ………みほ、安斎……!)
新たなMSを手に入れ宇宙での演習を始める大洗女子。悲しき過去を分かち合い乗り越えようとする彼女達のもとに暗躍者の影が忍び寄る
次回 ガールズ&ガンダム『ネティクス』
漆黒の野望が、少女達の計画が動き出す
読んでいただきありがとうございました
前回から登場しているナオとさらはパワプロクンポケット10に登場する彼女候補の二人です。出した理由は僕がただ単に二人が好きなのとフロスト兄弟の様な双子のライバルが欲しかったからです。島田衛の正体は次回明かそうと思います
まほは声優的に歌姫にしようか迷いましたが仮面キャラで行かせてもらおうと思います。まほがラストに付けていた仮面はミスター・ブシドーのと同じヤツです。名前もそれっぽくミス・モビルドーにでもしようか迷いましたが流石に変だと思ったのでボツにします。今思えばなんでグラハムをミスター・ブシドーと皆呼んでたんですかね……