ガールズ&ガンダム   作:プラウドクラッド

20 / 41
今回麻子さんに加えられた捏造設定のストーリーがメインとなるのでご了承頂けると幸いです

今回もよろしくお願いします


13話 決意の朝(後)

 

杏とロックオンが皆の夕食を作る中、シュバルツ・ファングから麻子に向けて大洗の役場と通信が繋がったとの連絡が送られた。同時に職員が迎えに来ているという連絡が入り、麻子は沙織に起こされモビル道用のユニフォームへ早々と着替え部屋を出て行こうとした

 

 

「ねぇ麻子·····私も一緒に行こうか?」

 

 

「心配するな、西住さんもまだ寝ているんだからおまえはここにいてくれ。それに少しだけおばあに確認したい事があるだけだ」

 

 

心配そうな面持ちで声を掛けてきた沙織に麻子は背中を向けたまま答えた。幼なじみとはいえあのように感情を露わに取り乱した姿を沙織に見せたのは初めてだったので気にするなと言うのも無理があった。しかし自分がしほの言っていた非人道的所業を行う月の【ニュータイプ研究所】で生まれたかもしれない等と打ち明ける事は出来るはずもなく··········だからこそ麻子は唯一の肉親である祖母に一刻でも早くそれらの真偽を確認したかったので部屋を後にし早足で艦の外へ向かった

 

 

 

 

 

ホワイトベースに接舷された搭乗橋(ボーディング・ブリッジ)を通過し港のターミナルに出ると例のお迎えであろう黒い制服を身に纏った男性職員がこちらに近づいてきた。迎えに来た職員の者は懐かしい事に以前モビル道一回目の訓練で教官として馳せ参じてくれた教導隊のアナベル・ガトー教官であった。彼は日本モビル道連盟の職員であると同時に西住流の一門下生という縁もあってしほの忠臣の様にここシュバルツ・ファングで勤務していた

 

 

「冷泉君だな?家元がお待ちだ、付いて来てくれ」

 

 

ガトーの先導のもと二人はターミナルから[関係者以外立入禁止]と書かれたドアへ入り施設の中央へと進んで行った

 

 二人はほぼ初対面でありお互い寡黙な性分だったので何か会話が生まれる訳もなく長い廊下を黙々と歩き進んでいたが、前を歩いていたガトーが突然切り出してきた

 

 

「··········こんな事を君に聞くのもなんだが·····家元はみほに対して何か言っていなかったか?黒森峰に連れ戻すやら家元のチームに在籍させるなど··········」

 

 

「詳しい事はわかりませんが大洗に居たいならモビル道で私を納得させてみろ、みたいな事を言ってました」

 

 

「そうか·······!すまない、野暮な事を聞いたな」

 

 

 過去にみほの教官を務めていた事もあって母との間に確執を残したまま大洗でモビル道を始めていたみほの事がずっと気がかりだったのだろう。麻子からの返答を聞いて彼の厳格さ故の堅い口調が少し柔らかくなっていた

 それからしばらくガトーの後を付いて施設の中を進んで行くと[所長室]と書かれた部屋に到着した。ガトーがノックし部屋へ入るとしほが執務机の椅子から立ち上がりこちらを出迎えた。部屋を見渡すと様々な高級感ある家具が置かれており、壁には西住流の教訓が書かれた掛け軸やシュバルツ・ファングの周辺宙域が記された海図が掛けられていた

 

 

「ガトー君ご苦労さま。貴方はもう外してもらって構わないわ」

 

 

「はっ!」

 

 

ガトーは敬礼しながら力強く敬礼すると退室して行った。麻子はしほの執務机の椅子に座るよう促され少し緊張しながら椅子に腰掛けると机に内蔵されていたモニター付きの通信機が展開された

 

 

「先程本部から大洗の市役所に掛け合った所、丁度貴方のお祖母様が用事でいらしていたらしくこうして手早く貴方の望み通りに事が進んでくれたわ」

 

 

しほが通信機を操作するとモニターに役場の職員に怒鳴っている麻子の祖母、冷泉久子の姿が映し出された。職員はおそらく彼女に通信機の使い方を教えようとしていただけなのだろうが、元から相当頑固で意地っ張りな人だったので相変わらず手を焼かせているようであった

 

 

「おばあ··········」

 

 

『ん?なんだい麻子じゃないか!あんた宇宙にいるなんてあたしゃ一言も聞いてないよ!にも関わらずこれは一体どういう騒ぎだい!忘れ物したとかだったら承知しないよ!』

 

 

麻子の存在に気づいた久子はモニターいっぱいに顔を近づけ大声で捲し立ててきたので麻子としほは咄嗟に耳を塞いだ

 

 

「·····どうやらちゃんと繋がったようね。私は外で待っているから終わったら教えて頂戴」

 

 

「わかりました、ありがとうございます」

 

 

そう言ってしほは所長室の外へ出て行き麻子はおばあに事の本題を切り出そうとした。おばあも画面に映っていた麻子の様子がいつもと違う事から彼女の身に何かあった事を察し静粛になった

 

 

「宇宙にはいきなり行く事になって報告してる暇なんてなかったんだ·······それよりもだな·····」

 

 

『··········何かあったんだね?』

 

 

「単刀直入に言う··········今日モビル道の授業中に変な連中に襲われて、その時私が生まれたのは大洗や地球でもなく月の研究所で生まれたと言われたんだ·····」

 

 

『変な連中だって?·········あんたはその話を真に受けてんのかい?』

 

 

「··········信じたくはない。けどおとうとおかあがいた頃を全然思い出せないし覚えてなくて·····凄く怖いんだ。あの人達が言っていた事が全部本当の事だと思うと········

だから教えてくれ!おばあなら私の事も、二人の事も全部知っているんだろう!?」

 

 

平静を保っていたものの堪えきれなくなり麻子は感情が昂りながらおばあに迫った。できれば全部根も葉もないデタラメだと怒鳴りいつもの様に一蹴して欲しいと思っていたが、久子は怪訝な表情を浮かべ少し間を空けてから切り出した

 

 

『·····やっぱり宇宙に行くとロクな事にならんもんだね。もうあんたも大きくなったしこれ以上隠し立てするのもかえって良くないね··········』

 

 

「それじゃ·······」

 

 

『あんたが言われた通りさね。あのバカ息子·····いきなり大手の研究機関に呼ばれたから月に行くとか言って家を飛び出して以来、連絡の一つも寄越さないまま一度たりとも帰って来なくてね。何年か経ったある日、いきなり綺麗な嫁さんとあんたを連れて帰って来たもんだからあん時はたまげたよ。こちとら結婚した事も孫ができた事も聞いちゃいなかったからねぇ·····』

 

 

「つまり私は本当に月の研究所で生まれて·····二人に連れられ大洗に来た·····って事なんだな?」

 

 

『あのバカ息子、あんたの頭から月の研究所の記憶は全部消したから絶対に喋るなと言ってたよ。その場所で何があってお月様から実家に帰ってくる事になったのかは最後まで一つも教えてくれなかったけどね』

 

 

自分が月のニュータイプ研究所で生まれた存在である事が判ったせいか身体中がざわつき始めた。加えて自分の愛によって生まれた訳ではなく、しほが言っていた様に研究所によってただ造られたモノなのではないかという新たな疑念が生まれ今までにない程動揺し始めた

 

 

「なぁおばあ·····おとうのいた月の研究所では普通の人間よりも凄い能力を持った人を人為的に造っているらしくてな·········私が昔から何でも直ぐに覚える事ができたのもロクに勉強せずに良い成績が取れたのも全部そういう事ができる様に造られたからなのかな·····?」

 

 

『·····あんた何わけわからんこと言ってんだい?』

 

 

「単なる才能だとばかり今まで思っていたが、よく良く考えれば始めたばかりのモビル道で強豪校の選手を一人で撃破できる人間なんていないだろう?けど私が月の研究所で生まれた事が本当なら全てに説明がつくんだ·····だから私は二人の子じゃなくて、単に研究の成果で出来上がった存在なんだ。きっとそうに違いない··········」

 

 

気づくと目から大粒の涙が膝に零れ落ちていた。動揺するのと同時に自分という存在が理解できなくなり胸が締め付けられる様な感覚に襲われた。涙を零しながら俯く孫の姿を見て久子は大きく溜息をついた

 

 

『ちょいと待ちな。黙って聞いてりゃあんた何とんでもない勘違いしてんだ。自分が勉強できるのも才能に恵まれてるのも全部その研究所のおかげだって?冗談じゃないよ!

ㅤいいかいよく聞きな!あんたの昔から物覚えがいい所と勉強が得意なのはあたし譲りだけど、朝だらしなくていつまで経っても子供っぽくて甘えん坊な所なんてそっくりそのまま全部父親から受け継いでんだよ!それにそんなバチあたりな事やってる研究所があったとしても朝起きれない様な要らない特徴持った子を態々造るわけないじゃないか!』

 

 

「私とおとうが········」

 

 

『それに二人が消した記憶っていうのはあんたにとってよっぽど辛くて嫌な思い出だったんじゃないのかい?人間辛い事を背負い込んだり誰かを恨みながら生きてちゃ絶対幸福にはなれないからね』

 

 

「······でもいくら辛い記憶でも消してしまったら自分が何者なのかわからなくなるじゃないか·····自分が何なのかわからないまま生きるなんて··········」

 

 

『はぁ··········麻子、()()()()()()()だよ。自分のことを深く知りたいのはわかる。けどね、たとえ昔の事を覚えてなくても変な研究所で生まれてたとしても自分の正体がわからなくてもそんなの関係ない、今ここにいるあんたこそ紛れもないあんた自身なんだ。それを超えるあんたの正体なんて他にあるはずがない、あってたまるかって話だよ』

 

 

「今の私こそ·····本当の私··········」

 

 

『あの二人だってあんたが過去に縛られずに生きる事を誰よりも望んでるはずさ。だからそんな事気にしてうじうじ悩むのはもうよしな。そんなんじゃ二人も浮かばれんし仲良くしてる子達にも気を使わせるだろう?』

 

 

たとえ過去の記憶が無くても、他人と比べ異質であるとしても、自分の正体がわからなくても今ここにいる自分こそが自分。そして今ここに在る自分こそが嘘偽りのない自分の正体。

おばあに諭され聞き暗く俯いていた麻子は崩れる様に号泣し始めた

 

 

「おばあっ·······私は·····私は今まで通りの私でいてもいいんだな·····?」

 

 

『当たり前じゃないか!あんた自分の人生なんだよ!?これから先もっと色々と厳しい事が待ってんだからこれしきの事で狼狽えてんじゃないよ!』

 

 

「うん···········おばあっ········ごめんなさい······!」

 

 

『あーもういつまでメソメソしてんだい!本当にしょうがない子だねぇ····』

 

 

 久子は呆れた様な素振りを見せつつも麻子が泣き止むまでずっと回線を開いたままにしてくれた。それからしばらく経って麻子が泣き止んだので久子は最後に『皆に迷惑をかけるな』と『土産を忘れるな』と告げてシュバルツ・ファングとの交信を終了させた。麻子はおばあの言葉を胸に深く刻むと共におとうとおかあの想いに応えるためにももう迷わずに生きる事を胸に誓った

 

 

「·····いいお祖母さんね」

 

 

二人の会話が終わるのを見計らっていたのか、おばあとの通信が終わるのと同時に何故か目の周りを赤く腫らしたしほが所長室のドアを開け部屋に入って来た

 

 

「もしかしてずっと外で待ってたんですか?」

 

 

「ええ、直ぐに終わるものだと思ってたので。悪いわね盗み聞きする様な事をして」

 

 

「··········私が月の研究所で生まれた事も聞いてたんですね?」

 

 

「·····そうね。けどお祖母さんの言う通り今の貴方はあの場所とはもう何の関係もないのだから安心しなさい。さぁ、用も済んだので帰りましょう」

 

 

しほはそう言って麻子を送るため共に所長室を出て皆が待つホワイトベースのある港へ向かおうと歩き始めた

 

 

(この子が研究所と関わりを持っているとは········ブルーコスモスが嗅ぎつける前に釘を刺しておかなければ··········)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後麻子はしほに港まで案内されてから彼女と別れた。再び搭乗橋を渡ってホワイトベースの中へ入るとどうやら自分の帰りを待っていたのかみほと沙織、ビーハイヴと知波単学園のザンジバルからこちらに戻って来ていた華と優花里の姿があった

 

 

「あ!冷泉殿ですよ!」

 

 

「麻子さんおかえりなさい」

 

 

「待っていてくれたのか。悪かったな」

 

 

「麻子さん·····何か緊急のご用事でお祖母様に連絡したと沙織さんから聞きましたが·····」

 

 

「大丈夫だ、そんな大した用じゃなかいし気にしないでくれ」

 

 

麻子は心配そうにしていた華に柔らかい笑みを浮かべそう言った。普段あまり笑わなかった麻子を見て華と優花里は不思議そうに顔を見合わせ、みほはあんなにも焦り怯えている風な様子を見せていた彼女が立ち直ってくれた様に感じほっと胸を撫で下ろした

 

 

「麻子、おばあと話せてスッキリした?」

 

 

「ああ。······沙織、私は私。冷泉麻子だ」

 

 

「へ?あんた何言ってんの?」

 

 

「·····いやなんでもない。それよりもお腹が空いた········」

 

 

日本時間では現在午後8時。とっくに夕食の時間を過ぎていたのでお腹もペコペコになっていた

 

 

「確かに私ももうお腹が空いて·····もう立っているのも··········」

 

 

「あわわわ五十鈴殿しっかりしてください!」

 

 

「みんなもまだ食べてると思うし麻子さんも戻って来たから私達も行こうか」

 

 

「そだね、ほら麻子行くよ。食べる前はちゃんと手洗わなきゃなんだからね」

 

 

いつもと変わらない友人達の姿が今の麻子には嬉しく胸内が暖かくなるのを感じた。五人は夕食を食べるため共に艦内の食堂へ向かった

 

 

 

 

 

 

 食堂にはビーハイヴのメンバーと自動車部を含む他の生徒達が集まっており既に夕食を食べ始めていた。とはいえ初の宇宙での訓練だったのに何者かの襲撃に会い台無しにされてしまったせいか、少し重苦しい空気になっていた。そんな中キッチンで桃と柚子、ロックオンと共に配膳していた杏がみほ達の到着に気づきいっぱいの笑顔で迎え入れてくれた

 

 

「おっ5人ともおかえり〜!待ってね今よそってあげるから」

 

 

「冷泉!我々はあくまで課外授業としてここに来てるのだから集団行動は鉄則だぞ!ただならぬ事情があった様だから今回は不問にしてやるが次からは勝手な行動は慎むように!」

 

 

桃からの叱咤を受け麻子は頬を膨らませた。杏から夕食を受け取った五人は空いてる席を探そうと思ったら食堂の一角で食事をしていたリュウセイと、彼と一緒にいた赤ハロがこちらを呼びながらぴょんぴょん跳ねていた

 

 

「オーイ!コッチコッチ!」

 

 

「あ、リュウセイさん、ご一緒してもよろしいですか?」

 

 

「も、もちろんです!どうぞどうぞ」

 

 

華に声を掛けられリュウセイは若干慌てながら答え座るように促してくれた

 

 

「リュウセイくんも昨日来たばかりなのに大変だったよね。まさかいきなり実戦が始まるなんてね·····」

 

 

「僕は皆さんと比べてそんな大した事はしてないですよ。··········あの人達は一体何だったのでしょうか······西住さんと冷泉さんを貸してくれなきゃ、大人しくしてなければ攻撃するだなんて正直かなり異常だと思いました····」

 

 

他の皆もリュウセイと同じ様に今回乱入してきた者達に思う事が色々とあるようで悶々としている様子だった

 

 

「皆、食べながらでいいからちょっと聞いてくれ」

 

 

するとロックオンが真剣な面持ちでキッチンから出て来たので、皆会話を止めて彼に注目した

 

 

「本当は今日皆に宇宙空間での機動訓練をして貰いたかったんだが、あのガンダム達が好き勝手襲い掛かってくる様な宙域で訓練をさせちまったせいであんな事になっちまった。危険な目に遭わせて本当にすまなかった······」

 

 

「ちょっと待ってくれ教官。あの連中はただ暴れるのと同時に西住さんと冷泉さんを、特に西住流家元の西住さんを連れ去る事が狙いで私達の訓練に乱入してきたんだろう?そのくらいあの状況を見て私達でも判断できるさ」

 

 

謝罪するロックオンに異を唱えたのはカエサルだった。他の皆も同じ事を思っている様でありカエサルに続いて梓もロックオンに質問を投げた

 

 

「あの人達は一体どこから来た人達なんですか·····?あんなに凄そうなMSを持ってる人達なんてかなり限られてくるんじゃ··········」

 

 

「·····俺達を襲ってきた連中は月にある研究機関所属のプロチーム"νA-LAWS"だ。連中は自分達の所持してる宙域内でなら他所様にドッグファイトを挑もうが、演習中に乱入してもある程度許されてしまうらしいんだ···」

 

 

「そんな·······皆憧れてるプロチームの人達がそんな事してるなんておかしいじゃないですか!」

 

 

νA-LAWSの存在に典子をはじめバレー部の一年生達も怒りを滲ませていた。競技は違えど体育会系の彼女達にとってプロの世界にそんな人達がいるなんて事は許せるはずがなかった

 

 

「そうだな、おまえの言う通りこんなふざけた話許せねぇよな·········だから俺はあんな連中のモビル道を認めたくねぇ。俺にとってモビル道は信念や意志を形にして、その心の形をライバルとぶつけ合って高め合って互いに成長していく武道だと思っている。たとえそれがパイロットだろうと艦のクルーだろうと整備士だろうと関係ない。一人一人が自分にできる事を通して自分にとって大切な何かを見つける事ができる·······そんな素晴らしい武道であると俺は信じていたい。

皆には今日怖い思いをさせちまったが、どうかモビル道を嫌いにならないで欲しい··········頼む」

 

 

そう言ってロックオンは皆に向かって深々と頭を下げた。これは教官としてではなく一人の戦士として、ただ純粋にモビル道が大好きな一人の人間として彼から皆に伝えたい言葉だった

 

 

 

 

 

「··········そうだよ。まだ何もできてないのに·····あんな人達が怖くてモビル道を辞めなきゃいけないなんて私達は絶対嫌です!」

 

 

最初に声を上げたのは梓だった。他の一年生達も含め皆同じ想いを、同じ決意を持っているのが彼女達の瞳から伝わってきた

 

 

「私達もです!バレー部復活のためにもこんな所でクヨクヨしたくないです!」

 

 

「我々もだ。あの様な不届き者のために進む事を辞めるなど誇りに関わるのでな」

 

 

「私らはただのメカニックだけどさ、選手の皆が頑張るって言うなら退く訳にはいかないよね」

 

 

典子とエルヴィン、ナカジマも梓に続いた。今ここにいる一人一人がそれぞれ熱い意志を持っている事にロックオンは心を震わされた。気づけば先程まで食堂内を包んでいた重苦しい雰囲気は完全に振り払われていた

 

 

「おまえら·····」

 

 

「まあこんな所で辞められては我々も困るし有難いな」

 

 

「桃ちゃん空気読んで!」

 

 

「へぇ·····西住ちゃん達はどうかな?まずはリュウセーくんから聞かせて欲しいな」

 

 

「ぼ、僕もですか?·············僕にはまだ皆さんの様な強い志しはありません、だけどそんな皆さんのお力になれるならできる以上の事をしてあげたいです」

 

 

「リュウセー、コレデモッテモテダナ!」

 

 

「ちょ、ちょっと!思ってもない事言わないでよ!」

 

 

リュウセイはダルマの様に顔を真っ赤に赤面させながらツッコンできた赤ハロを取り押さえた

 

 

「ふふふっ········私も自分の道を進むため、まだ立ち止まりたくないので皆さんと同じ覚悟です」

 

 

「わ、私もです!何よりモビル道とガンダムが大好きなので辞めたくないです!」

 

 

「私も単位が掛かってるんでな。こんな所で降りるつもりは毛頭ない」

 

 

「単位ってあんたねぇ·········私も将来いいお嫁さんになりたいので頑張りたいです!モビル道!」

 

 

「いやぁ〜武部ちゃんも武部ちゃんだよ〜。··········で、肝心の西住ちゃんはどうかな?」

 

 

正直どう言うべきか迷っていた。このまま皆と一緒に頑張りたいというのが本心であったが、自分が原因でνA-LAWSが襲来し皆を危険な目に遭わせたという事実がみほを迷わせた

 

 

「みぽりん··········」

 

 

「··········自分の心のままに羽ばたき、自身より強大な存在に屈さず、己の意志を貫き続けた者にだけ本当の意味で未来を切り拓く事ができる」

 

 

「·····え?」

 

 

沈黙していたみほに突然言葉を掛けてきたのはカエサルだった

 

 

「私にモビル道を教えてくれた恩師がいつも言っていた言葉だ。西住さん、自分がいると皆に迷惑がかかるなんて思わないで欲しい。貴方が悪い事をしたなんて誰も思っちゃいないのだからな」

 

 

「そーそーカエサルちゃんの言う通り!もっと自分の気持ちに素直にならなきゃ駄目だよ西住ちゃん」

 

 

「···············わかりました。········私も皆さんと一緒にモビル道をしたいです。だから皆さんと一緒に戦います!」

 

 

みほは軽く息を吸って強く宣言した。彼女の強い意志を聞き取り皆安堵して笑顔を浮かべた

 

 

「よしっ決まりだね!んじゃこうして皆の心が一つになった訳だし気を取り直して乾杯しよっか!かーしま音頭とって」

 

 

「はい!了解です!」

 

 

「おいおい唐突だな。··········けどそういうのも大事だよな!」

 

 

ロックオンもいつも通り爽やかな笑顔になりグラスに飲み物を注いだ。他の皆もコップにジュースを注ぎ乾杯の準備をした

 

 

「みぽりん、今日色んな事があって色々な事を知って大変だったよね。たがらさっき教官さんが言ってた通り私も自分のできる事でみぽりんを守るよ。って言ってもMSの操縦できない私にみぽりんを守れるのかな、ははは··········」

 

 

「沙織さんにできる事なら沢山あるよ。·····今日だって何回も沙織さんに守ってもらえたから··········」

 

 

「え、そうだっけ·····?」

 

 

「えーそれでは!我々の訓練に乱入してきた宇宙に蔓延る不届き者の撃退に成功した事と全国大会に向け皆の心が一つになった事に乾杯!」

 

 

「撃退したのは俺達じゃないが·····まぁいいか!乾杯!」

 

 

「「「「「乾杯〜〜〜〜!!!!!」」」」」

 

 

桃の音頭に合わせ、それぞれ胸の内に熱く決意を込め手に持っていたコップを高く掲げた。まだチームとして出来上がったばかりの大洗女子学園、当初は宇宙での機動訓練さえできれば目的は達成であったが、結果としてそれ以上に皆の絆を深めるという大きな課題をクリアする事に成功した

 

こうして最後は皆で楽しい時を過ごしながら、みほ達のとても長かった合宿二日目が幕を閉じた··········

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 合宿三日目、日本時間では朝5時を迎えていた。杏は何となく目が覚めてしまい体を起こすと、対岸のベッドの上でタブレット端末を眺める相部屋だったみほの姿が目に入った

 

 

「·····あれ、西住ちゃん?もう起きてたんだ」

 

 

「おはようございます会長。·····起きたらお母さんからこんなメールが来てました」

 

 

そう言ってメールの確認を終えたみほは杏に端末を差し出した。杏は眼を擦ってみほから端末を受け取りそこに映し出されていたメールの内容を見た

 

 

「これって··········」

 

 

メールの本文には滞在中シュバルツ・ファングの施設で訓練を行う事を許可するという旨が書いてあった。それだけでも有難かったが、極めつけはメールに添付されていた画像データにあった。画像を読み込むと、MS用のハンガーに眠らされている1機のガンダムとその機体の性能を載せたカタログが映し出されてた

 

 そのガンダムの名は【RX-78GP04.ガンダム試作4号機】通称ガーベラ。MSの知識がまだあまりない杏でも、カタログを見る限りその機体が破格の性能を持っている事を理解する事ができた。そしてカタログの最後のページにはしほからのメッセージが載っていた

 

 

『この機体は本来1号機をまほに送ったのと同じ様に、貴方の16歳の誕生日に送るつもりでした。しかし貴方は全国大会が終わった後直ぐにモビル道を辞めてしまった。その結果この機体を貴方に渡す理由も無くなり学園艦の最下層に眠らせる事となりました。·····ですが今再び立ち上がり私とは異なる道、自分の道という物を示すために母を越えてでも進むのならば、その覚悟があるのならばこのガンダムは貴方に力を与えるはず。貴方達の帰り道に黒森峰のアルビオン隊と合流し譲渡させますので忘れないように』

 

 

メールの内容からこの機体が大洗女子の戦力に加わると知り杏は興奮して完全に目が覚めてしまっていた

 

 

「凄いね西住ちゃん!いやぁ〜やっぱママ住さんって何やかんや優しい所あるよね〜」

 

 

「·····会長。私も頑張ります。やっぱり私大洗女子に転校してよかったです。たとえそれが仕組まれた事だとしても本当に素晴らしい人達と出会えたので·····皆と一緒に居たいので頑張りたいです!」

 

 

「仕組まれた·····?んー、まぁ西住ちゃんがそう言ってくれると私も嬉しいよ」

 

 

杏は少し違和感を感じながらもみほに笑い掛け手を差し出した

 

 

「ママ住さんに認めて貰うためにも勝たなきゃね。皆で優勝目指して戦うよ、西住ちゃん」

 

 

「·····はい!」

 

 

みほは元気な返事と共に杏の手を固く握り返した。日本各地から猛者が集う舞台、モビル道全国大会。戦士達は己の存在を、誇りを、信念を、心を、生き様を、力を世界に示すため··········今同じ朝を迎えた

 

 

 

 

 

次回 ガールズ&ガンダム『二校合同演習』

 

 

誰よりも熱く激しく、命の焔を燃やしていたい·····

 

 

 

 




読んでいただきありがとうございました

麻子の話はまだまだ続いて行くと思います。何故にこの様な捏造設定を加えたかというと本編で麻子さんが初めて戦車に乗った時某スーパーコーディネイターが頭に浮かんだからで·····

新しくみほの機体として登場したガーベラ。このままみほのもとに届けば良いのですが·····

話数的に丁度いい(個人的に)ので次回は他の学園のキャラクターがメインの外伝を投稿しようと思います

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。