ガールズ&ガンダム   作:プラウドクラッド

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外伝 千代美、その心のままに
PHASE-01 閃光の少女


 黒森峰女学園────幾度となくモビル道全国大会優勝を果たし現在大会5連覇中の超強豪校。勝利至上主義を掲げる西住流三代目、西住しほの影響と指導育成を大きく受け、加えて彼女のモビル道に信望を寄せる人々からの支援により超一級品のMSやその他兵器が提供されていたため、黒森峰でモビル道に励み無事に卒業できた者は世界レベルで見てもエリート中のエリートであるとされていた。故に日本国内のみならず世界中のモビル道で強くあろうとする少女達が西住流に憧れ黒森峰への入学に憧れた··········しかし入学への道のりはかなり厳しく、一般試験で中等部へ入学するには学力は勿論、モビル道において並以上の技量や能力が無ければ先ず弾かれ、特待生枠としてスカウトされるにも入試組以上に求められる水準が高かったのでかなり敷居の高い学園と世に知られていた

 

 

 

 そんな黒森峰の中等部に愛知県から一人、一般入試を経て入学を決めていた少女がいた

 少女の名は安斎千代美。彼女は当初私立である黒森峰に入学するつもり事など思いもせず、地元の中学校に進学するものだとばかり思っていた。しかしお世話になっていたモビル道チームの隊長が千代美の実力と才能に可能性を感じ、黒森峰女学園を受験してみてはどうかと彼女の両親に提案したのであった。それを受け元から人情に厚く面白そうな事にはノリと勢いで突っ込みに行く事が多かった千代美の両親は娘に黒森峰を受験させる事を決意。二人は()()()()完璧かもしれない受験対策問題を練り上げ、受験勉強を面倒くさがる千代美のケツを叩き入試本番まで無理矢理勉強に専念させた

 

 結果黒森峰から千代美宛に合格の通知が届き、来年の春から機甲科の中等部に入学する事が決まった。両親は自分の手柄のように喜びご近所には自慢して回り千代美も難関校に合格できた事が嬉しかったが、全く新しい環境に一人で生活する事と正直西住流のモビル道に馴染めるか不安に感じ少し気が重くなっていた

 

 

「なぁ、黒森峰ってかなり凄い所らしいんだけどさ。私みたいのがやっていけるのかなぁ·····」

 

 

その日の夜、弟の部屋にてベッドに寝転び雑誌を読んでいた千代美はふと悩み事を彼に向かって呟いた。千代美の弟、安斎千秋は3つ歳下ながらも自分より大人びており少し静かすぎる気もして心配だったが千代美にとっては頼りになる弟だった

 

 

「別に大丈夫でしょ。お姉ちゃんすっごい強いし友達だっていっぱいできるよ」

 

 

「そうだといいけど······やっぱり一番不安なのはモビル道の方だよ。西住流って昔っからあるめちゃくちゃ有名な流派らしいから、そんな人達の訓練なんて絶対厳しいだろうし着いていける気がしないなぁ·····」

 

 

「·····我慢できなかったらいつでも帰ってきていいと思う。パパとママも笑って許してくれるだろうし·····それに僕もちょっと寂しいから·····」

 

 

千秋はそう言いながら顔を隠すように漫画を再び読み始めた。実際両親も特別厳しい訳ではなくただ破天荒なだけなのでこの数ヶ月の勉強地獄に対してもそれほど憎んでいなかった。千代美はたちまちご機嫌になり千秋の髪をわしわしと撫で回した

 

 

「まったく本当に甘えん坊な奴だなおまえは!このこの〜!」

 

 

「う、うるさいよ!······ていうか黒森峰女学園って女子校なのによかったの?お姉ちゃん中学生になったら小説みたいな恋愛したいって言ってたのに··········」

 

 

「え゙!?黒森峰って女子校なのか!?··········キャンセルだ·····入学は今すぐキャンセルだ〜!」

 

 

千代美は蒼白した顔で部屋を飛び出しドタドタと両親のいる一階へ降りて行った。無論そんな理由で入学を取り消すなど許されるはずもなく叱られてしまい、千代美は高等部卒業まで恋愛が遠い存在になる事に涙を流しながら暴れ始め、千秋を含め家族全員が彼女はあれで本当に大丈夫なのかと深刻に思い始めたのであった

 

 そんなこんなありながらもついに黒森峰女学園に向かう日となり、千代美は家族と学校やジュニアチームの友人達に見送られながら胸を貼って黒森峰から迎えに来たヘリに乗り込んだ。ヘリが出発し千代美は皆の姿が見えなくなるまで手を振るのと共に、皆の期待に応えるためにも黒森峰女学園でモビル道の戦士として最期まで戦い抜いてみせると心に誓ったのであった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 黒森峰女学園に到着して数日、寮の歓迎会や入学式等を終えてついにモビル道最初の演習日がやって来た。千代美は顔を洗い自身の長い緑髪を大きなリボンで束ねツインテールを造り、パジャマから黒森峰モビル道部隊用の制服に着替え始めた。その最中まだ空っぽになっていたもう一つのベッドに目をやった

 

 

(もう一人の子はいつ来るんだ?一人は嫌だなぁ·····)

 

 

本来二人部屋であるはずなのに何故か自分しか割り当てられていなかったので、千代美は少し寂しさを感じながらも一人黙々と支度を済ませて自室から演習場へ向けて飛び出して行った

 

 

 

 演習場には寮から出ているバスに乗って向かい多くの一年生が乗車しており、到着後外へ踏み出すとかなり広大な軍事基地が目に飛び込んできた。ヘリで空から見た時も独占する様に学園艦の中央に存在している事に度肝を抜かれていたが、こうして自分の目線で見て改めてその規模に衝撃を受けた

 

 

「凄い·····こんな広い所でMSに乗れるのか·····」

 

 

とはいえ感動している場合でもなく千代美も他の一年生と同様に集合場所であるMS第1格納庫へと向かった。到着後一年生は綺麗に整列させられた。その年の一年生は特待生を含めて200人近くが入学しているらしく、ここにいる一人一人が自分以上の実力者であるかもしれない事に千代美は緊張感を覚えるのと同時に絶対に負けたくないと心に火を灯した

 

 

「ねぇねぇ見てよあの人·····西住まほさんだよ·····」

 

 

「ほんとだ····!あのまほさんと一緒にモビル道ができるなんて·····!」

 

 

隣の一年生二人がひそひそと話すのが聞こえ、彼女達の視線の先に目をやると列の中に只ならぬ存在感を放ち周りの生徒から注目を浴びていた一人の少女がいた。その少女こそ昨日の入学式に一年生代表として式辞を述べていた西住流本家の長女、西住まほであった

 

 

「なぁ、西住まほってそんなに有名人なのか?確かに結構強そうだけど·····」

 

 

「·····は?貴方······何言ってるの·····?」

 

 

千代美は少女の事が気になり隣の二人に聞こうとしたら、二人は口元を抑えながら信じられないというような表情をこちらに向けてきた

 

 

「·····まほさんは現家元の三代目、西住しほ師範の長女で西住流の次期跡取りなんだよ?」

 

 

「へぇ〜西住流の跡取りか!そんな凄い奴がタメにいるなんて知らなかったよ〜」

 

 

「··········貴方もしかして西住流の事何も知らないの?あのまほさんを知らないだなんて·····」

 

 

「いや流石に西住流の事はちょっと勉強してきたぞ!えっーと··········いつも雑誌とかテレビで特集されててほんと凄いよなー··········ははは·····」

 

 

「信じられない····なんでこんな子が黒森峰に入学してるの·····?」

 

 

二人は千代美に完全に軽蔑したような目を向け、千代美はそれを受け苦笑いを浮かべることしかできなかった。彼女達は皆西住流に憧れ入学したのだから当然西住流のモビル道を崇拝してる訳で、自分の様に西住流に興味など無いに等しくただモビル道の強豪だからと入学した者は異端中の異端である事が判明し、ここにきて自分の黒森峰への認識の甘さを痛感した

 

 

「今年の一年生は結構いるな·········皆注もーく!」

 

 

突然大きな声が響き、振り向くと列の先頭の方に二人の上級生の姿があり、千代美含め一年生達は全員静粛にし改めて気を引き締めた。声を上げた方の銀色の短髪、その上にレンズがオレンジ色のゴーグルを掛けていた上級生はその様子を見てニヤリと笑みを浮かべた

 

 

「ようこそ黒森峰女学園へ!私は中等部の隊長やってる三年のジェンダー・オムだ!皆よろしく!」

 

 

ジェンダーとその傍らに立つ副隊長と思しき人物は軍人の様に敬礼し、周りの一年生達も二人と同じように返礼した。千代美は少し遅れて敬礼しながら、おそらく海外の人と思われるイケメンな隊長に見とれてしまっていた

 

 

「·····それで早速なんだがこれから私達上級生と新入生を交えて実戦演習を行わせてもらう。人数か多いから予め参加する一年生はこちらで決めさせてもらったが、ちゃんと公平にクジで決めたから選ばれなかったからと凹まないでくれ」

 

 

初めからこちらが本題だったのかジェンダはさらさらと言い放ち、他の一年生達はそれに衝撃を受け動揺しざわつき始めた。千代美は自分には絶対関係ないだろうと思いボーッとし始め、まほも周りが動揺する中先程と何ら変わらない様子を見せていた

 

 

「全員静粛に。演習は5機一個小隊三組による殲滅戦を行います。使用する兵器は3チームごとに既に用意されているので、スタート地点に到着後編成を決めてください。これから参加する生徒の名前を呼ぶので呼ばれた方は前へ出るように。·····先ずは西住まほさん」

 

 

当然、と皆思っていた通り最初に副隊長が呼んだのは西住まほだった。その後も次々と一年生の名が呼ばれ、千代美は列を抜けていく彼女達を見送りながら一体どんな戦いを見せてくれるのかなとぼんやり考えていた。

 

 

「·····千代美さん。·····安斎千代美さん!いないのかしら!?」

 

 

「·····え?は、ハイ!」

 

 

千代美は自分の名前が呼ばれている事に気づき我に返った。周りから睨む様な目線を送られながら千代美はそそくさと列を抜け前の方へ向かった

 

 

「いやぁ大変失礼しました!まさか呼ばれるとは思わなくて!」

 

「いるのなら一回で来てくれないかしら?·····って何その頭?ウィッグ?」

 

 

「え、いやいや地毛ですよ!冗談キツイな〜もう〜」

 

 

「そう········黒森峰も随分舐められたものね·····」

 

 

副隊長は目元に青筋を浮かべながらこちらを睨みつけていたので、千代美は苦笑いを浮かべながら目を合わせないようにした。今思えばこんな髪型をしているのも自分くらいなものだったので完全に目をつけられたと思い後悔した

 

 

「副隊長は風紀委員長もやってて仕事上無視できないもんでな。あまり気に病まないでくれ」

 

 

「は、はい·····すみません··········」

 

 

「それに君はあのまほさんと同じチームだ。同じ一年の彼女に負けないようもっと自信を持って欲しいね。それじゃ面白い戦いを期待してるよ。安斎千代美さん·····」

 

 

ジェンダーはそう言って千代美の肩を叩いてから通り過ぎて行った。彼女からちょっとした違和感を感じたが千代美は切り替えてまほ達が集まってる場所へ向かった

 

 

「··········隊長。家元からまほさんを試して欲しいとの依頼があったからこんな演習を行うのですが·····何故あの様な不良かぶれを·····」

 

 

「安斎千代美の事か?あれが同姓同名の別人なら話は別だが·····おそらくかなり楽しい事になるかもしれない」

 

 

「楽しい事··········そうなればいいのですが」

 

 

「そう気を悪くするな。とにかく作戦通りに動くぞ。ここで西住まほを討つ事ができれば新入生全員に危機感をもたせることができるからな······」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 千代美はまほと他のメンバーと共にジープに揺られながらスタート地点に向かっていた。自分達がこれから演習で扱うMSは全てスタート地点に用意してあるらしく、全員の準備完了と同時に実戦演習が始まる事となっていた。移動中まほは戦場になるであろう基地内を静かに見渡しており、その様子を他の三人は羨望の眼差しを送りながら彼女の妨げにならないようひそひそと話していた

 

 

「··········おい西住まほ。おまえの好きな食べ物はなんだ?」

 

 

「え·····?」

 

 

あまりに唐突に千代美が声を掛けてきたのでまほは少し驚いた様子を見せた

 

 

「いくら西住流の家元とはいえ好きな食べ物の一つや二つくるいあるだろう?こう見えて私結構料理が得意で·····」

 

 

「ちょっと貴方!まほさん失礼しました!」

 

 

すると三人組のうち二人が千代美を取り押さえるように飛びかかり千代美の言葉を遮り一人がまほへ頭を下げた。口元を封じられた千代美はじたばた暴れて二人を突き放した

 

 

「コラ!何するんだいきなり!喧嘩ならいくらでも買ってやるぞ!」

 

 

「おい、喧嘩は良くないぞ··········」

 

 

「そ、そんな喧嘩じゃありませんよ!」

 

 

まほは険しい表情でギロりと睨みつけ、千代美を押さえていた二人はゾクリとまほの視線を感じながらも千代美にしか聞こえない声で忠告しようとした

 

 

(貴方何まほさんに気安く話し掛けちゃってんのよ!?)

 

 

(気安くって·····これから同じチームとして戦うんだからそのくらいいいだろう·····)

 

 

(あのねぇ!まほさんは私達みたいな庶民が話し掛けていいような人じゃないの!もし失礼な事でもしたら退学は愚かモビル道界から消されちゃうかもしれないのよ!?)

 

 

正直二人が何を言っているのか千代美には理解できなかった。しかし彼女達から今すぐ側にいるこの西住まほという少女はそこまでの影響力を、自分とは全く違う世界に生きている人物であるという事が伝わってきた

 

 

(·····だとしてもだ。これから三年間一緒に戦う仲間を特別扱い·····いや、差別なんてできるもんか!)

 

 

(何よそれ········私達は貴方の事を思って言ってるのに!)

 

 

「ハイハイ皆さん着きましたよ〜。·····ってアレ?なんかめちゃくちゃ修羅場ってるじゃん·····」

 

 

本土の分校から派遣されて来た整備士の男子高校生はスタート地点に到着した事を伝えようと振り向くと、険悪な雰囲気になっていた千代美達の様子を見て若干引いてしまっていた。だがそんな事をいつまでも続ける訳にも行かず、千代美達はジープから降りて自分達のMSを確認しようとした。しかしそこに置いてあったのは連邦軍仕様の白いザクIIF2型が4機だけで、自分達は計5人だから1機足りないではないかと思い千代美は整備士の少年に聞こうとした

 

 

「何かMSが4機しか置いてないんですけど·····」

 

 

「ノーノー!隊長さんの計らいで貴方達のチームには特別な兵器が用意されてます!ほらアレ見て」

 

 

そう言って青年が指を指した方を見ると、F2型の影に隠れていた74式ホバートラックの姿があった

 

 

「え··········あれただの支援車両じゃん·····」

 

 

「なるほどな··········そういう事か·····」

 

 

まほは用意されていたホバートラックから何らかの意図を察し、千代美と他の三人はそれを見て愕然としていた。まほがいるとはいえ一年生しかいないというのに、こんな物に乗れというのが理解できなかった

 

 

「ンまーホバートラックとはいえ索敵システムとかすっごい良いんで馬鹿にしちゃ駄目ですよ。こんな身内の基地内ではただの足でまといですが!!!」

 

 

「いやいやこんなのおかしいだろ!抗議だ!隊長に言いつけてやる!」

 

 

「いやいやですから当の隊長様がこの編成にしたんですから無駄ですよ·····ってもげちゃうもげちゃうもげちゃう?」

 

 

怒る千代美に胸ぐらを掴まれ首を激しく揺らされていた青年は悲鳴のような声を上けだ。あの西住まほがいるからか、あるいは自分の様な落ちこぼれを乗せて的にするためにこれが用意されたかと思うと怒りが収まらなかった。まほはその様子を見て静止させる様に千代美の肩に手を置いた

 

 

「もう辞めろ。決められてしまったものは仕方ない。時間もないからこれらで編成を決めるぞ」

 

 

「そうは言っても··········あーもう、わかったよ!」

 

 

千代美は揺さぶっていた青年を解放し、5人で集まって各機体のパイロットを決めようとした

 

 

「とはいえ編成を決めるといっても問題なのはあのホバートラックだ。搭載されてる火器も20mm·····MSには到底敵わないな」

 

 

「んー、だったらこの中で一番強そうなおまえが乗れば·····」

 

 

「ちょっと!まほさんをあんな物に乗らせる訳ないでしょ!何だったらあそこには一番練度が低い人間が、貴方が乗るべきよ!」

 

 

 

「な、何ぃ〜!私の練度が一番低いだと!」

 

 

「だってそうじゃない!ずっと気になってたけど貴方の顔見た事ないもの!何処のジュニアチームに所属してたのか言ってみなさいよ!」

 

 

「げ··········いやジュニアチームじゃなくて·····私がいた所はなんと言うか·······」

 

 

千代美は答えられなかった。特にやましい事があった訳ではないが、あまり有名なチームでもなければどちらかと言うと皆から嫌われているチームだったので言い出しづらかった。それにあの頃自分を鍛えてくれた隊長や皆が馬鹿にされることが何よりも嫌だった

 

「何よそれ··········貴方そんなんでどうやって実技試験の方突破したのよ!」

 

 

「そう言われても·········」

 

 

「そこまでだ、すまないな安斎さん。このままでは収拾がつかない。どうか皆のためと思ってホバートラックを引き受けて欲しい。この通りだ」

 

 

まほは千代美に向かって深々と頭を下げた。他の三人はその様子を見て怯えるようにガタガタと震え始めたので、千代美は自分が折れるしかないと思い大きくため息をついた

 

 

「顔上げろよ·····わかったよ。私があれに乗る、それでいいんだろう?」

 

 

「すまない·····その代わり私達だけで必ず勝利する。君は危険だから後方で··········」

 

 

「いやダメだ、私も私なりのやり方で戦わせてもらう。おまえ達西住流に邪道だと笑われたくなかったから我慢しようとしたがもう辞めだ。·····だが必ずおまえ達を()()()()()()()

 

 

千代美は物怖じすること無くまほの眼を真っ直ぐに見て宣言し、まほも千代美の言葉を真っ直ぐに受け止め彼女を信用する事に決めた

 

 

「·····そうか。頼りにしてるぞ、安斎さん」

 

 

「·····安斎だ。もしくは千代美でも可!」

 

 

「そ、そうか·····それではた、頼りにしてるぞ、ち·····ちよ··········」

 

 

どういう訳かまほは顔を赤く染めて俯いてしまった。ひょっとしてと思い千代美は悪戯そうな笑みを浮かべながら、まほの顔を覗き込もうとした

 

 

「ひょっとしておまえ、下の名前で呼ぶのが恥ずかしいのか!?なんだよ結構可愛い所あるじゃないか!」

 

 

「う、うるさい!とにかく君は独自の判断で動いてくれ!任せたぞ安斎!」

 

 

まほは真っ赤な顔を上げながら千代美に声を放ち、踵を返してF2型の方へ駆けて行った。千代美は他の皆が思っている程まほが遠い存在ではないのかと思いつつ、自身が乗ることとなったホバートラックと対面した

 

 

「·····おいそこのモヤシの先輩!」

 

 

「ハイ!!!僕ってモヤシ!?」

 

 

千代美は先程揺さぶり倒した整備士の青年に声を掛け、ぐったり倒れていた青年は彼女の声が聞こえると瞬時に起き上がり敬礼した

 

 

「この車の操縦をあんたに任せたい。私は銃座から指示するからその通りに動いて欲しい。やってくれるな?」

 

 

「えぇ··········僕ただの整備士志望の青少年なのにぃ·······今日は実習サボれるから来ちまいましただけなのにぃ······」

 

 

「ええいウダウダ言うなー!黒森峰の整備士やってんなら根性見せろ!」

 

 

「ヒぇ〜〜〜最初は敬語だったのにヤンキー怖すぎ!下克上キメられました(笑)」

 

 

千代美は嫌がる青年を無理矢理ホバートラックの中へ押し込み、車両のどこにも異常が無いことを確認してから銃座に座り演習開始の合図を待った

 

 

「見せてやるよ西住流·····私のモビル道を·····」

 

 

 セモベンテ隊────イタリアを拠点としていた男女混合のアマチュアチーム。しかしその対戦相手にプロチームが現れる程の実力があり、戦場を求め日々、地球上を転々と回っていた。しかしその戦い方に少し問題があり、真っ当なモビル道をする者にとっては嫌悪感を向けられる事が殆どであった。

 そして千代美は父親がセモベンテの隊長と親友であった事から、幼少の頃より日本のジュニアチームではなく、長期休み等を利用してセモベンテ隊と共に世界を駆け巡っていた。隊長からは黒森峰に向かう前に、俺達のやり方は忘れて自分だけの道を見つけて欲しいと言ってくれたが今だけは、この怒りをぶつけるために自分が歩んできたセモベンテ隊のモビル道を西住流に繰り出す事を決意した

 

 

 

 




読んでいただきありがとうございました

試合本番は次回になります。アンチョビとホバートラック、僕は大好きです·····


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